business strategy - 日本郵船 strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「more than...

16
Business Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。 事業の当年度の業績については、 P.88 をご覧ください。 61 NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014

Upload: phungthuan

Post on 22-Mar-2018

215 views

Category:

Documents


1 download

TRANSCRIPT

Page 1: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

Business Strategy事業別成長戦略新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。

事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。

61NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014

Page 2: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

Focus 前中期経営計画で大きく成長した海洋事業

日本郵船グループが展開する海洋事業安定収益を生み出す事業基盤

現在、当社グループは、三井物産㈱、川崎汽船㈱、日本海洋掘削

㈱と共同でブラジル国営石油会社Petrobras社向けドリルシッ

プ1隻、またオランダの海洋開発大手SBM Offshore社や伊藤

忠商事㈱などとともにPetrobras社向けFPSO(浮体式海洋石

油・ガス生産貯蔵積出設備)1隻に出資しており、さらに、海底

油田上にあるFPSOから陸上貯蓄基地までピストン輸送する

シャトルタンカーの運航を手掛ける世界シェア2位のKnutsen

NYK Offshore Tankers(KNOT)社に対し50%の出資を行って

います。

 ドリルシップ“Etesco Takatsugu J”は、Petrobras社が用船

するドリルシップの中で最も高い稼働率を誇っています。

 FPSO事業では、2013年6月から原油生産を開始した

“FPSO Cidade de Paraty”に加え、新たにSBM Offshore社

や三菱商事㈱などとPetrobras社向けFPSOを2隻受注し、そ

れらは2015年末から順次用船契約が開始、原油生産に従事

する予定です。

 シャトルタンカー事業では、Ente Nazionale Idrocarburi社

(イタリア)向けに2隻、Repsol YPF社(スペイン)向け、Exxon-

Mobil Exploration and Production Norway社(ノルウェー)の

子会社向け、Repsol Sinopec Brasil社(ブラジル)向けに各1

隻ずつ長期用船契約を締結しています。さらに、2013年12月

には、2016年に竣工予定であるFSO(浮体式海洋石油・ガス

貯蔵積出設備)の建造および用船の契約を受注しました。

シャトルタンカー(北海)2011年10月 Ente Nazionale Idrocarburi社(イタリ

ア)と2隻の定期用船契約締結(10年)2011年12月 ExxonMobil Exploration and Produc-

tion Norway社(ノルウェー)の子会社と定期用船契約締結(10年)

ドリルシップ(ブラジル沖)2009年 6月 Etesco Drilling Services社(米国)に

共同出資2011年12月 “Etesco Takatsugu J”竣工2012年 4月 Petrobras社(ブラジル)向け用船サー

ビス開始(最長20年)

シャトルタンカー(ブラジル沖)2011年 8月 Repsol YPF社(スペイン)と定期用船

契約締結(5年)2013年 1月 Repsol Sinopec Brasil社(ブラジル)

と定期用船契約締結(10年)

探査・探鉱 域内輸送、パイプライン開発・掘削 精製・液化(LNG)・貯蔵生産設備の

建造・設置 輸送生産・貯蔵ガス会社・電力会社・石油化学会社

など

シャトルタンカー事業ドリルシップ FPSO事業FSO事業

上流 下流

海洋事業における当社グループ バリューチェーン

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014

Business S

trategy

62

Page 3: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

資金調達の多様化

海洋事業の収益力

オフショアビジネスの知見を蓄積

KNOT(ノルウェー)2010年12月 旧Knutsen Offshore Tankers社へ50%出資、社名を

Knutsen NYK Offshore Tankers(KNOT)社に2013年 4月 関連会社KNOT Offshore Partners社を設立、ニュー

ヨーク証券取引所へ新規上場

地球深部探査船「ちきゅう」(日本)2000年代 初めてのプロジェクト立ち

上げから関与

海洋地球研究船「みらい」(日本)1997年より 当社グループの㈱グロー

バルオーシャンディベロップメントが運航を受託

FSO(北海)2013年12月 Total E&P Norge社とFSOの

建造および定期用船契約締結(最長12年)

FPSO(ブラジル沖)2012年 4月 Petrobras社と用船・操業契約締結(最長20年)2013年 6月 “FPSO Cidade de Paraty”がブラジル沖で原油生産

