症例報告 肺水腫改善後にアイゼンメンジャー化した 犬の動脈 …101...
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肺水腫改善後にアイゼンメンジャー化した
犬の動脈管開存症(PDA)の 1例
荒蒔 義隆 1) 荒蒔すぐれ 1) 川上 正 2) 松本 明彦 3)
(受付:平成 28年 1月 25日)
A dog with patent ductus arteriosus (PDA) which progressed to
Eisenmenger's syndrome after improvement of pulmonary edema
YOSHITAKA ARAMAKI1), SUGURE ARAMAKI1), TADASHI KAWAKAMI2) and AKIHIKO MATSUMOTO3)
1) Bay Veterinary Hospital, 5-6-7 Ujinanishi, Minami-ku, Hiroshima,
Hiroshima 734-0014, Japan
2) Kawakami Animal Hospital, 6-1-20 Yasuuramatichuo, Kure, Hirosima 737-
2516, Japan
3) Matsumoto Animal Hospital, 3-4-2, Agacyuo, Kure, Hiroshima 737-0003,
Japan
SUMMARY
We met with one case of the arterial duct probe patency symptom of the right and left
short circuit complicated with pulmonary hypertension.
We were going to perform a surgical cure after treatment of the edema of the lungs,
but became crampons men jar on the seventh day of illness.
── Key words: arterial duct probe patency symptom, crampons men jar,
pulmonary hypertension
要 約
肺高血圧症を合併した左右短絡の動脈管開存症の 1例に遭遇した.肺水腫の治療後に外科的矯正術を行う予定であったが,第 7病日にアイゼンメンジャー化した.
──キーワード:動脈管開存症,アイゼンメンジャー,肺高血圧
1)ベイ動物病院(〒 734-0014 広島市南区宇品西 5-6-7)2)かわかみ動物病院(〒 737-2516 広島県呉市安浦町中央 6-1-20)3)松本動物病院(〒 737-0003 広島県呉市阿賀中央 3-4-2)
症例報告
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広島県獣医学会雑誌 № 31(2016)
序 文
動脈管開存症(PDA)などの先天性短絡心疾患では,重度の左右短絡血流が原因により肺高血圧症(PH)を合併することがある 1).しかし,PHを合併した PDAにおいても短絡血流が左右短絡であれば外科的矯正術の適応となる 1).一方,PHがさらに進行し,右左短絡に移行してしまった症例においては,基本的には手術適応外となる 1).我々は PHを合併した左右短絡 PDAに遭遇したが,手術実施までの数日間でアイゼンメンジャー化してしまった症例の概要を報告する.
症 例
症例:トイプードル 1.1kg,メス,4ヶ月齢.心雑音があり,呼吸状態が悪いとのことで紹介来院した.初診時左側前胸部にて Grade3/6の連続性機械様雑音が聴取された.初診時レントゲン検査にて,心陰影の著しい拡大,特に左房および左室の著しい拡大が認められ,肺水腫を呈していた.心エコー検査にて,PDAであることが確認された.しかし,動脈管開存部の血流は連続性の左右短絡であったが,最大血流速は収縮期 3.1m/s,拡張期 0.5m/sであり,PHを呈していることがわかった.
治療と経過
初診時よりフロセミド 2mg/kg TIDおよびピモベンダン 0.3mg/kg BIDの投与を開始した.第 3病日に肺水腫が改善し,一般状態も良くなったため,第 7病
日に外科的矯正術を実施する予定を立てた.しかし,手術当日に超音波検査を実施したところ,動脈管部の血流は収縮期に右左短絡 1.4m/s,拡張期に左右短絡1.5m/sであり,アイゼンメンジャー化していることが確認され,外科的矯正術を断念せざるを得なかった.第 7病日よりピモベンダンを中止し,ICU管理下において内科的治療(フロセミド 2mg/kg TID)を行うことにした.しかし第 10病日に死亡した.
考 察
左右短絡 PDAの場合は,PHを合併していても外科的矯正術の適応となる.しかし PHを併発しているPDAの場合は,急激にアイゼンメンジャー化が起こることを予期しておかなければならない.本症例は肺水腫が改善した第 3病日は,まだアイゼンメンジャー化していなかったと考えられる.しかし,手術実施予定を,肺水腫が改善し手術可能となった第 3病日ではなく,もう少し状態が安定したほうが手術リスクを軽減できると考えた第 7病日まで先延ばしにしたことが,外科的矯正術の適期を逃すこととなったと考える.右左短絡 PDAは基本的には手術適応外となり,内科的治療によりうまく管理すれば 5年前後生存可能と報告されている.また,近年の報告では右左短絡を内科的治療により左右短絡に戻してから外科的矯正術を行い根治を目指す試みがされている.本症例も,第 7病日の時点では手術を断念したが,内科的治療により左右短絡に移行した時点で手術を実施することも考えていた.しかし,第 10病日に斃死した.初診時よりフロセミドに加えてピモベンダンを投与した.初診時ですでに PHになっていることが確認されたが,肺水腫治療を積極的に行うためにフロセミドに加えて,ピモベンダンを処方した.ピモベンダンは強心作用に加えて,ホスホジエステラーゼ(PDE)Ⅲ阻害作用による血管拡張作用があり,軽度の肺動脈拡張
A B
C D
図1
A B
C D
図1
A:初診時右ラテラル像
C:第 3病日右ラテラル像
図 1 レントゲン検査所見
B:初診時背腹像
D:第 3病日背腹像 図 2 初診時心電図検査所見Ⅱ誘導にて R波の増高(2.8mV)が認められる.心拍数は 186bpm.平均電気軸は 77°.
図2
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広島県獣医学会雑誌 № 31(2016)
図 3 初診時心エコー検査所見
A:左室長軸断面
C:左室短軸断面大動脈レベル
B:左室短軸断面乳頭筋レベル
D:動脈管の血流波形:左右短絡の血流が確認される
図3
A B
C D
LV LA LV
r-‐PA l-‐PA
PDA
AO
図3
A B
C D
LV LA LV
r-‐PA l-‐PA
PDA
AO
図 4 第 7病日心エコー検査所見
A B
C D
図4
r-‐PA l-‐PA
PDA
AO
LV
LA LV
A B
C D
図4
r-‐PA l-‐PA
PDA
AO
LV
LA LV
C:左室短軸断面大動脈レベル
A:左室長軸断面
D:動脈管の血流波形:収縮期に右左短絡の血流が確認される
B:左室短軸断面乳頭筋レベル
作用を有することから,本症例のような PH時においても有効であると考えた.しかし,肺水腫が改善した第 3病日以降もピモベンダンを使用し続けたことが,逆に PHを進行させ,結果的にアイゼンメンジャー化させてしまった可能性もある.これは,心不全状態でない病態に対して,ピモベンダンによる強心作用が過度に作用しすぎたため,循環動態を悪化させた可能性もあると考える.
文 献
1) Kittleson, M.D. and Kienle, R.D.:小動物の心臓病学,第 1版,263-278,メディカルサイエンス社,東京(2003)