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RC-90 BIM による建築生産イノベーションに関する特別研究会 −設計・施工・運用の枠を超えてつながる BIM の探求 つなぐ BIM Ver.2 (20181109)報告提言書 (2015 - 2017)   生産技術奨励会・特別研究会 RC-90

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RC-90BIM による建築生産イノベーションに関する特別研究会

−設計・施工・運用の枠を超えてつながる BIM の探求

つなぐ BIMVer.2 (20181109)報告提言書 (2015 - 2017)  

生産技術奨励会・特別研究会 RC-90

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つなぐ BIM 報告提言書

___________________________________________________________________________________________________

2017 年 7 月 19 日 Ver. 1

2018 年 11 月 09 日 Ver 2

___________________________________________________________________________________________________

著者:RC-90 つなぐ BIM 研究会

発行者:RC-90 つなぐ BIM 研究会

e-publication: <http://yashirolab.iis.u-tokyo.ac.jp/e-pub/tsunagubim/>

___________________________________________________________________________________________________

本コンテンツにおいて用いられている図のコピーライトは、記載がない場合は研究会参加者により作成されたものです。参照する際は、「RC-90 つなぐ BIM 研究会」を出典として下さい。

尚、参照元のある資料、図に関しては、オリジナルの資料を参照下さい。

RC-90 は、Reserach Committee 90 の略で、一般財団法人生産技術研究奨励会の枠組みを用いた、産学官連携の研究会です。90 番目となる本研究会の正式名称は以下の通りです。

「BIM による建築生産イノベーションに関する特別研究会−設計・施工・運用の枠を超えてつながる BIM の探求」

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RC-90 BIM による建築生産のイノベーションに関する特別研究会 RC-90 BIM

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研究会メンバーRC-90 : Research Commitee 90

幹事: 東京大学生産技術研究所 野城研究室

参加企業等: オートデスク

大林組

建築保全センター

構造計画研究所

新菱冷熱工業

日建設計

日本設計

日本ファシリティマネジメント協会:JFMA

オブザーバー: 建築研究所

クリーク・アンド・リバー(H.29 1 回)

YKKAP Façade PTE. LTD(H.28 1 回)

三菱総研(H.27 年度、H.28 年度)

過去参加企業 : 東芝エレベーター(H.27 年度)

過去開催数: 平成 27 年度:4 回

平成 28 年度:9 回

平成 29 年度:11 回

本研究会は、生産技術研究奨励会の枠組みを用いて開催されています。

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RC-90 BIM による建築生産のイノベーションに関する特別研究会RC-90 BIM

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1. " つなぐ BIM" のための "10 のことば "

従前より、BIM(Building Information Modeling)を導入することによって、建築設計を含む建築生産プロセスを変革する期待が高まっているが、我が国における現況として、設計の BIM、生産の BIM、運用の BIM と言われるように、各業務・プロセスごとにバラバラに BIM が適用されてしまっている。

建築生産の各プロセス間の連携と相互調整については、いまだに多くの課題があり、BIM を利活用するメリットを最大限に活かしきれていない状況である。2015 年より始まった本研究会では、プロジェクトに携わる様々な立場から、この課題に対する事例共有と解決すべき対象について議論を重ねてきた。" つなぐ BIM のための 10 のことば " は2016 年度の研究会成果物として、それまでに議論を重ねた課題のうち重要と考えられる対象を項目分類し、概要をまとめたものである。

建築生産をプロジェクトフィールドとして捉えると、BIMを用いた生産情報のマネジメントはまさにゲームそのものとも言える。10 のことばの位置付けはまさにこの「ゲーム」を成立させる要素と照らし合わせて捉えることも可能である(図1参照)。それぞれの「ことば」は短いページ数で解説し切れないものばかりであるが、本研究会で議論された要点を中心に、「ことば」と「ことば」の関係性についても理解できるようまとめることを心がけた。

研究会の経緯

2 他産業から学ぶ技術の連携と共有

2017 年度の研究会においてはこの "10 のことば " をベースにしつつ、他産業との比較や考察を行った。造船業における CAD システムの事例からは、設計情報の3次元化や生産情報との連携における先駆的な取組みを知ることができた。また船舶の運用という観点では、Smartship に代表される情報利用による現代的な価値創造の実例を知ることができた。

Industry4.0 は、情報利用による価値創造を端的に示した概念と言えるが、その実現のための " 競争領域 " と " 非競争領域 " の相乗効果は建築業界における価値創造においても重要になる。

非競争領域とは、産業内にて多主体が個別に解決策に向けた努力をするのではなく、連携・共有しながら全体的に解決を導くことがより効率的で有用であるとされる課題領域である。Smartship の事例においては船舶運用の合理化と高効率化を目指したデータの共有戦略が価値創造の鍵を握っていた。

建築産業はプロジェクトごとに個別性、一回性の高い産業であり、データ活用に関しても企業間の枠を越えることが困難と見られてきたが、BIM を活用することにより、非競争領域の連携や共有が可能になると考えられる。また建築の企画や運用などにおいては、こうした情報の蓄積がより重要な役割を果たすと考えられる。

プロジェクトフィールドとして捉えた建築生産(作成:森下 有)

①ゲームの目的ROI

⑩チームの将来計画Roadmap

②時間Life CycleDesign

③下準備DevelommentManagement

④パス練習Concurrent

⑤計測Reliability

⑥共有Sharing

⑦ルール作りApproval

⑧新技能Player

⑨練習試合Pilot Project

Bird’s Eye Vision俯瞰的な視点

The GameBIMによる建築情報のマネジメント

Project Fieldプロジェクトフィールドとしての建築生産

Industry GroupObserver Stand他産業との連携

Field Work

Industry Resource

Project Result

Industry Roadmaps

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RC-90 BIM による建築生産のイノベーションに関する特別研究会 RC-90 BIM

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3 プロトタイピングを通した BIM の特性分析

こうした他産業からの学びや気付きをベースとしつつ、本年度の研究会においては仮想の BIM モデルを実際にプロトタイピングしつつ、議論を深めた。

例えば昨年度の研究会において、情報の信頼性や確定度合いを他主体に伝えるための "BIM 連絡帳 " の必要性について言及があったが、実際の BIM データの属性情報として記録方法の一例を検討したり、Non-CAD ビューワによる情報伝達の実例を参照することで、課題の解像度を高めることができた。その上でライフサイクルデザインにも視点を広げ、BIM データの属性情報について活用の可能性を検討し、建築の用途や規模に応じた情報の抽象度や、長期的なライフサイクルにおける運用課題についても理解を共有した。

また、BIM のデータとしての特性を明確に理解するために、従来の CAD とのコマンド比較も試みた。(図3-1,2 参照)意匠・構造・設備のセクション間や、図面情報間の整合性を担保するために、情報をオブジェクト単位で扱うことがBIM の特徴にあげられるが、上図に示すとおり、CAD は「作成」ー「線分」・「ポリライン」・「円」といったように線画や文字を入力しながらデータは作成されることに対して、BIM は「構築」ー「壁」・「窓」・「ドア」といったように建築の構成要素を入力しながらデータが作成さることが読み取れる。CAD が「電子化された建築図面」であるとするならば、BIM は「構造化された建築情報」であると言えよう。

4 " 構造化された建築情報 " の利用価値

BIM には、建築の設計・施工段階における利用目的に応じて前述した建築の構成要素や単位空間を入力するが、こうした情報は設計・施工段階における情報のつながりのみならず、運用段階でも FM データとしても活用が期待され、国内外で既に活用事例が報告されている。

これまでも 2D の図面が FM データの下図として利用される事はあったが、例えば部屋情報や機器情報はシステム構築をする際に入力し直す作業が必要であった。前述のとおり BIM には「構造化された建築情報」としての側面があるが、この特性は FM データをはじめとして転用可能であり、高い利用価値をを秘めている。ただし、施工段階のデータがそのまま役立つとは限らず、FM に必要な情報集計や更新が容易に行えるよう、詳細度(LOD)の管理が必要になる。

このような情報のつながりを生み出すことにより、新たな価値創造を実現することが可能になる一方で、各フェーズでの利用特性を見通した運用ルールの設定やデータの標準化は今後ますます重要になるとともに、従来とは異なる新たな職能・職域も必要になるであろう。

2017 年度の研究会においては、BIM の「構造化された建築情報」の利用価値を引き出すために必要な観点を明らかにすべく、FM 以外にも様々な実例をもとに議論を深めた。この報告書では、前年度に提唱した「10 のことば」を切り口として、その成果のまとめを試みている。

電子化された建築図面と構造化された建築情報の比較(作成:村井 一)

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RC-90 BIM による建築生産のイノベーションに関する特別研究会 RC-90 BIM

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BIM ROI

2013 年に行われた MacGrawHill Construction によると、調査対象となった各国の建設会社の4分の3が、エラーや不備の低減や作業のやり直しの削減によって、BIM に対してプラスの ROI(費用対効果)を得ていると回答している。※1。 BIM を活用することで、建設段階に限らずプロジェクトのライフサイクルを通して様々な情報活用や合理化が期待できる一⽅で、マネジメント人材の配員や、情報⼊⼒の負荷に対する投資が必要になることがある。2017 年現在、一般的な測定指標はないものの、プロジェクト参加者間で BIM に対して期待する価値を共有し、適切な実装のレベルを定めていくことが、プロジェクトの ROI を⾼めていくためには肝要である。

