初版 iso9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 ·...

29
米戸靖彦著 YONETO QM OFFICE 初版 ISO9001 品質マネジメントシステム

Upload: others

Post on 08-Jan-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

米戸靖彦著 YONETO QM OFFICE

初版

ISO9001品質マネジメントシステム

Page 2: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

1 品質保証の国際規格の誕生か

ら現行規格ISO9001:2008ま

での歴史的経緯を知る

はじめに

Page 3: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

2

2008年版ISO9001の誕生 ISO9000シリーズ規格がはじめて品質保証国際規格として発

行したのは1987年であり、その後1994年に予防処置が追加さ

れるなどのマイナーチェンジが行われたが、2000年まで放置さ

れていた。1994年版規格は、あくまで品質管理と品質保証に限

定された国際規格であり、グローバル化が進む企業環境には対

応していなかった。その事態を解決するために、2000年に国際

規格ISO9001は大幅に改定された。国際規格の名称も変更され

「品質マネジメントシステム」となった。

 二十一世紀に入ると、企業を取り巻く環境は急速に変化し

た。市場の国際化、製造業からサービス業への転換、近代的手

法による経営の浸透などがそれである。このような変化を充分

承知しているISO総裁(当時)、Giacomo Elias博士は、「企業

や組織が複雑で高度な製品を作り、それをただ顧客に引き渡す

という時代はすでに終わった。ISO規格を含めて非常に多くの

製品は、サービスの要素を包含し、それらから最大限のベネフ

ィットを引き出せるように消費者を支援する製品を送り出すこ

とがいま求められている。したがって、ISO9001改訂版の開発

は、あらゆる支援手段とサービスとの相乗効果を求めながら行

われている。」 と1999年に述べている。世界の国際規格のユ

ーザーは、新しい時代に対応する国際規格を強く求めたのだ。

 2000年12月15日、大幅に改訂されたISO90000シリーズ規

格が発行された。2000年版ISO9000シリーズは単純化され、以

下の三つの文書によって構成されている。

ISO9000 品質マネージメント・システムー基本および用語

ISO9001 品質マネージメント・システムー要求事項

ISO9004 品質マネージメント・システムーパフォーマンス改善

       の指針  

品質マネジメントシステム

Page 4: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

3

 ISO9001:2000で強調されている品質マネージメントシステム

の一つの側面は、プロセス志向に基づいた継続的改善である。

多くの日本企業が実施してきた「改善」をさらに高度に発達さ

せた手法が、顧客満足の充足を目標にした継続的改善である。

さらに、戦略的な取り組みによる継続的改善活動による企業業

績の向上まで言及している。

2008年の改訂 2008年にも改訂が行われたが、マイナーな内容で品質マネジ

メントシステムとしての本質的な変更は何にもなく、規格文言

の修正や多くの備考(Note)が加えられた程度であった。以下

の解説では、ISO9001:2008に関するものであると思って差し

支えない。したがって、本書で”ISO9001:2000”と表現されてい

たとしても、2008年版ISO9001のことだ解釈すればよい。

上に紹介したDenies Robitaille氏(TC176委員会、U.S. TAGメ

ンバー)の改正に関する談話を読めば、2008年の改正は最小限

にとどめられたことは明瞭であり、2015年に予定された規格改

訂に先送りされたことが分かる。

 ISO/TC176の技術専門委員 他の国際規格と同じように、ISO9001も時代の状況に対し妥当で適切なように最新のものにし、改正することが必要になった。ISO9001をQMSモデルの基準として使っていくというならば、規格そのものの品質が優秀であることの証拠としてのモニタリング、顧客志向、継続的改善の必要条件を適用させることが求められる。

 ISO/TC176の技術専門委員たち、 すなわち、ISO9000シリーズの文言を書き、改正してきた人たちなのだが、彼らは規格利用者コミュニティからデータを収集したり、市場からのフィードバックをレビューすることに決して注意を怠ってはいなかった。データを分析した結果は二つの重要な決定を生み出した。初めの一つは、ISO9001:2008は小さな変更だけの修正にとどめるべきである。そして、二番目としては、ISO9001:2015(大まかな予定)では、市場で起こっているグローバル化と技術的な変化を取り入れたもっと大規模な改正にすることである。このように修正を支持するフィードバックはすべて今回の改正で手際よく処理された。この単発の修正で適応させることができなかった問題は、次回の改正まで棚上げされた。

 このすべてはISO9001の将来にとって良い兆候だ。修正だけなら、2000年版の改正時に経験したような大騒ぎを繰り返すことを心配しなくてすみ、自社のシステムを規格の利用者がさらに成熟させることができる。しかも、規格を継続的に使う上でなにがしかの影響を与える変化に対して十分な処理を行い対応する時間を技術専門委員たちに与えることができる。

 二つの重要な考えが次回の改訂まで持ち越される。まずは、セクター規格(sector-specific standard)に関連している。二番目は、技術、サプライチェーンマネジメント、そしてグローバル化の面での発達と変化にかかわることである。これら両方の問題をどう対処するかは、ISO9001が継続的に生存できる能力に長期的な影響を与えることになる。

