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産業組織論(企業経済論)
第10回
井上智弘
2010/6/16 1産業組織論 第10回
注意事項
講義の資料は,授業終了後にホームページにアップしている.
http://tomoinoue.web.fc2.com/index.html
2010/6/16 産業組織論 第10回 2
前回までの復習 独占市場を理解する上でのポイントは,企業が市
場支配力をもつということ.
» 独占企業は限界費用を上回る価格を設定できる.
市場支配力の影響を見るために,完全競争市場と独占市場を比較する.
» 企業の限界費用を一定とする.
» すべての企業が同一の限界費用で生産を行うとする.
» ただし,完全競争市場には多数の企業,独占市場には1社の企業のみが存在する.
2010/6/16 産業組織論 第10回 3
前回までの復習
完全競争市場では,各企業の生産量の合計が市場全体の供給量となる.
» 限界費用が一定の場合には,完全競争市場における市場供給曲線は,個別企業の供給曲線に一致する.
独占市場では,独占企業の生産量が市場全体の供給量となる.
2010/6/16 産業組織論 第10回 4
練習問題
逆需要関数が P(Q) = 70 - Q,費用関数が C(Q) = 10Q で表されるとする.
① 独占市場の均衡における消費者余剰と生産者余剰を求めよ.
② 独占による死荷重の大きさを求めよ.
③ 独占市場の均衡における価格と数量において,需要の価格弾力性がラーナー指数の逆数となることを確認せよ.
2010/6/16 産業組織論 第10回 5
前回までの復習 限界費用が一定のとき,独占による死荷重の大きさ
は,死荷重 = PMQM/2εで近似できる.
» εは需要の価格弾力性
独占による余剰の損失は,消費額(PMQM)が大きく,代替財が少ない(εが小さい)場合に大きくなる.
独占企業が限界費用に比べて高い価格を設定することで生じる非効率性以外の非効率性として,X非効率性とレント・シーキングがある.
2010/6/16 産業組織論 第10回 6
価格差別
ここまでは,企業はすべての消費者に均一の価格で販売すると考えてきた.
→ 収入 R = 価格 P×生産量 Q
これに対して,企業が同一の財・サービスを異なる価格で販売することを価格差別という.
» 支払い意欲に応じて消費者を分断し,異なる価格で売ることができれば,より高い利潤を得ることができる.
2010/6/16 産業組織論 第10回 7
価格差別
価格差別には,いくつかの分類がある.
第1種価格差別(完全価格差別)
» 消費者を財・サービスに対する選好に応じて個人別に分けて,それぞれに異なる価格を設定する.
第2種価格差別
» 消費量に応じて異なる価格を設定する.
第3種価格差別(グループ別価格差別)
» 消費者をグループに分け,それぞれに異なる価格を設定する.
2010/6/16 産業組織論 第10回 8
価格差別
価格差別を行うことで,企業は単一の独占価格をつけるよりも,高い利潤を得ることができる.
ただし,価格差別が成功するためには,市場支配力があることと,消費者間での財の転売がないことが必要不可欠な条件である.
» 転売ができると,安いところから買って転売する消費者や企業が出てくるため.消費者を分断して異なる価格を設定することができない.
2010/6/16 産業組織論 第10回 9
第1種価格差別
各消費者の財に対する留保価格を知ることができて,留保価格に応じて個別に販売することが可能であれば,個々の消費者ごとに異なる価格をつける完全価格差別を行うことができる.
» 留保価格とは,消費者が財の消費のために支払ってもよいと考える最高額のこと.
» 完全価格差別を行うことで,企業は,消費者余剰をすべて利潤として吸い上げることができる.
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第1種価格差別
2010/6/16 産業組織論 第10回 11
MC
D
OQ
P1
生産者余剰(利潤)P2
P3
消費者1の留保価格
消費者3の留保価格
消費者2の留保価格
最後の消費者の留保価格 = 限界費用
1 2 3 QPD
P
第1種価格差別
完全価格差別が成功するためには,企業が各消費者の留保価格を知ることが必要である.
