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Fukushima Medical University 福島県立医科大学 学術機関リポジトリ This document is downloaded at: 2021-05-21T05:01:49Z Title 精神科病院に勤務する看護師が感じるがん患者の看護ケ アに関する困難感 Author(s) 加藤, 郁子; 佐藤, 忠; 田中, 久美子; 横山, 郁美; 大川, 貴子 Citation 福島県立医科大学看護学部紀要. 21: 1-12 Issue Date 2019-03 URL http://ir.fmu.ac.jp/dspace/handle/123456789/762 Rights © 2019 福島県立医科大学看護学部 DOI Text Version publisher

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Fukushima Medical University

福島県立医科大学 学術機関リポジトリ

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Title 精神科病院に勤務する看護師が感じるがん患者の看護ケアに関する困難感

Author(s) 加藤, 郁子; 佐藤, 忠; 田中, 久美子; 横山, 郁美; 大川, 貴子

Citation 福島県立医科大学看護学部紀要. 21: 1-12

Issue Date 2019-03

URL http://ir.fmu.ac.jp/dspace/handle/123456789/762

Rights © 2019 福島県立医科大学看護学部

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Bulletin of Fukushima Medical University School of Nursing ■原 著■福島県立医科大学看護学部紀要 第21号 1-12, 2019

1 福島県立医科大学看護学部基礎看護学部門 Department of Fundamental Nursing, Fukushima Medical University School of Nursing

2 福島県立矢吹病院 Yabuki Hospital

3 訪問看護ステーションなごみ Nagomi Visiting Nurse Station

4 福島県立医科大学看護学部療養支援学部門 Department of Clinical Nursing, Fukushima Medical University School of Nursing

5 福島県立医科大学看護学部家族看護学部門 Department of Family Nursing, Fukushima Medical University School of Nursing

受付日:2018年9月25日 受理日:2018年12月26日

精神科病院に勤務する看護師が感じるがん患者の看護ケアに関する困難感

Difficulty experienced by nurse working in psychiatric hospitals when extending nursing care to cancer patients

加藤 郁子1,佐藤  忠2,田中久美子3,横山 郁美4,大川 貴子5

Ikuko KATO 1,Tadashi SATO 2,Kumiko TANAKA 3,Ikumi YOKOYAMA 4,Takako OHKAWA 5

キーワード:がんを併発した精神疾患患者,看護ケアの困難感,精神科病院Key words:psychiatric patients with comorbid cancer,difficulty in nursing care,psychiatric hospital

Abstract

[Objective of the Study]To identify difficulties experienced by nurse working in psychiatric hospitals when they are involved in caring for psychiatric

patients with cancer to overcome the difficulties.

[Study Method]A fact-finding survey using self-administered written questionnaires was conducted with nurses and assistant nurses working in

psychiatric hospitals in Prefecture A, who had experience of caring for psychiatric patients with cancer. Components of the

survey were as follows: basic attributes of subjects; six items (self-care of patients, support from medical professionals,

support from family, treatment facility and system for complications, self-determination/selection of patients, and self-

responsibility for treatment), consisting of 25 questions regarding experienced difficulties during caring for the above-

mentioned patients; and three items (basic knowledge of cancer care, its application to psychiatric patients, and education

method), consisting of 12 questions regarding education required in caring for psychiatric patients with cancer.

[Result]The subjects were 138 nursing professionals. Regarding nursing difficulties, over 70% of the subjects experienced difficulties

in “self-care of patients” and “support from family”. Regarding educational needs, over 80% of the subjects felt the need.

[Conclusion]Based on the results of this study, it may be possible to reduce the difficulties faced by nursing professionals in caring for

psychiatric patients with cancer through establishing a system in which information and consultation are provided by cancer

care nurses.

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2 福島県立医科大学看護学部紀要 第21号 1-12, 2019

抄  録

【研究目的】精神科病院の看護師が,がんを併発した精神疾患患者に関わる際に感じる困難の実態を明らかにすること.【研究方法】A県の精神科病院に勤務し,がんを併発した精神疾患患者に関わった経験がある看護師・准看護師を対象に,自記式質問紙による実態調査を行った.調査項目は対象者の基本属性,看護ケアの困難感(6要因25項目),がんを併発した精神疾患患者と関わるために必要な教育のニーズ(3要因12項目)である.【結果】分析対象は138名.看護ケアの困難感では,〈患者のセルフケア〉,〈家族による支援〉について70%以上の看護師が難しいと感じていた.がん看護の基本的な知識と精神疾患患者への応用についての教育ニーズでは,80%以上の看護師が必要性を感じていた.【結論】精神看護とがん看護に携わる看護師が情報交換を行い,相談できる体制を作ることが看護ケアの困難感軽減につながると考える.

