産業現場におけるethernetの導入 ~fa lan ケーブ …...fa lan ケーブルを...

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[情報系ネットワークとしてのイーサネットの発展] 現在、企業のデータネットワーク基盤を提供するEthernet 技術が、米国Xerox社のパロアルト研究所で開発されたのは 1976年のことでした。そのルーツは、1970年にハワイ大学で 開発されたAloha-Netで、これに関与していたRobert Metcalfe 氏がDavid Boggs 氏と共に”共有メディアにおける 新しい通信方式”として考案したものと言われております。 当初のNetwork は”Yellow“と言われる同軸ケーブルにトラ ンシーバを接続し、セグメント上のコンピュータ間で通信を行う というものでした。その後DEC/INTEL/Xeroxの3社によっ てEthernetが標準化され、DIX Ethernet V1.0 と呼ばれる標 準 規 格が 1 9 8 0 年に公 開されました。その 後 改 定された Ethernet IIは、現在のIEEE802.3規格の礎としてEthernet の基準となり、今日の情報ハイウェイへと発展して行くことに なります。 当初はファイルやプリンタを共有するにすぎなかったネットワ ークは、通信機器の発達を含む情報基盤の整備によりe- mailによる情報伝達やWeb による情報公開が可能になり、 やがては経営の効率化を図り意思決定する 上で重要なERP、顧客との連携を深めるため に欠かせないCRM、あるいは、取引先との受 発注、資材調達、在庫管理および製品配送を 司るSCMのように多様なアプリケーションが企 業のデータインフラ上を動作するようになり、も はやネットワークを抜きに企業を運営することは 難しい状況になりました。 [産業用イーサネットの現状と課題] 一方でEthernet は、システムを柔軟性や可 変性をもって構成できる点において大きな魅 力があり、製造現場でも徐々に浸透しつつあり ます。 しかしながら、現状においてはPLC (Programmable Logic Controller)と呼ばれ る制御機器間あるいはHMI(Human Machine Interface)との間のコントローラ上位 レベルの通信にて限定的に導入されるのが主 で、ロボット、 I/O 等のコントローラ下位レベルや分析計、ポン プ、流量計、電磁弁、リミットスイッチ等の非常にセンシティブな 動作を要求するセンサ・アクチュエータレベルでの活用にお いては多くの課題を残しています。課題の一つは時間確定 性であり、常に最新の測定数値等に基づき、短い時間間隔 で複雑なプロセスを順序良く実行するためには、マイクロ秒以 下の時間同期を実現する制御プロトコルを実装した通信機 器が必須であり、これらの実用開発が期待されるところです。 一方で、機器やケーブルの環境に対する耐性や通信品質 の確保も重要な要素です。高温多湿でノイズが発生するよう な使用条件の劣悪な産業現場においては、オフィスにおいて 汎用的に使用されている情報機器やケーブル、コネクタをそ のまま使用して同様の通信品質を確保することは難しく、特 殊な加工を施した機器、ケーブルおよびコネクタを用意しなけ ればなりません。これらの課題が克服できば、HMI のみを利 用した制御用データだけの通信ではなく、画像、音声等を含 めた多種多様な通信が可能になり、制御の方法もより容易な ものに改良していくことが期待できます。 産業現場におけるEthernetの導入 ~FA LAN ケーブルの重要性~ ■ 大洋電機株式会社 図1.情報系ネットワークと産業用ネットワーク

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Page 1: 産業現場におけるEthernetの導入 ~FA LAN ケーブ …...FA LAN ケーブルを 敷設する場合、上述の ように様々な 種類のコ ネクタとケーブルをその