開始2013年 7月 Petrobras社向けFPSO2隻を新たに共同受注

海底油田開発の活発化を受けて、FPSOは2020年までに新たに

約150隻が竣工する見通しです。それに伴うシャトルタンカー

の新規需要は約40~ 50隻と見込まれます。この需要を取り込

むには、計画的な新造船の発注が必要ですが、1隻当たりの船価

が高額であることから、安定的な資金調達が不可欠となります。

 このため、KNOTは出資により分社化したKNOT Offshore

Partners(KNOP)社を米国ニューヨーク証券取引所へ新規上

場させ、市場から今後の成長に必要な資金である約160億円

を調達しました。

 KNOPは5年以上の長期用船契約に投入されるシャトル

タンカーの保有・運航を担い、既存の4隻に加え、2014年中に

竣工予定の5隻についても、KNOTから譲り受ける予定です。

一方、KNOTは今後、中短期輸送、FSO事業、既存船を改造し

たケミカル圧入船事業を担うことになります。

海洋事業は、ドリルシップやFPSOの稼働が順調で、シャトル

タンカー事業の収支改善もあり、2013年度は黒字化を達成。

将来的には2020年度に経常利益100億円の計上を目指しま

すが、先述のFPSO2隻の新規契約も含め、新規参入を目指す

FSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)事業や、シャトルタン

カーの新規契約の獲得により目標を達成する考えです。

今回KNOTが新たに契約したFSO案件では、当社から船長、機

関長、技師をそれぞれ1名ずつ派遣し、プラントエンジニアの

設計・調達・建設(EPC)段階から関与することとしています。

また、新たに契約したFPSO2隻についても同様に技術者を派

遣する予定です。今後も人材育成の観点から、技術者派遣を

将来的には50名規模まで増やすことを考えています。

 洋上施設であるFPSOやFSOでは、海運会社が持つノウハウ

も大いに活かされます。また、海底から原油を汲み上げ、精製、

貯蔵し、積み出す、という一連の作業において、全体の仕組みを

知ることで、より深くプロジェクトに関わることができます。技

術者の派遣によって得たさまざまな知見やノウハウにより、将

来のビジネスに広がりがでることを期待しています。

FPSOの仕組み

生産設備 係留設備

係留索 係留索

パイプライン

貯蔵タンク

©JAMSTEC

協力:JAMSTEC

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014 63

Business S

trategy

Page 4: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

一般貨物輸送事業

定期船事業

既存の事業体の枠に留まらず、さまざまなソースにキャパシティを確保し、さ

まざまなソースから得たノウハウをグループのシナジーとして昇華させなが

ら、ますます多様化していく一般貨物輸送のニーズに対して、当社グループな

らではの多彩なメニューを用意します。取締役・常務経営委員一般貨物輸送本部長

丸山 英聡管掌:定期船事業/ターミナル関連事業/物流事業

前中期経営計画(2011年度~ 2013年度)の振り返り

当社は世界全体で約400万個のコンテナを取り扱っており、

1コンテナ当たりの運賃が100ドル下がると、収支は単純計算

で400億円ほど悪化します。実際には、2011年から2013年に

かけておよそ200ドル以上下落したので、収入単価減効果とい

う意味では800億円以上の減収効果があったことになります。

 そうした逆風下、2011年度は定期船事業で370億円の経常

損失を計上することとなりましたが、ライトアセット化とコスト

構造改革を推し進め、2012年度からは赤字幅が大きく縮小。

2013年度には経常損失を7億円に留め、着実に収支改善を果

たしてきました。

n 船隊のライトアセット化

船腹の需給ギャップが大きく、市況の影響を受けやすい定期

船事業では、このボラティリティをいかに抑えるかが大きな

課題でした。そこで取り組んできたのが、船隊のライトアセッ

ト化です。

 国際海運業界は長年にわたり、自社保有、用船を問わず、長

期保有の割合が大きかったため、市況の変化に即時の対応を

とることが難しく、需要が減少すると損失が拡大するという

構造的な課題がありました。しかし、昨今かなり柔軟な用船

マーケットも出現し、船腹の支配形態も旧来主力であった自

社保有のみならず、用船においても長短期の組み合わせと

いったポートフォリオが考えられるような環境になってきたよ

うに見えます。

 ライトアセット化とは、単なる船隊の合理化が目的ではあり

ません。貨物の取り扱いという点で、船社としての直接集貨に

加え、グループ内の物流会社の海上フォワーディングによる

集貨を組み合わせ、輸送ボリュームを拡大させてきました。必

ずしも自社保有スペースを持たなくとも輸送量をしっかりと

伸ばしていくことがライトアセット化の狙いです。その独自な

需給バランスは、結果として、輸送量を供給スペースで割った

消席率に反映されます。2011年度から2013年度までの数字

を見てみると、長期固定船隊は84隻から74隻へ10隻減りまし

たが、供給スペースと輸送量は伸長しており、消席率も改善傾

向にあります。

コンテナ船船隊規模 (年度)

2011 2012 2013 2014(予想)

運航隻数(隻) 99 92 99* 95

 うち、長期固定船隊(隻) 84 76 74* 70

アジア→北米 輸送量(千TEU) スペース(千TEU) 消席率(%)

650 624 663 696

802 759 787 826

81% 82% 84% 84%

アジア→欧州 輸送量(千TEU) スペース(千TEU) 消席率(%)

500 508 512 559

580 557 560 595

86% 91% 91% 94%

* 「More Than Shipping 2018」策定時

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014

Business S

trategy

64

Page 5: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

WIR(Weekly Inventory Report)

n コスト削減

ライトアセット化を進める一方で、固定費と変動費の両面でコ

スト削減に注力してきました。定期船事業のみで毎年200億

円以上のコスト削減を実現しています。

 固定費において占める割合が大きい燃料費の削減に向け、

減速航海を通じて燃料消費量を低減させる活動を展開してき

ました。それが、最適経済運航プロジェクト「IBISプロジェク

ト」です。

最適経済運航プロジェクト「IBISプロジェクト」

IBISの仕組みについては、P.42をご覧ください。

2012年より取り組んできたこのプロジェクトでは、まず燃料消

費量を低く抑えることを重視したサービスの作り込みから始

まりました。お客さまからご理解いただくことが前提ですが、

サービス内容が決まれば、運航速度も決まるため、燃料消費

量は計画的に管理することができます。次に取り組んだのが、

日常業務における燃料費節減活動です。コンテナ船にブロー

ドバンドや運航モニタリングシステムを導入し、気象・海象を

はじめ運航に関する一連のデータを本船側と陸上間でリア

ルタイムに共有。状況に応じて最適なルートや速度を選択す

ることで、ムダな燃料を消費しない省エネ運航を実現してい

ます。

 この IBISという固定費削減プロジェクトに対して、貨物量に

比例する変動費については、コンテナ単位で収支の最適化を

図る「EAGLEプロジェクト」に取り組んできました。

イールドマネジメント「EAGLEプロジェクト」

予想される空コンテナの転送コストも踏まえたうえで、コンテ

ナ1本1本のラウンド(往復)の採算性を追求する取り組みで

す。これを実現するためには、発着地間で現場の担当者同士

の緊密な連携が不可欠です。

 そのため、輸出営業、輸入営業、コスト管理などの縦割り組

織にありがちな自部門の目標達成だけを考えるようなサイロ

を取り払い、意識改革を進めてきました。コンテナの動きを細

かく管理するITインフラを整備したのはもちろん、事務局をは

じめ、直接・間接にプロジェクトを牽引した関係者の努力もあ

り、着実に数値を伴った成果が表れています。

EAGLEプロジェクト

貨物を積んだコンテナの輸送実績と本船への積み込み予定から、世界各地の将来のコンテナ需要・返却予測を策定

1と2で得られる将来の在庫推移状況を基に、最適な空コンテナ輸送計画を策定

空コンテナの輸送実績と世界各地の空コンテナ在庫情報をシステムから取得し、オペレーション現場からは最新の空コンテナ輸送予定を取得。これにより、将来の在庫推移状況を把握