完全価格差別の結果,企業の限界費用と財に対する限界評価が一致する消費者まで財が供給されるため,供給量は完全競争市場と同じで社会的に効率的な水準になる.
2010/6/16 産業組織論 第10回 12
2010/6/16 13
MR
MC
D
OQ
P
QPD
M
E
F
A
C
第1種価格差別
MR
MC
D
OQ
P
QM
PM M
E
F
A
C
通常の独占 完全価格差別
産業組織論 第10回
第1種価格差別
完全価格差別のときの生産者余剰は⊿AECとなり,消費者余剰はゼロとなる.
独占企業の生産者余剰は,均一の価格 PM をつけるときの□PMMFCよりも大きくなっている.
QPD の点では,価格 = 限界費用となるため,総余剰が最大になり死荷重が生じない.
» ただし,余剰の分配は PM
のときよりも不公平となる.
2010/6/16 産業組織論 第10回 14
第1種価格差別
現実には,企業は消費者の留保価格を完全に識別することは困難である.
したがって,現実に価格差別を行う方法としては,
» 消費者をいくつかのグループに分断する.
→ 第3種価格差別
» 消費者に対して同じ価格を提示するが,消費量によって価格を変更する.
→ 第2種価格差別
2010/6/16 産業組織論 第10回 15
大人と子ども,学生と社会人,または時間や地域ごとに財・サービスの価格が異なることがある.
» 映画館や遊園地,バスや電車などの料金
» ハードカバーの本と文庫本,平日料金と休日料金
グループごとに需要の価格弾力性が異なるため.
» 価格に対して敏感な消費者には安く,それ以外の消費者には高い値段で売ることで,すべての人に同じ価格で販売することによって,すべての人に同じ価格で販売するよりも高い利潤を得ることができる.
2010/6/16 産業組織論 第10回 16
第3種価格差別
第3種価格差別
価格差別が可能な場合,独占企業は,各グループの市場ごとに MR = MC が成立するような価格を設定する.
» グループが,第1グループ,第2グループ,...とある場合,各グループ市場 i において,MRi = MCi が成立するように各グループ市場における価格 Pi を設定する.
» ラーナー指数では,(Pi - MCi)/Pi = 1/εi が各グループ市場で成立する.
2010/6/16 産業組織論 第10回 17
第3種価格差別
各グループ市場に対して供給する財・サービスはまったく同じであるから,限界費用はどのグループ市場向けに生産しても同じ.
» MC1 = MC2 = …
需要の価格弾力性εi が低いグループに対して高い価格を設定する価格差別を行うことで企業の利潤は高くなる.
2010/6/16 産業組織論 第10回 18
2010/6/16 産業組織論 第10回 19
第1グループ市場 第2グループ市場
M1P
M2P
M1Q M
2QO Q2Q1
P
MCMC
弾力性が相対的に高い
相対的に低い価格を設定
弾力性が相対的に低い
相対的に高い価格を設定
D1D2
MR1
MR2
2010/6/16 産業組織論 第10回 20
M1P
M2P
M1Q M
2QO Q2
P
MC
D2
MR1
MR2
Q1
MC
D1
MQ
MP
集計された需要曲線
集計された限界収入曲線
第3種価格差別 ハードカバーの本と文庫本
» 新しい本は,まず値段の高いハードカバーで出版され,時間がたってから安い文庫本で出版される.
» 文庫本の生産費用がハードカバーよりも大幅に安いからではなく,新しい本をすぐに読みたいという人は,多少高い料金でも購入するから.
電車の運賃の学生割引
» 社会人と比べると学生の方が所得が低く,運賃に敏感である(需要の価格弾力性が高い)と考えられる.
» 学生に対しては,相対的に低い価格を設定する.
2010/6/16 産業組織論 第10回 21