発注者事業戦略・プロジェクト内での ROIBIM の利用により、設計段階、施工段階において情報のつながりを⾼め、検討の円滑化、合理化が可能になる。また、情報のつながりは、建築の作り⼿だけではなく発注者や利用者にとっても様々なメリットをもたらす。

⼆次元図面による確認に比べて三次元データは空間の認識・理解を⾼めるほか、埋め込まれた個別の属性やその集計情報は、仕様の確認やコストの把握にも役⽴つ。例えばこれにより、竣工後の建物運用やオペレーションの前倒し計画が可能になるなど、これまでに比べ早期に確度の⾼い意思決定が可能になる。また、建物の竣工後においては、運用や改修に必要な情報⇒ 2 のデータベースとして FM やモニタリングへの活用が期待される。このように、BIM の ROI を考えるにあたっては、建物を「作る」だけではなく、「使う」こともふまえた評価の枠組みが必要になる。

受注者建設実務・プロジェクト内での ROI設計段階・施工段階においては情報伝達の向上によって、情報の不整合や⽋落による⼿戻りを防ぎ、既往の取り組みと比較して、プロジェクトの合理化が期待できる。

設計・施工、いずれの段階においても複数の情報⼊⼒主体が存在し、ソフトウェアやデータ形式にも互換の必要が生じることがあるため、特に設計の初期段階においては、情報の統合や整理の取り決めを計画することが肝要である。⇒3また、設計から施工への図渡しなどの段階においては、作成した情報の伝達性を向上させるために、信頼性を担保する仕組み⇒ 5の構築が課題となる。

※ 1-1 出典:McGraw-Hi l l Construct ion, Business Value of BIM for Construction in Major Global Markets SmartMarket Report 2014 <http://redstack.com.au/lib/pdf/Mcgraw_Hill_BIM_ Report.pdf>

SummaryBIM は建築に必要な情報のつながりを構築することであり、その情報のつながりが、発注者にとっても受注者にとっても様々なメリットをもたらすものである。BIM の活用により、既往の設計以上の効率や便益を得る(= ROI)ためには、具体的にどのような情報のつながりを作るのか、目的を明確に設定することが重要である。

BIM 導入がもたらす効果とは?

(村井一)

図 1-1 BIM に対する建設会社 ROI の国別比較

図 1-2 ROI の類型(発注者・事業戦略)

図 1-3 ROI の類型(受注者・建設実務)

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RC-90 BIM による建築生産のイノベーションに関する特別研究会 RC-90 BIM

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コラム:2017 年度の研究会から

BIMROI を考える上ではプロジェクト内のみならず、その下準備とも言える組織間におけるつながりも重要となる。BIM を用いることによる便益は、ケースごとにどのスケールで、どの関係者間で共有しているものなのか、随時理解を深める必要がある。

プロジェクト ROI広義の建築プロジェクトを念頭に置くと、設計と施工をつなぐことによる便益以外にも、計画と設計、施工と管理、また、建築を作ることにより便益を得ようとしている事業プロジェクトの運用、処分の観点からも BIM の位置付けを考える必要がある。発注者が BIMにより構造化された情報を扱うことで、建物管理の業務のみならず、事業業務を最適化したり、取得されるデータを用いることで可能となるサービスを構築するなどの、情報の可能性の範疇から ROI を語る必要がある。(図 1-4 上部)

産業 ROI(非競争領域と他産業との連携)個別の建物プロジェクトの枠を越えたデータの利用や、データの公共性、また建物群によるマネジメント、更には、建造物によらない他のプロジェクトへの連携を考慮する場合には、産業組織レベルでの BIMROI を考慮する必要がある。社内組織内での連携による ROIはもちろんのこと、産業内外との多角的な連携を目指すにあたっては、情報の構造化プロセスにおける非競争領域の同定を通して、産業の枠を超えた連携がもたらす価値創造の可能性が存在している。また、プロジェクトを重ねるごとに蓄積する経験値は、企業組織や、企業を越えた産業知識として意味を保つため、非競走領域における協働や、他産業との連携による ROI をどのように考慮するかを検討する必要がある。誰が、どのレベルの ROI を目指し、どの程度投資することで、何が変わるのかをベースに BIM に関する契約や約款、協⼒体制が作られる必要がある。(図 1-4 下部)

ビルディング・インフォメーション・フォーマット建築生産プロセスは、建築物の特性により異なり、また情報構造に関しても相違がある。これらの情報構造と情報プロセスのタイポロジー、あるいはその分析・認識⽅法に関しては、今後研究が必要である。共通の情報の構造化ルール(非競争領域)がないままに情報の構造化プロセスを実施することは、個別のプロジェクトケースや、組織内における ROI は認められても、スケーラビリティにかけ、実際の情報を利用する主体も限定的となる。情報プロセスの ROI を得るためにも、利用価値のある情報を、より広いユーザーに向けて準備する必要がある。(図 1-5)

(森下有)

SummaryBIM による情報の構造化プロセスは、プロジェクト内における情報利用がもたらすROIに止まらず、産業としての非競争領域の同定、新たな協働の機械の創出を促す可能性がある。その為にも、BIMがもたらし得る便益を個別の主体内で完結して議論するのではない、開けた態度が必要とされる。

図 1- 4 産業レベルの ROI とプロジェクトレベルの ROI

上:プロジェクトフィールドにおける ROI の連携発注者の事業戦略の上に位置付けられる建物を作り上げるには、様々な階層における連携が必要とされている。これらの連携を可能にする為には、つなぐためのプレイヤー⇒8が必要であり、つなぐ ROI を検討することが重要である。下:産業内外の連携による ROI のありようの定義

図 1-5 情報の構造化プロセスのつながり

情報の構造化プロセスをつなぐことの便益について

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BIM LCD 1: FM のつくりかたFM には建物の情報が不可欠である。建物を構成する空間や部材の属性や位置、形状など BIM が得意とする情報は、FM 業務に大いに役立つ。しかし建物をつくるために必要な情報と FM 業務で必要とされる情報は、微妙に異なる。例えば、FM では位置と形状の正確性は必須であるが、必ずしも高い詳細度が求められるわけではない。属性項目は実施したい FM 業務によりさまざまで、求められる精度や詳細度も対象業務により異なる。BIM による建物情報を FM で活用する場合は、実施する FM 業務の目的と必要となる情報について、内容や詳細度、受け渡しの時期、責任分担などを関係者間で合意しておく必要がある。この合意は、最初の作成時だけでなく、改修や修繕などライフサイクルに亘る更新を考慮することを忘れてはならない。

BIM LCD 2: 情報と建物のライフサイクルBIM に更新周期や耐用年数、価格の情報を加えることで、修繕更新計画の視覚的な表現や資産価値の算定が可能となる。台帳で管理されているさまざまな記録と 3 次元的な位置情報を連携させ統合的に管理することで、管理を効率化、高度化することができる。目的を明確にし、適切な手法を採用することで、新築だけでなく既存建物でも BIM 化に有効な手段となる。また社会で共有すべき情報はライブラリーとして整備が進み、利用できる環境が整いつつある。情報が建物のライフサイクルに歩み寄りつつある。さらに地図情報サービスの発展から、建物情報の潜在的価値が想像できる。建物情報と新たなシステムを連携させるとで、屋内での自動運転など新たなサービスが可能となる。このような建物利用者への情報提供や新サービス、利便性の向上が建物の価値を高めることにつながる。

※ 2-3 出典:国土交通省 東京駅周辺⾼精度測位社会プロジェクト資料<http://www.mlit.go.jp/common/001067985.pdf>  ※ 2-1 出典:アルゴリズムデザインラボ

図 2-3 建築情報の可能性

図 2-1 BIM と建物のライフサイクル

情報を建物のライフサイクルとして設計する

(猪里孝司)

図 2-2 BIM の情報

Summary建物のライフサイクルを通して、発注者(出資者)、設計事務所や建設会社だけでなく建物管理者や建物の利用者など、それぞれの活動や関係者を繋ぐものが情報である。BIM を情報共有の基盤に据えることで俯瞰的視野を持ち、ルールを整備することで、建物に関わる全ての関係者が価値を共有できるシステムを構築することができる。

BIM Life Cycle Design2

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コラム:2017 年度の研究会から

SummaryBIM の背景となる生産環境は国内外において異なるが、それぞれの設計や施工の特性に応じて、プロジェクトのフェーズ毎にメリットが創出できるような段取りが BIM 活用の成功の鍵を握っている。その実現のためには、情報入力の「標準化」や、その実践のための「約束ごと」の計画が有効である。当初定めた計画が実行されるかどうか、進捗を管理する様々な「BIM Player」の存在が重要である。

(村井一、猪里孝司)

建物のライフサイクルを支える情報マネジメント

BIM を活用した FM の取り組み事例建築の運用コストは建設コストの約3倍と言われ、FM がライフサイクルコストに対して及ぼす影響は大きい。BIM に含まれる建築情報や設備情報は FM に利用が可能であり、諸外国においては BIM と情報連携が可能なソフトウェアの活用も試みられているが、国内においてはまだ連携の実例が少ないのが実情である。

FM データへの受け渡しフォーマット設計・施工に使用された BIM モデルを FM に利用するためには、入力される情報の構成・詳細度に調整が必要となり、そのための LOD

