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・トランス デバイスモデルについて 目次 商用バージョン用の真空管・トランスのデバイスモデルの使い方 のインストール ........................................ 真空管デバイスモデルの作成と使い方 ............................................. ............................................ トランスデバイスモデルの作成と使い方 トランス ...................................... トランス ................................. ...................................... ................................ インピーダンス ................................ モデルパラメータ ................................. ............................................

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Page 1: 真空管・トランスのデバイスモデルについてayumi.cava.jp/book/models.pdf1 商用バージョン用の真空管・トランスのデバイスモデルの使い方 CD-ROM

真空管・トランスのデバイスモデルについて

中林 歩

Version 1.02009年 4月 12日

Version 1.12009年 6月 22日

Version 1.22009年 10月 4日

Version 1.32013年 5月 3日

目次

1 商用バージョン用の真空管・トランスのデバイスモデルの使い方 2

2 Rのインストール 52.1 簡単な使い方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

3 真空管デバイスモデルの作成と使い方 123.1 作成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 123.2 使い方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

4 トランスデバイスモデルの作成と使い方 174.1 トランスの測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 174.2 トランス端子の命名規約 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 174.3 巻線抵抗の測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 184.4 巻数比 (端子間電圧)の測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 184.5 巻線インピーダンスの測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 184.6 モデルパラメータの抽出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 194.7 使い方 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

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1 商用バージョン用の真空管・トランスのデバイスモデルの使い方

CD-ROMに含まれている TINA version 7 Japanese Book Version IIIには,本書で使用している真空管やトランスのデバイスモデルをあらかじめ組み込んでありますが,製品版「TINA DesignSuiteV7」等でこれらのデバイスを使用する場合は,デバイスモデルを組み込む必要があります.その手順を以下に示します.

1. PCに付属 CD-ROMを入れ,エクスプローラで,CD-ROMドライブの modelフォルダを開

きます.

2. このフォルダには,AYUMISLAB.DDB, OPT.IND, OPT.LIB, OPT.TLD, VACUUMTUBE.IND, VACUUMTUBE.LIB,VACUUMTUBE.TLDの 7つのファイルが含まれています (図 1).

図 1: CD-ROMの modelフォルダ.

3. AYUMISLAB.DDBを選択し,Ctrl+Cを押すか,「編集」メニューの「コピー」を選択します (図 2).

図 2: AYUMISLAB.DDBを選択してコピー.

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4. エクスプローラで Tinaがインストールされているフォルダ (通常は,C:YProgram FilesYDesignSoftYTina 7です)を開き,Ctrl+Vを押すか,「編集」メニューの「貼り付け」を選択します (図 3).

図 3: AYUMISLAB.DDBを貼り付け.

5. エクスプローラで,CD-ROMドライブの modelフォルダを開きます.

6. OPT.IND, OPT.LIB, OPT.TLD, VACUUMTUBE.IND, VACUUMTUBE.LIB, VACUUMTUBE.TLD の 6 つのファイルを選択し,Ctrl+Cを押すか,「編集」メニューの「コピー」を選択します (図4).複数のファイルを選択するときには,Ctrlを押しながらクリックしてください.

図 4: モデルのファイルを選択してコピー.

7. エクスプローラで Tinaがインストールされているフォルダを開き,SPICELIBフォルダをダ

ブルクリックします.Ctrl+Vを押すか,「編集」メニューの「貼り付け」を選択して,6つのファイルをコピーします (図 5).

8. Tinaを起動すると,ライブラリの自動再構築が行われ,デバイスモデルが使えるようになります.

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図 5: モデルファイルを貼り付け.

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2 Rのインストール1. http://cran.md.tsukuba.ac.jp/bin/windows/base/より,Download R 2.8.1 for Windowsをクリックして,ファイルをダウンロードし,実行します.(以下の画面のバージョンは,2.7.2patchedですので,異なっている場合があります.)

図 6: Rのインストーラーを起動.

2. 言語は「Japanese」を選択して,「OK」を押します (図 7).

