冷却原子気体の物理:宇宙一冷たいガスの研究 -...

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冷却原子気体の物理:宇宙一冷たいガスの研究 150 -123 200 -73 250 -23 300 27 100 -173 50 -223 0 -273 0.0000001 [℃] [ケルビン] 温度 温度 [ケルビン] ← 室温 (27℃ = 300K) ← ドライアイス (194K) ← 液体窒素 (77K) ・液体ヘリウム(4K) ・宇宙の温度(3K) ・ブーメラン星雲の温度(1K) 0.000001 0.00001 0.0001 0.001 0.01 0.1 ■ 温度は何度まで下がるのか? ・絶対零度 -273.15 ℃ = 0 K (ケルビン) (温度) ∝ (運動エネルギーの平均) (運動エネルギー) = mv 2 /2 ≧ 0 冷却原子 (1000万分の1K) (出典:電気通信大学 向山研究室HP) ← 水の融点 (0℃ = 273K) ■ 物質の温度を下げるとどうなるのか? ・熱運動によって隠されていた本性(=波動性)が現れる 原子の波の大きさ 1 温度 室温(300K) ・ 原子の大きさ 数 Å ・ 波のサイズ  0.1Å 室温(1000万分の1 K) ・ 原子の大きさ 数 Å ・ 波のサイズ  数千Å 冷却 ・各原子が隣の原子と干渉し合うと、一つの巨大な波になる 1927年 アインシュタインが理論的に予言 1980年代後半 レーザー光による原子のトラップと冷却技術が確立 (→ 1997年 ノーベル賞   ) 1995年 実際に実現 (→ 2001年 ノーベル賞   ) ルビジウム原子:コーネル&ワイマン ナトリウム原子:ケターレ ・オーブンで金属を気化 700 K くらい ・レーザー光で原子を捕獲・冷却 10 -4 ~ 10 -3 K ・原子集団を蒸発冷却 10 -7 K 図:真空容器内に赤いレーザー光を三方向から照射し、原子を トラップする様子。茶色いものは磁場を与えるためのコイル。 出典:日経サイエンス 1998年7月号(webページ) レーザー光の交差点で原子が減速する = 原子が冷える レーザー光がネバネバした糖蜜のように見えるため、 「光糖蜜 (optical molasses)」とも呼ばれる。 冷える 光を使って原子を トラップしている。 ここから熱い原子だけを わざと逃がす。 ■ 宇宙一冷たいガスの作り方

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  • 冷却原子気体の物理:宇宙一冷たいガスの研究

    150 -123

    200 -73

    250 -23

    300 27

    100 -173

    50 -223

    0 -273

    0.0000001

    [℃] [ケルビン] 温度

    温度 [ケルビン]

    ← 室温 (27℃ = 300K)

    ← ドライアイス  (194K)

    ← 液体窒素  (77K)

    ・液体ヘリウム(4K) ・宇宙の温度(3K) ・ブーメラン星雲の温度(1K)

    0.000001

    0.00001

    0.0001

    0.001

    0.01

    0.1

    ■ 温度は何度まで下がるのか?  ・絶対零度   -273.15 ℃ = 0 K (ケルビン)

    (温度) ∝ (運動エネルギーの平均) (運動エネルギー) = mv2/2 ≧ 0

    冷却原子 (1000万分の1K)

    (出典:電気通信大学  向山研究室HP)

    ← 水の融点 (0℃ = 273K)

    ■ 物質の温度を下げるとどうなるのか? ・熱運動によって隠されていた本性(=波動性)が現れる

    原子の波の大きさ

    ∝1温度

    室温(300K) ・ 原子の大きさ 数 Å ・ 波のサイズ  0.1Å

    室温(1000万分の1 K) ・ 原子の大きさ 数 Å ・ 波のサイズ  数千Å

    冷却

    ・各原子が隣の原子と干渉し合うと、一つの巨大な波になる 1927年 アインシュタインが理論的に予言 1980年代後半 レーザー光による原子のトラップと冷却技術が確立           (→ 1997年 ノーベル賞   ) 1995年 実際に実現 (→ 2001年 ノーベル賞   )

    ルビジウム原子:コーネル&ワイマン ナトリウム原子:ケターレ

    ・オーブンで金属を気化 700 K くらい ・レーザー光で原子を捕獲・冷却 10-4 ~ 10-3K ・原子集団を蒸発冷却 10-7 K

    図:真空容器内に赤いレーザー光を三方向から照射し、原子を トラップする様子。茶色いものは磁場を与えるためのコイル。 出典:日経サイエンス 1998年7月号(webページ)

