b05 マダニ宿主探知プロセスに関与する候補分子の検証

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B05 マダニ宿主探知プロセスに関与する候補分子の検証 ○山地佳代子, 芳賀 , 石崎 ( 畜草研・放牧管理) Molecular characterization of GPCR from the ixodid tick Kayoko Yamaji, Satoshi Haga, Hiroshi Ishizaki 家畜に甚大な被害を引き起こすマダニは、宿主から得た血液を唯一の栄養源として生活史を維持してい ることから、宿主探知プロセスは生存に必須であると考えられる。しかし、マダニの宿主探知プロセスを 支える分子基盤やメカニズムはほとんど解明されていない。蚊などの吸血性節足動物の宿主探知行動には 炭酸ガスの感知だけではなく、嗅覚系の働きによる宿主の匂い成分の感知が関与していることが示唆され ていることから、マダニにおいても嗅覚系の情報伝達を阻害・遮断または撹乱することは有効な防除法の 一つとなり得る。我々は日本優占種であるフタトゲチマダニ Haemaphysalis longicornis を用いて、マダニの 宿主認識において中心的役割を担う臓器として知られるハラー器官から、嗅覚レセプターが属す 7 回膜貫 G タンパク質共役型レセプター(GPCR) の単離を試みたので報告する。本研究で新規に単離した GPCR 補遺伝子は、 7 回膜貫通型を保持すると推測され、ホモロジー検索において既に報告されている節足動物の 嗅覚レセプター候補遺伝子に高い相同性を示した。また遺伝子発現解析ではハラー器官のある第一肢にお いて発現が確認されたが、第二肢、第三肢、第四肢においては発現が認められなかった。以上の結果より、 今回単離したフタトゲチマダニGPCR はハラー器官において嗅覚系の機能に関与する可能性が推測された。 現在、得られた配列を基に抗体を作製し、フタトゲチマダニ GPCR の局在の検証を進めている。 B06 宮古島のつつがむし病患者発生地に生息するカニ寄生ツツガムシ ○高橋 1,2 , 三角仁子 2 , 亀田和成 3 , 藤田博己 4 , 角坂照貴 5 , 高田伸弘 6 , 平良勝也 7 , 山本正悟 8 , 安藤秀二 9 , 川端寛樹 9 , 北野智一 8 , 岡野 7 , 御供田睦代 10 , 高野 9 , 矢野泰弘 6 , 及川陽三郎 11 , 本田俊郎 12 , 岩崎博 6 , 平良セツ子 13 , 岸本壽男 14 ( 1 川越高校、 2 埼玉医大, 3 日本ウミガメ協議会, 4 大原研, 5 愛知医大, 6 福井 , 7 沖縄衛環研, 8 宮崎県衛環研, 9 感染研, 10 鹿児島県環保セ, 11 金沢医大, 12 鹿児島県立大島病院, 13 宮古福保, 14 岡山県環境保健) Prevalence of chigger mites on Crabs in Miyako Islands, where several cases of Tsutsugamushi disease were found. Mamoru Takahashi, Hitoko Misumi, Kazunari Kameda, Hiromi Fujita, Teruki Kadosaka, Nobuhiro Takada, Katsuya Taira, Seigo Yamamoto, Shuji Ando, Hiroki Kawabata, Tomokazu Kitano, Shou Okano, Mutsuyo Gokuden, Ai Takano, Yasuhiro Yano, Yosaburo Oikawa, Toshiro Honda, Hiromichi Iwasaki, Setsuko Taira, Toshio Kishimoto 2010 8 月と 10 月に、宮古島本島および最北部に位置する池間島で、野鼠捕獲用トラップにカニ類が入 っていた。精査の結果、オカガニにデリ-ツツガムシによく似たツツガムシが寄生していた。本種はナン ヨウカニツツガムシ Eutrombicula (Siseca) haematocheiri Suzuki1976 に酷似するが、背甲板がさらに大きいの が特徴である。本種のオカガニへの寄生率は 57%(4/7) 、平均寄生数 46.5 個体(3 から 111 個体)であった。 ヤシガニ(9 個体) やオカヤドカリ(4 個体) には寄生していなかった。宮古島に近い西表島と黒島の陸産カニ類 も調べた結果、西表島(10 16 ) のベンケイガニへの寄生率は 100 (7/7) 、平均寄生数 32.1 個体(2 から 90 個体) であったものの、ミナミオカガニ(5 個体)、オオアシハラガニモドキ(1 個体) 、ミナミスナガニ(1 ) には寄生していなかった。また黒島(10 11 ) ではオカガニへの寄生率は 83%(5/6), 平均寄生数 188 (3 から 492 個体) であったが、ムラサキオカガニ(1 個体) には寄生していなかった。一方トカラ列島小宝島 11 5 日に採集したカクレイワガニには原記載のナンヨウカニツツガムシが寄生していた。ちなみに寄 生率は 57 (4/7) 、平均寄生数 1.5 個体(1 ないし 2 個体) であった。しかし 11 25 日のカクレイワガニ 17 個体全てに寄生は見られなかった。なお採集されたツツガムシのうち 223 個体をリケッチア有無の検査に 供したがすべて陰性であった。今回の調査により、沖縄県の陸産カニ類にも、カニに特異的に寄生してい ると思われるツツガムシが広く分布していることが示唆された。このツツガムシが鈴木(1976)による奄 美産の E. haematocheiri と同一種かどうかについては今後さらに検討したい(2010 年厚労科研費によった)。 62 Med. Entomol. Zool.

