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ラモセトロン塩酸塩 2.5 臨床に関する概括評価 アステラス製薬 1 目次 2.5 臨床に関する概括評価 .................................................................................................... 2 2.5.1 製品開発の根拠.............................................................................................................3 2.5.2 生物薬剤学に関する概括評価.....................................................................................23 2.5.3 臨床薬理に関する概括評価 ........................................................................................24 2.5.4 有効性の概括評価 ....................................................................................................... 26 2.5.5 安全性の概括評価 ....................................................................................................... 38 2.5.6 ベネフィットとリスクに関する結論.......................................................................... 51 2.5.7 参考文献......................................................................................................................55

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 1

目次

2.5 臨床に関する概括評価 ....................................................................................................2

2.5.1 製品開発の根拠.............................................................................................................3

2.5.2 生物薬剤学に関する概括評価.....................................................................................23

2.5.3 臨床薬理に関する概括評価 ........................................................................................24

2.5.4 有効性の概括評価 .......................................................................................................26

2.5.5 安全性の概括評価 .......................................................................................................38

2.5.6 ベネフィットとリスクに関する結論..........................................................................51

2.5.7 参考文献......................................................................................................................55

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 2

2.5 臨床に関する概括評価

本項で使用した略号及び用語の定義一覧を表 2.5- 1 に示す。

表 2.5- 1 略号及び用語の定義一覧

略号及び用語 定義

ALT Alanine Aminotransferase (GPT):アラニンアミノトランスフェラーゼAST Aspartate Aminotransferase (GOT):アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼAUC Area under the plasma concentration – time curve:血漿中濃度-時間曲線下面積AUCinf Area under the plasma concentration – time curve from t=0 to infinity:時間 0 から無

限時間まで外挿した AUCBMI Body Mass Index:体格指数[体重(kg)/身長(m)2]BSFS Bristol Stool Form Scale:ブリストル便形状スケールCI Confidence interval:信頼区間Cmax Maximum concentration:最高血漿中濃度CRF Corticotropin-Releasing Factor:コルチコトロピン放出因子CYP Cytochrome P450:チトクロム P450FAS Full Analysis Set:最大の解析対象集団FGID Functional Gastrointestinal Disorder:機能性消化管障害GMR Geometric Mean Ratio:幾何平均値比γ-GTP γ-Glutamyl Transferase (GGT):ガンマ-グルタミルトランスフェラーゼ5-HT 5-Hydroxytryptamine:セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン)IBS Irritable Bowel Syndrome:過敏性腸症候群MedDRA/J Medical Dictionary for Regulatory Activities / Japanese version:医薬品規制用語集

日本語版PT Preferred Term:MedDRA 基本語QOL Quality of Life:生活の質QT ECG interval from the start of the Q wave to the termination of the T wave,

representing the total duration of electrical activity of the ventricles:QT 間隔QTc QT interval corrected for heart rate:heart rate で補正した QT 間隔QTcF QT interval corrected using Fridericia’s corrections:Fridericia 式で補正した QT 間隔SMQ Standard MedDRA Queries:MedDRA 標準検索式SOC System Organ Class:MedDRA 器官別大分類tmax Time to attain Cmax:最高血漿中濃度到達時間

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アステラス製薬 3

2.5.1 製品開発の根拠

2.5.1.1 薬理学的分類

ラモセトロン塩酸塩(以下,本薬)は 年にアステラス製薬株式会社において新規に合成さ

れた強力かつ選択的なセロトニン(5-HT)3 受容体拮抗薬である[Miyata, 1991]。本薬はストレ

ス等によって惹起される大腸輸送能亢進及び水分輸送異常並びに大腸痛覚閾値低下等を抑制する

ことにより,臨床において下痢を主症状とする過敏性腸症候群(下痢型 IBS)の各症状(下痢,

腹痛,腹部不快感等)を改善すると考えられる。

2.5.1.2 製品開発の臨床的・科学的背景

2.5.1.2.1 過敏性腸症候群について

過敏性腸症候群(IBS)はその症状を説明し得る器質的疾患,血液生化学的異常を伴わず,腹痛・

腹部不快感と便通異常を主体とし,それら消化器症状が長期間持続若しくは再燃・寛解を繰り返

す機能性疾患である[Drossman, 1994]。その病態には消化管運動の異常,内臓知覚過敏,脳腸相

関の異常,消化管の感染,心理社会的要因等様々な要因が関与していると考えられている

[Longstreth, 2006]。特に,ストレス‐脳‐消化管の関係は脳腸相関と呼ばれ,その異常は IBS を

含めた機能性消化管障害(FGID)の重要な因子である[Spiller, 2007]。ストレスを受けると遠心

性神経を介して消化管運動や内臓知覚の異常が起こり,それらの異常が求心性神経を介して更に

ストレスを悪化させる悪循環を繰り返すため,症状が長期にわたり持続するとされている。

IBS の診断基準は Manning の診断基準[Manning, 1978]が提唱されて以来,多くの診断基準が

提唱されてきたが,1984 年に開催された国際消化器病学会での IBS のシンポジウムを契機とし,

IBS に関する診断・治療ガイドラインの作成機運が高まり,国際的なワーキンググループにより

1989 年に Rome 基準[Thompson, 1989]が提唱された。その後,FGID の全体に対する検討へと発

展し,1999 年に Rome II[Thompson, 1999]が発表され,更に 7 年間の科学的検証を受けて 2006

年に Rome III[Longstreth, 2006]へ改訂され,FGID の国際的な診断基準として広く利用されるよ

うになった。本邦においても本診断基準が IBS 診断の主流となっている。IBS は便通に基づいた

患者のサブグループ分類がされており,Rome III 基準では糞便の形状の割合により便秘型,下痢

型,混合型,分類不能型の 4 つのタイプに分類されている。

IBS は致死的な疾患ではないが,その症状により患者は行動制限を受け,社会的活動に支障を

来すために経済的損失が無視できない規模で生ずることも明らかになっている[Sandler, 1990]。

また,IBS 患者の Quality of life(QOL)は著しく障害され,末期腎臓病患者や糖尿病患者に比べ

ても IBS 患者の QOL は低いとの報告もある[Gralnek, 2000]。IBS の有病率について,海外におけ

る調査では,一般人口のおおむね 5%~20%,1 年間の罹患率は 10 万人当たり 200 人と概算されて

いる[Saito, 2003,Kang, 2005]。また,IBS 患者は消化器外来を訪れる患者の 20%~50%を占める

とも言われ[Ferguson, 1977,Fielding, 1977,Sullivan, 1983,Harvey, 1983,Mitchell, 1987],極めて

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高頻度な慢性の機能性消化器疾患である。欧米では女性の有病率が男性に比べ 2 倍程度高いとさ

れている[Kang, 2005]。また,高齢になるほど IBS の有病率は低く[Saito, 2000],都心部での有

病率は地方部より高いとされている[Sperber, 2005]。

本邦において IBS の有病率を調査した報告は少ないが,Kanazawa らの健康診断受診者を対象と

した調査では,Rome II 基準を用いて有病率を評価すると,全受診者の約 14%が IBS であったと報

告されている[Kanazawa, 2004]。また,Rome III 基準を用い一般成人を対象としたインターネッ

ト調査では,IBS の有病率は 13%であったと報告されており[Miwa, 2008],本邦の有病率は海外

と同程度であると推定される。性別で有病率を見ると Kanazawa らは健康診断受診者を対象とした

調査で女性の約 16%,男性の約 13%が IBS と診断されたと報告している[Kanazawa, 2004]。Kubo

らの健康診断受診者を対象とした調査では,IBS と診断される女性の割合は男性と比べ約 1.8 倍高

いと報告している[Kubo, 2011]。また,一般人口を対象とした調査でも IBS の有病率は男性に比

べ女性で有意に高い(1.7 倍)とされており[Kumano, 2004],おおむね女性に有病率が高いとす

る欧米のデータと合致している。

以上のように,IBS は消化管の機能的疾患であり,有病率は一般人口の 10%~15%を占める高

頻度な消化器疾患である。また,IBS は特徴的な消化器症状により診断されるが,その症状の発

現には中枢神経系からのシグナル伝達が大きく関わっている。

2.5.1.2.2 下痢型 IBS の治療の現状について

本邦では 2002 年に厚生労働省の研究班により「心身症 診断・治療ガイドライン」が策定され,

2006 年に改訂された。その中では IBS の診断ガイドラインとともに治療のガイドラインも示され

た[心身症 診断・治療ガイドライン, 2006]。本ガイドラインでは,プライマリケア医,消化器

専門医及び心療内科医での治療を網羅するため,治療の段階を第 1 段階から第 3 段階に分け示さ

れている。第 1 段階ではまず食事及び生活習慣改善の指導を行ってもなお症状が残存する場合,

下痢型 IBS に対しては第一選択薬として高分子重合体や消化管運動調節薬を用いることが推奨さ

れている。これで改善がなければ乳酸菌製剤を併用し,4~8 週間の治療後,改善がなければ第 2

段階に移る。第 2 段階ではストレスあるいは心理的異常の関与を確認し,関与がある場合は抗不

安薬や抗うつ薬を用い,関与が乏しいと判断された場合,小腸造影や乳糖負荷試験等により器質

的疾患を再度除外するとされている。器質的疾患が除外された場合,下痢にはロペラミド塩酸塩

を投与する。症状に応じ第 1 段階の薬物とこれらの併用療法,簡易精神療法,自律訓練療法を代

表とする弛緩法を試みる。同様に 4~8 週間治療を続け,改善がなければ第 3 段階に移る。第 3 段

階では,心理的異常が影響しているかを判断し,心理的異常が影響していないと考えられる場合

にはバロスタット検査や消化管内圧検査等の消化管機能検査により他の消化管運動異常を除外す

る。IBS の病態的特徴が認められた場合,消化管機能検査が正常であった場合,第 1,2 段階で用

いていない薬物と併用療法を行い,改善がなければ絶食療法,認知行動療法等の専門的な心理療

法を行うことが推奨されている。

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2014 年に日本消化器病学会より発表された機能性消化管疾患の診療ガイドラインでも,基本的

な治療の流れは心身症診断・治療ガイドラインと類似した内容となっている[機能性消化管疾患

診療ガイドライン 2014 -過敏性腸症候群(IBS), 2014]。まず初めに IBS の病態生理を患者が

理解できる言葉で十分に説明し,納得を得て,ここまでの過程において良好な患者―医師関係を

作っておくことが重要であり,また,治療の目標が患者自身の評価による症状改善であることが

明記されている。治療においては病型を問わず,食事と生活習慣改善の指導を行った後,IBS の

治療の第 1 段階では病型の分類を基に,あるいは下痢,腹痛,便秘の優勢症状に基づいて消化管

主体の治療を行うとされている。まず,消化管機能調整薬あるいはプロバイオティクス若しくは

高分子重合体を投与する。下痢型の男性には 5-HT3拮抗薬を投与する。単独投与が基本であるが,

1 段目の薬物(5-HT3 拮抗薬,消化管機能調節薬)と 2 段目の薬剤(プロバイオティクス,高分子

重合体)を組み合わせてもよいとされている。ここまでで改善がなければ病型あるいは優勢症状

に基づき薬剤を追加し,下痢には止痢薬を併用する。これらを薬物の用量を勘案しながら 4~8 週

間続け,改善がなければ第 2 段階に移る。第 2 段階では消化管主体の治療が無効であったことを

踏まえ,中枢機能の調整を含む治療を行う。ただし,第 1 段階の薬物治療との併用も可能とされ

ている。フローチャートに従い治療薬を選択し,本段階でも 4~8 週間の治療を行い改善が認めら

れない場合,第 3 段階に移る。第 3 段階では,薬物療法が無効であったことを踏まえ,心理療法

を行うとされている。

また,治療に関する clinical question では,「下痢型 IBS に 5-HT3拮抗薬は有効か?」の問いに対

して,「下痢型 IBS の治療に 5-HT3拮抗薬は有効である。下痢型 IBS に 5-HT3 拮抗薬を投与するこ

とを推奨する(2013 年時点において本邦では男性のみに保険適用)。」と 5-HT3 拮抗薬が最も強く

推奨(エビデンスレベル A)されている。

男性の下痢型 IBS の治療には 5-HT3 拮抗薬が第一選択薬として推奨されていることから,女性

の下痢型 IBS に対する本薬の開発は,下痢型 IBS に苦慮している女性患者に対して新たな治療の

選択肢を提供する上で臨床的意義があると考えられる。

なお,海外では本薬と同じ作用機序であるアロセトロン塩酸塩が 2000 年に米国で承認された。

アロセトロン塩酸塩の臨床試験では下痢型 IBS 患者を対象として,Rome II 基準に準じた方法で評

価が行われた。しかし,第 II 相試験において男性患者での有効性が確認できず[Camilleri, 1999],

第 III 相試験は女性患者のみを対象として実施された[Camilleri, 2000]。その結果,女性の下痢型

IBS 患者に対する有効性について,プラセボに対する優越性が確認され,承認を得た。しかし,

上市後,外科的処置を要する虚血性大腸炎や死に至る重篤な便秘が報告され,一旦市場から回収

された。その後,患者団体からの要請により,重症で他剤に無効な患者にその使用を限定し,低

用量から投与を開始する等のリスクマネジメントプランが策定された上で,再度市場に戻された。

再上市後の 2002 年 11 月から 2008 年 6 月までの間に,外科的処置を要する虚血性大腸炎や死に至

る重篤な便秘の発現はなく,リスクマネジメントプランの導入によって,重篤な便秘及び虚血性

大腸炎の重症化が抑制されたと考えられる[Chang, 2010]。

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2.5.1.2.3 製品開発の科学的背景

IBS の発症及び症状の発現に関しては,さまざまな心因的ストレスが大きく関与していること

が以前より指摘されている。これらのストレスは,中枢神経における corticotropin-releasing factor

(CRF)等の遊離を介して下行神経の興奮を引き起こし,末梢神経や腸クロム親和性細胞より遊

離される 5-HT 等の伝達物質を介して,消化管運動異常や消化管知覚閾値の低下を引き起こしてい

ると考えられている。実際,IBS 患者ではストレス負荷により小腸及び大腸運動の亢進等の消化

管運動異常が発現するとともに,消化管知覚閾値の低下が認められることが報告されている[福

土, 1999,Bouin, 2002]。

本薬は, 年にアステラス製薬株式会社において新規に合成された強力かつ選択的な 5-HT3

受容体拮抗薬である[Miyata, 1991]。本薬に関する研究開発を開始した当時,5-HT3受容体と IBS

の関係は明らかではなかったが, 年にアステラス製薬株式会社は消化管の収縮を制御する M

受容体と 5-HT3 受容体が同一であることに着目し,中枢神経系を介して消化管運動異常などを引

き起こす IBS を対象として 5-HT3受容体拮抗薬の研究開発を開始した。その結果,下痢型 IBS の

病態モデルと考えられるラットを用いた拘束ストレスモデルにおいて,本薬が拘束ストレスによ

り誘発される下痢あるいは便排出亢進を抑制することを見出した[Miyata, 1992]。また,ストレ

ス関連ホルモンであるCRFの脳室内投与により誘発される便排出亢進に対しても抑制効果を有す

ることを明らかにした[Miyata, 1998]。更に,拘束ストレスよりも心理的要素が大きいと考えら

れる恐怖条件付けストレスによって誘発される便排出亢進に対しても,本薬が抑制作用を示すこ

とを見出した。また,大腸痛覚に対する作用を検討した試験で,本薬は大腸に挿入したバルーン

を拡張したときの拘束ストレスによる痛覚閾値の低下を抑制した[Hirata, 2008]。

以上のように,本薬は 5-HT3 受容体拮抗作用を介して,ストレス等によって誘発される便排出

亢進あるいは大腸痛覚閾値の低下を抑制することが明らかとなり,下痢型 IBS 患者の下痢症状あ

るいは腹痛を改善する可能性が示唆された。

2.5.1.2.4 製品開発の臨床的背景

ラモセトロン塩酸塩(以下,本剤)の IBS 患者を対象とした臨床試験の実施時期は大きく 2 つ

の時期に分かれている。まず 年から 年にかけて第 II相試験[CL-006],[CL-007],[CL-008]

及び[CL-009]を実施し,1 日投与量 0.01 mg~1.2 mg の範囲で有効性及び安全性を検討した。こ

れらの試験において,一部の有効性評価項目で本剤は有効性を示したが,当時一般化された有効

性の評価方法がなく,これ以上の臨床開発は困難と判断し, 年に開発を中断した。

その後,1999 年に IBS を含む機能性消化器疾患の国際的診断基準である Rome II 基準が発表さ

れた。Rome II 基準では診断基準のみならず,有効性の評価方法等の推奨事項が示されており,こ

れらを参考に本剤の臨床開発が再開可能であると判断し, 年より第 II 相試験[CL-201],第

III 相試験[CL-202]及び長期投与試験[CL-203]を順次実施し,1 日投与量 1 μg~10 μg の範囲

で有効性及び安全性を検討した。これらの試験では,IBS は症候群であり,その主訴や有する症

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ノート注釈
YPC09868 : Marked
YPC09868
ノート注釈
YPC09868 : Marked
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状も被験者ごとに異なることから,被験者が有するすべての自覚症状を総合的に評価することが

重要であると考え,被験者により評価を行う「IBS 症状の全般改善効果」を主要評価項目とした。

更に,Rome II 基準における IBS の定義は腹痛・腹部不快感を伴う排便異常であることから,「IBS

症状の全般改善効果」の下位指標として,下痢型 IBS 患者における主要な自覚症状である腹痛・

腹部不快感及び下痢症状(便形状,排便回数,便意切迫感等)に対する評価をそれぞれ「腹痛・

腹部不快感改善効果」,「便通状態改善効果」とし主要な副次評価項目に設定した。その結果,第

III 相試験[CL-202]の男性の下痢型 IBS 患者において本剤 5 μg の有効性が確認された。また,

第 II 相試験[CL-201]及び長期投与試験[CL-203]を含め有害事象の程度はほとんどが軽度であ

り,男性の下痢型 IBS患者において 10 μgまでの安全性が確認された。また,長期投与試験[CL-203]

