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第1章 過疎地の移送サービスの現状と 課題の分類

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Page 1: 第1章 過疎地の移送サービスの現状と 課題の分類 · 参考3 移動制約者の増加 ・ 我が国では高齢化が進んでおり、高齢化の進展とともに要介護高齢者数も年々増加してい

第1章

過疎地の移送サービスの現状と

課題の分類

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

1 過疎地域の状況

過疎地域における要介護高齢者等の移送サービスを取り巻く状況は、以下の通りである。

●高齢化の進展・人口の減少

過疎地域では高齢化が急速に進むとともに、都市部への人口流出や自然減によって、人口

減少が進んでいる。これまで過疎地域では、隣近所の付き合い、助け合いによって移動手段を

確保していたケースも見られたが、高齢化によって自家用車の利用が難しくなり、地域の人口

が減ることによって、そのような移動手段の維持も困難になる。

●路線バス等の廃止、財政負担の問題

国土交通省「2004 年度の一般乗合バス事業(保有車両台数 30 両以上)の収支状況につい

て」によれば、2004 年度現在、乗合バス事業者の7割以上が赤字を計上しており、厳しい状況

となっている。中でも、都市部に比べて需要の絶対量が少ない過疎地では、路線バス等の廃止

や運行本数の縮小が多く見られる。

廃止路線を公営化し維持を試みるケースも見られるが、赤字補填のための財政負担の問題

が生じている。過疎地域は全国と比べて財政力指数が低く、財政負担は大きな問題となってい

る。

●移動制約者の増加

我が国では高齢化が急速に進んでおり、中でも過疎地等の高齢化率は著しく高く、全国で 77

の自治体が高齢化率 40%以上となっている(2000 年度 国勢調査)。高齢化の進展とともに要

介護高齢者数は年々増加しており、全国での移動制約者は 500 万人を越えるとも言われてい

る。

●移動手段確保の必要性

高齢者等の引きこもりを防止し、社会や地域への参画を促すことは、介護予防や医療費削

減の観点からも、また、生き生きとした生活を営むためにも必要である。社会や地域への参加

を維持・促進するための基本的な社会基盤のひとつが移動手段の確保である。

●福祉・過疎有償運送運営協議会の設置

現在各地で、NPO 法人や社会福祉法人等による福祉・過疎有償運送が行われているが、こ

れらは、福祉・過疎有償運送運営協議会を設置し、道路運送法第 80 条許可を取得することが

必要になる。全国で運営協議会の設置は進みつつあるが、2005 年 3 月の調査では、既に設置

している市町村は 109 団体であり、設置意向が無い市町村が約6割に達している。

福祉有償運送・過疎地有償運送の取扱いについては、道路運送法等の改正も検討されてお

り、2006 年 1 月には「NPO等によるボランティア有償運送検討小委員会 報告書」が国土交通

省より出されている(参考資料3参照)。また 2006 年 3 月には「事務連絡 NPO 等のボランティ

アによる福祉有償運送及び過疎地有償運送に係る重点指導期間の取扱いについて」が出され

ている(参考資料3参照)。

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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参考1 過疎地域の状況

●過疎地域の定義

・ 過疎地域自立促進特別措置法では過疎地域の要件を、以下の(1)かつ(2)に該当する地域

とした(平成 12 年国勢調査結果確定後の要件)。

(1)人口要件:以下のいずれかに該当すること

1) 1965 年~2000 年の人口減少率が 30%以上

2) 1965 年~2000 年の人口減少率が 25%以上、高齢者比率(65 歳以上)24%以上

3) 1965 年~2000 年の人口減少率が 25%以上、若年者比率(15 歳以上30 歳未満)15%以下

4) 1975 年~2000 年の人口減少率が 19%以上

*ただし、1)、2)、3)の場合、1975 年~2000 年の25年間で10%以上人口増加している団体は除く。

(2)財政力要件:1998 年度~2000 年度の3ヶ年平均の財政力指数が 0.42 以下かつ、

公営競技収益が 13 億円以下であること(施行令第1条)。

●過疎地域の人口と過疎対策の流れ

・ 都市部への人口流入により、過疎地域では人口減少が進んでいる。その結果、生活水準や

地域社会の基礎的条件の維持が困難になる等、深刻な問題が生じ、各種の対策が行われて

いる。

図-1 過疎地域の人口と過疎対策の流れ

(総務省「平成 16 年度版 過疎対策の現況」より)

