企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない...

12
2015/11/19 1 経済と株価ー講義⑦(ガイダンス込では8講義目) 企業の将来利益の総額の現在価値 リスクプレミアムと株価 バリュエーション(企業価値の計算) 営業利益から算出される理論株価 株価についての思惑 投資家の思惑が偏った場合 講義⑧ 企業の将来利益の総額の現在価値① 株価=「企業の将来利益の総額の現在価値」 株価とは、「将来稼ぎ出す」であろう企業利益総額を現在価値にした もの この意味は・・・ 株式を保有するメリットは「(経営権以外には)配当をもらえること」で ある。 また、企業が営業を停止(倒産)する時には、その段階に残っている 財産(残余財産)の分配を受けることができる。 この「残余財産」は、企業の利益のうち、配当に回さなかったものが累 積したものである。 つまり・・・ 株主は“最終的には”、企業の将来の利益の総額をすべてもらうこと ができることになる。

Upload: others

Post on 14-Jul-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

1

経済と株価ー講義⑦(ガイダンス込では8講義目)

企業の将来利益の総額の現在価値

リスクプレミアムと株価

バリュエーション(企業価値の計算)

営業利益から算出される理論株価

株価についての思惑

投資家の思惑が偏った場合

講義⑧

企業の将来利益の総額の現在価値①

株価=「企業の将来利益の総額の現在価値」株価とは、「将来稼ぎ出す」であろう企業利益総額を現在価値にしたもの

この意味は・・・

株式を保有するメリットは「(経営権以外には)配当をもらえること」である。

また、企業が営業を停止(倒産)する時には、その段階に残っている財産(残余財産)の分配を受けることができる。

この「残余財産」は、企業の利益のうち、配当に回さなかったものが累積したものである。

つまり・・・ 株主は“最終的には”、企業の将来の利益の総額をすべてもらうこと

ができることになる。

Page 2: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

2

企業の将来利益の総額の現在価値②

ここで、企業の利益が将来も現時点と同じ金額であると見込めるとしても・・・

今の100万円は、来年の100万円とは同じだろうか?

例えば・・・市場金利5%である場合現時点の100万円は1年後105万円である。

つまり・・・1年後の100万円よりも、今の100万円の方が価値が高いことになる。

では、どのくらい価値が高いのか?ざっくり計算すれば、将来の100万円は今の95万円くらいと同じということになる(95万円を5%で運用すれば、100万円くらいになるから)

企業の将来利益の総額の現在価値③

この式からわかるように、足元や近い未来の利益が株価に反応をすることがわかる。

なぜなら、遠くなればなるほど、分母が大きくなり、「0」に近づいていくから。

・・・+金利)(

年後利益+

+金利)(

年後利益+

+金利)(

年後利益株価=今利益+

32 1

3

1

2

1

1

具体的には・・・

現在の100万円 ・・・100万円/(1.05)^0=100万円/1.0 =100.0万円

1年後の100万円・・・100万円/(1.05)^1=100万円/1.05 = 95.2万円

2年後の100万円・・・100万円/(1.05)^2=100万円/1.102= 90.7万円

これらのすべての和が株価と考えられる。

以上から・・・

Page 3: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

3

リスクプレミアムと株価

将来予想についての振れ(予想通りにならない確率) 将来は、そもそも「予想」なので、その通りにならないことが多い。このように「予想通りにならない確率(「リスク・プレミアム」という)」が高ければ高いほど、株価に対する「不安定要素」となる。

そのため、リスク・プレミアム(RP)についても割引く必要がある(つまり、RPも金利同様、分母にある値であり、この値が高くなれば、株価は下落することになる)。

株価の予想 各年度の利益予想 ・・・利益↑⇒株価↑・・・分子大なので 各年度の金利予想 ・・・金利↑⇒株価↓・・・分母大なので 将来に対するRP ・・・RP ↑⇒株価↓・・・分母大なので

バリュエーション(企業価値の計算)

上記において将来の「金利」「RP」を予想して、現在の株価(企業価値)を算出することになる。

しかし、将来の「金利」「RP」を予想はかなり難しい。 そこで簡易的にはざっくり「6%」と考えることがよくある。

市場金利が高い時は、総じて、景気状態は良好であり、将来に対するRPは低い

市場金利が低い時は、総じて、景気状態は悪化しているので、将来に対するRPは高い。

以上から、先行きに対する「市場金利+RP」は、総じて、「あまり変化はない」と考えられる。

Page 4: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

4

営業利益から算出される理論株価 ここでは「来期の営業利益」から簡易的に株価(企業価値)を算出する。

営業利益(来期) ・・・3300億円 発行済み株式数 ・・・33億株

1株当たり来期営業利益予想=3300億円/33億株=100円 ここで一般に・・・ 営業利益の4割が法人税なので、配当可能な利益は営業利益の6割と考える。

また、リスク考慮後の予想市場金利は「6%」とする。

営業利益から算出される理論株価 =100円×6割/6%=100円×10=1000円

以上から 「(1株当たり来期営業収益予想×0.6)÷6%」と計算できるので、ざっくりとした理

論株価を計算するのであれば、「1株当たり来期営業収益予想×10倍」になります。

株価についての思惑

(市場金利予想やRP予想についての見通しは一定) Ⅰ. 景気が良くて、将来見通し良い(3期まで)場合 Ⅱ. 将来見通しが立ちにくくなった(3期の見通しが悪くなった)場合

