第1章 材料の欠陥によるもの - nikkan · σb =980mpa =1340mpa =1830mpa scm435...

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第第第第第第第第第第第第第第第第第第第 1111111111111111111 章章章章章章章章章章章章章章章章章章章 材料の欠陥によるもの 金属材料を溶かした状態から型に注入し冷却させると、型に接触した部分か ら収縮しながら凝固し、そのとき同時に多量のガスが放出されます。また、同 時に不純物や合金元素の溶解度が、それぞれ異なるため異相が生じます。特に 溶液の上部では空気と接触し、酸化物が生成され、この酸化物が溶液に混在さ れたまま固まる場合があります。凝固は鋳型の表面から始まり、内部へ向かっ て進行してゆくため、表面部と中心部とでは場所によって時間的、温度的なず れによって冷却速度が異なり、成分的な偏析と称する内部と外部の組成の不均 一が起こります。これが成分の偏析です。特に大型鋼塊や大型肉厚部材に多く 生じます。図1.1はキルド鋼塊における代表的な偏析の例を示したものです (1) 中心部の V 型偏析部には C Mn の量が多く、また、中層部の逆 V 偏析部 には逆に減少する傾向があります。このような偏析が熱間加工後に残存すると、 鍛造割れ、圧延割れなど、また、変態温度や焼入性などに影響を及ぼし焼割れ、 焼むら(硬さのバラツキ)、焼入変形などの原因となります。これらの偏析部 には P(リン)や S(硫黄)などの不純物元素も多く存在するため、非金属介 在物を生じやすくなり、鍛造や圧延時などの不具合となります。成分偏析によ る材料の欠陥には非金属介在物のほか、凝固の際体積が収縮するパイプ(収縮 孔)、ガスの未放出によるブローホール(気泡)、水素の影響による白点(毛割 れ)などがありますが、これらの欠陥は鍛造、圧延、引抜き加工などに影響を 与えるばかりではなく、熱処理欠陥にもなりやすく、また、各種使用部材の寿 命にも大きく影響を及ぼします。 材料欠陥の種類や模様の詳細については、JISG0553鋼のマクロ組織試験方 法に規定されていますので参照して下さい。ここでは非金属介在物の種類と介 9

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Page 1: 第1章 材料の欠陥によるもの - Nikkan · σB =980Mpa =1340Mpa =1830Mpa SCM435 C系介在物の直径(mm) 曲げ疲労限度 (Mpa) ×10 0 30 40 50 60 70 80

第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第第11111111111111111111111111111111111111章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章章 材料の欠陥によるもの