(Level of Development)の明示が不可欠である。諸外国においては、Cobie をはじめとして、FM 利用のための互換フォーマットが存在しており、BIM データの円滑な利用を後押ししている。(※ COBie は Construction Operations Building Information Exchange の略で、ファシリティ管理情報提出の際の仕様を指す)

経時的な情報マネジメントを目指したモデルの抽象度LOD は、利用目的に応じたデータの抽象度の問題とも言い換えることができるが、一言に FM と言ってもその利用目的は様々であり、施設の用途や規模により、必要とされる情報の項目や入力の度合いも異なってくる。FM は施設の運用と並走して、長い期間にわたり、数多くの関係者が関わりながら行われるが、データを過度に作り込み過ぎると、その汎用性を損ねる恐れもあるため、長きにわたって利用される基礎的な情報に関しては、適切な抽象度を保つことが肝要となる。

既存建物や複数建物のマネジメントFM への BIM 利用は新築だけでなく、既存建物に関しても有効であり、FM のベース情報とするために既存建物をモデリングすることも可能である。また、大学のキャンパスや企業の研究施設など、既存・新築を含め複数の建築物を連携して管理する際にも BIMと FM の連携は有効であると考えられる。近年、LEED においても” Neighbourhood” としての評価が加えられており、建築物の品質を単体としてだけではなく、群として維持していく発想も今後一層重要になると考えられる。

図 2-4 Archibus の操作画面

図 2-5 COBie による情報フォーマット

図 2-6 FM 用の簡易 BIM モデル

※ 2-4 出典:<http://archibus.com/products/extensions-framework/smart-client-extension-for-autocad-revit/>

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BIM Development Management -1BIM ガイドラインプロジェクトにおける BIM の利用のあり⽅を定めたガイドラインは、各発注者により経営戦略ニーズに基づいて作成される。米国をはじめとした海外の発注者が発行するガイドラインにおいては、竣工後の FM の中での BIM(モデル+属性)の利用に関する計画も示されており、データの作成者がその利用目的を考慮して⼊⼒することができる。これらの BIM ガイドラインは、発注者個々のガイドライン参照プールのなかから、個別の事業や組織に合致したテンプレートを参照して作成され、必要に応じて訂正して利用される。

BIM Development Management -2BIM 実行計画書BIM 実行計画書は個別のプロジェクト内における BIM の使い⽅を定義するもので、設計・施工側の知見蓄積をもとに発注者との契約以前に業務の条件確認書として作成され、BIM ガイドラインと照らし合わせて更新される。BIM ガイドラインや BIM 実行計画書を作成するにあたっては専門的な人材の配置やチームづくりが重要であり、コンサルタントを⼊れることも必要な場合がある。

BIM Development Management -3ブリーフによる情報コミュニケーションブリーフとは、竣工後まで発展していく当事者間における「意図の相互確認」を行うためのコミュニケーションツールであり、目標、制約、要求、関連法規等から構成される。施工段階では、設計図書に記載されていない情報を補うために参照され、仕様変更時などに⽅針を決める時の根拠として機能する。また、竣工後はコミッショニングにおける参照ドキュメント、事業評価などに用いることが出来る。

BIM Development Management -4ワークフローとマネジメントプロセスプロジェクトのフェーズ毎にモデルが持つべき情報の量、種類、精度を明示化するためには、ワークフローにおける LODマイルストーンによる、漸次的なプロセスを管理と、、アウトプット ( 成果物)の LOD マイルストーンによる、プロジェクト関係者間でのゴールの共有が有効である。

BIM 実行計画書の様々な形態

*日本では細かい内容まで契約上踏み込めていないのが現況である。

MDS (Model Development Specification)

MDS を用いることで、モデルの発展の当事者間における共通言語定義していくことにより、プロジェクト・フェーズ別にモデルが持つべき情報の量、種類、精度を明示化する。「標準」ではなく、つなぐための「約束ごと」、「申し合わせ」、「仕様」を確認する。 LOD に関するテクニカルガイドラインは、各実務組織により作成

MIDP(Master Information Delivery Plan )

MIDP は、MDS と並行して、共有レベルとフェーズを把握するためのテンプレートである。どの精度のデータを、どのフェーズで、誰と交換する、そして全体属性をみんなで⼊⼒していくかという設定をすることで、「BIM データのつながり」そのものを作っていく。

PIP(Project Implementation Plan )

専門工事会社に参加する組織の資源(人材・IT 能⼒)に関して情報提供する

(濱地和雄、菱田哲也)

図 3-1 受発注者間での「約束事」を決める⼿順

プロジェクトの流れの下地づくり

BIM Development Management3 Summary設計や施工の特性に応じて、プロジェクトのフェーズ毎にメリットを創出できるような段取りが BIM 活用の成功の鍵を握っており、そのためには、情報⼊⼒の「標準化」や、その実践のための「約束ごと」の計画の有効である。また、当初定めた計画が実行されてるかどうか、進捗を管理する様々な「BIM Player」の存在が重要である。

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コラム:2017 年度の研究会から

(村井一)

BIM 活用の成功の鍵を握る "Standard" の重要性

SummaryBIM ガイドラインや BIM 実行計画書においては、BIM の情報⼊⼒にとどまらず、プロジェクトのマネジメントなども含めプロセスの標準化がはかられているが、それらにはプロジェクトが目指す「水準」としての側面と、BIM 運用を効率化させる「モジュール」としての側面があり、これら相互の関係性のもとに運用されることが重要である。

BIM ガイドラインと BIM 実行計画諸外国における BIM プロジェクトにおいて、発注者の要求が BIMガイドラインとして示され、 受注者の対応が BIM 実行計画書として示される流れについて、前年度の報告書にて触れたが、その内容は BIM への情報入力にとどまらず、プロジェクトの意思決定プロセスやマネジメントにも項目が及んでおり、プロセスの標準化

(=Standardarization)により設計や施工の品質を高めようとする意図が読み取れる。また国ごとに成熟度は異なるが、政府や公共機関によるガイドラインやロードマップが策定されている背景も存在する。

プロジェクトが目指す「水準」の共有イギリス政府が定めている BIM のロードマップについても、前年度の報告書で触れているが、こうした到達の「水準」としての”Standard”を明示することは、プロジェクトに携わる関係者(発注者・設計者・施工者)の目的感を揃える意味で有効であり、各社が個別の取り組みをバラバラに行うのではなく、成長戦略を共有しながら取り組むことによって、業界全体の成長を促すものであると考えられる。

BIM 運用を効率化させる「モジュール」の整備一方で、BIM の活用に欠かせないファミリ(壁・窓・建具、といった建築の構成要素を「部品」にしたデータ)やテンプレート(設計の目的別に BIM データの「下敷き」を整えたもの)といった「モジュール」としての” Standard” の整備も忘れてはならない。BIM の入力を効率化することはもちろん、建築・構造・設備のセクション間連携、確認申請への BIM データ利用、設計・施工のデータ受け渡しを合理的に行うためにも、これらの BIM データの構造に関して、標準や互換を整備することが肝要となる。

Standard を整備するプラットフォームの重要性これら2つの性格の” Standard” は個別に検討するのではなく、相互の関係性のもとに整備されることが望ましい。プロジェクトごとに規模や用途などは多様性であるが、BIM を利用する背景となる「水準」を共有した上で、その実現を円滑化させる「モジュール」を整備することで、これまでは個別の情報入力やフォーマット整理に頼っていた手間を省くとともに、より質の高い建築性能の検討や、整合性が担保された設計品質の確保が可能になる。これらの整備はプロジェクト関係者が個別に取り組むには限界があると考えられ、特定の企業やプロジェクトの枠を超えて、” その整備・更新していくためのプラットフォームの構築が不可欠である。

図 3-2 受発注者間での「約束事」を決める⼿順

図 3-3 「水準」としての Standard

図 3-4 「規格」としての Standard

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CAD での設計においてはクライアントとの打合せで出てくる建築の細かいプラン変更に対応させる為、プラン決定後に構造、設備が具体的な設計を開始していた。一方で常に一つのモデルを扱う BIM 技術の出現により、プラン決定を待たずに先駆けて並列設計(Concurrent BIM)を行うことが可能になった。部門毎に並列して設計を進める為には、各設計者が他部門のスケジュール、変更、情報を共有出来る同調的な設計が重要であり、BIM Player は高いマネジメント能力が求められる。BIM においては複雑に絡み合った変更と情報をつなげ、その影響力と効果をチーム内で共有する俯瞰的なマネジメント(BIM Development Management)が必要とされる。Concurrent BIM と高度なスケジュールマネジメントにより設計検討と方針決定を前倒しすることによりフロントローディング (FL) が可能になる。また、施工においても Concurrent BIM により BIM モデル承認等の FL が可能になってきた。設計、施工分離の場合は、それぞれの範囲内での FL となり、設計施工一貫の場合はデザインビルドで FL が可能になる。

Concurrent BIM 1: 情報を高度につなげる建築産業はプロジェクトの特性により様々なプロセスが存在し、つながり方が異なることを理解し、つながりが切れている箇所を把握する必要がある。従来の設計ではそのような情報のマネジメントを意匠設計者やプロジェクトマネージャーが行ってきたが、BIM においては情報のマネジメントが複雑化、高度化している為、繋がりを促進する BIM Player という新しい職能が求められる。このつなげる手法はノウハウとして社内の他のチームにも共有され、フィードバックされることで高い ROI が得られる。設計施工間においては BIM 連絡帳により会社間、部門間を超えた情報が伝達されることが期待される。

