巨大災害による経済被害をどう見るか- 阪神・淡路大震災...

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ESRI Discussion Paper Series No.177 巨大災害による経済被害をどう見るか - 阪神・淡路大震災、9/11 テロ、ハリケーン・カトリーナを例として – by 上野山智也・荒井信幸 April 2007 内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute Cabinet Office Tokyo, Japan

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ESRI Discussion Paper Series No.177

巨大災害による経済被害をどう見るか

- 阪神・淡路大震災、9/11 テロ、ハリケーン・カトリーナを例として –

by 上野山智也・荒井信幸

April 2007

内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute

Cabinet Office Tokyo, Japan

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ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研

究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究

機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し

て発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見

解を示すものではありません。

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巨大災害による経済被害をどう見るか

- 阪神・淡路大震災、9/11 テロ、ハリケーン・カトリーナを例として -

上野山智也∗・荒井信幸∗∗

∗ 内閣府経済社会総合研究所 主任研究官

∗∗広島大学大学院社会科学研究科 客員教授 (前内閣府経済社会総合研究所 上席主任研究官(前大臣官房

審議官)) 本稿の作成にあたって、内閣府経済社会総合研究所セミナーでは、黒田昌裕所長をはじめ出席者の方々、

とりわけ、コメンテーターである財団法人ひょうご震災記念 21 世紀研究機構・人と防災未来センター永松

伸吾専任研究員から有益なコメントをいただいた。記して感謝したい。当然ながら、残された誤りは筆者

のものである。

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巨大災害による経済被害をどう見るか

―阪神・淡路大震災、9/11 テロ、ハリケーン・カトリーナを例として―

要旨

1. 問題意識

災害被害の軽減は国の重要課題となっているが、その前段階として現実に巨大災害が起こった

場合にどのような経済被害が発生したのかを知る必要がある。経済被害の推計1は、行政、研究者、

シンクタンクなどが行ってきたが、同じ災害でも、何をもって損失と考えるのか(定義)、いつま

で、どこまでを対象とするか(時間的・空間的範囲)などにより、金額が異なる。今後、災害被

害や災害リスクの軽減施策を考える上で、こうした問題を整理しておくことが重要である。 2. 考察方法

阪神・淡路大震災、ニューヨーク・テロ(9/11 テロ)、ハリケーン・カトリーナの、3つの異種

の災害について、各主体が算出した被害額と推計方法をベースとする。考察に当っては被害額を

直接被害(ストック)と間接被害(フロー)に分け、定義、時間的・空間的範囲、評価方法につ

いて、できるだけ比較可能なように整理して考察する。 3. 結論

巨大災害がもたらす経済被害額のうち、災害発生直後の瞬間的な直接被害額については、被災

地の自治体を空間的範囲とし、主として再取得価格2が用いられるなど、各推計による違いは少な

い。これは、災害の直接被害額が災害復旧のための予算措置や保険金支払いの基礎情報としての

性格を持っているためと考えられる。これに対し災害による経済活動低下などの間接被害額につ

いては、災害別にも同じ災害に対しても、空間的、時間的範囲や推計方法に大きな幅がある。こ

の背景には、技術的な困難さと共に災害の複雑な波及結果である間接被害額をどこまで、何のた

めに推計するかが、それほど自明ではなかったことがあると考えられる。 巨大災害がもたらす経済被害を予防する投資の便益評価や、災害復旧の優先順位など考える場

合、間接被害の大きさは重要な考慮事項となる。間接被害の推計にはデータ制約や方法ごとの得

失もあって、一律の基準を当てはめることは困難だが、間接被害推計のための方法論やデータの

蓄積を今後さらに進めて行くことが重要である。

1 本論において、「推計」とは、査定見込額、推計時点以降の間接被害予測、人命損失額などの試算等を利用して

計算されたものも含んでいる。 2 本論における「再取得価格」による評価とは、災害により毀損した施設や機械等を評価の時点に置いてその場

所に新規に建造製造するのに必要な価格で被害推計することを言う。

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1. はじめに

1.1 目的 平成 17 年 7 月の中央防災会議に提出された「首都直下地震対策専門委員会報告書」では東京湾

北部を震源とする直下型地震が、冬の 18 時に風速 15m/s の環境下で起こった場合、約 112 兆円

に上る被害が発生すると想定している。その内訳としては、直接被害額 66.6 兆円、間接被害額と

して、被災地だけでなく国内、国外を考慮にして 39 兆円、交通寸断による機会損失、時間損失と

して 6.2 兆円を想定している。 阪神・淡路大震災などの災害後に、自治体などが被害実績の推計をする際には、住宅建物、公

共施設などの直接被害をもって被害額としてきた。しかし、実際には、直接被害に続く生産や需

要の停滞などにより生ずる間接的な経済被害も看過できないものがある。 特に間接被害については、何をもって被害と考えるのか(定義)、いつまで、どこまでの範囲と

考えるのか(時間的・空間的範囲、経済構造の変化や交通機能の構造変化)などにより、大きさ

や性格は大きく違ってくる。データが豊富に存在すれば、様々な仮定をおいてシミュレーション

をすることも可能だが、巨大災害の場合は稀にしか発生せず、データの収集にも多くの困難が伴

うため、余り行われていない。 そこで、本稿では、阪神・淡路大震災、9/11 テロ、ハリケーン・カトリーナ災害等で実際に公

表された経済被害の特徴をみてゆくことにする。この 3 大災害は、「地震」、「テロ」、「ハリケーン」

という、種類の違いや自然災害と人的災害の違い、発生場所が日米という違いなどがあり、共通

の土俵では語れない面がある。しかし過去 10 年余の間に生じた都市型巨大災害であり、地域に甚

大な経済的影響を及ぼした災害であるという点で共通している点で比較の対象とした。 1.2 経済被害としての直接、間接被害の一般的な考え方について

単純化して考えると、直接被害は、施設や建物などのストックの被害であり、間接被害は、直

接被害に続いて生じる経済活動低下などフローの被害である3。 直接被害の推計は、建物、施設等の物的資産の損害額を計算することであるので、被災した資

産内容や被害程度の把握ができれば、計算できる。ただし、被災した資産をいくらで評価するか

という点については、再取得価格、時価4、簿価、保険金支払額など複数の評価方法がありうる。 間接被害は、災害がなければ達成できたであろう経済活動の水準と現実の水準の格差と考えら

れるが、具体的推計には、いくつかのアプローチがあり得る。第 1 は被害地域の経済全体または

産業ごとの生産関数を推計し、災害による資本ストック(K)と労働力(L)の減少による生産の落ち

込みを累計する方法である。短期の景気変動モデルを利用した推計も、ここに分類できる。小西

(1996)は、計量モデルを構築し、5つのシナリオの兵庫県内総生産等を予測推計して、経済復興

3 こうした直接被害と間接被害概念の違いについては、永松・林(2003)において、前者をストック、後者をフロー

に対応する概念として、性格の違いについて整理している。 4 本論における「時価」による評価とは、それらと同等な物を中古市場から得るのに必要な価格で被害推計する

ことを言う。固定資産税評価額は 3 年ごとに評価を行うが、家屋の評価額は再建築価格に、経年減点補正率を乗

じることから「時価」の分類とする。

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戦略について考察している。 第 2 の方法は、産業間の取引を把捉するため産業連関表を用いて、災害による中間投入の減少