コンテナ需要・返却予測

空コンテナ輸送予定

最適な空コンテナ輸送計画

定航基幹システム「OSCAR」1. EAGLE Cargo Plan System

3. EAGLE Optimization

2. EAGLE Inventory Plan System

稼働中

稼働中

今後導入

WIR Viewer

コンテナの動きを地図上に表示

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014 65

Business S

trategy

Page 6: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

新中期経営計画における事業方針

n 事業方針

向こう5年間の運賃市況は横ばいか、若干下がると想定してい

ます。コンテナ貨物の荷動きはアジアを中心に堅調に推移す

ると見ていますが、北米や欧州に向かう東西航路では、今後、

大型新造船が次々に投入される予定で、供給圧力は依然とし

て高いと言わざるを得ません。さらに、その影響で、押し出さ

れる格好となる船舶がアジア域内に配船される可能性もあ

り、堅調な需要を大幅な供給が上回ってしまうことを懸念して

います。当社もコスト競争力を高めるべく、2016年に1万

4,000個型の新造コンテナ船を欧州航路に投入しますが、一

方で、これまで通り、ライトアセット化を継続します。そのため

には往復航で片寄りなく貨物を取り込むことが不可欠であ

り、北米で大きな成果を出した「EAGLEプロジェクト」を、次

は欧州やアジア域内で展開していきたいと考えています。

n 船隊ポートフォリオ

新中期経営計画では、「3C5M」という名の下、コア船隊、短期

用船と海上フォワーディングという異なるスペース供給形態

を組み合わせることで、市況に対する柔軟性と事業の安定性

を確保する方針を再確認しました。

 3C5Mの5Mとは500万TEUのコンテナ輸送のことです。こ

の5Mを前提とした場合、大きな意味でのコンテナ貨物輸送全

体(Container Common Carrier) において、3C、つまりNVOCC

(Non-Vessel-Operating Common Carrier)、FVOCC(Flexi-

ble-Vessel-Operating Common Carrier)、SVOCC(Stable-

Vessel-Operating Common Carrier)という供給スペースの調

達手段をポートフォリオとして考えようということです。

 新中計では、目標とする積高をNVOCCで100万TEU、

FVOCCで100万TEU、SVOCCで300万TEUとしました。市況

に対する柔軟性と、事業の安定性を分けて考えると、市況が急

速に悪化しても対応しやすいNVOCCやFVOCCで200万TEU、

安定的なSVOCCで300万TEUです。比率は4:6となり、この

バランスにより、取り巻く環境が変わった時に素早く動け、よ

り安定した収益が期待できます。現在、SVOCCでの積高は約

350万TEUと、目標を超えており、NVOCCとFVOCCにできる

限り早く振り向けていきたいと考えています。

一般貨物輸送事業

3C5M

日本郵船グループのコンテナ輸送全体としての積高目標

5,000,000 TEU

■ 3C5Mについて 3つの輸送モードを通じて、5百万TEUのコンテナ貨物の輸送を目指すことを表しています。 ・3C:NVOCC、FVOCC、SVOCC ・5M:5 Million TEU

ライトアセット

NVOCC(Non-Vessel-Operating Common Carrier)

積高目標: 1,000,000 TEU 日本発着以外の輸送需要も含め、今後も対応を強化する領域

FVOCC(Flexible-Vessel-Operating Common Carrier)

積高目標:1,000,000 TEU 陳腐化リスクの高い、コモディティ化したスペックのアセットは短期で保有

コアアセット

SVOCC (Stable-Vessel-Operating Common Carrier)