Concurrent BIM 2: つながりの影響の視える化プロジェクトを遂行する為には情報が途切れた場合のリスクを正しく評価し、影響力の高いつながり(クリティカルリンク)を共有する必要がある。またスケジュールに影響するクリティカルパスも合わせてチーム内でマネジメントする。一方で FM や建て替えに至るまで、建物の一生で必要な情報をLIFE CYCLE DESIGN という俯瞰的な視点で共有し、各フェーズでのデータをつないでいくことが求められる。ここでも各フェーズのデータをつなげ、効果的なデータベースにつないでいく職能(データマネジメント)が重要になる。

(安井謙介)

図 4-1 設計プロセスの並列化

図 4-2 「つながり」のパターン分類

図 4-3 「つながり」のライフサイクルデザイン

Concurrent BIM4 SummaryBIM が可能にするプロジェクト専門知識チーム間の並列共同の可能性を引き出すには、同調性を担保するためのプロジェクトマネジメント能力を持った人材が必要となる。また、情報を高度につなげる役割と同時に、建築のライフサイクルを見渡すデータマネージング能力も求められる。

先駆け、同調性、つながり

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コラム:2017 年度の研究会から

コンカレントエンジニアリング(CE)CE は製造業で用いられる手法であるが、建設業においても以前から注目されている。2010 年頃から国内建設業に BIM が導入され、関係者が一つの BIM モデルを共有することにより、CE をスムーズに実施する環境が整いつつある。設計段階での業務の前倒しはフロントローディングと呼ばれ、シミュレーションやコーディネーションなどに BIM が有効なツールとして使われる。

プレコンストラクションサービス(以下プレコンサービス)

日本の建設会社は設計部門を持つため、設計施工一貫のプロジェクト遂行が可能で、CE を実施しやすい組織であるといえる。一方、BIM が進んでいるといわれる米国では、建設会社は設計部門を持たないことが一般的であるが、発注者の判断により施工会社とプレコンサービスを契約する場合がある。これは実施設計の段階から建設会社が参画し、コスト、工期、品質等に関する発注者の要求を満たすよう CE を実施することである。日本では ECI 方式がこれに近い。

BIM の活用プレコンサービス期間中、設計者は BIM モデルを作成して実施設計を進める。施工者は生産の立場から VE 提案やアドバイスを行い、それらが採用されれば設計者が BIM モデルを修正する。建設会社へのモデル提供はケースバイケースである。設計事務所が作成する BIM モデルは設計スコープに基づいているので、提供モデルを施工で活用するためには、修正が必要な場合も少なくない。建設会社が BIM モデルを活用する目的は、数量積算、工事計画、工程計画などであるが、設備やカーテンウォールなど、詳細設計が専門工事会社である場合には、建設会社が BIM モデルを統合しコーディネーションを行う。

IPD(Integrated Project Delivery)プレコンサービスは設計者と施工者の協働はあるものの、BIM の役割は本研究会が探究する「つなぐ BIM」に完全に合致するものではない。プレコンサービスは実施設計からの協業であるが、米国では基本設計からさらに多くの関係者が参画する IPD という協業形態が試行されている。ここでは BIMはマネジメントのプラットフォームとしてプロセスに組み込まれている。契約約款の整備、価格競争環境の確保、リスクの配分、マネジメント人材の育成等、IPD ならではの課題はあるが、CE の進化の先にある IPD の動向に注目したい。

発注者に工程を説明するため BIM モデルに時間情報を付加し、施工ステップを動画で作成している。図は動画の1コマ。

(宮川宏、福士正洋)

【設計施工のフロントローディング】建設会社が設計施工プロジェクトでフロントローディングを行う場合、設計作業や生産設計作業を前倒しするだけでなく、生産体制(生産要員)や専門工事会社の早期決定、工事計画の前倒しがより効果的である。また、確定しないまま設計が進むことはフロントローディングを妨げる原因となるので、段階的に確定範囲を広げていくためには、発注者の理解と協⼒が⽋かせない。

図 4-4 BIM による施工計画(プレコンサービス)

SummaryBIM は建設プロセスの各フェーズで Concurrentなワークフローを可能にした。一方、プロジェクトの特質により発注・契約方式(Project Delivery)は多様であり、ステークホルダーの役割や責任が、BIM や BIMPlayer のあり方を規定する。

コンカレントな建設プロセスにおける BIM の活用

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BIM Reliability 1: つながるデータの信用度の評価BIM マネージャー⇒8は、BIM 実行計画書⇒3に従い BIMデータの生成をマネジメントすることにより信用度の確保に務めるが、つながる時点の BIM データの信用度を評価する業務が新たに発生する。特に BIM データの受け渡しに対価が伴う場合、信用度の評価は必須である。設計事務所/建設会社/専門工事会社/維持管理会社と、受け渡しの主体が別企業である場合には、評価サービスの第三者への外注も考えられる。

BIM Reliability 2: 使えるデータの信用度建築情報はプロセスの進展に伴い確定部分が増えていく。データをつなぐ時点での未確定部分の存在は止むを得ないが、確定・未確定の範囲が明確であることが、データの信用度を評価する指標の一つである。データの素性はモデル上の表示やBIM 連絡帳⇒4により説明される。また、3D スキャナーで計測した点群データは既設物の形状だけでなく、モデルと現実との差違 LOA(Level of Accuracy)を表現できる。

BIM Reliability 3: 情報の流れのトレーサビリティー情報のトレーサビリティーはデータの信用度に大きく影響する。BIM を活用するプロジェクトでは、BIM ならではの情報のフローとフォーマットが用意される。これらによる記録は遡って検証可能でなくてはならず、トレーサビリティを担保する。実務上は BIM ソフトのヒストリ管理機能が役に立つと考えられる。

Reliability 4: 情報のリアルタイム性正しい BIM データであっても、2D 図面から生成するのでは本末転倒である。モデルファースト、発注者も Player も、それぞれのフェーズで最新の情報を求めている。建物のライフサイクルを通じて常に実プロセスに先行し、日々生成される情報をリアルタイムに反映することが、利用価値のあるデータベースとなる。

・検討が未了 ・不整合の放置 ・未確定の混在 ・モデリングルール逸脱 ・データ⼊⼒ミス、⽋落…など

Traceable

(宮川宏、福士正洋、金子智弥)

図 5-1 BIM マネジャー

図 5-2 データの信用度とトレーサビリティ

BIM Reliability5 SummaryBIM データをつなぐ際、BIM データの信用度

(Reliability)が問題になる。検討不足がもたらす信用度の低下は従来の CAD でも同じであるが、BIM の場合、建築物のデータベースとしてのモデルのありようも信用度に影響する。

Measurement, Reporting, Verification

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コラム:2017 年度の研究会から

Player の役割は現状把握から整合性確保と品質向上へBIM プロジェクトでは、意匠・構造・設備の空間調整・整合性の確保が無いまま進み、生産性や価値の高い成果にたどり着くことはない、情報連携を活性化させ、システムとしての建物の性能を三次元と属性情報で高める BIM 運用手法が浸透している。情報連携 BIMワークフローにおいては、統合のテクニックを備えた BIM player、判断ができプロジェクトの方向性をジャッジできる BIM player の使い分けがポイントとなってくるであろう。今後、AIによる分析と判断、データベースによる統計的な判断素材の提供が BIM ワークフローに浸透していく中、BIM player が残すディシジョンメイキングの足跡とも言えるコメントデータが、多様な情報に品質向上を与える根拠として重要視され、その価値が問われると考えられる。

コメントの質そのものが BIM コミュニケーション気付きと危険予知的な、(何とかしよう)(もっとよくしよう)という向上的な精神はどの時代でも尊ばれ、それはデジタル化した情報共有の枠組みでも変わらないはずである。BIM player の多くは BIMツールを通して気付きとして干渉や技術的な不整合に接し、改善・改良のシグナルを BIM 内の情報伝達・共有というかたちで関係者に周知する。従前の議事録指示書のような BIM 連絡帳の存在が BIMにおいては、大きな価値を持つに至っている。ターゲットとなる課題の何が、何故、何と、どの様に等の5W1H コメント自体が構造化されたエビデンスとなりうる。一例として、Non-CAD プロジェクトレビューソフトよるレポートは、BIM マネージャーが設定するルールセットにより、BIM player が発信するコメントがワークフロー改善に貢献するか、単なる現状把握の羅列データに留まるかという差が出てくる。課題分析を可能にするレーティングされたコメントはBIM コミュニケーション素材としてAIに至り新たな価値を生む。

BIM が品質と精度向上をもたらすもの Non-CAD プロジェクトレビュー機能は干渉の回避、解題の抽出、レポート機能を合わせ持つことで、BIM player 間コミュニケーションに活用される。人による視認性を数値化・危険度をレーティングすることで個の声が組織の集合知として価値を生む。BIM 会議では、BIM Player がレーティングされた BIM エビデンスをステークスホルダーに共有され、選択肢が構造化された BIM 会議ではプレーヤーの判断の質や判断に要する時間が問われることになり、すなわちプレーヤーの質に評価の視点が向けられることになる。BIM の効率化でもたらされる「間」で人間力を磨き豊かな時間を過ごすエネルギーに投資することが問われることになるやもしれない。次世代への BIM データベースを引継ぎ、生かすことでもたらされる豊かさがある。

(谷内秀敬)

