第3節 弁護士の懲戒制度とその運用状況158 弁護士白書 2016年版 第3節...

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158 弁護士白書 2016 年版 弁護士の懲戒制度とその運用状況 第3節 護士の懲戒制度の概要 現行弁護士法(昭和 24 年法律第 205 号)施行前、国家弁護士する監督権限していたが現行弁護士法弁護士名簿登録事務日弁連所管とし、弁護士又弁護士法人(以下「弁護士等」いう。)する懲戒処分弁護士会及日弁連うこととするなど、弁護士自治実現した。弁護士 する懲戒権限国家掌握していると、国家国民基本的人権衝突する場面において弁護士等 がその使命うすることに困難すため、自治懲戒制度けたのであるなお、懲戒処分、弁護士会及日弁連付与された権能づいてなされる広義行政処分であ 。懲戒された弁護士等、行政不服審査法づく審査請求をすることができ(法第59 条)、裁決取消 請求訴訟提起することができる(法第 61 条)とされているのはそのれである現行弁護士法における懲戒制度概要のとおりである(1)懲戒請求 何人、弁護士等懲戒事由があると思料するときは、所属弁護士会懲戒することをめることが できる(法第 58条第 1 項)。 (2)綱紀委員会による調査 弁護士会、懲戒請求があったときは、懲戒手続、綱紀委員会事案調査をさせなければな らない(法第 58 条第 2 項)。弁護士会自らが弁護士等懲戒事由があると思料するときも同様である (同項)。綱紀委員会事案調査、懲戒委員会事案審査めることが相当かどうかを判断する(3)懲戒委員会による審査 弁護士会、綱紀委員会懲戒委員会事案審査めることを相当める議決をしたときは、懲 戒委員会事案審査めなければならない(法第58 条第3 項)。日弁連綱紀委員会又綱紀審査会 原弁護士会懲戒委員会事案審査めることを相当とする議決をし、日弁連事案原弁護士会 送付したときも同様である(法第 64 条2 第 2 項、第 3 項、第 64 条4第1項から第3項まで)。 懲戒委員会懲戒することを相当、一定懲戒処分議決したときは、弁護士会弁護士等しなければならない(法第 58 条第 5 項)。 (4)異議の申出等 懲戒請求者、①弁護士会綱紀委員会弁護士等につき懲戒委員会事案審査めないことをとする議決をし、弁護士会弁護士等懲戒しない決定をした場合、②弁護士会懲戒委員会護士等につき懲戒しないことを相当とする議決をし、弁護士会弁護士等懲戒しない決定をした合、③弁護士会相当期間内懲戒手続えない場合、④弁護士会がした懲戒処分不当いと 思料する場合には、日弁連異議申出をすることができる(法第64 条第1 項)。申出期間3 月以 である(同条第2項)。さらに、上記①場合、日弁連綱紀委員会異議申出却下、又する議決をし、日弁連がその決定をした場合(法第 64 条2 第 5 項)には、日弁連綱紀審査会 による綱紀審査ることができる(法第 64 条3第1項)。申出期間30 日以内である(同条 第2項)。 なお、前述①場合異議申出日弁連綱紀委員会審査(法第 64 条2 第1 項)、前述②、④ 場合異議申出日弁連懲戒委員会審査する(法第 64 条5 第 1 項。③についても同様られている。)。

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Page 1: 第3節 弁護士の懲戒制度とその運用状況158 弁護士白書 2016年版 第3節 弁護士の懲戒制度とその運用状況 弁護士の懲戒制度の概要 現行弁護士法(昭和24年法律第205号)施行前は、国家が弁護士に対する監督権限を有していたが、

158 弁護士白書 2016年版

 弁護士の懲戒制度とその運用状況第 3 節

❶ 弁護士の懲戒制度の概要 現行弁護士法(昭和 24 年法律第 205 号)施行前は、国家が弁護士に対する監督権限を有していたが、現行弁護士法は弁護士名簿の登録事務を日弁連の所管とし、弁護士又は弁護士法人(以下「弁護士等」という。)に対する懲戒処分は弁護士会及び日弁連が行うこととするなど、弁護士自治を実現した。弁護士等に対する懲戒権限を国家が掌握していると、国家と国民の基本的人権が衝突する場面において弁護士等がその使命を全うすることに困難を来すため、自治懲戒制度を設けたのである。 なお、懲戒処分は、弁護士会及び日弁連に付与された公の権能に基づいてなされる広義の行政処分である。懲戒された弁護士等が、行政不服審査法に基づく審査請求をすることができ(法第 59 条)、裁決取消請求訴訟を提起することができる(法第 61 条)とされているのは、その現れである。 現行弁護士法における懲戒制度の概要は次のとおりである。

