尾瀬での“おもてなし”の心 · 最後に、1964...

4
NPO 尾瀬自然保護ネットワーク 1 Vol.20.No.1 2017 年 5 月 尾瀬での“おもてなし”の心 ~山岳トイレ問題の解決を~ 理事長 磯部 義孝 2013 9 月、 IOC 総会において 2020 年オリン ピック・パラリンピックの開催地は東京に決定さ れました。誘致運動では、歴代の東京都知事はじ め、“おもてなし”の言葉で話題になった滝川クリ ステルさん、またスポーツ界など各界の代表者が 東京および日本の良さ PR され、開催が東 京に決まりました。 開催決定と共に各地 で外国人の観光誘致運 動が盛んになり、観光 地では外国語表示の案 内、パンフレットなど も目立つようになっています。私たちが愛する尾 瀬においても標識などが日本語、英語、中国語、 韓国語などの表記、またマナーをきちんと守るよ うピクトグラム (※) を記した案内標識も検討され ていると聞きます。併せて外国人観光客誘致を目 指す外国人向け尾瀬ガイド、ボランティア育成な どの動きもスタートしています。 尾瀬は日本を代表する第一級ブランドの国立公 園です。ぜひ多くの方々に見ていただき、尾瀬の 大自然と保護の現状を見て欲しいものです。 しかしながら、誘致して外国人をもてなすにも、 一番大事なものが欠けています。それは山のトイ レ問題です。尾瀬国立公園には三つの日本百名山 があり、その中でトイレが山に設置されているの は会津駒ヶ岳のみです。名峰・至仏山、燧ヶ岳に は残念ながらトイレはありません。当会ではそれ ぞれの登山口で入山時に携帯トイレ持参を呼びか け、鳩待峠ではトイレ問題のアンケート調査も実 施しています。仮に携帯トイレを持参しても、ト イレブースがなければなかなか使用はできません。 早急にブースの設置が 必要です。すでに至仏 山においては、笠ヶ岳 分岐や各所の茂みに、 目に余る光景と悪臭が 発生している場所さえ あり、これが百名山な のかと愕然とさせられ ます。 山岳地域でのトイレ設置は高額な費用と設置後 の維持管理費が長期的にかかります。それを入山 料(協力金)で補えば、決して設置が不可能とは 思えません。きちんと整備をして、入山料(協力 金)制度を取入れれば入山者は納得するでしょう。 入山料の徴収が始まれば、入山者の減少を危惧 する山小屋関係者の皆様はご心配されるでしょう が、『入山料を払ってでも尾瀬に行きたい、見たい、 登りたい、そしてまた行きたい』という、尾瀬フ ァンを作ることが長期的な安定経営につながるこ とと思います。いまこの時点で今後の尾瀬の在り 方、特に山のトイレ整備について考えなければ取 り返しの付かない事態になります。速やかに対応 していかねば、外国人観光客はもとより、国内の ―――――――目 次――――――― 尾瀬でのおもてなしの心・・・・・・1 2017 年度通常総会・・・・・・2 特別講演・・・・・・・・ 3 事務局だより・・・・・・・・・4

Upload: others

Post on 30-Oct-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • NPO 尾瀬自然保護ネットワーク