図 5-3 コメントの設定

図 5-4 アウトプットのレーティングと重みづけ

図 5-5 プロジェクトレビューの視覚化

図 5-6 エビデンスとなるコメントと情報化

整合性確保のためのコミュニケーションがもたらす次世代への価値

SummaryBIM データの信用度は建築物の品質に影響する、データ受け渡し手法や現実との差違を評価し、BIM ならではのフローを使うことで利用価値のあるデータベースとなる。BIM プレ―ヤーの声が構造化によりレーティングされることでプロジェクトの価値を高める情報に進化する。

※ 5-6 出典:新菱冷熱使用例より

※ 5-3 出典:GRAPHISOFT ホームページより<https://www.graphisoft.co.jp/products/solibri-model-checker/>

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1: 各プロジェクトにおける共有設計プロセスは決して単線形ではなく、要求条件・制約条件の同定→設計案の作成→評価・検証→要求条件の見直し又は設計案の改訂という複線的プロセスが繰り返される。

また、当初の設計案は、施工会社や専門工事会社などからのBuildability にかかわる知識・情報がフィードバックされることで磨かれていく。Concurrent BIM ⇒4で述べているように、BIM を用いることで、リアルタイム性とバージョン管理を含め、プロセスに関与するチーム内での情報を共有することができ、設計案を繰り返し検討し改訂していく頻度を⾼めていくことができる。BIM 実行計画書には、コンカレントに検討を繰り返すためのワークフローや分担関係、そのクリティカルパス・リンクが盛り込まれている必要がある。

2: 複数の(企業による)プロジェクトからの共有特定のプロジェクトでうまくいった役割分担やワークフローがそのまま別のプロジェクトに適用できるわけではない。とはいうものの、将棋や囲碁に定石が形成されていくように、個々のプロジェクトの事例から得られた BIM 運用上の教訓・経験知(何が出来、何が出来なかったか)は、他のプロジェクトにおける BIM 実行計画書の策定・運用に役⽴たせることができる。特に、建築用途による違いや、フロントローディングできていない原因やその対処法、BIM による効用の生み出し⽅、垣根を越えた協働のあり⽅については、やりながら学び (learning by doing)、経験知を蓄積し、体系化していく必要がある。プロジェクトから有効なフィードバックを得るためには、設計者、施工者、製作者の枠を超えたオープンに情報交換・協議できる環境が有益で、そのための技術研究組合的組織を構築することも考えられる。

3: Pilot Project からの共有やりながらの学びを加速させて有益なフィードバックを増やし、BIM 計画書の定石を増やしていくためには、通常のプロジェクトの拘束条件を緩くし、新規の実践的試みを展開していくとよい。特に、FM に BIM が活用されていく実施例がまだ少ないことを勘案し、FMで必要な情報を建物引き渡し時に BIM で納品する Pilot Project ⇒9を推進していくことは有益である。

4: ロードマップへの共有各プロジェクトからの経験知を体系化して、BIM 実行計画書の雛形を作成する、これを教材としても活用するとともに、BIM による建築生産の新たな指標を作成していく必要がある。

複数プロジェクトから共有され、蓄積される教訓・経験知例• BIM 計画書策定・運用のコツ

• 建築用途による相違• 関係者への説明説得

• フロントローディングのコツ• 盛り込むべき事項• 巻き込むべき Player• 繋ぎ込むべきプロセス

• 効用の生み出し⽅、見せ⽅• 設計、施工、製作、運用の垣根を越えた連携のコツ

• どのような属性情報、パラメーターを引き継いでいけばよいのかに関する経験知

• 効用の生み出し⽅、見せ⽅• 失敗事例の蓄積と改善フロー

Pilot Project のテーマ例• BIM による確認申請、技術認証• FM で必要な情報の BIM での納品を発注者が受注者に要求• BIM の建築まわり IoT での活用

• Things(構成材、センサー、組み込みシステムの管理)• コミッショニング:設計情報を下敷きにした実性能の検

証・モニタリング

• BIM 情報と、製作工場での工作機械の制御情報との連携• BIM による進捗管理• BIM による情物一致の管理(監理情報の共有・トレーサビリ

ティ)

• 動画・画像情報• 検査・試験・測定データの張り込み• 竣工検査

Pilot Project の進め方• 発注者によるプロジェクトの組成• 受注者の発意による提案(技術研究組合⽅式などによる)• 発注者・受注者の協働(コンソーシアムなど)

(野城智也)

図 6-1 各プロジェクトにおける繰り返しプロセスで共有される事柄の例

BIM Sharing6 Summary設計プロセスは決して単線形ではなく、要求条件・制約条件の同定→設計案の作成→評価・検証→要求条件の見直し又は設計案の改訂という複線的プロセスが繰り返される。BIM による効用の生み出し⽅、垣根を越えた協働のあり⽅については、やりながら学び (learning by doing)、経験知を蓄積し、体系化していく必要がある。

プロジェクトを越えた共有

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コラム:2017 年度の研究会から

CSV/Creating Shared ValueBIM は新しい設計ツールではなく、設計プロセスの革新と考え、他業界の革新を参照することは有効である。製造業の第四次産業革命(=Industry4.0) では幅広い開発が必要である為、業界内で開発内容を競争領域と非競争領域を分け、非競争領域を企業間で協力して開発を行うことで、開発を推進し、共有価値の創造(CSV = Creating Shared Value)を進めている。国内建築業でもデジタルデザインツールの台頭により、設計、生産の仕組みを変えることが求められる為、CSV を加速し、共有出来る価値を創っていかなければならない。現在、起こっている CSV の一例をご紹介したい。

技術をつなぐ(BIM IDEATHON)BIM は常に新しい仕組や技術が必要とされる為、現場の技術者が組織外に出て、オープンイノベーションとして、他社と協業することが求められる。しかしながら、国内においては自社システムを重んじる為か、若い世代が社外の会議に出ない傾向にある。BIM を社会全体で普及していく為には、若い技術者が組織を超えてつながり、BIM を担うことが出来る世代を育てていかなければならない。2017年から 2018 年にかけて 4 回、開催された BIM IDEATHON は参加企業 18 社、延べ人数 120 人の若手技術者が同席したハッカソンであり、次世代をつなぐ試みであった。業界として次の世代を育て、技術を繋いでいく CSV と言える。

分野をつなぐコンピューターの導⼊により、建築が⾼度化され、設計分野、施工分野の専門性が細分化された。社内の部門や、社外の学会、専門団体も同様に細分化されたが、BIM による設計プロセスの革新はそれらを再統合することを必要としている。BIM は分断化された設計モデルを 1 つのモデルで設計するプラットフォームであるため、分野間のコンカレントな協業が求められる。各社、各団体で起こり始めている、専門分野の連携や共有は部門間の共有である。

情報をつなぐBIM は発注者の求める情報を設計、施工を通じてデータベースを構築するワークフローである。設計 BIM、施工 BIM と特定のフェーズの BIM はツールとしての側面しか見ておらず、プロジェクトを通じて情報を集めていくプロセスを国内でも作らなければならない。BIM 実行計画のワーキングやオブジェクトパラメーターの共有化、ジェネリックモデル等、国内でも情報をつなぐ為の動きが出始めている。各社の専門分野のみでなく、企画から設計施工運用までクライアントの視点に立ち、ライフサイクルを通じて情報をつなぐ為のシステムを作ることが業界として求められている。

(安井謙介)

図 6-2 CSV: Creating Shared Value

図 6-3 情報を繋ぐ・IDEATHON

図 6-4 分野を繋ぐ/ Transdisciplinary

図 6-5 情報を繋ぐ/ Information Delivery Cycle

企業や団体をこえてつながる Creating Shared Value の可能性

SummaryBIM は理想的には設計プロセスを通じてデータを扱う必要がある。その為には建物のライフサイクルの複数のフェーズを跨いだ協働が求められる。データを流通させるルールを生み出すことを共有価値の創造(CSV=Creating Shared Value) として考えると、技術、分野、情報等の CSV が考えられ、起こり始めている。

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BIM Approval 1: 産業の全体的なつながり個別の事業だけでなく、建設界全体のエコシステムの中で BIM はインフラ、建築共通の情報基盤として活用されるべきである。超スマート社会の実現に向けた取り組みである Society5.0(第5期科学技術基本計画)では、BIM を交通、社会保障といった異業種をつなぐ社会情報基盤として活用する提案もなされている。

Approval 2: 社会的なつながり⇒4建築許可を受けた建築物の外観や基本的な図面を土地利用情報(GIS)にリンクして、都市街区における相隣関係の維持向上に活用する取り組みは、フィンランド、ノルウェーなどの北欧でよく見られる。BIM を利用する建築許可を受ける建物を、3次元 GIS 上に収蔵し、社会的資産として市民が閲覧できる仕組みを開発する国もある。

Approval 3: BIM による確認申請 ⇒5BIM モデルデータの提出によるものだけが BIM による建築確認ということでなく、BIM を用いることで何がメリットとなるかを踏まえた導⼊が必要である。例えば、設計者側は BIM で楽に求積図を作るのに、BIM データが業務範囲を超えて伝わらないため、審査者側では電卓を叩いている等、有無の判断、数え上げ、再集計など、明らかに機械的にする⽅が合理的なところに連携の注⼒が必要と言える。

