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相場の神様・本間宗久翁秘録

本間家の家系を

ひもといていくと

宗久先生は

ただの相場師ではないと

思えてきたのです

甥の光丘とは

個性がぶつかり

一時　

仲違いしましたが

私たちは

本間家の精神を

大切にしている点では

まったく同じなのです

ありが

とう

僕は先生と光丘さんが

伯父・甥の関係だと知って

とても興味を持ったんです

そうなのです

私は相場師として

名を上げましたが

すべて本間家の

人間としての生き方の

表れなのです

光丘の名は

二五〇年も

残っているの

ですね…

先生の名もです

ありがたい

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相場の神様・本間宗久翁秘録

すごい

今日は

和解の日

だったんですね

感無量だ…

本間家から

絶縁されて

二八年振りに

もらった手紙だよ

和解の

申し入れだ

ほ本当ですか

でだんな様

手紙にはなんと？

ああ

そうだった

おめでとうございます!!

………

ちょっと

失礼

ささ

ごゆっくり

お休み

ください

おやすみなさい

おやすみなさい

おや

皆さんまで…

ありがとう

ございます

今日は

良い日だご

先祖にも

ご報告しましょう

おお……!!

これは…

先生！

よく和解してくれたものだな

あの光丘が…

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優れた思想や

感性の原点を見つけるには

本間宗久は

一七一七年

出羽（山形県）の

酒田に生まれました

本間家は商人ですが

もとをたどると村上天皇が

先祖であるという

言い伝えもあり

定かではありません

――

この夜の

静けさのうちに

宗久の

生き様を追って

みましょう

その人の生涯を

ひもとくのが一番―

―

中段

本間宗久の生涯

商いで台頭してきた

新興商人たちが

日本海の交易ルートを

開発し

大いなる発展を

遂げつつありました

宗久の父※

・本間原光は

酒田で「新潟屋」という

店を開いて発展させた

商売上手の初代であった

ほう

そいつはすごい

この子は

幼いころから

神童といわれた

賢い子だ

なんとか

この子の才能を

伸ばして

やりたいものだ

ここのご主人が

酒田藩家老の

酒井様に頼んで

まだ一六歳の坊ちゃんを

江戸行きの付き人に

してもらったんだそうだ

お父様

行って参ります

ああ

おまえも

もう一六歳だ

しっかりな

当時の酒田は

港を中心に

大阪の堺のような

自由都市を形成し

どうしたんです？

※宗久は原光の養子（娘婿）という説もあるが、最近の史料研究では五男説が有力。

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原光の長男

本間光寿

でも久作さんは

残念ながら

五男坊なのよね

いくら優秀でも

跡取りには

なれないなんて

もったいない話よね

ははは

おまえはまるで

母親だな

大丈夫

心配しないで

行っておいで

久作※

（宗久の幼名）

せんべつだよ

あ兄さん

ありがとう

私がいない間

無理をしないでくださいね

夜は早く寝て

体は冷やさないように

ご飯もちゃんと食べないと…

兄さんは

病気がちだから

心配です

百万人都市―

―

そのパワーは

年若い久作を

圧倒的するのに

十分だった

それは当時

世界最でも大級の

巨大都市だった※

ひ人だらけだ…

※当時、パリやロンドンでも八〇万人だったと言われる。

かくして久作は

初めて江戸を訪れるのだが

当時の江戸は

兄とはいっても

久作より

二六歳も年上で

兄弟というより

親子に近かった

※「宗久」の名は後年になって改めたもの。それ以前には「久作」「伝次」などいくつかの名がある。　ここでは便宜上「久作」で統一した。

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しかし

酒田に戻った久作は

驚いた

そそうか

限りない一面の

田んぼ…

売り！

吉宗が

「自分の意のままにならぬ

唯一のものが

米相場だ」と嘆いたと

伝えられる

ほどである

買いだ！

売りだ！

すごい

熱気だ

このときは

八代将軍・吉宗の

有名な倹約令により

厳しい経済政策がとられ

世の中は大不況にあえいでいた

そのなかで

米相場だけは

大いなる活況を呈していた

米会所も

ある！

なんだ

自分の

やりたい

ことは

自分の足下に

あったんじゃ

ないか

まるで

私を待っていたかのごとく…

ここにあったんだ…!!