において,本剤 5 μg より投与を開始し,効果の程度に応じて投与量の増減(2.5 μg あるいは 10 μg)

を行ったところ,増減量の有用性が示唆された。安全性に関しても,減量により有害事象の発現

割合は減少し,増量による有害事象発現割合の著しい上昇はみられなかった。したがって,本剤

の効果の程度に応じて減量あるいは増量することにより,安全性を確保しつつ継続的に治療をコ

ントロールすることが可能であり,患者を含めた医療現場のニーズに対応できると考えられた。

以上の成績より,日本国内における本剤の効能・効果を「男性における下痢型過敏性腸症候群」

とし,イリボー®錠 2.5 μg,同錠 5 μg が 2008 年 7 月に厚生労働省より製造販売承認を受けた。

一方,第 III 相試験[CL-202]において,性別に IBS 症状の全般改善効果の月間レスポンダー率

を χ2検定(有意水準:両側 0.05)を用いて比較した結果,女性では本剤 5 μg のプラセボに対する

有意な改善が認められなかった。また,安全性に関して男性に比べ女性で本剤の薬理作用に基づ

くと考えられる有害事象(便秘,硬便,腹部膨満)の発現割合が高い傾向を認めた。更に,健康

成人を対象とした性差試験[CL-205]において,本剤 5 μg の単回投与時における女性の Cmax及び

AUC は男性のそれぞれ約 1.5 倍及び約 1.7 倍と男性に比べ女性で高かった。以上のことから,製

造販売承認申請(以下,初回申請)の審査過程において,女性の下痢型 IBS 患者に対する有効性

及び安全性について,今後追加の検討が必要であるとされた。また,医薬品医療機器総合機構(以

下,機構)は全般改善度による総合的な判断に加えて,「患者の主訴や IBS の主な症状の重症度に

着目した臨床的意義のある改善効果」を評価することも,本剤による治療効果の程度をより明確

にする上で有用であったと考え,製造販売後に臨床試験を実施することにより,IBS の個々の症

状改善に対する本剤の特徴を確認するよう求めた。そのため,新たな評価指標の探索を目的とし

た男性の下痢型 IBS 患者を対象とした製造販売後臨床試験[CL-500]を実施したところ,個々の

症状では便形状の変化が本剤の臨床的特徴を最も良く表す指標であると考えられた。これについ

ては,これまでに実施した臨床試験においても同様の結果であった。そこで,便形状が比較的重

症[観察期ブリストル便形状スケール(以下,「BSFS」)平均値が 5 を超える]である患者を対象

として,便形状が本剤によりどの程度正常化するかを評価することが,IBS の個別の症状改善に

対する本剤の特徴を明確にする上で適していると考え,「便形状正常化」の月間レスポンダー率を

主要評価項目とした製造販売後臨床試験[CL-501]を実施した。その結果,本剤 5 μg のプラセボ

に対する優越性が検証され,下痢型 IBS 患者において便形状を正常化する効果が本剤の特徴であ

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臨床に関する概括評価

アステラス製薬 8

ることが確認された[Fukudo, 2014]。更に,機構より IBS の治療目的は,腹痛や便通異常等の症

状の改善とそれに伴う Quality of life(QOL)の向上であると考えるため,今後実施する臨床試験

及び製造販売後臨床試験において治療効果の評価指標として IBS に特異的な QOL 指標を確立し,

本剤の効果を検討していく必要があるとの見解も受けたことから,製造販売後臨床試験[CL-501]

では「IBS-QOL」を副次評価項目として設定した。その結果,本剤 5 μg はプラセボに対して統計

的有意に QOL を改善することが示された。

以上を踏まえ,本剤の女性の下痢型 IBS に対する効能・効果の追加を目的とし,2010 年より第

II 相試験(女性)[CL-701],第 III 相試験(女性)[CL-702]及び長期投与試験(女性)[CL-703]

を順次開始した。

なお,剤型追加として 2013 年にイリボー®OD 錠 2.5 μg 及び同錠 5 μg が「男性おける下痢型過

敏性腸症候群」を効能・効果として承認された。また,他のラモセトロン塩酸塩製剤として 1996

年にナゼア®注射液 0.3 mg 及び 1998 年にナゼア®OD 錠 0.1 mg が「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン

等)投与に伴う消化器症状(悪心,嘔吐)」を効能・効果として承認されている。

2.5.1.3 臨床開発計画及び関連するガイダンス

2.5.1.3.1 国内における臨床試験

これまでに国内で実施した臨床試験の一覧を表 2.5- 2 に示す。

女性の下痢型 IBS 患者に対する有効性及び安全性を追加で検討するため,新たに Rome III 基準

の女性の下痢型 IBS 患者を対象とした第 II 相試験(女性)[CL-701],第 III 相試験(女性)[CL-702]

及び長期投与試験(女性)[CL-703]を実施した。

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アステラス製薬 9

表 2.5- 2 国内で実施した臨床試験一覧

対象被験者試験

番号試験名

被験

者数

主たる

試験目的

試験の

デザイン

投与量

投与方法有効性主要評価項目 安全性評価項目

投与

期間

添付資料

番号

健康成人(男

性及び女性)CL-205 性差試験 40

薬物動態

安全性

非盲検,非対照

試験

ラモセトロン塩酸塩 5 μg

1 日 1 回経口投与-

有害事象,臨床検査

値,12 誘導心電図,

バイタルサイン

単回 5.3.3.3-1

健康成人

(男性)CL-207

食事の影響

試験20

薬物動態

安全性

2 群 2 時期

クロスオーバー試験

ラモセトロン塩酸塩 5 μg

(食後,空腹下)

1 日 1 回経口投与

有害事象,臨床検査

値,12 誘導心電図,

バイタルサイン

単回 -

IBS 患者 CL-006 第 II 相試験 52有効性

安全性

非盲検,非対照

試験

ラモセトロン塩酸塩 0.3,

0.6mg, 1 日 2 回経口投与

全般改善効果

(医師による評価)

有害事象(副作用),

臨床検査値,バイタル

サイン

2 週間 -

便秘型 IBS

患者CL-007 第 II 相試験 23

有効性

安全性二重盲検群間比較試験

ラモセトロン塩酸塩 0.03,

0.1mg, 1 日 2 回経口投与

全般改善効果

(医師による評価)

有害事象(副作用),

臨床検査値,バイタル

サイン

2 週間 -

下痢型及び交

替型 IBS 患者CL-008 第 II 相試験 148

有効性

安全性二重盲検群間比較試験

ラモセトロン塩酸塩 0.01,

0.1, 0.3mg, 1 日 2 回経口投与

全般改善効果

(医師による評価)

有害事象(副作用),

臨床検査値,バイタル

サイン

2 週間 -

下痢型及び交

替型下痢相

IBS 患者

CL-009 第 II 相試験 108有効性

安全性

二重盲検,プラセボ対

照,群間比較試験

ラモセトロン塩酸塩 0.01mg,

プラセボ, 1 日 1 回あるいは

1 日 2 回経口投与

全般改善効果

(医師による評価)

有害事象(副作用),

臨床検査値,バイタル

サイン

2 週間 -

下痢型 IBS

患者(男性及

び女性)

CL-201 第 II 相試験 417有効性

安全性

二重盲検,プラセボ対

照,群間比較試験

ラモセトロン塩酸塩 1,5,10

μg 又はプラセボ,

1 日 1 回経口投与

IBS 症状の全般改善効果

(被験者による評価)有害事象,臨床検査値 12 週間 5.3.5.1-3

下痢型 IBS

患者(男性及

び女性)

CL-202 第 III 相試験 539有効性

安全性

二重盲検,プラセボ対

照,群間比較試験

ラモセトロン塩酸塩 5 μg

又はプラセボ,

1 日 1 回経口投与

IBS 症状の全般改善効果

(被験者による評価)有害事象,臨床検査値 12 週間 5.3.5.1-4

下痢型 IBS

患者(男性及

び女性)

CL-203長期投与

試験342

有効性

安全性

非盲検,非対照

試験

ラモセトロン塩酸塩 5 μg

(2.5 μg へ減量及び 10 μg へ

の増量可),

1 日 1 回経口投与

- 有害事象,臨床検査値

28 週間

以上(最

長 52 週

間)

5.3.5.2-2

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 10

対象被験者試験

番号試験名

被験

者数

主たる

試験目的

試験の

デザイン

投与量

投与方法有効性主要評価項目 安全性評価項目

投与

期間

添付資料

番号

下痢型 IBS

患者(女性)CL-701

第 II 相試験

(女性)409

有効性

安全性

二重盲検,プラセボ対

照,群間比較試験

ラモセトロン塩酸塩 1.25,

2.5,5 μg 又はプラセボ,

1 日 1 回経口投与

IBS 症状の全般改善効果

(被験者による評価)有害事象,臨床検査値 12 週間 5.3.5.1-1

下痢型 IBS

患者(女性)CL-702

第 III 相試験

(女性)576

有効性

安全性

二重盲検,プラセボ対

照,群間比較試験

ラモセトロン塩酸塩 2.5 μg

又はプラセボ,

1 日 1 回経口投与

IBS 症状の全般改善効果

便形状正常化

(被験者による評価)

有害事象,臨床検査値 12 週間 5.3.5.1-2

下痢型 IBS

患者(女性)CL-703

長期投与試

(女性)

151有効性

安全性

非盲検,非対照

試験

ラモセトロン塩酸塩 2.5 μg

(5 μg への増量可),

1 日 1 回経口投与

- 有害事象,臨床検査値 52 週間

5.3.5.2-1(28 週)5.3.5.2-1.1(52 週)

下痢型 IBS

患者(男性)CL-500

製造販売後

臨床試験

(男性)

98評価指標

の探索

単盲検,プラセボ対

照,群間比較試験

ラモセトロン塩酸塩 5 μg

又はプラセボ,

1 日 1 回経口投与

- 有害事象,臨床検査値 12 週間 -‡

下痢型 IBS

患者(男性)CL-501

製造販売後

臨床試験

(男性)

296有効性

安全性

二重盲検,プラセボ対

照,群間比較試験

ラモセトロン塩酸塩 5 μg

又はプラセボ,

1 日 1 回経口投与

便形状正常化

(被験者による評価)有害事象,臨床検査値 12 週間 -‡

†:被験者数は治験薬投与例数とした。

‡:再審査申請概要は 5.3.6-1 に添付した。

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臨床に関する概括評価

アステラス製薬 11

2.5.1.3.2 治験相談

2.5.1.3.2.1 相談(P : 年 月 日)

女性の下痢型 IBS に関して, 年 月 日に

相談(P )を実施し, , 及び を設定し,主要評価項目

を とし,

とした を実施することの適切性,及び申請データパッケージについて相談した。

その結果,機構は性差試験[CL-205]において,女性では男性に比し曝露量が高かったこと,

及び第 II 相試験[CL-201]及び第 III 相試験[CL-202]において,本剤の薬理作用に基づくと考

えられる便秘,硬便及び腹部膨満等の有害事象の発現率が男性に比べて女性で高かったことを踏

まえると, であり,

することは差し支えないと考える。ただし,

, ,

, ,

との見解を得た。また,

, と考えるため,

, との見解を得た。

については,本剤は長期間投与される可能性があること,

と考える。既に実施

された長期投与試験[CL-203]の成績(28 週投与 50 例,52 週投与 30 例)を利用することは可能

であると考えるが,「致命的ではない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階に

おいて安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について」(平成 7 年 5 月 24 日 薬審第

592 号)を踏まえると,女性について十分な症例数の成績が得られていないと考えられるため,

女性の下痢型 IBS 患者を対象とした長期投与試験を別途実施する必要があるとの見解を得た。

この相談結果を基に , , , 及び

及び を行う

こととした。また, ,

こととした。

2.5.1.3.2.2 相談(P : 年 月 日)

を踏まえ, 年 月 日に 相

談(P )を実施し,

及び について相談した。

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臨床に関する概括評価

アステラス製薬 12

相談事項 1. について

1-1. について

において,

,また

と考える。しかしながら,

2.5 μg では 5 μg 群と比べて有害事象の発現率及び本剤の薬理作用に基づくと考えられる有害事象

である便秘の発現率が低い傾向にある一方,1.25 μg 群と比べてそれらの発現率が大きくならない

傾向にある。

と考えられることから,

との見解を得た。

1-2. について

において,

また, で,

された。そのため, ,

必要があり,

と考えるとの見解を受け,

こととした。

なお, を実施する際,

があるが, について,

から,

になる。それにより,

を踏まえ, との見解を得た。

1-3. について

, と考える。なお,

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臨床に関する概括評価

アステラス製薬 13

との見解を得た。

1-4. について

ために,

について,

との見解を受けた。

相談事項 2. について

2-1. について

「致命的ではない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を

評価するために必要な症例数と投与期間について」(平成 7 年 5 月 24 日 薬審第 592 号)に基づ

き,長期投与試験[CL-203]の成績(女性患者 52 週投与例 30 例)に加え,

,その中で

について,

との見解を得た。

2-2. について

において,

との見解を得た。

相談事項 3.申請データパッケージについて

第 III 相試験(女性)[CL-702]と長期投与試験(女性)[CL-703]において期待する成績が得

られた場合には,表 2.5- 3 に提示した申請データパッケージに異論はないとの見解を得た。

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アステラス製薬 14

表 2.5- 3 女性適応追加申請時の臨床データパッケージ案

分類地

域区分 試験数 内容 試験名

被験者数

(男性 / 女

性)

第 II 相試験日

評価

資料2

プラセボ対照二重盲検

群間比較試験

第 II 相試験[CL-201] 417(320 / 97)

第 II 相試験[CL-701] 409(0 / 409)

第 III 相試験日

評価

資料2

プラセボ対照二重盲検

群間比較試験

第 III 相試験[CL-202] 539(442 / 97)

第 III 相試験[CL-702]女性のみ

640 例

長期投与試

評価

資料2 長期投与試験

長期投与試験[CL-203] 342(272 / 70)

長期投与試験[CL-703]女性のみ

90 例

製造販売後

臨床試験

参考

資料1

プラセボ対照二重盲検

群間比較試験製造販売後臨床試験[CL-501] 296(296 / 0)

なお,この他,健康成人を対象とした QT/QTc 試験[CL-314]及び男性の下痢型 IBS 患者を対象

とした評価指標検討のための予備的な試験(製造販売後臨床試験[CL-500])が実施済みである。

2.5.1.3.3 臨床試験デザインと設定根拠・留意点

本申請の評価に用いた臨床試験と評価方法等の主な相違点を表 2.5- 4 に示した。

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臨床に関する概括評価

アステラス製薬 15

表 2.5- 4 各試験におけるプロトコルの相違点

第 II 相試験

[CL-201]†

第 III 相試験

[CL-202]†

長期投与試

験[CL-203]

第 II 相試験

(女性)

[CL-701]

第 III 相試験

(女性)

[CL-702]

長期投与試

験(女性)

[CL-703]

対象患者 下痢型 IBS

患者(男性及

び女性)

下痢型 IBS

患者(男性及

び女性)

下痢型 IBS

患者(男性及

び女性)

下痢型 IBS

患者(女性)

下痢型 IBS

患者(女性)

下痢型 IBS

患者(女性)

診断基準 RomeII 基準

に準ずる

RomeII 基準

に準ずる

RomeII 基準

に準ずる

RomeIII 基

準に準ずる

RomeIII 基

準に準ずる

RomeIII 基

準に準ずる

投与期間 12 週間 12 週間 28 週間(最

長 52 週間)

12 週間 12 週間 52 週間

用量 ラモセトロ

ン塩酸塩 1,

5,10 μg 又は

プラセボ

ラモセトロ

ン塩酸塩

5 μg,又はプ

ラセボ

ラモセトロ

ン塩酸塩

5 μg(2.5 μg

へ減量及び

10 μg への増

量可)

ラモセトロ

ン塩酸塩

1.25,2.5,

5 μg 又はプ

ラセボ

ラモセトロ

ン塩酸塩

2.5 μg 又は

プラセボ

ラモセトロ

ン塩酸塩

2.5 μg(5 μg

への増量

可)

主要評価

項目

IBS 症状の

全般改善効

IBS 症状の

全般改善効

- IBS 症状の

全般改善効

IBS 症状の

全般改善効

果,便形状

正常化

主要解析

時期

最終時点 最終時点 - 1 カ月目 最終時点 -

QOL 評価 - SF-36 - IBS-QOL IBS-QOL IBS-QOL

試験実施

期間

2002 年 11 月

~2003 年 9

2004 年 8 月

~2005 年 7

2004 年 10 月

~2006 年 3

2010年 11月

~2011 年 11

2013 年 2 月

~2014 年 2

2012 年 9 月

~2014 年 5

月(52 週)

