戦略的bcp(事業継続計画)と変革期を迎えた企業 …...中部大学...

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中部大学 産業経済研究所 中部大学産業経済研究所・野村総合研究所共催シンポジウム 戦略的 BCP(事業継続計画)と変革期を迎えた企業経営 ―災害による中部圏構造変化と日本再生に向けて― 日時 2012 年 2 月 24 日(金)15:30~19:00 場所 中部大学名古屋キャンパス 6 階大ホール 特別研究レポート

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中部大学 産業経済研究所

中部大学産業経済研究所・野村総合研究所共催シンポジウム

戦略的 BCP(事業継続計画)と変革期を迎えた企業経営

―災害による中部圏構造変化と日本再生に向けて―

日時 2012 年 2 月 24 日(金)15:30~19:00

場所 中部大学名古屋キャンパス 6 階大ホール

特 別 研 究 レポ ー ト

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特別研究レポート

中部大学産業経済研究所・野村総合研究所共催シンポジウム

戦略的 BCP(事業継続計画)と変革期を迎えた企業経営

―災害による中部圏構造変化と日本再生に向けて―

●主催(企画・運営):中部大学 教授

産業経済研究所 所長 鈴木 正慶

●基 調 講 演 講 師:野村総合研究所社会 システムコンサルティング部

上級コンサルタント 浅野 憲周

●調 査 報 告 報告者:中部大学

産業経済研究所 研究員 小山 太郎

●パネルディスカッション

パネリスト:浅野 憲周(野村総合研究所 上級コンサルタント)

小川 裕克(中部大学 教授)

荒川 健一(株式会社グローバルエンジニアリング

代表取締役社長)

堀内 篤志(愛知金属工業株式会社

生産統括グループマネージャー)

コーディネーター:奥田 誠(野村総合研究所 名古屋オフィス代表)

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開会挨拶 ························································ 4

基調講演「大震災から企業は何を学ぶべきか ―BCP(事業継続計画)の再考―」

はじめに ···························································· 5

第 1 章 東日本大震災で判明した事実 ·································· 6

第 2 章 輸送機械メーカーX社の事例·································· 10

第 3 章 東日本大震災で判明した事実(まとめ) ······················· 11

第 4 章 東海・東南海・南海の 3連動型地震で想定されること ··········· 11

第 5 章 東海・東南海連動地震で想定される影響 ······················· 13

第 6 章 首都直下型地震で想定されること ····························· 15

第 7 章 東京湾北部地震の被害予想 ··································· 17

第 8 章 企業が踏まえるべき災害対応の視点 ··························· 18

第 9 章 まとめ ····················································· 22

調査報告「東海地震等の巨大地震対策についてのアンケート調査結果概要」

はじめに ··························································· 24

第 1 章 アンケート調査結果 ········································· 24

第 2 章 ロジスティック回帰分析の結果 ······························· 26

第 3 章 自由回答文から読み取れること ······························· 27

第 4 章 震災対応のための BCP 作成について ························· 28

第 5 章 コレスポンデンス分析 ······································· 28

第 6 章 今後の方向性 ··············································· 30

● 目 次 ●

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パネルディスカッション ········································· 31

パネリスト:浅野 憲周(野村総合研究所 上級コンサルタント)

小川 裕克(中部大学 教授)

荒川 健一(株式会社グローバルエンジニアリング 代表取締役社長)

堀内 篤志(愛知金属工業株式会社 生産統括グループマネージャー)

コーディネーター:奥田 誠(野村総合研究所 名古屋オフィス代表)

参考(共催シンポジウム案内資料) ······························· 51

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中部大学産業経済研究所の鈴木と申します。今日は年度末の大変お忙しい中、多数の方々にお

出掛けいただきまして本当にありがとうございます。3.11 東日本大震災の発生からほぼ 1年にな

ろうとしております。いまだに被害は甚大であり、その影響がさまざまなところに解決しないま

ま出ている状況です。東海地方も今後大きな地震が来るのではないかと、大変高い確率で予想さ

れています。こういう中、震災に当たって復興を迅速に行っていくことは、特に企業経営にとっ

て重要になっています。そういう問題意識の中で、野村総合研究所のご協力を得て、今回、中部

大学産業経済研究所と野村総合研究所の共催のシンポジウムを開くことができました。「戦略的

BCP(事業継続計画)と変革期を迎えた企業経営」というタイトルです。守りだけではなく、これ

を機に攻めに転じるという発想も必要ではないかということで、そういう会合にしたいと思いま

す。

初に野村総合研究所の浅野憲周さんから基調講演をいただきます。浅野さんは内閣府の災害

政策体系の在り方を組んでいる委員会の中心的な人物で、そのほか内閣府、地方自治体のいろい

ろな災害対策のプロジェクトに関係しております。ご経歴はお手元のチラシの後ろをご覧くださ

い。それでは浅野さん、よろしくお願いします。

開 会 挨 拶

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特別研究レポート

5

大震災から企業は何を学ぶべきか

―BCP(事業継続計画)の再考―

講 師:浅 野 憲 周

(野村総合研究所 社会システムコンサルティング部 上級コンサルタント)

はじめに

今、紹介いただきました野村総合研究所の浅野です。よろしくお願いします。

初に、私の簡単な自己紹介です。学生のころは地震工学、特に建築防災を中心にやっていま

した。野村総合研究所に入り、地域政策的なところ、地域計画などをやりながら、今日のテーマ

の関連では、地震を中心とした防災政策を担当することになりました。当時は特に国土庁防災局

が国の防災政策の中枢の検討を担当されていたのですが、そこからコンサルティングや調査の委

託をいただきながら、いろいろな勉強をさせていただきました。

今日のテーマは、近く来ると言われる東海・東南海・南海という連動型の地震についてです。

2003 年に東海・東南海・南海の連動型の地震について中央防災会議から公表されていますが、地

震が発生したときにどのような被害が生じるのか、それを踏まえて国としてどのような政策を打

っていくべきなのかという国のマスタープラン作りを当時の内閣府の防災担当から委託を受け、

地震被害のシミュレーションや対策の案文作りをいたしました。その後、東京関連で中央防災会

議の首都直下地震対策専門調査会からの委託で、同じように地震被害のシミュレーションを行っ

たり、今よく報道されている経済被害 112 兆円という予想被害額をはじかせていただいています。

また、当時は BCP という言葉はあまりメジャーではありませんでしたが、国の中枢機能の業務継

続の確保戦略などの仕事をやってきました。このように国の政策支援をさせていただきながら、

併せて民間企業のリスクマネジメント、特に災害対応も含めて支援をさせていただいています。

今日はその辺りの経験を踏まえた上で、次の震災にどう備えていくのか、そのようなお話をさ

せていただければと思います。それを受けて後ほどのパネルディスカッションの中では、より具

体的な現場の話について、先生方や企業経営者の方々といろいろな議論をさせていただければと

思います。

本日は、 初に東日本大震災についてお話しします。震災以来、もうそろそろ 1年になろうか

基 調 講 演

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ということで、非常に大変な思いをわれわれはしてきました。この震災の教訓は何かについて、

今日のテーマである BCP という視点から、もう一度見つめていきたいと考えております。

もう一つは、特にこの東海地方についてはあれで終わりではないということです。東日本大震

災があったときは 1000 年に 1 度の未曾有の災害だと盛んに言われましたが、決して 1000 年に 1

度といったものではありません。この東海・東南海はいつ来てもおかしくない状況にあることを

再認識しなくてはいけません。その特徴は一体何なのか、東日本と比べて同じ部分・違う部分が

いろいろあると思いますが、そういったところについてお話をさせていただきます。併せて今こ

の連動型地震については自治体、あるいは国・政府の方で検討を進めています。私自身もそのお

手伝いをさせていただいている中で、 近の動向なども時間が許す範囲でお話をさせていただけ

ればと考えております。

併せて、 近マスコミをいろいろな形で騒がせている首都直下地震です。4年以内に 70%とか

大震度 7が出るのではないかと、いろいろな議論が出ていますが、これについては具体的には

東京都の方が国に先行して見直しの検討を進めています。そのお仕事を支援させていただいてい

ますので、その動向等のお話をさせていただければと考えています。

後に、こういった状況を踏まえたときに今後どう備えていくべきか、次なる震災に向けて企

業経営者としてどう備えていくかの方向性についてもお話ししたいと思います。また、これは時

間の関係で、パネルディスカッションの方でのご紹介になるかもしれませんが、BCP とは何なの

か、何がポイントになるのか、そのようなお話もさせていただければと考えています。

第 1 章 東日本大震災で判明した事実

初にこの東日本大震災で判明した事実、

何が教訓だったのかということです。今回、

想定外という言葉が非常に流行り言葉のよう

に出てきましたが、この想定外という言葉は

私自身あまり望ましくないと考えています。

このエリアで震災が起こる、海溝型の巨大地

震が起こることは分かっていました。図 1の

濃い色で塗られた部分は中央防災会議で従前

から海溝型の地震が起こるということで、タ

ーゲットを定めていたエリアです。文部科学

省系の研究機関である地震調査研究推進本部が、30 年以内に起こる確率を順次発表していた状況

で、どうやらここで近々大規模な地震が起こりそうだと、従前からターゲットが定められていま

した。ただ、自然現象ですから、特に地球が誕生してから 46 億年の歴史の中で、われわれが経験

している期間は非常に限られています。必ずしも想定どおりに来るとは限らず、時にはそれ以上

の地震動なり津波が来ることは当然だという姿勢で、いろいろな不測の事態に臨む体制を強化し

図 1

Copyright(C) 2012 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 4

1.東日本大震災で判明した事実

政府は、宮城県沖地震の発生を高い確率で予測していた地震調査研究推進本部の発生確率予測および中央防災会議の想定震源

注) Mt:津波の高さから求める地震の規模出所) 地震調査研究推進本部、中央防災会議資料よりNRI作成

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特別研究レポート

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ておくことが大事であったのだろう、これが大きな教訓だと考えています。また、経営戦略を検

討する立場で想定外という言葉が許されないだろうという心持ちが大事だということが、大きな

教訓の一つだったと考えています。

また、時代背景的に見た特徴としては、日本において巨大災害はそれほど珍しいものではなか

ったことをあらためて認識しておくべきだろうと思っています。大正時代、1923 年のいわゆる関

東大震災は、津波も伴いましたが、むしろ火災延焼による被害がかなり大きな部分を占めている

海溝型の大きな巨大地震でした。また、今言われている東南海・南海の東海沖の海溝型の巨大地

震が、戦前・戦後、1944 年・1946 年に 2年のタイムラグがありましたが、連動して発生していま

す。すなわち、20 世紀の前半は比較的こういった巨大な海溝型の地震が連続して起こっている状

況でした。戦後の 20 世紀後半は、いわゆる広域な大規模な震災がしばらく静穏期と言われ、影を

潜めていました。代わりに注目された代表的なものが阪神淡路大震災、いわゆる首都直下型の地

震です。影響範囲は非常に局地的ですが、非常に激甚な災害・影響を及ぼす地震がかなり顕著に

出てきました。

また、高度経済成長期以降の日本では、高

速道路や新幹線などのインフラ、ライフライ

ンの高度なネットワーク化が図られてきまし

た。また、それに対応して今回の大きなテー

マの一つであるサプライチェーン・マネジメ

ントが本格化してきています。それから、イ

ンターネットに代表される ICT の高度化も顕

著に進んでいます。図 2 のとおり、情報通信

の交換量ストック額が急激に上がってきてい

ます。

従って、今回の東日本大震災は、いろいろ

なネットワークに頼るような社会になって初めて経験した本格的な広域大規模震災であったこと

が、非常に大きな特徴でした。われわれはこういったネットワークに頼る社会が被災を受けたと

きの影響の広がりの大きさを、ある意味初めて経験したのです。

どのような影響があったのかは今更言うまでもない状況ですが、一つわれわれも非常に意外だ

ったのは、サプライチェーンが 1次・2次・3次と非常に多重化している中で、ダイヤグラム上で

ボトルネックがあったということです。このようなボトルネックがあるということを、震災にな

って初めて顕在化したというか、認識できたということです。代表的な例でよく挙げられている

のは、半導体、マイコンを作られているルネサスの例です。そのほかに自動車の部品、あるいは

副資材で使われている化学系の素材でも同様なことが起こっています。一番有名なところでは鹿

島臨海地区の三菱化学の工場が被災して 2カ月半ほど止まったということで、化学製品の原料の

供給がその間ストップして、影響が全体に波及していきました。そういった半導体の停止やサプ

ライチェーンの 上流の素材系の停止により、日本の震災のないエリアだけではなく、世界中に

影響が広がっていったのです。

図 2

Copyright(C) 2012 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.

実質ストック額(単位:十億円)

5

1.東日本大震災で判明した事実

しかしながら、ネットワーク化された現代社会がはじめて経験する事態であり、甚大な被害をもたらした

1923 1944 1946 1948 1960 1970 1980 1990 1995 2004 2008 2011 (年)

インフラ・ライフラインの高度なネットワーク化(高速道路、新幹線)

M 7.9

M 7.1M 7.4

M 8.0

M 6.8

M 7.2

ICT高度化(インターネット、データ通信)

高度経済成長期

サプライチェーンマネージメントの高度化

関東大震災 東南海地震

南海地震

福井地震

宮城県沖地震

岩手・宮城内陸地震

新潟中越地震新潟中越沖地震

出所) 日本被害地震総覧よりNRI作成

情報通信ストック額

M 7.9

M 9.0東日本大震災

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

50,000

M 7.8

M 7.3

北海道南西沖地震

阪神・淡路大震災

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阪神淡路のときの教訓として、自分たちの工場をしっかり強化する、あるいは現場力で仮に被

災してもすぐに立ち上がるようにするということ、すなわち、今日のテーマの BCP のようなこと

は、阪神淡路や中越地震の時の(株)リケンの被災から教訓を得て、強化が図られてきたわけです

が、一番大きな盲点は、自分たちが立ち上がっても物が来ない、あるいはインフラが止まってし

まうことにより、非常に大きなダメージが生じたことです。これが一番大きな教訓ではなかった

でしょうか。

お話を伺うと、大手自動車メーカーなどもここの部分の教訓が次に生かすべきポイントだとい

うことで、サプライチェーンの構造把握と、その構造の中で何がボトルネックで、自然災害上ど

こがリスクが高いのかを今一生懸命見極めようとしているところだそうです。

具体的に輸送用機械業ということで、鉄

鋼系で見てみます(図 3)。ちょうど昨年の 2

月の生産量を 100 にしたときに、震災が起

こったことで急激に下がっています。回復

するまでは今回は 3カ月くらいかかってし

まいました。震災でストックが止まること

による補修ではなく、まさにフローが完全

に止まってしまうことの怖さを痛感された

と思います。

ただ、こういったマイナスの面だけでは

なく、これまでのいろいろな教訓が十分に

生かされた場面も見られたことが、今回の

もう一つの特徴でした。図 4は、高速道路

の復旧日数です。一番上のグラフは阪神淡

路大震災の時の高速道路の復旧日数です。

あのとき、高速道路阪神高速神戸線は高架

部分が横転してしまうという大被害が生じ

ました。当時は日本の土木構造物の耐震技

術は非常に優れているから、ああいった大

倒壊が生じることはあり得ないという認識

が常識でした。その前にあった 1989 年のサ

ンフランシスコの地震で、ベイブリッジの

ダブルデッキの所が崩れた事故がありましたが、あのときも日本側のコメントは「日本ではまず

あり得ないことだ」というもので、そういうことが盛んに言われていたのです。しかし、阪神淡

路大震災で当時の業界の常識が一遍にひっくり返ったのです。

それからそれなりに土木構造物の耐震基準が上げられ、耐震補強が図られてきました。しかし、

今回の東日本大震災のマグニチュード 9は有史以来、日本の中で記録された 大規模の地震でし

た。 大震度が震度 7を記録していますが、高速道路の橋梁・橋脚部分で全壊に至るような被害

図 3

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1.東日本大震災で判明した事実

輸送用機械業の生産が停止し、回復に3カ月超を要した

輸送用機械産業の生産額推移

出所) 生産動態統計調査(経済産業省)

100.0 

53.3  52.3 

71.4 

85.3 

90.0 

96.1 

90.4 

40.0 

50.0 

60.0 

70.0 

80.0 

90.0 

100.0 

110.0 

120.0 

2010年9月

10月 11月 12月 2011年1月

2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月

輸送用機械

注)一か月あたりの生産量を、基準年(2005年)を100として指数化。

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1.東日本大震災で判明した事実

過去の震災対策により、高速道路は驚異的なスピードで復旧した

0 20 40 60 80

阪神高速道路一般開放

仮復旧

応急復旧

東北自動車道一般開放

常磐自動車道一般開放

11日

13日

21日

復旧スピードの比較(高速道路)

1年8カ月

1日東日本大震災

阪神・淡路大震災

(日)

耐震補強耐震補強対策

図 4

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特別研究レポート

9

は 1件もありませんでした。東北自動車道は比較的新しい構造物だったこともありますが、それ

は阪神淡路以降の教訓が十分に生かされた一つでしょう。

それから、復旧も非常に早く、使えるようにという意味では初日から使える状態に持っていき

ました。これは補給活動に使われていたのですが、一般開放されるまでも東北自動車道で 2 週間

かかっていないのです。あれだけの震災でも 2 週間待つと高速道路が使えるようになるというこ

とは、生産活動を進めていく中で、仮に寸断しても実態ベースで 2週間を復旧目標とすればいい

ことが検証されたと考えています。

新幹線についても同様で、図 5に見るよ

うに、阪神淡路の時は復旧までに 80 日かか

っていますが、新潟中越地震の時は 20 日く

らい早く復旧できました。また、今回は 50

日で復旧したということで、震災を経験す

るたびに確実に復旧日数は短くなっていま

す。

また、その中身を見ますと、格段に違う

のは構造物の高架橋・橋梁・トンネルの崩

落が全くなかったということです。もう一

つは、新潟中越地震の時には上越新幹線は

脱線事故を起こしています。本当に幸いなことに人的な被害は生じなかったのですが、一歩間違

うと大事故につながりかねない事象が起こっています。今回は昼間の震災でしたので新幹線がか

なり走っており、トップスピードで走っている状況でも、幸いなことに 1本も脱線しませんでし

た。当然構造的な工夫もあると思いますが、それだけではなく、今回有名になった緊急地震速報

と同じ考え方で、JR 独自のユレダスという仕組みで自動的に新幹線の速度を制御して自然に止ま

るようになっていたということです。また、トップスピードで強震を受けないような仕組みがき

ちんと働いたということなど、いろいろな工夫があり、安全・安心という意味でもかなり格段に

技術が上がってきていることが証明された一つのいい事例だったと考えています。

国際的にも、日本に災害が起こったときのインフラの耐震性や安全性の高さに関しては、今回

はやはり評価が高いのです。私自身はお隣の中国地震局のいろいろな研究者、あるいは政策担当

者の方とお話をさせていただく機会を持たせていただいていますが、特にこの新幹線の技術につ

いては非常に注目されています。一方で、中国は自分の技術として売り込みたいという野心もあ

ったのだろうと思っていますが、ここについては非常に評価が高い部分でした。

Copyright(C) 2012 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved.

