第15回 山岳遭難事故調査報告書...第15回 山岳遭難事故調査報告書...

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第15回 山岳遭難事故調査報告書 2018 /6/2 文責 青山千彰 山岳遭難事故者データベースより 1

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Page 1: 第15回 山岳遭難事故調査報告書...第15回 山岳遭難事故調査報告書 2018/6/24文責青山千彰 山岳遭難事故者データベースより 1 ー目次ー (1)登山風土と山岳事故リスク

第15回

山岳遭難事故調査報告書

2018/6/24 文責 青山千彰

山岳遭難事故者データベースより

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Page 2: 第15回 山岳遭難事故調査報告書...第15回 山岳遭難事故調査報告書 2018/6/24文責青山千彰 山岳遭難事故者データベースより 1 ー目次ー (1)登山風土と山岳事故リスク

ー目 次ー

(1) 登山風土と山岳事故リスク S3-10(2) 山岳三団体における事故の経年変化 S11-19(3) レジャー白書から見た登山者動態の推定 S20-25(4) 2017年警察庁の事故データ S26-32(5) 山岳事故データベースからの解析 S33----

新規登録事故者383の特徴 S34-39三次元的事故分布の可視化 S40-76

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登山風土と山岳事故リスク

1.イギリスの魔の時間山岳遭難事故統計で、大きな成果は、「魔の2時」と「魔の11時」と呼ばれる事故多発時間帯である。特にピークを示す2時は昼食後、最も注意力が落ちる時間帯として注意され、安全登山活動に大きな成果をもたらした。うかつにも筆者は海外においても魔の2時の法則が成り立つものと考えてきた。

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日本

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今春UIAAの国際山岳事故データベース構築のため、ウエールズの山岳レスキューMREWの統計担当Rob Shepherd氏と長時間にわたってUIAAとイギリス双方の事故問題を話し合った。

その際、驚いたのは図のように魔の16時だった事である。確かに活動の活発な夏では、夏時間を無視すると日の出 英国3:43(日本4:24)、日の入り20:22(19:02)と

2時間差ができる当然登山形態が異なるため、事故多発時間帯が

England & Walesby Rob Shepherd

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異なる事は当然の帰結であった。

英国ではアルパイン型登山習慣がないので、通常朝8から10時に出発し、昼食は12から14時にとる。約2時間遅れ気味に考えると16時のピークが理解しやすい。

また、図の事故分布行動は20時から23時(サマータイムでは21:22に日没)まで及んでいる事が分かる。昼間時間が16時間もある結果、山行時間も長くなるのであろう。深夜時間まで一般ハイカーが行動するため、レスキュー施設には夜間救助を前提とした非常に多くのランプと大きなバッテリーチャージ室があったことを思い出した。

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2.変わりゆく登山風土とそのリスク日英の事故発生時間帯の違いは、登山形態が

如何に風土に根ざして習慣化してきたのか、その結果、「登山風土」として事故形態に大きな影響を与えているかを物語っている。

今、グローバリゼーションの時代にあって、異なる登山風土間で摩擦が生じ出している。

2013年7月中央アルプスでの韓国人4人の凍死事故は、日本と韓国の様々な登山習慣の違いが事故原因となった典型的な事例である。

登山風土はその地域で形成され、いつまでも変わらないものではない。風土に根ざした基本的な習慣は変わらなくとも、気候変動により変化し、 6

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長期に及べば、地域に根ざした登山風土は大きく変化する。

一方、時間とともに技術革新の波も登山風土・習慣を変えていく。軽量で長時間持つLEDランプは夜間行動を変え、携帯電話ナビとGPSは、地図不携帯での山行を可能とした。

このように登山風土は経時的に変化していき、やがて、魔の時間帯も変化していくものなのだろう。

山岳遭難事故を扱う立場の者は、常に変わりゆく登山風土に根ざした解釈が必要になっていく。以下に変化する登山リスク要因図を示す。拡大解釈すれば、登山風土が生み出す負の相関図でもある。