Approval 4:BIM による各種認証、信頼性への言及建築確認が To be build の建築物の適合性確認とすると、中間・完了検査は As built の適合性と言える。環境認証は完成後の建物のPerformance に対する認証行為と捉えれば、竣工後の Feedback を行うことで信頼性を⾼められる。建築の生産性向上に資するため、こうした⼿続きをふまえた建築生産プロセスを工業化工法とみなし、BIM の利用による品質情報を担保とした確認検査の合理化等、必要となる社会的制度を設計する必要がある。その際、例えば、電子署名の技術、またはそれに代替しうる技術を適用し、BIM の情報の原本性や真正性の保全についての技術的・制度的な検討も必要になる。⇒5⇒6

※ 7-1 出典:経団連:データ利活用推進のための環境整備を求める ~ Society 5.0の実現に向けて~ [ あらゆる産業と IT の融合による超スマート社会 の 実 現 ] <http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/054_honbun.html>

※ 7-2 出典: bSI RR 資料(Nick Nibset(AC3)氏資料)

※ 7-3 出典:ByggLett(ByggSok: Norway Building Authority)画面 (http://bygglett.catenga.com/)

※ 7-4 出典:建築研究所 えぴすとら 73 号

(武藤正樹)

図 7-1 Society 5.0 における産業のつながり

図 7-3 GIS 建築許可行政システム

 図 7-2 建築物の法⼿続き上の承認フェーズ図 7-4 建築確認業務における BIM 利用の期待

BIM Approval7 SummaryBIM による情報が社会でどのような役割があるのか、個別のプロジェクト内、あるいは、プロジェクトの集合としての都市、更にはデータの世界においてのつながりを考慮する必要がある。

社会とのつながり

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コラム:2017 年度の研究会から

Digital City都市全体の digital model (digital city)を構成し、これを基盤に、MaaS(Mobility as a Service) などの都市スケールでの新たなサービスを創造したり、エネルギー管理、防災管理などの有効性を⾼めていこうという動きが世界中でおきている。英国では、ケンブリッジ大学を事務局に BIM 国家戦略計画のレベル3にあたる進展を「Digital Built Britain」という名前で2015 年より始動させている。Digital city にとってみれば、都市を構成する個々の建築の BIM データは、まさに、そのコンポーネントであり、これらを aggregation して都市データにしていこうという動きも見られる。こうした構想が現実感をもつためには、GIS と BIM データの連携、異なる形式をもったBIM データ相互の連携の⽅法・⼿順について標準が必要である。この標準は、連携する情報間の LOD のすりあわせ⽅法も含まれる。

e-government と BIM我が国の土木分野では、BIM は CIM と呼称され、土木系の公共工事では、竣工時にその目的物にかかわる CIM の提出を義務づける動きも出ている。もし、CIM データが、土木施設の維持管理に活用されるようにあれば、その効率・有効性が飛躍的に⾼まることが期待される。逆に、もし、行政⼿続き等が、従前のような紙ベースでのデータのみでしか扱わないままであれば、BIM の有効性は限定されてしまうおそれがある。BIM の社会化は、e-government の進展が大前提になる。シンガポールでは、従前より CORENET(政府主導の IT 化イニシアチブ)により、e-Submission, e-Information, e-PlanCheckのプロセスを構築しており、また民間側は、e-Procurement を実施する流れを作り、官民の相互がそれぞれの便益を得られる構造の構築を目指している。BIM に特化した進展度合いとしては、敷地面積 5,000 平米以上の建物で、2016 年から建築申請、2017 年より C&S/MEP の BIM 申請を任意で開始した。

インフラとしてのデータの共有Digital Built Britain の構想では、社会の中で既に生産されているデータは、社会インフラの一部であると捉えており、これらのデータを共有することの重要性とその経済的可能性を検討している。BIM データの何を社会と共有するのかを、その ROI を含めて具現的にプロトタイピングしていく必要性がある。

(野城智也)

図 7- 5 Digital Built Britain

図 7-6 BIM e-Submission

図 7-7 Data Sharing

都市をつくりこむためのデータ

SummaryBIM のデータが都市において意味をなすためには、建築産業内におけるデータ利用から、他の産業へのデータ展開を考える必要がある。建物を作るためのデータ、建物を運用するためのデータから、都市におけるサービスのためのデータへの転換を試みる必要がある。

※ 7-5 出典:Digital Built Britain:Level 3 Building Information Modelling Strategic Plan <https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/410096/bis-15-155-digital-built-britain-level-3-strategy.pdf>

※ 7-6 出典:Building Information Modeling (BIM) e-Submission <https://www.corenet.gov.sg/general/building-information-modeling-(bim)-e-submission.aspx>

※ 7-7 出典:Building Information Modeling (BIM) e-Submission <https://www.corenet.gov.sg/general/building-information-modeling-(bim)-e-submission.aspx>

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BIM Player 1: BIM をつなぐ役割、個別技能の開拓プロジェクトごとの個別性が⾼い建築において BIM を活用したプロジェクトを円滑に運営するには BIM Player の裁量に頼る部分が大きい。現行の商習慣ではその役割はプロジェクトや国ごとに明確に決まっている訳ではないが、BIM ワークフローをあ考慮すると「オブジェクトデータ・形として生成させる職能」「情報をつなげる職能」「情報を判断・承諾する役割」がある。国際的な個人認証制度が策定されており、BIM Player の役割が認知され、技能開拓が促進されていくものと思われる⇒10。下記に、BIMをつなげるために必要となる「役割」をあげる。

BIM Player 2: Knowledge PoolBIM Player が「つなぐ」情報には、プロジェクトのクリティカルな問題や重要な設計意図、知恵が詰め込まれている。人による情報のバトンタッチにおいて、それを渡す相⼿の受け⼊れ要件に適したものとして、質や量が的確に見極められている。このように当事者間の認識の共有が意図されている情報は、蓄積され産業知識として共有される価値があると考えられる。しかし、情報はただ単に蓄積するだけでは自動的に精度が向上される訳ではない。

プロジェクト横断蓄積

機械学習を初めとする AI(人工知能)の発展が見込まれる中、膨大な量の情報から過去の類似性、相関性の⾼い情報を類推して提示することで、蓄積された情報の再利用性が⾼まる可能性がある。蓄積されたナレッジを人が読み解き、また IT により自動的に学習されたリスクが算出されることより、BIM 運用の最適解がもたらされる。BIM Player が生み出し、蓄積された情報の価値を⾼め、知識の良い循環サイクルを回すためには、個別のエンジニアリング・コンテンツを集約し、産業レベルでの Knowledge Pool を促進するべきであると考えられる。

(谷内秀敬、熊懐直哉、井野昭夫、川村晃一郎) 図 8-2 Knowledge Pool図 8-1 BIM 計画フローの一例

BIM Player の役割 (RC90 による定義)BIM オーナー( O → )

施主の観点から、適時に意思決定を行うことにより、無理無駄を抑制するとともに、BIM の情報を経営(FM)ツールとして活用するために主導する役割 *必要とされるも現時点で日本で⽋けている役割

ゼネラル BIM マネージャー( G )

プロジェクトマネジメントの観点から、BIM 実行計画書の作成と周知徹底を行う役割 *海外では

一般的に BIM マネージャーと呼ばれる傾向がある

BIM マネージャー( M → )

BIM の統合、整合性の管理など、 3D モデルの構築、連携を円滑にする役割*海外では一般的に BIM モ

デルマネージャーと呼ばれる傾向がある

BIM インフォメーションマネージャー( I--- )

BIM ⼊⼒情報の評価、データ品質の管理など、情報としてのデータベースを構築する役割

BIM ファシリテーター( F → )

設計事務所、建設会社、専門工事会社、施主間のデータ連携を円滑にする役割 *必要とされるも現時点で日本で⽋けている役割

BIM Player8 SummaryBIM を用いるプロジェクトでは、産業の専門分野を横断する知識と経験を持ち合わせたプレイヤーの役割が重要視される。BIM Players は、それぞれの役割や責任を明確にしつつも、従来日本の建築生産システムの長所とされた「お互いの責任境界を越えてサポートしあう関係性」を構築することが肝要である。

人材・役割

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コラム:2017 年度の研究会から

発注者・設計者・施工者・運用者による BIM データの利活用BIM が社会で広く利活用されるためには、発注者・設計者・施工者・運用者全てが BIM User として、それぞれの BIM リテラシーに応じて BIM データに容易にアクセス可能な環境を構築する必要がある。発注者・運用者などの建築専門でない関係者は、操作が簡易なインターフェースを持つブラウザによって必要な BIM データにアクセスする。設計者・施工者は、各個人で BIM データの生産を行う。

BIM データをつなぐBIM データは、意匠・構造・設備設計者などの専門職の設計者のみならず、総合工事会社・専門工事会社・材料供給会社の設計者も含めたすべての BIM User によって作成される。各設計者は専門性に基づいた BIM データを作成するが、これらの細分化された BIM データは、BIM Player によって多種多様なステークホルダーにつなげられていく。

設計分業の明示と「分業に基づく協業」近年、作成すべき設計情報量は増大し、意匠・構造・設備設計者のみならず、様々な特殊部位・部材の設計者や、シミュレーション・法規・アカウンタビリティなどの専門家を含めた設計分業体制によるプロジェクトチームが編成される。

誰が (Who)・どのフェーズで (When)・どのような精度の何の情報を作成するのか (What)、Model Element Table によって各自の役割を設計者間で共有する。BIM データ・フォーマットの標準化により、設計者をはじめとしたステークホルダーが BIM データを引き継ぐことができるため、設計者・運用者の人材流動が容易となる。