Page 5: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

4

品質マネジメントシステム 日本にISO9000国際規格が導入されたのは1990年代のはじめ

である。バブル経済の余韻を残し日本的経営に対する過信がま

だ残っていた時でもある。言い換えれば、欧米的風土から誕生

した国際規格を素直に受け入れる気持ちもなければ、国際規格

を正しく理解して指導に当たれる人材もなかったのだろう。こ

のような時代背景から多くの誤解のもとで企業が導入していっ

た結果は惨憺たるものである。以下の事例は、その典型であ

る。

• 小規模な建設会社が外部校正のために年間百万円以上の経費を使っている。

• 校正はずれ発生時の措置を含む検査機器の日常管理と内部校正の手順がない。

• 文書管理に多大な工数をかけている。

• 経営者は品質管理責任者に「丸投げ」してシステムを経営に利用していない。

• 多数の内部監査員を養成しているが形骸化している。• 企業は監査員の云うことに反論できず云われるままに品質記録を増やす。

• 環境マネージメントと品質マネージメントが別人によって管理されている

• 品質マニュアルの定期的な教育を行っていない

 このような問題が生じているのは日本だけではないが、その

背景について日本企業に問いただしてみると導入初期の理解不

足が多々あったことは否めない。

 ではこのような問題が再び起こらないのだろうか?答えは、

ノーである。なぜなら、1999年のサンフランシスコ会議で合意

された2000年版国際規格の特性に関する記述がそれを物語っ

ている。その中身次のようなことである。

• 1994年版の規格は製造業に偏っている。製造業とサービス業では業務の内容が大きく異なるが業種に関係なく容易に使えること。!

Page 6: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

5

• 小規模な企業を含め企業組織の規模に関わらず規格を適用できること。!

• 単純で理解しやすい言語を使って規格の理解をし易くし、しかも利用しやすくすること。

• 企業の組織は各社それぞれ異なっているし、業務の運営方法も違う。それでもおのおのの企業で行われている業務につなげやすい規格であること。

• 企業の利益や企業価値などの企業業績を段階を踏んで向上できること。!

• そのために規格そのものは継続的改善と顧客満足に対する強い指向を持たせること。

• すでに規格として発効している環境、安全・衛生に関するマネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用することによって企業への負担を低減できること。

 