(1)懲戒請求 何人も、弁護士等に懲戒の事由があると思料するときは、所属弁護士会に懲戒することを求めることができる(法第 58 条第 1項)。

(2)綱紀委員会による調査 弁護士会は、懲戒請求があったときは、懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない(法第 58 条第 2 項)。弁護士会自らが弁護士等に懲戒の事由があると思料するときも同様である(同項)。綱紀委員会は事案を調査し、懲戒委員会に事案の審査を求めることが相当かどうかを判断する。

(3)懲戒委員会による審査 弁護士会は、綱紀委員会が懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当と認める議決をしたときは、懲戒委員会に事案の審査を求めなければならない(法第 58 条第 3項)。日弁連の綱紀委員会又は綱紀審査会が原弁護士会の懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする議決をし、日弁連が事案を原弁護士会に送付したときも同様である(法第 64 条の 2 第 2 項、第 3項、第 64 条の 4 第 1 項から第 3項まで)。 懲戒委員会が懲戒することを相当と認め、一定の懲戒処分を議決したときは、弁護士会は弁護士等を懲戒しなければならない(法第 58 条第 5項)。

(4)異議の申出等 懲戒請求者は、①弁護士会の綱紀委員会が弁護士等につき懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決をし、弁護士会が弁護士等を懲戒しない旨の決定をした場合、②弁護士会の懲戒委員会が弁護士等につき懲戒しないことを相当とする議決をし、弁護士会が弁護士等を懲戒しない旨の決定をした場合、③弁護士会が相当の期間内に懲戒の手続を終えない場合、④弁護士会がした懲戒処分が不当に軽いと思料する場合には、日弁連に異議の申出をすることができる(法第 64 条第 1項)。申出の期間は 3か月以内である(同条第 2項)。さらに、上記①の場合で、日弁連の綱紀委員会が異議の申出を却下し、又は棄却する議決をし、日弁連がその旨の決定をした場合(法第 64 条の 2 第 5 項)には、日弁連の綱紀審査会による綱紀審査を申し出ることができる(法第 64 条の 3 第 1 項)。申出の期間は 30 日以内である(同条第 2項)。 なお、前述①の場合の異議の申出は日弁連の綱紀委員会が審査し(法第 64 条の 2 第 1 項)、前述②、④の場合の異議の申出は日弁連の懲戒委員会が審査する(法第 64 条の 5 第 1 項。③についても同様に分けられている。)。

Page 2: 第3節 弁護士の懲戒制度とその運用状況158 弁護士白書 2016年版 第3節 弁護士の懲戒制度とその運用状況 弁護士の懲戒制度の概要 現行弁護士法(昭和24年法律第205号)施行前は、国家が弁護士に対する監督権限を有していたが、

159弁護士白書 2016年版

3-2-3 弁護士の懲戒制度とその運用状況第 3編 日弁連・各弁護士会の活動状況

第3編

(5)官報等による公告

 弁護士会又は日弁連によって懲戒処分がされたときは、官報のほか、機関雑誌『自由と正義』に掲載して公告される(法第 64 条の 6 第 3 項、会則第 68 条)。

 現行の綱紀・懲戒制度(2004 年 4 月 1 日施行)を図示すると下図のようになる。

弁護士会

弁護士会綱紀委員会

弁護士会懲戒委員会

懲戒

審査請求

変更 変更

東京高等裁判所

命令

日弁連綱紀委員会

命令

日弁連綱紀審査会

却下 棄却

懲戒しない

日弁連懲戒委員会

懲戒

異議の申出

異議の申出

日弁連

取消しの訴え

綱紀審査の申出

事案の審査を求める

事案の審査を求めない

相当期間内に手続しない

相当期間内に手続しない

不当に軽い

相当期間異議に理由あり

却下棄却

却下棄却

懲戒しない

懲戒請求何人でも可能

審査相当

審査相当

却下棄却

却下棄却

相当期間異議に理由あり

   は、相当期間内に懲戒の手続を終えないことについての異議の申出の手続の流れ。

【注】1.日弁連及び弁護士会の請求に基づく手続は除く。2.各委員会の議決に基づく日弁連及び弁護士会の決定は除く。

資料3-2-3-1 弁護士の懲戒手続の流れ