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●過疎地域が全国に占める割合

・ 2005 年 4 月 1 日現在、899 の市町村(全国の市町村の 37.5%)が過疎地域となっている。人

口割合では 7.3%、面積割合では 51.7%が過疎地域に該当する。

図-2 過疎地域が全国に占める割合

(総務省「平成 16 年度版 過疎対策の現況」より)

●過疎地域と全国の比較

・ 全国と比較して過疎地域は高齢者比率が高く、高齢化が進んでいる。

・ 過疎地域の財政力指数は全国と比較して低く、財政状況の厳しさが伺える。

図-3 過疎地域と全国の比較

(総務省「平成 16 年度版 過疎対策の現況」より)

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●過疎地域の人口推移

・ 過疎地域の人口減少率は、1960~19650 年、1965~1970 年は 10%を越え著しい人口減少が

見られたが、近年は 5%程度の人口減少率となっている。

・ 過疎地域での人口減少の要因(図-5)を見ると、社会減による人口減少幅は縮小している

が、自然減による人口減少が顕著に見られる。今後も、過疎地域の人口は減少すると考えら

れる。

図-4 過疎地域、三大都市圏、地方圏等の人口増減率の推移

(総務省「平成 16 年度版 過疎対策の現況」より)

図-5 過疎地域における人口増減(社会増減と自然増減)の推移

(総務省「平成 16 年度版 過疎対策の現況」より)

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●過疎地域・全国の高齢者比率及び若年者比率の推移(推計値を含む)

・ 過疎地域の高齢者比率は、今後著しく増加し、2010 年には約 33%、2020 年には約 38%に達

する。

・ 過疎地域の 1995 年から 2000 年までの高齢者比率は、全国の 2020 年の高齢者比率と同程

度であり、過疎地域が全国に 20 年以上先行した高齢社会であることが伺える。

図-6 高齢者比率及び若年者比率の推移(推計値を含む)

(総務省「平成 16 年度版 過疎対策の現況」より)

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参考2 路線バス等の廃止

・ 2004 年度現在、乗合バス事業者の7割以上(244 事業者中 178 事業者)が赤字を計上してお

り※、厳しい状況となっている。

・ 1997 年以降、年間約 8000~9000km の路線が廃止されている(図-7)。

※ 「平成 16 年度の一般乗合バス事業(保有車両台数 30 両以上)の収支状況について」(国土交通省)より

乗合バス年間廃止キロ数の推移

0

2

4

6

8

10

12

14

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000

千km

図-7 乗合バス年間廃止キロ数の推移

(「国土交通白書 平成 14 年版」より ※平成 15 年度版以降データなし)

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参考3 移動制約者の増加

・ 我が国では高齢化が進んでおり、高齢化の進展とともに要介護高齢者数も年々増加してい

る。

・ 全国での移動制約者は 500 万人を越えるとも言われており※、今後も増加すると考えられる。

※ 「介護ビジョン 2004 年 10 月号」(株式会社 日本医療企画)より

高齢化の推移と将来推計

35.7%34.7%33.2%

30.9%29.6%28.7%27.8%

26.0%

22.5%19.9%

17.3%14.5%

12.0%10.3%

9.1%

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050

千人

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%%

高齢者人口

高齢化率(%)

図-8 高齢化の推移と将来推計

(2000 年度国勢調査及び、国立社会保障・人口問題研究所

「日本の将来推計人口(2002 年1月推計)」より)

要介護認定者数の推移・予測

0

100

200

300

400

500

600

700

2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2008年 2011年 2014年

万人

図-9 要介護認定者数の推移・予測

(厚生労働省「介護保険事業状況報告年報」及び、厚生労働省「介護保険制度改革の全体像」より)

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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参考4 福祉・過疎有償運送運営協議会の設置状況

・ 国土交通省が 2005 年 3 月に実施したアンケート調査によると、全国 2,380 市町村のうち、福

祉・過疎有償運送運営協議会の設置意向について「有」が 801、「既設置」が 109、「検討中」

が 41 と、設置に動く市町村が 951 あり、市町村合併で来年 3 月末に 1,822 に縮小することを

加味すると、全市町村の約半数で運営協議会の設置がカバーされる形になっている(東京交

通新聞 2005.10.3)。

・ 一方、設置の意向が「無」は1,226あり、理由は①運送実態がない:625、②市町村との調整が

必要:272、③設置を求めてこない:281、④設置方法がわからない:105(重複あり)――などと

なっている(東京交通新聞 2005.10.3)。

・ 2005 年 7 月 31 日現在、全国で 47 の福祉有償運送運営協議会、14 の過疎地有償運送運営

協議会が設置されている。市区町村合同により設置されたものを考慮に入れると、福祉有償

運送運営協議会は、173 の市区町村(全国 2373 市区町村の約 7.3%)、過疎地有償運送運営

協議会は、15 の市区町村(同約 0.6%)で設置されている。

運営協議会の設置意向(2177市町村の回答割合)