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環境リスク気象、登山道、地形、地

質、自然災害

登山用具リスク品質と操作法

登山者リスク体力、知識、経験,

既往症、ヒューマンエラー

集団リスクリーダー責任、集団形態(引率/自主)、

情報・計画リスク

経年変化する登山リスク要因

事故

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3.登山風土を形作る登山世代

我国の登山者世代分布は、60後半から70前半の高齢者がピークとなる、世界の登山界の中でも例を見ない世代構成を示す。欧米で一般的な世代分布は、図のイギリスの事例から明らかなように20歳世代でピークを示すパターンである。

おそらく世界の様々なスポーツ年齢構成の中で、高齢者層の参加が最も多く、事故も高齢者層で突出するケースなど聞いたこともない事例に違いない。

そういう意味において、未だ経験した

Rob Shepherd

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こともない世界を、日本の登山風土は描こうとしている。貴重な世界的実験室なのである。

この風土を支える世代は昭和15年~30年生まれの登山団塊世代である。やがて、後期高齢者(75歳~)に向かってシフトし、本来なら活動能力の低下で、登山はできなくなっていく。その結果、5年先から高齢者世代の大幅な低下と山岳事故の減少が予想される。

しかし、健康に恵まれた新高齢者世代が頑張ってくれるかもしれない。もちろん、事故など起こさず 2025年問題など吹き飛し、世界に例を見ない新登山風土を作り出してほしい。

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山岳三団体(日山協、労山、jRO)における事故の経年変化

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2003-2017 年度 会員数  事故者数死亡者数

アンケート回答数

回収率(%)対会員事故

比 1:x対会員死亡

比 1:x死亡/事故者(%)

日山協、労山、都岳連共催 2003 59428 528 23 199 37.7 112 2584 4.4日山協、労山、都岳連共催 2004 65238 420 11 169 40.2 155 5931 2.6日山協、労山、都岳連共催 2005 68430 446 28 96 21.5 153 2444 6.3日山協、労山、都岳連共催 2006 70417 479 31 230 48.0 147 2272 6.5日山協、労山、都岳連共催 2007 73448 516 24 227 40.9 142 3060 4.7日山協、労山、jRO 2008 73668 527 22 218 46.9 139 3349 4.2日山協、労山、jRO 2009 79390 530 37 179 29.4 149 2146 7.0日山協、労山、jRO 2010 85454 574 24 188 34.1 148 3561 4.2日山協、労山、jRO 2011 89751 629 21 190 34.1 142 4274 3.3日山協、労山 2012 74405 613 18 214 34.9 121 4134 2.9日山協、労山 2013 74835 703 31 220 31.3 106 2414 4.4日山協、労山、jRO 2014 110516 850 38 221 26.0 130 2908 4.5日山協、労山、jRO 2015 130111 940 37 247 26.3 138 3517 3.9日山協、労山、jRO 2016 138960 1090 30 228 20.9 127 4632 2.8日山協、労山、jRO 2017 148153 1077 37 382 35.5 137 4004 3.4

三山岳団体の会員数の増加で、事故者のアンケート回答数は382まで増加したが、回収率は35.5%に止まっている 12

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3団

体会

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山岳3団体の会員数変化

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3組織の会員数は、日山協、労山は微減、jROが1万人増加した結果、148,153となった。約15万人であるが、jROへの加入者がトレランや子供を含めた家族など、一般登山者とは異なる層でも増加し、解釈

が難しくなってきた。

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死亡

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事故

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2004年から右肩上がりに増加し続けてきた事故者数が、僅かに下がった、一時的な現象なのか注目したい。 14

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y = 0.0078x - 56.461R² = 0.9622