    1

    Vol.20.No.1 2017年 5月

    尾瀬での“おもてなし”の心

    ~山岳トイレ問題の解決を~

    理事長 磯部 義孝

    2013 年 9 月、IOC 総会において 2020 年オリン

    ピック・パラリンピックの開催地は東京に決定さ

    れました。誘致運動では、歴代の東京都知事はじ

    め、“おもてなし”の言葉で話題になった滝川クリ

    ステルさん、またスポーツ界など各界の代表者が

    東京および日本の良さ

    を PR され、開催が東

    京に決まりました。

    開催決定と共に各地

    で外国人の観光誘致運

    動が盛んになり、観光

    地では外国語表示の案

    内、パンフレットなど

    も目立つようになっています。私たちが愛する尾

    瀬においても標識などが日本語、英語、中国語、

    韓国語などの表記、またマナーをきちんと守るよ

    うピクトグラム(※)を記した案内標識も検討され

    ていると聞きます。併せて外国人観光客誘致を目

    指す外国人向け尾瀬ガイド、ボランティア育成な

    どの動きもスタートしています。

    尾瀬は日本を代表する第一級ブランドの国立公

    園です。ぜひ多くの方々に見ていただき、尾瀬の

    大自然と保護の現状を見て欲しいものです。

    しかしながら、誘致して外国人をもてなすにも、

    一番大事なものが欠けています。それは山のトイ

    レ問題です。尾瀬国立公園には三つの日本百名山

    があり、その中でトイレが山に設置されているの

    は会津駒ヶ岳のみです。名峰・至仏山、燧ヶ岳に

    は残念ながらトイレはありません。当会ではそれ

    ぞれの登山口で入山時に携帯トイレ持参を呼びか

    け、鳩待峠ではトイレ問題のアンケート調査も実

    施しています。仮に携帯トイレを持参しても、ト

    イレブースがなければなかなか使用はできません。

    早急にブースの設置が

    必要です。すでに至仏

    山においては、笠ヶ岳

    分岐や各所の茂みに、

    目に余る光景と悪臭が

    発生している場所さえ

    あり、これが百名山な

    のかと愕然とさせられ

    ます。

    山岳地域でのトイレ設置は高額な費用と設置後

    の維持管理費が長期的にかかります。それを入山

    料(協力金)で補えば、決して設置が不可能とは

    思えません。きちんと整備をして、入山料(協力

    金)制度を取入れれば入山者は納得するでしょう。

    入山料の徴収が始まれば、入山者の減少を危惧

    する山小屋関係者の皆様はご心配されるでしょう

    が、『入山料を払ってでも尾瀬に行きたい、見たい、

    登りたい、そしてまた行きたい』という、尾瀬フ

    ァンを作ることが長期的な安定経営につながるこ

    とと思います。いまこの時点で今後の尾瀬の在り

    方、特に山のトイレ整備について考えなければ取

    り返しの付かない事態になります。速やかに対応

    していかねば、外国人観光客はもとより、国内の

    ―――――――目 次―――――――

    尾瀬でのおもてなしの心・・・・・・1

    2017 年度通常総会・・・・・・2

    特 別 講 演 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3

    事務局だより・・・・・・・・・4

  • NPO 尾瀬自然保護ネットワーク

    2

    尾瀬ファンも失望します。誘致するからには、何

    より先にトイレ問題の解決が最優先です。東京オ

    リンピックまで 3 年ですが、まだ間に合います。

    トイレも用意されない“おもてなし”ではだめで

    す。きちんと整備をして、日本人の心(おもてな

    し)を伝えてください。

    ※ピクトグラム(絵表示)のこと。(例)花を取らない

    ■2017年度-第 14期-通常総会

    ご報告(敬称・役職名省略)