うちの店は

商品の販売流通だ

米も扱っているし

米の情報入手にも

事欠かない

ここは庄内平野

日本一の米どころだ…！

しかも

活気にあふれた

港がある

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それから

数年後の

長男・光寿の誕生日―

―

皆の衆

よく

聞いてくれ

私も今日で

六〇歳だ

このあたりで

隠居しようと思う

……

商いの

正道では

ない

しかし

この報告を聞いて

父・原光は喜ばなかった

相場に手を

出しては

いけない

原光は

賢い人だった

兄弟の競争心が

かち合わぬよう

次男・三男は

分家・独立させ

四男は医者に

五男の久作は

長男の

補佐役とした

長男・光寿と

五男・久作は

良いコンビとなり

二人で

よく店を

発展させた

原光は

安心して

あの世へと

旅立った

えっ

愛媛…!?

そんな

遠いところへ…

父上は

私に家を

出て行けと…!?

※当時、頼山陽という儒学者を迎えて商人の道を

　

追求した大物商人。

そうでは

ない!!

本来であれば

私の長男・光丘が

跡取りとなるところだが

まだ一九歳の未熟者ゆえ…

しばらく

修行に

出てもらう愛

媛の奈良屋さん※

は

大変　

勉強になるから

奉公してきなさい

店の経営は

実力もあり

働き盛りの久作に

全権を委ねることとする

相場の神様・本間宗久翁秘録

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相場の神様・本間宗久翁秘録

久作

おまえは大変

才能がある

店のことは

すべて任せるから

思い切って自分の考えで

切り盛りしてみなさい

ありがとう

ございます

わかるな？

はい

他人の釜の飯を

食わねば

一人前にはなれぬ!!

兄さん…！

……

三代目というのは

とかく

ぼんやりしてしまうものだ

よほど実力がなければ

店を潰してしまう

久作の読みは

面白いほど

よく当たり

酒田中の人々が

目を丸くした

そして

その長男・光丘が

愛媛から

戻ってきて

久作が店を継いで

四年ほど

たったころ

もともと

病弱だった

兄・光寿は

永眠した

あっ

ご隠居様！

…っと

また持病が

そして

あっという間に

数万両

（今の数十億円）を

稼いでしまった!!

このほかに

米の資産も

ありますよ

驚いたねえ

久作の

実力には

久作は

店を任されると

それまで

密かに研究してきたことを

実行に移した

すなわち

店の金を使って

相場を

はったのである

事態は

微妙になってきた

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相場の神様・本間宗久翁秘録

つきましては

本日より

私がこの店を

切り盛りさせて

いただきます

叔父さんも

よろしいですね？

今まで

ありがとうございました

承知

いたしました

皆さん

お話がありますので

集まってください

もともと私は

臨時のお勤めです

私は

父・光寿の長男で

この店の正式な

跡取りでございます

正直　

私には

叔父さんのような

力はございません

地道に堅実に

やっていきますので

どうか

ご協力のほど

お願いします

しかし…

確かに

上に立つ者の意見が

食い違っていては

店のためにも

良くない

久作は

故郷を出て行った

四年前

光丘が

出て行ったように…

しかし　

この光丘も

なかなか

大変な男なのである

光丘め

ひどい

言いがかりだ

四年前

自分が跡を継げなかったのを

恨んでいるのだろうか

それでは皆さん

今日から

よろしくお願いします

このあと

「店に返していないお金がある」

と言って

久作の縁を切り

店から追い出してしまった

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売りだ！

江戸で

ひと儲け

してやろう

…売り！

買いだ

買い！

江戸―

―

買い！

相変わらず

すごい

人だなぁ…

ところが

とんでもない

誤算が

久作を

襲った…!!

甥の光丘を

見返してやる