0 20 40 60 80

東海道・山陽新幹線

上越新幹線

東北新幹線

9

1.東日本大震災で判明した事実

営業走行中の新幹線の脱線は1本もなく、復旧のスピードは早かった

復旧スピードの比較(新幹線)

東日本大震災

阪神・淡路大震災

(日)

新潟県中越地震高速運転中に高架橋上で新幹線の

脱線事故が発生

高速運転中の新幹線の

脱線事故はなし

高架橋柱の損壊による落橋状況を呈する甚大な被害が8か所で発生

トンネルのコンクリートの崩落が発生

高架橋、橋りょう、トンネルの崩落はなし

緊急停止システムの制度向上など

耐震補強対策

50日

81日

66日

図 5

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10

第 2 章 輸送機械メーカーX 社の事例

もう一つ、企業の BCP といいますか、現場力の重要性が証明されるような場面もいろいろなと

ころでご報告をいただいています。これは岩手に自動車の組み立て工場を持たれているあるメー

カーの例です。このメーカーはもともと東海地方に拠点を持たれていて、東海地震の脅威がある

ということや全体の会社の方針もあり、東北に拠点を移転された経緯があります。このように、

もともと被害軽減ということで移転されたのですが、その後、2003 年に三陸沖地震を経験され、

工場の建屋は大丈夫でしたが、アームで吊っている製作途中の車が落下するとか、ダクトが外れ

るなど、いろいろなことがあり、すぐには復旧できませんでした。そのようなことを経験され、

当時は BCP という言葉は明確に意識されていなかったと思いますが、今で言う BCP(Business

Continuity Planning)ということで、何があっても必要な時期までに生産復旧できるような、い

わゆる現場力を培おうとされたのです。そして、特に従業員がどう対応したらいいのか、車が落

ちないための工夫など、細かいところを工夫されてきました。

このようにいろいろな対策を取った 5年後に、岩手宮城内陸地震が起きました。これは内陸の

直下型の地震ですが、一番厳しい所で震度 7 を経験している地震です。5 年後に再びこういった

震災を経験されたのですが、ちょうど金曜日に地震があったところ、土日で工場の建て直しやお

客さまとの連絡などのやり取り、静岡にある本社との連携などいろいろと対応し、月曜日の朝か

ら通常どおりの稼働ができたということです。これは 2003 年の経験を具体的に生かしたというこ

とで、非常に教訓が生きた例であったと聞いております。

今回 2011 年の東日本大震災の時も、車の生産は 1カ月くらい止まっていましたが、この拠点工

場自体は震災 4日後、3月 15 日には動かせる状態まで持ってきていました。いろいろとお話をお

伺いしますと、やはり従業員 1人 1人が、自分たちはこのような状況のときに何をすべきなのか

を体で理解しているということで、指示命令ということではなく動けたということです。それか

らいわゆる減災といいますか、アームが広がらないような工夫をして、車の落下を防ぐ工夫がさ

れていました。要するに、車を落としてしまうと復旧時間が長くなってしまうので、何が復旧時

間を長引かせるのかというボトルネックが過去の体験からよく分かっており、それに対して確実

に打ち手を取ってこられたということで、それが今回も生きたということのようです。

ただ、先ほども申し上げましたが、結局自らの拠点工場は 3月 15 日からいつでも動かせる状況

にあったということですが、残念ながら今回はやはり材料が来なかったということで、サプライ

チェーンの寸断が盲点でした。これが今回の大きな発見といいますか、教訓だったということで

す。

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特別研究レポート

11

第 3 章 東日本大震災で判明した事実(まとめ)

以上、この東日本の部分についてはそもそも想定外ではないということで、政府がいろいろな

形で評価・発表しているものを上回るものが時には起こることは当然だという認識で、われわれ

は政府がどんな検討をしているのかを今一度見直しをする必要があります。また、それについて

は東海地震についても同じような認識が必要であることが、重要な教訓の一つです。

2 点目として、このネットワークに頼る社会が被災したときの、影響の広がりの大きさを十分

に認識しておくべきだろうということです。これはサプライチェーンの 下流から見たときに、2

次・3 次の構造が分からなくて困るというボトルネックがあったというお話も伺いましたが、逆

に 上流の素材を作られている会社、例えば三菱化学の場合、自分たちが止まることにより、そ

の先でどのような波及影響があるのかについて十分認識できていなかったというお言葉もいただ

いています。例えば化学素材でも緊急に必要な医療救護対応用のバックの素材に自分の製品が使

われていたことを震災になって初めて気付き、2 カ月半という停止期間は非常にボトルネックに

なることに気付かれています。また、波及影響の大きさについてもなかなか見えていませんでし

た。これは、BCP の目標設定をするときに非常に重要なポイントで、自分たちの売り上げがどの

くらい低下するのかということで目標設定するだけではなく、やはり波及影響の大きさも踏まえ

て設定していくことが、日本の社会全体を考えた上でも非常に重要です。この点も今後に向けて

生かすべき教訓の一つだったと考えています。

3 点目として、そうは言っても悪い部分だけではなく、十分に過去の震災教訓からそれを反省

点・教訓として取り入れた工夫が生きた場面も、たくさんあったということです。従って、過去

の教訓に学ぶ姿勢の大切さもあらためて実感できました。今回の東日本大震災でサプライチェー

ンの重要性を認識したということは、まさに 4 章以降でお話しする次なる連動型の巨大地震にど

う備えるかという意味で、大きなヒントになると考えています。

第 4 章 東海・東南海・南海の 3連動型地震で想定されること

次は今後の震災の話です。今まさに政府が取り組んでいる動向等も踏まえながら、いろいろと

お話をさせていただきたいと考えています。

東日本大震災は 1000 年に 1度ということですが、この東海・東南海の連動型は決して 1000 年

に 1度というものではなく、いつ来てもおかしくない状況です。1600 年以降の履歴からご紹介し

ますと、100 年・150 年の周期で、繰り返しこのエリアで連動して地震が起こってきている事実が

あります。一番 近は 1946 年です。44 年・46 年にはこのエリアで連動した地震が起こっていま

す(図 6)。もう 70 年近く前です。過去の歴史では、100 年・150 年で繰り返し起こっていること

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を考えますと、もうそろそろというか、お

おむね 30 年ほどで起こってもおかしくあ

りません。そういう考え方で、政府の文部

科学省系の地震調査研究推進本部という研

究機関では、30 年以内に 60%とか 70%、

東海地震については 80%以上ということ

で、地震発生確率を公表している背景があ

ります。

東海地震については、30 年ほど前にかな

り注目されるようになりました。私はもと

もと名古屋出身で、当時中学生になったか、

なっていないかくらいだったと記憶してい

ますが、非常にニュースとしてインパクトがありました。それから 30 年以上何もなく来ている状

況です。東海地震が注目される背景としては、この三つのエリアはずっと連動して過去にはこう

いった周期で起こってきているのですが、前回 44 年・46 年では、ここは割れ残って動かなかっ

たので、空白域が 160 年近くになってきていることから、次に起こるとすると東海地震が危ない

という考え方です。

ただ、30 年くらい前は次の東海地震が割れ残っているので危ないと言われていましたが、それ

から随分とまた時間がたってしまいました。そうなりますと、この東海地震のエリアだけではな

く、次に来るとすると、この東南海・南海のエリアも一緒に来る可能性も高まってきているので

はないか、それが 近の考え方です。

そういった状況の中、政府は今からおおむね 10 年前、2003 年に東海地震の単独、東南海・南

海の連動型地震の地震被害のシミュレーション結果や、それを踏まえた政府としての対策大綱を

発表しています。これは私どもの方で地震被害のシミュレーションの委託をいただき、実際に数

字をはじかせていただき、対策大綱の案文を作らせていただきました。当時 2003 年に公表したと

きの終わりの言葉として、「今後おおむね 10 年くらいこの地震が起こらなかった場合には、更に

東海地震・東南海・南海地震が全部連動で起こる可能性についても、もう一度見直して検討する

必要があるだろう」という言葉で整理しています。それからちょうど 10 年たったという状況です。

そういう中で東日本の大震災が起こったということで、今まさにここの連動型の検討が本格化し

ている背景があります。

この 3連動、 近では 4連動プラスアルファで海溝軸という言われ方をしていますが、どのよ

うな地震なのかということを簡単におさらいさせていただきたいと思います。図 7には、東海地

震、東南海地震、南海地震の震源域が表示されています。3連動という従来型について 2003 年に

公表されたときには、これが三つ一緒に起こる可能性があるということでした。規模が 大だっ

たのは 1707 年の宝永地震です。宝永地震はマグニチュード 8.6 ですが、東日本大震災が発生する

までは、これが日本 大の地震と言われていました。

これをモデルに 2003 年にシミュレーションを行いました。しかし 近は、東日本で 1000 年く

図 6

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2.次なる広域震災で想定される影響

近い将来起こる巨大地震災害に備える必要がある

出所) 日本被害地震総覧よりNRI作成 13

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特別研究レポート

13

らい記録に残されていないような連動型の巨

大な地震が起こったという反省もあり、記録

には残されていなくとも、過去には単発で海

溝型の地震が発生したことがある日向灘もひ

ょっとすると一緒に動く可能性もあるという

ことで見直しています。この特徴は、影響範

囲が非常に広いこともありますが、もう一つ

は海溝軸に注目しようという動きがあること

です。フィリピン海プレートは、太平洋側の

プレートが内陸のプレートへ潜り込むちょう

ど境界部分に当たるのですが、そこまで震源

域を延ばし、ここも同時に動く可能性につい

ても評価しなければいけないのではないかと。

これが、おおむね今年の 3月から 4月くらい

を目標に政府が公表しようと今検討を進めて

いる 4連動、南海トラフにおける 4連動プラ

ス海溝軸といった大型の地震です。

この地震の特徴は東日本大震災が陸からは

やや離れた所に震源を持っていましたが、こ

このエリアの特徴は、潜り込み部分が非常に

内陸に近いのです。東日本大震災は津波によ

る被害がかなり顕著で、被害のほとんどは津波によるものでしたが、それと大きく違うことは、

揺れと津波とのまさに同時被災になるということです。

図 8 が今、政府が検討しているもので、ここがいわゆる海溝軸と言われている所であり、一番

中央の枠内が 10 年前に想定していた震源域です。今はよりエリアを広げてマグニチュード 9くら

いの地震をモデルに、地震動や津波高のシミュレーションを来月くらいの公表を目標に検討を進

めているところです。

第 5 章 東海・東南海連動地震で想定される影響

この地震の特徴ですが、図 9を見てください。これは中部地方の製造業 4分野、輸送機械、精

密、石油、鉄鋼に絞って見ております。東北地方の年間の生産量が大体 2兆 6000 億円に対して中

部は 25 兆円ということで、全く規模が違います。東北の問題はサプライチェーンの寸断により生

産が止まってしまったという問題ですが、東海・東南海の連動型地震では生産拠点そのものが停

図 7

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2.次なる広域震災で想定される影響

4連動巨大地震災害の影響は、東日本大震災を上回る

震度7

震度6強

震度6弱

震度5強

震度5弱

震度4

震度3以下

揺れ、津波同時被災

東海地震の震源域(87%)

領域拡大の可能性

東南海地震の震源域(60~70%)

南海地震の震源域(60%)

出所) 震度は中央防災会議、確率は文部科学省地震調査研究推進本部

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2.次なる広域震災で想定される影響

政府は南海トラフの巨大地震のハザードマップを3月に公表

南海トラフの巨大地震モデル検討会が公表した震源・波源域モデル

出所) 南海トラフの巨大地震モデル検討会

図 8

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14

止してしまうということで、生産額が全く

違うというインパクトの大きさが一つの大

きな特徴だと考えられます。当然、このエ

リアは太平洋ベルト地帯ということで、日

本の経済を支えてきた重厚長大産業を含め

て、拠点的な製造機能が集結している所で、

そこが同時に被災する可能性があることが

一番大きなポイントです。

もう一つは今回注目された電力の問題も

課題として上がってくるということです。

当然、浜岡原発の問題もあるかと思います

が、それだけではなく、今回東北の問題で

計画停電に至った一つの要因としては、原

発が止まったことだけではなく、火力発電

所も相当同時に止まったことがありました。

この問題は結構大きくて、東北電力の場合

には火力発電所は東北の日本海側も含めて

比較的分散して立地しています。一方、中

部電力の火力発電所は、ここにプロットを

落としているように、ほとんど伊勢湾に集

中しています。伊勢湾のこのエリアは当然

津波の影響も受けますが、液状化による被

災も想定される場所です。圧倒的に一局集中の構造になっているだけに、ここの部分が電力供給

面での電源問題としてより課題になってくる、これも大きな特徴の一つと考えています。

もう一つは国土が大分断される、これも特徴です。東北自動車道は地理的に見ますと東北の真

ん中辺りを走っていて、あまり海岸沿いではありません。先ほど日本のインフラの耐震技術が上

がってきていて、2週間もせずに復旧したという言い方もしましたが、あまり楽観もできません。

何が違うのかといいますと、東名高速と新幹線が海岸沿いをずっと走っているのです(図 10)。

これが東北自動車道と全く違うところです。この薄いグレーの所が震度 6強、濃いグレーが震度

7 と予想される所です。また、場所によっては津波の影響も受けるような場所を走っているとい

うことは、東北と大きく違うところです。仮に大被害がなかったにしても、これだけ長い距離、

強震動地帯を走っていくということですから、点検をする手間や補修する手間、そういった作業

量は膨大になってくるということで、同じように 2週間で本当に復旧するかというと、そこは要

チェックです。

もう一つはちょうど震源がこの真下になります。東北の場合には海側でした。ですから、全然

違うことは、こういった海溝型の巨大地震でありながら、直下の地震の特徴を持っていることで

す。地質構造的には、この辺りにはフォッサマグナという構造の割れ目のようなものもあります

図 9

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2.次なる広域震災で想定される影響

国土の大動脈が寸断する恐れがあり、地盤変位が発生すると橋梁が倒壊し、寸断期間が長期化する可能性がある

小牧JCT

地盤変位による橋梁倒壊の恐れ(高速道路の復旧期間)

楽観ケース: 10~20日悲観ケース: 数か月から数年

一宮JCT

東海北陸自動車道

大井川

中央自動車道

岡谷JCT

東名高速道路

東海道新幹線

浜岡原発

中部‐関東間トリップ

旅客: 898,438(トリップ/日)貨物: 747,273(t/日)

