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極端紫外域におけるフラーレンの光イオン化過程 IMS Group Takanori MORI, Dr. 森崇徳 Junkei KOU, Dr. 江潤卿 Masaki ONO, Dr. 小野正樹 S.V.K. Kumar (from Tata Inst., India) Koichiro MITSUKE, Dr. 見附孝一郎 Okayama Univ. Group Yusuke HARUYAMA, Mr. 春山祐介 Yoshihiro KUBOZONO, Dr. 久保園芳博 電子 C 60 イオン SR (EUV) C 60

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極端紫外域におけるフラーレンの光イオン化過程

IMS GroupTakanori MORI, Dr. 森崇徳

Junkei KOU, Dr. 江潤卿

Masaki ONO, Dr. 小野正樹

S.V.K. Kumar (from Tata Inst., India)Koichiro MITSUKE, Dr. 見附孝一郎

Okayama Univ. GroupYusuke HARUYAMA, Mr. 春山祐介

Yoshihiro KUBOZONO, Dr. 久保園芳博

電子

C60イオン

SR (EUV)

C60

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ナノメター物質の電子構造と共同現象

• ナノメター物質の合成・単離技術が近年著しく進歩した結果、特定のクラスターサイズと特定の幾何構造を持つフラーレン類が比較的容易に得られるようになった。

• 多くのフラーレンは大量合成が困難であるが、高強度の放射光分光ステーションならば、微量試料でも極端紫外域の分光・動力学実験が十分に可能であろう。

 フラーレンや金属内包フラーレン

    新奇な構造と新奇な反応性

    超伝導体、強磁性体の可能性

金属内包フラーレンの例 Dy@C60

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フラーレン類から飛出した光電子の多重散乱

量子井戸の壁放射光

光電子がフラーレン内に閉じ込められる様子

20φµψ∝ EW

内向波と外向波の干渉による定在波

C60骨格の

近傍に局在

放射光でフラーレンから電子を取り

出し、その電子を炭素ケージ内の量

子井戸に閉じ込めることが可能であ

る。こういった電子内包フラーレンは、

新奇な量子干渉効果を持ち、ケージ

径や電子波の振動数を変えてそれを

制御できる。

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ナノメター物質に見られる電子の共同現象

フラーレン類の中に存在する価電子を放射

光によって集団操作することができる。これ

をプラズモン励起とよび、金属固体内や表面

のプラズマ振動励起と類似の現象である。い

ずれも「価電子の海」全体がイオン殻に対し

て振動するという描像で説明されてきた。

放射光

価電子の海(負電荷)

イオン殻(正電荷)

プラズマ振動

Plasmonresonance

[ ]分極率 :)(

)(Im

E

EPres

α

α−∝

Hertel, Kamke et al. (1992)

TDLDA calc.Wendin & Wästberg (1993)

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Photoabsorption cross sections of C60

Compiled by J. BerkowitzArgonne National Laboratory, Illinois J. Chem. Phys. 111, 1446 (1999).

*

**

*

**

**

*

*

**

*

*

*

***

*

A. L. Smith, J. Phys. B29, 4975 (1996).P. F. Coheur et al., J. Phys. B 29, 4987 (1996).H. Yasumatsu et al., J. Chem. Phys. 104, 899 (1996). Reduced by factor 2.42

J. W. Keller & M. A. Coplan, Chem. Phys.Lett. 193,89 (1992).

1keV EELS; Normalized to 1)

R. F. Yoo et al., J.Chem. Phys. 96, 911 (1992).Normalized to 4)

I. V. Hertel, et al., Phys. Rev. Lett. 68,784 (1992).Normalized to 4)

1)

2)

3)

4)

5)

6)

Photon energy or EELS

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Hertel et al, (1992)

Yoo et al, (1992)

Jeansch et al, (2000)

Karvonen et al, (1997)

Present study

Ip 20 10050 150 180 280 3400Photon energy (eV)(7.6)

形状共鳴

②Colavita et al.(計算); ピーク構造あり

Phys. Chem. Chem. Phys. 3 (2001) 4481.

Photon energy (eV)

Cro

ss s

ectio

n (M

b)

60×σ(C)

分子的

原子的

0

200

400

600

800

1000

0 20 40 60 80 100 120 140

①Hertel et al.(実験); 顕著なピークなし。

プラズモン共鳴

Photon energy (eV)360 4 8 12 16 20 24 28 32

0

10

20

30

40

Ion

yiel

d (a

rb.u

nits

)

Phys.Rev.Lett.68 (1992) 784.

C60の光吸収測定: 過去の主な研究と対象波長領域

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1. 不確定な23-180 eVの領域で、正確な光イオン化収量曲線を取得

2. 巨大共鳴の高エネルギー側におけるピーク構造の有無を検討

3. 多価イオンの光イオン化効率曲線 価電子オージェ機構

4. 解離イオンの光イオン化効率曲線 電子緩和と振動緩和の競争

C60のレーザー多光子イオン化によるC60-2mn+の生成 (C58

2+, C562+ ….)