†第 II 相試験[CL-201],第 III 相試験[CL-202]及び長期投与試験[CL-203]については,女性での安全性の成

績を評価の対象とした。

2.5.1.3.3.1 有効性の主要評価項目

初回申請の審査の中で,機構より全般改善度による総合的な判断に加えて,「患者の主訴や IBS

の主な症状の重症度に着目した臨床的意義のある改善効果」を評価することも,本剤による治療

効果の程度をより明確にする上で有用であったと考え,製造販売後に臨床試験を実施することに

より,IBS の個々の症状改善に対する本剤の特徴を確認するよう求められた。

そのため,コプライマリエンドポイント探索のための男性の下痢型 IBS 患者を対象とした製造

販売後臨床試験[CL-500]を実施したところ,個々の症状では便形状の変化が本剤の臨床的特徴

を最も良く表す指標であると考えられた。これについては,これまでに実施した臨床試験におい

ても同様の結果であった。そこで,便形状が本剤によりどの程度正常化するかを評価することが,

IBS の個別の症状改善に対する本剤の特徴を明確にする上で適していると考え,「便形状正常化」

の月間レスポンダー率を主要評価項目とした製造販売後臨床試験[CL-501]を実施することとし

た。「便形状正常化」の月間レスポンダー率は,治療期中 1 週間の BSFS 平均値が 3 以上 5 以下か

つ,観察期中 1 週間(7 日間)の BSFS 平均値から 1 以上減少した被験者を週間レスポンダーとし,

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臨床に関する概括評価

アステラス製薬 16

月間(4 週間)のうち 2 週間以上が週間レスポンダーであった被験者を月間レスポンダーと定義

した。そのため,男性の下痢型 IBS 患者のうち,観察期の BSFS 平均値が 5 を超える患者を対象

として実施した。これら試験計画については, 年 月 日に実施した

相談(P )にて機構に了承された。

その結果,主要な解析時期である 1 カ月目及びその他のすべての評価時期(2 カ月目,3 カ月目,

最終時点)において,本剤 5 μg 群の月間レスポンダー率はプラセボ群と比較して統計的有意に高

いことが示され,本剤 5 μg 群のプラセボ群に対する優越性が検証された。したがって,観察期の

BSFS 平均値が 5 を超える患者に限定することで,本指標により本剤の治療効果の特徴を明確にす

ることができると考えられた。

男性の下痢型 IBS 患者を対象とした製造販売後臨床試験[CL-501]と同時期に開始した女性の

下痢型 IBS 患者を対象とした第 II 相試験(女性)[CL-701]では, 年 月 日に実施した

相談(P )にて機構から,

との見解を受け,

。その結果,本剤 1.25 μg,2.5 μg,

5 μg 群の便形状正常化の月間レスポンダー率はいずれも 1 カ月目及び最終時点においてプラセボ

群と比較して統計的有意に高いことが示され,男性同様,女性においても本剤の治療効果の特徴

を明確にすることができた。

一方,

を受け, ,

。した

がって , ,

と考えられた。

以上を踏まえ, として,

との見解を受け,

2.5.1.3.3.2 主要評価項目の主要な解析時期

第 II 相試験(女性)[CL-701]の計画時には,本剤 2.5 μg 群とプラセボ群を比較したデータが

存在しなかったことから,第 II 相試験(女性)[CL-701]では,以下の理由により有効性の主要

評価項目の主要な解析時期を 1 カ月目とした。また, 年 月 日に実施した

相談(P )にて

, との見解を受け,

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臨床に関する概括評価

アステラス製薬 17

とした。

● 第 II 相試験[CL-201]及び第 III 相試験[CL-202]の 5 μg 群の女性では,IBS 症状の全般改

善効果の月間レスポンダー率において投与 1 カ月目からプラセボ群との差が認められ,1 カ

月目でほぼ最大値となっている。

● Rome III では経過観察期間として“for drugs that relieve symptoms, 2 to 6 weeks may be sufficient”

との記載がある。

● IBS 症状を早期に改善させることは臨床的意義が高く,投与 1 カ月目等の早い時期に有効性

を評価することは医療ニーズとも合致している。

その結果,第 II 相試験(女性)[CL-701]において,本剤の臨床推奨用量と判断した 2.5 μg 群

とプラセボ群との IBS 症状の全般改善効果の月間レスポンダー率の差は,1 カ月目において 10%

程度認められたが,2 カ月目,3 カ月目,最終時点と比較して,1 カ月目で最も小さかった。一方,

本剤 5 μg 群では,第 II 相試験[CL-201]及び第 III 相試験[CL-202]と同様に 1 カ月目にプラセ

ボ群との差が最大であった。また,本剤 1.25 μg 群では,1 カ月目における IBS 症状の全般改善効

果の月間レスポンダー率はプラセボ群を 10%程度上回ったが,その後月間レスポンダー率に変化

はみられず,プラセボ群との差が認められなくなった。したがって,1 カ月目における IBS 症状

の全般改善効果の月間レスポンダー率と本剤群の用量との相関性は明確ではなく,1 カ月目では

その後の有効性の変動を捉えきることができないことが考えられた。

また,IBS では症状出現に対する不安感,恐怖感が症状を更に悪化させる悪循環がおこってい

るため,症状をある程度長期にわたり改善し,この悪循環を断ち切る必要があることから 3 カ月

程度を治療の 1 クールとすることが妥当と考えられ,その点を踏まえイリボー®錠 2.5 μg,同錠 5 μg

の添付文書の使用上の注意にも「投与開始 3 カ月を目途に,治療の継続,終了を検討すること」

と記載されている。

以上の点より,本剤の初回承認時と同様に,第 III 相試験(女性)[CL-702]の主要な解析時期

は,最終時点(12 週投与)に設定することが適切と判断した。

2.5.1.3.3.3 QOL 評価

初回申請の審査の中で,機構より,IBS の治療目的は,腹痛や便通異常等の症状の改善とそれ

に伴う QOL の向上であると考えるため,治療効果の評価指標としては IBS 症状の全般改善効果の

みではなく QOL も重要であること,第 III 相試験[CL-202]で用いた SF-36 による QOL 評価は

IBS に特異的ではないため,今後実施する臨床試験及び製造販売後臨床試験において治療効果の

評価指標として IBS に特異的な QOL 指標を確立し,本剤の効果を検討していく必要があるとの見

解を受けた。そこで,男性の下痢型 IBS 患者を対象とした製造販売後臨床試験[CL-500]におい

て,IBS に特異的な QOL 指標のうち本邦で日本語版の調査票が利用可能な「IBS-QOL」[Kanazawa,

2007]を探索的に検討した後,続く製造販売後臨床試験[CL-501]において「IBS-QOL」を副次

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 18

評価項目として設定した。その結果,男性の下痢型 IBS 患者において本剤 5 μg はプラセボに対し

て統計的有意に QOL を改善することが示された。

以上を踏まえ,第 III 相試験(女性)[CL-702]においても,本剤の QOL に対する改善効果を検

討するため「IBS-QOL」を副次評価項目として設定した。

2.5.1.3.3.4 Rome II から Rome III への改訂に伴う診断基準の変更点

初回申請時の臨床試験(第 II相試験[CL-201],第 III相試験[CL-202]及び長期投与試験[CL-203])

では,2.5.1.2.4 製品開発の臨床的背景に示したように,IBS を含む機能性消化管疾患の国際的診

断基準として,Rome II 基準に準じた診断基準を用いたが,2006 年 5 月に Rome III 基準に改訂さ

れたことから,本申請のために新たに実施した第 II 相試験(女性)[CL-701],第 III 相試験(女

性)[CL-702]及び長期投与試験(女性)[CL-703]では,Rome III 基準に準じた診断基準を用い

た。

Rome III 基準への改訂に伴う変更点を表 2.5- 5 に示した。Rome II 基準と Rome III 基準ではとも

に,腹痛・腹部不快感を有し,1.排便により軽快する,2.発症時に排便頻度の変化がある,3.

発症時に便形状(外観)の変化がある,の 3 項目のうち,2 項目以上を伴うとされており,基本

的な診断基準の変更はないが,Rome III 基準では,診断する際の有症状期間や症状発現時期に変

更がなされた。また,IBS サブタイプ分類においても,BSFS のみを用いて分類するよう変更され

た。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 19

表 2.5- 5 Rome II から Rome III への改訂に伴う診断基準の変更点

Rome II に準じた基準 Rome III に準じた基準

試験番号 [CL-201],[CL-202],[CL-203] [CL-701],[CL-702],[CL-703]

症状 発症時に以下の 2 項目以上があてはまる

・排便により改善する

・発症時に排便頻度の変化がある

・発症時に便形状(外観)の変化がある

発症時に以下の 2 項目以上があてはまる

・排便により改善する

・発症時に排便頻度の変化がある

・発症時に便形状(外観)の変化がある

有症状期間 仮登録前の 3 カ月間に 3 週以上あった患

者†

最近 3 カ月間は 1 カ月あたり 3 日以上あっ

た患者

症状発現

時期

指定なし 仮登録の 6 カ月以上前

下痢型 IBSの

分類基準

下記の 1~3 の項目を 1 つ以上有し,かつ

4~6 の項目を有さない患者(有症状時)

1.排便回数が 3 回/日以上

2.泥状便あるいは水様便(BSFS のタイ

プ 6,7)

3.便意切迫感を有する

4.排便の回数が 3 回/週未満

5.兎糞状便あるいは硬便(BSFS のタイ

プ 1,2)

6.排便困難感を伴う

最近 3 カ月間に軟便(泥状便)又は水様便

(BSFS のタイプ 6,7)が 25%以上あり,

硬便又は兎糞状便(BSFS のタイプ 1,2)

が 25%未満の患者

下線:Rome III への変更点

†:Rome II Modular Questionaire に基づく。

1 週間に 1 日でも症状が発現した週を有症状週とした。なお,3 週間は連続していなくてもよいとした。

2.5.1.3.4 臨床データパッケージ

本申請のおける臨床データパッケージを表 2.5- 6 に示す。

女性の下痢型 IBS に対する効能・効果の追加を目的として実施した第 II 相試験(女性)[CL-701],

第 III 相試験(女性)[CL-702],長期投与試験(女性)[CL-703]と,初回申請に用いた試験のう

ち,女性の成績が含まれる性差試験[CL-205],薬物相互作用試験(フルボキサミン)[CL-311],

薬物相互作用試験(パロキセチン)[CL-312],第 II 相試験[CL-201],第 III 相試験[CL-202]及

び長期投与試験[CL-203]を臨床データパッケージに含めた。また,初回申請時以降に実施した

QT/QTc 評価試験[CL-314]を本申請のデータに加えた。薬物相互作用 2 試験([CL-311]及び

[CL-312])及び QT/QTc 評価試験[CL-314]は海外で実施し,その他は国内で実施した。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 20

表 2.5- 6 本申請における臨床データパッケージ

分類 地域 試験

内容 試験名 添付資料番号

第 I 相試験及び

臨床薬理試験

日本 1 健康成人対象第 I 相

試験及び薬物動態試

性差試験[CL-205] 5.3.3.3-1

海外 2 薬物相互作用試験 薬物相互作用試験(フルボキサミ

ン)[CL-311]

5.3.3.4-1

薬物相互作用試験(パロキセチ

ン)[CL-312]

5.3.3.4-2

1 健康成人対象第 I 相

試験

QT/QTc 評価試験[CL-314] 5.3.4.1-1

第 II 相試験 日本 2 プラセボ対照二重盲

検群間比較試験

第 II 相試験[CL-201]† 5.3.5.1-3

第 II 相試験(女性)[CL-701] 5.3.5.1-1

第 III 相試験 日本 2 プラセボ対照二重盲

検群間比較試験

第 III 相試験[CL-202]† 5.3.5.1-4

第 III 相試験(女性)[CL-702] 5.3.5.1-2

長期投与試験 日本 2 長期投与試験 長期投与試験[CL-203]† 5.3.5.2-2

長期投与試験(女性)[CL-703] 5.3.5.2-1(28 週)

5.3.5.2-1.1(52 週)

†第 II 相試験[CL-201],第 III 相試験[CL-202]及び長期投与試験[CL-203]については,女性での安全性の成

績を評価の対象とした。

参考として初回申請時の臨床データパッケージ(評価資料)を表 2.5- 7 に示す。

表 2.5- 7 初回申請時の臨床データバッケージ(評価資料)

分類 地域 試験数 内容 試験名

第 I 相試験

及び

臨床薬理試験

日本 3

健康成人対象第 I 相試

験及び薬物動態試験

性差試験[CL-205]

食事の影響試験[CL-207]

患者対象薬物動態試験 長期投与試験[CL-203]

海外 2 薬物相互作用試験

薬物相互作用試験

(フルボキサミン)[CL-311]

薬物相互作用試験

(パロキセチン)[CL-312]

第 II 相試験 日本 1プラセボ対照二重盲検

群間比較試験第 II 相試験[CL-201]

第 III 相試験 日本 1プラセボ対照二重盲検

群間比較試験第 III 相試験[CL-202]

長期投与試験 日本 1 長期投与試験 長期投与試験[CL-203]

なお,イリボー®錠 2.5 μg,同錠 5 μg は男性における下痢型過敏性腸症候群の効能・効果で 2008

年 7 月に製造販売承認を取得し,2012 年 10 月に再審査申請を行い,2014 年 3 月に再審査を終了

した。再審査期間中に男性の下痢型 IBS 患者を対象に実施した製造販売後臨床試験([CL-500]及

び[CL-501])の成績は, 5.3.6-1 再審査申請資料概要に示した。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 21

2.5.1.3.4.1 臨床薬理に関する臨床データパッケージ

本申請では,初回申請時に実施した試験のうち,女性の成績が含まれる性差試験[CL-205],薬

物相互作用試験(フルボキサミン)[CL-311]及び薬物相互作用試験(パロキセチン)[CL-312]

を用いて薬物動態を評価した。また,初回申請時以降に実施した QT/QTc 評価試験[CL-314]を

本申請のデータに加えた。

2.5.1.3.4.2 有効性に関する臨床データパッケージ

本申請では,女性の下痢型 IBS に対する効能・効果の追加を目的として実施した第 II 相試験(女

性)[CL-701],第 III 相試験(女性)[CL-702]及び長期投与試験(女性)[CL-703]の 3 試験に

より有効性を評価した。

2.5.1.3.4.3 安全性に関する臨床データパッケージ

安全性に関しては,女性の下痢型 IBS に対する効能・効果の追加を目的として実施した第 II 相

試験(女性)[CL-701],第 III 相試験(女性)[CL-702]及び長期投与試験(女性)[CL-703]に,

初回申請時に実施した 3 試験(第 II 相試験[CL-201],第 III 相試験[CL-202]及び長期投与試験

[CL-203])の女性の成績を加えて評価を行った。また,健康成人を対象とした性差試験[CL-205],

薬物相互作用試験(フルボキサミン)[CL-311],薬物相互作用試験(パロキセチン)[CL-312]及

び QT/QTc 評価試験[CL-314]の安全性の成績についても検討を行った。

2.5.1.3.5 臨床試験に関するガイダンス

IBS の有効性評価に関して,これまで各国で consensus の得られた指標はないが,Food and Drug

Administration(以下,FDA)から 2012 年 5 月に IBS を対象とした臨床試験に関するガイダンスが

示された[Guidance for Industry: Irritable Bowel Syndrome – Clinical Evaluation of Drugs for Treatment,

2012]。また,European Medicines Agency(以下,EMA)からは 2013 年 6 月に IBS を対象とした

臨床試験に関するガイドラインのドラフト版が公表された[Guideline on the evaluation of medicinal

products for the treatment of irritable bowel syndrome Draft,2013]。それらの中で,下痢型 IBS の臨床

試験デザインに関して推奨されている事項を表 2.5- 8 に示した。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 22

表 2.5- 8 欧米の下痢型 IBS の有効性評価に関するガイダンス

FDA EMA

主要評価項目 ・腹痛強度

・便形状

・腹痛強度

・便形状

組み入れ基準 ・腹痛強度

1日(過去 24 時間)の腹痛最悪値(スケー

ル 0 - 10)の週平均が 3 以上

・便形状

BSFS type 6 or 7 の日が 1 週間に少なくと

も 2 日以上

規定なし

レスポンダーの定義 週間レスポンダー

・腹痛強度

1日(過去 24 時間)の腹痛最悪値の週平

均が観察期と比較し 30%以上減少

・便形状

BSFS type 6 or 7 の 1 週間あたりの日数が

観察期と比較し 50%以上減少

両項目ともに週間レスポンダーであった

被験者を週間レスポンダーと定義する。

*Daily レスポンダーを定義してもよい。

週間レスポンダー

・腹痛強度

1日(過去 24 時間)の腹痛最悪値の週平

均が観察期と比較し 30%以上減少

・便形状

BSFS type 6 or 7 の 1 週間あたりの日数が観

察期と比較し 50%以上減少

両項目ともに週間レスポンダーであった

被験者を週間レスポンダーと定義する。

*Daily レスポンダーを定義してもよい。

プラセボに対する

有効性

治療期間の 50%以上で週間レスポンダー

であった被験者の割合を求め,プラセボ群

と比較する。

*Daily レスポンダーを定義してもよい。

治療期間の 50%以上で週間レスポンダーで

あった被験者の割合を求め,プラセボ群と

比較する。

*Daily レスポンダーを定義してもよい。

備考 IBS 症状のひとつの症状にのみ作用する

薬剤の場合は,主要評価項目を一つにし,

他の項目については悪化が認められてな

いことを確認する。

2.5.1.3.6 その他の関連するガイダンス

国内で実施されたすべての臨床試験は,薬事法第 14 条 3 項及び第 80 条の 2 に規定する基準,

「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成 9 年 3 月 27 日厚生省令第 28 号),医薬品

の臨床試験実施の基準の運用について」(平成 9 年 5 月 29 日薬審第 445 号・薬安第 68 号)及び中

央薬事審議会答申「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)の内容」に従い実施した。

各試験の有効性及び安全性の統計解析に関しては,平成 10 年 11 月 30 日付医薬審第 1047 号「臨

床試験のための統計的原則」及び平成 13 年 2 月 27 日付医薬審発第 136 号「臨床試験における対

照群の選択とそれに関連する諸問題」のガイドラインを考慮して実施した。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

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2.5.2 生物薬剤学に関する概括評価

本申請にあたり,新たに実施した生物薬剤学に関する試験はない。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 24