関東‐東北間の約3倍

名古屋港コンテナ貨物取扱量

1億6,510万t/年

出所) 全国幹線旅客純流動調査(2005年)、全国貨物純流動調査(2005年)、平成21年港湾統計年報(2009年)よりNRI作成

図 10

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2.次なる広域震災で想定される影響

わが国 大の生産拠点・中部地域が被災し、大都市圏にも地震動が及ぶなど、被災時の影響は今回を遙かに上回る

出所) 火力発電所プロットは電気事業連合会ホームページ生産額:経済産業省「地域間産業連関表」(2005年)より編集

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特別研究レポート

15

ので、地盤が変異するとかいうことがあると、日本の土木構造物、橋梁なども、変異にはなかな

か技術的な課題を解決できていません。つまり、ずれるということですが、ずれる場合には被害

を避けられないという場合もあり得ます。そういう意味でここの日本の大動脈が寸断する可能性

も踏まえるべきである、ここも大きな特徴の一つだと考えています。

当然、場所的に取引量が東北と比べて圧倒的に違います。また、年間の取引数で見ますと東北

の 3倍と、場所的な意味合いが全く違うのです。このようなところも非常に大きな課題の一つに

なってくると考えています。

第 6 章 首都直下型地震で想定されること

もう一つは、首都直下の話です。 近、

首都直下で 大震度 7も想定されることが

にわかに報道されるようになっています。

これにもかかわらせていただいているので、

簡単に状況だけご紹介をさせていただきま

す。今、首都直下地震と一般的に言ってい

るのは、中央防災会議で 2005 年に公表して

いるものです。実はこれにはいろいろなタ

イプの地震があり、当時は 18 ケースの地震

を設定しております。その中で図 11 の縦軸

が地震の起こりやすさ(蓋然性)です。上

に行くほど地震が起こりやすく、横軸は右

へ行けば行くほど首都中枢機能への影響が大きいということで、18 ケースの首都直下地震を定義

しています。

これは当時の首都直下地震対策専門調査会の中で、亡くなられた東大地震研究所の溝上先生が

委員長をされていたワーキングで、こういった設定をされました。その中でよく経済被害が 112

兆円と言われている首都直下地震は、この一番右上の東京湾北部地震です。これはマグニチュー

ド 7.3 で設定されていますが、一般的に首都直下地震と言いますと、この東京湾北部地震のこと

を言っていると理解していただければと思います。起こりやすさも一番高く、首都中枢機能への

影響も高いと設定されています。ただ、そのほかにも実はいろいろな想定地震が設定されていま

す。例えば「都心直下」で「都心東部・西部」と書いてあるものがあります。都心東部とは霞ヶ

関直下です。霞ヶ関の真下で地震が起こったときにどうなるのかを、政策的に検討するために設

定された震源だと理解していただければと思います。都心西部については新宿の都庁直下を震源

としている地震です。こういったものは科学的な根拠はそれほど高くありませんし、発生する可

図 11

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ある程度の

切迫性が高いと考えられる

近い将来発生の可能性が否定できない

近い将来発生の可能性は低い

地震発生の蓋然性

首都機能の重要性

首都機能集積首都機能を支える交通網やライフライン等の機能

中核都市の機能その他の機能

プレート境界、プレート内の地震(19断層面のうち発生可能性の低い領域に該当する12断層面の領域)

都心東部都心西部

さいたま 市、千葉市、川崎市、横 浜市、立川 市、羽田、市原市、成田

地殻内の浅い地震M6.9

活断層M7.0以上( 近500年以内に発生したものを除く)

関東平野北西縁断層帯立川断層帯

伊 勢原断 層帯神 縄・国府津 -松田断層帯

三浦半島断層群

プレート境界、プレート内の地震(19断層面のうち東京湾北部などの7断層面の領域)

東京湾北部茨城県南部多摩 :応急対策の対

象とする地震

近い将来発生する可能性がほとんどない地震は除外。中核都市等直下 都心直下

  

  

注1) 

:予防対策の対象とする地震

「近い将来」とは、今後100年程度をいう。

注2) 

凡例

今回検討対象とした地震

都心部周辺 都心部

首都直下地震対策専門調査会で対象としている地震

2.次なる広域震災で想定される影響

地震発生確率と首都機能への影響の大きさの2軸から対象地震を分類

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16

能性はそれほど大きくないかもしれませんが、一度発生すると影響力が大きいということで、特

徴的な場所に設定して想定しようという考え方で出された地震です。このようなものをはじめ、

いろいろな検討をされているということです。

先ほど一番右上で紹介していた東京湾北

部地震、マグニチュード 7.3 ですが、図 12

の右図の濃い色で示した部分が震度 6強が

出る所で、それなりに被害が出ます。火災

延焼が一番発生するケースで、建物全壊・

消失棟数を合わせて 80 万棟、死者は 1万人

以上、経済被害は波及影響も含めて 112 兆

円という数字をはじいております。これは

ちょうど 5年くらい前にこういった検討を

したのですが、ここ 1週間以内の報道かと

思いますが、東京の首都直下でも 大震度

7 もあり得るのではないかという話も出て

います。それは 2005 年に中央防災会議で首都直下地震の公表をしたほぼ直後か直前の段階で、当

時の東京大学の東大地震研の佐藤教授のグループの方から、震源を設定しているフィリピン海プ

レートの潜り込み、境界部分の深さがもう少し浅いのではないかという発表がありました。その

発表が公表の直前か直後くらいだったということで、そういった知見はなかなか取り入れられず

に、当時の中央防災会議で正式には公表されませんでした。その後東北の地震のシミュレーショ

ンや中部・近畿の直下の地震を中央防災会議で検討しており、なかなかこの首都の問題が再計算

に着手できていない状況でした。しかし、そういった 新の研究成果を生かして、もう一度検討

し直さなければいけないという議論が 近高まってきたということです。その場合には震源が浅

くなりますので、当時で 大震度 6強だったものが 7も発生し得るのだということで、今まさに

取り組みをしているところです。

初に私もご紹介させていただきましたように、今、国に先駆けて東京都の方で石原知事から

直々に見直せということもあり、まさに東京都の方が震度 7も想定し、地震の評価を見直しして

いるところです。今年の 5月の連休明けくらいの公表を目標に、検討を進めています。実はこの

検討は東京都だけで進めているわけではなく、国の方も大きくかかわってくることもありますの

で、震源モデルの設定や地震のシミュレーションについては、中央防災会議の事務局をしている

内閣府も内部で一緒に連携しながら、進めているところです。また、国の方も現段階で来年度、

この首都直下地震の見直しに本格的に取り組んでいくことが既に決まっている状況です。

図 12

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2.次なる広域震災で想定される影響

東京湾北部地震の震度分布予測結果

■新宿

中野

■渋谷

■品川

■東京

■四谷

■上野

■池袋

■亀戸

震度6強震度6弱

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特別研究レポート

17

第 7 章 東京湾北部地震の被害予想

この東京湾北部地震の被害の

特徴ですが、図 13 の左側が建物

の揺れ、液状化による全壊数の

分布、右側は火災延焼の分布を

示しています。非常に特徴的な

ことは、東京の東側は非常に地

盤が悪く、沖積層の軟弱地盤が

厚くたまっているような場所で、

そこは揺れが激しくなります。

また、当然、墨田区や足立区は

古い木造住宅が密集しているこ

ともあり、ここで揺れによる被

害が多くなっています。一方、

火災延焼となりますと、木造住

宅がより密に集積しているような木造密集市街地では火災が延焼しやすいということもあり、環

状 6号線と 7号線の間は、非常に被害が拡大する可能性があります。

このような状況で、実は金融機関をはじめ日本の大企業の東京の本社がここに集積しているの

ですが、これが孤立化してしまうのではないかと言われています。後ほど BCP という話がありま

すが、既存の BCP はまずは拠点に人が集まり、集まってからどうしようかということが前提にな

っていて、そもそも本当に集まれるのかは十分チェックされていません。それから何とか頑張っ

て集まっても事業継続ですので、会社にずっと暮らし続けるのかというと、なかなかそうはいき

ません。帰ることも考えると、本当にここで事業継続できるのか。そういう意味での本当にリア

リティーの高い BCP はまだまだ十分に検討されていません。こういった周辺の市街地の被災状況

なども十分に理解した、実践的な検討がこれから求められていくのだろうと考えています。

東京都の今の見直しは 5月に公表の予定ですが、どのような観点から見直されるのかは今、口

頭で申し上げたとおりです。震源が浅くなってくることは決まっていますので、これで地震動が

強くなってきます。もう一つは、東京でも津波を伴うような関東大震災と同等の地震が起こると

いうことで、これを再現しようという取り組みを今まさにしているところです。

もう一つは、今回東日本で電力をはじめ、ライフラインの復旧が大きな課題になりました。2005

年に公表したものでは、首都直下地震は電力の復旧は 6日で 8割方大丈夫ですとしています。ど

のような経緯でこの数字が出てきたかと申しますと、2005 年からちょうど 10 年前の 1995 年阪神

淡路大震災の時に、大体 7日くらいで電力は復旧しています。通信は 2週間くらいで復旧してい

ます。それからちょうど 10 年後に国から公表された首都直下地震の被害想定でしたので、国の政

策的な観点から言いますと、阪神淡路から 10 年を経てその当時よりも復旧時間が長いようなもの

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2.次なる広域震災で想定される影響

都県域を超えた広域的被害の発生荒川流域及び環状6~7号周辺地域への被害集中

①揺れによる全壊棟数の分布(都心部) ②焼失棟数の分布(都心部)