金属材料を溶かした状態から型に注入し冷却させると、型に接触した部分か

ら収縮しながら凝固し、そのとき同時に多量のガスが放出されます。また、同

時に不純物や合金元素の溶解度が、それぞれ異なるため異相が生じます。特に

溶液の上部では空気と接触し、酸化物が生成され、この酸化物が溶液に混在さ

れたまま固まる場合があります。凝固は鋳型の表面から始まり、内部へ向かっ

て進行してゆくため、表面部と中心部とでは場所によって時間的、温度的なず

れによって冷却速度が異なり、成分的な偏析と称する内部と外部の組成の不均

一が起こります。これが成分の偏析です。特に大型鋼塊や大型肉厚部材に多く

生じます。図1.1はキルド鋼塊における代表的な偏析の例を示したものです(1)。

中心部の V型偏析部には Cや Mnの量が多く、また、中層部の逆 V偏析部

には逆に減少する傾向があります。このような偏析が熱間加工後に残存すると、

鍛造割れ、圧延割れなど、また、変態温度や焼入性などに影響を及ぼし焼割れ、

焼むら(硬さのバラツキ)、焼入変形などの原因となります。これらの偏析部

には P(リン)や S(硫黄)などの不純物元素も多く存在するため、非金属介

在物を生じやすくなり、鍛造や圧延時などの不具合となります。成分偏析によ

る材料の欠陥には非金属介在物のほか、凝固の際体積が収縮するパイプ(収縮

孔)、ガスの未放出によるブローホール(気泡)、水素の影響による白点(毛割

れ)などがありますが、これらの欠陥は鍛造、圧延、引抜き加工などに影響を

与えるばかりではなく、熱処理欠陥にもなりやすく、また、各種使用部材の寿

命にも大きく影響を及ぼします。

材料欠陥の種類や模様の詳細については、JISG0553鋼のマクロ組織試験方

法に規定されていますので参照して下さい。ここでは非金属介在物の種類と介

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Page 2: 第1章 材料の欠陥によるもの - Nikkan · σB =980Mpa =1340Mpa =1830Mpa SCM435 C系介在物の直径(mm) 曲げ疲労限度 (Mpa) ×10 0 30 40 50 60 70 80

頭部中央最大偏折例C=0.21、P=0.013S=0.026

偏折部例C=0.16P=0.013S=0.023

下部中央偏析(沈殿晶)

V偏折

V

(逆V)偏折

在物が疲労強度に与える影響について若干記述します。

非金属介在物は、溶鋼中の不純物を除去するため、添加した脱酸元素が除去

されずに残存し、凝固後の材料中に介在物として残った不純物です。主に脱酸

元素としてはフェロマンガン、アルミナ、カルシュウム、ケイ素などが用いら

れ、これらが材料中の添加元素および酸素と共存すると、種々な非金属介在物

となります。

例えば Sが鋼中(Fe)の Mnと共存した場合は、MnS(硫化マンガン)とな

ります。Fe–FeS二元系における FeSは1000℃近傍で共晶を作り、結晶粒界

に析出します。また、Fe–MnSは粒界に析出するのみならず、粒内にも芋虫状

に存在します。これが鍛造時の赤熱ぜい性の原因ともなります。また、Mnは

鋼中の酸素と結びつくと酸化 Mnとなります。この他ステンレス鋼など Cr含

有量の多い鋼は、Crの一部が硫化物中へ固溶します。

硫化物系の介在物は延性、展性があり、鍛造や圧延によって伸びを生じ、一

般的には灰色を呈するため、ノーエッチングの状態で簡単に識別することがで

きます。また、量が多く大きな介在物は、破損現象におけるき裂の発生と進展

を助長する危険性があります。

写真1.1は結晶粒内に存在する MnS系の介在物、写真1.2は酸化 Mn系の

介在物を示したものです。芋虫状に伸長し、この介在物の周辺部は Mn量が減

少しているため、マトリックスとの変態温度の相違によって、焼入性が悪くな

ります。また、多量に存在した場合は焼入時の硬さむらの原因ともなります。

非金属介在物には MnSのほか、Al酸化物や Ca、Si系の介在物もあります。

溶鋼中に SiO2や Fe–Mn珪酸塩が存在する場合、Alが添加されると酸化物や珪

酸塩が還元されて、Al系の非金属介在物を生成します。写真1.3は Al系の介

在物です。この介在物は MnSの芋虫状硫化物系と異なり延性がなく、球状に

近い状態で存在し、細かく比較的分布量も多く存在し、繊維状組織のフェライ

トバンド中に多く見られます。写真1.4はその一例を示したものです。

また、写真1.5は Si系の介在物を示したものです。比較的球状に近く大き

いのが特徴です。Si系ではこの他写真1.6に示したように、Mn酸化物と共存

すると、伸長された介在物にもなります。

以上介在物の種類と形状の特徴について記述しました。なお、介在物につい

写真1.1 MnS系介在物 写真1.2 Mn系酸化物

図1.1 キルド鋼塊の偏析

第1章 材料の欠陥によるもの

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Page 3: 第1章 材料の欠陥によるもの - Nikkan · σB =980Mpa =1340Mpa =1830Mpa SCM435 C系介在物の直径(mm) 曲げ疲労限度 (Mpa) ×10 0 30 40 50 60 70 80