2.5.3 臨床薬理に関する概括評価

本剤の体内動態は,初回申請時に下記のプロファイルが明らかにされている。

性別の影響

性差試験[CL-205]の男女間の薬物動態パラメータの比較検討から,女性における Cmax及び

AUCinfが男性と比べてそれぞれ 1.5 及び 1.7 倍高い値を示した。

併用薬による影響

本剤の一次代謝には CYP1A1,CYP1A2 及び CYP2D6 が主に関与していると考えられた。

CYP1A2 阻害作用を有するフルボキサミンとの薬物相互作用試験[CL-311]において,併用投

与時の本剤の Cmax及び AUCinfが本剤単独投与時と比べてそれぞれ 1.4 及び 2.8 倍に上昇した。

CYP2D6 阻害作用を有するパロキセチンとの薬物相互作用試験[CL-312]において,本剤の曝

露量は併用による影響を受けなかった。

2.5.3.1 性別の影響

性差試験[CL-205]における薬物動態パラメータの比較検討から,Cmax及び AUCinfの男性に対

する女性の GMR(95% CI)がそれぞれ 1.511(1.271~1.797)及び 1.745(1.439~2.114)であり,

本剤の曝露量は男性と比べて女性の方が高かった。この性差の傾向は,薬物相互作用 2 試験(フ

ルボキサミン[CL-311]及びパロキセチン[CL-312])や QT/QTc 評価試験[CL-314]でも同様に

確認された。

2.5.3.2 併用薬による影響に関する性差の検討

薬物相互作用試験(フルボキサミン)[CL-311]で,フルボキサミン併用投与が本剤の薬物動態

に与える影響の程度を,男女別に検討したところ,AUCinfには男女間で差がみられなかった。Cmax

では男女間で統計学的に有意な差を示したものの,男性及び女性における本剤単独投与時に対す

るフルボキサミン併用投与時の最小二乗平均比(95% CI)はそれぞれ 1.51(1.40-1.63)及び 1.33

(1.23-1.44)であり,男女間で上昇の程度に大きな差はみられなかった。このことから,CYP1A2

阻害薬併用による本剤の薬物動態への影響の程度はほぼ同程度であり,女性における影響の程度

が男性を上回ることはないと考えられた。

薬物相互作用試験(パロキセチン)[CL-312]で,パロキセチン併用投与が本剤の薬物動態に与

える影響の程度を,男女別に検討したところ,AUCinfには男女間で差がみられなかった。Cmaxで

は男女間で統計学的に有意な差を示したものの,男性及び女性における本剤単独投与時に対する

パロキセチン併用投与時の最小二乗平均比(95% CI)はそれぞれ 0.94(0.85-1.03)及び 1.05(0.98-1.13)

であり,95% CI がいずれも 0.8~1.25 の範囲内であった。このことから,男女ともに CYP2D6 阻

害薬による影響を受けないことが示された。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 25

2.5.3.3 QT/QTc 間隔に及ぼす影響

QT/QTc 評価試験[CL-314]において,本剤 20 μg 又は 200 μg を反復経口投与して血漿中濃度

が定常状態に達したときの QTcF 間隔に及ぼす影響を検討したところ,最終投与 1~6 時間後(tmax

近傍)の QTcF の平均値に関するプラセボとの差の片側 95%信頼区間の上限は,いずれもあらか

じめ定めた基準値 10 msec を下回った。また,陽性対照のモキシフロキサシンでは QTc 間隔の延

長が確認された。これらのことから,本剤は男性における承認用量(5 μg)及び女性における申

請用量(2.5 μg)の少なくとも 40 倍以上の用量においても QTc 間隔延長作用を有さないことが示

された。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 26

2.5.4 有効性の概括評価

本剤の有効性に関しては,女性の下痢型 IBS 患者に対する効能・効果の追加を目的として国内

で実施した第 II 相試験(女性)[CL-701],第 III 相試験(女性)[CL-702],長期投与試験(女性)

[CL-703]の 3 試験で評価した。また,各試験における有効性評価項目の詳細について表 2.5- 9

に記載した。主要評価項目は,第 II 相試験(女性)[CL-701]では「1 カ月目の IBS 症状の全般改

善効果の月間レスポンダー率」とし,第 III 相試験(女性)[CL-702]では,「最終時点の IBS 症状

の全般改善効果の月間レスポンダー率及び便形状正常化の月間レスポンダー率」とした。その設

定に関する詳細は 2.5.1 製品開発の根拠に記載した。なお,個々の臨床試験の試験方法の概略及び

結果の詳細は 2.7.6 個々の試験のまとめに記載した。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 27

表 2.5- 9 有効性評価項目一覧

有効性評価項目 評価尺度又は方法 CL-701 CL-702 CL-703

IBS 症状の全般改善効果の月間レスポン

ダー§率

0=症状がなくなった

1=かなり改善した

2=やや改善した

3=変わらなかった

4=悪くなった

◎† ◎‡ △

便形状正常化の月間レスポンダー¶率 BSFS のスコア ○ ◎‡ △

腹痛・腹部不快感改善効果の月間レスポン

ダー§率

0=症状がなくなった

1=かなり改善した

2=やや改善した

3=変わらなかった

4=悪くなった

○ ○ △

便通状態改善効果の月間レスポンダー§率 0=正常に近い状態になった

1=かなり改善した

2=やや改善した

3=変わらなかった

4=悪くなった

○ ○ △

腹痛・腹部不快感の重症度の週平均値の変

化量

0=なし

1=弱い

2=中程度

3=強い

4=非常に強い

○ ○ △

便形状の週平均値の変化量 BSFS のスコア ○ ○ △

排便回数の週平均値の変化量 排便回数 ○ ○ △

便意切迫感のなかった日数の割合 便意切迫感の有無 ○ ○ △

残便感のなかった日数の割合 残便感の有無 ○ ○ △

IBS-QOL-J の全体得点及び下位尺度得点の

変化量

IBS-QOL-J ○ ○ △

◎:主要評価項目,○:副次評価項目,△:評価項目[長期投与試験(女性)[CL-703]では,主要及び副次評価

項目の設定なし]

†:1 カ月目の月間レスポンダー率を主要な解析とし,2 カ月目,3 カ月目及び最終時点の月間レスポンダー率を

副次的な解析とした。

‡:最終時点[最終時点の月間は,週間レスポンダーの解析で採用されたデータの最終週を−1 週時とした場合,

−4~−1 週時(観察期を除く)とした。]の月間レスポンダー率を主要な解析とし,1 カ月目,2 カ月目及び 3 カ月

目の月間レスポンダー率を副次的な解析とした。

§:各週の時点でスコアが 0 あるいは 1 であった被験者を週間レスポンダーとし,1 カ月(4 週)のうち 2 週以上

が週間レスポンダーであった被験者を月間レスポンダーとした。なお,週間レスポンダーでない場合は,データ

がなく判定できない場合も含めて,週間ノンレスポンダーとした。また,月間レスポンダーでない場合は,デー

タがなく判定できない場合も含めて月間ノンレスポンダーとした。

¶:治療期中 1 週間(7 日間)の BSFS 平均値が 3 以上 5 以下かつ,観察期からの BSFS 平均値が 1 以上減少した被

験者を週間レスポンダーとし,1 カ月(4 週)のうち 2 週以上が週間レスポンダーであった被験者を月間レスポン

ダーとした。ただし,BSFS 平均値は 7 日間のうち,便形状が 5 日以上評価されている週のみ算出し,5 日未満の

場合は欠測として取り扱った。なお,週間レスポンダーでない場合は,データがなく判定できない場合も含めて,

週間ノンレスポンダーとした。また,月間レスポンダーでない場合は,データがなく判定できない場合も含めて,

月間ノンレスポンダーとした。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 28

2.5.4.1 比較対照試験

本項では,有効性の臨床データパッケージの比較対照試験結果を第 II 相試験(女性)[CL-701]

及び第 III 相試験(女性)[CL-702]に分けて記載する。

2.5.4.1.1 第 II 相試験(女性)[CL-701]

2.5.4.1.1.1 試験の概略

Rome III 基準に準ずる女性の下痢型 IBS 患者を対象に,本剤 1.25,2.5,5 μg 又はプラセボを投

与し,本剤の臨床推奨用量を検討するとともに,安全性を評価することを目的とし,プラセボ対

照二重盲検群間比較試験を実施した。本試験では同意取得例数は 603 例,治験薬投与例数は 409

例であり,有効性の主要な解析対象集団である FAS は 409 例であった。

第 II 相試験(女性)[CL-701]では,本剤の用量反応性を確認し,臨床推奨用量を決定するた

めに 1カ月目の IBS症状の全般改善効果の月間レスポンダー率を主要評価項目の主要な解析とし,

その他の時点(2 カ月目,3 カ月目)及び最終時点の解析は副次的な解析とした。また,副次評価

項目として,腹痛・腹部不快感改善効果の月間レスポンダー率,便通状態改善効果の月間レスポ

ンダー率,腹痛・腹部不快感の重症度の週平均値の変化量,便形状の週平均値の変化量,排便回

数の週平均値の変化量,便意切迫感のなかった日数の割合,残便感のなかった日数の割合,

IBS-QOL-J の全体得点及び下位尺度得点の変化量及び便形状正常化の月間レスポンダー率を設定

した。

2.5.4.1.1.2 被験者背景

被験者背景では,平均罹病期間が 1.25 μg 群で 171.0 カ月,2.5 μg 群で 131.3 カ月,5 μg 群で 148.7

カ月,プラセボ群で 193.8 カ月であり,分散分析で投与群間の比較を行ったところ,統計的に有

意な差がみられた。その他の被験者背景項目では,大きな群間差はみられなかった。

有効性評価項目の基準値では,観察期における残便感のなかった日数の割合の週平均値が

1.25 μg 群で 55.1%,2.5 μg 群で 61.9%,5 μg 群で 48.2%,プラセボ群で 48.9%であり,分散分析で

投与群間の比較を行ったところ,統計的に有意な差がみられた。また,観察期の IBS-QOL-J:社

会生活の平均値は,1.25 μg 群で 78.4,2.5 μg 群で 78.2,5 μg 群で 71.7,プラセボ群で 75.8 であり,

分散分析で投与群間の比較を行ったところ,統計的に有意な差がみられた。その他の有効性評価

項目の基準値では,大きな群間差はみられなかった。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 29

2.5.4.1.1.3 有効性の評価

2.5.4.1.1.3.1 主要評価項目

月間レスポンダー

主たる解析対象集団である FAS において,主要評価項目の主要な解析である 1 カ月目の IBS 症

状の全般改善効果の月間レスポンダー率は,1.25 μg群で 39.4%,2.5 μg群で 38.5%,5 μg群で 40.4%,

プラセボ群で 28.4%であった。Shirley-Williams 検定でプラセボ群と本剤群の比較を閉手順にて高

用量群から行ったところ,統計的に有意な差はみられなかったが,本剤群の IBS 症状の全般改善

効果の月間レスポンダー率はすべての用量群でプラセボ群を 10%以上上回った。

主要評価項目の副次的な解析であるその他の時点の IBS 症状の全般改善効果の月間レスポン

ダー率は,2 カ月目では 1.25 μg 群で 36.5%,2.5 μg 群で 52.9%,5 μg 群で 41.4%及びプラセボ群で

35.3%,3カ月目では 1.25 μg群で37.5%,2.5 μg群で 50.0%,5 μg群で 43.4%及びプラセボ群で 36.3%,

最終時点では 1.25 μg群で 39.4%,2.5 μg 群で 52.9%,5 μg 群で 49.5%及びプラセボ群で 38.2%であっ

た。Shirley-Williams 検定でプラセボ群と本剤群の比較を閉手順にて高用量群から行ったところ,

統計的に有意な差はみられなかったが,2.5 μg 群以上の用量群の月間レスポンダー率は,2 カ月目,

3 カ月目及び最終時点のいずれの時点においてもプラセボ群を上回った。また,2.5 μg 群の 2 カ月

目,3 カ月目及び最終時点の月間レスポンダー率は,いずれもプラセボ群を 13%以上上回った。

一方,1.25 μg 群の月間レスポンダー率は,2 カ月目,3 カ月目及び最終時点のいずれもプラセボ

群と同程度であった。

週間レスポンダー

1 週目から 12 週目及び最終時点の IBS 症状の全般改善効果の週間レスポンダー率について,

Shirely-Williams 検定でプラセボ群と本剤群の比較を閉手順にて高用量群から行ったところ,5 μg

群では 1 週目,2 週目,12 週目及び最終時点,2.5 μg 群では 2 週目,12 週目及び最終時点,1.25 μg

群では 2 週目で,統計的に有意な差がみられた。また,2.5 μg 群の IBS 症状の全般改善効果の週

間レスポンダー率は,最終時点も含み,そのほとんどの時点でプラセボ群を 10%以上上回った。

2.5.4.1.1.3.2 副次評価項目

腹痛・腹部不快感改善効果の月間レスポンダー率は,2.5 μg 群では 2 カ月目,3 カ月目及び最終

時点で,プラセボ群と比較して統計的に有意な差がみられた。なお,2.5 μg 群及び 5 μg 群の月間

レスポンダー率は,5 μg 群の 2 カ月目を除き,すべての時点でプラセボ群を 5%以上上回った。一

方,1.25 μg 群の月間レスポンダー率は,いずれの時点でもプラセボ群との間に差がみられなかっ

た(χ2検定)。

便通状態改善効果の月間レスポンダー率は,2.5 μg 群以上の用量群の月間レスポンダー率は,

いずれの時点でもプラセボ群を上回った。また,2.5 μg 群の月間レスポンダー率は,いずれの時

点でもプラセボ群を 12%以上上回り,2 カ月目ではプラセボ群と比較して統計的に有意な差がみ

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 30

られた。一方,1.25 μg 群の月間レスポンダー率は,1 カ月目を除き,すべての時点でプラセボ群

との間に差がみられなかった(χ2 検定)。

本剤の薬力学的指標である便形状の週平均値の変化量は,1.25 μg 群では 1~5 週目までの時点

で,2.5 μg 群では 8 週目を除くすべての時点で,5 μg 群ではすべての時点で,プラセボ群と比較

して統計的に有意な差がみられた。また,いずれの時点でも用量依存的に増加する傾向がみられ

ており,本剤は投与早期より便形状の改善効果を示し,2.5 μg 群以上の用量群でその効果が最終

時点まで持続することが示された(t 検定)。

FASのうち,観察期の便形状の週平均値が5を超える被験者の便形状正常化の月間レスポンダー

率は,1.25 μg 群では 1 カ月目,2 カ月目及び最終時点で,2.5 μg 群では 1 カ月目,3 カ月目及び最

終時点で,5 μg 群では 1 カ月目,2 カ月目及び最終時点で,プラセボ群と比較して統計的に有意

な差がみられた。また,いずれの時点においてもすべての用量群でプラセボ群を 17%以上上回っ

た(χ2検定)。

その他の有効性評価項目のうち,排便回数の週平均値の変化量及び残便感のなかった日数の割

合では,本剤群はプラセボ群と比較して,いくつかの時点で統計的に有意な差がみられた。多く

の指標で 2.5 μg 群の有効性が最も高い傾向がみられた。。腹痛・腹部不快感の重症度の週平均値の

変化量及び便意切迫感のなかった日数の割合では,いずれの本剤群もプラセボ群と比較して統計

的に有意な差がみられなかった(t 検定)。

2.5.4.1.1.3.3 QOL

IBS-QOL-J の全体得点及び下位尺度得点の投与前からの変化量に対して,投与群を因子,ベー

スラインを共変量とした共分散分析で本剤群とプラセボ群を比較した結果,いずれの項目におい

ても,投与群間で一定の傾向はみられなかった。

2.5.4.1.1.3.4 まとめ

主要評価項目である 1 カ月目の IBS 症状の全般改善効果において,本剤のプラセボに対する有

意な改善はみられなかったが,副次評価項目である腹痛・腹部不快感改善効果及び便通状態改善

効果も含めて,本剤 2.5 μg 以上の用量群では一定の有効性が示唆された。また,有効性評価項目

の多くで,2.5 μg は 5 μg に比べて高い有効性を示した。更に,本剤の薬理学的指標である便形状

週平均値の変化量では,用量依存的な増加がみられた。一方,本剤の薬理作用に基づくと考えら

れる便秘及び硬便の発現割合もほぼ用量依存的な増加がみられた。しかしながら,本剤群で認め

られた便秘及び硬便はいずれも軽度であり,5 μg までの忍容性に問題はなかった。

以上の結果より,一定の有効性を示し,かつ安全性の観点から,本剤の薬理作用に基づくと考

えられる便秘及び硬便の発現割合が可能な限り低い用量として,本剤 2.5 μg を女性の下痢型 IBS

患者に対する臨床推奨用量と判断した。

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臨床に関する概括評価

アステラス製薬 31

なお,本試験の主要評価項目の主要な解析である 1 カ月目の IBS 症状の全般改善効果の月間レ

スポンダー率では,本剤群はプラセボ群を 10%以上上回ったが,明確な用量反応性はみられなかっ

た。一方,2.5 μg 以上の用量の月間レスポンダー率は,2.5 μg では 2 カ月目及び最終時点で,5 μg

では最終時点で最も大きな値を示した。また,1.25 μg では,2 カ月目,3 カ月目及び最終時点の

月間レスポンダー率には,1 カ月目と比較して顕著な変化はみられず,プラセボと同程度の値と

なった。したがって,1 カ月目における IBS 症状の全般改善効果の月間レスポンダー率と本剤群

の用量には,明確な相関性はなく,1 カ月目ではその後の有効性の変動を捉えることができない

と考えられた。

2.5.4.1.2 第 III 相試験(女性)[CL-702]