新宿区

港区

中央区

千代田区

環状6号線

環状7号線

新宿区

港区

中央区

千代田区

新宿区

港区

中央区

千代田区

環状6号線

環状7号線

新宿区

港区

中央区

千代田区

荒川

木造密集市街地(環6、環7沿い)の焼失 が顕著都心部では不燃化が進展

<冬夕方18時、風速15m/s>

都県域を超えた広域的な被害荒川沿いの全壊が顕著

図 13

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18

は国としてはとても公表すべきではないだろうということで、本当に 6日で電力が復旧できるの

かどうかという評価の観点よりは、むしろ政策的に目標設定したものです。すなわち、6 日で復

旧したいという考え方もかなりここに込められたものであるということです。本当にこれで大丈

夫なのかについては、東日本前後でいろいろな前提条件が違ってきているということで、ここが

大きな見直しのポイントになります。今まさにこれを検討しているところです。

前提条件と申しますのは、当時、東京が 6日で大丈夫とした根拠の一つは、東京だけに電源設

備が集中しているわけではなく、柏崎もあるし福島もあるということでした。完全にそういった

前提が崩れたということは、皆さんご承知のとおりです。それから、仮に東京電力の電源設備が

機能低下したとしても、ほかの電力会社との連携で給電措置も取れるということも当時理由とし

て出されていましたが、そこには周波数の違いやいろいろな限界があることは、われわれは実体

験として分かってしまいました。当時言われた政府としてのエクスキューズと言いますか、大丈

夫という前提条件が、東日本大震災の前後で大きく変わってきているということです。

通信についても同じで、東京都心部で被災したときに、本当に本部に応急活動要員の従業員が

参集できるのか。ここのチェックをしないことには、復旧についてこれまでどおりのシナリオは

なかなか出せないということです。その辺りを非常に今大きな検討課題として取り組みをしてい

ます。

東京の企業の BCP について、いろいろお話をお伺いしていると、大体 6日くらいで電力が復旧

することを前提として動かれていますが、ひょっとするとこれも見直さなければならないかもし

れません。

以上、次なる広域震災で想定される影響について、いろいろな話をさせていただきました。ま

とめると、巨大災害は確実にやってくるだろう。1000 年先ということではなく、その影響はいろ

いろな意味で東日本を上回るものになるだろう。そういうことを具体的にわれわれは理解して、

どう手を打つのかを考えることが重要だろうということをお話しさせていただきました。

第 8 章 企業が踏まえるべき災害対応の視点

では企業はどういうふうに備えていけばいいのでしょうか。これについては後ほどのパネルデ

ィスカッションの中で、より実体験に基づいて具体的なお話も先生方あるいは企業経営者の方か

らしていただけると考えていますので、私からは大きな考え方をお話しさせていただきたいと思

います。

一つは、これまでの防災対策、BCP でもいいのですが、常識と言われていたものを考え直さな

ければいけなくなり、大きくパラダイムシフトが起こるということです。例えば本社で言うと、

まず本社に人が参集してそこで本部を立ち上げ、いろいろと指揮命令してというようなこと、人

がある場所に集まってということが前提となった BCP なり対策はひょっとすると機能しなくなる

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特別研究レポート

19

かもしれません。ですから、人は 1 カ所に集まれなくとも、何らか機能を継続させるようなこと

を考えていかなければいけないかもしれません。

もう一つの考え方としては、例えば愛知県に本社を持たれている大手の自動車メーカーにして

も、過去に阪神淡路、中越沖、今回の東北などでサプライヤーが被災されていますが、愛知県に

参集して愛知県から指揮命令し、応援部隊を送って、非常に短期間に復旧支援を実現してきてい

ます。ただ、これは、自らは被災していない中でこういう指揮命令が機能してきたということで

あって、自らも同時に被災して立ち上がりながら、周辺も救っていくということはこれまで全く

経験していません。これは愛知県だけではなく、東京の本社も被災した経験もないわけです。こ

こは大きくパラダイムシフトを考えなければいけません。それから、空間的には影響範囲が非常

に広く、拠点が分散しているつもりが、実はそうではなかったということもあり得るかもしれま

せん。阪神淡路も非常に局所的、中越沖も非常に局所的でした。東北については、いわゆる指揮

命令拠点は別の場所にありました。そういったことについては常識が覆るかもしれません。

大手の金融機関ですと、東京にデータセンターがあり、そこのバックアップセンターは大阪に

あります。東京と大阪に同じような機能があるので大丈夫だというのがこれまでの考え方でした

が、この東海・東南海・南海の連動型地震は、長周期地震動の影響、あるいは液状化の影響が非

常に広域に及びます。液状化の問題は今回の浦安の問題で、震源から 400km 離れた所でも非常に

大きな被害が生じることが改めて確認されたわけで、大阪湾・東京湾の液状化の危険性が高い所

が、同時に被災することも十分あり得ることも含めて、本当に東京・大阪の 2拠点体制で大丈夫

と言い切っていいのかについても、考え直さなければいけないかもしれません。

それから、ネットワークという意味では、日本が高速道路をはじめ、真ん中で大分断されてし

まい、場合によってはそれが長期化する可能性があるということですので、東北で部品を作って、

それを集めて、中部や九州で 終製品にして輸出をするというように、日本を大縦断して完成さ

せる仕組みが本当に機能するのかについても、いろいろな考え方を変えていかなければいけない

かもしれません。このようなところが大きな考え方なのだろうと考えております。

そのために考えていくべき一つとして、過

去にどのようなことを学びながら、どんな手

を打ってきたのかについて、簡単にご説明し

ます。図 14 は縦軸に、販売拠点・生産拠点と

いう自社の拠点をイメージしています。その

上流にサプライヤーからの部品供給のサプラ

イチェーンのネットワークがあり、そこを支

えているインフラ・ライフライン等があると

いう考え方です。阪神淡路大震災のキーワー

ドは耐震化であり、それは学んできました。

例としては神戸製鋼の本社や神戸の事業所が

被災して大変な損失を被ったことをはじめとして、とにかく大事な設備はしっかりと耐震化して、

仮に被災してもすぐに復旧できるような現場力を高めていこうということが、阪神淡路や中越の

図 14

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3.企業が踏まえるべき災害対応の視点

リスクを可視化して事業継続のためのブロック定義を進める

阪神・淡路大震災では、拠点の防災対策の重要性を学んだ

東日本大震災では、供給網の多重性・代替性の重要性を学んだ

次なる大震災に向け、ブロックを定義して、生き残り戦略を考えるべき

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20

教訓でした。今回はそれがかなりできてきたという例もいろいろな所で見られました。ただ、サ

プライチェーンで特にこういうボトルネックが生じているような所が問題となり、結局、拠点は

大丈夫だったが、物は作れなかったということです。

そういう意味で、実はリスクがどこにあるのかが見えていなかった、可視化できていなかった

というところが一番大きな教訓でした。まずはこういった構造を可視化するということと、それ

ぞれのサプライチェーンのネットワークの中でどのようなリスクが生じるのかというリスクの可

視化を図っていき、その上でエリア的に見て被災影響を受けるエリアと受けないエリアをきちん

と見極めて、その中で事業継続で使えるリソースを考えるということです。これは自社のリソー

スである必要はないと考えていますが、いろいろな連携先や機能代替を図れるような相手とどう

やって機能代替を図り、連携していくのかの戦略を具体的に考えていくことが重要です。

まずその前段として、リスクが可視化できていなかったところ、サプライチェーンの可視化と

いうところは、昨年の反省として今一生懸命取り組まれていますが、それに加えて、サプライチ

ェーン上のリスクの可視化を図っていくことが非常に重要だということです。

こういった観点から、これまでの BCP は 4 連動の巨大災害に対応できるものではなかったと申

し上げているわけです。その上で事業継続のためのブロックを見極めていこうということで、リ

スクを可視化していくことが 初のステップとして大事だろうと思います。

イメージとして、 初の一歩としては、サプライチェーンの構造を十分に把握することがある

かと思います。もちろん現実的にはいろいろな守秘義務の問題もありますし、ノウハウの問題も

ありますので、限界はあるかと思いますが、なるべくこれを把握することが重要です。また、そ

れだけではなく、そこに潜むサプライチェーンリソースの被災の状況、地震動や液状化や津波で

どのような影響を受けるのか。それから電力・上水道といった社会インフラによった影響はどう

か。それから、今回は原発で顕著になりましたが、事業活動に直接影響を及ぼすような危険な立

地環境はどうなのか。このような状況をひととおり重ね合わせて評価していきます。

近は図 15 のような GIS(Geographic

Information System)も使いながら、まずサ

プライチェーンの構造や災害リスクの素因を

重ね合わせて、トータルとしてどこにどのよ

うなリスクがあるのかを見える化することが、

技術的には可能になってきています。まず、

これをきちんと分析して、リスクを可視化す

ることが非常に大事だと考えます。愛知県の

大手自動車メーカーも今、一生懸命サプライ

チェーンの構造把握に加えて、ハザードマッ

プとの重ね合わせなどで、どこにどのような

リスクがあるのかを見極めていこうとされていると伺っています。

そのやり方ですが、図 16 のように、まずブロックを見極めます。ブロックと定義させていただ

いていますが、これは事業継続をしていくための広域のブロックです。必ずしも行政境界という

図 15

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3.企業が踏まえるべき災害対応の視点

リスク諸要因を重ね合わせ、GIS(地理情報システム)ツールを利用して視覚化する

29注) GIS:Geological Information System

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特別研究レポート

21

ことではなく、被災影響を受けるエリアと受

けないエリアという見方でのブロックという

定義ですが、これを見極めます。見極めた上

で、そのブロック単位の寸断をある程度予想

して、どうやって立地戦略を考えていくのか

が重要になってきます。大きな方向性として

は、ブロックごとに自律完結した機能集積を

進めるといった考え方もあるかと思いますし、

ブロック間でいかに機能連携・代替していく

という戦略を考えることもあると思います。

自律完結型の集積の考え方は、日本が完全

に大分断されることを前提に、一つ被災すると全部がやられるという構造ではなく、ある程度自

律性を保つということで、全体としてはある程度の機能継続を図って確保していこうというもの

です。ただ、これはいわゆる大企業で全国に立地展開できており、ブロックに分けてもそれなり

の生産量が確保できるという前提条件が必要になってくると思われます。

先ほど、今回の東日本大震災で輸送業界のカーブがかなりここで落ちたというご紹介をしまし

たが、各消費地に拠点がある結果として全国に拠点分散している食品業界などはほとんど影響を

受けずに、生産量をほとんど落とさずにきているという例もあります。

ただ、自律型にするのは、非常に生産量が多くないと難しいだろうと考えられます。小さいと

ころは拠点を本当にリアルに分散するだけの体力もありませんし、この国際競争化の中でそれだ

けのコストをかけますと、震災が来る前に経営が継続できないということで、本末転倒になるで

しょう。ですから、そういったブロック間でそれなりに多重化するようにして、機能をどうやっ

て代替していくかという考え方もあるということです。

考え方としては、図 17 にありますように、

仮に Bブロックがやられても Aブロックで機

能連携できるように拠点を分散していく。あ

るいは、リアルにリソースを多重化するのは

コスト面で非常に経営上難しいことから、そ

ういうやり方ではなく、場合によっては設計

情報なりいろいろな情報を代替拠点に移転を

するなりして、ほかの拠点、ほかの企業と機

能が連携できるような準備を平時からしてい

くという考え方もあります。また、サプライ

にしても多重化して、可能な部分については

部品も共有化するなど、いろいろな機能連携

のやり方があります。

ただ、ここに大きな課題があります。今回の東日本の震災以降も在庫を持つとか、拠点を分散

図 16

Copyright(C) 2012 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 31

3.企業が踏まえるべき災害対応の視点

ブロック毎に自律完結した機能集積を進める

いずれかのブロックが被災しても全体の機能停止は回避できる

図 17

Copyright(C) 2012 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 34

3.企業が踏まえるべき災害対応の視点

海外も含めたブロック間の機能分担を進める

拠点工場の分散、低リスクのブロックに移転、標準による相互補完

調達先の多重化、インフラのバックアップ体制を確保する

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するなどの議論が出ていますが、今回の東日本大震災は、グローバル競争が高まっている状況下

で初めて起こった震災であったことも大きな教訓の一つでした。従って、在庫戦略をやり過ぎる

ことも必ずしも正しくはないでしょう。

それだけではなく、2 番目としては、現場力を高めて 2 週間で復旧したという例も幾つも聞か

れています。被災現場における復旧をいかに早期化していくかという工夫も、非常に大事だと考

えています。また、被災地で短期で復旧できないものについては、拠点を普段から多重化するこ

とだけではなく、バーチャルで機能を代替できるようなものを準備することも必要です。金型な

どは分かりやすいのですが、それだけではなく、知識・技術の部分や設計情報などもほかのライ

ンへすぐに移植して、そこで代替生産ができるような準備についても考えておく必要があります。

それが技術的にも非常に難しい分野もあるかと思いますが、そこも大きな課題になってきている

と思います。

また、単純に拠点を多重化するだけでは、震災には勝てるかもしれませんが、震災が来る前に

国際競争に負けてしまいます。そこをどうするかは非常に大きな解決しなければいけない課題に

なってきます。それから、もっと中長期的には設計変更も考え得るでしょう。

グローバル競争化における多重化戦略については、後ほどむしろ企業経営者の方も含めていろ

いろなご意見をいただければということで、後ほどのパネルディスカッションの中でまさに具体

的なお話をさせていただきたいと思います。この震災にどう備えるかということに加えて、この

競争にどう対応していくのか。このバランスが非常に大きなテーマだということです。

第 9 章 まとめ

この巨大災害が 1000 年と言わず起こる可能性があるということで、災害対策という意味で、こ

れまでの常識を覆すようなパラダイムシフトが生じる可能性が高いと思われます。それにいかに

備えるかということですが、まずは基本の取り組み姿勢として、きちんとリスクを可視化してい

ただくことが非常に重要です。リスクを可視化して、事業継続をする上でのブロックをきちんと

定義をしていただきます。ブロックを定義すると具体的な打ち手が見えてきますので、その打ち

手をどう取っていくのか。これは企業の特性によって大きく違ってくると考えられます。ここの

具体的な部分については今後の大きな課題が残されていると考えていますが、この辺りのいろい

ろなお話をさせていただければということです。

資料では次に BCP とは何なのだろうかというお話を紹介していますが、後ほどのパネルディス

カッションの中で BCP の話で議論させていただきますので、必要に応じて紹介をさせていただけ

ればと思います。

少々長くなりましたが、以上で私の話を終わりにしたいと思います。どうもありがとうござい

ました。

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特別研究レポート

23

(司会) 浅野さん、どうもありがとうございました。いろいろとまだまだお話ししたいことが

多いと思いますが、パネルディスカッションで答えていただきたいと思います。

それでは次のテーマにまいります。調査報告ということで産業経済研究所の研究員の小山先生

にお話をいただきます。 初に TBC 仙台で鈴木工業さんがどういうふうに BCP を築き、今回の震

災に対応できたかというビデオを見ていただきます。その後に私どもがアンケート調査をやりま

した。経営者および有識者、2200 サンプルで 321 サンプルが戻ってきた調査の結果を小山先生が

分析して、BCP の現状をお話しさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

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24

東海地震等の巨大地震対策についての

アンケート調査結果概要

報告者:小山 太郎(中部大学産業経済研究所 研究員)

はじめに

ただ今ご紹介にあずかりました中部大学の小山と申します。本日はお忙しいところ来ていただき

ましてありがとうございます。それでは 初に BCP とは何ぞやということで、3 分ほどですが、

BCP 対応をしていたがために他企業に比べていち早く東北の大震災から復興した事例の映像をご

覧になっていただきたいと思います。この場をお借りして TBC 東北放送の佐々木部長には心から

御礼申し上げます。

第 1 章 アンケート調査結果

BCP に対する意識について、経営者および有識者の方に対してアンケート調査を行いましたの

で、その結果についてご紹介します。

この目的ですが、BCP の策定状況について意識調査を行いました。「今現在 BCP を作成していま

すか・していませんか」「過去に伊勢湾台風で被災した経験がありますか」「東日本大震災は御社

のビジネスにどう影響しましたか」等々を含めて意識調査を行ったわけです。調査項目は大きく

分けて Q1~Q4、東日本大震災が自社の事業活動に与えた影響、東海地震等への備え(準備状況)、

遅かれ早かれやって来るだろう東海地震等への備え、BCP 策定状況とその内容、企業属性につい

てアンケート調査を実施しています。

アンケートは 2200 件配布して、回収が 321 件、回収率 14.6%くらいとなっております。弊大

学の産業経済研究所のモニター、弊大学の OB・OG 組織の校友会等を含め、そういうところに配布

しております。該当者の属性ですが、当然ながら経営者よりも有識者の方が年齢が高く、70 歳以

上の方が多くなっています。

経営者の業種は建設業と製造業、流通業、情報通信業等々が主な業種となっております。

調 査 報 告

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特別研究レポート

25

初に、単純集計結果についてご紹介します。N=208 の回答がありました。

図 1 は「事業継続に対してどのような影響

がありましたか」という問いの結果です。東

日本大震災がどのような影響を及ぼしたかと

いうことですが、「販売先としての顧客からの

受注が停止または減少した」というものが一

番多く、次に多いのは「特に影響はなかった」

というものです。あと「サプライチェーン網

の破たんによって供給が停止したものもあっ

た」と答えています。

次ですが、材料、部品、商品等の取引先か

らの調達が困難となり、生産や販売活動が停

止したときにどうしたか。「国内の代替仕入れ

先を利用した」「被災した既存仕入れ先の復旧

を待った」というところが多かったというこ

とです。

続いて、生産・販売活動・受注が停止した

期間はどれくらいのタイムスパンでしたか。1

カ月くらい止まっていましたか? 数週間で

済みましたか? と聞いたところ、「震災から

1 カ月以上止まっていた」というところに結

構多くの回答がありました。

「東日本大震災以外で、過去において地震・

台風・洪水などによる被災経験はあります

か?」については「ある」として、内容は自

由回答文で「伊勢湾台風でやられた」「タイの

洪水でやられた」といろいろと書いていただ

きました。「ない」という方も半数近くいらっ

しゃいました。

図 4 は、「主要活動拠点の再配置、データセ

ンターや生産サービス拠点、工場等の再配置

を実施していますか」と聞いた結果です。「東

海地域外(国内)」、国内だけれども東海地域外への主要活動拠点の分散を考えていると答えた方

が 15%いらっしゃいました。「そのようなことは検討していない」という方が一番多かったです。

後ほど理由をご説明します。

「サプライチェーン・マネジメント改革を実施していますか?」、○は幾つでも付けてください

というと、「あまりそういうことは検討していない」という回答が多かったです。会場にいらっし

図 1

Q1-1.事業継続に対してどのような影響がありましたか?(○はいくつでも)

10 

31 

35 

25 

12 

0  5  10  15  20  25  30  35  40 

無回答

⑤ その他自由回答

④ 特に影響はなかった

③ 販売先としての顧客からの受注(発注)が停止、または減少した

② 材料、部品、商品等の取引先からの調達が困難となり、生産や販売活動が

停止した(以下の内いずれかに○をしてください)。

① 貴社の事務所、店舗、工場等が直接被災して、生産や販売活動が停止し

(単位: %)

Q1-1 付問 材料、部品、商品等の取引先からの調達が困難となり、生産や販売活動が停止した

(以下の内いずれかに○をしてください)(A)国内の代替仕入れ先を

利用した15%

(B)海外の代替仕入れ先を

利用した

1%

(C)被災した既存仕入れ先

の復旧を待った(復旧を支

援した)13%

(D)特に何もしていない6%

(E)その他自由回答4%

無回答61%

図 2

Q1-2. 生産・販売活動・受注が停止した期間についてお答えください(○は一つ)

① 震災当日

2% ② 震災から3日程度

1%

③ 震災から1週間程度

6%

④ 震災から数週間から

1カ月程度12%

⑤ 震災から1カ月以上27%

⑥ その他自由回答9%

無回答43%

図 3

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ゃる皆さまからも回答していただいたかと思

うのですが「そのようなことは検討していな

い」と。これは新聞等でセンセーショナルに

サプライチェーン網が破たんしたということ

で、アンケートを設計する私の方でもそうい

うアンケート調査をしたのですが、実はそう

いう意識は低いということが分かります。あ

るいは、流通業や不動産業の場合には、その

ような拠点分散をすぐにはできない、東海エ

リア内で耐震ビルに引っ越すしかない、日本

全国をブロック別に分けて拠点分散を図るよ

うなことはできないし、検討していないということが背景にあるかもしれません。

第 2 章 ロジスティック回帰分析の結果

「貴社では既に今後の震災対応のための BCP(事業継続計画)を既に作成されましたか?」に

は、はい・いいえが真っ二つに分かれています。「はい」と答えるか、「いいえ」と答えるかを予

測するためにロジスティック回帰分析を行いました。「はい」を 1にして「いいえ」を 0にして、

説明変数をいっぱい入れました。

ロジスティック回帰分析の結果です。非説明、目的変数は「はい」「いいえ」の二つしかありま

せん。説明変数の F2 や F3 は企業規模(従業員の数)と業種、あとはサプライチェーン網への取

り組み具合と過去の被災経験等々になっています。そうしますと、有意水準αを 10%として効き

目がある説明変数は、東日本大震災で影響があったと答えた人、それ以外の被災経験がある人、

東海エリア以外の国内に主要活動拠点の再配置を考えている人、従業員の規模が 500~999 人、あ

るいは 3000 人以上の企業という 5個の説明変数が効いていて、ほかは非有意なので関係ないとい

う結果になりました。

分析結果の考察です。オッズ比を見ますと、17 とか 23 とか大きなオッズ比を出しているのが、

従業員の規模と国内でのエリア分散を考えていると回答した企業です。国内の主要活動拠点の再

配置を考えていると回答した企業は、そう回答しなかった企業よりも 7倍 BCP を策定する傾向が

あるという解釈になります。この辺のデータ分析はうちの大学院でも来ていただけましたら、手

取り足取り申し上げたいと思います。

考察ですが、業種ダミー、業種の種類は全部非有意でした。非有意とは目的変数に対して効果

を及ぼしていないという意味になります。業種よりも企業規模の方が効いています。それから、

サプライチェーン網の見直しが BCP 策定動機につながっていません。サプライチェーン網の選択

図 4

Q2-1 主要活動拠点(生産・サービス拠点/データセンター等)の再配置を実施(検討中も含む)していますか? (○は一つ)

① 東海地域外(国内)へ

の主要活動拠点の移

転、分散15%

② 海外への主要活動拠

点の移転、分散

8%

③ そのようなことは検討

していない62%

④ その他自由回答13%

無回答2%

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特別研究レポート

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肢はすべて非有意でした。

それからいろいろな交互作用、業種×企業規模、建設業で 3000 人以上の会社という交互作用項

を設定して、それが説明変数として効いているかひととおり調べましたが、交互作用項はすべて

非有意でした。例えば東日本大震災で被災した経験がある×その他の伊勢湾台風でやられた経験

がある、二つ被災経験がある、そのように過去に 2回ひどい目に遭っている場合には BCP 策定傾

向があるかないかを調べる場合に、そういう交互作用項を設定しましたが、それも非有意でした。

モデルの当てはまり具合はこちらに統計量を出していまして、きちんと回帰が予測に役立って

いるということです。

第 3 章 自由回答文から読み取れること

自由回答文から読み取れることですが、東海地震に備えて事業拠点の物理的な地域分散を図る

ことを想定してアンケート調査を行いましたが、地域をブロック化して拠点分散を行うという発

想以外に、企業は以下の仕方でもリスクヘッジを考えていることが分かりました。

例えば場所は分散させずに、自社ビルの耐震強化や本社社屋の建て替えで乗り切る、あるいは

耐震ビルへ引っ越す。拠点分散をせずにそういうことで十分ではないかと考えていることが調査

結果から言えます。これは地域密着で拠点分散できない不動産業、消費の小規模分散性のために

やはり拠点分散ができない流通業などに、そういう顕著な傾向がありました。それから金融業と

情報通信業は強固な耐震ビルやデータセンターがあればよく、複数遠隔地に拠点を持つ必要はな

いと考えている可能性があります。

それからエリア分散ではなく、業務の機能的バックアップで乗り切るという発想をしている会

社もいろいろあります。例えばやられた場合に備えて、販売・仕入れ・決算データ等を別の場所

へ保存しておく、東京本社が被災することを想定して社内データを別の場所へ置いておくという

回答もありました。

東海エリア内での拠点分散、東海エリアの外へは行かず東海エリア内での拠点分散を考えてい

る会社もありますし、沿岸部から内陸部へ引っ越せばいいのではないかと考えている会社もあり

ました。

また、流通業の立場では製造業的なサプライチェーン網の見直しに関心はなく、物流網の改革

の話になってくるということがアンケート調査をして分かりました。サプライチェーン網が災害

に対して機動的に対応できるようになっていれば、ある拠点がやられたとしても、ほかの拠点を

使えばよい、これは 3000 人以上従業員がいると答えた大企業の発想です。 初から製造拠点が全

国規模の大会社は全国規模のネットワークを持っているので、あらかじめ地域分散ができてしま

っています。リスクに備えて地域分散をしますかという質問が意味をなさなかったのです。

あと、震災で特需が発生している会社もありました。震災で経済的に損失すると決めてかかっ

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てアンケート調査をしていましたが、特需が発生する場合もあります。ヨーグルトメーカーなど