 これで分かるようにISO9001:2000は、ユーザーに使いやす

く、企業のためになることを大きな目標にして作成された。た

とえば、日常語として使われている言葉で規格の原文が作成さ

れ、多少の英語力があれば理解できる規格になっている。にも

かかわらず、JIS規格を読むとまたもや通常使わない日本語や誤

解をうみそうな漢字をあてている。だから私は、原文に戻れば

規格の要求内容について多くの誤解は解消されると思うので、

個人的な期待が生かされることはないと思いつつも日本語と英

文との一対を日本規格にするべきと提唱しているほどである。

顧客満足を向上させることによって企業の競争力を高めること

ができるとしたISO9000品質マネージメントシステムを正しく

理解し、できうるかぎり単純な仕組みを取り入れ、企業の利益

向上や社員の満足感を高めることできた中小企業が一社でも日

本にできることを強く望む。しかしながら、そのためには経営

者の意識改革が必然的に求められることも指摘しておきたい。

Page 7: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

2 現在の規格は理解し易く、企

業の使い勝手がいいので、規

格を活用することで顧客満足

向上に効果的な企業運営がで

きる。

第一章

Page 8: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

7

英国生まれの国際規格 1994年版規格は、英国国家規格BS7750をそのまま国際規格

に格上げしただけだった。その内容は今から思うに至極単純で

あった。すなわち、”経営者の責任”からはじまり、”統計的手

法”に終わる20項目の要求事項を羅列しているだけであった。

しかも、企業内で行われている仕事の流れに沿わない規格構成

になっていた。たとえば、”設計管理”の次に突然”文書及びデー

タの管理”が出てくる。在庫管理や配送に関する要求事項に続い

て”品質記録の管理”が現れるなどである。これでは、特殊な能

力を持った人材を養成したり、コンサルタントの支援を受けな

いと品質システムの構築ができない。

 中小企業での一般的な業務は、顧客からの注文を受けて、材

料の購入や部品の手配を行い、製造現場で加工し、検査で合格

したならば顧客に出荷するという一連の流れになっている。特

注品の製造・販売、あるいは住宅建設やコンピュータ・ソフト

ならば、顧客からの受注が終わってから設計の業務が行われ

る。このように顧客の要求を受けて、それを満たすために行わ

れる一連の企業内での業務の流れを「コア・ビジネス(主要な

仕事)」と一般に云われている。ISO9001:2000では、この流れ

(プロセス)に沿って”製品の実現”と名付けた規格の要求事項

が作られた。このことによって、今現在社内で行われている業

務には何らの変更をくわえることなく規格に沿ったマネジメン

トシステムを構築できるようになった。したがって、規格に従

うために新しい文書類を作成する必要はない。現在業務に使っ

ている受注伝票、製造指示書などの文書類をそのまま使えば良

い。日本の企業であるならば、中小企業といえどもその業務の

やり方が国際規格に沿わないなどあり得ないのだ。国際規格

は、発展途上国の企業でも取得できるように最低限の要求事項

を定めただけであると理解してほしい。

 企業の中で行われている業務には、ここで言うコア・ビジネ

ス以外のことが多くある。たとえば、経営者の果たさねばなら

ないリーダーシップの発揮や社員やパートタイム作業員などの

易しくなったISO9001:2000

Page 9: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

8

採用や訓練などがその事例である。これらの業務も企業運営に

とってたいへん重要であり、規格では”経営者の責任”と”資源の

運営管理”という個別の章を設けた構成になっている。

 ”測定、分析および改善”と名付けられた規格の内容は、2000

年の改訂の中でももっとも重要である。この要求事項に対して

企業が真摯に取り組めばコスト競争力や顧客満足の向上に必ず

役立てられると指摘しておきたい。しかし、規格の要求事項を

充たす品質マネジメントシステムを構築し認証を取得したから

といってその効果が必ず現れるなどと安直に考えないことだ。

なんとしても、経営者が率先して改善に取り組む姿勢を示し、

努力することがなければよい結果は生まれない。国際規格を満

たすマネジメントシステムと云えども経営者の努力なしで予期

する結果が得られるほど甘くはない。

親切になったISO9001:2000 規格を読めばすぐに気づくことがある。一つは、規格の本文

に多く設けられている「備考」である。この備考は、規格の内

容を理解するため、または規格の文言を明確にする目的で備え

られている。このような親切さは、1994年版までの規格には無

かった。1994年版で審査を受けた企業で起きた混乱の一つは、

規格の解釈が審査員によって異なることであった。時によって

は、審査員が知ったかぶって「この規格要求事項は、こういう

意味なんですよ!」と声高らかに説教をはじめることもあっ

た。審査員の研修コースでは、このような態度を取ってはなら

ないと厳重に注意されているにも関わらずである。しかし、現

実に起こっていることである。審査機関は、審査員の再教育も

義務づけられているが果たして誠実に実施されているのかと問

えば、大きな疑問を持たざるを得ない。ISO9001:2000は、こ

のような現実を直視して備考が必要と判断したようだ。

 もう一つの親切さは、何が品質記録となるかを明確にしたこ

とである。1994年版での品質記録の管理に相当する

ISO9001:2000の要求事項は、4.2.4項 ”記録の管理”として定

められている。その上で、(4.2.4を参照)を規格の本文中に明

記して「これは品質記録ですよ」と親切に指定している。認証

を取得した後、企業が品質マネジメントシステムを維持管理し

ているかを調べるために定期的に監査を行う。当然ながら定期

監査では、回を重ねるほど業務運営の深部に亘る監査となる。

そこで「これは品質記録なのに、そのようになっていません

Page 10: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

9

ね!」とご親切にのたまう審査員が出てくる。企業は、審査員

に逆らえば得にならないと考え云われるままに品質記録の書類

を増やしていく。そのために書類の作成と維持管理に時間が費

やさせられるという悪循環が生じていることもよく知られた現

実である。本来、規格が求めていることは、製品の品質を実証

するための客観的証拠となるデータを記録した書類を品質記録

として企業側が誠実に決めればよいだけのことである。だが、

現実は規格の本意とは異なり、何らかの防止策を講じる必要性

を認めたのだろうと邪推したくなる措置が、この(4.2.4を参

照)である。いずれにして、企業にとっては混乱を多少なりと

も回避できる規格の親切さとなる。

品質の定義が変わった 1994年版での「品質」という言葉の定義は、あくまで「も

の」に重点を置いた内容だった。しかし、すでに述べたように

サービスの側面を無視して製品の経済性や優位性を云々するこ

とができない時代である。それを反映して、ISO9001:2000で

の「品質」の定義も変わった。規格の定義は、言語学者にしか

理解できないほど複雑にしているので、下のように簡略化し

た。

! 「製品、プロセス、またはシステムに本来備わっている特性が顧客の要求を充たしている度合い」

 これでも理解に苦しむだろうが、製品の質、業務の質、また