が生産にもたらす影響を間接被害として推計するものである。また、価格を通じた需給変動や他

地域との移出、移入を反映する空間的応用均衡分析モデルの分析も広い意味でこの分類に含める

ことができる。震災の経済的影響分析には、萩原(1998,2001)による神戸 CGE モデルを使ったも

のや芦屋・地主(2001)による被災地域産業連関表の推定によるものがある。さくら総合研究所関

西調査部(1995)も資本ストック損壊を推計し、産業連関分析を行い、波及効果を含む産出減少額

を推計している。 第 3 の方法は、被災後の企業へのアンケートや企業からのデータ公開・提供などにより、間接

被害に関する情報を直接収集し、これを基に推計する方法である5。企業からの公開データの例で

いえば、高島・林(1999)のように、実質 GRP(Gross Regional Product;地域内総生産)と電力消費

量との強い相関をもとにして、単純な推計式を用いて被災後の電力消費量から被災地域の実質

GRP の減少をリアルタイムで推計する方法もある。 こうしてもたらされた直接、間接被害が誰に帰着するかにも留意する必要がある。例えば、国

等(国・地方自治体)、企業等(農業も含む)、住民、それぞれの視点からは、異なった被害が見

えてくる。 国等の被害としては、公共施設等の直接被害と、緊急対応、被害者支援や災害復旧などに対応

した財政支出増や企業等や住民の被害により生じる税収減等の間接被害がある。企業等の被害に

は、工場やオフィスの建物、設備の損壊、農産物被害、従業員の被災などの直接被害と顧客の減

少や売上げ減少、生産の停止・縮小、コスト上昇等による間接的被害がある6。住民の被害には、

住宅、家財の損壊、心身への打撃などの直接被害や避難所生活による生活レベルの低下や個人収

入損失などの間接被害がある。 被害額は推計主体が何らかの目的を持って推計することが多く、その目的に応じて、推計範囲

や方法が決まってくると考えられる。以下ではこうした点に留意しながら、3つの災害について、

主体や直接被害、間接被害、推計方法を比較することにより、実際に被害額がどのように捉えら

れ、どのような課題があるのかを整理することとしたい。

2. 阪神・淡路大震災の経済被害額推計

2.1 阪神・淡路大震災の概要

1995 年 1 月 17 日 5 時 46 分に、淡路島北部を震源とするマグニチュード 7.3 の地震が発生し、

兵庫県南部を中心として大きな被害が発生した。防災白書(2005)によると、この災害による人的

被害は、死者 6,433 名、行方不明者 3 名、負傷者 43,792 名という戦後 悪のものとなった。住家

5 間接被害の推計は、豊田(1996)を参考。 6 また、私的企業が営業していても、鉄道、陸運、空港、港湾等の運輸交通機関や電気、水道、ガス、通信などラ

イフラインなど、公益的な側面を含む事業では、国民全体への影響を考えると国・自治体、企業等、住民すべて

の損失に関連することになる。逆に、被災した地域以外の企業が、被災地域産業の代替として売り上げを伸ばす

などの利得が生ずることがあり、多面的な考慮が必要である。

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の被害は、全壊が約 10 万 5,000 棟、半壊が約 14 万 4,000 棟にのぼった。 交通関係については、港湾では埠頭の沈下等があり、鉄道では山陽新幹線の高架橋等の倒壊、

落橋など鉄道施設損壊に伴い私鉄 13 社で不通となり、道路関係では阪神高速道路の倒壊などによ

り、高速道路、一般国道を含め 27 路線 36 区間で通行止めになるなどの被害が発生した。 ライフライン関係では、約 130 万戸の断水、約 260 万戸の停電、都市ガスは大阪ガス(株)管

内で約 86 万戸の供給停止、加入電話は 30 万件以上の通信障害が発生するなどの被害が生じた。 防災白書(1998)によると、公共土木施設関係では、直轄管理河川で 4 河川の堤防や護岸等に 32箇所の被害、府県・市町村管理河川で堤防の沈下、亀裂等の被害、西宮市の仁川百合野町におい

て地すべりにより 34 名の犠牲者が生じるなどの被害が発生した。 農林水産業関係では、農地、ため池等の農業用施設など各施設において甚大な被害が発生した。 阪神・淡路大震災の被害金額については、直後からシンクタンクや金融機関などを含め、多く

の数字が公表された7。これらの数値は被害金額を数兆円と推計しているものの、推計方法が必ず

しも明らかではないものもあり、比較分析は難しい。そのため、以下では推計根拠が比較的明確

で、特徴的と思われる 3 つの推計について検討する。

第 1 が兵庫県の推計であり、災害直後に直接被害のみを含む。第 2 が災害から 3 年後に豊田・

河内が行った推計であり、兵庫県の推計とアンケートをベースに民間部門の直接被害と間接被害

を追加している。第 3 が災害から 3 年後に阪神・淡路大震災調査報告編集委員会が行った被害額

推計であり、物流やアンケートに基づき間接被害の推計を行っている。

(表 1:阪神・淡路大震災の被害額の推計表)

2.2 兵庫県の被害額推計(1995 年 4 月 5 日)

大きな災害に対して、地方自治体が国から、補助率の嵩上げや対象事業の拡大など、追加的な

財政的援助を受けるためには、激甚災害の指定を受けることが必要となる。激甚災害の指定は、

被災地方公共団体などから各事業の所管省へ被害報告がなされたあと、関係省庁、財務省及び内

閣府が協議を行い、内閣府が激甚災害の指定と適用すべき措置を指定する。その際には、法に基

づいて、中央防災会議に諮り、その後、閣議決定を行い、政令を制定・公布することになってい

る8。地方公共団体は、その過程を通じて、被害状況および被害額を確定していくことになる。ま

た、各事業の所管省庁への被害報告は、その後の「公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法」「農

業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律」などに基づき、復旧事業を実施するこ

とを主眼としたものである。表1にあげた兵庫県の被害額の推計が、公共施設について再取得価

7 エコノミスト誌(1995 年 2 月 28 日号)によると 1 月 26 日時点で、第一勧銀総合研究所(7.73 兆円)、野村総

合研究所(4~8 兆円)、長銀総合研究所(3~4 兆円)、東海総合研究所(5 兆円)、コスモ証券経済研究所(2 兆円)、

日興リサーチセンター(6 兆円)、山一証券経済研究所(5 兆円)、J・P・モルガン証券(4.5~6 兆円)ゴールド

マン・サックス(4.1~5.8 兆円)の推計が発表されていた。また 2 月 17 日時点では、第一勧銀総合研究所(8.9兆円)、三菱総合研究所(6.27 兆円)、東海総合研究所(7.5 兆円)、関西産業活性化センター(10.65 兆円)などが

あった。 8 災害対策制度研究会(2003)を参考。

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格により推計されているのは、こうした背景があるものと考えられる。 兵庫県(2005)は 1995 年 4 月 5 日推計として、阪神・淡路大震災の被害額を 9 兆 9,268 億円と

いう数値を発表している。内訳は表 1 にある通り、建築物が 5 兆 8,000 億円で も多く、以下港

湾(1 兆円)、商工関係(6,300 億円)、高速道路(5,500 億円)等となっている。これらは震災直

後の施設などへの直接被害を合計したものである。 豊田・河内(1997)によれば、兵庫県の推計は以下の方法によりなされている。建物の被害額は

固定資産税評価額に被災率をかけることにより推計されている。被災率は、「被災度別建築分布状

況図」(震災復興都市づくり委員会)をベースに推計されている。商工関係の被害額は、設備関係

(機械・装置等の固定資産税評価額)と工場や店舗等の在庫・原材料関係(在庫額の合計)にそ

れぞれ被災率をかけて推計されている。 2.3 豊田・河内の被害額推計(1997 年)

豊田・河内(1997)は、災害に関する被害調査資料は、復旧・復興対策、経済支援策、諸給付算

定等において参照されるべき基礎データとなるため、できるだけ正確で信頼のもてる調査である

べきだとし、兵庫県の推計をベースとして、産業面に関して、直接被害額を補正し、間接被害額

を追加する形で被害額を推計している。 この推計では、直接被害額を、社屋の損壊、機械・設備、商品の破損などによる被害と定義し、

間接被害額を、震災による機会損失や得意先の喪失などによる被害と定義している。被害額の推

計は、神戸市商工会議所が 1996 年 1 下旬~2 月上旬に被災企業に対して行ったアンケート調査を

利用し、サンプル企業の各業種・規模別の直接および間接被害額の平均を求め、それに 10 市 10町それぞれの地区における各業種・規模別の被災事業所数を乗じることにより、直接および間接