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事故

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会員数

会員増加に比例して事故者数が増加する会員数と事故者数との関係は、現段階では非常に良い線形関係

(R2=0.966)にあるが、jROだけが増加し続けると、この関係は崩れる15

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対会

員事

故比

(1:会

員) 日山協

労山

1事故の発生は何人の会員を背景に発生するのか。日山協と労山の保険様式が類似してきたことにより、ほぼ1:70。

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山岳保険、利用目的の多様化

「日山協、労山の山岳保険加入者年齢分布」を見ると、60歳後半をピークとする事故年齢分布と同じ曲線を描く。おそらく、日本の登山者年齢分布に類似したものであろう。

一方、 jRO会員の年齢分布は、大幅に異なり47歳をピークとする独自の曲線を描き、家族入会による幼年から青年の子供があり、トレランレースに出場のための加入など、山岳保険の利用目的の多様化が見られる。

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日山協会員55604人

労山会員19029人

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jRO会員73520人

69歳をピーク

47歳をピーク

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登山者の世代分布2015/2016

レジャー白書の推計による登山者世代分布も60代から70代にかけてピークを描く 19

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レジャー白書から推定した登山者動態

レジャー白書は全国15歳以上79歳以下、男女を対象にアンケート有効回答数3328(2017)で、1979から訪問留置き法、2009年よりインターネット調査したもの。長期にわたり全国登山動向を観察してきた特徴がある

ここでは、登山に関したデータを基に解析を行いその結果を報告する

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登山

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登山ブームが少し退潮し、650万人。余暇活動の潜在需要では10位となっている。なお、ピクニックなど野外活動6位で、アウトドアへの関心はまだ高い

登山人口推計650万人

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費用

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1回あたりの費用 年間平均費用

一般登山者が年間に使用する費用は3~3.5万円あたりで、1回あたりの費用7000円程度となる。長期間あまり変動しない特徴がある。22

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登山

キャ

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(億円

登山ブームは低調になりつつあるが、野外活動用品などは取り扱いが増加している。野外活動やそれに関係するファッション製品など新

しい需要領域が拡大している

参考; アウトドア市場規模では約4274億円。ライトアウトドア(キャンプ、ハイキング、釣り、野外フェスなど)と、ライフスタイル分野(アウトドアブランドのウエア、日常で用いるザック、シューズなどアスレジャー*)アスレティック+レジャー

登山キャンプ用品市場の推移

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登山者数と事故者数の相関

山岳事故統計を研究する者として、正確な登山者数に対する事故者数はリスクを求める場合の必要条件である。しかし、正確な登山者数と事故者数を測定することができず、レジャー白書からの登山者の世代分布と事故の世代分布を比較検討することでしかできなかった。

幸い、先述したRob氏のMREWではイギリス全土の事故を扱う立場にあり、日本の警察のように全国規模で登山者数と比較することができる立場にある。Rob 氏の研究成果から両者の関係を紹介する。 24

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右図は各月の登山者数と事故件数の関係を示したものである。

各月ごとに、登山者の変遷と事故者の発生が正の線形的相関で類似していることが分かる。

他の月も同様であり、事故曲線から登山者の動態を推測することが可能であると考えられる

事故者

登山者

Rob Shepherd

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2017年警察庁の事故データ

本データは、毎年6月末に公表され

る警察庁の事故統計を基に、再分析後・データ加工したものである。

26

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27

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

19

97

19

98

19

99

20

00

20

01

20

02

20

03

20

04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

20

11

20

12

20

13

20

14

20

15

20

16

20

17

該当

発生件数17年=2583件

死者故不明者17年=354人

負傷者17年=1208人

無事救出17年=1549人

事故者総数17年=3111人

事故者数は昨年減少したが、再び増加し、約20年間の右肩上がり傾向が続いている

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28

20歳未満6.1

20~298.4

30~397.7

40~4912.2

50~5914.6

60~6923.8

70~7921.5

80~89

5.3

90歳以上0.4

0% 20% 40% 60% 80% 100%

1

60歳以上51%

登山世代は完全に高齢者時代に入り、75歳以上の後期高齢者が少しづつ増え始めている。

事故者の世代構成

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29

10 10

1923

63

111

81

33

4

0

20

40

60

80

100

120

死者

・行

方不

明者

(人)