は経営の質のことであるすれば理解しやすい。もう「品質」と

いう日本語もやめて、単に「質」と改めるべきであると個人的

には思っている。

 言葉遊びは別にして、ISO9001:2000は、製品品質だけでな

く業務プロセスやマネジメントシステムの質を向上させること

も規格の対象となっていることだけは確かなようだ。業務プロ

セスの質とは、銀行や市役所における待ち時間の短さはもちろ

ん、設計・開発の時間短縮や設計関係者が作成した書類の間違

いの無さなどである。外部の顧客だけでなく内部の顧客が要求

しているサービスの質とは何かを深く考えなくてはならない。

 経営者のリーダーシップの強さや情報技術を多用している経

営基盤の高度さなどは、経営システムの質を測る尺度になるで

あろう。このようにISO9001:2000は、単なる製品品質のこと

だけでなく企業運営の質を高めることによって企業の優位性を

確保できるとの論点に立っていることには留意してほしい。だ

Page 11: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

10

から、ISO9001:2000の名称は、品質マネジメントシステムなの

である。

顧客満足経営で生き残りを もはや品質保証という言葉を使わずに製品の品質保証に加え

て顧客満足の向上をも目指しているのが品質マネジメントシス

テムであると規格で明言している。供給者が製品やサービスの

質や価格を一方的に決めて顧客に供給する従来の経営を続ける

ならば多様化した顧客のニーズに応えることが困難だという認

識が規格に反映された。顧客のニーズは、単に多様化しただけ

でなく、ニーズそのものが今まででは考えられないほどの早さ

で変わっているのが世界中で起こっている現象である。この現

象は、日本の百貨店やスーパーマーケットでの売り上げが減少

し回復しないことでも説明できる。顧客は自分の価値を高めら

れたり、今もっているもの以外の珍しいものはないかと期待し

ながら店に入る。しかし、顧客が本当に望んでいる商品を店内

で見つけることができない。なぜ見つからないかというと、こ

んなにすばらしい品質でしかも安い価格だから売れるのが当た

り前という供給者の一方的な考え方で作られた商品ばかりだか

らだ。顧客のニーズが何かを本当に調べることを怠った結果が

これである。

 このような顧客ニーズは、対価を払ってくれる外部の顧客だ

けでなく、社内にも存在する。購買部門は、ただ要求された品

質を充たし単価の安い部品を探し出すことに専念し、発注す

る。ところが、現場に届いた部品は品質を確かめてからでない

と使えない”ばらつき”の大きなものだったすると、検査工数が

増えしまう。購買部門の選択は、トータル・コストを考慮すれ

ばマイナスの結果を生み出していることが後で分かったなどが

Page 12: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

11

よい事例である。社内の顧客ニーズを充分に把握して業務を行

うということは、部門間の壁を取り払うことにつながり、その

効果は多大だと云わざるを得ない。中小企業には部門間の壁は

ないと思っていたが、実体験を通じて感じたことは小規模組織

でも必ずしも全員が一体となっていないことだった。顧客満足

の向上を目指すISO9001:2000は、業務の質を高める効果まで

期待でき企業の生き残りに役立つ規格であるとも言える由縁で

ある。

企業競争力を高めて業績向上を1994年版と比較してISO9001:2000のもう一つの特長は、認証

の対象規格ISO9001と事業業績の改善への指針ISO9004とが、

一対の規格となっていることだ。本書の読者で1994年版

ISO9004を読んだという方は少なかろう。それほどその存在感

が薄く、その役割に期待されていなかった。この点でも大きな

反省がなされ、企業業績の向上のために役立つISO9004

ISO9001:2000を策定された。一言で云えば、ISO9004

ISO9001:2000は「マネージメントの指導書」であり、規格の

文言を借りれば、「ISO9004は、パフォーマンス改善のための

指針を示す品質マネージメントのより広範な視野に立ってい

る」。パフォーマンスとは、企業活動による成果であるから業

績と株価に代表される企業価値と言える。

 認証の対象規格ISO9001に比べISO9001:2000ISO9004は、

マネージメントの一般的な知識をもっていれば、追加的な解説

を必要としないほど容易に理解できる内容になっている。しか

し、留意しなくてはならないのは、ISO9001認証を取得するた

めのガイドラインではないことだ。ISO9004には、企業競争力

を高めることによって業績を向上させるために何をやればよい

のかを記載しているだけである。たとえば、企業の幹部が顧客

のニーズと期待を満たすために行わなければならないことは、

次の事柄であるとしている。

• 顧客のニーズと期待を理解すること。これには潜在的な顧客を含むこと。• 顧客及びエンドユーザーにとって重要な製品・サービスの特性が何かを決定する。• 市場における競争者は誰で、どの程度の強さをもっているかを明らかにするために評価を行うこと。• 市場に参入するチャンスがあるのか、自社製品・サービスの弱点は何か、予測される• 競争者と比べ何が強みとなるのかを明らかにすること。 

Page 13: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

12

これは、伝統的なマーケティング手法の一部であり、決して目

新しいことではないが、ISO9004規格の性格を鮮明に表してい

る。

ISO9001とISO9004との関係企業は、認証の対象ではない規格ISO9004をどのように利用す

るのかという疑問があろう。その答えを示すのが、下図であ

る。

 ISO9001とISO9004が一対の規格となっているので、両者を

同心円で描くことができる。ISO9001は、認証取得の対象規格

であるので要求内容の厳しさは低い。そこで、ISO9001を小さ

な円として表現すると、ISO9004はさらに大きな円になる。

ISO9001の小さな円を取り巻くドーナツ状の領域がISO9004の

内容である。企業が業績の向上させ持続的に成長するために努

力を傾注しなければならないのは何かを国際規格として定めて

いる。ISO90001を企業が採用したとしてもISO9004の定めを

実践しない限り企業業績は向上しない。

 企業の実状は千差万別で一概には言えないが、日本企業に限

って云えば何らかの行動を起こさねばならないと感じる領域

は、ISO9004の”経営者の責任”と”測定、分析、改善”だと思え

る。たとえば、経営者の責任の一つとして業績に結びつけられ

る品質方針はどうあるべきかをISO9004は、次のことを指摘し

ている。

•  品質方針は、企業の将来について経営者のビジョンと戦略に沿わせること。

•  品質方針は、品質目標は組織全体で理解され、その達成のための追求ができること。

Page 14: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

13

•  品質方針は、品質に対する経営者のコミットメントが明瞭になされ、目標達成のために充分な経営資源を供することに堅い決意がなされている。

•  品質方針は、経営者の明瞭なリーダーシップによって組織全体に品質に対するコミットメントを促進できること。

•  品質方針は、顧客とその他の利害関係者のニーズと期待を満たすための一環として継続的改善を行うこと。

•  品質方針は、効果的に作成され、効率的に伝達されること。

!