設置意向 有801団体(36.8%)

既設置109団体(5.0%)検討中

41団体(1.9%)

設置意向 無1226団体(56.3%)

平成17年3月 アンケート調査

図-10 運営協議会の設置意向(2,177 市町村の回答割合)

(「全国介護保険・老人保健事業担当課長会議資料 平成17年9月26日」より)

表-1 運営協議会の設置状況

種別 設置数 設置市区町村数

福祉有償運送

運営協議会

47 うち市区町村合同のもの…栃木県県西地区(8 市町村)、三

重県南勢志摩地区(11 市町村)、熊本県他 10 市町村(10

市町村)、神奈川県(36 市町村)、大阪府(42 市町村)、岡

山県(25 市町村)

173

過疎地有償運送

運営協議会

14 うち市区町村合同のもの…群馬県勢多群東村・黒保根村

(2 市町村)

15

(国土交通省「各県等運営協議会設置状況 平成 17 年 7 月 31 日現在」より)

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表-2 介護輸送等に係る運営協議会設置に関するアンケート集計表

(「全国介護保険・老人保健事業担当課長会議資料」平成17年9月26日より)

第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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表-3 各県等運営協議会設置状況(2005年7月31日現在)

都道府県 15 年度特区により

運営協議会設置 16 年度運営協議会設置

平成 17 年 4 月~平成 17 年

7 月末までに設置

北海道 【福祉】 枝幸郡歌登町(16.7.21)、

空 知 郡 南 富 良 野 町

(17.3.30)

【過疎】 上磯郡知内町(17.4.20)

青森県 【福祉】 福地村(17.2.15)、七戸町

( 17.2.16 ) 、 八 戸 市

(17.2.16)

【過疎】 福地村(17.2.15)、七戸町

(17.2.16)

山形県 【福祉】 朝日村(17.6.27)

茨城県 【過疎】 常陸太田市(16.9.6)「旧里

美村」

【福祉】 阿見町(17.3.29) 東海村(17.7.8)

栃木県 【福祉】 宇都宮市(17.6.10)、

県西地区「鹿沼市、日光市、今

市市、西方町、粟野町、足尾

町、藤原町、栗山村」(17.6.30)

群馬県 【福祉】 高崎市(17.2.17)

【過疎】 勢多郡東村・黒保根村(17.5.30)

千葉県 【福祉】 大網白里町(16.12.21) 、

岬 町 (17.2.9) 、 佐 倉 市

(17.3.29)

柏 市 ( 17.4.13 ) 、 流 山 市

(17.7.28)

東京都 【福祉】 世田谷区(15 年度

特区)

練馬区(16.12.20)、板橋区

(17.3.11)

杉 並 区 (17.6.3) 、 中 野 区

(17.6.22)、太田区(17.6.28)、豊

島区(17.6.29)

神奈川県 【福祉】 大和市(15 年度特

区)、

神奈川県

【横浜市(16.11.29)、県北

部地区(17.2.14)、湘南東

部地区(17.2.15)、県央地

区 ( 17.3.25 ) 、県 西地 区

(17.3.28)、湘南西部地区

( 17.3.30 ) 、 川 崎 市

(17.5.20)、横須賀三浦地

区(17.6.28)】

山梨県 【福祉】 都留市(17.6.8)

石川県 【福祉】 輪島市(17.3.1) 志賀町(17.7.8)

【福祉】 三水村(15 年度特

区)、小海町(15 年

度特区)

中川村(16.3.29) 長野県

【過疎】 中川村(16.3.29)、楢川村

(17.1.20)

福井県 【福祉】 丸岡町(16.7.2)

岐阜県 【過疎】 飛騨市(旧河合村・

宮川村「15 年度特

区」)(17.3.4)

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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都道府県 15 年度特区により

運営協議会設置 16 年度運営協議会設置

平成 17 年 4 月~平成 17 年

7 月末までに設置

静岡県 【福祉】 雄踏町(16.10.14)