図 7: 言語を選択.

3. 「次へ」を押します (図 8).

図 8: セットアップウィザードの開始.

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4. ライセンスを読んで,「次へ」を押します (図 9).

図 9: 言語を選択.

5. 「次へ」を押します (図 10).

図 10: インストール先の指定.

6. 「次へ」を押します (図 11).

図 11: コンポーネントの選択.

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7. 「次へ」を押します (図 12).

図 12: 起動時オプションの選択.

8. 「次へ」を押します (図 13).

図 13: プログラムグループの指定.

9. 「次へ」を押します (図 14).

図 14: 追加タスクの選択.

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10. セットアップが始まります (図 15).

図 15: インストール中.

11. セットアップが完了したら,「完了」を押します (図 16).

図 16: インストール完了.

12. http://ayumi.cava.jp/book/Rsample.zipをマイドキュメントにダウンロードします.

13. Rsample.zip を解凍すると,Rsample というフォルダの下にいくつかファイルが作成され

ます.

14. デスクトップにある Rのアイコン (図 17)をダブルクリックして,Rを起動します (図 18).

図 17: Rのアイコン.

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図 18: Rの起動画面.

15. Rのコンソールに,source("RsampleYYpctube.r")と入力すると,モデルを作成するのに

必要な Rの関数が読み込まれます (図 19).

図 19: pctube.rを読み込む.

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16. Rのコンソールに,q()と入力し,Rを終了します (図 20).

図 20: Rを終了する.

17. 作業スペースを保存するか聞いてくるので,「はい」を押します (図 21).次回からは,pctube.r

図 21: 作業スペースを保存する.

を読み込む必要はありません.万一,pctube.rに含まれている関数を変更してしまったば

あい,再度読み込めば元に戻ります.

2.1 簡単な使い方

• 四則演算は,数式どおりに入力すれば,結果が表示されます.> 2 * (3 + 4)

[1] 14

長い数式の場合は,演算子の後ろで改行して入力できます.

• E6, E12, E24には,それぞれ E6系列,E12系列,E24系列の値が入っています.オブジェクトの内容を表示するには,オブジェクトの名前を入力します.

> E12

[1] 1.0 1.2 1.5 1.8 2.2 2.7 3.3 3.9 4.7 5.6 6.8 8.2

• 演算子 %p%を使うと,抵抗の並列合成値,コンデンサの直列合成値を計算できます.

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> 1.5e3 %p% 4.7e3 # 1.5kΩと 4.7kΩの並列合成値は?

[1] 1137.097

• 半端な抵抗値を 2本の抵抗の並列接続で合成するには,

> combr(2.3e3) # 2.3k を作りたいR1 R2 R err

[1,] 3900 5600 2298.947 -0.04576659 # 3.9k と 5.6k で誤差-0.046%

[2,] 2400 56000 2301.370 0.05955926

[3,] 3000 10000 2307.692 0.33444816

[4,] 2400 51000 2292.135 -0.34196385

半端な抵抗値を 2本の抵抗の直列接続で合成するには,

> combr(2.3e3, func="+") # func で "+" を指定すれば直列接続R1 R2 R err

[1,] 1100 1200 2300 0.0000000 # 1.1k と 1.2k

[2,] 1000 1300 2300 0.0000000 # 1k と 1.3k

[3,] 300 2000 2300 0.0000000 # 300 と 2k

[4,] 100 2200 2300 0.0000000 # 100 と 2.2k

[5,] 91 2200 2291 -0.3913043

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3 真空管デバイスモデルの作成と使い方

3.1 作成

1. モデルを作成したい真空管のプレート特性図を用意します.

2. プレート特性図からデータを読み取り,表計算ソフト (Microsoft Excelなど)に格納していきます.フォーマットは,Rsampleフォルダの PlateCharaSample.xlsを参考にしてください

(図 22).

図 22: PlateCharaSample.xlsの内容.