[情報系ネットワークとしてのイーサネットの発展]  現在、企業のデータネットワーク基盤を提供するEthernet

技術が、米国Xerox社のパロアルト研究所で開発されたのは

1976年のことでした。そのルーツは、1970年にハワイ大学で

開発されたAloha-Netで、これに関与していたRobert

Metcalfe 氏がDavid Boggs 氏と共に”共有メディアにおける

新しい通信方式”として考案したものと言われております。

当初のNetwork は”Yellow“と言われる同軸ケーブルにトラ

ンシーバを接続し、セグメント上のコンピュータ間で通信を行う

というものでした。その後DEC/INTEL/Xeroxの3社によっ

てEthernetが標準化され、DIX Ethernet V1.0 と呼ばれる標

準規格が1980年に公開されました。その後改定された

Ethernet IIは、現在のIEEE802.3規格の礎としてEthernet

の基準となり、今日の情報ハイウェイへと発展して行くことに

なります。

 当初はファイルやプリンタを共有するにすぎなかったネットワ

ークは、通信機器の発達を含む情報基盤の整備によりe-

mailによる情報伝達やWeb による情報公開が可能になり、

やがては経営の効率化を図り意思決定する

上で重要なERP、顧客との連携を深めるため

に欠かせないCRM、あるいは、取引先との受

発注、資材調達、在庫管理および製品配送を

司るSCMのように多様なアプリケーションが企

業のデータインフラ上を動作するようになり、も

はやネットワークを抜きに企業を運営することは

難しい状況になりました。

[産業用イーサネットの現状と課題]  一方でEthernet は、システムを柔軟性や可

変性をもって構成できる点において大きな魅

力があり、製造現場でも徐々に浸透しつつあり

ます。 しかしながら、現状においてはPLC

(Programmable Logic Controller)と呼ばれ

る制御機器間あるいはHM I ( H u m a n

Machine Interface)との間のコントローラ上位

レベルの通信にて限定的に導入されるのが主

で、ロボット、I/O 等のコントローラ下位レベルや分析計、ポン

プ、流量計、電磁弁、リミットスイッチ等の非常にセンシティブな

動作を要求するセンサ・アクチュエータレベルでの活用にお

いては多くの課題を残しています。課題の一つは時間確定

性であり、常に最新の測定数値等に基づき、短い時間間隔

で複雑なプロセスを順序良く実行するためには、マイクロ秒以

下の時間同期を実現する制御プロトコルを実装した通信機

器が必須であり、これらの実用開発が期待されるところです。

 一方で、機器やケーブルの環境に対する耐性や通信品質

の確保も重要な要素です。高温多湿でノイズが発生するよう

な使用条件の劣悪な産業現場においては、オフィスにおいて

汎用的に使用されている情報機器やケーブル、コネクタをそ

のまま使用して同様の通信品質を確保することは難しく、特

殊な加工を施した機器、ケーブルおよびコネクタを用意しなけ

ればなりません。これらの課題が克服できば、HMI のみを利

用した制御用データだけの通信ではなく、画像、音声等を含

めた多種多様な通信が可能になり、制御の方法もより容易な

ものに改良していくことが期待できます。

産業現場におけるEthernetの導入 ~FA LAN ケーブルの重要性~ ■ 大洋電機株式会社

図1.情報系ネットワークと産業用ネットワーク

Page 2: 産業現場におけるEthernetの導入 ~FA LAN ケーブ …...FA LAN ケーブルを 敷設する場合、上述の ように様々な 種類のコ ネクタとケーブルをその