2.5.4.1.2.1 試験の概要

Rome III 基準に準ずる女性の下痢型 IBS 患者を対象に,本剤 2.5 μg 又はプラセボを投与し,本

剤のプラセボに対する優越性を検証するとともに,安全性を検討することを目的とし,プラセボ

対照二重盲検群間比較試験を実施した。本試験では同意取得例数は 807 例,治験薬投与例数は 576

例であり,有効性の主要な解析対象集団である FAS は 576 例であった。

第 III 相試験(女性)[CL-702]では,第 II 相試験(女性)[CL-701]等の結果から,最終時点

の IBS 症状の全般改善効果の月間レスポンダー率及び便形状正常化の月間レスポンダー率を主要

評価項目とした。また,副次評価項目として,腹痛・腹部不快感改善効果の月間レスポンダー率,

便通状態改善効果の月間レスポンダー率,腹痛・腹部不快感の重症度の週平均値の変化量,便形

状の週平均値の変化量,排便回数の週平均値の変化量,便意切迫感のなかった日数の割合,残便

感のなかった日数の割合及び IBS-QOL-J の全体得点及び下位尺度得点の変化量を設定した。

2.5.4.1.2.2 被験者背景

被験者背景では,年齢,体重,身長,BMI,罹病期間,合併症及び器質所見のいずれにおいて

も投与群間でほぼ同様であった。

有効性評価項目の基準値でも,投与群間に大きな違いはみられなかった。

2.5.4.1.2.3 有効性の評価

2.5.4.1.2.3.1 主要評価項目

月間レスポンダー

主たる解析対象集団である FAS において,主要評価項目の主要な解析である最終時点の IBS 症

状の全般改善効果の月間レスポンダー率は,2.5 μg 群で 50.7%,プラセボ群で 32.0%であった。χ2

検定でプラセボ群と 2.5 μg 群を比較したところ,2.5 μg 群の月間レスポンダー率は統計的に有意

な差がみられた。また,最終時点の便形状正常化の月間レスポンダー率は,2.5 μg 群で 40.8%,プ

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 32

ラセボ群で 24.3%であった。χ2 検定でプラセボ群と 2.5 μg 群を比較したところ,2.5 μg 群の月間レ

スポンダー率は統計的に有意な差がみられた。いずれの主要評価項目においても,2.5 μg 群はプ

ラセボ群と比較して統計的に有意な差がみられ,本剤のプラセボに対する優越性が検証された。

IBS 症状の全般改善効果の副次的な解析である 1 カ月目,2 カ月目及び 3 カ月目の月間レスポン

ダー率は,2.5 μg 群で 31.5%,41.8%及び 49.3%,プラセボ群で 19.4%,28.5%及び 31.7%であった。

χ2検定でプラセボ群と2.5 μg群を比較したところ,すべての時点で統計的に有意な差がみられた。

また,月間レスポンダー率の 2.5 μg 群とプラセボ群との差は,それぞれ 12.1%,13.3%及び 17.6%

と経時的な増加がみられた。便形状正常化の副次的な解析である 1 カ月目,2 カ月目及び 3 カ月

目の月間レスポンダー率は,2.5 μg 群で 33.2%,36.3%及び 37.0%,プラセボ群で 17.6%,15.1%及

び 23.2%であった。χ2検定でプラセボ群と 2.5 μg 群を比較したところ,すべての時点で統計的に

有意な差がみられた。また,2.5 μg 群の月間レスポンダー率は,1 カ月目,2 カ月目及び 3 カ月目

ともほぼ同程度の値で推移した。

週間レスポンダー

1 週目から 12 週目及び最終時点の IBS 症状の全般改善効果の週間レスポンダー率について,χ2

検定でプラセボ群と 2.5 μg 群を比較したところ,最終時点も含め 2 週時以降すべての時点で統計

的に有意な差がみられた。1 週目から 12 週目及び最終時点の便形状正常化の週間レスポンダー率

について,χ2 検定でプラセボ群と 2.5 μg 群を比較したところ,最終時点も含めたすべての時点で

統計的に有意な差がみられた。

2.5.4.1.2.3.2 副次評価項目

腹痛・腹部不快感改善効果の月間レスポンダー率は,2.5 μg 群では 2 カ月目を除くすべての時

点で,プラセボ群と比較して統計的に有意な差がみられた。また,2.5 μg 群の月間レスポンダー

率は,経時的に増加がみられたが,プラセボ群では 2 カ月目までは増加がみられたが,2 カ月目

以降は同程度の値であり,2.5 μg 群とプラセボ群の月間レスポンダー率の差は 3 カ月目が最大と

なった。腹痛・腹部不快感改善効果の週間レスポンダー率は,2.5 μg 群では 1 週時,4 週時を除く

すべての時点で,プラセボ群と比較して統計的に有意な差がみられた(χ2検定)。

便通状態改善効果の月間レスポンダー率は,2.5 μg 群ではすべての時点で,プラセボ群と比較

して統計的に有意な差がみられた。また,2.5 μg 群及びプラセボ群ともに,月間レスポンダー率

の経時的な増加がみられたが,2.5 μg 群とプラセボ群の月間レスポンダー率の差にも,経時的な

増加がみられた。便通状態改善効果の週間レスポンダー率は,2.5 μg 群ではすべての時点で,プ

ラセボ群と比較して統計的に有意な差がみられた(χ2 検定)。

その他の有効性評価項目のうち,便形状の週平均値の変化量,排便回数の週平均値の変化量及

び便意切迫感のなかった日数の割合について,最終時点を含めたすべての時点で,2.5 μg 群はプ

ラセボ群と比較して統計的に有意な差がみられた。残便感のなかった日数の割合は,8~11 週で

プラセボ群と比較して統計的に有意な差がみられた。また,腹痛・腹部不快感の重症度の週平均

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 33

値の変化量は,すべての時点で 2.5 μg 群はプラセボ群を上回り,1~3,9 週時及び最終時点でプ

ラセボ群と比較して統計的に有意な差がみられた。(t 検定)。

2.5.4.1.2.3.3 QOL

IBS-QOL-J の全体得点及び下位尺度得点の投与前からの変化量では,2.5 μg 群及びプラセボ群

で経時的な増加がみられた。

IBS-QOL-J の全体得点及び下位尺度得点の投与前からの変化量に対して,ベースラインを共変

量とした共分散分析で比較したところ,全体得点の変化量では,最終時点を含めたすべての時点

で,2.5 μg 群はプラセボ群と比較して統計的に有意な差がみられた。また,最終時点における下

位尺度得点の変化量のうち,憂うつの変化量,活動制限の変化量及び食事回避の変化量では,統

計的に有意な差がみられた。

2.5.4.1.2.3.4 まとめ

本剤 2.5 μg は,主要評価項目である最終時点の IBS 症状の全般改善効果の月間レスポンダー率

及び最終時点の便形状正常化の月間レスポンダー率のいずれにおいてもプラセボに対して統計的

に有意な差がみられ,本剤のプラセボに対する優越性が検証された。また,副次評価項目の多く

で,本剤はプラセボに対して統計的に有意な差を示した。更に,本剤は女性の下痢型 IBS 患者の

QOL をプラセボに対して統計的に有意に改善した。多くの有効性評価項目において,本剤は投与

早期よりプラセボに対して統計的に有意な差がみられ,最終時点まで持続した。一方,本剤の注

目すべき有害事象である便秘及び硬便は,本剤でプラセボに比べて高い発現割合を示したが,1

例にみられた中等度の硬便を除いて,すべて軽度であり,ほとんどが速やかに回復した。その他,

プラセボに比べて本剤で発現割合が著しく高い有害事象はみられなかった。

以上の結果より,女性の下痢型 IBS 患者に対する臨床推奨用法・用量は,1 日 1 回 2.5 μg が妥

当であると判断した。

2.5.4.2 非対照試験

2.5.4.2.1 長期投与試験(女性)[CL-703]

2.5.4.2.1.1 試験の概要

Rome III 基準に準ずる女性の下痢型 IBS 患者を対象に,本剤 2.5 μg を長期に投与したときの安

全性及び有効性を検討することを目的とし,非盲検非対照試験を実施した。また,4 週来院時に

治験薬の効果を判定し,2.5 μg では効果が不十分であり,増量基準に合致した被験者に対して 5 μg

に増量することを可能とした。本試験では同意取得例数は 202 例,治験薬投与例数は 151 例であっ

た。有効性の解析対象集団である FAS は 150 例であり,そのうち増量を行った被験者は 19 例で

あった。なお,増量基準は,以下のとおりである。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 34

1. 投与開始 1 カ月目(1~4 週)で IBS 症状の全般改善効果が認められないこと(IBS 症状の全

般改善効果の月間ノンレスポンダー)

2. 4 週目(22 日目~28 日目)の便形状に BSFS のタイプ 4 以下がないこと

3. 4 週来院時に治験責任(分担)医師が治験薬の増量を必要と判断すること

4. 4 週来院時に治験責任(分担)医師が安全性(4 週来院時までの症状及び徴候)に問題がない

と判断すること

5. 被験者が増量を希望すること

長期投与試験(女性)[CL-703]では,IBS 症状の全般改善効果の月間レスポンダー率,便形状

正常化の月間レスポンダー率,腹痛・腹部不快感改善効果の月間レスポンダー率,便通状態改善

効果の月間レスポンダー率,腹痛・腹部不快感の重症度の週平均値の変化量,便形状の週平均値

の変化量,排便回数の週平均値の変化量,便意切迫感のなかった日数の割合,残便感のなかった

日数の割合及び IBS-QOL-J の全体得点及び下位尺度得点の変化量を評価項目として設定した。

2.5.4.2.1.2 被験者背景

被験者背景では,平均罹病期間が 2.5 μg 維持群で 101.3 カ月,5 μg 増量群で 173.7 カ月であり,

5 μg 増量群の方が長かった。また,2.5 μg 維持群と 5 μg 増量群で比較した場合,40 歳以上の被験

者の割合,50 kg 以上の被験者の割合,22 kg/m2 以上の BMI の被験者の割合は 5 μg 増量群の方が

大きかった。

有効性評価項目の基準値では,観察期における腹痛・腹部不快感の重症度の週平均値が 2.5 μg

維持群で 1.88,5 μg 増量群で 2.29,便形状の週平均値が 2.5 μg 維持群で 5.3,5 μg 増量群で 5.74,

排便回数の週平均値が 2.5 μg 維持群で 2.23 回,5 μg 増量群で 3.6 回,便意切迫感のなかった日の

割合の週平均値が 2.5 μg 維持群で 51.2%,5 μg 増量群で 30.1%,残便感のなかった日の割合の週

平均値が 2.5 μg 維持群で 50.9%,5 μg 増量群で 39.8%であった。

上記以外の背景項目も含め,被験者背景及び有効性評価項目の基準値において,5 μg 増量群が

2.5 μg 維持群より症状が重い傾向を示したことより,5 μg 増量群の被験者では,IBS 症状が重いと

考えられた。

2.5.4.2.1.3 有効性の評価

2.5.4.2.1.3.1 IBS 症状の全般改善効果及び便形状正常化

月間レスポンダー

IBS 症状の全般改善効果の月間レスポンダー率は,2.5 μg 維持群では 1 カ月目で 32.1%,13 カ月

目で 61.8%であった。2.5 μg 維持群では,投与早期より改善効果がみられ,月間レスポンダー率は

7 カ月目以降,50%を超える値で推移し,改善効果が持続した。5 μg 増量群では 1 カ月目で 0%,

2 カ月目(増量 1 カ月後)で 47.4%,13 カ月目で 78.9%であった。2.5 μg では効果不十分と考えら

れた被験者に対して,5 μg へ増量後,速やかに月間レスポンダー率は上昇した。また,増量後の

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 35

月間レスポンダー率は,2 カ月目と同等かそれを上回り,7 カ月目以降では 60%を超える値で推移

し,改善効果は持続した。

便形状正常化の月間レスポンダー率は,2.5 μg 維持群では 1 カ月目で 42.7%,13 カ月目で 42.0%

であった。2.5 μg 維持群では,投与早期より改善効果がみられ,月間レスポンダー率は 1 カ月目

から 13 カ月目まで同程度の値で推移し,改善効果が持続した。5 μg 増量群では 1 カ月目で 10.5%,

2 カ月目(増量 1 カ月後)で 31.6%,13 カ月目で 52.6%であった。2.5 μg では効果不十分と考えら

れた被験者に対して,5 μg へ増量後,速やかに月間レスポンダー率は上昇した。また,増量後の

月間レスポンダー率は 2 カ月目と同等かそれを上回る値で推移し,改善効果は持続した。

2.5.4.2.1.3.2 その他有効性評価項目

腹痛・腹部不快感改善効果及び便通状態改善効果の月間レスポンダー率は,2.5 μg 維持群では 1

カ月目で 32.1%及び 29.8%,13 カ月目で 62.6%及び 58.8%であった。2.5 μg 維持群では,投与早期

より改善効果がみられ,腹痛・腹部不快感改善効果の月間レスポンダー率は 4 カ月目以降では,6

カ月目を除き,50%を超える値で推移し,便通状態改善効果の月間レスポンダー率は 8 カ月目以

降では,50%を超える値で推移し,改善効果が持続した。5 μg 増量群では 1 カ月目で 0%及び 0%,

2 カ月目(増量 1 カ月後)で 36.8%及び 47.4%,13 カ月目で 78.9%及び 78.9%であった。2.5 μg で

は効果不十分と考えられた被験者に対して,5 μg へ増量後,速やかに月間レスポンダー率は上昇

した。また,増量後の月間レスポンダー率はいずれの時点でも 2 カ月目を上回り,腹痛・腹部不

快感改善効果の月間レスポンダー率では 7 カ月目以降で,また便通状態改善効果の月間レスポン

ダー率では 6 カ月目以降で,60%を超える値で推移し,改善効果は持続した。

本剤の薬力学的指標である便形状の週平均値の変化量は,2.5 μg 維持群では,投与早期より本

剤の効果が認められ,その効果は 52 週時点まで維持された。一方,5 μg 増量群では,2.5 μg 投与

期においては便形状の週平均値の変化量に対する効果は不十分であったが,5 μg へ増量後速やか

に改善効果がみられ,52 週時点まで維持した。

その他の有効性評価項目のうち,腹痛・腹部不快感の重症度の週平均値の変化量,排便回数の

週平均値の変化量は,いずれも 2.5 μg 維持群では,投与開始直後の 1 週目より改善効果を示すと

ともに,腹痛・腹部不快感の重症度の週平均値の変化量では 12 週目まで,排便回数の週平均値の

変化量では 52 週目まで改善効果が持続した。5 μg 増量群では,増量後速やかに変化量が増加し,

改善効果が持続した。便意切迫感のなかった日数の割合及び残便感のなかった日数の割合は,い

ずれも 2.5 μg 維持群では,1 週目から日数の割合が増加し,12 週目まで改善効果が持続した。5 μg

増量群では,増量後に日数の割合が増加し,改善効果が持続した。

2.5.4.2.1.3.3 QOL

IBS-QOL-J の全体得点の変化量は,2.5 μg 維持群では 4 週時点で投与前から 13.7 増加し,QOL

の改善がみられた。また,2.5 μg 維持群の全体得点の変化量は,52 週時点まで経時的な増加がみ

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 36

られた。5 μg 増量群では増量前の 4 週時点で投与前からの変化量は 9.2 で,2.5 μg 維持群ほどの

QOL の改善はみられなかったが,8 週時点(増量 4 週後)では 15.1 に増加し改善がみられた。8

週以降では,2.5 μg 維持群と同程度の変化量を示し,52 週時点まで経時的な増加がみられた。

IBS-QOL-J の下位尺度得点の変化量について,憂うつの変化量,活動制限の変化量,ボディー・

イメージの変化量,食事回避の変化量,社会生活の変化量及び人間関係の変化量は,2.5 μg 維持

群及び 5 μg 増量群ともに全体得点の変化量と同様の改善効果がみられた。

2.5.4.2.1.3.4 まとめ

女性の下痢型 IBS 患者に対して,本剤 2.5 μg を 1 日 1 回投与したとき,下痢型 IBS の主要な症

状に対する改善効果が投与早期より認められ,その効果は長期間投与において,減弱せずに持続

することが示唆された。有害事象のほとんどは軽度又は中等度であり,遅発性の事象はなく,本

剤を長期間(52 週間)投与した際の忍容性は問題ないと考えられた。また,本剤 2.5 μg を 1 カ月

投与した時点で,本剤の効果が不十分な患者に対しては,5 μg へ増量することにより,下痢型 IBS

の主要な症状に対する改善効果が,増量後早期よりみられ,52 週まで持続した。一方,増量によ

り有害事象の発現割合の増加はみられなかった。本剤の注目すべき有害事象である便秘及び硬便

は,2.5 μg 維持群で 1 例にみられた中等度の硬便を除いて,すべて軽度であり,増量による発現

割合の上昇はみられなかった。

以上の結果より,女性の下痢型 IBS 患者に対し,本剤 2.5 μg は長期投与においても持続的に下

痢型 IBS の主要な症状を改善することができ,また,本剤 2.5 μg では効果が不十分な患者に対し

ては 5 μg へ用量調整することは有用であると考えられた。

2.5.4.3 有効性の結論

以上の臨床試験の結果から有効性の結論をまとめた。

● Rome III 基準に準ずる女性の下痢型 IBS 患者に対し,主要評価項目として設定した被験者が

有するすべての自覚症状を総合的に評価する指標である「IBS 症状の全般改善効果」におい

て,本剤 2.5 μg の有効性が確認された。同様に,主要評価項目として設定した本剤の作用の

特徴を最も明確にする指標である「便形状正常化」においても,本剤 2.5 μg の有効性が確認

された。

● 本剤 2.5 μg は,下痢型 IBS の主要な症状である腹痛・腹部不快感及び便通異常についての包

括的な指標である「腹痛・腹部不快感改善効果」及び「便通状態改善効果」に対して有効性

を示した。

● 本剤 2.5 μg は,下痢型 IBS の個別症状である便形状,排便回数,腹痛・腹部不快感,便意切

迫感及び残便感においても改善効果を示した。

● 本剤 2.5 μg は,女性の下痢型 IBS 患者に対し,QOL の改善効果を示した。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 37

● 本剤 2.5 μg は,IBS 症状の全般改善効果,便形状正常化,腹痛・腹部不快感改善効果及び便

通状態改善効果に対して投与早期より有効性を示し,投与期間中その効果は持続した。

● 本剤 2.5 μg は,IBS の個別症状に対して,投与早期より効果を示した。また,その効果は投

与期間中,減弱することなく,維持あるいは増加した。

● 本剤 2.5 μg を長期間(52 週間)投与した場合にも,IBS 症状の全般改善効果をはじめ下痢型

IBS の症状に対する有効性は減弱せずに持続した。

● 本剤 2.5 μg を 1 カ月投与した時点で,本剤の効果が不十分な患者に対して 5 μg へ増量するこ

とにより,早期に下痢型 IBS の主要な症状に対する改善効果が認められ,その効果は長期間

投与した場合にも,減弱せずに持続した。よって,2.5 μg では効果が不十分な患者に対して

は 5 μg へ用量調整することは有用であると考えた。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 38