8

Ⅰ Ⅱ

① ②

① ② ③

株価 株価

Page 5: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

5

株価についての思惑②

9

◆投資家の思惑はさまざま

株式市場には多くの投資家が参加しているので、将来に対する「利益」「金利」「リスクプレミアム」についての思惑はさまざまである。したがって、各自の思惑によって「株価」の予想もさまざまになる。

◆「買い」と「売り」

したがって、「現時点の株価」よりも“高く予想”している投資家は、現時点の株価で「買いたい」と思うはずである。他方、 「現時点の株価」よりも“安く予想”している投資家は、現時点の株価で「売りたい」と思うはずである。

以上から、同じ株価を見ていても、「買いたい投資家」と「売りたい投資家」が存在することになる。

板情報について①

10

◆「売り」「買い」のメカニズム「今の株価」で「売り」「買い」できるわけではない。「売りたい」場合には、「買い」が入っていないと売れない。同様に「買いたい」場合には、「売り」が入っていないと買えない。

◆板情報現時点で「売りたい」「買いたい」という注文(指値注文)を表にしたものを「板」といい、その情報を見ながら、売買注文を出すことになっている。

◆指値注文、成行注文現在の株価では「買いたくない(売りたくない)」が、「買っても良い(売っても良い)」という場合には、当該価格で指値注文を出すことになります。これが板情報になる。他方、とりあえず(価格に関係なく)「買いたい(売りたい)」という場合、「成行買い(売り)注文」を出すことになる。この場合、現在の株価に関係なく、板にある「売り指値(買い指値)」と出会うことになります。

Page 6: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

6

板情報について②

11

銘柄

値段

売呼値

2,000株 801

買呼値

1,000株 800

5,000株 799

10,000株 798

797 2,000株

796 4,000株

795 3,000株

板情報について③

12

売呼値

801

買呼値

1,000株 800

5,000株 799

798

797

796 4,000株

795

◆板に注文がなければ売買できない現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は成立しない。現在、「成行買い注文」が入った場合には「799円(5000株まで)」で成立し、「成行売り注文」は入った場合には「796円(4000株まで)」で成立することになる。

Page 7: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

7

投資家の思惑が偏った場合①

◆通常の経済状態における株価 一般に投資家の思惑は「人それぞれ」であり、確率的にある水準を中心に一様に

分布されていると考えられる(個別銘柄については必ずしも適合しない)。したがって、その時々の株価はその中心的な水準」に落ち着くことになる。

◆暴落の理由(高騰は以下の理由の逆) しかし、将来に対する不安が高まった場合、リスクプレミアムについて多くの人が

高めに想定することになり、将来株価を一斉に引き下げることがある。また、金利が将来高くなる(または、景気動向が悪化する)という場合にも同じ現象が起こると考えられる。

とはいえ、このような場合でも“通常”はすべての人が同じ考えを持つことがないので、ある一定の確率で「買い」が入るはずである。

ところが、リーマンショックのような「金融危機」の場合には、ほとんど全ての人が「株価予想を引き下げる」ので、予想についての分布が一方向(リーマンショックの場合には下落方向)に偏ってしまうため、通常とは違った、パニック的な動きになると考えられる。

投資家の思惑が偏った場合②

◆予想が一致した時の株価 そもそも「株価」自体が、「金利」「企業業績」「将来の見通し(リスク・プレミ

アム)」の人々の予想によって決定しているモノなので、同じになることは稀である。

したがって、現実問題として、「全ての人が同じ予想をする」という可能性は少ないものの、将来予想に偏りが生じた場合には、とんでもない株価になることがある。

このような「偏り」の状態が長く続くことは「ない」と考えられることから、暴落(または、高騰)の時期は短期的に収束し、安定した株価水準に戻ることになる。

◆いろいろな思惑があるから株価は安定する つまり、「安定した株価水準」というそのものが、多くの思惑が絡み合った

上に達成した株価水準ということができる(いろいろな考え方があるから、株価が「安定する」ということになる。

Page 8: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

8

15

「平常時の相場」と「異常時の相場」

平常時の相場多くの人々がいろいろな思惑を持ち、また、予想しているMAXの期間もまちまちであるような状態における相場のこと。つまり、相場に対する思惑が人によりまちまちであるような相場をいう。この場合、平均周りにある程度予想が集中するようになる。

異常時の相場多くの人が同じような思惑を持ち、その予想可能期間が非常に短く、目先の状況しかわからなくなってしまっているような相場のこと。このような相場の場合、「平均的な予想」というものが存在せず、極端な予想でも平気で実現することになる。さらに、そもそも「目先」しか予想していないので、環境の見妙な変化により、急激に相場が反転することもある。