代替生産で特需が発生した場合もあります。

第 4 章 震災対応のための BCP 作成について

次に、「作成済みまたは検討中の BCP の内容はどのようなものですか」と聞きました。「社員の

安否確認システムの導入」が一番多くなっています。

次に、BCP 作成を分ける要因を分析するために、「はい」と答えるか「いいえ」と答えるかを分

類するディシジョンツリー(決定木)分析を行いました。これは消費者金融などでは貸していい

かどうかと、お客さんを分類するときによく使われる方法です。ディシジョンツリーを行うと、

「震災対応のために BCP を策定した」と答えた人は、「社員の安否確認システムの導入」「リスク

マネジメントの主要テーマ」「従業員やオフィス等の安全の確保」、に同時に○を付ける傾向があ

ることが分かりました。つまり、アンケートに回答していただいた経営者の方々は、企業におけ

る BCP 対応とは安否確認システムの導入と同義だと考えているふしがあります。こちらが決定木

分析です。

また、単純集計でも、BCP の策定が必要であると考えた理由は、「リスクマネジメントの主要テ

ーマ」「従業員やオフィスの安全の確保」と決定木分析で概観したような結果が出ています。

また、「BCP の策定の仕方について回答してください」と言うと、「策定した」と回答した会社

は、結構自分の会社が独力で作ったというところが多くなっています。

BCP を策定しない、うちは必要ない、作成しないと答えた会社の理由は、「作成に必要なノウハ

ウ・スキルがない」「人手と資金がない」が 20%くらいいらっしゃいました。その辺はコンサル

会社と一緒に作っていけばいいのかなと思います。

第 5 章 コレスポンデンス分析

図 5 はコレスポンデンス分析と言って、目的変数がないタイプの多変量解析です。これを実施

しますと、例えば 2 の製造業は、3 番の社員の安否確認システムの導入を必要だと考えていると

ころが多いことが分かります。また、1番は BCP 運用、浸透への訓練ですから、5の金融・保険業

ではまずそもそも BCP という考え方を浸透させることが重要だと考える傾向があります。3 の電

気・ガス・水道では 5番の代替電源の確保およびバックアップ期間の長時間化に関心があります。

すなわち、業種ごとに一概に BCP と言っても、何を優先的にやるかということがきれいに分かれ

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特別研究レポート

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るという結果が出ました。

もう一つ、コレスポンデンス分析を従業員の

数別、会社規模別に行ったところ、やはり図 6

のような結果が出ました。5 番の代替電源の確

保およびバックアップ時間の長時間化を考えて

いる会社は、従業員規模で言うと 6の 3000 人以

上の会社です。会社規模が小さい 2 の 50~99

人の会社は 2番の BCP 発動体制の整備に関心が

あるという、似たような傾向があることになり

ました。

図 7 は、経営者・有識者間の比較です。こち

らはカイ 2乗検定を行うと有意差なしです。つ

まり、統計的に言うと同じ傾向ということです

が、無理やり意味を読み取りますと、有識者の

方がサプライチェーン・マネジメントの破たん

を懸念しています。経営者の方がより従業員の

安全の確保に心を配っています。ただ、全体の

傾向は同じです。統計的には有意差がないとい

う結果になりました。

図 8 は、もう一つの経営者・有識者間の比較

です。有識者の方が技術開発により関心があり

ます。有識者は総務・人事・労働業務には興味

がありませんが、経営者はそういうことに非常

に関心があります。また、経営者の方は社会貢

献に対して関心が薄いということが出ておりま

す。

図 5

図 6

図 7

分析その3 「業種」と「Q2-4 作成済み、または検討中のBCPの内容」についてコレスポンデンス分析を実施→似通った反応を示すものを探す

□:業種1□建設業2□製造業3□電気・ガス・水道4□情報通信5□金融・保険6□流通業7□その他機械設計・広告

□:項目

0□重要業務の選定と復旧目標時間の設定1□BCP運用、浸透への訓練2□BCP発動体制の整備(指揮命令系統の

明確化、権限委譲範囲の決定等)3□社員の安否確認システムの導入4□本社や重要拠点の耐震化・免震化および

代替オフィスの確保5□代替電源の確保およびバックアップ時間

の長時間化6□情報資産を社外でバックアップ

□:会社規模1□10~49人2□50~99人3□100~499人4□500~999人5□1000~2999人6□3000人以上

□:項目

分析その4 「会社規模(人数)」と「Q2-4 作成済み、または検討中のBCPの内容」についてコレスポンデンス分析を実施→似通った反応はどれとどれ?

0□重要業務の選定と復旧目標時間の設定1□BCP運用、浸透への訓練2□BCP発動体制の整備(指揮命令系統の明確化、

権限委譲範囲の決定等)3□社員の安否確認システムの導入4□本社や重要拠点の耐震化・免震化および代替

オフィスの確保5□代替電源の確保およびバックアップ時間の長時間化6□情報資産(データ・ソフト)を社外でバックアップ7□情報システムの共同利用などITシステムの見直し

会社規模が小さいと、そもそもBCPの

考え方の浸透が課題

大会社は電源の長時間化

経営者・有識者間の比較(1)

0

5

10

15

20

25

経営

戦略

上の

重要

課題

にな

った

SCMを

考え

る上

で不

可欠

リス

クマ

メジ

メン

トの

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社/取

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法令

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/地方

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準じて

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ィス等

の安

全の

確保

地震

や断

層の

知識

を身

につ

けた

から

有識者

経営者

Q.BCPを企業が策定することが重要だと考える理由(有意差なし[α=0.05])

*有識者の方がよりSCMの破綻を懸念している。

*経営者の方がより従業員の安全の確保に気を配っている。

図 8

0

5

10

15

20

25

経営

全般

の統

経営

企画

、全般

戦略

立案

技術

関連

の研

究、開

発、製

造、生

産管

新規

事業

の企

画開

発、事

業の

業容

拡大

、多角

営業

・マー

ケテ

ィング

・情報

シス

テム

分野

総務

・人事

・財務

・厚生

など

の社

内管

理、部

門間

調整

社会

貢献

分野

ビジ

ネス

以外

への

関心

有識者

経営者

経営者・有識者間の比較(2) 関心分野の比較(有意差あり)

Q.貴方は、主にどのようなビジネス分野にご関心をお持ちですか?(単一回答)

*有識者の方が技術開発により関心がある。

*有識者は、総人労業務には興味がない。

*経営者は、社会貢献への関心は薄い。

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第 6 章 今後の方向性

今後は、地震専用のリスク測定尺度というリスク認知の尺度がありますので、その測定尺度を

使ってアンケート調査をするつもりです。そうしますとアンケート調査を 1回ぽっきり行っただ

けではなく、調査結果が普遍性を持つようになります。例えばこちらでしたら従業員にどれくら

い被害が及びますかということを、Likert scale で聞いていくということもやってみたいと思い

ます。

リスク知覚、リスク認知とリスク評価は全く別のことなので、これはリスク認知パーセプショ

ンの方の話です。リスクを認知する、知覚する、測定尺度はいろいろな人が開発しているので、

そういうものを使うと市場調査に使えることが分かっています。

あとは先ほど GIS(地理情報システム)の話が出てきましたが、例えば 近では Classquake、

Class(階級)と Earthquake(地震)を一緒にしたような造語で階級震災という考え方がありま

すので、過去の大災害のときにどこに立地していた企業がどれくらいやられたかということを、

電子地図上にプロットするようなことも、リスクを避けるという意味でやってみるといいかもし

れません。そこにいたら危ないということが過去の傾向から分かるということです。

どうもご清聴ありがとうございました。

(司会) どうもありがとうございました。

申し遅れましたが、このアンケートは野村證券さんとアタックスさんのご協力を得て回収率も

上がりましたし、サンプル数も 300 を超えて、多面的な分析ができるということで、非常に貴重

なデータだと考えています。

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特別研究レポート

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パネリスト:浅野 憲周(野村総合研究所 上級コンサルタント)

小川 裕克(中部大学 教授)

荒川 健一(株式会社グローバルエンジニアリング 代表取締役社長)

堀内 篤志(愛知金属工業株式会社 生産統括グループマネージャー)

コーディネーター:奥田 誠(野村総合研究所 名古屋オフィス代表)

(司会) それでは後半のセッションであるパネルディスカッションを始めさせていただきます。

パネルのコーディネーターは野村総合研究所の名古屋オフィス代表の奥田さんです。パネラーは

先ほどの基調講演をいただいた野村総合研究所の浅野さん。それから中部大学の経営情報学部の

教授である小川先生。それから実際に企業で BCP 対応、災害対応等を考えられている愛知金属グ

ループマネージャーの堀内さん、それから、グローバルエンジニアリングの社長で、まさに若手

の起業家の荒川社長。この 5人でパネルを進めていただきたいと思います。奥田さんよろしくお

願いします。

(奥田) ただ今ご紹介いただきました野村総合研究所の名古屋オフィスにおります奥田です。

第 2部はこの戦略的 BCP と変革期を迎えた企業経営ということにつきまして、いろいろなお立場

の皆さまをお迎えして、本音の議論を進めていきたいと思っております。先ほど 1部の方で講演

とアンケート調査の結果などもありましたが、多分皆さんは愛知県、この東海地域が 初ではな

くてよかったとお感じになっておられますよね。今回、東日本大震災の状況を受けて、何らかの

備えをして、どう対処していったらいいのかを考える時間を与えてもらったのではないかなと、

多分皆さんお感じなのではないかと思います。特に東日本大震災以降、東北頑張れ、日本頑張れ

と、行政も民間企業もそこに住まわれていらっしゃる方々もみんな一生懸命頑張ってこられたと

思うのですが、何ができて何ができなかったのか。そういったことが今ひとつよく分からないの

ではないかとも思います。

また 近、東大の地震研究所が 4年以内に 70%の確率で震度 7の首都直下型の巨大地震が起こ

るという記事が出ておりました。4年というと大変だ、もうすぐではないかと思ってしまいます。

また、先ほど浅野の資料にもありましたように、中央防災会議のいろいろな予測の資料があった

り、文部科学省の資料があったりします。ほかにも、愛知県や各自治体がいろいろとやっていら

パネルディスカッション

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っしゃったりするので、その基準がわれわれからすると非常に分かりにくいとお感じになると思

います。そのような中、それに対してどう対処していったらいいのかについて、今日はこの舞台

にいらっしゃいます皆さまから活発な議論をしていただければと思います。

それでは初めに、荒川さんから、自己紹介を兼ねて 3月 11 日にどんなことが起こったのか、実

際どんな経験をされて、お取引先などはどうだったのか、5 分ぐらいで簡単にご説明いただけた

らと思います。

2011 年 3 月 11 日に経験したこと

(荒川) 皆さんこんにちは。グローバルエンジニアリングの荒川と申します。よろしくお願い

します。愛知県の名古屋市に本社がありまして、創業が平成 5年になります。私が 20 歳の時に創

業をしております。主な事業が IT(情報技術)、ロボット事業、バイオ事業とありまして、名古

屋、東京、神戸、神戸の研究所といった 4拠点でやらせていただいています。主な特徴としては、

バイオテクノロジーと IT 技術のコラボレーションを目標としており、今まで蓄積した IT をバイ

オ事業に活用した新しい仕組み作りを行っております。

やっている事業としては、システム開発事業、ロボット事業で、セグウェイジャパンさん等と

の業務提携をさせていただいております。またパッケージソフトの開発、およびバイオ事業の中

には「土壌由来混合培養菌」といった、少しと変わったものの研究開発をさせていただいており

ます。

次に3月11日に実際に起こった状況につい

てお話しさせていただければと思います。当

社の東京事務所が東京都中央区に設置してあ

ります。ちょうど日銀の裏側にある非常に小

さな、ワンフロア 60 坪ぐらいしかないペンシ

ルビルだったという点が大きく寄与したのか

もしれませんが、事務所が 10 階にあるという

のもあり、中は本当にぐちゃぐちゃになって

しまったのです。図 1の左の上の写真が実際

の実務のスペースです。この下の方にある写

真で、ひっくり返っているのがウォーターサーバーのタンクになると思うのですが、こういった

非常に重たいものまでひっくり返ってしまいました。壁に設置してあった金庫などは壁の中にめ

り込んでしまったという状況がありまして、社内に置いてあったパソコンおよび有線の LAN など

はすべて破断をして、非常に大きな損害を受けました。

ただ、当社は名古屋と東京と神戸の 3拠点で分散バックアップを取っていて、震災が起こった

1 分前のバックアップデータが実は名古屋に残っていました。データの損失は全くゼロという非

図 1

4

震災直後の東京事業所 LANケーブルの切断、書箱の転倒

事務所の壁にヒビが入り水漏れ 外壁の崩壊

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特別研究レポート

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常に幸いな状況にありました。よって、事業活動に関する直接的な影響としては、東京方面のお

客さんに関して一時当社の製造を行っていたシステムなど、納品受け入れの検収が大きく遅延を

して、単月の売り上げが大幅に減少したことがあります。ただし、人的な納品遅延、検収遅延が

あっただけで、発注自体に取り消しがあったわけではなかったものですから、ワンクウォーター

(3カ月)後の売り上げは完全に復帰したという状況です。

また、バックアップのデータが残っていたことが非常に幸いして、納品の遅延は全くなく、東

京事業所の物理的な復旧を行う間は、名古屋、東京への短期の従業員の異動によって何とか対応

したという状況でした。

(奥田) 今、写真がありましたが、これは震災直後に写真を撮られたのですね。

(荒川) まさに起こったその直後です。

(奥田) 大変冷静だったと思うのですが、どうでしょうか。

(荒川) 災害が発生した時点で、これはきっと災害損失を計上しなければいけないと思った経

緯がありまして、従業員に命じて、まだ揺れて間もないビルの中に行って写真を撮ってこいと依

頼して、何とかやらせたという経緯です。

(奥田) 社長業として、災害が起こったらすぐに写真を撮ると社員に指示を出されたという方

でいらっしゃいます。

それでは現場を預かるマネージャーとして、堀内さん、よろしくお願いします。

(堀内) 愛知金属工業から参りました堀内です。愛知金属工業はあまり馴染みのない会社でし

ょうが、中部電力のグループ会社で、いわゆる鉄骨屋です。送電鉄塔や電気温水器など、送電に

関する設備の金属製品を作っている会社です。私は元は企画屋でして、経営企画室などにいたの

ですが、3 年ほど前から生産統括グループのグループマネージャーということで、いわゆる生産

管理、原価管理、資材調達を統括管理する立場に立っております。今回、BCP ということで、現

場を預かる身として、いろいろとお話ができればと思います。

3 月 11 日の当日、当社は春日井市にあって、ちょうど朝宮公園の近くなのですが、そこに本社、

工場があるということで、拠点は 1カ所しかありません。ですから、ちょうど 2時 46 分に私は 1

階の事務所に居たのですが、皆さんもお感じになったような揺れを感じて、その後にいろいろな

情報が入ってきて、「これは東北すごいな」ということで、テレビで情報収集をしておりました。

事業活動としては特に大きな影響はなかったわけなのですが、皆さん方も多分同じだと思いま

すが、材料の関係、調達関係の方が非常に滞った部分があります。われわれは鉄骨屋なので鉄を

購入しているのですが、マスコミなどでもありましたが、仙台に工場がある JFE スチールの関係

会社の JFE 条鋼さんからアングル材という鋼材を買っております。テレビを見たら、もう水浸し。

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これはいかん、もう数カ月材料が入らないのではないかと危惧しておりましたら、JFE の方で対

応していただいたのは、仙台の工場から兵庫県姫路の方にある工場へシフトをしていただいて、

何とか納入停止は 1週間くらいで治まったという形です。

後日、仙台工場の方にお話を聞く機会があって、いろいろとお話を伺ったのですが、仙台工場

そのものは相当な被害で、復旧までに約 5カ月かかったということです。そのときに仙台工場の

方から事前に準備して良かったこと、当日困ったことをいろいろとお話を伺ったのですが、まず

1点は、工場の耐震補強を 2~3年前に行ったと言っておりました。今回の震災でどれくらいその

効果があったのかは分かりませんが、まずそれはやっておいて良かった。建物の倒壊そのものが

一切なかったということです。

それから、今回通信手段がかなり壊滅的となり、固定電話、携帯電話がすべて使えなかったの

ですが、JFE さんは衛星電話を各拠点の方に備え付けられていて、一般電話がつながらなくても

衛星回線で電話が通じますので、そちらの方でやり取りができたということでした。こういった

大規模な広域な災害に関しては衛星電話が結構役に立ったということですが、1台 30 万円ぐらい

するらしいです。また、仙台にあった衛星電話が事務所の 1階に置いてあったものですから、津

波が来たときに流されてしまったということを言っておりました。

それから安否情報確認システムです。先ほどもありましたが、地震が 2時 46 分に起きて、その

10 分後に従業員に対して安全の確認のメールが一斉発信されました。その段階で各従業員から、

まだ津波は来ていませんから「私は安全だ」ということで返信があったのですが、15 時 30 分以

降津波が来た後、安否確認システムでは何も状況が確認できなかった、その後の安否確認はすべ

て人間系でしか行えなかったということで、安否確認システムに頼るのも非常にリスクが高いと

もおっしゃっていました。

かなりの苦労をされて、実質復旧まで 4カ月かかっております。この会社は BCP は作成してお

りませんでした。ですから、これが早かったのか遅かったのかという評価は非常に難しいのです

が、少なくともわれわれの感覚、私が実際に工場を見ている感覚からすると、非常に早い復旧が

できたのではないかと思っております。

(奥田) ありがとうございます。また後ほど現場の生々しいお話もお聞かせいただければと思

っております。それでは中部大学の小川先生、よろしくお願いします。

(小川) 中部大学の小川です。私は去年の 4月 1日から中部大学に赴任してお世話になってい

るので、3月末でちょうど 1年ということになります。それまでは東京の企業に勤めていました。

大学を出てから三十数年たつのですが、そのうちの 3分の 2はほとんど金融系の会社で情報シス

テムの設計開発、プロジェクトマネジメントを中心にやっていました。その後、今度は逆にユー

ザー企業、つまり情報システムを使う側の方に移りまして、ユーザー企業としての IT 戦略なりシ

ステム化課題、もしくは経営から見た IT の課題の解決と SOX 法の対応などを実際にやったりして

いました。

3 月 11 日については個人的な体験になってしまうのですが、ちょうど私は 4月 1日からこちら

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特別研究レポート

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に赴任するということで、毎日のように送別会の日程が組まれていたのです。それがほとんどキ