【福祉】 岡崎市(17.4.15) 愛知県

【過疎】 豊根村(16.7.26)

三重県 【福祉】 松阪市(旧飯高町)

「15 年度特区」

南 勢 志 摩 地 区 11 市 町 村

(17.5.31)

京都府 【過疎】 京都市(17.2.1)

大阪府 【福祉】 枚方市(15 年度特

区)

大阪府【北摂地区(能勢町、豊能

町、池田市、箕面市、茨木市、高

槻市、島本町、豊中市、吹田市、

摂津市)、泉州地区(堺市、高石

市、泉大津市、忠岡町、和泉市、

岸和田市、貝塚市、能取町、田

尻町、泉南市、阪南市、岬町)、

中部地区(東大阪市、八尾市、松

原市、柏原市、藤井寺市、羽曳

野市、美原町、太子町、大阪狭

山市、富田林市、河南町、千早

赤阪村、河内長野市)、河北地区

(寝屋川市、交野市、四条畷市、

守口市、門真市、大東市)、大阪

市】

兵庫県 【福祉】 宍栗郡山崎町(16.9.2)

鳥取県 【過疎】 倉吉市(16.7.22)

島根県 【福祉】 島根町(開催日 16.12.15)

【福祉】 岡山県(岡山地区、

倉敷地区、勝英地

区、東備地区、真

庭 地 区 、 津 山 地

区 、 ( 15 年 度 特

区))

岡山県

【過疎】 岡山市足守地区(16.7.14)

徳島県 【過疎】 上勝町(15 年度特

区)

高知県 【福祉】 高知市(16.11.16)、室戸

市(17.1.25)

福岡県 【福祉】 小郡市(16.12.10)

熊本県 【福祉】 菊池市(15 年度特

区)、玉名市(15 年

度特区)、熊本県他

10 市町村(15 年度

特区)

大分県 【福祉】 日田市(17.6.22)

(国土交通省ホームページ(http://www.mlit.go.jp/jidosha/sesaku/jigyo/fukushiyusou/3kakukenuneikyogikai.htm)より)

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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2 過疎地域における移送サービスの課題

この様な状況の中にある過疎地域で移送サービスを構築するにあたっての課題は、大きく以下

の4つの分野に大別される。

1)地域特性に関する課題

2)外出需要、及び需要への対応に関する課題

3)移送サービスの運行にあたっての課題

4)その他の課題(制度的な課題など)

それぞれの分野の課題として、以下の 15 の課題が挙げられる。

表-4 過疎地域特有の移送サービスの課題

分野 課題

地域特性に関する課題

課題1 交通空白地帯の散在

課題2 地形的要因(坂が多い、道が狭いなど)

外出需要、及び需要への

対応に関する課題

課題3 利用ニーズの的確な把握

課題4 利用ニーズに応じた路線と時刻表設定

課題5 交通弱者の重要な利用ニーズへの対応

課題6 利用目的を限定することによるコストの増加・効率の低下

移送サービスの運行にあ

たっての課題

課題7 民間バス路線の廃止・減便

課題8 待合い場所が少ない(停留所問題)

課題9 車両・運転者の確保、維持管理、マネジメント

課題10 移送サービスの予約方法、予約可能期間

課題11 路線維持、移送サービス実施のための費用負担

課題12 タクシー事業者、バス事業者の経営状況の悪化

その他の課題(制度的な

課題など)

課題13 移送サービス提供圏域の変化

課題14 自治体内の担当課の連携不足

課題15 運営協議会の設置、過疎地/福祉有償運送許可の申

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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課題1~15の具体的な内容は以下の通りである。

1)地域特性に関する課題

課題1 交通空白地帯の散在

山間部などでは地形的要因などから、集落が点在し、交通空白地帯が広範囲に渡り散在して

いる。そのため、まとまった移送サービスの需要が得られず、路線バスなどの大型車両・定時定

路線型による移送サービスでは、乗車率が低くなり、採算性確保が困難となっている。

課題2 地形的要因(坂が多い、道が狭いなど)