 品質方針が単なるスローガンとして掲げている企業の経営者

には、耳の痛い指摘になるのではないだろうか。言い換えれ

ば、品質方針一つをとっても業績の向上を目指すなら経営者の

意志の強さと志が明瞭でなければ単なるお題目にすぎなくなる

と云うことである。

 さらに詳しくISO9004の内容を解説することは、本書の目的

ではない。ここで指摘したい重要なポイントは、経営者が

ISO9004をよく研究すれば自社の経営面での弱点を強化するこ

とができることである。自社の能力を自己評価する方法が

ISO9004に備わっている。この自己評価を行えば中長期に亘っ

て優先順の高い改善項目が明瞭に浮かび上がってくる。それら

を実行できるように自社の品質マネジメントシステムに順次取

り込むことだ。これが、ISO9001規格の序文第一行に書かれて

いる「戦略上の決定とすべき」という文言を具現することに繋

がると示唆しておきたい。

Page 15: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

3 本章は、経営者自身と

ISO9001品質マネジメントシ

ステムの構築と維持管理の任

に当たる管理責任者にぜひ理

解していただきたい事柄を述

べている。したがって、一般

社員の方々は、スキップして

第三章に進んでください。

経営者のために

Page 16: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

15

品質マネージメントの8つの原則 品質マネージメントの原則は、1997年にTC176委員会のサブ

コミッティーによって定めれた。経済のグローバル化が進んだ

今日でも企業運営には欠かせないマネジメント原則なので、そ

の内容を紹介する。

 ISO9001規格の序文に「この規格は、ISO9000及びISO9004

に記載されている品質マネージメントの原則を考慮に入れて作

成した」という文言がある。品質マネージメントの原則とは何

かを理解せず、ISO9001:2000を語ることはできない。内部監

査員や外部審査員資格の再認定研修でも必ずこの品質マネージ

メントの原則を学習することに決まっている。それほど重要な

原則である。

 その序文にグローバルな市場における競争に勝ち抜くための

基本的なマネジメント原則を明らかにし、ISO9001:2000の策

定の基本的概念として採用された。やや格調の高い原文である

が、下に引用した。

 世界規模での競争が進む中、質の高い経営はすべての組織のリーダー

シップとマネジメントにとってますます重要となっている。品質マネー

ジメントの原則は、すべてのユーザーに普遍的に適用できる。本文書

は、上級経営者のニーズに焦点を当てている。品質マネジメント原則

は、他のユーザーグループのニーズを満たすために新規、もしくは現有

の文書に取り入れることができるであろう。

 以降で述べる八つの品質マネジメント原則を適用することによって、

組織は、顧客、所有者、従業員、供給者、地域社会と社会全体に恩恵を

与えることになるであろう。

 品質マネジメント原則は、組織を指揮し、運営するための広範囲で基

本的なルール、もしくは考え方であり、顧客に焦点を当てて、そしてす

べての他の利害関係者のニーズを重視しながら長期に亘って企業業績を

継続的に向上させる目的を持っている。

経営者のために

Page 17: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

16

! 一方、ISO9000(用語と定義の規格)では、「組織の業績

向上に向けて組織を導くために経営者が用いることができる品

質マネジメントの8つの原則がある」としている。すなわち、

ISO9001:2000の策定に当たっての基本的な枠組みであると言

える。当然ながらISO9001:2000の要求事項はこれを反映した

内容になっている。自社の品質マネジメントシステムを構築す

る時に大いに利用できるので、やや冗長になるが下に列挙す

る。おのおのの原則に対して企業が具体的にどのような行動や

風土作りをしなければならないかも付け加えている。具体的行

動の内容を見れば、ISO9001規格の文言を理解することが易し

くなると考えたからである。

! 原理1-顧客重視  

組織はその顧客に依存しおり、そのために現在並びに将来の顧客ニ

ーズを理解し、顧客要求や要望を満たし、顧客の期待を越えるよう

に努力しなければならない。

具体的行動

• 製品、納入、価格、信頼性などに関する顧客のニーズと期待をすべての範囲で理解する。

• 顧客およびその他の利害関係者(所有者、従業員、供給者、地域社会と社会全体)のニーズと期待をバランスをとってアプローチする。

• これらのニーズと期待を組織全体に伝達する。• 顧客満足を測定し、結果について行動を起こす。• 顧客とのよい関係を保つように管理する。

Page 18: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

17

! 原理2-リーダーシップ  

リーダーは、組織の目的と方向との調和を図らなければならい。リーダーは、人々が組織の目標を達成することに全面的に参画することができる内部環境を創造し、維持しなければならない。

具体的行動

• 積極的であり、事例をもって指導する。• 外部環境を理解し、対応する。• 顧客、所有者、社員、供給者、地域社会と社会全体を含むすべての利害関係者のニーズを考慮する。

• 明白な組織の将来ビジョンを確立する。• 組織のすべてのレベルで共有する価値および倫理規則のモデルを確立する信頼を築き恐怖感を除く。

• 職責と説明責任をもって行動するために必要な資源と自由度を社員に与える。

• 社員を奮い立たせ、勇気づけ、彼らの功績を認知する。• 開放的で正直なコミュニケーションを推進する。• 社員を教育し、訓練し、コーチする。• やればできるゴールと目標を設定する。これらのゴールと目標を達成するための戦略を実践する 積極的であり、事例をもって指導する。

  原理3-人々の参画   すべてのレベルの人々は、組織の「かなめ」であり、彼らの全面的な参画によって、組織の便益のためにその力を発揮することが可能となる。

具体的行動

• 問題解決に自己責任を受け入れる。• 改善・向上のための機会を積極的に探す。• 自身の能力、知識、経験を強化する機会を積極的に求める。• チームやグループの中で知識や経験を自由に共有する。• 顧客のための価値創造に焦点を当てる。• 組織の目的を促進する上で改革的で創造性を発揮する。• 顧客、地域社会、社会全体に対して組織のよき代表者として振る舞う。