死者・行方不明者の世代構成

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

各世

代の

事故

者数

に対

する

死者

・行

方不

明者

割合

死者・行方不明者の世代構成は、事故者構成と類似したパターンとなる。しかし、各世代ごとに、事故者数に対する死者・行方不明者割合をとると、加齢とともに増加する傾向を示す。その境界は70歳となる

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30

3.7

2.7

2.0

0.0

0.0

0.6

0.0

2.1

0.4

7.5

5.6

40.2

3.2

15.1

16.8

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0

その他

不明

野生動物襲撃

鉄砲水

有毒ガス

悪天候

落雷

雪崩

落石

病気

疲労

道迷い

転落

転倒

滑落

構成比

道迷い40%と突出する傾向は変わらない。雪崩が65人のデータは大半が那須遭難であろうか。野生動物襲撃も増加している

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31

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

19

91

19

92

19

93

19

94

19

95

19

96

19

97

19

98

19

99

20

00

20

01

20

02

20

03

20

04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

20

11

20

12

20

13

20

14

20

15

20

16

20

17

20歳代

60歳代

40歳代

30歳代

19歳未満

60歳代が減少期に入り、70歳以上だけ、が確実に増加を続けている。しばらくは、この傾向が続く。

各世代の経年変化

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0

5

10

15

20

25

30

2017

高齢化する登山団塊世代昭和15年~昭和30年(1940-1955)生まれ、図中黄色矢印は団塊の年齢幅を示す

40 50 60 70040 50 60 700

左図は1992年から4年おきに2016年まで

事故年齢分布曲線のピークがシフトする様

子を示した。終に、2017年には70歳代がピークとなっ

た。

0

5

10

15

20

25

10代 20代 30代 40代 50代 60代 70代

登山者の世代分布2016

40 50 60 700

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山岳遭難事故データベースからの解析

2018年6月現在、事故データは新しく383人分が登録された。

日山協165人、労山189人、jRO29人総データ数3402人; ファイル容量(7Mbyte)EXCEL使用セル数(2,337,174cells)

登録データ 3402

33

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新規登録事故者383人の特徴

新たに383人のデータが加わった。60歳以上の高年齢層で女性が30人も多くなった。幼児(共済登録6歳の男子)は軽症であった。

jRO/労山では幼児から登録され、日山協では高校生・大学生が多い特徴がある。

年齢層 女 男0-9 1

20-29 3 230-39 9 1240-49 20 1950-59 36 2560-69 86 6170-79 54 4580-90 7不明総計 208 173

2

年齢層 0 1 2 3 4 5 60-9 1

20-29 530-39 1 5 12 340-49 3 7 24 550-59 1 9 8 31 9 260-69 1 36 30 58 18 470-79 1 33 20 38 780-90 6 1総計 3 85 76 169 42 7 0

無傷 軽症 中症 重症 重体 死亡 即死

IIC

1名年齢不明

34

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滑落 64転倒 194墜落 16道迷い 13疲労 24発病 6落石 10雪崩 3落雷 2悪天候の為の行動不能6有毒ガス 0鉄砲水 0いさかい 0野生動物・昆虫の襲撃16

かなりの人々が複合目的で登山を行っている。

事故は相変わらず、滑落、転倒が大半を占めるが、少しづつ道迷い、疲労が増加してきた。雪崩は僅か3人であるが、2人が亡くなっている。幸い、落雷は2人とも軽度であった。昨年より野生動物は急増しており、大半が昆虫によるものであった。

以下、雪崩と野生動物襲撃に関する典型的な事例を詳しく紹介する

登山系山歩き 236縦走 124山スキー 23アルパインクライミング 31アイスクライミング 11フリークライミング 34沢登り 50非登山系(登山との複合)観光 44山菜採り 11渓流釣り 3写真撮影 26