[情報系と産業用イーサネット機器の違い]  情報系における通信機器と産業用の通信機器の仕様は、

Layer 2 レベルの機器構成や設計においては全く同等です

が、その動作環境においては著しく異なります。情報系の機

器群はデータセンタのような空調等により快適に制御された

環境での運用が主となっておりますが、産業用の機器は振

動、ノイズあるいは高温度等の比較的に悪環境下において

運用されることになります。また、工場内においては設置する

スペースも制限されることが多く、制御盤内等に取り付け可能

なコンパクトなサイズの機器が求められます。下記に産業用

のイーサネットスイッチを示します。

[産業用イーサネットケーブルの重要性]  FA LAN ケーブルにおいても伝送特性およびピン配列等

の通信に関する仕様は、情報系で使用されるケーブルと同

等で、銅線ケーブルと光ファイバケーブルを状況に応じて使

用します。しかしながら、産業用のイーサネットケーブルとそれ

に成端するコネクタは、想定される悪環境に耐えうる加工が

必要となります。銅線ケーブルを使用する場合、コネクタに関

してはIP20 のRJ45 コネクタをそのまま使用できる場合もありま

すが、IP65/IP67 クラスと呼ばれる防水・防塵・防油性の優

れたものを外部ハウジングに使用することになります。IP65 と

IP67 の違いは以下のとおりです。

 IP65: 粉塵の侵入から完全に保護されておりかつ、いかな

    る方向からの水の直接噴流によっても有害な影響を

    受けない。

 IP67: 粉塵の侵入から完全に保護されておりかつ、規定の

    圧力・時間で水中に没しても、水が浸入しない。

 下記にIP20, IP67 のVARIANT 1 および4 のコネクタ部品

構成を示します。 図2. 産業用イーサネット機器

図3. IP20 RJ45 プラグ

図4. IP67 VARIANT4 RJ45 プラグ

図5. IP67 VARIANT4 RJ45 ジャック

Page 3: 産業現場におけるEthernetの導入 ~FA LAN ケーブ …...FA LAN ケーブルを 敷設する場合、上述の ように様々な 種類のコ ネクタとケーブルをその

 ケーブルにおいても同様に考慮が必要で、防滴あるいは防

水ケーブルを用途に合わせて敷設するべきですし、産業ロボ

ット、自動工作機等の可動部に対応するためには耐屈曲性

能の優れたケーブルも用意するべきでしょう。可動部には、通

常の検査に加えて下図のような耐屈曲試験やU字ベンド試

験によって性能を評価されたケーブルを使用する必要があり

ます。

 一方、高周波特性が強い現場にはアルミテープシールド、

低周波特性が強い現場には編組シールドを施したケーブル

を敷設する必要があります。また、シースに関しても難燃で耐

油性の高いものであることは言うまでもありません。下図にア

ルミテープシールド、編組シールドFA LAN ケーブルおよびそ

の両方の加工を施したFA LAN ケーブルを記します。

図6. IP67 VARIANT1 RJ45 プラグ

図7. IP67 VARIANT1 RJ45 ジャック

図8. FA LAN ケーブルの耐屈曲性能試験

図9. FA LAN ケーブルのU 字ベンド試験

図10. 周波特性に対応したFA LAN ケーブル

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 FA LAN ケーブルを

敷設する場合、上述の

ように様々な種類のコ

ネクタとケーブルをその

運用環境や用途に応

じて設置する必要があ

ります。下記に高周波

および低周波の双方

に対応したFA LANケ

ーブルとコネクタのバリ

エーションを一例として

示します。

[製造業の将来-オフィスと生産現場の統合-]  製造業においては、制御系のネットワークと情報系のネット

ワークを別々に構築するのが、現状においても一般的です。

現在のコントロールネットワークは、TCP/IP 上で動作するアプ

リケーションを利用する情報系と異なり、独自のプロトコルで運

用されております。故に、相互間で様々な情報を交換するの

は非常に困難で、ERP/CRM/SCM 等の戦略的情報システ

ムから最終的な生産ラインまでをシームレスに運用することを

制限することになります。これらの最終的な目的に達するに

は、環境に則したFA LAN ケーブルや産業用の情報機器に

よって構成される工場内の通信インフラの整備および情報系

と互換性のあるプロトコルの採用が必須と考えます。工場の

Ethernet によるネットワーク化とTCP/IP に準拠したアプリケ

ーションの導入が実現することにより、現在は分断されている

生産現場と戦略的情報システムを統合し効率的な企業運営

が可能になる日も遠い未来ではないかもしれません。

図11 二重シールド仕様のFA LAN ケーブルと取り付け可能なプラグまたはジャック