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盲導犬協会所属のラブラドール・レトリバーに認められた白内障

原著論文

盲導犬協会所属のラブラドール・レトリバーに認められた白内障

小林 由佳子 1）、安田 かつら 2）、中村　透 2）

1）ありす動物クリニック（神奈川県開業）2）公益財団法人日本盲導犬協会

Cataracts of Labrador Retrievers in the Guide Dog AssociationYukako Kobayashi1), Katsura Yasuda2), Toru Nakamura2)

1) Arisu Animal Clinic (Kanagawa)2) Japan Guide Dog Association

抄　録　日本盲導犬協会所属のラブラドール・レトリバー273頭（1歳未満199頭、1歳から3歳61頭、3歳以上13頭）に眼検査を実施した。眼異常として認められた白内障については混濁の発症部位により分類した。　白内障は1歳未満の28頭、1歳から3歳の7頭、3歳以上の11頭に認められた。このうち、1歳未満の11頭、1歳から3歳の3頭、3歳以上の1頭に認めた後嚢下縫合線上の混濁と極部混濁は、レトリバー種において遺伝性が示唆されている型の白内障であった。

キーワード：ラブラドール・レトリバー、盲導犬協会、白内障、眼検査

Abstract Labrador Retrievers in the Japan Guide Dog Association were examined with ophthalmic diagnostic procedures. Application of the eye examination was tested on 273. 199 dogs were under 1 year old, 61 dogs were between 1 and 3 years old and 13 dogs were over 3 years of age. Cataracts were classified by location. In the Retrievers breed, in which posterior polar subcapsular and sutures opacities are believed to be inherited. These types of cataracts exhibited in 28 under 1 year of age, 3 between the age of 1year and 3 years,1 over 3 years of age.

Keywords : Labrador Retrievers, Guide Dog Association, cataract, ophthalmic examination