積高目標:3,000,000 TEU いかなる状況においても必要と見込まれるアセットのみを長期保有

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014

Business S

trategy

66

Page 7: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

Q 2014年度の業績見通しを教えてください。A 定期船事業とターミナル関連事業を合計して

黒字化を目指します

異なるハードルでの3つのシナリオを描いています。一つ目

は定期船、ターミナル、物流を合わせて黒字化。これは予想

を遥かに上回るような最悪な環境でも死守すべきだという

デッドラインですが、現時点では、そのような状況は想定し

ていません。二つ目は定期船とターミナルでの黒字化で、

現時点では25億円の経常利益を見込んでいます。三つ目は

定期船だけで黒字化というシナリオですが、これは経済性

に優れた1万4,000個型コンテナ船が投入される2016年度

以降に見込むのが現実的な見方であり、本年度においては

二つ目のシナリオの実現を目指していく考えです。

Q さらなるコスト削減の余地はありますか。A あると思いますが、大事なのは継続であり、

後退しないことです。

減速航海はすでに日常業務の一つになっています。マニュ

アルも整い、運航費を適正な水準に維持できる体制も整い

ましたが、これで満足せず、後退だけは絶対にしないよう、

決して、手を緩めないことが大事だと社内で言い続けてい

ます。

Q 長期的な課題を教えてください。A 一般消費財の地産地消の影響を注視しています。

世界の荷動きは今後もアジアを中心に伸びていくのは間

違いありませんが、地産地消化に伴い、将来的に海上輸送

距離が徐々に短くなっていく傾向があります。例えば、欧州

に近いインドやアラブ諸国、北米に近いメキシコやジャマ

イカからの輸出が大きく増えてくると、状況は一変します。

消費地までのニアソース化が進展すれば、これまでは既定

路線のように思えた船舶の大型化も、その効果を再検討さ

れる時期が来るかもしれません。新中計期間中にこうした

動きが急速に進むとは見ていませんが、楽観視はせず、慎

重に動向を見極めていきたいと考えています。

ターミナル関連事業

新中期経営計画における事業方針

今後も定期船事業とのシナジー効果を追求していきます。投

資先としてベトナムやインドネシアなどアジア地域の港に注

目していますが、これまで同様、ターミナルを使用するユー

ザーとしての視点から、貨物需要とターミナルの価値を見極

めながら、慎重に判断するという姿勢に変わりはありません。

ターミナル事業は、取扱数量に応じて、安定的にキャッシュ・

フローを得ることができます。定期船事業で目指す積高500

万TEUは、その多くを当社のターミナルで取り扱うことになる

ため、組み合わせて考えれば、ボラティリティを抑制させるこ

とにもつながります。そうした狙いもあって、2013年度から

ターミナル関連事業を定期船事業に含めて業績を開示するこ

ととしました。

 また、昨今、船型の大型化と配船の効率化の観点からハブ

&スポーク型の運航が広まりつつあります。船型の大型化や

ハブ&スポークのような配船形態の変化によって定期船事業

の採算は大きく変わりますが、ターミナル事業は、大型船の直

行便でも小型船のフィーダーでも、取扱量さえ確保できれば

安定的に運営できる事業です。業績変動リスクのある定期船

事業をより安定させる重要なビジネスモデルとして、着実に

取扱数量を伸ばしていく考えです。

ハブ&スポーク 中継拠点となる港に荷物を集結させてから販売国へと輸送する体制。従来の生産国と販売国間の単線的な輸送に比べ、効率良く輸送することができる

定期船事業FAQ

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014 67

Business S

trategy

Page 8: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

物流事業

前中期経営計画(2011年度~ 2013年度)の振り返り

n 業界でのプレゼンス向上

世界の航空貨物が低迷し、当社グループの航空フォワー

ディング事業における取扱量は目標の50万トンに対し、19万

トン下回る31万トンに留まりました。一方、海上フォワー

ディング事業も、貨物取扱量は目標の100万TEUに対して57

万TEUとなりましたが、競合他社が苦戦する中、この3年間で

約30%伸ばすことができました。航空、海上ともにフォワー

ダーとしての存在感は確実に高まっています。スペースを仕入

れる購買力もついてきたことで、今まで取引のなかった船会

社やお客さまとも、新たに関係を築くことができました。さら

に、コントラクト・ロジスティクスも引き合いが増えており、サ

プライチェーン全体で物流を手掛けるような案件を受注する

など、ビジネスの裾野は広がっています。

新中期経営計画における事業方針

n プレゼンスのさらなる強化

当社グループの物流事業の中核会社である郵船ロジスティク

ス㈱では、2016年度を最終年度とする3カ年の中期経営計画

に取り組んでいます。海上貨物85万TEU、航空貨物37万トン、

営業収益5,000億円、営業利益120億円を目指す計画です。海

上貨物については、利益率を重視しつつ、100万TEUの早期達

成を目指します。

n 技術力で差別化を

新中期経営計画の副題にもある「技術力」をコントラクト・ロ

ジスティクスで活かし、さらなる差別化を図ります。例えば、中

国などの複数の製品メーカーの工場、または拠点からさまざ

まな商品を集荷し、欧米などの小売会社の倉庫へ輸送し、販売

状況に応じて仕分けし、販売店舗や拠点に効率よく配送する

案件では、集荷と仕分け、店舗向け配送のそれぞれのステージ

で各プロセスを高度にシステム化することが求められます。こ

こに、これまで培った経験と、それを支える「技術力」を発揮す

るチャンスがあると見ています。

 また、消費者のニーズはめまぐるしく変化するため、モノの

動きもそれに合わせて柔軟に対応していく必要があります。

最終消費者のニーズをいち早く察知し、ニーズに合った高品

質かつユニークなサービスを提供できるかが勝負の分かれ目

となります。その意味では、いろいろな分野、地域に数多くの

アンテナを保有し、感度よく情報を収集していくことが不可欠

です。コントラクト・ロジスティクスのみならず、消費財の物流

に携わる分野では、こういった最終消費者の動向をリアルタイ

ムに把握する必要があり、そこで得られる生きた情報は当社

グループのシナジーを発揮する上で、極めて重要です。

 これらの情報を足掛かりに海上輸送の案件につなげるな

ど、船会社出身ならではのユニークな総合物流会社として、独

自の発展を目指したいと考えています。

一般貨物輸送事業

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014

Business S

trategy

68

Page 9: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

航空運送事業

8機の新型機B747-8Fが、2014年度に予定通り揃います。その優れた積載

能力を最大限発揮し、導入メリットを最大限に活かしたビジネスを展開する

方針です。

取締役・経営委員貨物航空事業グループ長

大鹿 仁史

前中期経営計画(2011年度~ 2013年度)の振り返り

n 事業環境と業績

リーマン・ショック後、急速に縮小した航空貨物市場は一向に

回復の兆しを見せず、特に、日本発着の航空貨物の荷動きは

想定以上に低迷しました。足元ではようやく底打ち感が出て

きましたが、依然として過去最低の水準で推移しています。

 日本出しの貨物の割合は、2010年度と比べ、北米向けで5

割から3割に、欧州向けでは8割から5割と減少しました。日本

を主要拠点とする日本貨物航空㈱(NCA)は、この3年間苦戦

を強いられましたが、アジア出しの貨物の割合が増えており、

アジアを中心とした成長市場の貨物を着実に取り込むことが

できました。これは、日本市場で圧倒的な強みを持つNCAに

アジアでの営業力がついてきたことを意味しており、今後もさ

らなる成長を期待しています。

 また、NCAでは、ここ数年間、徹底的なコスト削減にも取り

組んできました。元々、部門間の垣根が低く情報を共有しやす

い社内風土があり、社内にはコスト改善の意識が既に根付い

ていました。世界でもトップクラスのコスト競争力を有してい

ると自負しています。

n ビジネスモデルの変革