ャンセルになってしまったというのが、一番残念だったことです。その当日も組まれていて、結

局やめるかやめないか、延期するかどうかを関係者と連絡を取り合おうとしても、電話がつなが

らない。メールの方がまだいいという状況になってしまいました。結局連絡がつかないまま、キ

ャンセルに違いないということでやめてしまったのですが、後でやはりキャンセルになっていま

した。

私の居たのは日本橋のオフィスなのですが、4 階で低い方に居たのです。やはり震度 5 弱で、

東北などと比べるとずっと小さいと思うのですが、下から突き上げるような、ドドドッという恐

ろしい感じが何回もしたのです。一応、企業の中に危機管理委員会というのがありまして、そこ

でどう対応するかというのをやっていましたが、結局(災害の)状況が分からず、ずっと無しの

礫だったのです。当然、情報システムは動いている、その時点では実態としては被害もない、ど

うしていいか分からないというのが多分あったのではないかと思います。

そのとき思ったことと似たような印象を前に受けていました。このオフィスに来る前に日銀の

隣のビルに居たことがあるのですが、2006 年 8 月に旧江戸川でクレーン船か何かが東京電力の送

電線に引っ掛けて、停電になってしまったことがありました。あのとき日本橋は交通信号も全部、

朝方消えてしまったのです。電話も使えなくなってしまいました。結局どうしていいか分からな

い。何も連絡もないという状態で、BCP も何もあったものではないというか、多分そこの想定を

していなかったと思うのです。要するに、現場がどうしていいか分からない、何も情報が来ない

という状況だったのです。

一方、日銀の本店の方は当然明かりが煌煌とついているのです。何でだと思ったら重油をたく

ようなにおいがプーンとするわけです。あそこはきちんと自家発電の設備を持っているので、す

ぐに切り替えていたのです。そのときうちのビルはそういうものも無かったのです。今は違いま

すが、そういう状況と類似していると少し思った次第であります。

3.11 の時に戻りますと、結局「帰れる人は帰ってください」という中途半端なことになりまし

た。私は日本橋から世田谷まで大体 15km ぐらい歩いて帰りました。15km なら 4 時間かからない

と思ったのです。まず出て、ヘルメットをかぶっている人がいました。「ヘルメットをかぶって帰

りなさい」と言われたのですが、私は意図的に忘れて帰ってそのままだったのです。数分歩くと

三越デパートがありました。途中でお腹がすくだろうから、そこの地下で何か食べるものを買っ

ていこうと寄ったのですが、もう売り切れてしまって、ほとんど何もないのです。自転車も売り

切れていました。皇居の周りをずっと歩いて帰ったのですが、そもそも混んでいて、自由に歩け

ない状態でした。

ようやく四谷を通過し、新宿に着いても同じような状態でした。そのうち疲れたら居酒屋かラ

ーメン屋、もしくはお腹がすいたらコンビニででも何か買おうかと思ったら、全部駄目なのです。

結局コンビニはもう売り切れているし、居酒屋は一杯で入れない状態だったというのがすごく記

憶に残っています。

BCP という観点では後で少し出ると思うのですが、一番感心したのは、デパートなどにその翌

日などに寄ると、外資系のディオールなどありますよね。ああいうところは全部閉まっているの

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です。すぐに BCP が発動されて本国に帰るという形で、全部引き揚げてしまっていました。日本

人は行く所がないから仕方がないかもしれませんが、日系企業のみ営業しているという状態とい

うのが私の印象に強く残りました。

(奥田) ありがとうございました。大変な思いをされたということで、その一端をお話しいた

だきました。それでは 後に浅野さん。先ほど、 後のところはあまり時間がなくてお話ができ

なかったと思いますが、まずは3月11日がどうだったのかというお話をいただけたらと思います。

(浅野) 私個人の話としては、私はちょうど東京駅の前の新丸ビルという、もう 5~6年はたっ

ていますか、その新しいビルの上の方、大体 10 階ぐらいに居りました。長周期の話を先ほどの話

の中でもさせていただきましたが、普通の建物、木造の戸建てなどは固有周期、一番揺れやすい

周期が、1 秒より少し短い揺れに一番反応しやすいのです。それに対し、いわゆる長周期と言っ

ているのはもっと数秒ぐらいでゆっくり揺れるものです。石油タンクなどはもっと長くて 10 秒ぐ

らいで揺れます。

今回の東日本で注目されたのは、東京の都心部でも 400km ぐらい震源からは離れているのです

が、数秒ぐらいでゆっくり揺れるような長周期で超高層ビルなどが結構揺れたことです。私も新

丸ビルで相当な揺れを体験しました。私は揺れたときに自分の癖で、必ず 初にいわゆる初期微

動という、軽くツツンと突っつくような揺れを感じてから、ぱっと時計を見て秒針を見て、本震

が来るまで何秒くらいかかるかなと計るのです。大体近いのかな、遠いのかなというのを職業柄

見てしまうのです。それが、今回は今まで経験していないくらいものすごく長かったということ

と、相当時間がたってからの揺れ方が、これも本当に経験がないくらい、ゆっくりゆっくり揺れ

る。それから、いったん治まったかなと思ってから、また何度か来ていました。それが連動型の

特徴だと思いますが、ある 1カ所でどんと阪神淡路のように揺れるだけではなく、しばらくして

からまた別の所で揺れて、 終的には非常に大きな震源になる。そういうのを体験できたという

のは非常に申し訳ない言い方になると思うのですが、本当に長周期の怖さを自分で体験できまし

た。

ただ、後から地震波などを解析してみて分かったのですが、われわれが長周期地震動というこ

とで恐れているような、本格的な長周期の波は今回出なかったのです。それでも実際、工学院大

学という高層ビルが新宿にあるのですが、壁が壊れたりエレベーターが破損したり。大阪は大阪

府の咲州庁舎という非常に有名な所が相当離れていますが、同じように壁が壊れたり、エレベー

ターが壊れたりという被害が実際に起こっています。それでもまだ、本格的な長周期が出なかっ

たことに、後で非常にびっくりしました。

同時にこの東海・東南海・南海で東京-大阪が本当に大丈夫かと先ほどお話し申し上げたのです

が、震源が相当近いのです。東海地震の一番端は駿河湾の端まで来ています。東京まで 100km な

いくらいです。100km あるかもしれませんが、東北の地震と東京をとっても 400km 以上あるわけ

で、全然近いです。大阪なども実は震源が相当近いのです。地震動の強さは距離の指数関数で表

しますので、距離が 4分の 1というのは相当地震動の強さで言うと変わってきます。今回は本格

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特別研究レポート

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的な長周期の波が出なかったということは、東海・東南海というわれわれが危惧するような地震

動が起こったときに、東京の高層ビルや大阪の超大高層ビルは本当に大変なことになるのではな

いかということを、身をもってある程度体感したというか予感したというか、後から怖い思いを

しました。そういう意味で、そこのところのチェックを本当に真剣にやっていかないと、難しい

いろいろな問題、想定外と言ってはいけない問題がこれからまた出てくるのではないかと実感し

た地震でした。

もう一つ個人的な体験と反省としては、私はその後新丸ビルから自分の会社に戻りました。し

ばらく治まってからオフィスに戻ったのですが、やはり弊社であっても、こういうときにどうい

う行動を取るのか。要は交通が寸断されましたが、徐々に夜中にかけて地下鉄、私鉄中心に鉄道

は回復してきたのです。それから歩いて帰れる人はどんどん帰るようになりました。車もどんど

ん都心から出ていこうとしました。実は大変な混乱になっています。

事後に東京都でいろいろなアンケート調査をさせていただいたのですが、いろいろな混乱が起

こっていたわけです。先ほど小川先生から相当歩行困難というお話が出てきましたが、夕方から

12 時ぐらいにかけて、都心部から外に出ていく車で大渋滞になりました。本当に事故も起こって

います。まず、停電して信号がつかなくなったということで、非常に大変なことになりました。

みんな一斉に帰ろうとしたということで、混乱しました。

それから、夜中前後くらいからどんな現象が起こってきたかというと、都心の外側から中に、

多分都心で帰宅困難になっているお父さん、お母さんや学校に通っている子供さんを迎えにいこ

うとする流れができたのです。ということで、実は 12 時前後ぐらいからは逆方向から入っていこ

うとする車で大変な混乱がありました。この辺りはそんな動きを事後に東京都のアンケート調査

でも把握させていただきました。

あともう一つは、弊社の事業としてタクシーのプローブ情報をリアルタイムで集めて、道路交

通情報を提供しようというサービスを常時、携帯やパソコンでやっているのですが、それが震災

当日の道路交通の動きをリアルタイムでとらえています。そのデータを 15 分間隔で見ると、 初

の数時間はどんどん外に出ていくということで、道路が真っ赤になりました。そして、12 時前後

になると逆側の車線が真っ赤になったということで、大変な混乱が起きました。

何が反省かというと、各企業、これは弊社も含めてなのですが、こんな状況になったときに、

社員は今帰るべきなのかどうなのか。あるいは、周辺に困っている社員以外のお客さまを中に入

れるべきなのかどうなのか。そうした方針をきちんと決断して、しっかり統一的な指示ができて

いなかったのではないか。

今回は東京は直接的な被害がありませんでした。電車もそれほど大きな被害を受けていなかっ

たということで、動き始めて皆さん一生懸命帰ろうとされて大混乱になったわけですが、幸いそ

れによって大きな直接的な被害は起きなかった。ただ、それは結果論で、今懸念している首都直

下型地震が起こったときに、本当にそんな行動を社会のみんなが取ってしまうと、まずは応急救

助活動に大変な妨げになります。それから、行動しようとしている本人も、たまに地下鉄が動き

始めたとか、車があるということで帰れるということになると、二次災害の可能性もあります。

ですから、そういう方針そのもの、いろいろな生じ得る事態に対してどう判断するべきなのか、

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そんなところが何もトレーニングされていなかったのだろうと思います。

今日の話題は BCP ですが、これは BCP も同じで、私自身は BCP の一番大事な部分は、BCP で作

った P、プラン、計画書が大事なのではないと。それは結果ですよね。結果として物が残ったと

いうことなのですが、BCP で一番大事なのは、プロセス価値なのだろうなと思っています。要す

るに、それを作るためにどんなことを議論して、それを従業員の中でどう共有化して合意して決

めていったのか。不測の事態を想定しながら、いろいろなトレードオフになるような場面が出て

くるわけです。そのときに的確に判断できるかどうかは、どれだけそれまでに考えて BCP を作り

上げてきたかというプロセスに価値があると考えています。

私もコンサルティングで BCP に関してお客さまのお手伝いをさせていただく機会がありますが、

よく言われるのは「BCP を作りたいのです。何か分かりやすいテンプレートのようなものはあり

ませんか」「BCP の計画書で白紙のテンプレートがあって、その中に何か文字を埋め込むと 1冊で

きましたという、そういう便利なものはないでしょうか」と本当によく言われるのです。これは

全く意味がありません。BCP とは、いかにそれを作るときにしっかり考えたのか。しかも、経営

者がいろいろ想定されるトレードオフの状況の中で、的確に判断して決断できるのか。「そういう

考える力を養うためのプロセスを大事にしてください」という話を普段させていただいています。

そういう意味で今回の反省点としては、われわれ自身も含めて、そういったトレーニングができ

ていなかったのだろうな、それが一番大きく感じたところです。

(奥田) ありがとうございました。今、プロセスが大事なのだ、じっくり考えてやることに意

味があるのだと言われていたのですが、荒川さんどうですか。これはお金をかけてきちんとやれ

ということを言われているようにも思うのですが、経営者のお立場から見ると「いや、そんない

つ来るか分からないところに、お金なんかかけられないのではないか」とも思われるかもしれま

せん。どうでしょう。

(荒川) そうですね。正直、そんな余裕はないというのが実情です。私どものように風が吹け

ば飛んでしまうようなベンチャー企業は特にそんな余力はないというのが本音です。

(奥田) 何らかの形でそういったことにぜひトライしてほしいということかと思います。実は

私も 3月 11 日はちょうど人事異動の発表の日で、名古屋から東京に戻っていたのです。大きく揺

れて、ちょうど 13 階に居りましたら、隣のビルがぐるぐると回って、隣のビルとぶつかりそうな

感じでした。非常に気持ちが悪い感じで揺れていました。浅野に言わせると長周期地震動ではな

いと言うのですが、本当にぐるぐると揺れていました。

面白かったのは 9時半ぐらいに新幹線が復旧しました。山手線や私鉄は全部止まりましたので、

新幹線で東京駅から品川に行かれる方が多かったのです。品川まで新幹線に乗るというのも初め

て経験しましたし、その後新横浜に着いたら、私の実家が横浜の港北ニュータウンにありました

ので、そこに帰ろうとしたのですが、新横浜の駅からちょうど 1.5km ぐらい、奥さまがお車で迎

えに来て、ずらっと並んでいました。皆さん電池がなくなって携帯も止まっていましたので、コ

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特別研究レポート

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ンビニに行っても売っていませんし、公衆電話の前に 20m ぐらい並んでいるのです。自分の車が

どこにあるかも多分分からないと思います。携帯なら通話できるのですが、せっかく奥さまがお

迎えに来ていらっしゃるのですが、ご主人さまが 1.5km を探すというのはなかなか・・・しかも

夜中ですよね、大変だったのだろうなと。そんな経験をしました。

ちょうどその当日、仙台で講演をするある部長がいまして、彼はちょうど那須塩原を越えた辺

りで東北新幹線がトップスピードで走っていたときに寝ていたのです。そうしたら急に電気がば

んと止まって、キューッとスピードが落ちて、時速 30km ぐらいに落ちたかなというころに、ガタ

ガタと新幹線が横揺れになって、その後どーんと突き上げるような縦揺れを経験したそうです。

ちょうど鉄橋に差し掛かっていたので、生きた心地がしなかったと言っていました。

その後、数時間缶詰になって、鉄橋だったのですが降ろされて、2~3km 歩いた所の小学校で乾

パンと水をもらったそうです。翌朝 5時に観光バスが迎えにきて、それで宇都宮まで戻ったとい

うことです。JR 東日本さんはすごい、あの BCP はしっかりできているということで、彼は感動し

ていました。

ただ、網棚にあった荷物は全部落ちました。ですので、これから皆さんが新幹線に乗られたと

きは、ぜひ皆さん網棚に気を付けていただきたいと思います。

BCP への取り組みのポイントと課題

(奥田) 次に BCP とはということで今日の本題に入りたいと思います。実際に皆さまが考えて

いらっしゃる BCP、その取り組みやポイント、お悩みやお感じになっていらっしゃることなど、

ぜひお話しいただきたいと思います。

(堀内) 震災が起こった後、当然インパクトがわれわれの業界にも走りまして、これは何とか

せねばいかんという議論にはなりました。ただ、その段階で、BCP という枠にはまったようなも

のを作ろうという議論は全くなかったのです。それでも何とかしなければということで、今、当

社の方で取り組んでいることがあります。

工場は春日井にあるのですが、もしうちの工場が被災したときに、物づくりが滞ってしまって

はお客さまに迷惑が掛かる。そこで、北陸の富山の方に同業のメーカーがあります。元は競合、

競争相手だったのですが、そちらの方のメーカーと話をしました。こういった事態になったとき

にお互い物づくりとして補完できるならということで、今までそれぞれが別々の CAD システムを

使って物づくりをしていたのですが、その CAD システムはそのままにおきながら、その CAD のデ

ータを互換するプログラムを新たに開発して、もしこちらに震災が起きた場合、すぐにデータを

その富山の工場に送れば、富山の工場でうちの物づくりをしてくれる。逆にもし向こうに何らか

の被災があったときに、向こうのデータをこちらがもらえれば、こちら側が専門でできる分野を

生産するというような相互補完的なことを始めました。

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これは、よくよく考えてみると、災害があったときだけではないわけです。今回たまたま富山