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B05 マダニ宿主探知プロセスに関与する候補分子の検証 ○山地佳代子, 芳賀 聡, 石崎 宏 (畜草研・放牧管理) Molecular characterization of GPCR from the ixodid tick Kayoko Yamaji, Satoshi Haga, Hiroshi Ishizaki 家畜に甚大な被害を引き起こすマダニは、宿主から得た血液を唯一の栄養源として生活史を維持してい

ることから、宿主探知プロセスは生存に必須であると考えられる。しかし、マダニの宿主探知プロセスを

支える分子基盤やメカニズムはほとんど解明されていない。蚊などの吸血性節足動物の宿主探知行動には

炭酸ガスの感知だけではなく、嗅覚系の働きによる宿主の匂い成分の感知が関与していることが示唆され

ていることから、マダニにおいても嗅覚系の情報伝達を阻害・遮断または撹乱することは有効な防除法の

一つとなり得る。我々は日本優占種であるフタトゲチマダニHaemaphysalis longicornisを用いて、マダニの

宿主認識において中心的役割を担う臓器として知られるハラー器官から、嗅覚レセプターが属す 7 回膜貫

通Gタンパク質共役型レセプター(GPCR)の単離を試みたので報告する。本研究で新規に単離したGPCR候

補遺伝子は、7回膜貫通型を保持すると推測され、ホモロジー検索において既に報告されている節足動物の

嗅覚レセプター候補遺伝子に高い相同性を示した。また遺伝子発現解析ではハラー器官のある第一肢にお

いて発現が確認されたが、第二肢、第三肢、第四肢においては発現が認められなかった。以上の結果より、

今回単離したフタトゲチマダニGPCRはハラー器官において嗅覚系の機能に関与する可能性が推測された。

現在、得られた配列を基に抗体を作製し、フタトゲチマダニGPCRの局在の検証を進めている。

B06 宮古島のつつがむし病患者発生地に生息するカニ寄生ツツガムシ ○高橋 守 1,2, 三角仁子 2, 亀田和成 3,藤田博己 4, 角坂照貴 5, 高田伸弘 6, 平良勝也 7, 山本正悟 8, 安藤秀二 9, 川端寛樹 9, 北野智一 8, 岡野 祥 7, 御供田睦代 10, 高野 愛 9, 矢野泰弘 6, 及川陽三郎 11, 本田俊郎 12, 岩崎博

道 6, 平良セツ子 13, 岸本壽男 14 (1川越高校、 2埼玉医大, 3日本ウミガメ協議会, 4大原研, 5愛知医大, 6福井

大, 7沖縄衛環研, 8宮崎県衛環研, 9感染研, 10鹿児島県環保セ, 11金沢医大,12鹿児島県立大島病院, 13宮古福保, 14

岡山県環境保健) Prevalence of chigger mites on Crabs in Miyako Islands, where several cases of Tsutsugamushi disease were found. Mamoru Takahashi, Hitoko Misumi, Kazunari Kameda, Hiromi Fujita, Teruki Kadosaka, Nobuhiro Takada, Katsuya Taira, Seigo Yamamoto, Shuji Ando, Hiroki Kawabata, Tomokazu Kitano, Shou Okano, Mutsuyo Gokuden, Ai Takano, Yasuhiro Yano, Yosaburo Oikawa, Toshiro Honda, Hiromichi Iwasaki, Setsuko Taira, Toshio Kishimoto

2010年8月と10月に、宮古島本島および 北部に位置する池間島で、野鼠捕獲用トラップにカニ類が入

っていた。精査の結果、オカガニにデリ-ツツガムシによく似たツツガムシが寄生していた。本種はナン

ヨウカニツツガムシEutrombicula (Siseca) haematocheiri Suzuki1976に酷似するが、背甲板がさらに大きいの

が特徴である。本種のオカガニへの寄生率は57%(4/7)、平均寄生数46.5 個体(3 から111 個体)であった。

ヤシガニ(9個体)やオカヤドカリ(4個体)には寄生していなかった。宮古島に近い西表島と黒島の陸産カニ類

も調べた結果、西表島(10月16日)のベンケイガニへの寄生率は100%(7/7)、平均寄生数32.1個体(2から90個体)であったものの、ミナミオカガニ(5 個体)、オオアシハラガニモドキ(1 個体)、ミナミスナガニ(1 個

体)には寄生していなかった。また黒島(10 月11 日)ではオカガニへの寄生率は83%(5/6), 平均寄生数188 個

体(3から492個体)であったが、ムラサキオカガニ(1個体)には寄生していなかった。一方トカラ列島小宝島

で11月5日に採集したカクレイワガニには原記載のナンヨウカニツツガムシが寄生していた。ちなみに寄

生率は 57%(4/7)、平均寄生数 1.5 個体(1 ないし 2 個体)であった。しかし 11 月 25 日のカクレイワガニ 17個体全てに寄生は見られなかった。なお採集されたツツガムシのうち 223 個体をリケッチア有無の検査に

供したがすべて陰性であった。今回の調査により、沖縄県の陸産カニ類にも、カニに特異的に寄生してい

ると思われるツツガムシが広く分布していることが示唆された。このツツガムシが鈴木(1976)による奄

美産のE. haematocheiriと同一種かどうかについては今後さらに検討したい(2010年厚労科研費によった)。

62 Med. Entomol. Zool.