山間部などでは急傾斜の坂が多く、自転車や車いすの利用や徒歩による移動が困難となって

いる。また、歩道や広い路肩がある道路が少なく、徒歩などによる移動に危険を伴う。

また移送サービスを構築する際も、傾斜や道幅の問題、降雪時の路面凍結などから、利用でき

る車両が限定されてしまう。

2)外出需要、及び需要への対応に関する課題

課題3 利用ニーズの的確な把握

地域における利用者の移動実態や、交通手段の利用状況といった利用者のニーズが的確に

把握されていないため、運行ルートや時間帯、停留所の設定などが利用者のニーズに合致してお

らず、不便が生じてしまっている。

課題4 利用ニーズに応じた路線と時刻表設定

利用ニーズと路線・時刻表設定のミスマッチにより、「利用者が極端に少ない停留所がある」

「路線の周長が長いため運行時間の間隔が長くなってしまっている」「目的地によっては長距離の

迂回が発生している」といった不便が生じている。病院の診療時間や、通院後に買物を行う、とい

った利用のパターンと時刻表が合っていないことも不便の原因となっている。

また、「路線が複雑で分かりにくい」「目的地に行く乗合タクシーやバスがどれか分からない」と

いった不便が生じている。

課題5 交通弱者の重要な利用ニーズへの対応

過疎地における交通弱者の重要な利用ニーズとして「高齢者や障害者の通院」と「小中学生の

通学」が挙げられる。これらのニーズへ対応する交通手段は、最低限確保しなければならないも

のとなっている。

これまでは、家族や隣近所での送迎などで確保ができていたが、高齢者世帯の増加や、地域コ

ミュニティの変化などにより通院手段の確保が難しくなっている。

課題6 利用目的を限定することによるコストの増加・効率の低下

「スクールバス」「病院送迎バス」などと利用目的を限定することによって、路線が増え、全体と

して運営コストの増加、効率の低下が生じている。完全に利用目的を限定する方式は、利用者が

多い場合は効率が良いが、利用者が少なくなり、運営が厳しくなった状態では、コストの増加、効

率の低下に繋がってしまう。

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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3)移送サービスの運行にあたっての課題

課題7 民間バス路線の廃止・減便

過疎地域では赤字路線が多く、バス路線の廃止・減便が多く見られ、交通空白地域・交通不便

地域が増加し、利用者の不便が生じている。

特に減便の場合は、同一路線に 80 条路線バスや過疎地有償運送が参入できず、利便性を向

上する手段が講じられない事態が生じる可能性もある。

課題8 車両・運転者の確保、維持管理、マネジメント

移送サービスを構築する際の車両購入費用、維持管理費用を確保することが大きな負担にな

っている。また、地域内に、運転の担い手となる様な事業者・団体が少ないため、運転者の確保も

困難となっている。

費用を節約するためには、地域内で利用可能な車両、ボランティアなどによる運転者を活用す

ることが有効となるが、それらが的確に把握されていない。

課題9 待合い場所が少ない(停留所問題)

「課題2 地形的要因」とも関連するが、高齢者等が乗合タクシーやバスを安全に待つことがで

きる場所が地域内に少ない。

課題10 移送サービスの予約方法、予約可能期間

デマンド方式の移送サービスを予約する際の方法が煩雑であったり、数日前までに予約するこ

とが必要であり、急に利用したい場合に利用できない等、利便性が低い。

課題11 路線維持、移送サービス実施のための費用負担

赤字路線維持のため、事業者への赤字補填などの自治体の費用負担が増加している。赤字補

填以外にも、自治体が移送サービスを運営する場合の運営費用負担が大きくなっている。運営費

用の中でも特に人件費が大きな負担となっている。

また、予約システムやバスロケーションシステム※の導入・維持や予約センター運営などの費用

が大きな負担となっている。

収入の面においても、自治体の財源や補助金だけでは収入源が乏しく、また、利用料金の設定

が過剰に安いため、運賃収入が少ないといった状況に陥っている。

※ バスロケーションシステム…GPS などを用いてバスの位置情報を取得し、バス停の表示板や

パソコン、携帯電話などにバスの現在位置や到着予想時刻などを知らせるシステム。

課題12 タクシー事業者、バス事業者の経営状況の悪化

乗合タクシーや自治体運営バス等の移送サービスの事業主体、運行委託先となる地域のタク

シー事業者なども経営状況が悪化している。

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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4)その他の課題(制度的な課題など) 課題13 移送サービス提供圏域の変化

