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2010 年春学期終了に向けて、ラストスパート 4月から始まったものづくり教育選修も、いよいよひとつの学期が終わろうとし ています。本選修では、1年生必修授業の学期末試験に加え、オープンキャンパス でのワークショップと春学期中に積み重ねたドキュメンテーションの発表が控えて いて、学生はフル回転です。今回はその様子と内容をお伝えします。(新名) ものづくり de 教育 Vol.20 July.2010 Art and Technology Based Education, Tokyo Gakugei University 東京学芸大学教育学部 小学校教員養成課程 《ものづくり教育選修》 2010 年4月より はじまりました! Topics ■春学期終了に向けて ■学生リポート:海外から ■キーワード「教師力」 ■1期生レポート③ オープンキャンパスで行うワークショップ(以下 WS)は、企画運営をすべて 11 人の仲間と協 力し合いながら進めて行きます。少ない人数だから、容易に一致団結できるはずだと思うのですが、 実際に本気で話し合い始めると 11 人は大人数です。当初は、お互いに譲り合い、牽制し合って前 に進むことさえできませんでした。自体を打開しようとそれぞれが考え、言葉を交わすうちに、「役 割」について考えはじめたようです。チームを作り、分担を決め、受け持った仕事に全力を注ぎます。 その中の、広報班の活動に着目すると、彼らの仕事は①WS に参加する子どもに向けたチラシづく り②当日 WS 見学者を募集するチラシづくりが主な仕事でした。作るべきものが明確でも、何をし ていいかがわからないところからスタートした彼らは、ワードの使い方から勉強しました。わから ないことは本やネット上で検索し、ひとつずつ障害を乗り越えて行きます。結果的にできあがった ものは右の写真のチラシです。どれぐらい子どもの応募が来るのか、このチラシにかかっています。 上記のような様々な活動は、各学生がドキュメンテーションとして記録しています。記録の形式 は自由。今後4年間で先生になるための力づくりは、日々の記録の積み重ねも重要と考えられてい ます。7月 29 日の発表会で学生がプレゼンし、先生方が審査して、今学期を終える予定です。 大自然の中でピクニック。 北欧人は自然の中で遊ぶ方法を知っているのだ。 HDK のクラスメイトが 教室で作ってくれたケーキ。 手作りなのにこのクオリティー。学校の Xmas マーケットで販売した学生作品。 小学生に配布するために作成したチラ シ。文字の大きさやバランス、色合いの他、 小学生にも読める内容作りに苦労した。 関連学生リポート: ほんとうに「忙しい」のかな?  東京学芸大学教育学部美術専攻4年 谷脇もも 本学の協定校でもあるスウェーデンにあるイェーテボリ大学 HDK 校(デザイン・工芸 大学)に交換留学していた、谷脇ももさん(現在:学芸大・ 美術科4年)より、今回の交換留学(3年後期より1年間)を終えるにあたり、本ニューズレターへ寄稿してもらいました。(鉄矢) この作文を書くにあたり、留学生活10ヶ月のスケジュール帳を読み返してみた。するとあまり予 定が無い。あんなに充実していたのに。反対に、留学前のスケジュール帳は予定でびっしり。大学に 通い、バイトをこなし、サークル活動や課題制作に明け暮れていた(・・そう、本当に明け暮れてい たのだ)20歳の頃の口癖は「時間がない」だった。忙しいと思っていたのだ。しかしそれは、全く の勘違いでしかなかった事をスウェーデンにて思い知らされた。 留学当初はゆっくり流れる時間に慣れず、空き時間をどうし たら良いものか困ってしまった。クラスメイトに休日の過ごし 方を尋ねると「家の中にいるよ。だって寒いからね!」との答え。しかし家の中で一体何をしているんだ・・ と私の疑問は晴れない。するとある日、クラスでお昼を食べているところへ一人がピザを持ってきた。自 分で焼いたのだと言う。そしてまた別の日、一人がケーキを持ってきた。やはり作ったのだと言う。他にも、 身につけている物をかわいいねと褒めると、喜びつつも照れる。理由はもちろん、手作りだから。 特に物価の高いこの国において、手作りは当たり前のことになっている。みんな、手作りの時間を楽し んでいるのだ。彼らに影響を受けて私も、いつもより手の込んだ料理を作ったり、雑貨屋さんで買う前に「こ れ、作れるのでは?」と考えるようになった。そして東京で「忙しい」と思っていた私は本当に忙しかったのか? 意味のあることに時間を使えていたのか?と自問自答を繰り返した。私だけの問題では無い。東京という街自体 が忙しいのである。東京には沢山の便利グッズがある。しかし、東京の生活は速い。暮らしが楽になるように発 明された便利グッズなのに、何故?スウェーデン人の日本人に対するイメージは「夜遅くまで働かされる」「電車 で寝ている」だそう。 予定が埋まっていなくても、制作や手作りに夢中になった私は、いつしか空き時間の使い方等悩まなくなって いた。留学生活の後半では、時間が足りないと思うほどだった。自分の目標に向かって、しっかりと手を動かす。 デザインとこれほどまでに真摯に向き合ったのは、もしかしたら受験以来かも知れないな・・と思った。