登山

目的

事故

要因

(態様

35

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雪崩による死亡事例

事故者は50歳代の男性。冬山歴32年のベテランである。事故当日は、天候晴れ、気温-10度であった。事故発生ルートは良く登ったルートである。場所は雪渓、ハイマツの

ある崖地、斜面の斜度は30~59度の急傾斜地であった。人為的発生の可能性のある雪崩。急傾斜登りで、上部クライマーの影響によるものか、見ることができないまま、気づくと雪崩がせまっていた。

頭蓋底骨折。へりで救助されたが、死亡した。

36

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野生動物・昆虫の襲撃新規データ383より

野生動物・昆虫の襲撃は前年度4件から15件まで増加している。特に、ダニ、(ツツガムシ)被害が増加し、6件報告されている。その範囲は西日本に限定されていたが、温暖化の影響か、急速に拡大し、データは知床阿寒から新潟、京都、香川など全国に及ぶ。

蜂類(スズメバチ)被害も多く、6件ある。襲われた段階でパニック行動をおこし、慌てて走り転倒し捻挫起こしている。また、熊に遭遇したケースも、走って逃げ、転落した結果、脳しんとう、全身打撲を起こしている。両ケースを紹介する 37

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野生動物・昆虫の襲撃で慌てたケース

38

事例1;30代の女性。クライミング5年、冬山の経験2年。4人パーティ

で、北海道増毛山塊に入る。熊と遭遇し、走って逃げて急坂を転落、転倒した。脳しんとう、

左肩、両手打撲、事故後、意識はあったが、全く動けなく、ヘリで救出された事例2;

60代の男性。クライミング、冬山それぞれ30年を超すベテラン。前のメンバーが動物によるものか、大声をあげて逃げ出したので、それにつられて一緒に走った。

転倒し、左足首関節捻挫した。

いづれも、動物襲撃では逃げると悪化するケースが多く、恐怖が先立つが、是非冷静な行動への対策指導が望まれる。

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県別新規データへの感想383新規データより一部紹介

埼玉岳連;瀬藤氏の指摘「埼玉県内及び埼玉県在住者の遭難内容を

みると情けない遭難も有りますが、自力下山している人は多いのに驚きました。昨年、埼玉県内での遭難者数は65人ですが今回の資料に当てはまるのは1件のみでした。」「提案としては、もっと回答率を上げることが肝心かと思います。」

Point; 警察、山岳会、さらに消防による事故調査の対象が異なる事を指摘している。 39

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緯度・経度・標高による

三次元的事故分布の可視化

目的

日本列島で発生する山岳遭難事故の発生場所を緯度・経度と標高で表し、そこで事故の発生状況を分かり安く可視化を目指す。

40

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標高の取得方法について

遭難事故3402件の緯度経度は、報告書から読み取り可能な範囲で、登録したが、標高までは読み取れていなかった。そこで、Google Maps Elevation APIを用いて緯度経度から標高を取得した。

今回は 遭難事故が発生した標高について、どのような特徴があるのか検討した

41

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北海道ブロック北緯(41-45°)

Hmax2291m等高線は1000m以上

42

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東北ブロック北緯(37-41°)

Hmax2356m等高線は1000m以上

43

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関東-中部-北陸-近畿ブロック北緯(33-37°) Hmax3776m

等高線は1000m以上 44

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近畿-中国-四国-九州ブロック北緯(31-35°)

等高線は1000m以上 45

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屋久島-沖縄ブロック北緯(26-30°)等高線1000m以上 46

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三次元日本山岳遭難断面図

当データベースで、標高別に事故発生状況を見ると、

低山域 (1000m未満)で42%、中低山域(1000m ~1999m)で39%、中高山域(2000m~2999m)で18%、高山域 (3000m以上)では僅か1%