• 自身の仕事から満足を引き出す。

Page 19: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

18

   原理4-プロセス・アプローチ   関連する経営資源と業務が一つのプロセスとして運営管理されたとき、望ましい結果がより効率的に達成される。

具体的行動

• 望まれた結果を達成するためのプロセスを明確にする。• プロセスのインプットとアウトプットは何かを決め、測定する。

• 組織の部門とのプロセスの接点を確定する。• 顧客、供給者、および利害関係者に関わるプロセスのリスク、結末、影響を評価する。

• プロセスを管理するための責務、権限、説明責任を明らかとし、確立する。

• プロセスの内部と外部の顧客、供給者、利害関係者を確定する。

• 設計のプロセスでは、望ましい結果を達成するためのプロセスの段階、活動、流れ、管理項目、教育のニーズ、装置、手法、

    原理5-システム・アプローチの経営

相互に関わりを持つプロセスを一つのシステムとして明確にし、理解し、運営管理することが組織に与えられた目標を効果的で効率よく達成することに付与する。 具体的行動

• 与えられた目標に影響を与えるプロセスを特定すること、あるいは作り上げることによってシステムが明確になる。

• この目標をもっとも効率よく達成するためにシステムを構築する。

• システムのプロセス間における相互関係を理解する。 • 測定と評価を通じて連続的に改善する。 • 活動を起こす前に経営資源の制限事項を定める。

Page 20: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

19

    原理6-継続的改善

組織の総合的なパフォーマンスの継続的改善を組織の永久的目標とすべきである。

具体的行動

• 製品、プロセス、およびシステムの継続的改善が、組織内のすべての個々人に対する目標となさしめる。

• 漸進的な改善と変革的な改善が基本的な改善のコンセプトであることを適用する。

• 潜在的な改善領域を明らかにするために、設定された最高の基準を用いて定期的な評価を加える。

• すべてのプロセスの効果と効率を継続的に改善する。 • 予防を基本とした行動を奨励・推進する。 • 組織のすべてのメンバーに対し適切なる教育と訓練を行う。継続的改善のための手法と道具には、以下のようなものがある。

    Plan-Do-Check-Actのサイクル    問題解決法    プロセス・リエンジアリング    プロセス変革

• 改善を促し、追跡するための尺度とゴールを策定する。

    原理7-事実に基づく意志決定!データと情報分析に基づく効果的な意志決定を行う

具体的行動

• 測定を行い、品質目標に関連したデータと情報を収集する。 • データと情報が十分に正確であり、信頼性があり、いつでも入手可能であること。

• 有効な手法でデータと情報を分析する。 • 適切な統計的手法の価値を理解すること。• 経験と直感を均衡させながら合理的な分析に基づいて決定を下し、行動を起こす。 

 !

Page 21: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

20

    原理8-供給者との互恵関係

組織と供給者とは相互依存関係にあり、相互互恵関係は、企業価値創造のための両者の能力を高める。

具体的行動

• 重要な供給者を明らかとし、選別する。 • 短期的な利益とともに、組織と社会にとっての長期的な配慮を行いバランスをとれた供給者との関係を確立する。

• 明快で開放的なコミュニケーションを創生する。 • 製品とプロセス共同開発と改良を開始する。 • 情報と将来計画を共有する。 • 供給者の改善と達成度を認識・表彰する。

 企業の経営者ならば、万事ご承知のことばかりですでに実践

されてはずである。さもなくは企業が存続しているはずがな

い。ここで記憶にとどめてほしいことは、ISO9001はこれらの

マネジメント原則に基づいて策定されてていることである。

自己評価のすすめ ISO9004で提供されている自己評価は、組織活動と企業業績

をある選択された基準に関連して広範囲に亘る体系的なレビュ

ーであり、品質マネジメントシステムを構築する前にぜひ実施

されることを推奨したい。

Page 22: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

21

 下記の六つの視点から組織の実績およびマネジメント・シス

テムの成熟度を数値化することにより企業の実力を測定する手

法がISO9004の自己評価である。

 組織の持続的成功のための事業運営

 戦略および方針

 資源の管理

 プロセスの管理

 モニタリング、測定、分析およびレビュー

 改善、変革および学習

自己評価により改善と改革を必要とする分野を明らかにできる

とともに、その後に行うべきアクションへの優先順位を決める

ことができる。規格では以下のように指摘している。なお、自

己評価の詳細は、筆者のホームページに記載されている。

特に日本企業は国際競争力を一層強化する必要がある。 経営

者としての立場から自社の能力について客観的な評価を下し、

本当に国際規格ISO9001品質マネジメントシステムが必要なの

か、成熟度の低い分野に重点を置いてシステムを構築し、どの

ような改善を行うべきなのかを判断する必要がある。ISO9004

の付属書に記載されている文言を以下に示す。

 

ISO9001のプロセスモデル 企業では、数多くの活動が相互に関連しながら運営されてい

る。これらの複雑な活動を効果的に運営管理するには一連の業

務プロセスをシステムとして構築する必要が生じる。

ISO9001:2008では、企業活動の機能を大まかに五つのブロッ

クに分けた。下図に示されたモデルがそれである。経営者の責

任、経営資源の管理、製品の実現、測定・分析・改善、そして

 組織は、改善と改革の機会を明確化し、優先順位を決め、持続

的成功の目標とともに行動計画を確立するために自己評価を活用

するべきである。自己評価からのアウトプットは組織の強みと弱

み、成熟度を見えるようにさせるとともに、繰り返して行うと、

時間に従って組織がどのように進捗しているかが分かる。組織の

自己評価の結果はマネジメントレビューへの貴重なインプット情

報となる。また、自己評価は学習のためのツールになりうる潜在

力を持っている。この学習はよりよい組織のビジョンを提示し、

利害関係者の参画を促すことができる。

Page 23: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

22

品質マネジメントシステムの継続的改善がそれぞれ相互につな

がっている。これを「プロセスアプローチ」と称し、体系化さ

れた企業運営ためのシステムとしている。さらに、企業の使命

は顧客のニーズと期待を絶えず確かめ、その充足に努めること

だと位置づけている。しかも、顧客のニーズと期待は絶え間な

く変化するから、その変化に対応しているかどうかを確かめる

ために顧客満足を定期的にモニターすることが必須であると強

調している。もしも、顧客満足が低下する傾向が見られるなら

ば、より適切な品質マネジメントシステムに修正することも必

要となる場合がある。すなわち、継続的改善は、企業の永久目

標であるという志向がプロセスモデルに表現されている。

 なお、図中の実線は【価値を付加する活動】であり、顧客に

対して何らかの価値を創造するコア・プロセスを表す。顧客満

足に直接関わる重要な業務のつながりを表現している。他方、

点線は、【情報の流れ】と称し、苦情や顧客満足などの情報、

社員意識や株主の意見などが相当する。

品質マネジメントシステムを構成している四つの要素が矢印で

つながり、回転している。"Plan-Do-Chek-Act"(PDCA)サイクル

を回すという動的なプロセスモデルであることを表している。

PDCAにあたる行動は、以下のようになる。

!