2.5.5 安全性の概括評価

安全性に関しては,女性の下痢型 IBS に対する効能・効果の追加を目的として実施した第 II 相

試験(女性)[CL-701],第 III 相試験(女性)[CL-702]及び長期投与試験(女性)[CL-703]に,

初回申請時に実施した 3 試験(第 II 相試験[CL-201],第 III 相試験[CL-202]及び長期投与試験

[CL-203])の女性の成績を加えて評価を行った。性差試験[CL-205],薬物相互作用試験(フル

ボキサミン)[CL-311],薬物相互作用試験(パロキセチン)[CL-312]及び QT/QTc 評価試験[CL-314]

の 4 試験は,健康成人(男性及び女性)を対象とした臨床薬理試験であることから,これらの試

験での安全性成績は,死亡及びその他の重篤な有害事象の発現状況のみを本項目に示した。なお,

個々の臨床試験の試験方法及び結果の詳細は「2.7.6 個々の試験のまとめ」に記載した。

2.5.5.1 被験者集団の特徴及び曝露の程度

本剤の女性の下痢型 IBS を対象とした臨床試験では,以下の患者を試験対象から除外した。

● 20 歳未満の患者及び 65 歳以上の患者

● 虫垂炎,良性ポリープ切除以外の胃,小腸又は大腸の外科的切除手術の既往がある患者<第

III 相試験(女性)[CL-702]及び長期投与試験(女性)[CL-703]では,胆のうの外科的切除

手術の既往がある患者も対象から除外した>

● 炎症性腸疾患(クローン病又は潰瘍性大腸炎)の既往又は合併がある患者

● 虚血性大腸炎の既往又は合併がある患者

● 感染性腸炎を合併している患者

● 甲状腺機能亢進症又は甲状腺機能低下症を合併している患者

● 活動性の消化性潰瘍を合併している患者<第 III 相試験(女性)[CL-702]及び長期投与試験

(女性)[CL-703]のみ>

● 消化管通過又は大腸機能に影響すると考えられる疾患を合併している患者

● 薬効評価に影響を及ぼすと考えられる薬剤又は検査を使用又は施行している患者(観察期開

始までに 3 日以上の wash out が不可能な場合)

● 1 年以内に薬物又はアルコール濫用の既往がある患者,又は現在濫用している患者

● 悪性腫瘍の既往又は合併がある患者

● 抑うつ又は不安障害が高度で薬効評価に影響すると判断される患者

● 重篤な心血管系疾患,呼吸器系疾患,腎疾患,肝疾患,IBS 以外の消化器系疾患,血液系疾

患,神経・精神系疾患を合併している患者

● 薬物アレルギーの既往がある患者

● 子宮内膜症又は子宮腺筋症を合併している患者<第 II 相試験(女性)[CL-701],第 III 相試

験(女性)[CL-702]及び長期投与試験(女性)[CL-703]のみ>

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 39

● 妊娠又は妊娠している可能性がある患者,授乳中の患者,又は治験期間中に妊娠を希望する

患者

● 臨床検査の結果より重篤な疾患を合併していると判断される患者

比較試験<第 II 相試験(女性)[CL-701],第 III 相試験(女性)[CL-702],第 II 相試験[CL-201]

及び第 III 相試験[CL-202]の 4 試験>での本剤の用量群別の女性患者数は,1 μg 群で 21 例,1.25 μg

群で 104 例,2.5 μg 群で 396 例,5 μg 群で 185 例及び 10 μg 群で 22 例であり,本剤群の合計は 728

例,プラセボ群の合計は 451 例であった。

なお,本剤 1 μg と 1.25 μg ではほぼ同様の安全性が期待できると考えられることから,本申請

では 1 μg 投与例と 1.25 μg 投与例を合計し,1/1.25 μg 群として安全性を評価した。

本剤群の年齢の平均値は 40.3 歳,体重の平均値は 52.65 kg,罹病期間の平均値は 145.4 カ月で

あった。患者の年齢及び体重の平均値は,本剤の各用量群及びプラセボ群でほぼ同様であったが,

10 μg 群の罹病期間の平均値は他の用量群に比べ短かった。合併症の有無,IBS 前治療薬又は IBS

併用薬の使用状況には,用量群間で著しい偏りはみられなかった。

本剤の投与量別での投与期間の比較では,5 μg 群及び 10 μg 群の投与期間の平均値は,1/1.25 μg

群及び 2.5 μg 群に比べ短かった。なお,本剤の各用量群及びプラセボ群の投与期間の中央値はい

ずれも 84 日であった。また,本剤の服薬率は,投与量の増加に伴って低下がみられ,10 μg 群の

服薬率の平均値は 90.81%であった。

長期投与試験(女性)[CL-703]では,1 日 2.5 μg から投与を開始し,4 週間後の来院時に有効

性及び安全性を考慮し,基準を満たした患者では 5 μg への増量を可とした。その結果,151 例の

患者が 1 日 2.5 μg から投与を開始され,そのうち 19 例が 4 週来院時に 5 μg に増量された。なお,

増量された 19 例のうち 1 例が 12 週来院時に 2.5 μg に減量された。また,長期投与試験[CL-203]

では,1 日 5 μg から投与を開始し,4 週間後の来院時に有効性及び安全性を考慮し,基準を満た

した患者では投与量の変更(10 μg への増量又は 2.5 μg への減量)を可とした。その結果,70 例

の女性患者が 1 日 5 μg から投与を開始され,そのうち 16 例が 4 週来院時に 2.5 μg に減量され,3

例が 10 μg に増量された。なお,本項では特にことわらない限り,長期投与試験に関しては試験

ごとの併合で安全性を評価した。

長期投与試験<長期投与試験(女性)[CL-703]及び長期投与試験[CL-203]の 2 試験>にお

ける本剤群の年齢の平均値は 40.2 歳,体重の平均値は 53.82 kg,罹病期間の平均値は 118.5 カ月

であった。長期投与試験の本剤群の罹病期間は,比較試験の本剤群に比べ短かったが,患者の年

齢及び体重の平均値,合併症の有無,前治療薬又は併用薬の使用状況は,比較試験の本剤群とほ

ぼ同様であった。

2.5.5.2 比較的よくみられる有害事象

比較試験の有害事象の発現割合は,本剤群で 59.5%(433/728 例),プラセボ群で 45.9%(207/451

例)治験薬との関連性が否定できない有害事象の発現割合は本剤群で 36.8%(268/728 例),プラ

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 40

セボ群で 18.4%(83/451例)であった。本剤群における程度別の有害事象の発現例数は,軽度 382/433

例,中等度 50/433 例及び重度 1/433 例であり,ほとんどが軽度であった。また,本剤群で重度の

有害事象は 1.25 μg 群で 1 例(顆粒球減少症)にみられたが,治験薬との関連性は否定された。試

験期間中に死亡した患者はいなかった。重篤な有害事象の発現割合は本剤群で 0.5%(4/728 例),

プラセボ群で 1.1%(5/451 例),投与中止に至った有害事象の発現割合は本剤群で 3.8%(28/728

例),プラセボ群で 3.3%(15/451 例),休薬に至った有害事象の発現割合は本剤群で 26.2%(191/728

例),プラセボ群で 9.1%(41/451 例)であった。

比較試験の本剤群で有害事象の発現割合が比較的高い MedDRA 器官別大分類(SOC)は,胃腸

障害 34.9%(254/728 例),感染症および寄生虫症 20.6%(150/728 例),臨床検査 9.2%(67/728 例)

であり,MedDRA 基本語(PT)別で発現割合が 5%以上の有害事象は,硬便 21.2%(154/728 例),

便秘 13.7%(100/728 例)及び鼻咽頭炎 12.8%(93/728 例)であった。また,本剤群とプラセボ群

との比較で,本剤群での発現割合がプラセボ群に比べ 2%以上高かった有害事象は,硬便,便秘及

び腹部膨満であり,その他の有害事象はプラセボ群と同程度の発現割合であった。

比較試験の本剤群において,治験薬との関連性が否定できない有害事象の発現割合が 2%以上の

SOC は,胃腸障害 31.5%(229/728 例),臨床検査 4.8%(35/728 例)であった。PT 別で発現割合

が 2%以上の治験薬との関連性が否定できない有害事象は,硬便 21.2%(154/728 例),便秘 13.6%

(99/728 例)及び腹部膨満 4.0%(29/728 例)であった。硬便,便秘及び腹部膨満の発現割合は,

プラセボ群に比べ本剤群で 2%以上高かった。

比較試験で,各用量群の有害事象の発現割合は,1/1.25 μg 群 54.4%(68/125 例),2.5 μg 群 53.3%

(211/396 例),5 μg 群 73.0%(135/185 例),10 μg 群 86.4%(19/22 例)及びプラセボ群 45.9%(207/451

例)であり,5 μg 以上の用量群で高い傾向がみられた。

長期投与試験合計での有害事象の発現割合は 86.0%(190/221 例),治験薬との関連性が否定で

きない有害事象の発現割合は 50.2%(111/221 例)であった。程度別の有害事象の発現例数は,軽

度が 157/190 例,中等度が 31/190 例及び重度が 2/190 例であり,ほとんどの有害事象が軽度であ

り,重度の有害事象は血中カリウム増加(1 例),虫垂炎(1 例)及び腹膜炎(1 例)であった。

なお,虫垂炎及び腹膜炎は同一の患者に併発した事象であった。試験期間中に死亡した患者はい

なかった。重篤な有害事象の発現割合は 1.8%(4/221 例),投与中止に至った有害事象の発現割合

は 7.7%(17/221 例),休薬に至った有害事象の発現割合は 36.7%(81/221 例)であった。

長期投与試験合計の有害事象で発現割合が比較的高い SOC は,胃腸障害 53.8%(119/221 例),

感染症および寄生虫症 50.2%(111/221 例),臨床検査 16.3%(36/221 例)及び筋骨格系および結合

組織障害 10.4%(23/221 例)であった。PT 別で発現割合が 5%以上の有害事象は,鼻咽頭炎 37.6%

(83/221 例),硬便 24.9%(55/221 例),便秘 16.7%(37/221 例),頭痛 6.3%(14/221 例),上腹部

痛 5.9%(13/221 例)及び胃腸炎 5.9%(13/221 例)であった。また,治験薬との関連性が否定で

きない有害事象で発現割合が 2%以上の SOC は,胃腸障害 44.3%(98/221 例),臨床検査 3.6%(8/221

例),神経系障害 2.7%(6/221 例),皮膚および皮下組織障害 2.3%(5/221 例)であり,PT 別で発

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 41

現割合が 2%以上の治験薬との関連性が否定できない有害事象は,硬便 24.9%(55/221 例),便秘

16.7%(37/221 例)及び腹部膨満 4.5%(10/221 例)であった。

以上より,長期投与試験の安全性において,比較試験との有害事象の発現傾向に大きな差異は

みられなかった。

2.5.5.3 薬理学的に特徴的な有害事象

女性の下痢型 IBS 患者において,本剤の薬理作用に基づくと考えられる便秘,硬便,腹部膨満

及び腹痛について検討を行った。

2.5.5.3.1 便秘

比較試験では便秘の発現割合は,本剤群で 13.7%(100/728 例),プラセボ群で 4.9%(22/451 例)

であった。用量群別では,本剤 1/1.25 μg 群 11.2%(14/125 例),2.5 μg 群 11.1%(44/396 例),5 μg

群 17.8%(33/185 例)及び 10 μg 群 40.9%(9/22 例)であり,プラセボ群と比較して本剤群で発現

割合が高く,用量群別では高用量群(5 μg 及び 10 μg)の方が低用量群(1/1.25 μg 及び 2.5 μg)よ

り発現割合が高かった。いずれの用量群でも,重篤あるいは重度と判定された便秘は認められず,

便秘が発現した被験者のうち,軽度が 94/100 例,中等度が 6/100 例であり,ほとんどが軽度であっ

た。なお,中等度の便秘は,便秘を発現した被験者のうち 5 μg 群で 3/33 例,10 μg 群で 3/9 例で

みられたが,2.5 μg 以下の用量群では認められなかった。投与中止に至った便秘の発現割合は,

本剤 1/1.25 μg 群 0%(0/125 例),2.5 μg 群 0.3%(1/396 例),5 μg 群 2.7%(5/185 例),10 μg 群 4.5%

(1/22 例)及びプラセボ群 0.4%(2/451 例)であり,プラセボ群と比較して高用量群(5 μg 群及

び10 μg群)で高い傾向がみられた。休薬に至った便秘の発現割合は,本剤1/1.25 μg群10.4%(13/125

例),2.5 μg 群 10.4%(41/396 例),5 μg 群 15.1%(28/185 例),10 μg 群 36.4%(8/22 例)及びプラ

セボ群 4.0%(18/451 例)であり,プラセボ群と比較して本剤群で高い傾向がみられた。用量群別

の比較では,投与中止に至った事象及び休薬に至った事象のいずれも,高用量群(5 μg 及び 10 μg)

の方が低用量群(1/1.25 μg 及び 2.5 μg)より高かった。Kaplan-Meier 推定値(図 2.7.4-1)で示し

たとおり,本剤の高用量群(5 μg 群及び 10 μg 群)では,初回発現時期は投与開始から 28 日以内

が多かった。

長期投与試験では便秘の発現割合は 16.7%(37/221 例)であり,比較試験での本剤群の発現割

合と同程度であった。重篤あるいは重度と判定された便秘は認められず,便秘を発現した被験者

のうち軽度が 36/37 例,中等度が 1/37 例であり,ほとんどが軽度であった。Kaplan-Meier 推定値

(図 2.7.4-2)で示したとおり,初回発現時期は,長期投与試験[CL-203]及び長期投与試験(女

性)[CL-703]のいずれも投与開始から 28 日以内が多かった。

長期投与試験(女性)[CL-703]では,2.5 μg から投与を開始し,5 μg へ増量した場合の便秘の

発現割合は 10.5%(2/19 例)であり,増量に伴って発現割合が上昇することはなかった。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 42

女性の下痢型 IBS に対する効能・効果の追加を目的として初回申請後に実施した試験において,

便秘が発現した患者のうち 8 日以内に回復した患者数は,第 II 相試験(女性)[CL-701]では 1.25 μg

群で 12/13 例,2.5 μg 群で 10/12 例,5 μg 群で 18/25 例であり,第 III 相試験(女性)[CL-702]で

は 2.5 μg 群で 25/32 例,長期投与試験(女性)[CL-703]では 21/28 例であった。

以上のように,女性での便秘の発現割合はプラセボ群と比較して本剤群で高いものの,ほとん

どが軽度で休薬等により速やかに回復し,中止に至ることなく投与が継続できたことから,本剤

投与における便秘は臨床上重大な問題を引き起こす可能性は低いと考えられる。

2.5.5.3.2 硬便

比較試験では硬便の発現割合は,本剤群で 21.2%(154/728 例),プラセボ群で 5.3%(24/451 例)

であった。用量群別では,1/1.25 μg 群 16.0%(20/125 例),2.5 μg 群 22.7%(90/396 例),5 μg 群

21.1%(39/185 例)及び 10 μg 群 22.7%(5/22 例)であり,本剤群で発現割合が高い傾向がみられ

た。本剤群のいずれも,重篤あるいは重度と判定された硬便は認められず,軽度 147/154 例,中

等度 7/154 例であり,ほとんどが軽度であった。なお,中等度の硬便は,硬便を発現した被験者

のうち 2.5 μg 群で 1/90 例,5 μg 群で 3/39 例及び 10 μg 群で 3/5 例でみられ,投与中止に至った硬

便の発現割合は,1/1.25 μg 群 0%(0/125 例),2.5 μg 群 0.3%(1/396 例),5 μg 群 2.2%(4/185 例),

10 μg 群 4.5%(1/22 例)及びプラセボ群 0.2%(1/451 例)であり,高用量群(5 μg 及び 10 μg)の

方が低用量群(1/1.25 μg 及び 2.5 μg)より高かった。休薬に至った硬便の発現割合は,本剤 1/1.25 μg

群 12.0%(15/125 例),2.5 μg 群 20.2%(80/396 例),5 μg 群 18.4%(34/185 例),10 μg 群 22.7%(5/22

例)及びプラセボ群 4.4%(20/451 例)であり,本剤群で発現割合が高いものの,2.5 μg 以上の用

量群では発現状況に明らかな差異はみられなかった。Kaplan-Meier 推定値(図 2.7.4-1)で示した

とおり,本剤群の初回発現の硬便は,いずれの用量群でも投与開始から 28 日以内が多かった。

長期投与試験では硬便の発現割合は 24.9%(55/221 例)であり,比較試験での本剤群の発現割

合と同程度であった。また,重篤あるいは重度と判定された硬便は認められず,硬便を発現した

被験者のうち軽度が 53/55 例,中等度が 2/55 例であり,ほとんどが軽度であった。Kaplan-Meier

推定値(図 2.7.4-2)で示したとおり,初回発現時期は,長期投与試験[CL-203]及び長期投与試

験(女性)[CL-703]のいずれも投与開始から 28 日以内が多かった。

長期投与試験(女性)[CL-703]で,2.5 μg から投与を開始し,5 μg へ増量した患者では硬便の

発現はみられず,増量に伴って発現割合が上昇することはなかった。

女性の下痢型 IBS に対する効能・効果の追加を目的として初回申請後に実施した試験において,

硬便が発現した患者のうち 15日以内に回復した患者数は,第 II相試験(女性)[CL-701]では 1.25 μg

群で 19/20 例,2.5 μg 群で 22/24 例,5 μg 群で 26/30 例であり,第 III 相試験(女性)[CL-702]で

は 2.5 μg 群で 62/66 例,長期投与試験(女性)[CL-703]では 36/43 例であった。

以上のように,女性での硬便の発現割合はプラセボ群と比較して本剤群で高いものの,ほとん

どが軽度で休薬等の処置により速やかに回復し,中止することなく投与を継続できたことから,

本剤投与における硬便は臨床上重大な問題を引き起こす可能性は低いと考えられる。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 43