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Page 1: Art and Technology Based Education, Tokyo Gakugei ...monoedu/NL/PDF/vol20.pdfKey word Art and Technology Based Education,Tokyo Gakugei University news vol.20 July.2010 本月報は、文部科学省の認定する「質の高い大学教育推進プログラム」を受け、

2010 年春学期終了に向けて、ラストスパート 4月から始まったものづくり教育選修も、いよいよひとつの学期が終わろうとし

ています。本選修では、1年生必修授業の学期末試験に加え、オープンキャンパス

でのワークショップと春学期中に積み重ねたドキュメンテーションの発表が控えて

いて、学生はフル回転です。今回はその様子と内容をお伝えします。(新名)

ものづくり de 教育Vol.20 July.2010

Art and Technology Based Education, Tokyo Gakugei University 東京学芸大学教育学部 小学校教員養成課程 《ものづくり教育選修》 2010 年4月より  はじまりました!

Topics ■春学期終了に向けて

■学生リポート:海外から

■キーワード「教師力」

■1期生レポート③

 オープンキャンパスで行うワークショップ(以下 WS)は、企画運営をすべて 11 人の仲間と協

力し合いながら進めて行きます。少ない人数だから、容易に一致団結できるはずだと思うのですが、

実際に本気で話し合い始めると 11 人は大人数です。当初は、お互いに譲り合い、牽制し合って前

に進むことさえできませんでした。自体を打開しようとそれぞれが考え、言葉を交わすうちに、「役

割」について考えはじめたようです。チームを作り、分担を決め、受け持った仕事に全力を注ぎます。

その中の、広報班の活動に着目すると、彼らの仕事は①WS に参加する子どもに向けたチラシづく

り②当日 WS 見学者を募集するチラシづくりが主な仕事でした。作るべきものが明確でも、何をし

ていいかがわからないところからスタートした彼らは、ワードの使い方から勉強しました。わから

ないことは本やネット上で検索し、ひとつずつ障害を乗り越えて行きます。結果的にできあがった

ものは右の写真のチラシです。どれぐらい子どもの応募が来るのか、このチラシにかかっています。

 上記のような様々な活動は、各学生がドキュメンテーションとして記録しています。記録の形式

は自由。今後4年間で先生になるための力づくりは、日々の記録の積み重ねも重要と考えられてい

ます。7月 29 日の発表会で学生がプレゼンし、先生方が審査して、今学期を終える予定です。

大自然の中でピクニック。北欧人は自然の中で遊ぶ方法を知っているのだ。

HDKのクラスメイトが教室で作ってくれたケーキ。

手作りなのにこのクオリティー。学校のXmas マーケットで販売した学生作品。

 小学生に配布するために作成したチラシ。文字の大きさやバランス、色合いの他、小学生にも読める内容作りに苦労した。

関連学生リポート:   ほんとうに「忙しい」のかな?  東京学芸大学教育学部美術専攻4年 谷脇もも

 本学の協定校でもあるスウェーデンにあるイェーテボリ大学 HDK 校(デザイン・工芸 大学)に交換留学していた、谷脇ももさん(現在:学芸大・

美術科4年)より、今回の交換留学(3年後期より1年間)を終えるにあたり、本ニューズレターへ寄稿してもらいました。(鉄矢)