被害額を算出している。10 市 10 町の事業所数は、総務庁の事業所数の調査を使い、被災率は、

阪神・淡路産業復興推進機構の調査結果を用いている。 この推計で、直接被害額は、非商工部門(公共部門や個人・世帯部門)は兵庫県の推計をその

まま採用し、産業(商工業)部門はこの調査結果等に基づいて修正した結果、約 3 兆 3 千億円上

乗せされ、13 兆 2,682 億円と推計している。 間接被害額については、道路事情の悪化や域内消費の落ち込みなどを反映して、「卸売・小売業・

飲食店」で 2 兆 9 千億円、「サービス業・その他」で 2 兆円、「製造業」で 1 兆 2 千億円など、1年間で 7 兆 2,300 億円と推計している。 2.4 阪神・淡路大震災調査報告編集委員会の被害額推計(1998 年 11 月 30 日)

阪神・淡路大震災調査報告編集委員会(1998)は、社会的・経済的被害には、震災直後の直接被

害のみならず、施設被害が皆無あるいは軽微であった産業も、交通施設の破壊により、輸送手段

(特に高速道路、港湾)に大きな影響をうけた点を反映すべきという観点から、特に交通・物流

の面に絞って、貨物流動変化に基づく間接被害を計画学的な手法を用いて推計している。 推計対象は製造業、卸売業、小売業である。港湾の被災による経済被害は、神戸港の海上出入

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り貨物調査による震災前後の貨物量の減少を、道路の被災による経済被害は道路交通量シミュレ

ーションによる貨物量の減少を採用した。そしてそれぞれに比例して生産額、付加価値額が減少

するとし、地域別・業種別に搬入と搬出額の減少額を計算し、そのうちいずれか大きい方を被害

額とする方式を取っている。 製造業の付加価値額については被災地の震災前の工業統計を用いて計算している。また小売業、

卸売業については、兵庫県の産業連関表の付加価値額を商業統計の販売額で除して求めた付加価

値率を、商業統計の被災地域の市区町村別、卸売業、小売業の出荷額、売上額に乗じて付加価値

額を求めている。こうして求めた震災前の付加価値額に、震災による貨物量の搬入搬出の減少率

を乗じて、大きい方を経済被害額としている。 これにいくつかの前提を加えて、平成 7 年 2 月から 9 年 1 月までの 2 年間について推計された

間接被害額は、製造業は 1 兆 3,750 億円、卸売業は 3,190 億円、小売業は 842 億円、港湾関連産

業 510 億円で合計 1 兆 8,288 億円となっている。 阪神・淡路大震災調査報告編集委員会では、この推計の他、震災直後のアンケートに基づき、

震災前の出荷額と震災後の出荷額(粗付加価値額)の差による、震災直後の被害推計を行ってい

る。アンケートは、平成 7 年 3 月、製造業(3,000 社)、卸売業・小売業(7,000 社)、港湾関連企

業(500 社)に対して行われた。被害額は震災直後の1ヶ月で、製造業 296 億円、卸売業 42 億

円、小売業 79 億円、港湾関連産業 85 億円で合計 502 億円となっている。このアンケートは震災

直後であったこともあり、回収率(約 10%)も低く、被害が非常に深刻な企業からの回答がほと

んど得られなかったため、過小推計となっていると評価されている。 また、土木計画学研究委員会の災害リスク研究小委員会(2003)において、間接被害額は、施設・

空間・建物のいずれも波及的影響に関する調査が日常行われたわけでないので、災害のような異

常時における調査体制の問題や間接被害の波及メカニズムの不明確さなど課題が多いとして、災

害調査体系の検討が行われている。

3. 9/11 テロの経済被害額推計について

3.1 9/11 テロの概要

2001 年 9 月 11 日に、アメリカン航空 11 便が、WTC 第1ビルに衝突し、その後、ユナイテッ

ド航空 175 便が WTC 第 2 ビルに衝突した。人的被害は航空機の乗員乗客 265 名、WTC で死者

974 名、行方不明者 1,692 名、国防総省では、125 名であった。物的被害としても、WTC 第 1、第 2 ビルの倒壊に伴い、第 3~第 7 ビルも崩壊し、その中にあるオフィス、ショッピングセンタ

ー、地下鉄駅、ライフライン、通信施設などの都市施設が崩壊している9。 9/11 テロについては災害直後から、複数の機関が経済的影響および推計被害額を発表している。

これらをまとめた GAO(Government Accountability Office)のレビュー(GAO(2002))では、7 つの

機関から出された 8 つのレポートが紹介されている10。それらのレポートでは、経済被害額、ニ

9 アジア防災センター(2003)を参考。 10 7つの機関の推計は、以下の通りである。

7

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ューヨーク州やニューヨーク市への経済的影響、今後の GDP の伸び率、雇用喪失、賃金などに

ついて議論がなされている。これらは、2002 年 3 月末までの約半年の状況からみた分析である。 その後、テロ後 1 年を画して、ニューヨーク市とニューヨーク連邦準備銀行から総括的なレポ

ートが発表されたことから、以下ではこの 2 つの推計と、2005 年に APEC(2005)で公表された推

計を比較検討する(表 2)。この 3 種のレポートは直接被害額が割合似通っているが、間接被害額

の認識には大きな違いがあり、9/11 テロがもたらした被害をどう考えるかについての根本的な問

題を提起している。

(表 2:9/11 テロの被害額の推計表) 3.2 ニューヨーク市の被害額推計(2002 年 9 月 14 日)

ニューヨーク市は 9/11 テロによって被災した市経済を立て直すため、テロが市に与えた経済、

財政上の影響を理解するため、テロ直後から被害額推計を行っていった。テロから 1年後の 2002年 9 月、市は包括的な報告書を作成し、その中で直接被害と間接被害の両方を推計した

(William(2002))。

このうち直接被害(305 億ドル)としては物的資本の毀損が 218 億ドル、人的資本の喪失が 87

億ドルと見積もられている。物的損失は、WTC のツインタワーの再取得費用(67 億ドル)、周辺

ビルの再建および修繕費用(45 億ドル)、鉄道、電話、電気などの他のインフラ関連費用(43 億

ドル)、テナント内の財(52 億ドル)、民間ベースの清掃費および犠牲者支援(11 億ドル)となっ

ている。 WTC のツインタワーは、1970 年代初頭に 10 億ドルで建てられた。この金額を 2001 年価格で

換算すると約 50 億ドルに相当する。ビルの耐用年数を 100 年間として、定額償却を前提とする

と、すでに 30 年間分は償却済みだったから、インフレ調整後の簿価は 35 億ドルとなる。しかし

実際の被害額の推計に当っては再取得価格を採用しており、WTC 複合施設の敷地面積 1 億 3,400万フィートに1フィートあたり 500 ドルを掛けて 67 億ドルとしている。他の周辺の建物もほぼ

同様の方法により 45 億ドルの損失としている。 鉄道、電話、電気などのインフラを修繕する費用を、再取得価格で 43 億ドルとしている。 WTC のテナントの資産損失は 52 億ドルとなっている。これは、ビジネステナントスペース内

の作りつけ備品、雇用者の財産、地下駐車場の車、在庫、コンピュータなどの財の損失 20 億ドル

と、WTC 複合施設内にあった証券会社の技術的損失(コンピュータのワークステーションなど)