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日本補助犬科学研究　Vol.5　No.1　35

盲導犬協会所属のラブラドール・レトリバーに認められた白内障

Ⅰ.　序論

　身体障害者補助犬法の成立により公共施設等への身体

障害者補助犬の受け入れが認められるようになり、補助

犬の社会参加が活発になった。これに伴って獣医学的立

場から補助犬の公衆衛生上の安全性確保と適性の判断が

求められるようになった。遺伝性疾患を持つ犬を補助犬

として社会に送り出すことは、犬の福祉が保たれないこ

とはもとより、使用者となる障害者にとっても補助犬の

継続使用が困難となることから社会的にも大きな問題と

なる。今回、獣医学的適性の判断に重要な検査項目であ

る遺伝性眼疾患の検査を身体障害者補助犬である日本盲

導犬協会所属のラブラドール・レトリバーに対して実施

した。眼異常を認めた犬の中には将来視覚異常を発症す

る可能性がある疾患や遺伝性が疑われる疾患の罹患犬も

含まれていた。今回はそのうちの1つである白内障につ

いての検査結果を報告する。

Ⅱ．研究方法

1 ．対象　日本盲導犬協会所属のラブラドール・レトリバーのう

ち、1歳未満の199頭（メス；97頭、オス；102頭）、1歳か

ら3歳の61頭（メス；30頭、オス；31頭）、3歳以上の13

頭（メス；7頭、オス；6頭）を対象とした。

2 ．方法　日常行動を問診し、視覚検査として威嚇瞬目反応試験

を実施し、必要に応じて綿球落下試験および迷路通過試

験等を行った。対光反射を試験後、散瞳前に外眼部視診

と細隙灯顕微鏡による前眼部および眼内の観察を実施し

た。0.4 ％オキシプロカイン（ベノキシール点眼液®）で

点眼麻酔後、圧平眼圧計であるトノペン®（米国ライカー

ト社）により眼圧測定を行い、その後に隅角検査を実施

した。散瞳薬の点眼により完全散瞳が得られた時点で細

隙灯顕微鏡により水晶体を観察し、所見を記録した。

　網膜は、＋20Dレンズと双眼倒像検眼鏡、および直像

検眼鏡により観察した。検眼鏡所見を記録し、後に精査

するため、水晶体および眼底の写真を撮影した。水晶体

の異常所見は混濁部位によって前嚢下混濁、核混濁、後

嚢下混濁に分類した。このうち後嚢下混濁は縫合線上の

混濁、極部混濁、縫合線とは無関係の位置の混濁に分類

し、後嚢下縫合線上の混濁と極部混濁を遺伝性が示唆さ

れる白内障とした2）,3）,4）,6）,8）。

Ⅲ．結果

　ラブラドール・レトリバー、1歳未満の199頭（平均年

齢0.68才）中、白内障を認めた症例は28頭（14％）であ

った。このうち遺伝性が示唆される白内障が11頭（後嚢

下縫合線上の混濁が片眼に認められた症例が3頭、両眼

に認められた症例が1頭、後嚢下極部の混濁を片眼に認

めた症例が7頭）（5.5 %）であった。遺伝性が示唆され

ない混濁は17頭（後嚢下の縫合線とは無関係の位置の混

濁が片眼に認められた症例が13頭、両眼に認められた症

例が4頭）（8.5%）であった。

　1歳から3歳の61頭（平均年齢1.40才）中、混濁を認

めた症例が7頭（11.5 ％）であった。このうち遺伝性が

示唆される白内障は3頭（後嚢下縫合線上の混濁が片眼

に認められた症例が2頭、両眼に認められた症例が1頭）

（4.9％）であった。遺伝性が示唆されない混濁は4頭（前

嚢下後嚢下混濁が片眼に認めた症例が1頭、後嚢下の縫

合線とは無関係の位置の混濁が片眼に認められた症例が

1頭、両眼に認められた症例が2頭）（6.6%）であった。

　3歳以上の13頭（平均年齢5.09才）中、11頭（84.6％）

に白内障が認められた。このうち遺伝性が示唆される白

内障は2頭（後嚢下縫合線上の混濁が両眼に認められた

症例が1頭、後嚢下極部の混濁〔写真1〕を片眼に認めた

症例が1頭）（15.3%）であった。遺伝性が示唆されない

混濁は9頭（後嚢下の縫合線とは無関係の位置の混濁が

片眼に認められた症例が3頭、両眼に認められた症例が1

頭、前嚢下混濁を認めた症例が4頭、核（周辺部）混濁〔写

真2〕を両眼に認めた症例が1頭）（69.2%）であった。

Ⅳ．考察

　計画繁殖された眼異常を認めない盲導犬訓練センター

所属犬に眼検査を実施したところ1歳未満のラブラドー

ル・レトリバー 199頭中、28頭（14 ％）。1歳から3歳の

61頭中7頭（11.5 ％）、3歳以上の13頭中11頭（84.6 ％）

全273頭中46頭（16.8 %）に白内障を認めた。このうち、

1歳未満で11頭、1歳から3歳で3頭、3歳以上で1頭に認

めた白内障（後嚢下極部と縫合線上の混濁）は、レトリバ

ー種において遺伝性が示唆されている型の白内障であっ

た（全273頭中15頭（5.5 %））。今回の結果から1歳未満

の犬にも白内障がみられること、白内障は加齢に伴って

発症率が上昇していること、白内障の中には遺伝性が示

唆される型の白内障があることが分かった。

　ラブラドール・レトリバーに認められる白内障には

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盲導犬協会所属のラブラドール・レトリバーに認められた白内障