    下記のとおり 2016年度の活動報告・会計報告の

    承認、2017 年度活動計画(案)・予算(案)は可

    決されました。主な内容をご報告いたします。

    1.日時:2017年 4月 8日(土)13:10~15:20

    2.場所:大宮ソニックシティビル 803会議室

    3.出席者数:29名、委任状-43名、

    正会員数:91名

    4.出席者: 磯部義孝、伊藤アケミ、飯沼巳好、

    伊藤広志、伊藤佳美、牛木一朗、大山昌克、

    川 一男、小鮒 守、坂本敏子、佐藤秀雄、

    椎名宏子、清水博之、庄司利則、鈴木誠一、

    須賀邦雄、高橋 喬、円谷光行、刀 光夫、

    永島 勲、長島睦世、鍋山智之、中嶋周子、

    西山伸一、初谷 博、疋田正博、藤田隆美、

    横田 隆、若松 真

    5.開会宣言:初谷 博

    議長:磯部義孝 書記:円谷光行

    議事録署名人:横田 隆、刀 光夫

    6.理事長挨拶:磯部義孝

    7.議題

    第1号議案 2016年度 活動報告

    1.事業活動報告 :磯部義孝

    2.諸活動報告 :小鮒 守、藤田隆美、初谷 博、

    事務局

    第2号議案 2016年度会計報告

    1.2016年度会計報告:伊藤アケミ

    2.2016年度会計監査報告

    長島睦世・須賀邦雄

    第 3号議案 2017年度活動計画

    1.入山指導 福島側:藤田隆美

    2.入山指導 群馬側:小鮒 守

    3.各種調査事業

    ①地球温暖化影響調査:初谷 博

    ②至仏山「携帯トイレ」アンケート調査

    ③外来種移入植物調査:②~③小鮒 守

    4.尾瀬アカデミー2017「インタープリター養成

    講座」受講生募集:事務局

    第4号議案 2017年度予算案:伊藤アケミ

    8.閉会宣言:大山昌克

    ※総会終了後(15:30~17:00)に開催された

    特別講演内容は 3頁に紹介しています。

  • NPO 尾瀬自然保護ネットワーク

    3

    ■特別講演

    演題:『尾瀬の自然は電源開発計画から如何に護

    られてきたか』

    講師:法政大学名誉教授 経済学博士

    村串仁三郎 先生

    尾瀬国立公園指定 10 年目の節目にあたり、いま

    一度尾瀬保護の歴史を振りかえることも必要と考

    え、国立公園研究の日本の第一人者である村串先

    生を講師としてお呼びしました。

    尾瀬が苦しめられた二つの大規模な開発計画は、

    明治末期から始まる電源開発(ダム)計画と観光

    道路開発計画です。今回は電源開発計画を中心に

    お話をいただき

    ました。

    国策である電

    源開発を推進す

    る側の行政およ

    び電力会社側に

    対し、どのよう

    な人たちがどのような行動を持って抗し、開発阻

    止をさせ尾瀬を護ってきたのか。資料としては、

    電源開発計画に関連する歴史的な事例を、詳細な

    年表形式で手作りされたものを配布いただきまし

    た。

    (講演要旨)

    1、地元住民、学者・文化人、学会、厚生省(国

    立公園所管)、文部省(天然記念物所管)などが、

    尾瀬の自然を保護しようとしたこと。特に史蹟

    名勝天然記念物保存会(白井光太郎、三好 学

    ら学者中心)の強い自然保護の伝統が生まれる。

    (のちの史蹟名勝天然紀念物保存法は、文化財

    保護法の前身)また尾瀬の国有林を管理してい

    た東京営林局も電源開発に反対し、出版物もつ

    くり尾瀬の保存・保護を訴えた。

    戦後は尾瀬保全期成同盟、のちの日本自然保

    護協会がオピニオンリーダー的な存在であった。

    学者・文化人、学会、自然公園審議会、一部業

    界(山と渓谷社など)、また中央官庁(厚生省、

    文部省)も電源開発構想に反対を表明。大手新

    聞マスコミは、尾瀬の開発に賛成を主張。戦前

    から引き続き武田久吉、鏑木外岐雄、田村 剛

    など学者グループが反対のリーダシップを発揮

    する。

    2、尾瀬の地元(住民)からは、電源開発事業か

    ら利益を得るような賛成派がいなかった。

    3、尾瀬の自然を保護するための法整備が順次な

    された。(厚生、文部省所管が中心)

    戦前、1920 年に保護林に指定

    戦後、1953 年に特別保護地区に指定

    1956 年に天然記念物に指定

    1956 年に鉱区禁止地域に指定

    1960 年に尾瀬ヶ原を特別天然記念物に指定

    4、尾瀬が関東圏に存在したことにより地の利が

    あった。(開発反対派が現場に近く、世論を喚起し

    やすかった)

    5、初期には、巨大ダム開発自体が技術的困難だ

    ったことも味方する。

    6、開発計画の中止が、当事者に直接大きな損失

    を生まなかった。

    7、厚生省(当時は国立公園政策の所管官庁)は、

    戦前より富士山、上高地、尾瀬の 3 ヶ所は重点保

    護地と考え、電源開発推進側である商工省と全面

    対立を貫く。

    最後に、1964 東京オリンピック開催決定を契機

    として、国立公園の観光化が一気に進む。観光道

    路、スキー場、ゴルフ場、リフト、ホテルなどが

    乱立し自然保護とは逆の方向へ走り出す。このよ

    うな過去の事例や経験を踏まえると、2020 東京オ

    リンピック開催を契機に、国立公園の観光化が一

    段と加速し、国立公園の保護政策が劣化すること

    も十分考えられる。

    ●<村串先生による国立公園、尾瀬に係る著書>

    ・『高度成長期-日本の国立公園』時潮社.2016年

    ・『自然保護と戦後日本の国立公園』時潮社.2011年

    ・『国立公園成立史の研究』法政大学出版局. 2005 年

    (以上、文責 大山昌克)