32 億ドルの合計である。 また、民間企業は、政府機関や生命保険会社が行った補償以外に、WTC 複合施設の外側での損

傷費用や被災者支援の費用等を負担している。多くの企業では、被災者家族に特別補償や終身給

City of New York Office of the Comptroller(2001)、 New York Governor and State Division of the Budget、Fiscal Policy Institute(2001, 2002)、New York City Partnership and Chamber of Commerce(2002)、Milken Institute、New York State Senate Finance Committee Staff(2002)、New York State Assembly Ways and Means Committee Staff(2002)。詳細については、参考文献を参照。

8

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付を出すことになる。こうした民間ベースの清掃や支援が合計で 11 億ドルとなっている。 人的資本損失は単純に金額換算できる性格のものではないが、ここでは犠牲者が生涯に稼得し

たと期待される収入の現在価値に焦点を絞っている。なお犠牲者の約 4 割が証券会社勤務であっ

たなど、金融、保険、不動産関係の職種が多かった。これらを考慮して計算した平均年収と年齢

をもとに、各個人が昇進し 65 歳で退職するものとし、共通の割引率で計算し、87 億ドルと推計

している。 ニューヨーク市は間接被害として、テロに伴う市民総生産(GCP)の落ち込み分を 2004 年までの

合計で 523 億ドルから 643 億ドルの範囲と推計している。推計期間を 2004 年までとしたのは、

かつて 1993 年に起こった WTC 爆破事件の影響が 3~4 年間続いたと考えられていたためである。

9/11 テロによるニューヨーク市の GCP の落ち込みの発生からの経過期間に応じて区分されて

いる。2001 年第 4 四半期を 初の 4 日間、その後の 4 週間、その後の 10 週間に分け、ローワー

マンハッタンとそれ以外の地区で異なる損害率を適用し、3 カ月の合計で 115 億ドルの被害があ

ったと推計している11。被害が顕著に現れたのは、 初の 5 週間では、(1)ウオールストリートの

企業 、(2)ニューヨーク観光(ブロードウェイ劇場、博物館、ホテル、航空、市内の自動車観光)、

(3)小売販売などであった。 2002年から 2004年の 3年間合計のGCP 損失は 523億ドル~643億ドルと推計されている12。

細かい計算方法は明示されていないが、ニューヨーク市が 9/11 テロ前に予想した GCP とテロ後

に見直した GCP の差分のうち、半分強をテロによる影響と見立てている。

3.3 ニューヨーク連邦準備銀行の被害額推計(2002 年 11 月)

ニューヨーク連邦準備銀行はテロから1年が経過した2002年11月のFRBNY Economic Policy Review にテロが多方面に及ぼす影響を総括する特集を組み、複数の論文を掲載した。そのうち

Jason, James and Carol Rapaport (2002)は、テロがニューヨーク市に与えた経済的影響を推計

している。被害額の内訳は労働市場への影響(114 億ドル~142 億ドル)と物的資本への影響(216億ドル)とからなり、合計で、330 億ドルから 358 億ドルとしている。労働市場や物的資本への

直接被害を中心に議論しており、間接被害は雇用喪失の部分に限定されている。 労働市場の損失は 2 つに分かれ、一つは人的損失(人命の損失)であり、もう一つは個人収入

損失(雇用の喪失)である。人命の損失は、亡くなった人の所得と期待労働年数から生涯所得の

割引現在価値を計算することにより 78 億ドルと推計している。また雇用喪失による損失は、2001年 9 月から 2002 年 6 月の間に、テロに起因した失業の増加を中心に勤労時間の短縮も加味して

いる13。雇用量はマクロで推計し、平均賃金は影響を受けたと考えられる産業の構成に幅を持た

11 ニューヨーク市内の GCP の四分の一をローワーマンハッタン、残りをその他地域とし、 初の 4 日間の損害

をそれぞれの地域で 90%、20%、次の4週間の損害をそれぞれ 30%、15%、次の 10 週間の損害をそれぞれ 10%、

2%程度に見積もっている。 12 この報告書では、9/11 テロから足元の 2002 年7月までの GCP の損失を別途 176 億ドルと推計している。こ

れは雇用の喪失を推計したものに、雇用と GCP の比率を掛けて求めたものである。 13 一般経済動向による雇用への影響と 9/11 テロによる雇用への影響を峻別するため、標準的な動学的予測モデル

を利用して、テロがなかった場合の雇用との差をテロ要因として求めている。これによれば 2001 年 9 月から 2002

9

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せることで、雇用喪失による損失も 36~64 億ドルと幅のある推計をしている。 物的資本の損失としては WTC 地域の 3 千万平方フィートに及ぶ事務所や商店、地下鉄や各種

インフラなどが含まれる。推計では償却は考慮せず、再取得費用と修繕費用を計算して、合計は

216 億ドルとしている。内訳は以下の通りである。 まず WTC 地域をきれいな状態に戻すための瓦礫の撤去、清掃、警備費等が 15 億ドル。破壊さ

れたWTC複合ビルと隣接地域の再建費用が112億ドル。このうちWTC複合ビル分が67億ドル。

残り 45 億ドルが周辺ビルの再建と修理費。さらに家具や技術(情報)資産などのビル内資産の再

取得に 52 億ドル。地下鉄再建に 8.5 億ドル、PATH 駅再建に 5.5 億ドル、地下鉄の修繕に 23 億

ドルと推計される。 3.4 APEC Economic Outlook の被害額推計(2005 年 10 月)

APEC(2005)の Economic Outlook に掲載された推計は、前者とは 3 つの点において大きく違っ

ている。第 1 は直接被害推計に損害保険支払い額を使っている点である。第 2 は国全体の GDPの落ち込みを考慮している点である。第 3 は、テロ後に拡張された国のセキュリティ関連支出を

被害推計に含めていることである。 APEC のレポートでは、保険産業が被った費用を、300 億ドルから 580 億ドルと推計している。

この数字は、物的損害保険だけでなく、生命保険、労働補償保険、休業補償保険などを含めた支

払い要求額となっている。これらは、人的損失を含むので、被ったすべての直接的な費用の適切

な評価だとしている。全体の被害額を計算する上では、この数値の中間をとり、約 450 億ドルと

している14。 次に当推計では、テロに伴う不安などによる全国的な経済活動の低下分を、GDP の約 1%と、

大雑把に見積もっている。期間はテロ直後の 2001 年第 3、4 四半期から、2003 年第1四半期ま

での計 7 四半期である。この間の GDP の落ち込みは合計で 1,750 億ドルに上る15。

またテロ後に増加した防衛費や国土安全保障費の 2001 年から 2004 年までの増分についても、

9/11 テロの間接的影響として、合計 4,420 億ドルと推計している16。 当推計は非常に大胆な前提に基づいた試算であり、さらなる改善の余地があることをレポート

でも認めているが、テロによる経済被害が、ニューヨーク市の一部地域の物的、人的損失に止ま

らず、不安の増大を通じた国全体の経済活動や国防費の増加などを通じて、広範な影響を及ぼし

年6月にかけての雇用喪失は平均して 38000 人から 46000 人程度であった。 14 この報告では、9/11 テロ直後の株価の下落が NYSE と NASDAQ 計で 1.7 兆円に上ったたことに言及している

が、これらは 2002 年の第1四半期には旧に復したため、あくまで紙上の損失だったと評価している。 15 9/11 テロがマクロ経済に与えた影響としては、主として将来に対する不確実性を増やすことでビジネス心理や

消費者心理を冷え込ませ、設備投資や消費を押し下げる点を指摘している。テロ以外に GDP を押し下げる要因と

しては、2001 年から米国景気が下降局面に入っていたことや、技術バブルの崩壊や企業不祥事があった。こうし

た諸点を考慮して、テロの影響を全体としては保守的に見積もることが賢明だとしている。 16 具体的な推計方法としては、防衛費と国土安全保障費のうち、義務的費用の 2001 年以降の増加分と補正費の