定期便以外の収入源も確保すべく、チャーター便の増加や他の

航空会社向けの新しいサービス作りにも取り組んできました。

 一般的にチャーター便は要請を受けた後、サービスを開始

するまで2~ 3週間程を要しますが、NCAでは最短4日で対応

したこともありました。こうした実績が評価され、今では同様

の案件があった場合、お客さまから必ず声がかかるようにな

りました。この他にも単なる機材の貸し出しではなく運航ま

でを引き受けるサービスを国内航空会社向けに提供するエア

ラインチャーターを本邦で初めて手がけました。

 また、既存ネットワークの拡充にも取り組み、新たに北米-

ドイツ間を結ぶ定期便を開設しました。これまで、日本から北

米向けは帰路の貨物が少なく、北米へ向かった機材は積載ス

ペースに空きを抱えて戻り、一方、欧州から日本向けの荷量は

多いにもかかわらず、全量積みきれずに機材を戻すなど、何か

と非効率な機材繰りを強いられていました。今回就航させた

北米-ドイツ便では、日本から北米へ貨物を輸送した後、その

まま北米から欧州へ向かわせ、欧州から日本へ貨物を運ぶと

いう、効率的な機材繰りが可能となりました。

新中期経営計画における事業方針

n 新型機を中心とした成長戦略

順次導入を進めてきた8機の新型機B747-8Fが、2014年度に

予定通り揃います。 

 これまでの新型機と旧型機が併存している状況では、どう

しても積載能力の劣る旧型機を基準に営業しなくてはなりま

せんでした。しかし、すべて新型機に置き換わることで、その

優れた積載能力を最大限発揮し、導入メリットを最大限に活

かしたビジネスを展開する方針です。

 また、チャーター便を増やすために、主要空港以外の空港で

も適切な貨物のハンドリングが行えるように、その能力やノウ

ハウをキャリアみずからとして蓄積していきたいと思います。

プロフェッショナルなサービスを磨き続け、お客さまに評価し

ていただくことが事業収益の源泉だと考えています。

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014 69

Business S

trategy

Page 10: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

ドライバルク輸送事業

2016年以降に不透明感が増してくる市況動向に備え、収入サイドの契約期

間と船隊サイドのミスマッチを早期に解消させ、市況の変動に左右されにく

いビジネスモデルの確立を目指します。

取締役・常務経営委員ドライバルク輸送本部長

左光 真啓

前中期経営計画(2011年度~ 2013年度)の振り返り

n 黒字化に目途

これまでは、中国の粗鋼生産が年10億トンまで伸びると想定

し、ケープサイズを中心に船隊整備を進めました。ところが、

その粗鋼生産は2013年も8億トン弱に留まり、輸送需要も思

うように伸びず、多くの余剰船腹を抱えてしまいました。

 前中計最大の課題は、営業強化によりこの需給ギャップを

少しでも埋めることでした。特に注力したのが長期契約の積

み上げです。会社全体では、2013年度に800億円と計画してい

た安定収益が1,100億円まで積み上げることができましたが、

ドライバルク部門もその積み上げに大きく寄与しました。

 同時に船隊の合理化にも着手し、適正な船隊規模を目指し

て、高コスト船の早期返船や売却処分を実施してきました。運

航面でも、減速航海を船隊の7割を占める用船まで広げたほ

か、契約ポートフォリオの見直しや配船の工夫により、バラス

ト航海を削減するなど、営業部門と運航部門が一体となって

取り組んだ結果、2014年度の黒字化に目途がつきました。

n NYKバルク・プロジェクト貨物輸送

旧日之出郵船(日之出)と旧NYKグローバルバルク(NGB)が

統合し、2013年10月にNYKバルク・プロジェクト貨物輸送㈱

が発足しました。旧日之出は鋼材やプラント貨物、旧NGBは

バルク貨物の輸送に強い会社ですが、それぞれバラスト航海

が多いという課題がありました。統合により、旧NGBのバル

カーに旧日之出の貨物を組み合わせ、バルカーの稼働率向上

に取り組んでいます。またこの動きを加速させるために、新造

船の建造にあたってはバルカーのタンクトップ強度を高め、鋼

材やプラント貨物を積み取るのにより適した設備を整え、一

層の収支向上を図っていきます。

バラスト航海 貨物を積んでいない状態で航海すること タンクトップ 貨物倉(カーゴホールド)の床面を構成している部分

新中期経営計画の事業方針

n 市況動向

ケープサイズは2010年から2012年にわたり、年間200隻以上も

の新造船が竣工しました。しかし、2013年に入ると竣工数は約

100隻と半減し、数年ぶりに輸送需要の伸びが船腹供給の伸び

を上回りました。2014年、2015年も同程度の新造船の竣工が

予測されており、船腹供給の伸びは4%程度となる見通しです。

 需要面では、引き続き中国の動向を注視しています。中国で

は老朽化した住宅の更新や鉄道網の拡充などインフラ整備を

中心とした構造改革を進める方針を掲げており、6~7%程度の

経済成長が期待され、その場合、粗鋼生産は3~ 5%程度伸び

る見込みです。さらに、環境への配慮から、鉄含有率が少なく品

質の劣る中国産鉄鉱石の利用が制限されるうえ、資源会社の増

産や輸入鉄鉱石のコスト競争力の向上もあり、国産の鉄鉱石か

ら輸入鉄鉱石への代替が加速しそうです。こうしたことから、中

国向け輸送需要は最大10%近く伸びる可能性もあります。

 一方でこれまでに竣工した新造船が多いため、いまだ相応

の供給過多を引きずっていますが、需給は2014年後半には健

全な水準に収まると見ています。

 ただし、2016年以降は注意が必要です。投機筋による発注

残が積み上がっているためです。2013年には株式市場から

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014

Business S

trategy

70

Page 11: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

100億ドルもの資金が海運業へ流れ込み、その多くがドライバ

ルカーに投資されました。市況が高騰し、過剰投資が進んだ

2007年と同水準です。2016年以降の市況動向に不透明感が

強まる中、今のうちから備えておくことが、新中計最大の課題

となります。

n 市況耐性のあるビジネスモデル確立

これまで、コストが高く、保有・用船期間が長い固定船隊に見

合った貨物の長期契約が十分につかないことが、赤字をもた

らす最大の原因でした。これは、収入サイドの契約期間と船隊

サイドのミスマッチにより生じていました。新中計では、この

不均衡を解消させ、市況の変動に左右されにくいビジネスモ

デルの確立を目指します。

 収入が長期で固定されている契約に対しては、長期でコス

トが固定している船隊を充当し、短期のスポット契約に対して

は、短期用船を充当します。用船期間が短ければ、市況が低迷

しても早期に返船できるため、収益への影響を最小限に留め

ることができます。現状では、長期固定船隊の比率が依然高い

ため、当面は調整局面となりますが、2015年度中には高コス

ト船の返船に目途がつくため、2016年以降、バランスが取れて

くると見ています。

n 船隊整備と投資方針

船隊規模はいまだ過剰であり、規模拡大目的の投資は考えて

いません。一方、競争力向上のため、既存船から省エネ性能に

優れた新造船への更新投資は積極的に行います。新中計では

当部門で許容されている投資枠が限られるため、実施の際に

は、船主やファンドなどの力を借りて、進めていく考えです。

 ケープサイズでは、先行発注はしませんが、もし新造船を伴

う長期契約が出てくれば発注を検討します。隻数は、現在の

126隻から2018年度末までに100隻へ絞る計画ですが、想定

される契約数に見合った規模が100隻ということであり、契約

が増えれば、船隊規模もそれに合わせて対応します。

n 技術力でマーケット+αの収益を目指す

契約と船隊をマッチさせることは、市況が悪化した時のリスク

マネジメントの意味合いから大事だと考えます。一方で、利益を

創出するには、可能な限りの施策を取ることが重要です。減速

航海などの最適経済運航やバラスト航海を減らす効率配船は

今後も継続しますが、新中計の副題にある通り、「技術力」を活

かしてマーケット+αの収益を目指します。省エネ機器の搭載な

どハード面のみならず、ソフト面でデータを分析する力を磨き、

短中期的な市況予測の精度を上げ、収益の最大化を図ります。

ドライバルク荷動き量・船腹量伸び率推移(%)