• ! Plan  企業目標を達成するための品質マネジメントシス

テムを構築し、運営する経営者としての責任と共に、システ

ムを運営する上で必要となる経営資源を提供する。(経営者

の責任と経営資源の管理)

Page 24: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

23

• ! Do  顧客の要求事項を満たす製品の実現プロセスを定

め、実行する。(製品の実現)

• ! Check 方針、目標、製品に対する要求事項に照らしてプ

ロセスと製品そのものをモニターし、その結果を報告する。

(測定・分析・改善)

• ! Act  プロセスの実施状況を継続的に改善する。(測定・

分析・改善)

プロセス・アプローチ ISO9001:2008にはプロセス・アプローチの原則を規格要求

事項全般に採用していることは明らかだ。1994年版では

「Procedure(手順)」に重

点がおかれていた。

ISO9001:2008を読むと

き、プロセスを日本語

の”業務”と置き換えれば

プロセス・アプローチに

意味することを理解し易

くなると考えられていたが、本当はそれほど単純ではない。で

は、”手順”と比較することで”プロセス”の意味をもう少し理解

を深めよう。

手順                                  

仕事の完成を目指す静的なもの

仕事を実行するためのステップの流れ

異なった目的で異なった部門の異なった人々によって完成される

ルールを守ることを重視する

プロセス

期待した結果の達成を目指す動的なもの

資源を使ってインプットをアウトプットに変換する

同じ目的のために異なった人々によって仕事を完成し、部門に関係ない

顧客満足に焦点を合わせる                             

 ある人が仕事をやり遂げる方法が手順であり、仕事の準備を

行い、仕事を行い、仕事を完成させる一連のステップであると

言える。誰が仕事をしても一定の結果が得られるようにルール

Page 25: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

24

や規則を決めるために文書に定めている。したがって、仕事と

仕事の間とのつながりを重視しない内容になる。すでに述べた

ように1994年版規格は業務の流れに沿った構成になっていな

い。すなわち、品質を保証するための手順を重視した規格であ

る。

 プロセスは、材料、情報、あるいは人々をインプットとして

受け取り、異なった性質を持つアウトプットに変換させること

を言う。したがって、インプットに対しての依存性が高く、イ

ンプットによって期待された結果を生むようにプロセスを変更

させる動的な活動である。言い換えれば、結果をフィードバッ

クしながらコントロールする機能を持っている活動である。ア

ウトプットの結果をフィードバックさせながらコントロールす

るためには、個々のプロセスには結果を測定できる尺度がなけ

ればならないし、適時に正しい経営資源をあてがうこともプロ

セスの重要な要素となる。

 本来、プロセスには部門間の隔たりや供給者と顧客との隔壁

も意識する必要はない。だから、顧客満足の向上に全力を注

ぎ、その一点で共通した目標をもって部門横断的に業務を行う

ことはプロセス・

アプローチであ

る。ISO9001:2008

は、このプロセ

ス・アプローチを

製品の実現プロセスに適用している。特に、顧客のインプット

を明確にすることが顧客満足の結果に大きく影響すると重要視

し顧客関連プロセスとして詳細にわたって規定している。

プロセス・アプローチのガイドラインで用いられている概念図

が参考になる。

 顧客ニーズを満たすことを唯一の目標にして各部門が部門横

断的に業務を行うには、従来のピラミット型多階層組織はむし

ろ障害になる。

他の部門に何らかのフィードバックを行うにも、いったん上の

階層に伝達され、そこでの意志確認を行い、自部門の都合とか

利害を判断してやっと他部門に伝えるなどが障害の一つであ

る。事実、現在成功している企業では、中間層が省略されフラ

Page 26: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

25

ットな組織になっ

ている。これは情

報技術が大きく貢

献していることも

一因ではあるが、

中間管理職を少なくすることによって、部門横断的な業務をス

ムースに進められるメリットが分かってきたからである。鳥が

川の上で旋回しながら餌を探すように、業務の流れを見通すに

はフラットな組織がもっとも都合がよいとも表現できる。

継続的改善プロセスの継続的改善の目的は、顧客満足の向上し、企業の業

績を高めるのためである。ISO9004には、プロセスの継続的改

善を実行する

ためには二つ

の基本的

な"やり方"が

あるとしてい

る。

一つは通常の”改善”であり、"人々によって行われる地道で、た

ゆまぬ改善活動"であるとしている。日本企業で盛んに実践され

ているQCサークルや改善提案などに相当する。この職場活動

は、現存するプロセスを少しずつ工夫しながら作業プロセスを

少なくしたり、ニアミスをなくして合格率を向上させることな

どに効果がある。

 もう一つは、「変革」であり、規格でブレークスルーと表現

され、現存するプロセスの大規模な再改造である。このような

全く新しいプロセスを生み出すには、日常の業務から開放され

たチームによって成し遂げられるとしている。現在、ワールド

クラスの企業でその効果が実証されたシックス・シグマ活動を

目指した手法に限りなく近い活動を云う。ただし、

ISO9001:2008がこのような最新の改善活動を行うことを要求

しているのではなく、あくまで企業の意志決定にゆだねている

ことは指摘しておく。

 ISO9004の付属書 Bで提唱しているブレークスルー・プロジ