データの A列はグリッド電圧,データの B列はプレート電圧,データの C列はプレート電流です.通常,電圧は V単位で,電流は mA単位で入力します.

データを取るポイントの数ですが,一つのグリッド電圧について,5点程度で十分です.

3. 単位をV,Aにします.D2のセルには,=A2,E2のセルには,=B2,F2のセルには,=C2/1000を入力します.

4. 今入力した D, E, F列をマウスでドラッグして選択し,Ctrol+Cを押します.

5. セルD2から,データを入力してあるセルの数に応じて下まで選択し,Ctrol+Vを押します.数式がコピーされ,D, E, F列に値が表示されます.

6. このようにして,V, A単位になったデータを別のシートの左上に貼り付けます.一番上の行の Eg (V), Ep (V), Ip (A)も含めてコピーします.貼り付けるときには,「編集」メニュー

の「形式を選択して貼り付け」を選び,数式をコピーするのではなく,値 (数値)をコピーしてください.

7. このシートをカンマ区切りの CSV形式で出力します.

8. デスクトップにある Rのアイコンをダブルクリックして起動します.

9. Rのコンソールに Ip.cal("データファイル名", "Rオブジェクト名" , Cgp=G-P間容量,

Cgk=G-K間容量, Cpk=P-K間容量)のように入力します.

「データファイル名」は,7で作成したファイル名です.フォルダの起点は,マイドキュメントとなっています.フォルダを指定する場合は,区切りとして通常の Yではなく YYまたは /を使います.

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「Rオブジェクト名」には,R上に作成されるパラメータを格納するオブジェクト名を指定します.オブジェクト名は,Rで通常使えるオブジェクト名である,英字で始まり,英数字とピリオドが続く文字列を指定します.オブジェクト名は数字で始めることができません.

Cgp=以降は,電極間容量を指定するもので,次の形式が使えます.

パラメータ名 意味Cgp グリッド-プレート間容量Cgk グリッド-カソード間容量Cpk プレート-カソード間容量Ci 入力容量Co 出力容量

パラメータが指定されておらず計算できない場合は 1 pFが使用されます.pF単位で指定するときは,e-12を付けます.例えば,2.6 pFなら 2.6e-12とします.

10. サンプルのデータの場合,

> Ip.cal("RsampleYYPlateCharaSample.csv", "tSample",

+ Cgp=1.5e-12, Cgk=1.6e-12, Cpk=0.4e-12)

と入力します (図 23).カンマの後ろなどで Enterを押して,次の行に続けて入力しても構いません.

図 23: 真空管モデルのパラメータを求める.

11. うまくパラメータが求められると,Rのコンソールに,

Read 81 items # 読み込んだデータの総数 (1行目を含む)

code=0 err=0.02423707 # 収束した

のような表示が行われ,グラフウィンドウにモデルにより描かれたプレート特性が示され

ます.

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12. グリッド電流のデータがある場合は,プレート電圧 (=グリッド電圧),プレート電流,グリッド電流の 3 つの値をベクトルとしてパラメータ名 ig で与えます.たとえば 801 の場合,Ep = Eg = 100 Vのとき Ip = 225 mA, Ig = 48 mAですので,

> Ip.cal("801.csv", "t801", Cgp=6e-12, Cgk=4.5e-12, Cpk=1.5e-12,

ig=c(100, 225e-3, 48e-3))

のようにして与えます.

13. 五極管のモデルを作成する場合,入力するプレート特性のデータは,五極管接続のものではなく,三極管接続のものを使用します.Rで表示されるグラフも三極管接続のものになります.

五極管の場合は,さらに標準的な動作例からプレート電圧,スクリーングリッド電圧,コン

トロールグリッド電圧,プレート電流,スクリーングリッド電流,プレート内部抵抗の 6つの値を探し,ベクトルとしてパラメータ名 pentode.charaで与えます.たとえば 6L6の場合,Ep = 250 V, Eg2 = 250 V, Eg = −14 V, Ip = 72 mA, Ig2 = 5 mA, rp = 22.5 kΩですから,

> Ip.cal("6L6.csv", "t6L6T", Cgp=0.6e-12, Ci=10e-12, Co=6.5e-12,

pentode.chara=c(250, 250, -14, 72e-3, 5e-3, 22.5e3),

ig=c(10, 18e-3, 32e-3))

のようにして与えます.できるだけ Ep = Eg2 のデータを与えます.ただし,プレート内部抵

抗の値については,プレート特性図ができるだけ再現されるように適宜調整します.