ドライバルク荷動き伸び率  ドライバルカー船腹量伸び率出典:Clarkson Dry Bulk Trade Outlook (March, 2013)

08 09 10 11 12 14(予想)

13(予想)

–5

0

5

10

15

20

市況に左右されにくいビジネスモデルへ

長期安定契約 長期安定契約

中期・短期契約 中期・短期契約

長期固定船隊 長期固定船隊

市況・トレードパターンの変化に対して硬直的

市況変動の影響を受けにくい

中期・短期用船

中期・短期用船

ギャップあり。負債サイドのロングポジション

現状 修正後

利益

利益

収入・資産の価値

損失

費用・負債の価値

Q ビジネスチャンスをどう捉えていますか。A 石炭に注目しています。

日本では、原子力発電に変わる電源として、新規石炭火

力プロジェクトが多数計画されており、石炭の輸送需要

は間違いなく増えそうです。また、電力発電源の75%を

石炭が占めるインドでは、経済発展に合わせ、2014年度

も10%以上の輸送需要の拡大が見込まれており、イン

ドの石炭需要はますます伸びると見ています。

ドライバルク輸送事業FAQ

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014 71

Business S

trategy

Page 12: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

エネルギー輸送事業

タンカーは船舶の保有形態を工夫しつつ、将来のビジネスモデルを模索して

いきます。LNG船は量の追求より品質を重視します。海洋事業はプロジェク

トへの人材派遣を通じ、まずはこれまで知り得なかった知見をしっかりと蓄

積します。代表取締役・専務経営委員不定期専用船戦略会議議長

エネルギー輸送本部長

長澤 仁志

前中期経営計画(2011年度~ 2013年度)の振り返り

n タンカー部門

この3年間は、原油輸送事業にとって、極めて厳しい環境でし

た。特に日本は、少子高齢化や人口減、都市部での車離れと

いった構造的な問題によって石油需要は減少傾向にあり、日

本向け輸送が主力である当部門にとっては、我慢の時期とな

りました。

 そうした中、フリー船を減らし、需要に合わせて船隊を調整

する一方、前中計の方針に基づき、アジア向け長期契約の積み

上げに注力しました。その結果、タイ石油精製企業のThai Oil

社向けに計3隻のVLCC(Very Large Crude Oil Carrier)を長

期用船として投入することができました。東南アジア諸国で拡

大している石油需要を捉えた成功事例であったと思います。

n LNG輸送部門

石油から天然ガスへの燃料転換が進む中、シェール革命も加

わり、LNG輸送の需要は大きく伸長しました。北米でシェー

ルガス・オイルに関する新規プロジェクトが次々と立ち上がっ

たことで、さまざまな商談が寄せられ、今後5年間に輸送を開

始する長期契約を積み上げることができました。

 また、海運会社として初めてLNGの上中流権益に進出しま

した。それは2016年末に生産開始予定の豪州ウィートス

トーンLNGプロジェクトへの出資と、2017年後半に生産開始

予定の米国キャメロンLNGプロジェクトへの参画意思の表明

です。単に権益を取得するにとどまらず、生産されるLNG輸送

を請け負うなど、本業とのシナジー効果が見込めます。また、

プロジェクトに当社の人材を派遣する機会を得ることで、こ

れまで知り得なかった知見を蓄積でき、新たな商機につなが

るものと期待しています。

n 厳しさの増す品質管理要求

LNG輸送需要が高まる一方、船員の乗船履歴が細かくチェッ

クされるなど、お客さまからの品質管理要求も年々厳しくなっ

てきています。相応の経験と高度な操船技術を持つ船員の育

成には時間がかかりますが、当社はフィリピンの商船大学を

はじめ、シンガポールのトレーニングセンター、船舶管理会

社、2隻のCADET(船舶職員候補生)訓練船など、自前で人材

育成の仕組みを持つことが大きな強みとなっています。これ

は原油輸送も同じですが、安全運航の観点から、自社で育て

た信頼できる優秀な船員を配乗し、「日本郵船」の責任の下、

運航しており、こうした取り組みはお客さまからも高い評価を

いただいています。

新中期経営計画における事業方針

n タンカー部門

原油輸送の需要の伸びは残念ながら当面期待できません。各

社、新造船の発注を抑えているものの、需給が均衡するまでに

は時間を要すると見ています。また、かかる市況低迷下におい

ても投機筋による新造船の発注があり、大変気がかりです。

 発注残が積み上がっている中、規模拡大目的の投資は控え

ざるを得ません。また、安定収益が見込めない限り、更新投資

もできないので、長期契約が付かなければ新造船の発注は難

しいと考えています。これらの点をお客さまにもご理解いた

だきながら、船舶の保有形態の検討およびThai Oil社へ展開し

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014

Business S

trategy

72

Page 13: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

ている長期用船の事例などを踏まえつつ、将来のビジネスモ

デルを模索していきたいと思います。

n LNG輸送部門

現在2億4,000万トンある世界のLNG需要は、2025年には4億

5,000万トンと約2倍の規模になると予測されています。LNG

船の隻数も、370隻から2025年には650隻に増大する見通し

です。当社では、LNG船を現在の67隻から2018年度末に100

隻+αとする計画を掲げています。これは確実に達成できる

目標であると認識しています。徒らに数を求めることはせず、

サービス品質を維持しながら積み上げいくことが重要です。

 上中流権益への参画については、契約の安定性、信頼性を

重視し、投資だけでなく輸送など本業とのシナジー効果が見

込めるようであれば、今後も前向きに検討します。

n 技術力を商機に

油・ガス田開発プロジェクトでは、新たな港湾設備の建設を必

要とするケースがあります。この場合、海事コンサルティング

を専門とするグループ会社の㈱日本海洋科学の協力を得て、

安全や効率の面で優れた港湾設備の提案を行っています。

タンカーやLNG船に数多く従事した知見に基づくこうした提

案は、お客さまからも高く評価いただいています。

 「技術力」による差別化を志向する新中期経営計画からも、

こうした動きは今後ますます増えてくると思います。

n 海洋事業とのシナジー追求 海洋事業については、P.62の[Focus]をご覧ください。

未開拓の天然ガス田は世界に多数存在しており、洋上でLNG