ェクトの進め方は、次のステップを踏むことである。

1.現在のあるがままのプロセスの中から改善を要すると思われるプロセスを選び出すために現在の状況を分析・評価する。たとえば、も

Page 27: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

26

っとも多く発生する問題の種類は何かを調べるためにデータ収集と分析を行うことである。

2.選ばれたプロセスに対してプロジェクト・チームを結成し、プロセスの改善目標を明確にする。たとえば、管理図で判明したばらつきの大きさを半減させるなどである。

3.チームは、目標を達成できると思われる解決策の代替案を探し出し、その中からもっとも有効と思われる解決策を選択する。

4.もっとも適切だと考えられる解決策を実行に移す。

5.実施の結果を測定し、検証し、分析し、評価し、目標が達成できているかを決める。

6.目標を達成できていると判定されたならば、新規のプロセスを実施に移す。

7.新規のプロセスが、他部門でも応用できるどうかを検討し、できる部門で実施に移す。

!

 このような改善活動には、何らかの統計的な手法を応用しな

ければできない場合が多い。したがって、プロジェクトに参画

させる社員に対して適切な研修を行うことが、プロジェクトの

初段階となる。

経営者の強いリーダーシップ

! 品質方針、責任と権限、経営資源、管理責任者、そしてマ

ネージメント・レビューが1994年版での主たる経営者の責任で

あった。しかし、ISO9001:2008では、品質マネジメントシステ

ムの運営に当たる経営者に対しさらに強い役割を果たすことを

求めている。欧米色を強く滲ませたISO9001:2008は、トップ

ダウン的な経営者のリーダーシップを発揮し、品質マネジメン

トシステムのPDCAサイクルを回し、継続的改善を絶え間なく

実践することが必要となる。もしも、1管理責任者である品質

保証室長や品質管理部長に品質マネジメントシステムの運営を

丸投げしているならば、経営者の責務を果たしていないと判定

されるであろう。

 まず経営者が行わねばならないことは、品質マネジメントシ

ステムの構築を指揮し、実践し、その有効性を継続的に改善す

ることに対するコミットメントである。その上で、社員や株主

を含む顧客の要求は何たるかを明確にし、その充足が経営者の

責務となる。当然とは云え、このためには経営者は強いリーダ

ーシップを発揮し、社員が顧客要求を満たすことの重要性を認

識できるような社内コミュニケーションの実行がなされなくて

はならない。社員との直接的な対話による情報交換がなけれ

Page 28: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

27

ば、品質マネジメントシステムの向上など不可能だという志向

が強く出ているISO9001:2008である。

 マネジメント・レビューが強化されたこともISO9001:2008

の特長である。会議でレビューする議題は、監査結果、顧客か

らのフィードバック、プロセスの実施状況、製品の適合性、是

正・予防処置、前回のレビューのフォローアップ、品質マネジ

メントシステムに影響を及ぼす可能性のある変更、改善のため

の提案となり、一見しても分かるように経営会議で討議する内

容に近い。品質会議として別途行っている企業も多いと聞く

が、これらを討議し、規格の要求する決定事項をまとめるに

は、各部門長はもちろん、さらに上の上級職も参加しないと良

い結果を生まないのではないかと危惧する。

 経営者の責任として一般的に認識されているヒト、モノ、

金、情報などの経営資源の管理に関する条項が別途も設けられ

た。この中でも、「自らの活動のもつ意味と重要性を認識し、

品質目標の達成に向けて自らどのように貢献できるかを認識さ

せる」ということは、チームワークが良いとされる日本企業と

云えども、これは大きな課題になる。最近発生した品質に関連

する社会的な問題を考えると、このような認識の低下が根底に

あるのではないかと思われるからだ。ここでも経営者の強いリ

ーダーシップが求められていることは間違いない。

他のマネジメントシステムとの統合品質マネージメント・システムは、顧客、社員、株主などの利

害関係者のニーズ、期待、要望を満たしながら企業目標を達成

することに焦点を当てた経営システムであるが、財務の健全

性、収益力、環境保護、安全衛生、リスク管理などにも応用で

きる。事実、これらを統合した一つのマネージメント・システ

ムを使って運営しているワールドクラスの企業が存在してい

る。ISO9001:2008は、すでに環境マネージメント国際規格

ISO14001とほとんど完全に両立できるように構成されてい

Page 29: 初版 ISO9001 - 統合マネジメントシステム · 2012-10-27 · マネージメントシステムと簡単に統合でき、別個に運用す ることによって企業への負担を低減できること。

28

る。これを反映して、外部監査員が環境と品質の実施状況を同

時に監査できるように監査に関する規格ISO10011および

ISO14011を統合した新しい監査規格ISO19011が策定されたい

る。

労働安全衛生マネージメントシステムOHSAS18001を取得した

企業ならば三つのマネジメントシステムを統合することも賢明

な対応である。このように次々に生まれてくる国際規格へ個別

に対応することは、システムを維持管理する上で大きな負担に

なることは確かであろう。だが、今日までISO9001は国際規格

の中心的な役割を果たしてきたし、今後もそれは変わらない基

本的なマネジメントシステムの規格である。したがって、いか

なるマネジメントシステムをも包含できる特性を本質的に持っ

ている。経営者としては他のマネジメントシステムとの統合を

視野に入れたアプローチが肝要であると強調したい。