第4章 株式 · 2018. 8. 2. · 第4章 株式 第1.株式総説 論点 株式の共有 論証...

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第4章 株式 第1.株式総説 論点 株式の共有 ◇◆論証◆◇ 1 株式が共同相続された場合の法律関係 株式は自益権のみならず,議決権などの共益権を含むから, 可分債権(民法427条)とみることはできない。 したがって, 株式は共同相続人の準共有となる(民法898条)。 2 共有株式の権利行使の方法 株式の共有者は会社に権利行使者を指定して通知する必要が ある(106条本文)。では,権利行使者はどのように定めるべき か。 全員一致を要求すると会社運営に支障をきたすおそれがあ り,会社の事務処理の便宜を考慮した同条の趣旨を没却するまた,権利行使者の指定は共有物の管理行為に当たる(民法252 条本文) したがって,持分の過半数をもって決すべきである。 ただし,決定それ自体を省略することはできないから,他の 共有者との協議及び権利行使者の決定をすることなく,権利行 使者の指定をすることはできない。 (なお,定められた権利行使者は自己の判断で株主としての権 利を行使することができる。株式の共有者間に権利行使に関し ての内部的合意があったとしても,会社に対してこれを対抗す ることはできない。) 3 106条ただし書の適用範囲 共有者の過半数に基づく決定がない場合に会社の方から権利 行使を認めることができるのか。 106条本文は,共有に属する株式の権利の行使方法について, 民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(同法264条た 53 頁 第 11 問 l 最判昭 45.1.22 など 最判解民事篇平 成2年度437~ 439頁 l 最判平9.1.28 【会社法百選11】 l 大阪地判平9.4.30, 大阪高判平20.11.28 l 最判昭53.4.14 26 第2編 会社法

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Page 1: 第4章 株式 · 2018. 8. 2. · 第4章 株式 第1.株式総説 論点 株式の共有 論証 1 株式が共同相続された場合の法律関係 株式は自益権のみならず,議決権などの共益権を含むから,

第4章 株式

第1.株式総説

論 点 株式の共有◇◆論証◆◇1 株式が共同相続された場合の法律関係株式は自益権のみならず,議決権などの共益権を含むから,可分債権(民法427条)とみることはできない。したがって,株式は共同相続人の準共有となる(民法898条)。

2 共有株式の権利行使の方法株式の共有者は会社に権利行使者を指定して通知する必要がある(106条本文)。では,権利行使者はどのように定めるべきか。全員一致を要求すると会社運営に支障をきたすおそれがあ

り,会社の事務処理の便宜を考慮した同条の趣旨を没却する。また,権利行使者の指定は共有物の管理行為に当たる(民法252

条本文)。したがって,持分の過半数をもって決すべきである。ただし,決定それ自体を省略することはできないから,他の共有者との協議及び権利行使者の決定をすることなく,権利行使者の指定をすることはできない。(なお,定められた権利行使者は自己の判断で株主としての権利を行使することができる。株式の共有者間に権利行使に関しての内部的合意があったとしても,会社に対してこれを対抗することはできない。)

3 106条ただし書の適用範囲共有者の過半数に基づく決定がない場合に会社の方から権利行使を認めることができるのか。106条本文は,共有に属する株式の権利の行使方法について,

民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(同法264条た

53 頁第 11 問

l最判昭45.1.22など最判解民事篇平成2年度437~439頁

l最判平9.1.28【会社法百選11】l大阪地判平9.4.30,大阪高判平20.11.28

l最判昭53.4.14

26 第2編 会社法

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だし書)を設けたものである。その上で,106条ただし書は,そ

の文言に照らすと,株式会社が当該同意をした場合には,共有

に属する株式についての権利の行使方法に関する特別の定めで

ある同条本文の適用が排除されることを定めたものである。そうすると,共有に属する株式について106条本文の規定に基

づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使

された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規

定に従ったものでないときは,株式会社が同条ただし書の同意

をしても,当該権利の行使は,適法となるものではないと解すべきである。そして,共有に属する株式についての議決権の行使は,当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなどの特段の事情のない限り,株式の管理

行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従

い,その過半数で決せられる。なお,ここでも,決定自体を省略することは許されないと解すべきである。

4 訴訟提起における権利行使者の指定及び通知(前提として,共益権も相続の対象となることを確認)(この点に関して,訴訟提起,特に株主総会決議の瑕疵を争う訴訟は,違法状態の是正を目的とする保存行為であるとして,共有者が単独で行うことができるとする見解がある(民法252条ただし書))。しかし,訴訟提起も会社に対する権利行使の一種であり,実

質的にみても会社運営の便宜を図った同条の趣旨が及ぶと解すべきである。したがって,この場合も106条本文に基づき,権利行使者の指

定・通知をなす必要がある。これがない場合は,原則として原告適格を欠く。もっとも,会社側に信義に反する行為が認めら

れる特段の事情があれば,この限りではない。

l最判平27.2.19【会社法百選12】

l最判平2.12.4【会社法百選10】最判平3.2.19

第4章 株式 27

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第2.株主の権利及び義務

論 点 会計帳簿閲覧請求の要件◇◆論証◆◇会計帳簿閲覧請求をする際に記載する「理由」(433条1項後段)

