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AIRIS 統計学2 2012.7.26
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感染症疫学に必要な統計学の基本 2
AIRIS 2012.7.26
吉田 眞紀子
亀田総合病院感染管理室
感染症疫学実践のための統計学 目指すゴール
サーベイランスやアウトブレイク疫学調査の目的がわかる
サーベイランスやアウトブレイク疫学調査で集めたデータが解析できる
その解析した結果が説明できる
その説明をレポートにまとめることができる
そのレポートを読んだスタッフの行動が変わる
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講義のゴール
「アクションを引き出す魅惑のレポートを作る」
押さえておきたい統計学の基礎
• 代表性(平均値、中央値)
• 分散性(2S.D.)
• 有病率・発生率・発生密度
(次回は)魅せるレポートに必要なテクニック
• 統計学的有意とは
• 率・比・割合・感度・特異度(おさらい)
• わかりやすいレポート・報告書のポイント
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疫学と統計学の違い?
• 疫学調査:病気の分布、頻度、発生要因について解明し、予防策や拡大防止に必要なデータを収集する。
• 統計的解析:疫学調査で集まったデータを、原因(感染源、感染経路)と結果(発症)について、質的・量的に解析する。関係の意義についての解釈を得る数学的方法
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感染症疫学と統計学の関係って?
考え方はいろいろですが、ここでは、目的のためのツール、と考えましょう!
• 目の前の問題を解決したい。
• そのための全体像の把握をした。(記述疫学)
• そこから、危険因子を明らかにする。(解析疫学)←ここで、統計学登場
• 危険因子やハイリスク集団を明らかにして、対策を実施する(公衆衛生対応)←これが目的
• 実施した対策は有効だったのか、を評価する(記述疫学・解析疫学)←ここで、統計学登場
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統計学をどう使う?
感染管理担当者が、疫学の基本と統計学の基本を知ると、
1)その疫学調査は何のデータを使って算出されたのかを知っている
2)その指標の分母・分子は「何か」を説明できる
(割合・率・比の使い方を知っている)
★疫学者は、この違いを意識して使う!
3)知りたい集団の値は「高いのか、低いのか」、「ちがうのか、一緒なのか」、を適切に評価できる
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データ data
情報
information
知識 knowledge
知恵 wisdom
When? Where? Who? What?
How?
Why?
DIKWモデル
それ自体では意味なし
データを整理して意味付け
情報をまとめて体系化
知識を正しく認識し、価値観に持ち込む
サーベイランス報告を読む
• あなたはAIRIS病院の感染管理専門看護師(ICN)から先月のMRSAサーベイランスレポートを受け取った。(別紙)
• あなたはこのレポートを元に、青森県感染症クライシスマネジメント作戦会議で説明することになった。
• 会場の参加者から「用語の意味がわかりませ~ん。」と質問が相次いだ。
• 私(僕)は、しどろもどろ・・・・(>_<)
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MRSA月刊レポート 2012年6月 発行:AIRIS病院感染管理室
今月のMRSA 発生率 6.7% 有病率 21.3% 解説:有病率は5月に上昇していたが、罹患密度率は±2SDの範囲内なので、アウトブレイクではないと思われる。 ★引き続き、接触予防策の徹底をお願いします。
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3.9 3.1
2.3
-:昨年の2SD
サーベイランスを始める前に考えること
• 対象となる微生物・感染症
–検出頻度の高い微生物(例:MRSA)
–極まれにしか検出されない微生物(例:VRE)
• 対象となる場所
–病院全体
–病棟単位、ユニット単位
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サーベイランスを始める前に考えること
• 対象となる患者
–診療科単位
–疾患別
–重症度別
• 保菌・感染の考え方
–目的により、区別するかどうかを決める
–保菌:発症はしていないが、感染源となるリスク
–感染:発症している
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サーベイランスを始める前に考えること
• 症例と判断するための定義:症例定義 –院内感染の定義
–検出部位を定義
–同一患者から複数回検出された場合の定義(たとえば、3ヶ月以上間隔があけば新規と数える、など)
• 「新規発生」の定義: –院内感染を定義するときに決めておく。
–例)入院後48時間以降
–例)カレンダーで入院日をday1としてday3以降
AIRIS 2012.9.20 12
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サーベイランスで使用する指標
基本の考え方は全て同じ
常に、分母と分子を意識しましょう!
ポイント:
• 指標=分子÷分母×定数(10n)
• 感染(infection)と保菌(colonization)
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分子について考える
• 何らかの健康状態にある人
–耐性菌が検出された人(保菌、感染)
–病気と診断された人
• 何を数える?