全額を 9/11 関係として計上しており、明らかに過大計上ではあるがスタート地点としては有益だとしている。防

衛費や国土安全保障費の政府支出は GDP 算定上押し上げ要素と見なされるが、こうした支出の背景にあるセキュ

リティ不安の広がりや財政悪化に伴うクラウディングアウト、国際収支悪化など様々な付随コストを考慮すると、

これはコストとして認識することが妥当と判断している。

10

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ている事を考えさせる有益な資料である。

4. ハリケーン・カトリーナ(+リタ)17災害の経済被害額推計について

4.1 ハリケーン・カトリーナ(+リタ)災害の概要

民間のリスク評価期機関である RMS(2005)(Risk Management System)によると、2005 年 8月 25 日米国フロリダ半島に上陸・横断したハリケーン・カトリーナは、米国のハリケーンカテゴ

リーの 大であるカテゴリー5 の勢力となり、ニューオーリンズ市をはじめメキシコ湾沿いで壊

滅的な高潮被害をもたらし、同市の約 80%が浸水した。被災地域は、ルイジアナ州、ミシシッピ

州、アラバマ州、フロリダ州、ジョージア州であり、特にルイジアナ州の被害が甚大であった。

2005 年 10 月現在で、犠牲者数は 1,204 人が確認されている。 ハリケーン・カトリーナがもたらした経済的被害推計は、災害直後からリスク評価会社や財政

部門などによって公表された。その後、ハリケーン・リタを含んだマクロ的な被害額が発表され

た。以下ではリスク評価会社である RMS の推計と、財政当局である CBO(米国議会予算局)、

マクロ経済統計を作成している BEA(経済分析局)による推計を比較する。 なお、Brookings Institution(2006)によると、被害後 1 年たった 2006 年 8 月の段階において、

ニューオーリンズ市では、バスや電気・ガスなどの公共サービスも依然として復旧が遅れている。

また、労働人口は被災前の約 63 万人から約 44 万人に減少しており、失業率も、被災前の 5.2%から 7.2%に上がっている。III(Insurance Information Institute)の 2006 年 8 月 22 日の発表によ

れば、カトリーナに関連して、推計 406 億ドルの保険金支払いが生じるだろうと見込まれている。

NHC(National Hurricane Center)(2006)は、これまでの調査から被害額は、この保険金支払いの

2 倍の 812 億ドルに上ると見ている。

(表 3:ハリケーン カトリーナ(+リタ)の被害額の推計表)

4.2 RMS の被害額推計(2005 年 9 月 9 日)

RMS(2005)は、カトリーナによる被害が発生した直後の 9 月 9 日、保険支払額の予測範囲を発

表した。これはあくまでも、気象データと過去のハリケーン被害をもとに RMS のモデルとデー

タベース(IED)と追加的な調査によって計算された保険支払額の推計であり、付保されていない物

件は含まれていないため、後述 2 つの推計とはかなり大きな数値の隔たりがあるが、保険産業へ

のインパクトが分かる予測である。 表 3 は、ルイジアナ州、ミシシッピ州、アラバマ州 フロリダ州の全産業損失と沖合の石油ガス

産業損失に対しての保険産業の損失を予測したものである。RMA の推計の特色は一つのハリケー

ンが及ぼす直接的損害を、ハリケーンの通過順に沿ってまとめていることである。被災直後の推

計のため、金額にはかなりの幅があるが、フロリダのへの上陸(10~20 億ドル)、沖合のエネル

17 ここで比較されている資料のうち、RMS の推計はカトリーナのみを含むが、CBO と BEA の推計はカトリー

ナとリタの両方を含む。しかし被害のほとんどはカトリーナによるものである。

11

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ギー(20~50 億ドル)に比べて、南部への再上陸による風と高潮(200~250 億ドル)、ニューオ

ーリンズの水害(150~250 億ドル)が非常に大きなものであったことが分かる。

被害推計の対象としては、沖合の石油リグなど施設の直接被害とパイプライン施設への影響、

生産のロスなどが含まれている。沿岸地域の産業においては、建物と財および影響のあった営業

施設の事業中断による補償を含んでいる。

4.3 CBO の被害額推計(2005 年 10 月 6 日)

CBO(2005)(Congressional Budget Office: 米国議会予算局)は、被害から約 1 カ月後の 10月 6 日、議会にカトリーナとリタのマクロ経済面、予算面への影響を証言した(CBO(2005c))。こ

の証言に先立ち、議会へのレターと言う形で、9 月 6 日にカトリーナの影響を(CBO(2005a))、9月 29 日にカトリーナおよびリタのもたらす影響を(CBO(2005b))、マクロ経済面、予算面につい

て報告していたが、上記証言は 9 月 29 日報告を改定したものである。

物的資本の損失は 700 億ドル~1300 億ドルと見込まれている。この時点では現地の実績被害額

は入手不可能であり、被災地の部門別損害の算出に当っては、ルイジアナ州の資本種類別構成比

を用いて、住宅用(25%)、事業用(45%)、公共施設(20%)、耐久消費財(10%)を割り振っていった。

45%を占める事業の被害の内、半分をエネルギー産業の被害とした。

住宅被害に関して、CBO は、2000 年センサスと FEMA(連邦危機管理局)が推計した 28.7万戸の被害をもとに、被害戸数を約 30 万戸、1 戸あたりの被害平均 5.8~10.8 万ドルとして、住

宅全体で 170~330 億ドルの被害と推計している。エネルギー部門に関しては、企業の被害を受

けた構造物の大まかな評価を 180~310 億ドルとしている。 政府の資本のうち、上下水道については、被害範囲や復旧コストはこの時点では分からず、道

路、橋梁、空港など他の公共施設の修復、復旧は、100 億ドル程度だが大変不確かだと評価して

いる。 終的には、ハリケーンによるルイジアナ州の資本構成比を用いて、政府の資本への損失

を 20%として 130~250 億ドルと推計している。 この時点で CBO はカトリーナとリタの損失合計が、過去 も大きな損失をもたらしたハリケ

ーン(アンドリュース)のみならず、9/11 テロ、ノースリッジ地震をも上回る可能性が高いと判

断している。しかも被害の程度から見て、復旧には他の大災害よりも長い時間がかかるだろうと

述べている。

これら直接被害の他に、間接影響として実質 GDP がどの程度影響を受けるかも推計している。

GDP への影響は統計の性格上、経済活動の押し下げ要素のみでなく、復興需要による押し上げ要

素の両方があげられている。押し下げ要素としてはエネルギー生産、住宅サービス、農業生産、

消費の押し下げである。押し上げ要素としては復旧投資、政府による財サービス支出がある。

実質 GDP の影響のうち、経済活動の押し下げ要素だけを被害額として計算すると、2005 年は

170 億ドル~270 億ドル、2006 年は 130 億ドル~215 億ドル、2007 年は、60 億ドル~140 億ド

ルで、3 年間の被害額は、360 億ドル~625 億ドルと予想されている18。

18 押し上げ要素を加味した実質 GDP への影響は、2005 年は全体として 110 億ドル~160 億ドルのマイナスとな

12

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4.4 BEA の被害額推計(2005 年 12 月 21 日)