は,具体的に示さなければならない。会社が開示を要求されている会計帳簿等の範囲を知り,433条2項各号に規定する閲覧拒否の事由の存否を判断するために必要だからである。ただし,請求の理由を基礎付ける事実が客観的に存在すること

についての立証は要しない。同条の規定からすれば,株主は,請求の理由を明らかにさえすればよいのであって,事実の立証を求めるのはそれに反するからである。

56 頁第 12 問

l最判平16.7.1【会社法百選77】

28 第2編 会社法

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論 点 会計帳簿閲覧謄写請求権の拒否事由(実質的競争関係(433Ⅱ③))◇◆論証◆◇「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み」(433条2項3号)とはいかなる意味か。具体的には,会社が閲覧謄写請求を拒むためには,客観的に競業関係にあれば足りるのか,それとも,不当目的・濫用目的まで要するのか。本号の文言上,請求者の主観的意図は要件とされておらず,規定の構造上も,主観的意図が認められる場合は1号により閲覧を拒絶できるところ,1号のほかに特に本号が置かれている意義は,

客観的に競業者等に該当すれば主観的意図に関係なく閲覧を拒絶

できるところにあると解するのが自然である。また,主観的意図の立証が困難であることも考慮する必要があり,請求者が請求時において情報を競業に利用するなどの具体的

意図を有していなかったとしても,競業関係が存する以上,閲覧

等によって得られた情報が競業に利用される危険性は常に存在す

るということができ,そのような利用を事後的かつ実効的に規制

するのは一般に困難であると考えられる。したがって,同号は,会社の会計帳簿等の閲覧謄写を請求する株主が当該会社と競業をなす者であるなどの客観的事実が認められれば,会社は当該株主の具体的な意図を問わず,一律にその閲

覧謄写請求を拒絶することができると解する。

56 頁第 12 問

l最判解民事篇平成21年度(下)7~8頁

l最決平21.1.15【会社法百選78】

第4章 株式 29

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第3.株主平等原則

論 点 株主平等原則の限界◇◆論証◆◇1 無配贈与無配贈与とは無配を決定しながら,一部の大株主にのみ配当することをいう。これは特定の大株主のみを有利に扱うものであるから,株主平等原則(109条1項)に違反し,無効である。

2 株主優待制度株主優待制度とは一定の株式を保有する者に事業上の便益を与える制度のことをいう。これは,一定数の株式に届かない株主には全く権利がないとする制度であるから,形式的には平等原則に反する。しかし,議決権や剰余金配当請求権のように,

法律上強く平等な取扱いが要求されている権利が問題となって

いるわけではなく,平等原則を厳格に解する必要はない。そこで,安定株主確保,自社製品・施設の宣伝などの正当な

目的があり,かかる目的を達成するために合理的な必要性があ

ると認められる範囲内においては,実質的に平等原則には反しないと解する。

第4.株式の内容についての特別の定め

本節に該当する論点は掲載していませんが,体系を意識して学習することは有益であるため,節名を残しています。

59 頁第 13 問

l最判昭45.11.24

30 第2編 会社法

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第5.株券

論 点 株券の成立時期◇◆論証◆◇

事 例

会社が株券を作成したが,株主Aに郵送中Bによって盗まれ,Bは善意・無重過失のCに株券を譲渡した。

本事例で,Cは当該株券を善意取得(131条2項)するか。株券の成立に交付が必要かが問題となる。株券の発行には株式の流通を認めるとの会社の意思表示が必要

なはずであるところ,本事例では意思表示が完成しているとはいえない。また,上場株式は株券を発行しないこととなっているので,問題となるのは非上場会社のみであるところ,非上場会社の

株券の流通は保護する必要が乏しい。したがって,株券の成立には,交付が必要であると解する。本事例では,交付がない以上,株券は有効に成立しておらず,Cは善意取得しない。

論 点 株券発行前の株式譲渡の効力◇◆論証◆◇株券発行前の譲渡は会社との関係で効力を生じない(128条2項)が,当事者間ではどうか。明文なく問題となる。民法の一般原則からすれば,当事者間では意思表示のみによっ

て有効に株式を譲渡できる。また,128条2項の趣旨は会社の株券

発行を円滑・正確に行えるようにする点にあるのだから,会社との関係で効力を生じないとすればそれで足りる。したがって,当事者間では有効であると解する。

64 頁

l最判昭40.11.16【会社法百選25】

64 頁

第4章 株式 31

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論 点 株券発行遅滞中の株式譲渡◇◆論証◆◇株券発行前の譲渡は会社との関係で効力を生じない(128条2項)が,この定めは会社が不当に株券発行遅滞している場合にも適用されるのか。128条2項の趣旨は会社の株券発行を円滑・正確に行えるように

する点にある。そうだとすれば,会社が不当に株券発行を遅滞している場合には会社を保護する必要がない。したがって,信義則(民法1条2項)上,会社は譲渡の無効を

主張できないと解すべきである。

64 頁

l最大判昭47.11.8【会社法百選A4】参照

32 第2編 会社法