実 験 装 置

光源: UVSOR軌道放射光施設

分光器: BL2B2 18 m球面回折格子斜入射型

      G1:80-200 eV, G2:40-100 eV, G3: 23-50 eV

hν (eV) E/∆E 光フラックス (1010 /s)

30 3500 3.5

90 1000 40

イオン検出法: 飛行時間型質量分析

入口、出口スリット:300µm

研 究 目 的

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フラーレンの昇華炉と質量分析装置

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膜厚計

イオン飛行管試料炉

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(k) 中枢

コンピュータ

LAN

GPIB

(h) 膜厚計

制御ユニット

GPIB

(e) 高圧

パルス発生器

(d) 遅延

信号発生器

(c) 高速多チャネルスケーラ(MCS)

(a) 前置

増幅器

(b) 波高

弁別器

(i) 微少

電流計

GPIB

(j) パルス

モーター制御装置

GPIB

分光器回折格子の回転機構(波長掃引)

光ダイオード検出器

光イオン化領域

膜厚計

2次電子増倍板(MCP)

スタート

ストップ ヒストグラムデータ

押出し電極

トリガー信号

分光器スリットの並進機構(焦点調整)

(f) 時間波高変換器(TAC)

スタート

ストップ SCA出力

GPIB

(g) 高速

カウンター

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パネル1

パネル2

パネル4 パネル3 パネル5

図3 プログラム実行画面(アルゴン気体による測定例)

ボックス①

ボックス②膜厚計ボタン

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0

200

400

600

800

1000

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

Time of Flight (µs)

C60+

C602+

eV30=νh

Ion

coun

ts  

(arb

.uni

ts)

10

C60+

C602+

C603+

13 16 19 22 25

eV50=νh

C60の飛行時間質量スペクトル

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20 40 60 80 100 120 140 160 1800

4

8

12

16

20C

60

+ from C60

G1

G3

G2

Photon energy (eV)

Ion y

ield

(a

rb. units)

原子的性質による単調減少

我々の結果Colavitaらの計算炭素原子の光吸収断面積

分子的性質による構造

C60から生成した C60+の光イオン化効率曲線

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理論計算との比較

Photon energy (eV)

Ion y

ield

(ar

b. units)

20 30 40 50 600

4

8

12

16

20 Peak A(26 eV)

Peak B(34 eV)

Level C(40-50 eV)

我々の結果Colavitaらの計算Hertelらの実験

50 eV以下: 分子の性格を反映した吸収曲線

 大きな角運動量を持つ価電子の励起に基づく形状共鳴

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Theoretical study of the valence photoemission spectra of C60P. Colavita et al.PCCP 3, 4481 (2001).

球対称の井戸型ポテンシャルを仮定したときの軌道対称性(ジェリウム殻モデル)

我々のイオン収量曲線から予測可能な量

• 初期占有軌道のエネルギー

• 遷移先の空軌道のエネルギー

• Ih点群における対称性

• 球面調和関数で展開した場合の軌道角運動量成分

結論: 過去10年以上、広く受け入れられてきた価電子の集団運動に基づくプラズモン共鳴という描像を持ち込まなくても、1電子の電気双極子遷移近似の枠内でC60の吸収

スペクトルが理解できる事を実験的に初めて明らかにした。

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図6 C60+とC60

2+の光イオン化収量曲線と理論吸収断面積

Photon energy (eV)

025 30 40 50 60 70

1

2

3

4

Ion

yiel

d (a

rb. u

nits

)

C60+ + C60

2+

C60+

C602+

理論吸収断面積

A(26 eV)

B(34 eV) Peak (50 eV)

理論曲線と一致

理論曲線と不一致

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C602+の生成機構

全イオン収量曲線が全吸収断面積(理論)と一致しない。しかし、計算には、「1電子励起⇒2価イオン生成」の過程は考慮済み。

C60+hν C60+ + e- C60

2+ + e-A + e-C60*

形状共鳴

SpectatorAuger

Normal Auger

1h1p 1h 2h

C60*価電子励起

1h1pC60

+ + eA

2h1pCascade orTunneling

C602+ + e-

A + e-

3h1por 2h

C602+ + 2e-

直接2重電離

2h

シェークアップ

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20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150

0

1

2

3

4

5

6

7

C60

2+/C

60+ , C

702+

/C70

+

Photon energy (eV)

図7 2価イオンと1価イオンの収量の比

実線: C60破線: C70

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1. 23-180 eVで、C60+ とC70

+の正確なイオン化効率曲線を決定した。50 eV以上で効率曲線

は単調に減衰し、炭素原子の光イオン化断面積と似た傾向を示した。

2. 26 と34 eVにピーク構造が、また40-50 eVに平坦な領域が観測された。これらの特徴は形

状共鳴状態への1電子双極子遷移で生じたと結論された。

● まとめ

3. C602+のイオン化効率曲線には50 eV付近にピークがある。理論全吸収断面積は C60

+と

C602+のイオン収量の和よりもC60

+のイオン収量に近い振舞いをする。これから、 ①形状共

鳴状態の傍観的オージェイオン化と②電子トンネリングまたはカスケードオージェの一連の

過程が起きて、C602+が生成すると解釈された。 C70

2+についても同様の予想が成り立つ。

4. C602+とC60

+の収量の比は30-80eVの範囲で単調に増加し、その後2に収束した。同じく

C702+とC70

+の収量の比も単調増加し、80から150eVの範囲で3-5の値を取った。従って、

振動緩和によるC2放出やクーロン爆発によるC2+放出の速度は遅いと予想された。

5. C60-2mn+ (m=1-6, n=1-3)のイオン化効率曲線を決定した。炭素数の少ないフラグメント

ほど出現しきい値が高く、mが1増えるごとに5から10eVずつしきい値が上昇した。n=2の

イオン種は対応するn=1のイオン種に比べて収量が多い。