BIM Player は、BIM データがあらかじめ計画した BIM 実行計画書および Model Element Table 通りに作成されているか都度確認することによって、BIM データ作成プロセスにおけるマネジメントを行う。それぞれの役割や責任を明確にしつつも、従来日本の建築生産システムの長所とされた「お互いの責任境界を越えてサポートしあう関係性」を構築することが肝要である。

(小笠原正豊)

図 8-3  Model Element Table

Model Element Table縦軸に UniFormat に基づく建築部位、横軸 に LOD (Level of Detail/ Level of Development )・MEA (Model Element Author)・Notes の 3 種の情報をプロジェクトのフェーズごとに示す。

The BIM Forum (2017) LOD Specification 2017. Accessed July 18, 2018, https://bimforum.org/wp-content/uploads/2017/11/LOD-Spec-2017-Guide_2017-11-06-1.pdf

Ref: AIA G202-2013 Building Information Modeling Protocol Form

BIM データのマネジメントと作成プロセスのマネジメント

Summary発注者・設計者・施工者・運用者全てが BIM User として、直接的・間接的に BIM データにアクセスし BIM に関するデータを作成する。BIM Player は異なるステークホルダー間において BIMに関する情報をつなげる役割を果たす。

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BIM Pilot Project 1: 現場での普及度理解民間プロジェクトでの BIM トライアウト事例を、オープンに、また詳細に共有していくことは、セキュリティやオーナーとの調整等、容易なことではない。日建連(一般社団法人日本建設業連合会による「施工 BIM のスタイル」(2014、2016)、あるいは、JFMA による「ファシリティマネジャーのためのBIM 活用ガイドブック」においても、いくつかの抜粋された民間からの事例は掲載されているが、BIMROI →1の観点ほか、プロジェクト全体における BIM 活用がもたらす影響を把握するのは困難である。官庁工事の事例等をベースに具体的にどの程度成果が出ているか、俯瞰的な視点を持って BIM の普及に関して理解を進める必要があるが、コストの面からも官庁工事においての普及そのものにも依然と課題が残る。

BIM Pilot Project 2: つながりの構築個別の BIM 運用事例を追い出すと、設計・施工・運用に関して、それぞれの持分における事例は報告が見つかるが、設計と施工がつながった事例、施工と運用がつながった事例に関しては、つながることに焦点を当てて記述されている事例はまだ少ない。官庁による BIM の事例においても、設計時のシミュレーション、ゾーニング、施工時の干渉チェック等、個別のプロセスにおいての事例がしめされている。BIM をつなぐパイロットプロジェクトでは、具体的にどのような情報がつながりやすく、どのように相互調整を行う必要があるのか検討する必要があり、図2に示すようなつながりを記録していくことで、プロセス内での利用から、連携への焦点を持つことが必要とされる。→2

BIM Pilot Project 3: つながりの共有様々な主体の意見と知見の重ね合わせが実施できる「場所」と「時間」、すなわち、情報の体系的なフィードバックを目的としたテスト・フィールドが必要である。(図3)設計・施工・運用の部門ごとをつなぐためのナレッジを共有していくためにも、技術がもたらす可能性のつなぎ⽅を検討していく必要があり、つなぐこと自体を前提とした意見交換の⽅法が求められる。米国にみられるような、トップダウン&標準化アプローチによるつながりがそぐわないと考えられる国内産業においては、場所と時間を介した共有の基盤を持つことが、競争優位性をもつ技術コアの発展につながるとも考えられる。

(森下有)

図 9-1 先進技術・トライアウトの実行阻害要因

図 9-2 Pilot Project List

図 9-3 技術知のオープン化

BIM Pilot Project9 Summary各プロジェクトの経済的・時間的キャパシティや、契約、慣習、戦略等が複雑に関わりあっており、新しい技術の実験的運用が実施されることが安易ではない。異なる企業間、産業間での情報共有の困難さという観点からも、BIM 運用事例共有や、具体的な詳細に関わる情報共有の程度に歯止めがかかっている。

情報のフィードループを確立する

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コラム:2017 年度の研究会から

BIM パイロットプロジェクトとはBIM のパイロットプロジェクト ( 図 9-4) とは、BIM 本格導⼊前に、業務を想定した先行的な実証実験プロジェクトを行うこと。成功するには、①結果を意識する、②データを収集し分析する、③成功点および改善点の反映を繰り返す、ことが重要となる。

BIM に期待する改善点、物件の規模や種別、参加する BIM Player など、結果を意識して計画を行う。通常の物件以上に打ち合わせを細分化して頻繁に行う必要がある。データの収集や分析に焦点を当て、得られる知見を記録し、継続的な改善が必要だ。

BIM パイロットプロジェクトの例世界各国の行政やオーナーが主体となり、BIM の義務化に向けたパイロットプロジェクトが様々なレベルで進行中だ。( 図 9-5) BIMの発祥の地と言われる米国では、小さなパイロットプロジェクトを繰り返し積み上げることで、大きな成果を上げてきている。例えば、連邦施設では、既存建物を BIM 化した知見をルール化し、BIM 実行計画書の精度を上げながら、設計や運用に利用している。英国は、国家としての BIM レベルを定義、検証しながら、国際的な標準化を推進している。大規模な公共プロジェクトで実証実験を行いながら、小規模な民間プロジェクトでも活用できる「Digital Built Britain」構想実現に向け議論が深まっている。日本では、国交省官庁営繕部の

「BIM ガイドライン」に基づいたパイロットプロジェクトで、発注者が求める BIM の効果を的確にし、BIM 利用の事例を蓄積してきた。現在、「i-Construction」構想の建築分野への拡大のため、電子納品や運用の基準を改定や、BIM ガイドライン、パイロットプロジェクトが期待されている。

アジャイルな思考が必要BIM のパイロットプロジェクトには、ソフトウェア開発で実践されている「アジャイル」( 図 9-6) な思考が必要だ。大規模で長期間にわたるプロジェクトではなく、小規模で繰り返し実行が可能なタスクに分割し、成功体験を積み重ねることに価値を置く⼿法だ。パイロットプロジェクトは単発で終わるものではなく、連続性や継続性を重視し、得られた知見をデータ化して再活用することで、将来的なプロジェクト全てに反映させる取り組みだ。

これには、設計、施工、運用のフェーズや、意匠、構造、設備などの部門間をまたいだ、フロントローディング(全体最適)、コンカレント(並行処理)といった考え⽅とも共通する、ワークフローや組織の改革が不可⽋だ。そのためには、社会制度も含めた日本の建設システムにおける BIM 導⼊の目的、戦略的なビジョンの策定など、オーナーを中心とした業界横断の取り組みが急がれる。

McAuley, B., Hore, A. and West R. (2017) BICP Global BIM Study – Lessons for Ireland’ s BIM Programme, accessed July 18, 2018, https://arrow.dit.ie/cgi/viewcontent.cgi?article=1016&context=beschrecrep

Redshift by Autodesk: アジャイル製品開発 : 製造業界はテック業界から発想を得られるか , accessed July 18, 2018, https://www.autodesk.co.jp/redshift/agile-manufacturing

(濱地和雄)

図 9-4 BIM パイロットプロジェクトでは繰り返しが重要(Autodesk)

図 9-5 世界各国の BIM 義務化への状況

図 9- 6 従来の開発とアジャイル開発の違い

BIM 導入のアジャイル型パイロットプロジェクト

SummaryBIM パイロットプロジェクトを成功させるためには、BIM についての現場の理解を進めつつ、フェーズや部門間のつながりの構築と共有が欠かせない。本年は、さらに踏み込んで、具体的にパイロットプロジェクトを成功させるための、具体的な検討ポイントや実例、考え方について提言する。

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BIM Roadmap 1: 何をつくるかに関するロードマップ生産の対象のロードマップとしては、建物を運用するビジネスモデルが ICT により変化していくことを踏まえた、建物をつくる目的や前提とも考えうる用途、ビルディングタイプの今後をプロットし、何を作り、どのように運用するかという、社会的な視点を考察する必要がある。またそのためには、どのような情報が必要となってくるかも重要な観点となる。

BIM Roadmap 2:技術に関するロードマップ環境データ、エネルギーデータ、BIMライブラリーの情報(IoT、建築の物理的構成要素の情報)等、より多くのビルディングパラメターが、FM や運用データも含めてデジタルデータ化されていく中、これらのデータがいつ市場レベルでマスデータとして経済的な意味を持つようになるのか検討する必要がある。シミュレーション技術においては、ソフトウェアとしての演算技術の発展とともに、IoT を介したインプットデータのアベイラビリティを発展させていき、BIM につながるためのインターオペラビリティを確保していく必要がある。

今後、何が建築をかたちづくるパラメター・データになるのかを考慮する必要がある。

BIM Roadmap 3:組織と技能に関するロードマップロードマップは、理想論としての技術導⼊を、実践可能なプロセスに落とし込み、現場レベルでのプレイヤー⇒8の展開へとつながりを作る。ソフトウェア内で AI 等によるオートメーションされていく実務領域と、人がもたらす創造性が重要視される領域の認識を時間軸上で把握し、人材教育や⾼齢化の波長と合わせた BIM ロードマップを描く必要がある。