 この作文を書くにあたり、留学生活10ヶ月のスケジュール帳を読み返してみた。するとあまり予

定が無い。あんなに充実していたのに。反対に、留学前のスケジュール帳は予定でびっしり。大学に

通い、バイトをこなし、サークル活動や課題制作に明け暮れていた(・・そう、本当に明け暮れてい

たのだ)20歳の頃の口癖は「時間がない」だった。忙しいと思っていたのだ。しかしそれは、全く

の勘違いでしかなかった事をスウェーデンにて思い知らされた。

 留学当初はゆっくり流れる時間に慣れず、空き時間をどうし

たら良いものか困ってしまった。クラスメイトに休日の過ごし

方を尋ねると「家の中にいるよ。だって寒いからね!」との答え。しかし家の中で一体何をしているんだ・・

と私の疑問は晴れない。するとある日、クラスでお昼を食べているところへ一人がピザを持ってきた。自

分で焼いたのだと言う。そしてまた別の日、一人がケーキを持ってきた。やはり作ったのだと言う。他にも、

身につけている物をかわいいねと褒めると、喜びつつも照れる。理由はもちろん、手作りだから。

 特に物価の高いこの国において、手作りは当たり前のことになっている。みんな、手作りの時間を楽し

んでいるのだ。彼らに影響を受けて私も、いつもより手の込んだ料理を作ったり、雑貨屋さんで買う前に「こ

れ、作れるのでは?」と考えるようになった。そして東京で「忙しい」と思っていた私は本当に忙しかったのか?

意味のあることに時間を使えていたのか?と自問自答を繰り返した。私だけの問題では無い。東京という街自体

が忙しいのである。東京には沢山の便利グッズがある。しかし、東京の生活は速い。暮らしが楽になるように発

明された便利グッズなのに、何故?スウェーデン人の日本人に対するイメージは「夜遅くまで働かされる」「電車

で寝ている」だそう。

 予定が埋まっていなくても、制作や手作りに夢中になった私は、いつしか空き時間の使い方等悩まなくなって

いた。留学生活の後半では、時間が足りないと思うほどだった。自分の目標に向かって、しっかりと手を動かす。

デザインとこれほどまでに真摯に向き合ったのは、もしかしたら受験以来かも知れないな・・と思った。

Page 2: Art and Technology Based Education, Tokyo Gakugei ...monoedu/NL/PDF/vol20.pdfKey word Art and Technology Based Education,Tokyo Gakugei University news vol.20 July.2010 本月報は、文部科学省の認定する「質の高い大学教育推進プログラム」を受け、

Keyword

Art and Technology Based Education,Tokyo Gakugei University news vol.20 July.2010

本月報は、文部科学省の認定する「質の高い大学教育推進プログラム」を受け、『小学校教員養成のためのものづくり教育開発』活動報告も兼ねて情報をお伝えします。 国立大学法人 東京学芸大学  田中喜美 山田一美 坂口謙一 鉄矢悦朗 石井壽郎 大谷忠

ものづくり de 教育  Vol.20発行:東京学芸大学 A 類ものづくり教育選修Tel&Fax: 042-329-7658(田中研究室)URL: http:www.u-gakugei.ac.jp/~monoedu発行日 2010/08/09  編集 専門研究員 新名佐和子