となっている。大半の事故は2000m未満(81%)で発生している。

一方、緯度-標高、経度-標高の関係はアルプスを軸とした日本の山岳事故の発生状況を簡潔に表す図となっている。 47

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0 50 100 150 200 250

0-99200-299400-499600-699800-899

1000-10991200-12991400-14991600-16991800-18992000-20992200-22992400-24992600-26992800-28993000-30993300-33993500-3599

事故頻度

標高

(m

)標高別事故発生頻度

低山域中低山域

中高山域

高山域

48

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経度と標高に見る事故発生地点N=3402

49

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近畿東海

緯度と標高に見る事故発生地点N=3402

参考資料;高度1000mで6.5C 低下、一説では緯度1度で1℃低下の目安50

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標高から見た県別山岳事故特性

各標高ごとに発生した山岳事故を県単位でまとめると、その県独自の事故発生パターンを描くことがわかる。県単位で、県別山岳事故を扱う場合の指標として扱えるかもしれない。

アルプスを持つ長野県は高山域から低山域まで事故が発生し、同じ山岳県でも山梨県は1500mを中心に発生する。一方、都市周辺の東京、兵庫県では1000m以下の中~低山での事故が中心になる。以下12例を示す

51

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個性的な県別

事故-標高パターン

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

0-499 500-999 1000-1499 1500-1999 2000-2499 2500-2999 3000-3499

長野県

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0-499 500-999 1000-1499 1500-1999 2000-2499 2500-2999 3000-3499

山梨県

0

10

20

30

40

50

60

群馬県

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

東京都

0102030405060708090

100

兵庫県

0

5

10

15

20

25

30

埼玉県

52

様々なタイプ高山型都市周辺型特定山域型低山型中低/中高

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0123456789

10

熊本県

0

10

20

30

40

50

60

北海道

0

2

4

6

8

10

12

岩手県

0

5

10

15

20

25

岐阜県

0

2

4

6

8

10

12

鳥取県

0

1

2

3

4

5

6

7

愛媛県

53

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0

50

100

150

200

250

0-4

99

50

0-9

99

10

00

-14

99

15

00

-19

99

20

00

-24

99

25

00

-29

99

30

00

-34

99

35

00

-39

99

頻度

標高

ほぼ水平

傾斜面(0~9度)

やや急斜面(10~29度)

急斜面(30~59度)

壁(60度以上)

事故発生地点の標高と傾斜

事故発生地点の標高と傾斜との関係は、60度以上のクライミングが、低山域で行われ、急傾斜も中低山域から同じ傾向を示す。

54

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標高と事故時の温度

• 事故発生時の気温と標高に該当する事故数との関係を以下に示す。各標高によって、最頻度を黄色で描くと、3000mまでは11~20℃、それより高くは1~10℃で事故が発生する夏山データを示している。

-20≧x -10≧x≧-19 0≧x≧-9 1≦x≦10 11≦x≦20 21≦x≦30 x≧310-499 15 24 18 129 266 110 1500-999 17 36 56 149 239 108 21000-1499 15 46 60 146 243 63 11500-1999 20 49 53 113 234 57 02000-2499 11 31 15 64 103 24 02500-2999 17 28 21 70 80 19 03000-3499 1 3 1 10 4 2 03500-3999 0 0 1 4 3 0 0

55

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標高と事故の相関性

山岳事故を検討する上で重要な事故要因と標高の相関性について調べた

各標高 事故発生時刻

事故要因

疾患

外傷

56

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事故発生時刻と標高との相関魔の11時と14時と呼ばれる2つの事故発生

ピークがある。11時には滑落がピーク、14時に

は転倒がピークを示す。当初、滑落は高山域で主に発生し、朝立ちの時間が早いと考えてきたのだが、低山域でも多いことが分かった。ただし、事故が発生した段階での行程が11時で、かなり後半にかかる行程となっており、朝早く動き出している事を示している。12時頃に減るのは食事停止の影響か。