BEA(2005)(米国経済分析局)は、2005 年 12 月 21 日に第 3 四半期の GDP 終推計発表に合

わせて、カトリーナを含むハリケーンによる経済的損失の推計値を発表した。BEA はハリケーン

被害が物的な直接被害と、経済活動への間接被害の双方にあるとはしながらも、間接被害につい

ては通常の経済活動から区別して取り出すことができないとして、直接被害についてのみ推計し

ている。直接被害は、固定資産の減耗(Consumption of Fixed Asset)として費用認識される形で部

門別に年率数値が公表されている。しかし本稿では、現実の直接被害が 2005 年第 3 四半期に集

中していることから、年率の 4 分の 1 を被害額として表3には示している。

資産減耗の合計は 960 億ドル、部門別には、個人事業者資産や家計の住宅等が約 700 億ドル、

企業資産が 220 億ドル、政府資産が 40 億ドルと推計されている。

5.巨大災害の経済被害額推計のとらえ方について

これまで 3 つの巨大災害の被害額内訳を、災害別に、「直接被害」(施設や建物などのストック

の被害)と「間接被害」(被災地の社会活動に影響を与えるフローの被害と地理的に広がる波及効

果)とに分類して説明してきた。

巨大災害に関する様々な経済被害推計を比較検討するため、被害額の推計主体、空間、ストッ

ク、ストックの評価法、フロー、フローの期間などの項目に分類したものが表 4 である。空間に

ついては、報告書のほとんどが自治体の範囲で区分していることから、市、県(複数を含む)、国

に分けた。米国の場合は、県を州に読み替えた。 直接被害(ストック)については、公共施設、民間施設、人的損失に分類した。施設内の財、

清掃費、現場修復費は、公共施設や民間施設の内訳に含まれている。ストックの評価方法につい

ては、再取得価格、時価、簿価、保険金支払額、その他に分類した。 間接被害(フロー)については、個人収入・事業損失、GDP もしくは GCP、その他に分類し

た。期間は 1 ヶ月から 4 年までと様々である。

(表 4:三災害の被害分類表)

5.1 被害額の推計主体と目的について

被害額の推計の主体は、国、地方公共団体、研究者、民間リスク評価機関など幅広い。日本の

場合、地方公共団体の場合は、今後の災害復旧をどうするかという方針を立てることや激甚災害

の指定などの目的に使われるため、直接被害額に重点が置かれる。 また、ニューヨーク市、ニューヨーク連邦準備銀行、APEC、CBO などは、現時点を含めて、

今後の経済的な影響や対応を検討するため、事業損失や GDP の予測を利用するなどして間接被

る。2006 年以降は逆に押し上げ要因が押し下げ要因を上回り、2006 年で年率 160 億ドル~320 億ドルのプラス、

2007 年は 165 億ドル~295 億ドルのプラスを予想している。3 年間で、実質 GDP 全体として、215 億ドル~455億ドルのプラスとなると予想している。

13

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害額を推計している。 また、阪神・淡路大震災調査報告編集委員会のように、物流の側面に注目し、間接被害額をと

らえるようとしているものや、RMS などのリスク評価機関のように、それ自体が業務としての目

的をもっているなどのものもある。 なお、豊田・河内の被害推計や阪神・淡路大震災調査法編集員会の資料からは、はっきりと明

示されていないものの、復旧・復興対策、経済支援策などの基礎データの提供や、交通施設破壊

による経済被害の影響の把握を目的としていることから、被害想定を行うための基礎資料を保存

するという意図も含まれていると思われる。 被害推計を行う際には、それぞれの主体が持っているデータベースや短期間での情報収集によ

り集められるデータが主として用いられている。また、それらのデータから、各主体が得意とし

ている予測推計法などにより被害額が推計されている。そこから、自ら被害額の精度、被害額の

試算に違いが生まれる。

5.2 空間的な範囲について

ここでは、空間的というのは、被害推計の地理的範囲としての、市、県、国である。多くの場

合、被害の試算は、空間的には、自治体を単位として、被災をうけた地域を対象としている。 日本の場合、各自治体の管轄範囲での被害推計が多い。また、被災経験継承の取り組みや、統

計データなどが自治体単位で整理されていることもあり、研究する場合もこの範囲で行われるこ

とが多い。また商工会議所などの地域の商業団体が実施するアンケート調査においても、被災地

域が対象となる。ただ、交通量を用いた被害額推計の場合には、都市圏単位のデータを用いるこ

とになるので自治体単位より広い範囲となる。災害により被災地以外の地域や企業が間接的に利

益を得ている場合が考えられるが、それが災害の利益として換算されることはほとんどない。 NY 市や NY 連銀などについては、それぞれの業務上関連する地域という視点から、APEC は

国際機構として、より広い視点から見るなど、空間の設定は、各主体の目的と利用可能なデータ

の範囲により決まっていることが多い。

5.3 直接被害(ストック)およびその評価方法について

直接被害(ストック)については、公共施設、民間施設、人的損失に分類できる。実際の被害

額の推計では、直接被害額が把握しやすい。公共施設などの基盤施設や民間建物などのハードに

ついての計算が中心となる。公共施設などの社会基盤施設に関しては、国、地方公共団体が管理

しており、被害状況を即座に把握でき、構造物の諸元があるので再度建設するのにどれぐらい費

用がかかるか明確になりやすい。民間建物などのハードについては、個々の建物の被害状況や構

造の情報が不十分であるが、単位あたりの建築費用や固定資産評価額を基準額として、地域の推

計被災率、被災面積を掛け合わせることである程度の被害を推計ができる。アメリカにおいても、

考え方としてはほぼ同様である。 今回の事例において、人的損失は、9/11 テロについて、すべての推計に含まれていた一方、他

14

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の災害には含まれていなかった。人的損失を金額に換算することは、倫理的な問題もあることな

どから、日本では通常行われていない。9/11 テロの事例においても、報告書の中で人の命の価値

は計算できないと認識した上で、一つの考え方として、引退までの生涯所得をベースとした試算

をしている。これは、9/11 テロの直接の被害区域が比較的狭い範囲であり、物的被害が限定的だ

ったにもかかわらず、多くの人が働く WTC を中心に起こったために、人的損失という側面が、

他の災害に比して注目されたことも一因と考えられる。 被害額のベースとなる評価価格としては、再取得価格が用いられているケースがほとんどであ

る。WTC ビルの評価に関しては、ニューヨーク連邦準備銀行やニューヨーク市の報告書で、簿価

について言及されていたが、 終的には被害額として、再取得価格が採用されていた。これは被

害額推計の目的が復旧に要する費用見積もりに主眼があるためと考えられる。 被害規模を見る場合、保険金推計額が利用されることがあるが、それは迅速な支払いを期待さ

れる保険金推計に関連していることから速報性があることや、災害規模を過去の事例と比較し易

い点にメリットがある。ただし、保険の場合は、加入率や、どの範囲を保障の対象としているか

(カバレッジ)が様々であることや、フローである事業損失が含まれることが多いことから、純

粋にストックの損失規模全体を判断しようとする場合には、留意が必要である。 5.4 間接被害(フロー)とその推計期間について

この 3 つの巨大災害における経済活動のフローへの被害は、個人収入の損失、事業損失、GDPまたは GCP の損失、その他に分類した。フローである間接被害を計算するには、災害が間接的に

影響を及ぼす広範囲な対象を考え、適切な期間を設定しなければならないが、現実には、その災

害の特徴や目的に応じて、影響の大きいところや、とくに課題と考えるところに重点を置いて試

算されている。 間接被害の規模は、災害がなかったとした場合のフローの推計値と、被災後ある程度時間がた

ってから得られた基礎統計やアンケート調査などから得た実績値を比較し、その乖離を計算する

か、被災後の予測推計値との乖離を計算することから得られる19。ただし間接被害額の計算に都

合の良いデータが継続的に取られていることはまれである。 また、被災後のフローデータは被災の影響のみを反映するわけではなく、一般景気動向など様々

な経済活動の影響を受けるため、純粋に災害の影響だけを取り出すことは難しく、阪神・淡路大

震災では、被災地域の事業者にアンケートを取るといった方法がとられた。また GDP の減少を

試算したケースでは、他の経済的影響を排除するため、かなり強い仮定をおかざるを得ない。 間接被害推計が、すでに発生している被害を推計したものか、これから発生する被害を推計し