移送サービスを構築する際には、病院の医療圏、タクシーの営業圏域、商圏、学校区、運輸支

局の圏域などを考慮する必要がある。圏域の境界などに位置する場合、申請の手間など、制度

面の問題が生じる可能性がある。

また、市町村合併が行われる場合は、合併する市町村の移送サービスの現状も考慮する必要

がある。合併後に移送サービスを存続できるか等といった課題が生じる。

課題14 自治体内の担当課の連携不足

自治体内の交通担当と福祉担当など、市町村内の担当課の連携が不足している。例えば、市

町村が所有する車両についても、担当する課の違い等により、最適なマネジメントが行われてい

ない、といった課題が生じている。

課題15 運営協議会の設置、過疎地/福祉有償運送許可の申請

過疎地有償運送や福祉有償運送の許可が得られない、運営協議会の設置などをどのように提

案・申請するのが効果的か分からない、といった課題がある。

特に過疎地有償運送に関しては、地域のタクシー事業者やバス事業者の理解を得ることが重

要になる。

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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3 過疎地ならではの問題点と解決の方向性

過疎地域の移送サービスは、交通需要が圧倒的に少ないという根本的な問題を抱えている。

その中で、移送サービスを構築するためには、地域内の資源(車両や人材など)の効率的活用や、

コストパフォーマンスの向上を常に念頭におく必要がある。

そのため、解決策を考える上では、

・複数の用途の複合化…通院・通学・買物など複数の用途を兼ね、効率的に運行する。

・車両の小型化…小回りの効く車両で、散在する交通需要に対応する。

といった点が課題となる。

複数の用途を複合化する上では、高齢者等も利用できることが重要であり、健常者も要介護高

齢者も利用できるユニバーサルデザインの視点も必要となる。

このような視点で課題解決策を考えると、ひとつの具体的な案として、「乗合タクシー」が考えら

れる。乗合タクシーとは同じ目的地(駅や病院など)を持つ人を集め、通常のタクシー車両やジャ

ンボタクシーなど、バスよりも小型の車両に乗り合う形で運行するサービスである。

小型の車両を用いるため、車両維持費などの費用負担も小さく、少なく散在する交通需要に効

率的に対応することができる。

空港と市街地を結ぶ際の交通手段や、団地と駅を結ぶ交通手段として利用されてきたが、交通

需要が少なく散在する過疎地における有効な交通手段としても注目されている。情報通信技術の

進展等により、きめ細かい運行管理等が可能になったことや、制度の見直し※などもあり、乗合タ

クシーを活用するための条件も整備されてきた。

乗合タクシーは、事前予約に従って運行するデマンド型のものや、バスと同様の定時定路線型

のものなど、様々な運行形態が可能であり、通常のバスとタクシーの中間に位置する移送サービ

スと言える。

過疎地における移送サービスの構築を考える上では、このように従来の枠にとらわれない発想

が重要となる。

※ 制度の見直し…1994 年 12 月「一般乗用旅客自動車運送事業に係る事業区域の段階的拡大及

び乗合タクシーの積極的推進に関する基本方針について」、2001 年 9 月「一般貸切旅客自動車

運送事業者による乗合運送の許可の取扱いについて(21 条許可の取扱い見直し)」、2005 年 3

月「地域交通会議の設置並びにコミュニティバス及び乗合タクシーの許可基準の弾力化等につ

いて」など

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第1章 過疎地の移送サービスの現状と課題の分類

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地域コミュニティ

事前予約があった乗車場

事前予約が無い乗車場

目的地車両A車両A

車両B車両B

②事前予約がない乗車場をショートカット

③車両Aは目的地へ向かうため別の車両が対応

⑤次のコミュニティにデマンドがないためショートカットし、目的地へ

④定員と時間に余裕があるため、目的地へは行かず次のコミュニティへ

①満員になったため、次の乗車場へは行かず目的地へ

図-11 乗合タクシーの運行イメージ

参考:「要介護高齢者等に対する新たな移送サービスシステム構築のためのケーススタディに

関する調査研究事業」(社団法人シルバーサービス振興会)

表-5 バス、乗合タクシー、タクシーの比較

種類 運行形態の例 運行関連の主な法規 用いられる車両の例

定時定路線型 道路運送法第4条 バス

貸切 道路運送法第21条

小型(乗車定員 29 人以下)

中型(乗車定員 30~49 人)

大型(乗車定員 50 人以上)

定時定路線型 道路運送法第21条 乗合タクシー

デマンド型 道路運送法第21条

セダン型車両(乗車定員 5 人

程度)、ジャンボタクシー型車

両(乗車定員 9 人以下)

タクシー 予約、流し、駅待

ちなど

道路運送法第4条 セダン型車両(乗車定員 5 人

程度)、ジャンボタクシー型車

両(乗車定員 9 人以下)