を精製、積出する傾向が今後進んだ場合には、LNG版のFPSO

(FLNG)やFSRUの需要が増大すると見ています。現在、FLNG

は豪州で12件、東南アジアで5件、その他も併せて計29件が計

画中で、うち2つのプロジェクトでは実際にFLNGが建造段階

にあります。これに対し、当社が長年培ってきたLNG輸送に関

する技術・知見・ノウハウに、現在、海洋事業で蓄積しつつあ

るオフショアビジネスに関するそれを組み合わせれば、確度の

高い事業展開が可能になります。FPSOやFSOでEPCへ人材

派遣するのも、こうした狙いがあってのことです。

 LNG船事業を「虎」とすれば、海洋事業はまだ「張り子の虎」

です。そのLNG船事業も、事業を開始した1980年ごろは、現在

の海洋事業と同様に「張り子の虎」でした。それが、知見・ノウ

ハウを積むことで実力がつき、「虎」となりました。海洋事業も

「虎」を目指すことで、将来の選択肢が広がってくると思います。

M&Aにしても、海洋事業をさらに発展させるために必要な企

業・ビジネスが見えるようになるはずです。

Q さらなる差別化に向けた取り組みを

教えてください。

A セーフティ・ミッションステートメントを

導入しました。

 エネルギー輸送部門では全船を対象に安全面のミッ

ションステートメントを作成しています。かつて石油メ

ジャーで品質管理に長年従事し、現在

は当社で活躍する人材からのアイデア

が基になっています。グループ内にお

ける安全意識のさらなる浸透と、お客

さまへの輸送品質サービスのアピール

という2つの効果を期待しています。

エネルギー輸送事業FAQ

SAFETY FIRST!

Strong values and ethics support our mission to be the partner of choice for the transportation of our customer’s liquid products

Aligned and focussed operations ensure added value to the transportation chain

Focus on safe and environmentally friendly operations ensures we are at the forefront of the value chain

Empowered employees always strive for excellence in everything we do

Through our people we deliver goods and services that meet our customers’ expectations

Years of experience plus integrity, innovation, and intensity provides our customers with world class performance

NYK―Your Partner of Choice

First choice In Reliable and Safe Transportation of liquid products

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014 73

Business S

trategy

Page 14: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

自動車輸送事業

戦略的に拠点を増やし、お客さまのニーズに対応できる体制を整えてきまし

た。今後さらに拠点を充実・最適化していくことで、点と点を結ぶだけではな

く、線と線、さらには包括的に「面」といった次元で、お客さまの期待に応え

ていきたいと考えています。

代表取締役・専務経営委員自動車輸送本部長

力石 晃一

前中期経営計画(2011年度~ 2013年度)の振り返り

n 船隊ポートフォリオの適正化

この3年間、中国やインドなど一部の自動車市場は拡大したも

のの、リーマン・ショックの影響を受け、世界的に自動車生産・

販売台数は低迷し、さらに東日本大震災、タイの大洪水といっ

た影響と円高進行や燃料油価格の高騰が追い打ちをかける

など、逆風の連続でした。

 こうした中、喫緊の課題として取り組んだのが、船隊ポート

フォリオの適正化です。リーマン・ショック前に発注していた

高品質の大型新造船の竣工に合わせ、老齢船を中心に22隻

を処分しました。ただ、処分となると、船隊規模を柔軟に調整

する余地がなくなるため、当初はできる限り係船で対応しよ

うと考えていましたが、環境の改善が見通せなかったため、思

い切って処分することを決めました。2008年12月に125隻

あった船隊を2011年4月時点では116隻まで絞り込み、さらに

新造船の発注を控え、適正な規模を維持してきました。なお、

新造船の発注については更新投資を含め、現在は再開してお

り、2014年に4隻、2015年に2隻が竣工する予定です。いずれ

も次世代の競争力ある7,000台積み自動車船であり、今後の

標準船型と位置づけています。

n 自動車産業の構造変化にしっかり対応

円高や東日本大震災の影響により、国内自動車メーカーの海

外生産化が進みました。さらに地産地消の動きも加速してお

り、世界の自動車生産台数は2008年から2013年にかけて

6,700万台から8,200万台へと1,500万台増えながらも、日本

からの輸出台数は、520万台から減少し、現在は400万台前半

で推移し、当社の日本出しの輸送実績も同様の傾向を辿りま

した。

 一方で三国間輸送に目を向けると、グローバルには生産・

販売台数が増加しているため、これに伴い海上の荷動きは増

えています。当社の2008年から2013年にかけての三国間輸送

実績はおよそ1.5倍に拡大し、当社全体の輸送実績も、326万

台から2013年は360万台まで回復させることができました。

全体に占める三国間輸送の割合は、大きく増えており、自動車

輸送の環境変化にしっかり対応できたと自負しています。

世界の自動車荷動きの現状と見通し(万台) (%)

0

5,000

0

50.0

4,000 40.0

3,000 30.0

2,000 20.0

1,000 10.0

08 10 1209 11 13 17(予想)

16(予想)

15(予想)

14(予想)

18(予想)

■ 地域内(左軸) ■ 地域間(左軸) 地域内%(右軸)  地域間%(右軸)  合計%(右軸)

* %について:荷動き比率。生産台数に占める荷動き台数の割合出典: 日本郵船調査グループ推計

日本郵船グループ 自動車輸送台数(万台)

0

300

200

100

400

05 06 07 08 10 1209 11 13 14(予想)

(年度)