<付録>

正規分布と標準偏差①

16

平均値±1×標準偏差

出所)群馬大学社会情報学部 青木繁伸先生HP

<付録>

Page 9: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

9

正規分布と標準偏差②

17

平均値±2×標準偏差

出所)群馬大学社会情報学部 青木繁伸先生HP

<付録>

ボリンジャーバンドの見方(平常時)

18

通常の見方通常「±1σ」の範囲の変動であり、「±2σ」で計算される上下限に至る可能性は極めて少ないと(統計的に)いえる。したがって、当面の株価の上下限の目安として「±1σ」の範囲の値を考慮すれば良いことになる。ただし、この値は日々の株価に影響されるため、常に計算をする必要がある(とはいえ、通常の値動きにおいては、大きく変動することはない)。

<付録>

Page 10: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

10

ボリンジャーバンド(平常時)の実践

19

+1σ

-1σ

+2σ

-2σ

平均線

異常に高い

異常に低い

<付録>

ボリンジャーバンドの見方(異常時)

20

異常時の見方通常 「±1σの値」も「±2σの値」も、大きく変動することはなく、むしろ、平常時であれば、「小さくなる」傾向がある。それは平時において「大きく株価が変動しない」からである。しかし、異常時になった場合には、 「±1σの値」も「 「±2σの値」もともに大きくなるため、バンドの幅が広がってくる。これは「通常の株価ではない」ということから「ボリンジャーバンド」における上下限の目処は当てにならないことになる。

<付録>

Page 11: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

11

ボリンジャーバンド

21

6,000.00

7,000.00

8,000.00

9,000.00

10,000.00

11,000.00

12,000.00

13,000.002008年

08月

19日

2008年

08月

21日

2008年

08月

23日

2008年

08月

25日

2008年

08月

27日

2008年

08月

29日

2008年

08月

31日

2008年

09月

02日

2008年

09月

04日

2008年

09月

06日

2008年

09月

08日

2008年

09月

10日

2008年

09月

12日

2008年

09月

14日

2008年

09月

16日

2008年

09月

18日

2008年

09月

20日

2008年

09月

22日

2008年

09月

24日

2008年

09月

26日

2008年

09月

28日

2008年

09月

30日

2008年

10月

02日

2008年

10月

04日

2008年

10月

06日

2008年

10月

08日

2008年

10月

10日

2008年

10月

12日

2008年

10月

14日

2008年

10月

16日

2008年

10月

18日

2008年

10月

20日

2008年

10月

22日

2008年

10月

24日

明らかに相場が違っている

<付録>

「多くの人が考える値」が大切①

22

◆ボリンジャーバンドの問題点ボリンジャーバンドで観測される上下限の株価は「計算で算出される」ので、納得しやすいものである。しかし、これはあくまでも「平常時」であり、異常時の値ではない。また、異常時に算出される上下限は極めて「現在値」から乖離しているため、現実的には使えない値といえる。

◆異常時における目処ボリンジャーバンドで「異常時」と確認できるような時期においては、その異常方向における目処が知りたいものだが、実際には「その方向(下げ相場であれば下値、上げ相場であれば上値)」の目処は立たないことになる。ただし、そこから「反転した」と確認するための目処は「ある」とされている。それが、通常時点であれば「下値支持線」であったとされる値を上抜けるか、または、通常時であれば「上値抵抗線」であったとされる値を下抜けるかした場合であると考えられている。つまり、そのようなことが起こる前の「安値」「高値」が反転の起点であり、異常な動きが“ひとまず”終了したと考えられることになる。

<付録>

Page 12: 企業の将来利益の総額の現在価値① · 板に注文がなければ売買できない 現値が「797円」であっても、そこに「売り」も「買い」もなければ、売買は

2015/11/19

12

下値支持線が上値抵抗線へ

23

6,000.00

7,000.00

8,000.00

9,000.00

10,000.00

11,000.00

12,000.00

13,000.00

<付録>

「多くの人が考える値」が大切②

24

◆平時における「思惑」平時においても「株価に対する思惑」は人それぞれであり、一様ではない。しかし、平時であれば、ある一定の確率で、その平均値に収束すると考えられている。そして、その平均値から離れれば離れるだけ、そのような違った思惑をしている人が減ると統計では考えられている。

◆異常時における「思惑」ところが、異常時では、「平均値」なるものが存在しないため、どこの値にも収束しなくなる。そのため、いろいろな情報により、株価が大きく上下することになると考えられている。したがって、異常時では「目処」が存在しなくなる。ただ、「これが目処」という値があれば、多くの人が「そう思う」ため、それを「目処」として、事実上機能することになる。

◆シンプルなチャート分析が良く当たるわけこのように多くの人が「信じる」目処は、できるだけシンプルなものに限る。複雑であればあるだけ、信じる人が少なくなるので、「目処」として機能しなくなるからである。

<付録>