14. Rのオブジェクトから SPICEのデバイスモデルファイルを作成します.以下を実行する前に,Rのカレントフォルダの下に,spice/tubemodel, simetrix/tubemodel, tina/tubemodelというフォルダを作成しておいてください.

> r2spice(tSample, "SampleTube", "SampleTube",

+ Cgp=1.5e-12, Cgk=1.6e-12, Cpk=0.4e-12)

Writing spice/tubemodel/SampleTube.inc

Writing simetrix/tubemodel/SampleTube.mod

Writing tina/tubemodel/SampleTube.inc

と入力します.最初のパラメータ tSampleは,Ip.calの 2番目に指定した Rのオブジェクト名で,ダブルクォーテーションを付けずに指定します.2番目の引数は,SPICEのモデル名になります.3番目の引数は,SPICEのモデルが格納されるファイル名になります.4番目以降の引数は,電極間容量です.

Tina用のデバイスモデルは,作業フォルダの下の tinaYtubemodelの下に格納されます.

15. 五極管のデバイスモデルモデルファイルを作成する場合は,r2spiceの 4番目の引数として,mode="pentode"を指定します.これがないと,三極管接続のモデルが作成されます.

> r2spice(t6L6, "6L6", "6L6", mode="pentode", Cgp=...) # 五極管のモデル> r2spice(t6L6, "6L6T", "6L6T", Cgp=...) # 同じパラメータから三極管接続の

# モデルを生成する

16. 作業が終わったら,Rのコンソールに q() と入力し,作業スペースを保存して Rを終了します.

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3.2 使い方

1. デバイスモデルは,Rの作業フォルダの下の tinaYtubemodelフォルダに作成されています.

2. 作成したデバイスモデルのファイルをメモ帳などで開きます (図 24).

図 24: 作成されたデバイスモデルの内容.

3. Tinaの回路エディタでその回路で使わない真空管を配置します (図 25).真空管の記号をダブ

図 25: 使用しない真空管を配置する.

ルクリックすると,図 26のダイアログが表示され,「マクロに入る」を押すと,デバイスモデルのマクロの内容が表示されます (図 27).

図 26: 真空管のプロパティ.

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図 27: 元のデバイスモデルの内容.

この内容のうちモデル名以降を,作成したデバイスモデルの内容で置き換え (図 28),「閉じる」ボタンを押すと,回路エディタに戻ります.このようにしてパラメータを変更したデバ

イスは,そのファイル内だけで有効になります.

図 28: デバイスモデルを変更する.

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4 トランスデバイスモデルの作成と使い方

4.1 トランスの測定

トランスのモデルを作成するためには,トランスの各巻線のインダクタンス (巻数比も含まれている),各巻線の巻線抵抗,各巻線の浮遊容量,漏れインダクタンス (結合係数)などの値が必要です.これらの値のうち,各巻線の巻線抵抗は直接測定でき,巻数比は,ある巻線に交流電圧を加え,

他の巻線に生じる電圧を測定すれば求めることができます.

その他の値を求めるには,単純な一次巻線が一つ,二次巻線が一つのトランスの場合,二次巻線

を開放にしたときの一次巻線のインピーダンスの周波数特性と,二次巻線を短絡したときの一次巻

線のインピーダンスの周波数特性が必要になります.

必要な測定器は,抵抗を測定するためのマルチメータ,低周波発振器,電子電圧計です.