0

50

100

150

200

250

300

350

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

滑落

転倒

57

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0

20

40

60

80

100

120

140

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

事故

頻度

時刻

0-499

500-999

1000-1499

1500-1999

2000-2499

2500-2999

3000-3499

3500-3999

事故発生時刻2つのピークは、500未満では11時側が高くなり、そこから2000までは、14時が高く、標高が2000m以上高くなると曖昧になる。

1114

58

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標高と事故要因

滑落と転倒

滑落事故はかつて高山域に多発すると考えてきたが、中低山域で最も多くなることが分かった。確かに滑り落ちるだけの斜面長があれば、里山の崖地でも発生する。 転倒事故との違いは滑り落ちる斜面の有無程度の違いであろうか。事故関係者の感覚的な判断のため、定義が難しい。もちろん、落下時の衝撃は滑落が大きく、死亡率は滑落8.6%、転倒0.8%と大きな差が生じ、かつ、傷害部位も異なる。

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滑落60

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0 50 100 150 200 250 300 350 400

0-499

500-999

1000-1499

1500-1999

2000-2499

2500-2999

3000-3499

3500-3999

転倒

転倒61

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道迷い

軽度の道迷い事故に関し、山岳団体共済への請求は少ない。そのため保険請求時に出されるケースは深刻なものが多く、他の要因と重なって、死亡12名、重体13名となっている。

一方、道迷いが発生しやすい標高は低山域であるが、道迷いが他の要因と重なり、より深刻化するのは北・中央・南アルプスの中低山域という結果が出ている。

登録事例では、道迷いが発生しやすい山域が見られることから、もう少しデータがあれば、道迷いが発生しやすい山域データベースが構築できる。 62

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道迷い63

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自然現象要因の事故と標高

雪崩、落石は人為的なものもあるが、ここでは自然現象にまとめた。

雪崩、落石、落雷、鉄砲水、悪天候、有毒ガスにおいて、事故発生頻度が高いのは、落石、悪天候である。標高による差はあまり見られない。落石の場合、発生場所は南・北・中央アルプスに集中しており、半数の42件/84に達する。さらに、その中で自然落石としたのは13件で、他は人為的な可能性が高い。

悪天候では37件が激しい風と大雪、16件が 64

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雪崩 落石 落雷 鉄砲水 悪天候 有毒ガス0-499 14 1 1 4

500-999 2 13 7 11000-1499 8 15 1 101500-1999 5 17 3 3 142000-2499 4 10 72500-2999 1 14 2 1 103000-3499 1 33500-3999

総計 20 84 7 5 55 1

激しい雨と風となっている。

雪崩は10/20件で脳挫傷や窒息で死亡している。事例が少ないが、500m以上から報告がある。

落雷は1人死亡、生存者の診断には雷撃傷/聴力低下難聴、火傷/左耳鼓膜破れなど頭部に落下している事が分かる。

65

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野生動物/昆虫の襲撃と標高野生動物/昆虫の襲撃は熊6例、猪2例、マム

シ4例、他は蜂、ダニ、ブヨである。襲撃もあるが、熊を見て慌てて滑落などもある。

3000m近くまで報告されているが、襲撃は2000m付近より下がると増加する。

1500-1999でも真ダニ被害がかなりあり、熊・鹿・猪が運ぶのであろう。マムシ被害も1500mまでに報告がある。なお、ダニと共に運ばれる蛭に関する報告はない

0-499 13500-999 12

1000-1499 101500-1999 52000-2499 12500-2999 23000-34993500-3999

野生動物・昆虫の襲撃

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標高と高山病との関係

高山病は、発症事例が少なく、5例は他国となっている。発症は1498m、2430m地点である。肺水腫は高山病(2803m)に加え大きな傷害を負うケースで、1人は死亡(2715m)。