[最近の出来事]先日,製図の授業において,設計製図に関する課題を出しました。教員を養成する大学の授業の内容が,

どの程度,教師を目指す学生さんとって役に立つかについては,いろいろ問題にされるところです。そこで,最近の教員

養成に求められる力を見てみると,中央教育審議会義務教育特別部会において,子どもを理解する力や生徒指導力,コミュ

ニケーション能力,学級作りの力等の「教師力」の育成が挙げられます。

 以上の観点から,今や CADによって描かれるようになった図面を,手書きの製図によって具現化させる力を育成する「内容」に,どのような「教

師力」が身に付くのでしょうか。そこで,中央教育審議会において指摘されている「教師力」の内容をさらに見てみると,学習指導,授業作り

の力に関する内容があります。では,ものづくり教育選修が注目している,ものづくりの活動を「事づくり」や「場づくり」に発展させる力は,「教

師力」にある学習指導や授業作りの力を養う場面で,どのように発展させればよいのでしょうか。

 本選修では,今後そのような発展させる力を探っていくことが予想されます。個人的には,「教師力」にある学習指導や授業作りの力は,手

を挙げる子どもの後ろに隠れて見えない子どもに対しても,十分な威力を発揮できるよう,教える「内容」を大事にしながら高めてもらいたい

と願っています。製図の課題に隠れている確かな専門性の「内容」を武器にして,「事づくり」や「場づくり」に発展させてほしいと思った最

近の出来事でした。(大谷)

 大学に入学してはや 3ヶ月。

5 月病に苦しんだ学生、サークルや部活に精を出す学生、バイトを始め

る学生など、ものづくり教育の学生たちも、充実したそれぞれの大学

生活を送っています。今は夏バテに苦しみながらテスト勉強に追われ

ていますが、現在の私を通してものづくり教育をレポートします。

第3回 山崎満里子「人とのかかわり」

ものづくり教育選修

No.017教師力 【名】よみ:きょうしりょく

意味:教師に求められる能力として使われる言葉。教師力には、①子ども理解力、児童・生徒指導力、コミュニケー

ション・スキル、②学級作りの力、③学習指導、授業作りの力、④同僚性の確かさ、⑤人格的資質に関する内容等

が挙げられている。(中央教育審議会義務教育特別部会資料より)

◆このコーナーでは毎月一期生が気になっていることを順番にレポートしていきます。

 360 度山に囲まれ人口も多くない所で育ったような私がこの

大都会東京に来ることは、環境が大きく変わる出来事でした。

私の出身地、岐阜県高山市は東京都とほぼ同じ大きさですが、

人口は 9 万人ほど。高山にはまだ雪の白さが残る 3 月の末、ど

こを見ても人、人、人、前を向いてもおじさん達の後ろ頭しか

見えない東京の駅のホームで、田舎から出てきたばかりだった

私は、あまりの人の多さに圧倒されました。以前、お台場の夜

景を見る機会がありましたが、『綺麗だ』と思うのと同時に、『こ

んなにもたくさんの人が生活しているのか』と、やはり人の存

在に驚きを感じました。

 こんなにも人が溢れている東京に来てまだ数カ月ですが、私

が今一番興味を持っているものは、まさに『人』です。

 今、私は東京に来てたくさんの人に出会い、関わりを持ち始

めています。過ごしてきた環境も違えば当然のように経験して

きたことも全く違う。そんな人たちが話す話はとても興味深い

もので、私が考えもしなかったことだったり、似たような体験

だったり。『そういう考え方もあるのか』、『そう考えればよかっ

たのか』と、自分とは違う感性に驚きや感動を感じることもあ

れば、『共感できないな』、『どうしてそんな考えなのだろう』

と疑問を感じることもあります。そして、そこから新しい考え

を生み出すこともあれば、自分の考えに確信を持ち、より深ま

ることも実感しています。日々様々な人に刺激を受け、私は自

分の幅が広がっているように感じています。

 数ヶ月前までセーラー服を着ていた私が、4 年後何を考えて

いるのか全くわかりません。きっと今よりもたくさんの人と出

会い、その多様さに影響を受け、今より磨かれた感性を持って

いたいと思います。

 人とのかかわりで自分を見つけたり、また逆に、自分が分か

らなくなったり。その行ったり来たりを繰り返して私は成長し

ていくのだと思います。

 それでも、未だに学校

の視界いっぱいに停めて

ある自転車の数にも驚か

される毎日です。