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014

Business S

trategy

74

Page 15: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

n 多様な収益基盤の構築

全世界の自動車生産台数は2017年には約1億台となる見通

しです。一方、海上荷動きは3,500万台になると見ています。

生産台数は年率5~ 6%で順調に伸びていきますが、海上荷

動きは、年率2~ 3%程度と生産台数ほど伸びないと予測して

います。これは自動車メーカーの地産地消戦略が背景にある

と思います。

 海上輸送が増えていくのは間違いありませんが、地産地消

が進むと、陸上輸送や域内内航輸送がメインとなり、海上輸送

距離は短くなります。従来の海上輸送で対応するだけではな

く、こうした状況に対して、当社は以前より自動車の海上輸送

プラスαのサービスを立ち上げ、収益基盤の裾野を拡大すべ

く取り組んできました。その一つが、建機や重機の輸送ニーズ

の積極的な取り込みです。2009年に新設した建機ROROチー

ムが中心となり、2013年までの4年間で積高をおよそ3倍に拡

大しており今後もさらに伸ばしていきたいと考えています。

 もう一つが、自動車物流事業の拡大です。2008年に19カ所

だった全世界での拠点数は、マレーシアやシンガポール、カザ

フスタン、フィリピン、インド、ロシア、タイ、メキシコと着実に

拡大し、2013年には35カ所までになりました。

n 新しい技術を実用化

ターミナルで船への積載のため保管されている自動車の位置

を、GPSと独自のソフトウエアを使って正確かつ瞬時に特定

し、スマートフォンなどのモバイル機器でセキュリティを確保

した上で効率良く確認できる技術について、以前より研究を積

み重ねてきましたが、この度、複数の自動車メーカーで採用さ

れることになりました。もともと港での効率的な船積みのため

に使用することを想定し開発しましたが、あるお客さまでは、

在庫管理に有効であるとして、本技術を国内の物流拠点や数

百カ所の販売所に導入を検討すると伺っています。今後も用

途が広がっていくことを期待しています。

RORO:Roll-on Roll-off Ship

フェリーのように、ランプウェイと車両を収納する車両甲板を持ち、自走で荷役ができる構造の船。クレーンを使わず直接荷役を行うことができる

新中期経営計画における事業方針

n 事業方針

自動車船については、船齢の構成を考えると、毎年4~ 5隻は

更新していく必要があります。船型を6,500台積みから7,000台

積み船型へのシフトを進め、競争力をさらに高めていきます。

船隊規模は、今後の海上荷動きの伸びに合わせ、2018年度末

には125隻となる見込みです。

 建機・重機輸送については、日本出し、海外出しともに増え

ており、今後もその輸送ニーズに積極的に応えていきます。

2016年までに現在の50%強まで伸ばす計画にしており、その

達成に向け、自動車船グループや自動車物流グループでは営

業活動強化のための合同ミーティングを定例開催し、さらな

るシナジーの創出を追求しています。

 自動車物流についても、新たにメキシコなどに拠点を設け、

現在の35カ所から2016年には42カ所まで拠点数を拡大する

予定です。

 今、世界の自動車メーカーは世界中にネットワークを張り

巡らせており、物流ニーズも多様化・複雑化しています。これ

までのように、A地点からB地点へ輸送するだけの単純なもの

ではなく、AからB、BからC、CからD、E、Fといった具合に、

複数の拠点にまたがって効率よく輸送することが求められる

時代です。これに対し、当社は、戦略的に拠点を増やし、お客

さまのニーズに対応できる体制を整えてきました。今後さら

に拠点を充実・最適化していくことで、点と点を結ぶだけでは

なく、線と線、さらには包括的に「面」といった次元で、お客さ

まの期待に応えていきたいと考えています。

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014 75

Business S

trategy

Page 16: Business Strategy - 日本郵船 Strategy 事業別成長戦略 新中期経営計画「More Than Shipping 2018」における各事業の成長戦略をご説明します。事業の当年度の業績については、P.88をご覧ください。NIPPON

客船事業

黒字化の定着が今後の課題です。今後もクルーズ商品の開発にあたり、お客

さまのニーズをしっかりと捉えて、乗船率のさらなる向上、ひいては収益性

の向上につなげていきたいと考えています。

取締役・常務経営委員客船本部長

左光 真啓

前中期経営計画(2011年度~ 2013年度)の振り返り

n 黒字化の実現

米国クルーズ市場の事業環境は悪くなく、他社が健全な利益

を上げているにもかかわらず、Crystal Cruises社の業績が低

迷していたことから、事業の黒字化に向けて抜本的な対策が

必要でした。そこで販売戦略を見直し、Crystal Cruises社が提

供する全クルーズ商品について売り出し価格を下げ、その後、

予約状況に応じて価格を見直すこととし、予約が好調な商品

は2カ月ごとに価格を上げ、予約の鈍い商品については売り出

し価格を据え置きました。人気商品の価格が上がる一方で、

最初は伸び悩んでいた商品に値ごろ感が出てきて、徐々に予

約数が伸びるという相乗効果が生まれた結果、定価で販売し

ていた時より乗船率が高くなったことはもちろん、顧客単価も

大きく改善させることができ、2013年度は黒字化しました。

 日本を市場とする郵船クルーズ㈱については、アベノミクス

に伴う株価回復が追い風となって2012年度には予約状況が

好転し黒字化を果たしました。2013年度はさらにそのペース

を上回る予約をいただき増収増益となりました。懸念してい

た消費増税の影響は現在までほとんどなく、今も予約は好調

に推移しています。

新中期経営計画における事業方針

n 事業環境

2013年に外国籍の客船が日本市場に参入しましたが、そのク

ルーズ商品は幅広い裾野にあたる「マス層」で、最上級の「ラ

グジュアリー層」に位置する私たちとはカテゴリーが異なって

いたため、顧客流出はありませんでした。その一方で、外国籍

客船の参入によりクルーズがメディアに取り上げられる機会

が増え、クルーズに興味を持つ方が増えたと感じています。米

国のクルーズ市場が全人口の3%程度と言われている一方で、

日本のクルーズ人口はまだ0.2%に過ぎません。米国市場が成

熟した理由は、さまざまな客船が参入し、市場を形成してきた

ためであり、日本のクルーズ人口もまた外国籍客船の参入に

伴い広がりを見せていくものと思います。そして顧客層の裾

野の広がりはやがてラグジュアリー客船の需要拡大にもつな

がっていくと期待しています。

n 事業方針

黒字化の定着が今後の課題です。

 日本ではこの1年、日本外航客船協会を通じて当局に対し、

日本籍客船への規制緩和を働きかけてきた結果、これまで毎

年実施が義務付けられていたドライドックでの船舶検査が5

年に2回となり、また外国人船員の職域制限も一部撤廃され

ました。それでもまだ外国籍船にはない規制が残っています

ので、我々としては日本籍客船が外国籍船と同じ土俵で健全

な競争が行われるよう、引き続き当局に規制緩和をお願いし

ていきたいと考えています。

 Crystal Cruises社については、おかげさまで今も乗船予約、

単価ともに好調が続いています。今後もクルーズ商品の開発

にあたり、お客さまのニーズをしっかりと捉えて、乗船率のさ

らなる向上、ひいては収益性の向上につなげていきたいと考

えています。

NIPPON YUSEN KABUSHIKI KAISHA NYK Report 2014

Business S

trategy

76