の工場を選んだのも一つの理由がありました。富山の方の仕事のトレンドが、どうしても冬場は

寒くて雪が多いので、仕事があまりないのです。逆に春先から夏場に仕事が多い。われわれの会

社はどうしても年度末の関係で冬場に仕事が集中するということで、仕事のピークのトレンドが

ちょうど真逆なのです。つまり、年間通じてお互いオーバーフローする時期にお互いにデータの

やり取りをしながら、生産調整ができるということです。つまり、災害時における対応もそうで

すし、平時における負荷調整のメリットがあるということで、今うまくパートナー企業として活

動ができているということです。ですから、今は富山だけですが、それをもう少し他の地域にも

発展させていければと考えております。

(奥田) 富山というのはやはり地域を考えて。例えば中部電力管内ではない地域であるなどを

考えたということですか。

(堀内) おっしゃるとおりです。富山の方は北陸電力の管内ですので、仕事柄バッティングす

ることが基本的にあまりないものですから、パートナーを結ぶにはちょうどいい距離感と地域性

ということです。

(奥田) ありがとうございます。荒川さんも同じように、データに関しては非常にナーバスに

管理されているのだと思うのですが。実際にこの BCP に関してどうお考えですか。

(荒川) 当社の場合も東京の事務所が全く機能しなくなってしまったものですから、名古屋本

社と神戸の社員を異動させて、「マンスリーレオパレスを 1 カ月借ります。10 戸お願い」という

話をして、従業員の異動で対応しました。それでもニーズ的に足りない部分も当然ありますので、

その分、当社から言うとライバル会社になるような会社にお願いをして、業務の方を進めたので

す。

そのときに非常に印象に残ったのは、比べてはいけないのかもしれませんが、名古屋の協力会

社と神戸の協力会社を比べると、何となく神戸の協力会社の方が親切に対応してくれたような気

がしました。それはひょっとすると震災の経験があるからなのかなと思ったりもしたのですが。

逆の立場に立てば、うちもぜひ協力したいと考えております。

(奥田) ライバル会社は遠い方がいいのですね。実際に今回の東日本大震災であったのです。

素材系の会社なのですが、大変な被害が起こったのです。別の東京本社の会社から「あの工場は

もう立ち上がってほしくないんだよね」というご発言のあった会社もありました。国内で血の出

るようなコスト削減競争をやっていて、供給がかなりオーバーしていますので、「もう工場が復旧

してほしくない」と。あまり本音では言えないのかもしれませんが、そんなようなご発言された

会社もありました。本当に起こったときにどう対応するかは非常に重要かと思います。今、ずっ

と BCP でお感じになられたことでお話しいただきました。お悩み事はないでしょうか。どこまで

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特別研究レポート

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やればいいのだろうかということはないですか。堀内さんから、富山の方でやっていらっしゃい

ますよということで、非常にいいお話をお聞かせいただいてはいるのですが。

(堀内) 当社ではちょうど中期経営計画を立てていて、ロードマップを今作っている中で、私

もやっているのですが、その中で BCP を作ろうという話にはなりました。一応、計画的にはそう

なったのですが、作ることに対して、なかなか社内が盛り上がってこないのです。やはり、日ご

ろ忙しいではないですか。短納期もあれば納期調整がいろいろある中で、どうしても BCP を作る

ことに対してのプライオリティーが低くなってしまう感じがします。

これは実際に被災経験をしたのかしていないのかという意識の違いは、大きなポイントだと思

うのです。これから進めるためには、経営者批判をするわけではないのですが、やはりトップの

人が本気にならないと。どこまで自分の守りたいものをしっかりと腹を据えて皆に発信できるか。

そういったところでこれからトップを突きながら、社内では動いていこうかと思っています。

(奥田) やはりトップの意識改革というか、意識していただかないと難しいということですね。

(堀内) そう思いますね。先ほど JFE 条鋼さんの話もありましたが、話を聞くと復旧作業のと

きに出てくる従業員の方々のモチベーションがめちゃくちゃ高かったそうです。徹夜でも厭わず

に復旧作業をやっていて、本社は東京にあるのですが、そこから仙台に行くと逆にねぎらわれて

しまう。「何でそんなにモチベーションが高いのですか」と言うと、「工場長が自ら率先してやっ

ている。私らも一緒にやるのが精神的にも支えになる。周りは被災している状況ですから」とい

うことで、やはり求心力のある方、組織の一番トップの方がやはり陣頭指揮を執る。実際に作業

をする、しないは別にして、現場をしっかりと把握しながら行動できる、判断するということが、

一番必要なのかなという気はしました。

(奥田) ありがとうございます。トップの意識だということで、これは多分荒川さんに突き付

けられているのかもしれませんが、せっかくなので後にしたいと思います。浅野さんどうですか。

トップの意識がないと BCP はうまくいかないという問題提起をいただいたのですが。

(浅野) 私自身は BCP のコンサルティングをさせていただいている立場で、すごく感じるとこ

ろです。先ほど小山先生の方からアンケートのご発表があった中で、私が注目したのは、BCP=初

動ととらえられているという傾向があると実感するところで、それが印象的です。傾向として、

この BCP をどちらかというと初動人命確保のところで、総務部門中心で、その中で閉じてご検討

されている企業は結構多いのです。そこからいただくお話は割とすごく視野が限られて小さい。

例えばそれこそ「何かテンプレートはないですか」という、それで終わってしまうことが結構多

いのです。社内全体で議論が活性化するというところまで、うまく巻き込んでいけなかったとい

うことが結構多い。

逆にむしろ経営者の方の問題意識が強くて、何とか実践的な BCP を作れないかということでお

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話が来る場合は、かなり社内でもいい議論をさせていただきました。議論が出来上がったときに

は、もういろいろなものができているというイメージです。テンプレートを先に作ってそれを覚

えるというのでは全然意味がなくて、もう十分に侃々諤々議論をしたときには、同時にその下に

ぶら下がってくる計画書やマニュアルなど、いろいろなものが書いていないけれども出来上がっ

ている。それが理想なのだろう。それは経営者の意識が非常に大きいというのは実感しておりま

す。

東日本大震災の前後で何が一番変わったのかというお話をお伺いしていくと、その辺の経営者

の方の意識が変わっていることが非常に大きいだろうと。具体的に、私は 20 年来ぐらい防災の仕

事をさせていただく中で、実感、あるいは悩みといいますか、問題意識としてありますのは、経

営者は今も四半期決算の中で平時の問題に取り組んでおられるということで、国が今後 30 年以内

に何パーセントと言っても 30 年というスパンではなかなか経営など考えられない。本当にこの先、

経営存続できるかどうかということなので、なかなか BCP や防災対策への投資に本気になれない。

そういうことを東日本大震災以前には随分お伺いしてきたのです。

東日本大震災が起こって大きく変わったのは、地震の被害想定なり発生確率が当たるのかどう

なのか、本当かどうかというよりは、まず実際にああいった事象が起こったという事実があると

いうことです。それによって一番大きいのは、社会的な関心が非常に高まった。具体的には経営

者の視点からすると、次の株主総会でステークホルダーの方から「おたくの会社の BCP はどうや

っているのだ」ということを具体的に質問されるような状況になってきている。本当に地震が起

こるかどうか以前に、社会的にはそういう状況になってきていて、いわゆる経営責任が問われる

ようになってきている。問題意識の高い経営者は、やはり BCP はきちんとやらなければいけない

という意識で取り組まれています。企業が本気で BCP に取り組む状況になっているのは、普段実

感させていただいています。

(奥田) ありがとうございます。トップの意識が重要だということ、しかも社会的責任という

こともあったと思いますが、小川先生、BCP を学術的に見ると、どう考えればよろしいのでしょ

うか。

学術的に見た BCP

(小川) 学術的にと言われると少し言葉が詰まってしまうのですが、スライドを作ってみまし

たので、お願いします。

まず、BCP、BCM についてです。BCP(Business Continuity Plan)はマネジメントです。皆さ

んご存じだと思います。BCP を作っただけなら実際には機能できないというか、うまくいかない。

ブラッシュアップしていく。環境変化に応じて変えていく。改善していくサイクルをやっていく

のが BCM です。そういう意味では BCP よりも BCM の方が大事です。

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特別研究レポート

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まず、BCP についてサーベイしているのですが、二つ考える必要があるかなというのが私の印

象です。まず一つは、危機事象発生時、要するに災害やテロが発生したときにどうするかという

行動計画を作る、もしくはそのための体制整備というのが一つです。これは狭義の BCP と呼んで

もいいと思うのですが、もちろんこれも、どの重要事業を残すかとか、復旧をいつまでにやるか

というものは経営戦略の一環でもありますので、そういう面ではこの一部は戦略的 BCP の一つと

言えるのです。

もう一つはそれよりももっと大きなくくりです。企業改革やビジネス戦略そのものを見直して、

その一環として BCP を推進していくということです。昔に BPR(Business Process Reengineering)

がはやりましたがほとんど失敗しているのです。結局、現場がなぜ改革しなければいけないのか

を理解できない。コストもかかる。もう一つはアグレッシブな改革をトップダウンでやってしま

ったから、かえって現場は混乱してしまったということが報告されています。やはり、場合によ

ってはそういうものを含めて、BCP などと一緒にやれば、相当効果が出る可能性があると言える

のではないかと思います。

BCP が言われ出したのはいつごろかというと、前からもちろん言われているのですが、特に注

目を集めたのが 2001 年 9 月 11 日、アメリカで起こった同時多発テロ以降です。ワールドトレー

ドセンターに飛行機が突っ込んだ。皆さんも衝撃を受けたと思うのですが、ウォール街の周りに

は金融機関が相当集中していたものですから、やはり BCP を作っていた会社も相当あったのです。

そのところは大体うまく BCP を発動して、業務を継続、もしくは短期で立ち上げることができた

ということが報告されています。

この同時多発テロでワールドトレードセンターが崩壊してしまいましたが、このとき野村総研

の社員が 2人亡くなった。男子社員と女子社員が出張で行っていて、男性の方は DNA 検査で一応

分かったのですが、女性の方は確か発見できていないと思うのです。そういう忌まわしい思い出

があります。

このとき、実際に詳細に BCP を作っていたところもあるのです。そういうところは BCP のマニ

ュアル自体は全然役に立たなかった。いろいろなことが複合的に起こるし、どこを見ていいか分

からないしということで、マニュアル自身は全然駄目だった。ところが、金融機関は日本と違っ

て、相当 BCP をきちんとやったという面で、役立ったところも多かったのです。ただ、日本の場

合は分かりませんが、中にはディザスターリカバリー(災害復旧)の絡みでセンターやオフィス

やサーバーなどを共有で借りているケースがあった。要するにコストが高いので、何社かで同じ

場所を借りている。そういうところは先もの勝ちで取るので、うまくいかなかったところも多い

のです。ロンドンなども調査したことがあるのですが、そういうところが多かった。やはり、コ

ストの関係で仕方がないといえば仕方がないのですが、何かがあれば確実にそこを使えるような

環境にないと厳しいという印象を持っています。同じ会社の中でも隣のビルなど幾つかのビルを

使っている場合は、そこは全滅してしまったということで、オフィスは少しずつ離しておかない

とまずいというのは一つ言えることです。

もう一つ、代替オフィスを確保していたケースも多いのですが、従業員がそこに行けなければ

全然意味がないということを、ここで初めて認識されたケースがあります。これは今でもこうい

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うことは言えていると思うのです。

もう一つ複数の通信キャリアを使っていないと、一つの通信キャリアがやられてしまったらも

うお手上げです。実際にこれはバンク・オブ・ニューヨークだと思うのですが、同じ目に遭った

のです。他の同業他社は業務を復活させている、もしくは続けているのに、その銀行だけは駄目

だったというケースです。

また、業務の STP(Straight Through Processing)化も必要です。これは特に証券会社などに

言えるのですが、株式や債券のトレーディングが業務の中心なのですが、発注から決済まで相当

人間の手作業が入っていたのです。そうすると、何かあった場合に途中で止まってしまって、動

かなくなってしまう。これはやはり電子化して STP 化しないとまずいということで、STP 化の流

れが急に広がったというのがあります。

それから先ほどの簡潔な BCP マニュアルの策定という形です。例えば野村證券なども、あの当

時ワールドトレードセンターの隣のワールドファイナンスセンターに入っていたのです。そこは

メリルリンチやリーマンブラザーズなども入っていたと思います。例えば野村證券などではニュ

ージャージーのピスカタウェイだったか、40 マイルかそれくらいの所にデータセンターがあって、

そこの隣に代替えオフィスを持っていたので、そこにぱっと行って、業務を継続させたのです。

やはりオフィスは狭くて、PC なども全然足りなくて調達したのですが、PC などは 1日か 2日で調

達できてしまったのです。

だから、日本の環境とは違うとは思うのですが、そういうハードウエアなどは簡単に調達でき

たわけですが、やはり人間の調達は大変だったということです。あのころはニューヨーク証券取

引所も 5 日間ぐらい停止してしまったと記憶しています。この同時多発テロによって、BCP とは

テロや停電など局所的なものに対応するという意識がすごく高まってしまったのではないかとい

う記憶があります。

私も企業にいた 2002 年ぐらいに、やはり BCP 対応で情報システムの二重化、代替えオフィスで

はなくて、オフィスが二つに分かれていたので、そのバックアップの環境を作ったのです。やは

りそれも巨大地震は来ないだろうという形で作ってしまったのです。ところが、やはり今回来て

しまったというので、反省しています。

今回の東日本大震災から学ぶべきものという形で、幾つか指摘されています。先ほどからのお

話にも出ていますが、一つはやはり初期対応です。安否確認さえできなかったところが相当あっ

たようです。それと BCP の発動自身、誰が発動するのかなどをあいまいにしていたがために、ず

るずると行ってしまった。もしくは、先ほども出ていたと思うのですが、社員は必ずしもオフィ

スにいるとは限らないし、そこに上司や指揮官がいるとも限らない。そこにいるヘッドがきちん

とジャッジできる環境になっていないと駄目だということです。

それから、先ほど想定外という話になっていました。これもよく指摘されますが、基本的に想

定を作ってしまって BCP を作っているケースがほとんどなのです。私たちもそうだったのですが、

これだとやはり想定以外のことは絶対に考えません。その中に頭が固まってしまう。通常は地震

があったり台風が来たり、もしくは情報システムがどうのという形で、いわゆる原因事象を中心

に BCP を考えてしまうのですが、本来はやはり結果事象という面で考えないと厳しい。例えば原

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特別研究レポート

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発だけではなく道路など皆そうですが、地震があって 2次的に津波が来て、停電も含めて、2次 3

次と災害が来ています。それ自身に対して、細かいレベルでいろいろと切り分けて BCP を作って

も、実はあまり役には立たないのです。やはりオフィスが駄目になったらどうかとか、結果事象

を中心に決めて作っていかないとなかなかうまくいきません。

それから、取引先との BCP の整合性確保やサプライチェーンについてです。これは先ほどから

いろいろ言われていると思うのですが、サプライチェーンの BCP についての重要性を認識したの

が 2007 年 7 月の中越沖地震なのです。このときに自動車の部品メーカー、リケンだったと思うの

ですが、ここがやられて部品供給ができなくなってしまいました。確か 12~13 社影響を受けてし

まったのです。取引先がすごく協力してくれたお陰で、1 カ月半かそこらで復旧したのですが、

これが一つのきっかけでサプライチェーンマネジメントにおける BCP の重要性が認識されました。

取引先との BCP の整合性というのは、例えば自分の会社が重要業務だと思っていても、相手は

そうは思っていないかもしれません。そういう面で整合性を取っておかないと、こちらは重要だ

からといっても、向こうからすると二の次だという形になるとまずいということで、そういう面

でお客さんと整合性を取る。あと、サプライチェーンなどでも前後はやったけれども、その先で

す。例えばボトルネックになっているところを実は見ていなかったという面で、リケンでサプラ

イチェーンが大事だと言われながら、今回もやってしまったという感じです。

次に自社設備や情報システムの確認や補強ということです。やはり自家発電など数時間しか設

定していない、数日間でも駄目かもしれない、どうしようかというので、そういう面での補強も

要ります。しかし、自家発電や非常用電源でも、実際に動かしてみて動かなかった例も多数あっ

たようです。だから、これは定期的に稼働確認しておかないと駄目です。情報システムなども実

際そうです。コンピューターシステムなどでもバックアップ号機を用意していても、実際にそち

らに行ったら実は立ち上がらなかったというのはよくあります。多分システムをやっている人は

そういう経験が多いと思うのです。そういうことがありますので、バックアップなどはきちんと

稼働確認しておかなければいけません。

特に今回は役所が被害を受けましたが、書類等のペーパーレス化を進めておきながら、そのバ

ックアップを遠隔地に置いて、基本的には何らかの形ですぐにアクセスできる環境を整えておく

必要があると思います。

インターネットは今回相当活用されています。ただし、問題はツイッターや SNS などは相当使

われて役立ったと言われていますが、実は役立っているのは被災地の人ではなく、被災されない

方です。支援する方が役に立っているだけであって、被災者は実は全然役に立たなかったという

ケースが多いわけです。そういう面でそういうものをどうするかというのを、後で時間があれば、

浅野先生にぜひお聞きしたいとは思っているのです。そういう意味で通信手段や情報収集手段の

確保をどうするか。やはり複数やることは必要かと思っています。

それから、今、支援者ばかりという話をしましたが、例えば Amazon.co.jp などで欲しいものリ

ストをインターネットに載せる、あれが相当役に立ったという面があります。このサービスは、

被害者と支援する方がうまく連携された一つのいい例だと思います。あとホンダがやっているイ

ンターナビ(自動車通行実績情報マップ)です。今もインターネットで見られますが、今どこが

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開通したという前日の午前中までの情報を見られるようになっています。多分パイオニアと共同

