相模原市で発見されたヤマコウモリのねぐらについて神奈川|自然誌資料(23):...

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神奈川|自然誌資料(23):25-26, Mar.2002 相模原市で発見されたヤマコウモリのねぐらについて 青木雄司 Yuji Aoki:Notesonacolony of Japanese large noctule Nyctalus aviator found in SagamiharaCity はじめに ヤマコウモリ(めctalusavi α tor はヒナコウモリ 科に分類され,翼を広げると 40cm ほどにもなる大型 の食虫性コウモリである 。 この種のだす超音波は 20 Iz 前後で,人間の可聴域の声も出すと言われて いる(前田, 1995 ねぐらとする樹洞のある大木の減少によって,ヤマ コウモリをはじめとする樹洞性コウモリの個体数の減 少も指摘されている(前田, 1996 )。また,ヤマコウモ リは環境省のレッドデータブックでは絶滅の危険が増 大しているとされる絶滅創期重 E種に指定されている。 神奈川県内でも記録は数例にとどまり,現存のね ぐ らも見つかっ ていなか った(中村, 1995 )。今回, 著 者はヤマコウモリのねぐらを相模原市上溝で発見し たので報告する。 なお,コウモ リの発する超音波は Ul SoundAdvice 社製パットデイテクタ -1', NI-3 ,ねぐらのあるケヤキ の樹高はK式測高器,ねぐらに使われている樹洞の 高さは検測梓を用いて調べた。 ヤマコウモリのねぐらと判断した根拠 ねぐらの中から標本を採集していないが,以下の3 点からヤマコウ モリのね ぐら と判断した。 1. ねぐら下でヤマコウモリの死体を拾得した。 2. ね ぐらから飛び出す大型のコウモリを確認した。 3. 可聴域の声と, 20kHz 前後の超音波を確認した。 ねぐらについて ねぐらが発見されたのは ,相模原市上溝,佐藤行 雄氏宅の敷地内にあるケヤキの大木で,樹高 32.2 m ,胸高幹周 6.59 m であった(図 l ,図 2 )。 2001 10 月四日に調査 したとこ ろ,明るい内の 16:20 から 16 55 にかけて最低35 頭のヤマコウモリが 2 カ所の樹洞から飛び出すのを確認した(当日,横浜 の日の入り時刻は 16:50 。 その際にホオジロの地鳴 きを激しくしたようなチッチッ という可聴域の声と 25 1 ねぐらが発見された場所.国土地理院 I: 50000 形図「上野原」より作成. 20kHz 前後の超音波を確認 した。飛び出した 2カ所 の樹洞は,樹洞下部の高さ 13.5m ,入口(縦) 40 cm ×(横) 10 cm と(図 3 ),樹洞下部の高さ 17.7m ,入 口(縦) 80 cm ×(横) 5 cm で、あった(図 4 。 これら の樹洞の入口の値は目測によるものである。 ねぐら下で‘拾得した死体について 2001 5 l 日,県道上にて著者がヤマコウモリの 死体を拾得した(図 5 。 死体は損傷が激しく,頭骨 などに骨折が見られた 。そのため,計測可能部位は 前腕長(62.5mm )のみで あった。現在,この標本 は相模原市立博物館に収蔵されている 。

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Page 1: 相模原市で発見されたヤマコウモリのねぐらについて神奈川|自然誌資料(23): 25-26, Mar.2002 相模原市で発見されたヤマコウモリのねぐらについて

神奈川|自然誌資料(23):25-26, Mar.2002

相模原市で発見されたヤマコウモリのねぐらについて

青木雄司

Yuji Aoki: Notes on a colony of Japanese large noctule Nyctalus aviator

found in Sagamihara City

はじめに

ヤマコウモリ(め;ctalusaviαtor)はヒナコウモリ

科に分類され,翼を広げると40cmほどにもなる大型

の食虫性コウモリである。この種のだす超音波は

20妊Iz前後で,人間の可聴域の声も出すと言われて

いる(前田, 1995)。

ねぐらとする樹洞のある大木の減少によって,ヤマ

コウモリをはじめとする樹洞性コウモリの個体数の減

少も指摘されている(前田,1996)。また,ヤマコウモ

リは環境省のレッドデータブックでは絶滅の危険が増

大しているとされる絶滅創期重E種に指定されている。

神奈川県内でも記録は数例にとどまり,現存のねぐ

らも見つかっていなかった(中村, 1995)。今回, 著

者はヤマコウモリのねぐらを相模原市上溝で発見し

たので報告する。

なお,コウモリの発する超音波はUl回 SoundAdvice

社製パットデイテクタ-1',但NI-3,ねぐらのあるケヤキ

の樹高はK式測高器,ねぐらに使われている樹洞の

高さは検測梓を用いて調べた。

ヤマコウモリのねぐらと判断した根拠

ねぐらの中から標本を採集していないが,以下の3

点からヤマコウモリのねぐらと判断した。

1.ねぐら下でヤマコウモリの死体を拾得した。

2.ねぐらから飛び出す大型のコウモリを確認した。

3.可聴域の声と, 20kHz前後の超音波を確認した。

ねぐらについて

ねぐらが発見されたのは,相模原市上溝,佐藤行

雄氏宅の敷地内にあるケヤキの大木で,樹高 32.2

m,胸高幹周 6.59mであった(図 l,図2)。

2001年10月四日に調査したところ,明るい内の

16:20から 16:・55にかけて最低35頭のヤマコウモリが

2カ所の樹洞から飛び出すのを確認した(当日,横浜

の日の入り時刻は16:50)。その際にホオジロの地鳴

きを激しくしたようなチッチッ という可聴域の声と

25

図1 ねぐらが発見された場所.国土地理院 I: 50000地

形図「上野原」より作成.

20kHz前後の超音波を確認した。飛び出した 2カ所

の樹洞は,樹洞下部の高さ 13.5m,入口(縦) 40 cm

×(横) 10 cmと(図3),樹洞下部の高さ 17.7m,入

口 (縦)80 cm× (横)5 cmで、あった(図4)。 これら

の樹洞の入口の値は目測によるものである。

ねぐら下で‘拾得した死体について

2001年5月l日,県道上にて著者がヤマコウモリの

死体を拾得した(図5)。 死体は損傷が激しく,頭骨

などに骨折が見られた。そのため,計測可能部位は

前腕長(62.5mm)のみであった。現在,この標本

は相模原市立博物館に収蔵されている。

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図2 ねぐらのあるケヤキ (右側).

図3ヤマコウモリの出て くる樹洞I.

図4 ヤマコウモリの出てくる樹洞2.

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図5拾得したヤマコウモリ.

謝辞

ケヤキの所有者であり,貴重なデータの発表につ

いて許可をいただいた佐藤行雄氏,ヤマコウモ リの

同定をしていただ、いた箱根町立森のふれあい館の石

原龍雄氏,助言をいただいだ掬自然教育研究セン

ターの白石浩隆氏, ケヤキの計測をしていただいた

神奈川県自然環境保全センタ ーの粛藤央嗣氏に厚く

お札を申し上げる。

引用文献

中村一恵, 1995.晴乳類,神奈川県レッドデータ生物調査団編,

神奈川県レッドデータ生物調査報告書, pp.157-170.神奈

川県立生命の星・地球博物館,神奈川

前田喜四雄監, 1995.コウモリウォッチングガイド,15pp.ナチュ

ラリスト・クラブ,東京

前田喜四雄, 1996.樹j同性コウモリ. 日高敏隆監, 日本動物大

百科第 l巻,pp.48-49.平凡社,東京

(神奈川県立宮ヶ瀬ビ、ジターセンター)