4.2 トランス端子の命名規約

巻線抵抗および端子間電圧を表すパラメータは,次のような形式になっています.

rwse 巻線抵抗

Ewse 端子間電圧

ここで,wは 1なら一次巻線,2なら二次巻線を表します.sは巻始めの端子番号,eは巻終わりの端子番号で,図 29のように付けられています.

1

0

1

0

(a)ブリッジ整流用電源トランス

1

00

1

2

(b)全波整流用電源トランス

(P) 1

(B) 0

(SG) 31

0

(c)シングル用出力トランス

(P1) 1

(P2) 2

(SG1) 30

(SG2) 4

2 (8 Ω)

0

(d) PP 用出力トランス

(P1) 1

(P2) 2

(SG1) 30

(SG2) 4

3 (16 Ω)1 (4 Ω)0

(e) PP 用出力トランス (カソード帰還)

図 29: トランスの端子番号.

各種トランスに必要な測定値は,表 1の通りです.アンダースコアが付いているパラメータは,インピーダンスの測定結果で,アンダースコアの前

がインピーダンスを測定した巻線を表します.命名規約は,巻線抵抗や端子間電圧と同じです.ア

ンダースコアの後ろは,端子の短絡・開放状態を表します.oなら他の端子はすべて開放している

ことを表し,swseなら,wseで表される端子間をショートしたときのインピーダンスを表します.インピーダンスの測定結果は,後述の形式の CSVファイルに格納し,トランスの名称の後ろに

測定方法を表す文字列をつなげたファイル名を付けておきます.例えば,FE-25-5の,二次巻線開放の B-P1間のインピーダンスの測定結果は,

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表 1: トランスの種類と必要なパラメータ

トランスの種類 使用する関数 必要なパラメータブリッジ整流用電源トランス

trans.param.11 r101, r201, E101, E201, 101 o, 101 s201

全波整流用電源トランス

trans.param.12 r101, r201, r202, E101, E201, 101 o, 101 s201, 101 s202,201 s202

シングル用出力トランス

trans.param.se r101 (r113+r103), r201, E101, (E103), E201, 101 o,101 s201

PP 用出力トランス

trans.param.pp r101 (r113+r103), r102 (r104+r124), r202, E101, (E103),E202, 101 o, 101 s102, 101 s202, 102 s202

PP 用出力トランス (カソード帰還)

trans.param.pp.KF r101 (r113+r103), r102 (r104+r124), r201, r203, E101,(E103), E201, E203, 101 o, 101 s102, 101 s201, 101 s213,102 s201, 102 s213, 201 s213

FE-25-5_101_o.csv

というファイル名で保存しておきます.

4.3 巻線抵抗の測定

表 1の端子間の抵抗を測定します.特に,出力トランスの二次巻線は,抵抗が低いので,ブリッジを使って測定するのがベストですが,マルチメーターの抵抗レンジでも,小数点以下 1桁程度は十分に測定できるようです.

4.4 巻数比 (端子間電圧)の測定

400 Hzの正弦波を発振器で出力し,それを一次巻線に加え,表 1の端子間の電圧をマルチメーターの交流電圧レンジで測定します.400 Hz程度であれば,マルチメーターの周波数特性に影響されることはほとんどないでしょう.

4.5 巻線インピーダンスの測定

図 30のように,トランスの巻線に抵抗 Rを介して発振器の出力を接続し,巻線の電圧 v1 と,抵

抗の両端の電圧 v2 を測定し,記録します.トランスの巻線に流れた電流は i = v2/Rですから,トランスの巻線のインピーダンスは,

Z =v1i =

v1v2

R (1)

で求めることができます.

出力トランスの一次側のインピーダンスを測定する場合は,Rとして 1 kΩ程度を使用します.二

次側のインピーダンスを測定する場合は,Rとして 10 Ω程度を使用します.

測定する周波数の範囲は,20 Hzから 1 MHz程度とします.測定結果は,図 31のようなワークシートに記入し,5列目で,上記の式に基づいてインピーダン

スを計算しておきます.このファイルを,上述の規約に沿ったファイル名で,CSV形式で保存します.