で開発したと思うのですが、どこが通れるか通れないかがそれを見れば分かるようになっていま

す。技術が今、相当進歩してきていますので、どんどんいろいろなものが出てくると思います。

そういうものをうまく活用できればと思います。

あと企業グループを超えた協力関係も見られました。これは先ほどの映像などでも出ていまし

たように、同業他社とは、相手を追い落とすという面もありますが、やはり助け合いで生き残っ

ている例も相当あります。そういう面での協力関係の強化や構築が必要です。

それから標準化でよく言われているのは、例えばペットボトルのキャップです。キャップが必

要だが、それがないから他社から取り寄せようと思うと、実は形状が若干違って使えなかったと

いう例も出ています。そういう面でできるだけ標準化もしていくことが大事だと思うのです。例

えば報道などで出ていますトヨタなどは今回の大震災や円高、欧州の財務危機などに対応するた

めに、主力車については部品の設計などを全部標準化することにしました。そういうことがすご

く大事かなと思っています。

8 番目は訓練です。この中で BCP の訓練をやっている人、経験をしている人もいらっしゃると

思うのですが、些細なことで失敗しますよね。何でこんなことができないのだと、いろいろなこ

とが出てきます。そういう面で訓練とはすごく大事だということがよく分かると思うのです。

あと情報開示です。特に政府は原発の問題では、マスコミやいろいろなところにたたかれてい

るとは思うのですが、企業も一緒で、きちんと情報開示していかないとコンペティターに取られ

てしまいます。今、中国など国内の競争ではなくなってきていますので、そこら辺をきちんとし

なければいけないという感じです。

次は私の専門に近いところで、IT-BCP について少し触れておきたいと思います。今、基本的に

情報システムは企業にとってはなくてはならないような存在になってきていますので、これ自身

の BCP をどうするかというのもきちんとやっておかなければいけません。一つはサーバーや通信

開発の二重化やデータバックアップです。こういうものはいろいろな企業でできているのではな

いかと思うのですが、UPS などは 10 分とかいうレベルでしか電源がもたないですから、数時間可

能な非常用電源も考えなければいけないと思います。

2 番目に、やはり自分たちだけでやるのは大変なので、重要なサーバーはデータセンターに集約

していくべきだということです。特に大手の金融機関ですと、ほとんどデータセンターを使って

いますし、しかもデータセンターも二重化されていると思います。ところがメーカーですと、敷

地内にデータセンターを作ったり、バックアップセンターという形ではないところも多いと思う

のです。それはコストの関係でいろいろと考えなければいけないのですが、データセンター自身

の立地条件もきちんと調査していくべきだと思います。

3 番のインタ-ネットの活用、通信手段の複数化は先ほど言ったものです。線が切れてしまっ

たら、やはり無線などは役に立つと思います。セブンイレブンなどが今 MCA というものを使って

います。

オフィスの IT 管理も、代替えオフィスも含めてきちんとしておかないと、何も使えないという

形になってしまいます。

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特別研究レポート

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それから仮想化技術やクラウドコンピューティングです。特に今、仮想化技術が相当進んでき

ていますので、システムの移行や集約が簡単にできるようになっています。それを特に活用した

のがクラウドコンピューティングです。ただ、クラウドコンピューティングはまだ課題がいっぱ

いあります。基本的にはミッションクリティカルなシステムはクラウドコンピューティングでや

るのは大変だ、向かないと一般では言われていますので、この辺はいろいろ検討課題があると思

います。また、システムの運用においてクラウドコンピューティングで海外のセンターを使って

いると、当然その国の法律に縛られたりします。また、セキュリティーも含めて、保証やそこの

契約、いわゆるサービス・レベル・アグリメント(SLA)をきちんと検討しないと、痛い目に遭う

可能性があるということです。

ただ、今アマゾンなどもそうですが、日本国内にデータセンターを用意して、お客さまのハー

ドウエアを固定してサービスする、あるいはインターネットではなくて専用線を使ってのサービ

スも出てきています。SLA はどうなっているか分かりませんが、そういうものも検討の価値があ

るのではないかと思います。

また、IT-BCP というと、重要業務がきちんとできるように、それよりも早く情報システムが稼

働する目標回復時間を設定しないと駄目だということです。

後に、法令との関連を調べてみました。金融商品取引法というのは皆さんご存じだと思いま

す。今日などは日経新聞の 1面に、金融商品取引法違反のどこかの投資顧問会社の話が出ていま

したが、これは金融商品取引法でも少し違う内部統制の話なのです。金融商品取引法における内

部統制の整備については上場会社が対象だと思うのですが、基本的に財務報告の信頼性確保とい

う面では、内閣府令というのがあります。これは「企業内容等の開示に関する内閣府令」という

もので、事業等のリスクを有価証券報告書に記載せよとなっています。これがある程度関係して

いるのかなと。

それから会社法です。会社法で内部統制といいますか、「会社の業務の適正」を確保する体制の

整備をきちんとしなければいけないとなっています。これが一つ大きく関係しているかなと思い

ます。存立の危機に関する規定、その他の体制を整備しなさいということです。ただし、会社法

は内容について言及していませんので、整備しないというのも実はありなのです。実際にはそん

なことは言われないと思うのですが。

それから、善管注意義務というのがあります。これは取締役に対してですけれども、特にこの

中で結果予見義務や結果開示義務というのがあります。例えば東海地震などが起こると予見され

たとしたら、それをやっていないということは、もしかしたら善管注意義務違反になるのではな

いかということが考えられます。以上です。

(奥田) ありがとうございます。小川先生の大変気合いの入ったプレゼンテーテョンでもう時

間が来てしまいました。BCM が大事だ、どんな対応をしていけばいいのかをご示唆いただいたか

と思うのですが、もうそろそろお時間が来ておりますので、 後に今日のパネリストの皆さまか

ら中部の企業へのメッセージということで、お話をいただけたらと思います。 初は荒川さんい

かがですか。

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中部の企業へのメッセージ

(荒川) 今回、当社の東京事業所の被災によって得た教訓に、1件致命的なものがありました。

つい先日解決したのですが、ビルオーナーから賃借で借りるときの賃借契約の中身についてでし

た。いわゆる共有部分が破損した場合は先方の費用負担で直していただけるのですが、冒頭に申

し上げた当社の金庫が地震の揺れによって壁をぶち破って壊してしまったので、これは非常にも

めました。

ビルオーナーに言わせると「あなたの会社が勝手に事務所の中のフロアに置いたものがうちの

ビルを壊したのだから、それはあなたが払うべきだ」ということで、10 カ月ぐらいもめました。

この点、皆さん賃借しているビルがある方は、ぜひ一度見直して、契約書の書き直しなどをした

らいいのではないかと思いました。

(堀内) 先ほど、富山の工場にパートナーになってもらった話をしましたが、その交渉時に重

要だと思ったことは、相手の会社もそれなりの歴史や企業文化があって、ブランドを持っていま

すから、お互いに持っているブランド、守りたいものを尊重し合った上で、パートナーシーップ

を築く。どちらか一方の押し付けでは難しいのではないかということを、今回実感しました。

当社もこれから BCP を作っていくプロセスに入るのですが、正直 BCP の 終ゴールは見えてい

ません。多分分からないのだと思います。時によっては今回のような震災をターゲットにしたも

のが軸足になるかもしれませんし、少し前だと鳥インフルエンザを軸足にしたような BCP になる

かもしれません。 終形は多分分からないものですから、恐らく定期的にブラッシュアップしな

がら作っていくのだろうと思っています。

ただ、うちの取引先の小さな会社を見ていても思うのですが、スタート地点はみんなばらばら

なのです。BCP すら知らないところもあれば、防災まではやっているというところもあります。

本当に社長さん一人でやっているところに関しては、「BCP 以前にあなたの命を大事にしなさい」

という会社もありますので、スタート地点はどこの会社もばらばらでが、今回の震災を一つの教

訓として、何か一歩前に踏み出すことができれば、それが全体の底上げになるのかと思っていま

す。

(小川) BCP という面からすると、経営者のリーダーシップ、トップマネジメントがまず重要

かなと思います。もっと重要なのは、自分の会社の社会的使命や存在意義を社員一人一人が認識

しないと、結局受け身になってしまってうまくいかないと思うのです。そこがまず一つ大事だろ

うと思います。もう一つは経営革新のための戦略の一環だということをやっていかないと、グロ

ーバル競争が相当激しくなっていますので、BCP を作らなければいけないというだけだと、コス

トばかりがかかってしまうという後ろ向きな対応になってしまうので、そこら辺を何とかクリア

していかなければいけません。

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特別研究レポート

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それから、あらゆるリスクを考えた上で、その中で何も対策を立てないのも含めてやっていく

のが BCP ですので、地震だけではありません。

(浅野) 今日はパネリストという身分不相応な立場でいろいろなお話をさせていただきました。

私自身はあくまでもコンサルタントだということで、企業の皆さまが BCP を作っていかれるのを

支援させていただくという立場で、これからも貢献させていただければと考えています。今日は

一貫して BCP の価値はプロセスにあると言い続けましたが、当然 BCP の支援をさせていただく中

では、BCP のフレームワークやツールづくりなどが当然あります。そういった形で、強い地域産

業づくり、日本の国が 21 世紀の前半、本当に乗り切っていけるのだろうかといったところに、何

らかの形で貢献させていただければと思います。

後に一つ申し上げたいことがあります。今、地震災害なりハザードマップなりの必要性がい

ろいろなところで言われていますが、社会で共有して目標設定をするようなプラットフォームは

なかなか提供されていません。中央防災会議でいろいろ検討されていますが、紙情報でなかなか

使いづらいという問題意識から、私どもの方で皆さんで共有化していただけるようなハザードマ

ップを ASP のサービスでご提供できないかということで、今準備をしております。中央防災会議

なり、そんなところで検討された成果をうまく共有できるような環境のご提供ということで、こ

の 4月の末ぐらいから始められればと準備をしておりますので、ご興味のある皆さま方はご連絡

いただければと思います。

閉会

(奥田) 今日はパネリストの皆さんと議論をさせていただいたのですが、やはりトップの意識

が大事なのだということ。それから、BCP を作り込むプロセスが大事なのだと、そこに魂を入れ

ていくのだ、議論が大事なのだというお話がありました。また、他の地域との連動性、相手を尊

重し合いながらやっていくということで、何かあったときにきちんと対応していければいいとい

うお話がありました。

まさに東日本大震災から 1年ですが、備えと、来たときの対応ということで、何となく 1年ぐ

らいたつと忘れがちということではなく、今一度皆さん方お 1人お 1人が肝に銘じて、どんな対

応をしていったらいいのかという一助になればということで、今日はこのようなパネルディスカ

ッションをさせていただきました。本当に皆さん長時間ありがとうございました。これで、パネ

ルディスカッションを終わらせていただきたいと思います。

(司会) 奥田さん、荒川さん、堀内さん、小川さん、浅野さん、どうもありがとうございまし

た。それからご参加の皆さま方、長時間本当にありがとうございました。先ほども申し上げまし

たが、年度末の大変お忙しい中、これだけのたくさんの方に参加していただいたというのは本当

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に大変なことだと思います。いかに BCP に対する問題意識が強まっているかということです。基

調講演、調査報告、パネルディスカッションでのご報告を受けて皆さま方、今後ますます BCP に

対する必要性の意識を高めていただき、実施に磨きをかけていただきたいと思います。今日は本

当に長時間ありがとうございました。

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参考(共催シンポジウム案内資料)

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TEL 0568-51-1111(代) FAX 0568-51-1505

中部大学産業経済研究所・野村総合研究所共催シンポジウムのご案内

拝啓 立春の候 益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。

さて、このたび私ども中部大学・産業経済研究所は野村総合研究所のご協力を得て、

2月24日(金)午後3時30分より、二つの研究所による共催シンポジウム「戦略的

BCP(事業継続計画)と変革期を迎えた企業経営~災害による中部圏構造変化と日本

再生に向けて~」を企画・開催することになりました。

昨年の3月11日に発生した東日本大震災は、各地、各分野に未曾有の被害をもたら

し、いまもなお過酷な状況が続いております。 そのような中、将来予想される東海地

震等連動型大震災等に備え、中部圏に活動拠点をもつ企業においても、事業継続計画

(Business Continuity Plan)の策定や拠点分散などが注目され、検討されはじめており

ます。 事業継続計画とは、災害などのリスク発生時に自社の事業活動を維持・継続さ

せるため、復旧の目標時間や手順などを事前に組織的に計画・策定し備えるものです。

今回のシンポジウムでは、大災害への準備と対応という「守り」の面は勿論ですが、

同時に新興国市場の拡大を背景とした新グローバル化、産業構造の変化、ICT(情報

通信技術)革新の新展開等々、将来に向けた経営を取り巻く環境変化を見据え、拠点分散、

サプライチェーン構造の革新、事業戦略の見直し等々、企業の更なる「発展と進化」を

目指すための対応等も視野に入れて議論が進められればと考えております。

ご多忙とは思いますが、お誘いあわせの上皆様のご参加をお待ちしております。

敬具

平成24年2月

中部大学

産業経済研究所

所長 鈴木正慶

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2012年2月24日(金)

中部大学産業経済研究所・野村総合研究所共催シンポジウム

時間:15:30~19:00

会場:中部大学 名古屋キャンパス 6階大ホール

(JR中央線鶴舞駅北口(名大病院口)すぐ)

プログラム:

●基調講演 浅野 憲周 (野村総合研究所 上級コンサルタント)

●調査報告 小山 太郎 (中部大学産業経済研究所 研究員)

●パネルディスカッション

司 会:奥田 誠 (野村総合研究所 名古屋オフィス代表)

パネリスト:浅野 憲周 (野村総合研究所 上級コンサルタント)

小川 裕克 (中部大学 教授)

荒川 健一 (株式会社グローバルエンジニアリング 代表取締役社長)

堀内 篤志 (愛知金属工業株式会社 生産統括グループマネージャー)

企画・推進 総合司会 中部大学・産業経済研究所 所長 鈴木正慶

終了後に情報交換会・懇親会を開催いたしますので、皆様ふるってご参加ください。(参加費無料)

戦戦略略的的BBCCPP((事事業業継継続続計計画画))とと変変革革期期をを迎迎ええたた企企業業経経営営

~~災災害害にによよるる中中部部圏圏構構造造変変化化とと日日本本再再生生にに向向けけてて~~

お申込み・お問合せ先:中部大学経営情報学部事務室

TEL: 0568-51-1111(内線4824)

FAX: 0568-52-1505

E-mail: [email protected]

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シンポジウム出演者プロフィール

浅野 憲周(あさの かずちか)

株式会社野村総合研究所

社会システムコンサルティング部

上級コンサルタント

06~08 年一橋大学国際・公共政策大学院客員教授

08年内閣府「災害政策体系のあり方に関する研究会」委員、

09年財務総研「ワークショップ:大規模震災の国の財政へ

の影響」委員。

危機管理、防災政策、企業リスクマネジメント、被害シミュ

レーションを専門とし、官公庁防災、危機管理政策支援、民

間企業リスクマネジメントなど多数のプロジェクトを手が

ける。

荒川 健一(あらかわ けんいち)

株式会社グローバルエンジニアリング

代表取締役社長

97 年に個人にてグローバルエンジニアリングを創立、98 年

に株式会社グローバルエンジニアリングへ組織変更。創業以

来、IT 事業を主力として、近年では、ロボット事業、バイ

オ事業などにも力を注いでいる。特に、バイオテクノロジー

には、遺伝子解析に IT 技術を駆使する事で今後の発展・拡

大には無限の可能性があると積極的で、関西の大学と共同研

究を持つ。

第 6回ニッポン新事業創出大賞・アントレプレナー部門にて

「特別賞」受賞。

堀内 篤志(ほりうち あつし)

愛知金属工業株式会社

生産統括グループマネージャー

経営企画室課長、経営革新プロジェクトリーダーを経て現

職。経営革新プロジェクトでは、全社横断的な業務・風土改

革を推進。現在は、生産統括グループマネージャーとして、

生産計画・資材調達・生産技術・原価管理などメーカー機能

の総括を行う一方、不採算部門の生産ライン合理化や全社

5S活動の推進などモノづくり、ヒトづくりに傾注。

奥田 誠(おくだ まこと)

株式会社野村総合研究所

コンサルティング事業本部

名古屋オフィス代表

愛知県刈谷市生まれ。大手地方銀行に入行後、90 年野村総

合研究所に入社。営業力強化、営業・業務改革、マーケティ

ング戦略、営業支援システムの構築等に関するコンサルティ

ングに従事。2003 年より現職。現在は、NRI の名古屋の代表

として中部地域のさらなる発展に向けて奔走中。論文に「営

業革新の成功条件」、「採算性にもとづいたオペレーション管

理技術」、「どうする 2 番手企業」「東海 3 県幸せのゴールデ

ンサイクル」など。

小川 裕克(おがわ ひろかつ)

中部大学

経営情報学部教授

77 年、東京工業大学理工学研究科修士課程修了。大手シス

テムインテグレータにおいて主に金融情報システム構築プ

ロジェクトに従事。2000 年に金融系企業に移り、企業経営

におけるIT戦略の策定やIT適用における様々な課題の解決

に取り組む。2011 年より現職。

専門:IT ガバナンス、情報システム論、システム開発方法

小山 太郎(こやま たろう)

中部大学

経営情報学部講師・産業経済研究所研究員

早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課

程・商学研究科博士後期課程修了。2006 年より中部大学経

営学科講師・産業経済研究所研究員

所属学会:日本商業学会・消費者行動研究学会・商品学会

・商品開発管理学会・イタリア学会

専門:製品開発論・ラグジュアリーブランド(イタリア)・

デザインマネジメント

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特別研究レポート

中部大学産業経済研究所・野村総合研究所共催シンポジウム

戦略的 BCP(事業継続計画)と変革期を迎えた企業経営

―災害による中部圏構造変化と日本再生に向けて―

2012 年 3 月発行

発行者:中部大学 産業経済研究所

住 所:〒487-8501 愛知県春日井市松本町 1200 番地

電 話:0568-51-1111(代表)

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TEL 0568-51-1111(代)

http://www.chubu.ac.jp/