    レーザー光の交差点で原子が減速する = 原子が冷える レーザー光がネバネバした糖蜜のように見えるため、 「光糖蜜 (optical molasses)」とも呼ばれる。

    冷える

    光を使って原子を トラップしている。 ここから熱い原子だけを わざと逃がす。

    ■ 宇宙一冷たいガスの作り方

  • 冷却原子気体の物理:宇宙一冷たいガスの研究

    ■ 波動性:2つのボース・アインシュタイン凝縮した  原子気体をぶつけると干渉する

    Andrews,  et  al.,  Science  275,  589  (1997)  

    Weitenberg,  C.  et  al.,  Nature  471,  319  (2011).

    ■ 各サイトにいる原子の状態を操作できる

    出典:米国国防高等研究計画局HP Becker  et  al.,  New  J.  Phys.  12,  065025  (2010).  

    ■ 三角格子やハニカム格子もできる ■ 現実の固体結晶を「光格子」  でシミュレートできる

    出典:physics.org 出典:チューリッヒ工科大学    エスリンガー研究室HP

    超伝導 = 電子のペアの超流動

    原子(フェルミオン)のペアの超流動

    超伝導になる温度     70 K 電子のフェルミ温度   6000 K

    = ≒ 1%

    超流導になる温度   1000万分の1 K 原子のフェルミ温度   100万分の1 K

    = ≒ 10%

    電子で考えると室温 ※ 低温で起こる現象には普遍性がある。  例えば、この研究は、中性子星の内部で起こる「カラー超伝導」とも関係がある。

    冷却原子気体のボース・アインシュタイン凝縮

    冷却原子気体を使った超伝導の研究 (室温超伝導?)

    レーザー光で作る「光格子」による、2次元、1次元、0次元の研究

    量子統計力学の基礎付け

    冷却原子気体は、 ・周りに熱浴となる環境系がない ・数千~数百万個程度(アボガドロ数より少ない) にも関わらず、平衡統計力学で説明できる平衡状態に 素早く緩和することが知られている。 孤立量子系において ・熱力学を用いてよいのはなぜか? ・エントロピー増大則をどう考えたら良いか? という基本的な問題は、まだ完全には解決されていない。

    エフィモフ状態

    70万個の原子集団(ナトリウム)が 起こすボース・アインシュタイン凝縮。 相転移温度は、 TC = 2×10-6 [K]。 トラップを消してから 6×10-3 秒後の 気体の様子を撮影。 (出典:マサチューセッツ工科大学  ケターレ教授らの研究室HP)

    うまく調整したレーザー光を使って原子をトラップできる。 この性質を用いて、低次元の量子系が実現できる。 レーザー光を2方向 (左右) から当てる → 2次元系       4方向から当てる   → 1次元系       6方向から当てる  → 0次元系 (3次元正方格子)

    Ferlaino  &  Grimm,  Physics  3,  9  (2010).  Kraemer,  et  al.,  Nature  440,  315  (2006).  Knoop,  et  al.,  Nature  Phys.  5,  227  (2009).

    絶対零度近くの低エネルギーでは、2つや3つなどの少数の原子は、 原子の種類によらず普遍的に振る舞う。 その例が、「エフィモフ状態」と呼ばれる3つの原子が束縛した状態。

    3つの原子は、バラバラな状態、 2つや3つでの分子の状態、 どれがエネルギー的に安定か? それは、原子間の引力の強さを表す パラメーター(S波散乱長) a だけで 決まっている。 冷却原子気体では、S波散乱長 a を自由に変えて実験が出来る。

    原子間の引力の強さ (S波散乱長。 単位はボーア半径の1000倍)

    原子間の引力の強さ (S波散乱長。 単位はボーア半径の1000倍)

    三原子の衝突で

    光トラップから逃げる割合

    原子と二原子分子の衝突で

    光トラップから逃げる割合

    レーザー光にトラップされた原子気体を考える。 通常の気体は、トラップを消すとすぐに周りに拡散する。 一方、ボース・アインシュタイン凝縮を起こした気体は、 トラップを消してもしばらくその場にとどまる。

    冷却原子は、次元、格子の形、格子間距離、相互作用の強さ、 統計性(ボース/フェルミ)、原子質量、数密度、など、 ほとんど全てのパラメータを制御できる「人工超物質」。 T.  Akatsuka,  M.  Takamoto  &  H.  Katori  

    Nature  Physics  4,  954  -‐  959  (2008)