たものかで推計内容の違いがある。前者の事例としては、豊田・河内、阪神・淡路大震災調査報

告編集員会、ニューヨーク連邦準備銀行、APEC Economic Outlook が挙げられる。これらは、

19 ここで取り上げた事例では、間接被害額の推計手法として、産業連関表や空間的応用均衡モデルは明示的には

使われていなかった。現実にはデータの利用可能性が大きな制約要因になっていると考えられる。

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既知のデータから災害後の経済社会の被害状況がどのようなものであったかを把握している。後

者の事例は、RMS、CBO の被害推計である。これらは、モデルを用いて今後経済社会にどのよ

うな影響を与えるのかの情報を提供するものとなっている。ニューヨーク市の事例においては、

発災後 1 年間はすでに発生している間接被害で、2年目以降はこれから発生する間接被害を推計

したものである。 間接被害を考える場合、どの範疇の事象までを被害ととらえるかの問題がある。9/11 テロのよ

うなケースでは、直接被害はニューヨーク市のローワーマンハッタンという局所的なところであ

っても、間接的には、テロが今後いつどこで起こるかわからないという不安が全国に広がる影響

や、テロ対策の防衛費や国家安全保障費の増加分も、被害額に含まれるという考え方もある。 時間範囲を考える場合も特に明確な基準が存在するわけではない。直接被害額は概念的には、

災害後瞬時に従来の形に復旧するコストを考えることが多いので時間範囲はゼロである。一方、

フローである間接被害は、瞬時に被災前の状態に戻らないことに伴う損失部分と考えるができる。

この期間についても、今回の例では 1 ヶ月から 4 年近く幅があった。 実際の災害復旧では、ストックの被害が瞬時に復旧するわけではないので、1 年、5 年と言った

区切りごとに物理的な復旧度合いを評価することが多い。こうした復旧速度の違いは間接被害額

に表れるため、これを見てゆくことは重要である。 6. まとめ

これまで 3 つの巨大災害が及ぼした経済被害額を比較して明らかになったことは、被害額推計

の中心的部分は、空間的には被害地の自治体を範囲として、時間的には災害発生直後の瞬間的な

被害額である直接被害額であり、価格の算定には、主として再取得価格が使われているというこ

とである。 この理由は災害の経済被害額の推計が、災害復旧や保険支払いなど、災害に対応して必要とな

る予算規模や金銭支払いの基礎情報を得る目的で行われているためである。従って、こうした推

計は災害直後なるべく短期に行われる必要があり、被災地域を限って、素早く利用可能な統計や

推計方法を取る事が目的にかなうことになる。 これに対して、周辺地域への波及も含めた間接被害額は、災害の被害をできるだけ総合的に捉

えることを目的としており、何をもって損失と考えるのか(定義)、いつまで、どこまでを対象と

するか(時間的・空間的範囲)、誰の損失と考えるか(分配的問題)などにより、金額が異なる。 巨大災害がもたらす経済被害を予防する投資の便益評価や、災害復旧の優先順位など考える場

合、間接被害の大きさは重要な考慮事項となる。間接被害の推計にはデータ制約や方法ごとの得

失もあって、一律の基準を当てはめることは困難だが、間接被害推計のための方法論やデータの

蓄積を今後更に進めて行くことが重要である。

以上

16

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183 巻第 1 号

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兵庫県(2005) 阪神・淡路大震災の復旧・復興の状況について、平成 17 年 10 月

防災白書(1998) 防災に関してとった措置の概況 第 142 回国会(常会)提出

防災白書(2005) 防災に関してとった措置の概況 平成17年度の防災に関する計画 第162回国会

(常会)提出

APEC (2005) 2005 APEC Economic Outlook, p71- 100 BEA (2005) "Damages and Insurance Settlement from the Third-quarter Hurricanes,

December 21, 2005 Jason Bram, James Orr and Carol Rapaport (2002) Measuring The Effects Of The September

11 Attack on New York City. FRBNY Economic Policy Review November 2002 Brookings Institution (2006) “Special Edition of the Katrina Index: A One-Year Review of Key

Indicators of Recovery in Post-Storm New Orleans”, August 2006 CBO (2005a) “Macroeconomic and Budgetary Effect of Hurricane Katrina”, September 6, 2005 CBO (2005b) “The Macroeconomic and Budgetary Effects of Hurricanes Katrina and Rita: An

Update”, September 29, 2005 CBO (2005c) "CBO TESTIMONY, Macroeconomic and Budgetary Effects of Hurricanes

Katrina and Rita", October 6, 2005 City of New York Office of the Comptroller (2001) “The impact of the September 11 WTC

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Attack on NYC's Economy and City Revenues”, October 4, 2001 Fiscal Policy Institute (2001) “World Trade Center Job Impacts Take a Heavy Toll on Low

Wage Workers”, November 5, 2001 Fiscal Policy Institute (2002) “The Employment Impact of the September 11 World Trade

Center Attacks: Updated Estimates Based on the Benchmarked Employment Data”, March 8, 2002

GAO (2002) “Impact of Terrorist Attacks on the World Trade Center”, May 29, 2002 New York City Partnership and Chamber of Commerce (2002) “Economic Impact of the

September 11th Attack on New York City”, February 11, 2002 New York State Assembly Ways and Means Committee Staff (2002) “New York State

Economic Report”, March 2002 New York State Senate Finance Committee Staff (2002) “Financial Impact of the World

Trade Center Impact, Prepared by DRI-WEFA”, January 2002 NHC (2006) “Tropical Cyclone Report Hurricane Katrina 23-30 August 2005; updated 10

August 2006 for tropical wave history, storm surge, tornadoes, surface observations, fatalities, and damage cost estimates”, August 10, 2006

RMS (2005) "RMS Combines Real-time Reconnaissance with Risk Models to Estimate Katrina Losses", September 19, 2005

William C. Thompson, Jr. Comptroller City Of New York (2002) “One Year Later: The Fiscal Impact of 9/11 on New York City”, September 4, 2002

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豊田利久・川内朗阪神・淡路

大震災調査報告編集委員会

阪神・淡路大震災調査報告

編集委員会

1998年11月30日 1998年11月30日

9兆9,268億円 13兆2,682億円

1 建築物 5兆8,000億円2 鉄道 3,439億円3 高速道路 5,500億円4 公共土木施設(高速道路を除く) 2,961億円5 港湾 1兆円6 埋立地 64億円7 文教施設 3,352億円8 農林水産関係 1,181億円 1-15の9 保健医療・福祉関係施設 1,733億円 9兆9,268億円10 廃棄物処理・し尿処理施設 44億円 を前提として11 水道施設 541億円 調整12 ガス・電気 4,200億円13 通信・放送施設 1,202億円14 商工関係 6,300億円15 その他の公共施設等 751億円直接被害額過小額 3兆3,874億円

直接被害額(産業面) 5兆9,274.3億円上記の重なり部分    -2兆5,400億円

鉄道部門過大推計 -460億円

1兆8,288億円 502億円

7兆2271.4億円

1兆8,288億円

502億円

1兆8,288億円 502億円

表1 阪神・淡路大震災の被害額の推計表

兵庫県

直接費修正

直接費用

被害額合計

企業アンケートと被害率(推計期間:1年間)

道路・港湾施設被害による貨物物流変化が与える企業への影響(推計期間:2年間)

企業アンケート(推計期間:1ヶ月)

発表者

7兆2271.4億円

発表年月日 1995年4月5日 1997年

直接被害額

間接被害額

9兆9,268億円 20兆4,953.4億円

 (参考文献)阪神・淡路大震災の復旧・復興の状況について(兵庫県)(平成17年10月)(算定は平成7年4月5日推計)阪神・淡路大震災による産業被害の推定(豊田・川内)(国民経済雑誌 1997年)阪神淡路大震災調査報告書(阪神・淡路大震災調査報告編集委員会)(1998年11月30日)