σB

=980Mpa

=1340Mpa

=1830Mpa

SCM435

C系介在物の直径(mm)曲げ疲労限度(Mpa)×10

030

40

50

60

70

80

90

100

110

10 20 30 40 50 60 70×10-2

ての詳細は、JIS0555によって測定方法および種類が定められ、新 JISでは

MnS系の硫化物系をグループ A、アルミナ系をグループ B、Siや Caなどのシ

リケート系の介在物をグループ Cと呼んで区別しています。また、この他粒

状酸化物系をグループ D、個別酸化物系をグループ Dsと呼んで、5つのグル

ープに分けています。なお、鍛造や圧延によって変形を受けた介在物は、その

種類を問わずマトリックスとの界面において、結合エネルギーが弱く、また、

弾性係数が非常に小さいため、形状の相違によって応力集中率が異なりますが、

写真1.3 FeO―Al2O3介在物 写真1.4 アルミナ系介在物 写真1.7 グループB系介在物が存在した場合の疲労破面

写真1.8 グループA系介在物が存在した場合のぜい性的な破断面

写真1.5 シリカ系介在物 写真1.6 MnO―SiO2系介在物

図1.2 疲労破壊の起点となった介在物の平均直径と曲げ疲労限度との関係

第1章 材料の欠陥によるもの

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疲労破壊の起点となった介在物の大きさ(μm)

×10

460 20 40 60 80

介在物の表面からの深さ

0.0~0.05mm

0.07~0.3mm

100

50

54

58

62

疲労限度(Mpa)

繰返し負荷応力などが作用すると、歪みを生じたりき裂の発生起点となりやす

くなります。写真1.7はアルミナ系の介在物が存在した場合の破断面を、SEM

によって観察した像を示したものです。介在物近傍では破断面が変形し、また、

疲労破壊特有なストライエーションが観察されることから、介在物の周縁では、

き裂の進展方向前方の場所に、小さなき裂が形成していることが解ると思いま

す。また、写真1.8は硫化マンガンが多い破断面です。ディンプル破壊模様の

中に、矢印で示したように芋虫状に伸びた介在物、または介在物が脱落した痕

跡が数多く認められています。なお、き裂は介在物と平行に進展しています。

つまり介在物が存在すると、き裂発生が促進されるため、疲労強度は低下し

ます。図1.2はそれぞれ熱処理によって引張り強さの異なる試験片を作成し、

熱間加工によって、ほとんど変形しなかった球状のけい酸塩系介在物について、

平均直径のき裂発生起点となった介在物と曲げ疲労限度の関係を示したもので

す(2)。図からも明らかなように、いずれの引張り強さにおいても、介在物の平

均直径が大きくなるに従い、疲労限度は右下がりに直線的に低下する傾向を示

しています。なお、この場合の低下の傾向は、引張り強さが大きいほど著しい

ことが解ります。なお、図ではき裂となった介在物が表面に存在していたのか、

表面直下に存在していたのかは不明ですが、き裂発生においては介在物が存在

している位置が、疲労強度あるいは破壊機構の解明には大きく影響し問題の一

つとなっています。図1.3は、疲労破壊の起点となった介在物の位置と大きさ

が疲労限度にどのように影響を及ぼしたかを示したものです(3)。図より明らか

なように、介在物が表面近くに存在するほど、また、大きいほど疲労強度には

影響を及ぼし、疲労限度が低下する傾向を示すことが理解できるでしょう。

参考文献

(1) 熱処理技術協会:熱処理技術入門、平成9年度版、p76

(2) 河本 実他:金属の疲れと設計、コロナ社(昭和47年)p186

(3)(2)に同じ

図1.3 疲労破壊の起点となった介在物の大きさおよび位置と疲労限度との関係

第1章 材料の欠陥によるもの

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