–定義を決める
–感度・特異度が検証されている
• NHSNの定義
• 検査診断
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分子について考える
• データの収集も大事
–誰がいつ集めるかを、決めておく
• 横軸に収集する項目、縦軸に患者を記載したラインリストを作成
–使わないデータは集めない
• 人・時・場所の特定
• リスク因子
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分母を考える
医療関連感染でよく使われる分母情報
• 入院患者数
• 延べ入院患者日数(patient days)
• 医療器具使用日数(device days)
• 検査件数、手術件数
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感染対策の評価に用いる指標
• 罹患率・発生率(incidence rate):
一定期間に新しく発生した罹患のリスク
• 罹患密度率(incidence density rate):
一定期間の延べ患者あたりの発生率
• 有病率(prevalence rate):
一定期間に存在する有病のリスク
観察開始 観察終了
退院
死亡
退院
退院 患者
A
B
C
D
罹患:2例(B,D) 有病:4例(A,B,C,D)
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発生数・罹患数(incidence)
• ある集団に一定期間中に新しく起きるアウトカムの数。
• 定義「入院48時間以降に検出されたMRSAは院内発生とする」(便宜上、3日目以降でカウント)
観察開始 観察終了
退院
死亡
退院
退院 患者
A
B
C
D
罹患:2例(B,D)
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発生率(incidence rate)
• 分子:ある期間に新たにMRSAが検出された入院患者数
• 分母は入院患者数
• 定数:100(%)
• 発生率=新規発生数÷入院患者数×100(%)
観察開始 観察終了
退院
死亡
退院
退院 患者
A
B
C
D
2÷4×100
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MRSAサーベイランスで考える 発生率(incidence rate)
• 使い方:新規MRSA陽性率
• 解説:1ヶ月間の入院患者数に対する、入院3日目以降にMRSAが検出された患者の割合
• 考え方:発生率が高いと、医療従事者を介した感染の伝播が起きている可能性がある
観察開始 観察終了
退院
死亡
退院
退院 患者
A
B
C
D
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発生密度率(Incidence density rate)
• 分子:ある期間に新たにMRSAが検出された入院患者数
• 分母:同期間における延べ入院患者日数
• 定数:1000
• 入院後に患者がMRSAを獲得するリスク
• 発生密度率=新規発生数÷延べ入院患者日数×1000
観察開始 観察終了
退院
死亡
退院
退院 患者
A
B
C
D
2÷63×1000
21
8日 20日 31日 4日 8+20+31+4= 63日
おさらい:人・時間 person・time
• 調査期間の途中で脱落した人を含めて、それぞれの観察対象者の観察期間を合計する
• 例:延べ入院患者日数(patient days)
観察開始 観察終了
退院
死亡
退院
退院 患者
A
B
C
D
8日 20日 31日 4日 8+20+31+4= 63日
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有病数(prevalence)
• ある集団に一定期間に存在するアウトカムの全数
• ある1ヶ月に入院していた全てのMRSA感染・保菌症例数
観察開始 観察終了
退院
死亡
退院
退院 患者
A
B
C
D
有病:4例(A,B,C,D)
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有病率(prevalence rate)
• 分子:ある時点のMRSAの保菌例+感染例
• 分母:同時点の入院患者数
• 定数:100(%)
• 有病率=有病数÷入院患者数×100(%)
観察開始 観察終了
退院
死亡
退院
退院 患者
A
B
C
D
4÷4×100
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MRSAサーベイランスで考える 有病率(prevalence rate)
• 使い方:MRSA陽性率、保菌圧(Colonization pressure)
• 解説:入院患者に対するMRSAが検出された患者の割合
• 考え方:有病率が高いと、医療従事者の手を介しての感染の伝播の機会が増える
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まとめ: MRSAサーベイランスで使用する指標 発生率 • 新規MRSA検出率=1ヶ月間の新規MRSA検出人数÷同月の入院患者数×100
発生密度率 • MRSA発生密度率=1ヶ月間の新規MRSA検出人数÷同月の延べ入院日数×1,000
有病率 • MRSA陽性率=1ヶ月間のMRSA保有人数÷同月の入院患者数×100
*一定期間を1ヶ月と想定 26
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イメージで理解する MRSAサーベイランスの指標
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接触予防策を徹底!
陽性率が上がる ↓
保菌圧が上がる ↓
新規陽性率が上がる
例題1
AIRIS病院の2012年4月のMRSA検出状況を調べてみました。
–入院患者数:1000人
– MRSA陽性者数:67人
– うち、入院3日目以降にMRSA陽性:10人
Q 2012年4月のMRSA陽性患者の「有病率」(MRSA陽性率)を求めてください。
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例題2
AIRIS病院の2012年4月のMRSA検出状況を調べてみました。
–入院患者数:1000人
– MRSA陽性者数:67人
– うち、入院3日目以降にMRSA陽性:10人
Q 2012年4月のMRSA陽性患者の「発生率」(新規MRSA発生率)を求めてください。
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例題3
AIRIS病院A病棟の2012年のMRSA検出状況
1月 2月 3月 4月 5月 6月
新規MRSA陽性(人) 1 3 2 2 4 2
MRSA陽性(人) 18 25 19 24 29 30
入院患者数(人) 129 145 146 150 139 141
延べ入院患者数(人) 1032 1305 1430 1350 1251 1265
新規MRSA陽性率(%)
MRSA陽性率(%)
MRSA発生密度率(‰) 30
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データをみる眼をもつ!