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発振器の出力インピーダンス

Zo

電流検出用抵抗

Ri

v1

v2 i =v2R

Z =v1v2

R

図 30: トランスのインピーダンスの測定.

図 31: インピーダンスの測定結果.

4.6 モデルパラメータの抽出

1. デスクトップにある Rのアイコンをダブルクリックして起動します.

2. Rのコンソールに,適切な関数名とパラメータを入力します.以下に各種トランスの実行例を示します.

> trans.param.11(r101=21.65, r201=0.77, E101=3.832, E201=0.671,

+ dir="Rsample/", data.name="PM161", model.name="PM161")

> trans.param.12(r101=3.49, r201=93.4, r202=86.7,

+ E101=1.924, E201=5.665,

+ dir="Rsample/", data.name="PMC100M", model.name="PMC100M")

> trans.param.se(r101=263.7, r201=0.89, E101=2.672, E201=0.1340,

+ dir="Rsample/", data.name="Toei_OPT-10S_3k5", model.name="OPT-10S_3k5")

> trans.param.pp(r113=43.79, r103=43.16, r104=41.60, r124=48.62, r202=0.39,

+ E101=2.662, E202=0.2201,

+ dir="Rsample/", data.name="FE-25-5", model.name="FE-25-5")

> trans.param.pp.KF(r113=43.79, r103=43.16, r104=41.60, r124=48.62,

+ r201=0.27, r203=0.6,

+ E101=2.662, E103=1.195, E201=154.5e-3, E203=309.1e-3,

+ dir="Rsample/", data.name="FE-25-5", model.name="FE-25-5_KF")

最後の例では,E103 を指定しているので,UL 接続用のモデルも同時に作成されます.図32~36に,実行例を示します.

3. dir=で,データファイルがあるフォルダを指定します.フォルダは,Rの作業ディレクトリから相対的に指定するか,絶対パスで指定します.文字列の末尾には YYまたは /を入れて

ください.

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図 32: ブリッジ整流用トランスのパラメータを求めた例.

図 33: 全波整流用トランスのパラメータを求めた例.

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図 34: シングル用出力トランスのパラメータを求めた例.

図 35: PP用出力トランスのパラメータを求めた例.

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図 36: PP用出力トランス (カソード帰還)のパラメータを求めた例.

data.name には,インピーダンスの測定結果が入っているファイル名の共通部分を指定し

ます.

model.nameには,作成されるデバイスモデルの名前を指定します.デバイスモデルのファ

イル名としても使われます.

4. 一次巻線の巻線抵抗は,P-B間で測定した値 (r101)を指定してもよいですし,P-SG間 (r113)と SG-B間 (r103)の測定値を指定しても構いません.

5. E103または rUL (ULタップの比率)が指定されていると,UL接続用のモデルも同時に作成されます.このとき,一次の巻線抵抗が P-B間の値で指定されている場合,P-SG間,SG-B間の巻線抵抗は,ULタップの比率で按分されます.

4.7 使い方

1. モデルは,データファイルと同じフォルダに作成されます.ファイル名は,CSVファイルの拡張子を .incに変えたものです.UL接続用トランスモデルのファイル名は, UL.incで終

わるファイル名です.

2. 作成したデバイスモデルのファイルをメモ帳などで開きます (図 37).

3. Tinaの回路エディタでその回路で使わないトランスを配置します (図 38).トランスの記号をダブルクリックすると,図 39のダイアログが表示され,「マクロに入る」を押すと,デバイスモデルのマクロの内容が表示されます (図 40).

この内容のうちモデル名以降を,作成したデバイスモデルの内容で置き換え (図 41),「閉じる」ボタンを押すと,回路エディタに戻ります.このようにしてパラメータを変更したデバ

イスは,そのファイル内だけで有効になります.

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図 37: 作成されたデバイスモデルの内容.

図 38: 使用しないトランスを配置する.

図 39: トランスのプロパティ.

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図 40: 元のデバイスモデルの内容.

図 41: デバイスモデルを変更する.

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