  • NPO 尾瀬自然保護ネットワーク

    4

    ○今年の活動予定が決まりました。多くの方のご

    参加をお待ちしています。宿の手配もありますの

    で詳細は担当理事、または事務局まで直接お問い

    合わせください。

    ■群馬側活動(担当/小鮒・佐藤)

    月 日程 前泊先

    6月 6/3(土)~4(日) 6/2:竜宮旅館

    7月 7/8(土)~9(日) 7/7:竜宮旅館

    9月 9/9(土)~9/10(日) 9/8:竜宮旅館

    9/30(土)~10/1(日) 9/29:竜宮旅館

    ■福島側活動(担当/藤田・鍋山)

    月 日程 前泊先

    5月 5/20(土)~21(日) 5/19:ひのき屋

    6月 6/10(土)~11(日) 6/9:ひのき屋

    7月 7/15(土)~7/16(日) 7/14:ひのき屋

    10月 10/7(土)~10/8(日) 10/6:ひのき屋

    ■合同企画

    月 日程 備考

    7月 7/8(土)~7/9(日) 尾瀬アカデミー(群馬)

    7/15(土)~7/16(日) 尾瀬アカデミー(福島)

    8月 8/11(金) 山の日(群馬)

    8/11(金) 山の日(福島)

    8/26(土)~8/27(日) 特別研修(群馬)

    9月 9/2(土)~9/3(日) 特別研修(福島)

    10月 10/7(土)~10/8(日) 尾瀬アカデミー(合同)

    <尾瀬トピックス>

    ・第 4 次尾瀬学術調査は今年度より、3 ヶ年調査

    が始まりました。(本年 5月下旬より開始)

    ・御池→沼山峠間のシャトルバスは、5/19(金)

    開通の予定です。津奈木→鳩待峠間は 5/19より交

    通規制が始まります。

    ・桧枝岐トレイルランニング大会開催日が 6/25(日)

    に決まりました。当日キリンテに行かれる方は、

    衝突事故など無きよう十分ご注意を願います。

    ・平成 29年度シカ対策事業の一環として、燧ヶ岳

    山頂付近の食害が多いため、試験的に「防鹿柵」

    を設置予定です。また平成 28年度の尾瀬周辺地区

    も含めたシカ捕獲数は 400頭を超えました。

    <編集後記>

    尾瀬沼に再び“緑のエイリアン”

    群馬県立自然史博物館―尾瀬を科学する―を見

    学してきた。驚くことに『コカナダモ』の群落が

    復活と書かれていた。国立環境研究所発表による

    と 2010 年には群落が崩壊し、その後調査確認が

    得られないほど減少した【北米産コカナダモ】が、

    2016 年調査で群落の復活が確認されたそうだ。か

    つては、この水草が沼を 2~3 年で埋め尽くしたほ

    どの強力な繁殖力を持つ。ちぎれた茎からいくらで

    も蘇生・繁殖(無性生殖)できるコカナダモ。この

    ため多くの尾瀬在来の水草が衰退した。水質汚濁が

    進む夏期に活発に繁殖するコカナダモ。なぜ群落が

    できるほどの繁殖となったのか。ちぎれた茎は次に

    尾瀬ヶ原を目指す。両県はどのような対応・対策を

    するのか。第 2 のオランダガラシにならぬよう、今

    度こそ、きちんとした対応を願いたい。(大山)

    NPO 法人

    尾瀬自然保護ネットワーク

    Vol.20 No.1 2017 年 5 月 20 日

    発行人 :磯部 義孝

    編集担当:大山 昌克

    Web 担当:鈴木 誠一

    ■本部事務所(事務局)

    〒969-0404 福島県岩瀬郡鏡石町旭町 19 円谷様方

    電話/FAX 0248-94-5003

    ■群馬支部

    〒371-0846 前橋市元総社町 2-21-12 小鮒様方

    電話/027-251-1089

    Web: http://www.oze-net.com/

    お問い合わせ [email protected]