低体温症、凍傷は冬期に全標高で発症するが、前者は2500m地点での発症が多く、後者は

1500mを超えると多くなる。

標高 急性高山病 肺水腫 脳浮腫 低体温症 凍傷0-499 1 3

500-999 2 2 2 71000-1499 1 4 111500-1999 6 232000-2499 1 4 152500-2999 2 12 153000-3499 1 23500-3999

総計 7 4 2 30 7967

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標高と疾患ヨーロッパアルプスで、死亡原因の第一位が心疾患によると言われている。幸い、我が国では登山中の心疾患事故は少ない。しかし、データが少ないが、24名中8名が虚血性心疾患(心筋梗塞)で死亡している。

呼吸器系は高山病も含まれ、27名中4名が死亡。診断名は溺水死、低酸素性脳症、窒息死、肺挫傷である。

神経系は、死亡事例がないものの頸椎損傷に代表されるように重体、後遺症を残すケースが多い。 68

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消化器系では多臓器不全で1名死亡。腸閉塞、肝損傷、また、高所による食道裂孔ヘルニア(920m)などがある。

いづれも、発症標高は低山域~中低山域に多く報告されている。

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標高と外傷

外傷の半数は骨折である。全標高域に発生している。34名が死亡し、重体、重症は1339名におよぶ。死亡原因は多種におよぶが、脳挫傷、頸椎損傷、多発外傷などが見られる。次に多い打撲内容も、全標高域に発生する。内容は骨折に重なりながら30名死亡。外傷性ショックが多い。裂傷も全標高で発生、出血性ショック死などで19名が死亡している。

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骨折, 415

骨折, 389

骨折, 338

骨折, 322

骨折, 142

骨折, 144

骨折, 10

骨折, 2

打撲, 146

打撲, 166

打撲, 190

打撲, 128

打撲, 80

打撲, 90

打撲, 4

打撲, 4

裂傷, 117

裂傷, 125

裂傷, 129

裂傷, 102

裂傷, 58

裂傷, 69

裂傷, 4

裂傷, 5

神経障害, 10

神経障害, 11

神経障害, 12

神経障害, 6

神経障害, 5

神経障害, 6

神経障害, 1

脱臼, 44

脱臼, 39

脱臼, 34

脱臼, 29

脱臼, 14

脱臼, 23

脱臼, 1

脱臼, 1

捻挫, 12

捻挫, 15

捻挫, 20

捻挫, 20

捻挫, 10

捻挫, 4

捻挫, 1

捻挫, 2

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

0-499

500-999

1000-1499

1500-1999

2000-2499

2500-2999

3000-3499

3500-3999

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他府県発生事故の可視化

東京、名古屋、大阪などでは多くの登山者を抱えている。このような地域の登山者は、様々な山域に遠征して、登山を行う結果、遭難事故が発生するケースも多い。

その結果、登山者受け入れ県では、常にその後始末に忙殺される問題が生じてきた。如何に観光収入があるとは言え、送り出し県側の遭難対策をどうすべきなのか、大きな問題となってきたが、実態が分かりづらく、一般理解し難い問題でもあった。 そこで、まず東京・大阪出身登山者の事故問題を一般理解しやすい形で可視化することにした。72

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他府県の山域で、東京都、大阪府出身者が起こした事故

赤丸:東京、黄丸:大阪 73

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地図での東京、大阪出身者事故のプロットから明らかなように、山岳地帯である北・中央・南アルプスと谷川岳周辺で両者が重なりあっている。双方の都市周辺域では殆ど遠征事故は見当たらない。この傾向は愛知県も同等で、東京大阪とはアルプスで接し、大阪とは鈴鹿山系で接している。

愛知県出身者事故74

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終わりに

MREWのRob氏との打ち合わせで、地元に根付いた登山風土とそのリスクの大切さを再確認した。そして、異なる風土では事故リスクが高くなる事を知った。

事故調査報告は、緯度・経度・標高を使った可視化技術により、登山風土から作られる事故特性について検討した。特に、標高をKeyとして事故要因との相関性を求めた。今後の参考資料となる事を期待する。

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