様々な型がある。遺伝性と考えられている主な白内障に

は、3 ヶ月で始まり1 〜 2歳で全盲になることもある急

速に進行する型の白内障、6 ヶ月から6歳で認められる後

嚢下縫合線上混濁および極部混濁型の白内障3）,4）、核（周

辺部）混濁型の白内障5）、小眼球その他の眼異常を伴う

先天白内障などがある4）。

　今回、後嚢下縫合線上混濁および極部混濁型の白内障

の発症率は5.5 %（15/273）で1989年にCurtisらが報

告した5.5 %という報告と一致する。レトリバー種にお

いて、この型の白内障はこれまで遺伝形質としては優性

遺伝が示唆されていたが4）,8）、2004年にAguirreらによ

って、常染色体劣性遺伝が示唆された型の白内障である

ことが示された1）。また、3歳以上に1頭認めた核（周辺部）

混濁型の白内障も遺伝性が示唆されている5）。今回の検

査では認められなかったが、若年で視覚消失する急速進

行型の白内障は遺伝的にホモ接合体であり、今回15頭に

認められた後嚢下縫合線上の混濁および極部混濁型の白

内障がヘテロ接合体によるものであると考えている論文

もある7）,8）ことからも、今後、繁殖指導を求められた場

合にはこれらの点に配慮した指導をしていきたい。

Ⅴ．結論

　今回、検査時点では直接視機能に影響を及ぼす白内障

は認められなかったが、白内障は進行すると視覚異常の

原因となる疾患である。現在、日本盲導犬協会の各訓練

センターに所属する全頭に対して、補助犬としての訓練

が始まる前の生後6 ヶ月から1年の間に初回眼検査を行

い、現役盲導犬に対しては5歳齢での眼検査を実施して

いる。これは、加齢に伴って発症率が上昇する白内障や

その他眼疾患の罹患、進行を早期に把握し、適切な対応

をすることが目的であり、このことは身体障害者補助犬

使用者にとって重要であると考える。

　現在、遺伝性が示唆される白内障を含めた様々な眼疾

患の発症と血統の関係は、眼検査の結果をデータベース

化することにより、家族性で出現する疾患などの統計的

解析を進めている。今後、現在解析中の各種眼疾患の発

症と血統の関係の結果に基づいて、身体障害者補助犬で

ある盲導犬の育成において、視覚異常が発症する可能性

がある眼疾患の素因を持つ犬を繁殖することのないよう

に助言に努めていきたい。

文献1） Aguirre, G., Holle, D., Yu-Speight, A., et al.（2004）. A re-exami-

nation of the mode of inheritance of posterior cortical cataracts in Labrador and Golden Retrievers（abstract）. American College of Veterinary Ophthalmologosts 35th Annual Conference, 25.

2） American college of veterinary opthalmologosts.（2007）. Ocular disorders presumed to be inherited in purebred dogs. ISBN

3） Barnett, K.C.（1978）. Hereditary cataract in the dog. J Small Anim Pract,（19）, 109.

4） Barnett, K.C.（1985）. The diagnosis and differential diagnosis of cataract in the dog. J Small Anim Pract,（26）, 305 -316.

5） Curtis, R. & Barnett, K.C.（1989）. A survey of cataracts in Golden and Labrador retrievers. J Small Anim Pract,（30）, 277-

286.6） Gelatt, K.N.（1972）. CATARCTS in the Golden Retriever Dog.

Vet Med Sm Anim Clin,（67）, 1113 -1115.7） Gelatt, K.N.（2007）. Veterinary Ophthalmology 4th. Blackwell

USA.8） Rubin, L.F.（1974）. Cataract in Golden Retrievers. J Am Vet Med

Assoc,（165）, 457-458.

写真1　ラブラドール・レトリバー、雄、7ヶ月齢左眼後嚢下極部に認めた白内障A　前眼部像。水晶体中央部にわずかな混濁がみられる。B　スリット像。水晶体後嚢下極部に混濁がみられる。

写真2　�ラブラドール・レトリバー、雄、4歳11ヶ月齢

両眼の水晶体核白内障徹照像。タペタムからの反帰光を背景に水晶体核周辺部の混濁が影のように観察できる。

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