「病棟で起きた冬の感染症アウトブレイク」
データの特徴は、
• データの「大きさ」
• データの「広がり」「散らばり」
そのためのツールは、
• 大きさ:平均値、中央値
• 広がり:標準偏差、25%点、75%点
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データの代表性
平均値と標準偏差
• 平均値は、データの合計値をデータ個数で割ったもの
• 極端に大きな(あるいは、小さな)値があると、その値に引きずられる(これを、データに偏りがある、という)
• データ個数が少ない場合は特に顕著
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データの代表性
中央値と範囲
• 中央値は、データを大きい順に並べたとき、中央に来る値
• データ数が少ないとき、ばらつきが大きい(=正規分布しない)ときに平均値より適切
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データのばらつき・分布 distribution
ばらつきを表す方法:
• 範囲(range)、標準偏差(SD; standard deviation)、四分位範囲(inter-quartile range)
• 範囲 例: 10~25 (最低値~最高値)
• 標準偏差 例:15±5(平均値±標準偏差)
• 四分位範囲 (データの小さい方の25%と大きい方の25%を切り捨てた中央50%の範囲)
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やればわかる!
比べてみよう!
「病棟で起きた冬の感染症アウトブレイク」
これからすること
グラフをかく
平均値、中央値を求める
平均値、標準偏差(提供します)
範囲、4分位範囲を求める
まとめてみよう!
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インフルエンザ、AIRIS病院、2011年12月
<10 <20 <30 <40 <50 <60 <70 <80 80-
6 5 4 3 2 1
インフルエンザ年齢
68 78
57
68
68
78
90
87
2
78
4
66
67
1
70 36
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下痢症、AIRIS病院、2011年12月 下痢症
発症者年齢
67
66
82
45
78
57
45
55
67
56
50
60
43
46
65
<10 <20 <30 <40 <50 <60 <70 <80 80-
6 5 4 3 2 1
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冬の感染症、AIRIS病院、2011年12月
インフルエンザ発症者(n=15)
下痢症発症者 (n=15)
平均値
標準偏差 30.0 12.0
中央値
最高値
最低値
25% 61.5 48
75% 78 66.5
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冬の感染症、AIRIS病院、2011年12月
インフルエンザ発症者(n=15)
平均値±SD=____±____
中央値(四分位範囲)[範囲]
=___(__-__)[__-__]
下痢症発症者(n=15)
平均値±SD=____±____
中央値(四分位範囲)[範囲]
=___(__-__)[__-__] 39
冬の感染症、AIRIS病院、2011年12月
40
平均値 中央値 平均値 中央値
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まとめ: イメージでつかもう! 正規分布:平均値と標準偏差
人数
SD SD SD SD
2SD 集団全体の95%が含まれる範囲
平均値 ↓
1 SD -1 SD 2 SD -2 SD 0
1SD 集団全体の68%が含まれる範囲 正確には、
1.96SD 41
まとめ:イメージでつかもう ゆがんだ分布:中央値と四分位数範囲
75パーセンタイル 25パーセンタイル
25パーセンタイルと75パーセンタイルの間に50%のデータが入る 42
平均値
中央値
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おまけ 箱ひげ図(box and whisker )
最大値 75パーセンタイル 中央値 25パーセンタイル 最小値
年齢
冬の感染症、AIRIS病院、2011年12月
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まとめ:そうだったのか!標準偏差
• 平均値±1SDには全てのデータの68%
• 平均値±1.96SDには全てのデータの95%
• 平均値±2.58SDには全てのデータの99%
ここが、ポイント!
• データの95%は(平均値-標準偏差×2)から(平均値+標準偏差×2)の間に入る
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MRSAのサーベイランスを読む
サーベイランスの指標の意味がわかりました!
• 「±2SDの範囲内なので、アウトブレイクではない」
• では、MRSAレポートを、スタッフもわかってもらえるような表現で作ってみましょう。
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MRSA月刊レポート 2012年6月 発行:AIRIS病院感染管理室
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• 今月の状況
• 解説
• 対策
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参考図書
• 楽しい疫学 中村好一 医学書院 3150円
• 医学統計の基礎のキソ 浅井隆 アトムス 2800円
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参考図書
• ロスマンの疫学―科学的思考への誘い Kenneth J. Rothman 篠原出版新社 2625円
• 感染症疫学―感染性の計測・数学モデル・流行の構造 ヨハン ギセック 昭和堂 3675円
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参考図書
• 入門医療統計学 森實敏夫 東京図書 3800円
• 統計学のセンス 丹後俊郎 朝倉書店 3200円
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