2.5.5.3.3 腹部膨満

比較試験では腹部膨満の発現割合は,本剤群で 4.1%(30/728 例),プラセボ群で 1.6%(7/451

例)であった。用量群別では,本剤 1/1.25 μg 群 2.4%(3/125 例),2.5 μg 群 3.0%(12/396 例),5 μg

群 8.1%(15/185 例)及び 10 μg 群 0%(0/22 例)であり,10 μg 群を除いた本剤群で腹部膨満の発

現割合はプラセボ群より高かった。本剤群のいずれも,重篤あるいは重度と判定された腹部膨満

は認められず,5 μg 群で認められた中等度の 1 例を除いてすべてが軽度であった。投与中止に至っ

た腹部膨満の発現割合は,本剤 1/1.25 μg 群 0%(0/125 例),2.5 μg 群 0%(0/396 例),5 μg 群 1.1%

(2/185 例),10 μg 群 0%(0/22 例)及びプラセボ群 0.4%(2/451 例)であり,本剤群のいずれも

発現割合は低くプラセボ群と同程度であった。休薬に至った腹部膨満の発現割合は,本剤 1/1.25 μg

群 0.8%(1/125 例),2.5 μg 群 1.3%(5/396 例),5 μg 群 0.5%(1/185 例),10 μg 群 0%(0/22 例)

及びプラセボ群 0.7%(3/451 例)であり,本剤群のいずれも発現割合は低くプラセボ群と同程度

であった。

長期投与試験における腹部膨満の発現割合は 4.5%(10/221 例)であった。また,長期投与試験

(女性)[CL-703]で,2.5 μg から投与を開始し,5 μg へ増量した場合では,腹部膨満の発現は認

められなかった。

以上のように,女性での腹部膨満の発現割合はプラセボ群と比較して本剤群で高いものの,中

止や休薬に至った事象の発現割合はプラセボ群と同等であり,ほとんどが軽度の事象であったこ

とから,本剤投与における腹部膨満は臨床上問題ないと判断した。

2.5.5.3.4 腹痛

比較試験では腹痛の発現割合は,本剤群で 0.3%(2/728 例),プラセボ群で 0.4%(2/451 例)で

あり,本剤群の腹痛の発現割合はプラセボ群と同程度であった。また,本剤群で重篤あるいは重

度と判定された腹痛は認められず,いずれも軽度又は中等度であった。投与中止に至った腹痛の

発現割合は,本剤 1/1.25 μg 群 0.8%(1/125 例),2.5 μg 群 0%(0/396 例),5 μg 群 0%(0/185 例),

10 μg 群 0%(0/22 例)及びプラセボ群で 0.2%(1/451 例)であった。休薬に至った腹痛は,いず

れの投与群でも認められなかった。

長期投与試験における腹痛の発現割合は 2.3%(5/221 例)であった。また,長期投与試験(女

性)[CL-703]で,本剤 2.5 μg から投与を開始し,本剤 5 μg へ増量した場合に,腹痛の発現は認

められなかった。

以上のように,女性での腹痛の発現割合は低く,本剤群とプラセボ群で同程度であったことか

ら,本剤投与における腹痛は臨床上問題ないと判断した。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 44

2.5.5.4 長期投与における安全性

長期投与における安全性の概括評価は,「2.5.5.2 比較的よくみられる有害事象」に記載した。

発現時期別の有害事象の発現割合では,本剤の投与開始から 4 週間以内の有害事象の発現割合

が 41.6%(92/221 例)であり,全投与期間の中で最も高かった。4 週以降の発現割合は,5~8 週

が 35.8%(78/218 例),9~12 週が 26.0%(54/208 例)であり,その後,4 週ごとの有害事象の発

現割合は 25%以下で推移した。長期投与試験で発現割合が 5%以上の有害事象(鼻咽頭炎,硬便,

便秘,頭痛,上腹部痛,胃腸炎)のうち,硬便及び便秘では投与開始から 4 週間以内の発現割合

が最も高く,5 週目以降の発現割合は低かった。また,鼻咽頭炎,頭痛,上腹部痛及び胃腸炎で

は,特に発現割合が高い時期はみられなかった。

長期投与試験で投与中止に至った有害事象の発現割合は,長期投与試験(女性)[CL-703]で

6.0%(9/151 例),長期投与試験[CL-203]で 11.4%(8/70 例)であり,多くの患者が治験実施計

画書に定めた投与期間(28 週間又は 52 週間)を完了しており,本剤を長期投与した際の忍容性

に問題がないことが示唆された。

「2.5.5.2 比較的よくみられる有害事象」で述べたとおり,本剤 5 μg までの用量で長期投与した

際の有害事象プロファイルは,12 週間投与時の有害事象プロファイルと類似しており,また長期

投与に伴う遅発的な有害事象の発現割合の上昇も認められなかったことから,本剤の長期投与に

おける安全性が確認されたと考えられた。なお,本剤 10 μg を長期投与された女性被験者は,長

期投与試験[CL-203]で 5 μg から増量した 3 例のみであるが,その 3 例には便秘,硬便及び腹部

膨満は認められなかった。

2.5.5.5 本剤増減量時の有害事象

本申請にあたっては,長期投与試験(女性)[CL-703]において,投与開始用量を 2.5 μg とし効

果不十分かつ 4 週時までの安全性に問題のない患者に対して 5 μg への増量を検討した。また,長

期投与試験[CL-203]では 5 μg を投与開始用量として増減を行ったため,増減量時の安全性につ

いても,参考として本項目に記載する。

長期投与試験(女性)[CL-703]において治験薬が投与された 151 例のうち,2.5 μg を維持した

被験者は 132 例,5 μg に増量した被験者は 19 例であった。長期投与試験(女性)[CL-703]にお

ける各用量群の有害事象の発現割合は,2.5 μg 維持群 83.3%(110/132 例)及び 5 μg 増量群 73.7%

(14/19 例)であった。また,本剤の薬理学的に特徴的な有害事象と考えられる有害事象の発現割

合では,2.5 μg 維持群において便秘 19.7%(26/132 例),硬便 32.6%(43/132 例)及び腹部膨満 1.5%

(2/132 例)で,5 μg 増量群において便秘 10.5%(2/19 例),硬便 0%(0/19 例)及び腹部膨満 0%

(0/19 例)であり,5 μg への増量により本剤の薬理学的に特徴的な有害事象の発現の増加は認め

られなかった。なお,5 μg に増量した 19 例のうち,1 例が増量後に便秘を発現し,12 週時に 2.5 μg

へ減量した。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 45

以上より,初期投与量 2.5 μg で便通状態等に対する効果が不十分なために IBS 症状の全般改善

効果が認められなかった被験者に対して,5 μg へ増量することによる安全性には問題ないと考え

られる。

なお,長期投与試験[CL-203]では,本剤 5 μg から投与を開始し,投与後 4 週時に便通状態等

に対する効果が過剰のために IBS 症状の全般改善効果が認められなかった被験者に対しては

2.5 μg への減量を可能とし,一方,便通状態等に対する効果が不十分のために IBS 症状の全般改

善効果が認められなかった被験者に対しては 10 μg への増量を可能とした。

長期投与試験[CL-203]において治験薬が投与された女性 70 例のうち,5 μg を維持した被験者

は 51 例,2.5 μg に減量した被験者は 16 例,10 μg に増量した被験者は 3 例であった。

長期投与試験[CL-203]において,本剤の用量調整を行ったことによる安全性上の問題は認め

られなかった。

2.5.5.6 重篤な有害事象

女性の下痢型 IBS 患者を対象とした本剤の臨床試験において,試験期間中に死亡した被験者は

いなかった。

比較試験での重篤な有害事象の発現割合は,本剤群で 0.5%(4/728 例),プラセボ群で 1.1%(5/451

例)であり,長期投与試験合計における重篤な有害事象の発現割合は,1.8%(4/221 例)であった。

比較試験における用量群別の重篤な有害事象の発現割合は,本剤1/1.25 μg群で1.6%(2/125例),

2.5 μg 群で 0.3%(1/396 例),10 μg 群で 4.5%(1/22 例)であり,5 μg 群(185 例)において重篤

な有害事象は認められなかった。本剤群にみられた重篤な有害事象は,顆粒球減少症(1/1.25 μg

群),不安障害(1/1.25 μg 群),血中カリウム増加(2.5 μg 群)及び胃腸炎(10 μg 群)であり,い

ずれの事象も 1 例 1 件の発現であった。本剤群で認められた重篤な有害事象のうち,治験薬との

関連性が否定できない重篤な有害事象は,2.5 μg群で認められた血中カリウム増加のみであった。

長期投与試験(女性)[CL-703]における重篤な有害事象の発現割合は 1.3%(2/151 例)で,血

中カリウム増加,虫垂炎及び腹膜炎(虫垂炎及び腹膜炎は同一症例に併発)が認められた。また,

自然流産が 1 例認められ,重篤な有害事象として報告されたが,安全性評価期間終了後の発現で

あったため,安全性評価の集計に含まれていない。また,長期投与試験[CL-203]における重篤

な有害事象の発現割合は 2.9%(2/70 例)であり,尿管結石及び卵巣嚢胞(各 1 件)が認められた。

長期投与試験 2 試験で認められた重篤な有害事象は,いずれの事象も 1 例 1 件の発現であり,自

然流産を除くすべての事象について治験薬との関連性が否定された。

なお,健康成人を対象とした臨床薬理試験では,重篤な有害事象はみられなかった。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 46

2.5.5.7 臨床検査

2.5.5.7.1 血液学的検査

比較試験及び長期投与試験の血液学的検査では,各項目の投与群ごとの要約統計量に本剤投与

に関連すると思われる明らかな変動はみられなかった。

比較試験における赤血球数及び血小板数では,本剤群で臨床的に重要な異常値はみられなかっ

た。また,ヘモグロビン,ヘマトクリット値及び白血球数では,本剤群で治療期開始後のいずれ

かの時点(治験薬投与後 4,8,12 週時,投与中止時及び規定外検査)で臨床的に重要な異常値が

みられた患者の割合は,いずれもプラセボ群に比べ低かった。本剤の用量間の比較では,用量の

増加に伴って臨床的に重要な異常値の発現割合が増加した項目はなかった。長期投与試験におい

て,赤血球数及び血小板数では,臨床的に重要な異常値はみられなかった。ヘモグロビン,ヘマ

トクリット値及び白血球数では,治療期開始後のいずれかの時点(治験薬投与後 4,8,12,20,

28,40,52 週時,投与中止時及び規定外検査)で臨床的に重要な異常値がみられた患者の割合は,

それぞれ 4.6%(10/217 例),4.1%(9/217 例)及び 4.1%(9/217 例)であり,比較試験の本剤群よ

り高かったが,ほとんどの異常値が投与前からの持続的な所見又は投与開始後の一過性の所見で

あった。

2.5.5.7.2 血液生化学検査

比較試験及び長期投与試験の血液生化学検査では,各項目の投与群ごとの要約統計量に本剤投

与に関連すると思われる明らかな変動はみられなかった。

比較試験における本剤群で治療期開始後のいずれかの時点で臨床的に重要な異常値がみられた

患者の割合は,いずれの項目もプラセボ群とほぼ同程度であった。本剤の用量間の比較では,AST,

ALT,γ-GTP 及び総コレステロールは,高用量群(5 μg 群及び 10 μg 群)で臨床的に重要な異常値

の発現割合が増加したが,1/1.25 μg 群及び 2.5 μg 群での発現割合は低く,プラセボ群と差異はみ

られなかった。長期投与試験での治療期開始後のいずれかの時点で臨床的に重要な異常値がみら

れた患者の割合は,いずれの項目も比較試験の本剤群とほぼ同程度であった。

2.5.5.7.3 尿検査

比較試験及び長期投与試験の尿検査の治験薬投与前と治験薬投与開始後のクロス表では,本剤

投与に関連すると思われる明らかな変動はみられなかった。

比較試験における本剤群で治療期開始後のいずれかの時点で臨床的に重要な変動がみられた患

者の割合は,尿蛋白増加 5.8%(41/713 例),尿糖増加 1.1%(8/713 例)及び尿ウロビリノーゲン

増加 0.3%(2/713 例)であった。尿糖増加及び尿ウロビリノーゲン増加の発現割合は,プラセボ

群と同程度であったが,尿蛋白増加の発現割合は,プラセボ群に比べ高かった。本剤の用量間の

比較では,用量の増加に伴って臨床的に重要な変動の発現割合が増加する項目はなかった。長期

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 47

投与試験で治療期開始後のいずれかの時点で臨床的に重要な変動がみられた患者の割合は,尿蛋

白増加 7.8%(17/217 例),尿糖増加 0.9%(2/217 例)及び尿ウロビリノーゲン増加 0%(0/217 例)

であり,いずれも比較試験の本剤群と同程度であった。

2.5.5.8 安全性に影響を及ぼす因子の検討

下痢型 IBS 患者を対象とした本剤の臨床試験において,本剤の有害事象の発現割合に影響を及

ぼす可能性のある内因性及び外因性因子について検討を行った。

比較試験における本剤群の観察期の無排便の日数別の有害事象の発現割合は,観察期の無排便

の日数が 0 日,1 日及び 2 日以上でそれぞれ 55.3%(275/497 例),63.8%(95/149 例)及び 76.8%

(63/82 例)であり,プラセボ群では観察期の無排便の日数が 0 日,1 日及び 2 日以上でそれぞれ

47.1%(152/323 例),43.5%(40/92 例)及び 41.7%(15/36 例)であった。本剤群では観察期の無

排便日数が多くなるに伴い,有害事象の発現割合が高い傾向がみられた。個々の有害事象では,

本剤群で便秘の発現割合が観察期の無排便の日数が0日,1日及び2日以上でそれぞれ9.1%(45/497

例),14.1%(21/149 例)及び 41.5%(34/82 例),硬便の発現割合が観察期の無排便の日数が 0 日,

1 日及び 2 日以上でそれぞれ 17.1%(85/497 例),26.8%(40/149 例)及び 35.4%(29/82 例)であ

り,観察期の無排便日数が多いほど,便秘及び硬便の有害事象の発現割合が高い傾向がみられた。

プラセボ群では,便秘の発現割合が観察期の無排便の日数が 0 日,1 日及び 2 日以上でそれぞれ

3.1%(10/323 例),8.7%(8/92 例)及び 11.1%(4/36 例),硬便の発現割合が観察期の無排便の日

数が 0 日,1 日及び 2 日以上でそれぞれ 3.4%(11/323 例),9.8%(9/92 例)及び 11.1%(4/36 例)

であった。プラセボ群でも全体的に発現割合が低いものの,本剤群と同様に観察期の無排便日数

が多いほど,便秘及び硬便の有害事象の発現割合が高い傾向がみられた。その他の有害事象にお

いては,観察期の無排便の日数の違いによる有害事象の発現割合に著しい差は認められなかった。

便秘及び硬便の発現割合は,比較試験のプラセボ群,本剤群及び長期投与試験のいずれの投与群

でも観察期の無排便日数が多いサブグループの方が高く,観察期の無排便の日数は便秘及び硬便

の発現割合に影響を及ぼしていると考えられた。

なお,観察期の無排便の日数以外の内因性及び外因性因子については,サブグループ間で一定

の傾向がなく,本剤の安全性に影響を及ぼしていないと考えられた。

2.5.5.9 その他注目すべき有害事象

5-HT3 受容体拮抗作用を有する類薬で問題となっている虚血性大腸炎について,本剤投与による

発現リスクを評価するため,MedDRA 標準検索式(SMQ)で虚血性大腸炎の狭域検索及び広域検

索を用い,有害事象をグループ化して集計した。

本剤の臨床試験において,MedDRA 標準検索式の虚血性大腸炎(狭域検索)で虚血性大腸炎が

疑われる有害事象はみられなかった。一方,広域検索により虚血性大腸炎が疑われた患者数は,

比較試験のプラセボ群で 1/451 例(肛門出血),本剤群で 4/728 例(腸炎 1 例,肛門出血 3 例),長

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 48

期投与試験で 1/221 例(腸炎)の合計 6 例であった。これらはいずれも非重篤で軽度の有害事象

であり,治験薬投与を中止又は休薬された患者はなく,治験薬投与中又は投与終了後に回復が確

認された。第 III 相試験(女性)[CL-702]の本剤 2.5 μg 群でみられた腸炎(1 例)と,第 III 相試

験(女性)[CL-702]のプラセボ群でみられた肛門出血(1 例)を除き,治験薬との関連性は否定

された。

女性の下痢型 IBS 患者を対象とした臨床試験では,虚血性大腸炎又は狭域検索で虚血性大腸炎

が疑われる有害事象は認められなかった。また,広域検索でも,虚血性大腸炎が疑われる有害事

象の発現割合は,本剤群とプラセボ群との間に大きな違いは認められなかった。したがって,本

剤投与と虚血性大腸炎の発現との間に明確な関連性は認められなかった。

2.5.5.10 性別による安全性の比較

男性での全試験併合<第 II 相試験[CL-201],第 III 相試験[CL-202]及び長期投与試験[CL-203]

の 3 試験>で,本剤群の有害事象の発現割合は 65.51%(473/722 例)であった(1.13.1.6 イリボー

錠初回申請資料概要 表 2.7.4.7-13)。一方,女性での全試験併合<第 II 相試験[CL-201],第 III

相試験[CL-202],長期投与試験[CL-203],第 II 相試験(女性)[CL-701],第 III 相試験(女性)