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単位 億ドルニューヨーク市(One Year Later)

NY連銀 APEC

2002年9月14日 2002年11月 2005年1月

305 294 450*1

物的資本 218 216 100~130*2

WTC複合施設 67 67 30~45*2

WTC周辺の損壊建物 45 45WTC複合施設内の財 52 52 32*2

インフラ 43 37 23.5*2

地下鉄 8.5道路 5.5公共施設 23消防車・救急車・警察車 3.5*2

ペンタゴン 2.5~10*2

旅客機(4機) 3.85*2

WTC周辺の瓦礫除去と現場修復など*4 11 15 13*2

人的損失 87 78保険会社の支払(直接費用としている。()は中間値) 300~580(450)

523~643 36~64 6170

36~64*3 *1

損失GCP・GDP 523~643 1750損失GCP 523~643

2001年(3ヶ月) 1152002年 1582003年-2004年 250~370

マクロコスト(GDPの0.25%) 17502001年(Q3,Q4) 5002002年 10002003年(Q1) 250

Security Cost(国のhomeland security費の増分) 442017058016202050

被害額合計 828~948 330~358 6620

発表年月日

2002年2003年2004年

直接被害額

20*2

表2 9/11テロの被害額の推計表

個人収入損失・事業損失(10ヶ月)

間接被害額

2001年

発表者

(参考文献)NY連銀資料:Measuring The Effects Of The September 11 Attack on New York City ;FRBNY Economic Policy Review /November 2002One Year Later:One Year Later (The Fiscal Impact of 9/11 on New York City) William C. Thompson,jr.,September 4,2002APEC提出資料:2005 APEC Economic Outlook :  APEC Economic Committee

(Canada set up a framework for thinking about the economic costs of terrorism, and applied that framework to 9/11)

(注)APEC資料では、物的資本、人的資本の損失は保険金の内訳と考えられているようである。保険金はNYのみならず旅客機搭乗者の費用も入っている。*1 事業損失に対する保険支払いも含まれている。金額が不明のため直接被害額と間接被害額の明確な内訳は不明である。*2 最終的な被害額に計上されていない。*3純収入損失評価期間(2001.9~2002.6)*4災害援助などの費用も含む。

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単位 億ドルRMS CBO BEA

(民間リスク評価機関) (議会予算局) (商務省)2005年9月9日 2005年10月6日 2005年12月21日

400~600 700~1300 960

10~2020~50

200~250150~250

20~30170~330

50~90180~310160~320130~250

70122237

直接被害額の内訳に含まれる360~625

(▲215~▲455)

直接被害額の内訳に含まれる

360~625(▲215~▲455)

2005年後半170~270

(110~160)

2006年130~215

(▲160~▲320)

2007年60~140

(▲165~▲295)400~600 1060~1925 960

・モデル予測による予測保険金支払額・上記はKatrinaのみ。Ritaを加えた合計では、440~670・事業損失に対する保険支払いも含まれているため、直接被害額400~600に間接被害額と考えられる物も含まれる。

・間接被害額のGDPは、エネルギー生産、住宅サービス、エネルギー価格上昇、個人消費のマイナス項目のみの合算。【()内はそれにGDPへのプラス項目の復興投資、政府支出も加えた値である。また、()内の数字は、ないもの(プラス)は被害額、▲(マイナス)はGDPの増加を意味する。】

・KatrinaとRitaを含む2005年第3四半期の被害。保険支払は660。

備考

住宅耐久消費財エネルギー分野その他民間分野政府個人資産企業資産政府企業

ルイジアナ他風害ニューオリンズ水害その他の損害

表3 ハリケーン カトリーナ(+リタ)の被害額の推計表

直接被害額

発表者

発表年月日

フロリダ上陸沖合エネルギー施設

被害額合計

実質GDP

事業損失

間接被害額

(参考文献)RMS (2005.9.19) "RMS Combines Real-time Reconnaissance with Risk Models to Estimate Katrina Losses"Congressional Budget Office(2005.10.6) "Macroeconomic and Budgetary Effects of Hurricane Katrina and Rita"BEA (2005.12.21) "Damages and Insurance Settlement from the Third-quarter Hurricanes

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期間(t)

兵庫県 災害復旧・復興のための被害把握、激甚災害制度 ○ ○ ○ ○ ○*3 9.9兆円 - 9.9兆円

豊田・河内*4

復旧・復興対策、経済支援策等のための

正確な基礎データの提供○ ○ ○ ○ ○*3 ○ ● 1年間 13.3兆円 7.2兆円 20.5兆円

阪神・淡路大震災調査報告編集

委員会*5

交通施設の破壊による経済被害の影響の把握 ○*6 ● 2年間 - 1.8兆円 1.8兆円

阪神・淡路大震災調査報告編集

委員会*7

交通施設の破壊による経済被害の影響の把握

○(3市)

● 1ヶ月 - 0.05兆円 0.05兆円

NY市 経済、財政上の影響の理解把握 ○ ○ ○ ○ ○

●◎

3年3ヶ月

305億ドル523~643億

ドル828~948億ドル

NY連銀 物的資本や労働市場への影響の評価 ○ ○ ○ ○ ○ ● 10ヶ月 294億ドル

36~64億ドル

330~358億ドル

APEC不安感の増加を含めた一国の経済活動、予算への影響

の評価○ ○*8 ○ ○ ○*9 ●*9 ● ●*10 GDP:1年9ヶ月

セキュリティコスト:4年450億ドル

6170

億ドル*11 6620億ドル

RMS 保険産業への影響の公表 ○(4州)

○ ○*12 ◎*12 不明400~600億

ドル*13

400~600億ドル

CBO マクロ経済や予算への影響の議会報告

○(5州)

○ ○ ○*14 ◎ 2年半700~1300億ドル

360~625億ドル

1060~1925億ドル

BEA四半期GDP推計時の

災害による固定資産減耗を参考公表

○ ○ ○ ○*15 960億ドル - 960億ドル

被害額その他GDP/GCP

表4 三災害の被害分類表

災害

被害額直接

被害額期間市

県(州)

間接被害額

簿価保険金支払額

阪神・淡路大震災

国被害算定の主体

空間被害推計目的

*1間接被害(フロー)*2

個人収入・事業損失

カトリー

(

+リタ

)

人的損失

9/11NYテロ

ストックの評価法

不明

直接被害(ストック)再取得価格 時価

公共(ハード)

民間(ハード)

*1 明示されていない場合は筆者の判断による。*2 間接被害(フロー)の凡例:●すでに発生している被害推計 ◎これから発生する被害推計予測 (注1)NY市の推計は、1年間は●、2年目以降は◎である。*3 民間の建物は固定資産評価額が使われている。 *4 兵庫県の被害額の推定の範囲も含む(兵庫県のストック評価も同様に記入している)*5 交通・物流への影響を評価して事業損失を推計 *6 京阪神都市圏 *7 企業へのアンケートによる評価した事業損失を推計*8 作成者は、認識しているようだが、被害額に含まれているかは不明*9 事業損失に対する保険支払いも含まれている。金額が不明のため直接被害額と間接被害額の明確な内訳は不明である。*10 国のセキュリティコストの増分 *11 事業損失(間接被害額)は直接被害額450億ドルの内訳に入っている*12 モデルによる予測であり、事業損失に対する保険支払いも含まれている。金額が不明のため直接被害額と間接被害額の明確な内訳は不明である。*13 事業損失(間接被害額)は直接被害額400~600億ドルの内訳に入っている*14 全体損失を資産の型によって公共と民間に分けている。全体の計算はわからない。 *15 実質ストック減少分(注) 施設内の財、清掃費、現場修復費は、インフラ(ハード)もしくは民間(ハード)に含まれる。

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