また、BIM 導⼊が到着点となることなく、BIM がデファクトとなった際、次にどのような技術的発展があり、そのためには今から何を作り込むべきなのか、考慮する必要がある。複合的なロードマップはこれらを論議する土台となる。産業を、より多くの主体の長く広い目で、外れながらも予想し続けることが重要である。

ロードマップは、完成した結果よりも、異なる観点と課題を持った主体が集まり、ロードマッピングを行う行為そのものが重要であり、将来像の比較認識をもつことにその意義がある。一度作り終わるものではなく、常に認識をアップデートしていくことが重要である。

http://bim-level2.org/en/about/

(森下有)

図 10-1 BIM ロードマップ

図 10-2 ロードマップ

図 10-3 ロードマップの同調

BIM Roadmap10 Summary技術の動向を時間軸上にプロットし、将来的な発展を思索していくには、技術そのもののみならず、適応の対象、それを可能にする情報、組織、環境、エネルギーのロードマップを同時に重ねた、お互いの専門分野間の将来像のフィードバックをふまえた視点の形成が必要となる。

変化の兆しと作りこみ

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コラム:2017 年度の研究会から

建築産業内データの構造化ロードマップAI によって社会の変革が予想される中、ビジネス領域においても既存の業務を革新しようとする取り組みが進められている。特に深層学習を中心とする新技術は、医療・製造業・金融など様々な分野でその有効性が確認され、データの大規模化や処理⾼速化によりさらなる応用が期待されている。

人⼿不足が深刻な建設産業においても、企画・設計・施工から運用に至る広範囲な領域で AI 活用への期待が⾼まっている。例えば BIM Player 間の連絡帳⇒8 や、意思決定の足跡とも言えるコメントデータ⇒6は、将来のプロジェクトにも再利用可能な知識として重要なものである。

現在の建築産業の情報化の状況を見渡すとインターオペラビリティの不在や、プラットフォームの⽋如、情報共有のインセンティブの⽋如など、情報の量が整わないといった課題がある。そのため AI によって建築産業の全体に渡る急激な変化が促されるというよりは、特定の業務領域の分析や判断の支援のために活用されるという道筋が示される(図 10-4)。

建築産業外からのデータ・アプローチ一⽅で建築産業の周辺分野では、自動運転やロボティクスの進展により AI を搭載した機器やサービスが広く社会に普及していくと考えられる。コンシューマ市場における情報の⾼度利用が進展する中で建物の利用者を考慮した情報化も加速し、屋内空間情報の基盤整備など建築産業に対する情報提供の要求も⾼まることが予想される。また IoT によるエネルギー・環境データの取得や FM 情報、運用スケジュール管理など様々なデータが利用目的に応じた文脈の中で必要不可⽋なものとして位置付けられる。こうした他産業への情報提供を考慮した情報の構造化の目的を積極的に示していくことで、BIM を中心とした建築産業内での情報生産がますます活性化する。また建築情報の相互利用に対する社会ニーズとのインセンティブが結びつくことによって、AI を含む情報プラットフォームの上で流通が促進されていくものと考えられる(図 10-5)。

今後、社会の多様な変化の中、構造化された建築情報であるBIM はユーザーが様々なコンテンツを生成し、流通させるためのインターフェイスになると予想され、そのような利用価値を提供し得る情報の作り込みを建築産業はロードマップとすべきである。

(井野昭夫)

図 10-5 建築産業の情報化ロードマップ

図 10-4 建築分野における AI 活用の研究テーマの例参考文献:建築構造の技術革新と人工知能特別研究会

建築の産業特性に着目した AI 活用の可能性

SummaryBIM による変化の道筋は、建築産業における情報の構造化とその周辺分野における将来的な発展について実現可能性と変革可能性の二つの観点から重ね見る必要がある。ここでは領域を越えて急速に進化する AI(人工知能)について取り上げ、建築産業への活用可能性について検討した。

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BIM(Building Information Modeling)コンピューター上に作成した 3 次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースを、建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューションと、それにより変化する建築の新しいワークフローを指す。

BIM 実行計画書BEP(BIM Execution Plan)とも言い、BIM を利用するプロジェクトにおいては不可⽋な取り決め。プロジェクトの関係者が情報の⼊⼒・確認・共有・管理をどのように実行するのかを事前に協議のうえ合意し、要件書として発行する。

BIM ライブラリーBIM パーツを集約し、BIM ユーザーにウェブ上で提供する、一般財団法人建築保全センターによる BIM パーツライブラリー

BIM PlayerBIM における、複雑で⾼度な情報マネジメントを実践する人材を指す。建築産業はプロジェクトの特性により様々なプロセスが存在するが、設計情報の状態を把握し、必要な繋がりを⾼める役割を担う。

BIM 連絡帳プロジェクトのフェーズごとに検討・決定された内容について、どのように BIM データに反映されているのかを多主体間で共有するための⼿段や取り決めを指す。例えば設計フェーズにおいては、基本設計段階で把握している性能上の要点を BIM モデル上に記述することで、実施設計段階での仕様決定を円滑に進めることができる。

本研究会における議論のとりまとめにあたり、定義を明確にしておきたい用語について、下記に簡単な説明をまとめた。BIMをとりまく議論を行ううえで参照すべき用語は他にも多々あるが、ここでは割愛をお許しいただきたい。

クリティカル・パスプロジェクトの複数工程を最短時間で完了するための作業経路を示したもの。クリティカル・パスが遅れると、プロジェクト自体の完了が遅れる事になるため進行状況の確認と管理が重要になる。

クリティカル・リンク設計情報をまとめ上げるにあたり、複数の専門セクションや工種の間で相互依存性の⾼い構成要素のつながりを指す。一⽅の要素に変更や情報の追加が起きた場合にはもう一⽅にも影響が大きいため、プロジェクトを管理する際に特に注意を払うべき対象。(Revit User Group Japan でBIM のワークフローに関する分析を行った際に提言された概念)

コンカレント・エンジニアリング主に製造業で用いられる概念で、製品開発のプロセスを構成する複数の工程を同時並行で進め、各部門間での情報共有や共同作業を行なうことで、開発期間の短縮やコストの削減を図る⼿法を指す。

フロントローディング設計初期の段階に負荷をかけ(ローディング)、作業を前倒しで進めることを指す。設計初期に 3 Dモデルと必要な属性情報の作り込みを行い、情報を活用した検討やシミュレーションを行うことで、設計品質を⾼めることが可能になる。

FM(Facility Management)日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)は、FM を「企業・団体等が保有又は使用する全施設資産及びそれらの利用環境を経営戦略的視点から総合的かつ統括的に企画、管理、活用する経営活動」と定義している。単なる建物の管理ではなく、経営的な視点から土地や建物、設備などの資産を事業に役⽴てる活動のこと。

用語集

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ECI: Early Contractor Involvement公共工事の⼊札契約⽅式の一つ。設計段階から施工者が参画して技術協⼒を実施し、施工法や仕様等を明確にし、確定した上で工事契約をする。

IPD: Integrated Project Delivery発注者、設計者、施工者、専門工事業者など、プロジェクトにかかわるステークホルダーが初期の段階から協⼒することによって、有効な意思決定を実現するための協業形態を指す。「日本における IPD の問題点」については、下記を参照されたい。

<http://news-sv.aij.or.jp/jyoho/s2/results.html>

GIS(Geographic Information System)地理的位置を⼿がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、⾼度な分析や迅速な判断を可能にする情報システムを指す。

LCD(Life Cycle Design)企画から解体に至るまでの建物のライフサイクル全体を見渡して計画すること。これまでは、ライフサイクルの各段階で求められる専門性が異なり主たるプレーヤーが変わるため、情報共有が限定的で部分最適に陥りがちであった。ライフサイクルを俯瞰的に見ることによって、専門性の違いを乗り越えた情報共有により全体最適を可能とする。

LOD(Level of Development / Detail)BIM モ デ ル の 詳 細 度 の こ と で、LOD100、LOD200 と表記される。詳細度とは形状や寸法の細かさおよび属性情報の内容をさし、数値が大きくなるほど詳細度があがる。LOD100 が計画図程度、LOD200 が基本設計図程度、LOD300 が実施設計図程度、LOD400 が施工図程度、LODが竣工図程度と言われているが、国内では統一された明確な定義が定められているわけではない。

LOA(Level of Accuracy)BIM モデルにおいて、実際の建物との誤差を表す指標で、現物の計測は 3D レーザースキャナー等による。

米国建築文書化協会(USIBD)では LOA10 ~ LOA50 を提唱している。

Non-CAD CAD Viewer2次元・3次元のオブジェクト情報を作り出すものをモデリングツールと総称している

一⽅ BIM ツールには情報を解析し、アウトプットとして積算情報や環境解析結果を算出する Non-CAD の部類にあるソリューションが存在する。

BIM のコミュニケーションに必要な伝達機能を備えたNon-CAD プ ロ ジ ェ ク ト レ ビ ュ ー ツ ー ル と し て Solibri Model Checker や Navisworks BIM/CIMArk が使われている。

最適に陥りがちであった。ライフサイクルを俯瞰的に見ることによって、専門性の違いを乗り越えた情報共有により全体最適を可能とする。

ROIBIM 導⼊に際しては、ソフトウェア・ハードウェアといった初期費用や、データ構築のマネジメントや操作⼊⼒などの人件費がかかりるが、こうした投資に対して、得られた効果・利益のことを指す。

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