[CL-702]及び長期投与試験(女性)[CL-703]の 6 試験>で,本剤群の有害事象の発現割合は

65.6%(623/949 例)であり,男性の有害事象の発現割合と同程度であった(5.3.5.3-6 YM060 CTD

解析報告書 2 表 2.7.4.2.1.1-2.1)。

PT 別で発現割合が 2%以上の有害事象は,男性の全試験併合では鼻咽頭炎 20.22%(146/722 例),

γ-グルタミルトランスフェラーゼ増加8.03%(58/722例),便秘5.40%(39/722例),固形便(MedDRA/J

Ver16.1 では硬便)5.40%(39/722 例),白血球数増加 4.99%(36/722 例),腹部膨満 3.88%(28/722

例),アラニン・アミノトランスフェラーゼ増加 3.88%(28/722 例),上気道の炎症 3.46%(25/722

例),上腹部痛 2.63%(19/722 例),血中アルカリホスファターゼ増加 2.91%(21/722 例),頭痛 2.49%

(18/722例),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加 2.63%(19/722例),腹痛 2.35%(17/722

例),背部痛 2.22%(16/722 例)及び尿中ブドウ糖陽性 2.35%(17/722 例)の 15 事象であった。

一方,女性の全試験併合では硬便 22.0%(209/949 例),鼻咽頭炎 18.5%(176/949 例),便秘 14.4%

(137/949 例),腹部膨満 4.2%(40/949 例),頭痛 2.8%(27/949 例),上腹部痛 2.7%(26/949 例),

咽頭炎 2.7%(26/949 例),胃腸炎 2.4%(23/949 例)及び上気道の炎症 2.3%(22/949 例)の 9 事象

であった。便秘及び硬便の発現割合は男性と比較して女性で高かった。女性のみで 2%以上の発現

がみられた有害事象は咽頭炎及び胃腸炎であるが,胃腸炎の 1 例を除いて治験薬との関連性は否

定されており,女性特有に発現する有害事象はみられなかった。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 49

2.5.5.11 製造販売後使用経験

本剤は,国内では男性における下痢型過敏性腸症候群の効能・効果で,通常錠(イリボー®錠

2.5 μg 及びイリボー®錠 5 μg)は 2008 年 7 月に,剤型追加として口腔内崩壊錠(イリボー®OD 錠

2.5 μg 及びイリボー®OD 錠 5 μg)は 2013 年 8 月に製造販売承認をそれぞれ取得している。

通常錠の再審査期間中に特定使用成績調査及び製造販売後臨床試験(「下痢型過敏性腸症候群

(男性)患者を対象としたコプライマリーエンドポイント検討のための予備試験」及び「下痢型

過敏性腸症候群(男性)患者を対象とした二重盲検群間比較試験」)を実施し,2012 年 10 月に再

審査申請を行い,2014 年 3 月に再審査を完了した。

特定使用成績調査における副作用の発現率は,3.63%(104/2862 例)であり,発現率 0.1%以上

の副作用は便秘 2.17%(62 件),硬便 0.24%(7 件)及び腹部膨満 0.10%(3 件)であった。

下痢型過敏性腸症候群(男性)患者を対象としたコプライマリーエンドポイント検討のための

予備試験[CL-500]において,安全性解析対象症例 98 例を収集し,副作用発現率は 5 μg 群で 27.7%

(13/47 例),プラセボ群で 11.8%(6/51 例)であった。5 μg 群で発現した副作用は硬便 9 例,痔

核,血中コレステロール増加,血中カリウム増加,尿中ブドウ糖陽性及び血尿各 1 例であり,い

ずれも軽度であった。

下痢型過敏性腸症候群(男性)患者を対象とした二重盲検群間比較試験[CL-501]において,

安全性解析対象症例 296 例を収集し,副作用発現率は,5 μg 群で 19.0%(28/147 例),プラセボ群

で 14.8%(22/149 例)であった。5 μg 群で 2.0%以上に発現した副作用は,硬便 8.2%(12/147 例),

便秘 3.4%(5/147 例)であった。

本剤市販後,2014 年 7 月 9 日までに 64 件の重篤な副作用が報告され,複数の患者で報告され

た重篤な副作用は,虚血性大腸炎,尿閉(各 3 件),低クロール血症,低ナトリウム血症,潰瘍性

大腸炎,便秘,血便排泄,腸閉塞,肝障害,発熱,血中クレアチンホスホキナーゼ増加(各 2 件)

であった。なお,5-HT3 受容体拮抗作用を有する類薬で問題となっている虚血性大腸炎は,非重篤

なものを含めてこれまでに 4 例(うち重篤 3 例,非重篤 1 例)が報告されている。一方で,一般

集団における虚血性大腸炎の自然発生率は 4.5~44 人/10 万人とされており,また IBS 患者におけ

る発現率は一般集団より 3.1 倍リスクが高いと報告されている[Higgins, 2004]。再審査期間中の

イリボー錠の総出荷量を元に算出した推定患者数(約 367,539 人)から推測されるイリボー錠使

用患者での発現割合(4 人/約 367,539 人)は,自然発生率と同程度であり,本剤の服用と虚血性

大腸炎の発生における因果関係は明らかではない。

2.5.5.12 安全性の結論

以上の臨床試験の結果から安全性の結論をまとめた。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 50

● 女性の下痢型 IBS 患者に対して,臨床試験で認められた有害事象の程度は,ほとんどが軽度

であり,重篤あるいは重度と判定された有害事象の発現割合は極めて低く,本剤 10 μg まで

の安全性に大きな問題がないことが確認された。

● 長期投与した際の有害事象プロファイルは,12 週間投与時の有害事象プロファイルと類似し

ており,長期投与に伴う有害事象の発現割合の遅発的な上昇も認められなかったことから,

本剤の長期投与における安全性が確認された。

● 初期投与量 2.5 μg で便通状態等に対する効果が不十分のために IBS 症状の全般改善効果が認

められなかった被験者に対して,5 μg へ増量することによる安全性に問題はないと考えられ

る。

● 比較試験における本剤群とプラセボ群との比較において,本剤群での発現割合がプラセボ群

に比べて 2%以上高い有害事象は,硬便,便秘及び腹部膨満であった。臨床推奨用量である本

剤 2.5 μg 群でプラセボ群に比べ発現割合が 2%以上高い有害事象は便秘及び硬便のみであり,

便秘及び硬便が本剤投与によるリスクと考えられる。

● 便秘及び硬便は,本剤群で発現割合が高いが,重篤あるいは重度と判定された便秘及び硬便

は認められず,ほとんどが軽度であった。また,ほとんどが休薬等により速やかに回復し,

中止に至ることなく投与が継続できたことから,本剤投与における便秘及び硬便は臨床上重

大な問題を引き起こす可能性は低いと考えられる。

● 観察期の無排便の日数別による有害事象の発現割合では,本剤群で観察期の無排便の日数の

増加とともに有害事象の発現割合が高くなる傾向がみられた。また個別事象では,本剤群で

観察期の無排便の日数が増えるとともに便秘及び硬便の発現割合が高くなる傾向が認められ

た。観察期の無排便の日数以外の背景因子については,患者数が少ない層を除き,本剤の安

全性に明らかな影響を及ぼす因子はみられなかった。

● これまでの臨床試験において,虚血性大腸炎又は狭域検索で虚血性大腸炎が疑われる有害事

象は認められず,広域検索でも虚血性大腸炎が疑われる有害事象の発現割合は,本剤群とプ

ラセボ群との間に大きな違いは認められなかったことから,本剤と虚血性大腸炎の発現との

因果関係は明らかではなかった。

● 男性と女性で有害事象の発現割合に差はみられず,発現割合が 2%以上の有害事象を性別で比

較したところ,便秘及び硬便の発現割合は男性と比較して女性で高いものの,女性特有に発

現する有害事象はみられなかった。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 51

2.5.6 ベネフィットとリスクに関する結論

2.5.6.1 ベネフィット

● 自覚症状の改善が期待される。

IBS は機能的疾患であり,日本消化器病学会策定の「機能性消化管疾患 診療ガイドライン」

にも述べられているとおり,その治療の目標は患者自身の評価による症状改善である。更に,IBS

は症候群であり,その主訴も被験者ごとに異なることから,被験者が有するすべての自覚症状を

総合的に評価することが重要であると考えられる。したがって,初回申請時と同様,本申請にお

ける臨床試験では被験者により評価を行う「IBS 症状の全般改善効果」を主要評価項目とした。

また,その下位指標として,下痢型 IBS 患者における主要な自覚症状である腹痛・腹部不快感及

び下痢症状(便形状,排便回数,便意切迫感等)をそれぞれ「腹痛・腹部不快感改善効果」,「便

通状態改善効果」とし主要な副次評価項目に設定した。

その結果,第 III 相試験(女性)[CL-702]において,「IBS 症状の全般改善効果」の最終時点月

間レスポンダー率で本剤 2.5 μg はプラセボに対して統計的有意な差を示し,プラセボに対する優

越性が検証された。また,その他の評価時期である 1 カ月目,2 カ月目及び 3 カ月目の月間レス

ポンダー率においてもプラセボに対して統計的有意な差を示した。更に,週間レスポンダー率で

は,1 週目を除き,本剤はプラセボに比較して統計的有意な差を示し,早期に改善効果が発現す

ることが確認された。また,「腹痛・腹部不快感改善効果」及び「便通状態改善効果」については,

「腹痛・腹部不快感改善効果」の 2 カ月目の月間レスポンダー率,1 週及び 4 週目の週間レスポ

ンダー率を除き,いずれの時点の月間レスポンダー率及び週間レスポンダー率においても本剤は

プラセボに対して統計的有意な差を示し,「IBS 症状の全般改善効果」での有効性を支持する成績

を得た。また,長期投与試験(女性)[CL-703]において,これら改善効果が 13 カ月時点まで維

持されることを確認した。

● IBS の個々の症状改善が期待される。

IBS の個々の症状改善に対する本剤の特徴を明確にするため,本申請では,患者による総合的

な評価である「IBS 症状の全般改善効果」に加え,「便形状正常化」を主要評価項目に設定した。

その結果,第 III 相試験(女性)[CL-702]において,「便形状正常化」の最終時点月間レスポン

ダー率で本剤 2.5 μg はプラセボに対して統計的有意な差を示した。また,その他の評価時期であ

る 1 カ月目,2 カ月目及び 3 カ月目の月間レスポンダー率においてもプラセボに対して統計的有

意な差を示した。更に,週間レスポンダー率でも,本剤群はプラセボ群に比較して統計的有意な

改善効果を示し,早期に改善効果が発現することが確認された。

また,第 III 相試験(女性)[CL-702]において,下痢の個別症状である便形状の週平均値変化

量,排便回数の週平均値変化量及び便意切迫感のなかった日数の割合で,本剤群はすべての週で

プラセボ群を統計的に有意に上回り,早期の改善効果が確認された。残便感のなかった日数の割

合では,8~11 週時においてプラセボ群を統計的に有意に上回った。また,腹痛・腹部不快感重症

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 52

度の週平均変化量でも,すべての時点で本剤群の変化量はプラセボ群を上回り,1~3 週時,9 週時

及び最終時点でプラセボ群に対して統計的有意な差を示した。腹痛・腹部不快感重症度の週平均

変化量では便形状や排便回数の変化量ほどプラセボとの差は顕著でなかったが,「腹痛・腹部不快

感改善効果」では,ほとんどの評価時点において本剤の有効性がプラセボを統計的有意に上回っ

ており,腹痛・腹部不快感の改善も本剤の IBS 症状全般の改善に寄与しているものと考える。

● IBS 患者の QOL を改善することが期待される。

IBS は致死的な疾患ではないが,その症状により患者は行動制限を受け,QOL が著しく障害さ

れることから,QOL の改善も重要である。そのため,本申請では IBS に特異的な QOL 指標であ

る「IBS-QOL」を副次評価項目に設定した。

その結果,第 III 相試験(女性)[CL-702]における全体得点の変化量において,最終時点を含

めたすべての時点で,本剤 2.5 μg はプラセボに対して統計的に有意な差を示した。また,最終時

点における下位尺度得点の変化量のうち,憂うつの変化量,活動制限の変化量及び食事回避の変

化量でプラセボに対して統計的有意な差がみられた。

● 本剤 2.5 μg で効果が不十分な患者に対して増量により効果の改善が期待される。

長期投与試験(女性)[CL-703]において,2.5 μg より投与を開始し,投与 4 週後に効果が不十

分であった被験者について増量基準に従い 5 μg へ増量を行い増量の有用性を検討した。

その結果,5 μg への増量後速やかに有効性の改善が認められるとともに,13 カ月時点まで効果

は維持され,増量による有害事象の発現増加も認められなかったことから,増量の有用性が示さ

れた。

2.5.6.2 リスク

● 薬理学的に特徴的な有害事象である便秘及び硬便の発現するリスク

比較試験併合における本剤群とプラセボ群との比較において,本剤群合計での発現割合がプラ

セボ群に比べて 2%以上高かった有害事象は,便秘(本剤群 13.7%,プラセボ群 4.9%),硬便(本

剤群 21.2%,プラセボ群 5.3%),及び腹部膨満(本剤群 4.1%,プラセボ群 1.6%)であった。この

うち,本剤群で特に発現割合が高く,臨床推奨用量である本剤 2.5 μg 群でもプラセボ群に比べ発

現割合が 2%以上高かった便秘(2.5 μg 群 11.1%,プラセボ群 4.9%)及び硬便(2.5 μg 群 22.7%,

プラセボ群 5.3%)を本剤投与によるリスクと判断した。これらは第 III 相試験[CL-202]におけ

る男性の下痢型 IBS 患者での便秘(5 μg 群 4.2%,プラセボ群 1.3%)及び硬便(5 μg 群 6.0%,プ

ラセボ群 0.4%)の発現割合と比較して高く,女性におけるこれら事象の発現に留意するよう注意

喚起が必要であると考え,添付文書(案)の重要な基本的注意に反映させた。

また,便秘及び硬便は,観察期の無排便の日数が増えるに従い高くなる傾向が認められた。こ

の点について医療従事者向け及び患者向け資材を用いて情報提供を行い,安全性の確保を図るこ

とが必要と考える。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

臨床に関する概括評価

アステラス製薬 53

2.5.6.3 ベネフィットとリスクのまとめ

IBS はその症状を説明し得る器質的疾患を伴わず,腹痛・腹部不快感と便通異常を主体とし,

それら消化器症状が長期間持続若しくは再燃・寛解を繰り返す機能性疾患である[Drossman,1994]。

また,IBS は致死的な疾患ではないが,その症状により患者は行動制限を受け,社会的活動に支

障を来すために経済的損失が無視できない規模で生ずることも明らかになっている[Sandler,

1990]。

イリボー®錠 2.5 μg,同錠 5 μg は効能・効果を「男性における下痢型過敏性腸症候群」とし,2008

年 7 月に厚生労働省より製造販売承認を受けた。その後,特定使用成績調査等を通して有効性及

び安全性が確立し,現在ではポリカルボフィルカルシウム等の高分子重合体,又はトリメブチン

マレイン酸塩等の消化管運動調整薬とともに男性では IBS に対する第一選択薬として使用されて

いる。

しかしながら,第 III 相試験[CL-202]において,女性では本剤 5 μg のプラセボ群に対する有

意な改善が認められず,安全性に関して男性に比べ女性において本剤の薬理作用に基づくと考え

られる有害事象(便秘,硬便,腹部膨満)の発現割合が高い傾向を認めた。また,性差試験[CL-205]

において,本剤 5 μg の単回投与時における女性の Cmax及び AUC は男性のそれぞれ約 1.5 倍及び

約 1.7 倍と男性に比べ女性で高かった。以上のことから,女性の下痢型 IBS 患者に対する臨床推

奨用量は男性より低いことが考えられ,有効性及び安全性について,追加の検討を行った。

その結果,第 III 相試験(女性)[CL-702]において,本剤 2.5 μg は,患者による総合的な評価

である「IBS 症状の全般改善効果」及び IBS の個々の症状改善に対する本剤の特徴を明確にする

指標である「便形状正常化」のいずれにおいてもプラセボに比べて統計的に有意な差を示し,本

剤のプラセボに対する優越性が検証された。また,IBS の個々の症状(腹痛・腹部不快感,便形

状,排便回数,便意切迫感,残便感)に対しても本剤 2.5 μg の有効性が認められ,それに伴う QOL

の改善も認められた。これら改善効果は投与早期より認められており,IBS の治療において臨床

的意義が高く医療ニーズとも合致していると考えられる。

本剤の注目すべき有害事象である便秘及び硬便は,本剤 2.5 μg でプラセボに比べて高い発現を

示したが,ほとんどが軽度で休薬等により速やかに回復した。これら事象は虚血性大腸炎及び重

篤な便秘に対する潜在的リスクであるため,男性の下痢型 IBS に対する効能・効果取得時には,

添付文書において十分な注意喚起を行い,それに従った適正使用に努め,特定使用成績調査等を

通して安全性が確立されてきた。女性では男性に比べ便秘及び硬便の発現割合が高かったことか

ら,男性同様,添付文書の使用上の注意の内容を徹底するとともに,女性におけるこれら事象の

発現に留意するよう改めて注意喚起が必要であると考え,添付文書(案)の重要な基本的注意に

反映させた。また,観察期の無排便の日数が増えるに従い便秘及び硬便高くなる傾向が認められ

たことに関して,医療従事者向け及び患者向け資材を用いて情報提供を行い,安全性の確保を図

ることで,リスクを最小化することが可能と考えられた。

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臨床に関する概括評価

アステラス製薬 54

長期投与試験(女性)[CL-703]では,本剤 2.5 μg で効果が不十分な患者に対して 5 μg へ増量

することで症状が改善することが認められた。一方,増量による便秘・硬便の発現の上昇はみら

れなかった。したがって,本剤の効果の程度に応じて増量することにより安全性を確保しつつ治

療をコントロールすることが可能であると考えられた。

本剤のベネフィットは IBS症状の総合的な改善と個別症状の改善及びそれに伴うQOLの改善で

あり,本剤に特異的なリスクである便秘及び硬便の発現に十分注意することにより,男性同様,

女性の下痢型 IBS の治療に苦慮している患者にも新たな治療の選択肢として,医療現場のニーズ

に対応できると考えられた。

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ラモセトロン塩酸塩 2.5

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アステラス製薬 55

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