Ⅰ.はじめに

 我が国の精神疾患患者の長期入院は,諸外国に比べ極めて深刻な問題となっている1).それとともに高齢化も進み,精神疾患患者の身体合併症のケアは今後ますます重要となってくる.2014年に行われた厚生労働省の患者調査では,入院している精神疾患患者の50%が65歳を超えている2).また,「今後の精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」の報告では入院患者の約14%が,入院治療が必要な身体合併症を有しており,身体合併症を有する精神疾患患者の割合は,年齢が高くなるにつれ増加することが指摘されている3). 我が国の死亡原因の1位であるがんは,入院中の精神疾患患者にとっても大きな問題である.長期入院の精神疾患患者は早期発見のためのがん検診を受ける機会も少ない.また,精神疾患患者は抗精神病薬の影響で痛みなどの身体症状を感じにくかったり,コミュニケーション能力の問題からがんの早期発見は難しく,病状が進行した状態での発見が多い.そして,患者や家族ががんの治療を希望して一般病棟に入院した場合も,コンプライアンスや環境への適応,精神症状の問題から,必ずしも希望通りの治療を受けられるとは限らない4)5). このように,精神疾患患者のがん医療には多くの課題を抱えているが,精神科病院においてがんを併発した精神疾患患者の看護ケアが注目されるようになったのは近年のことである. まず美濃6)は,がんを併発した精神疾患患者の治療と看護に影響を及ぼす要因に関する研究で,治療や看護に携わった看護師21名と医師4名,当事者である精神疾患患者7名に半構成面接を行っている.その結果から看護に影響をおよぼす要因を分析し,「患者のセルフケア」,

「家族による支援」,「医療者による援助行為」,「患者の自己決定・自己選択」,「治療における自己責任」「合併症治療施設・制度」,の6つのカテゴリーを抽出し,治療過程を構造化した.その中でも,精神疾患患者のがんの早期発見や適切な治療,看護は非常に困難であり,医療者が苦労していることが報告されている. 次に,荒井ら7)の精神科病院における終末期ケアの現状と課題を明らかにした研究では,単科精神科病院に勤務する看護師20名に対し,がん終末期の統合失調症患者を看取るときの戸惑いと希望についてインタビューを行っている.その結果,戸惑いでは,「アプローチの異なり」,

「病棟構造の問題」,「尊厳の喪失」の3つのカテゴリー,希望では「他者と連携して治療環境を改善する」,「尊厳ある死を看取る覚悟」の2つのカテゴリーを抽出した.その中で,がん看護の専門的な知識の不足が原因で対処できなかったことが,看護師の自信喪失や危機感につながっており,院内継続教育充実の重要性を述べている. そして佐藤8)は,がんにより死に至った長期入院の統合失調症患者を受け持った経験のある看護師8名に対し,患者の思いと看護ケアについて半構成面接を行い,その内容を事例ごとに分析している.その結果,精神科病院に長期入院している統合失調症患者は,療養の場を今まで入院していた精神科病院に求める傾向があり,看護師は統合失調症患者の思いを察知し,工夫を重ね精神科病院で行える範囲内で終末期ケアを行っていた.しかし,看護師は身体管理に不安を持ち,これで良かったのかと自問自答している現状が浮き彫りになったと述べている. 一方,このテーマにおける量的研究は極めて少ない.まず遠藤ら9)は,日本精神科看護協会に属する施設の管理者および精神科病棟看護管理者に対し,がんを合併した統合失調症患者への看護援助で,看護師が困ったこととその対処を明らかにするために調査を行っている.

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精神科病院に勤務する看護師が感じるがん患者の看護ケアに関する困難感 3

309施設(回収率20.3%)の回答を分析した結果,看護で困ったことの有無では「大変困っている」,「困っている」との回答は55.9%と報告している.具体的な困っている内容は,「疾病の発見の困難」を53.2%の施設,「身体疾患の治療を行う上での困難」を47.9%の施設が挙げている.しかし,今回の対象施設には総合病院も含まれており,単科精神科病院(54.5%)の結果は明らかではない.また,調査対象は施設の管理者および病棟看護管理者であり,実際に看護ケアを行っている看護師への調査ではない. また荒木ら10)は,1つの精神科病院に勤務する全看護師を対象に,身体合併症看護に対する不安の程度をNumerical Rating Scale を用いて評価し,看護師の背景と比較検討している.124名(回収率81.8%,有効回答率59.9%)の調査結果から,精神科での経験年数が増すと身体合併症看護への不安が大きくなり,精神科以外の勤務経験がない看護師は経験がある看護師より不安が大きくなると述べている.この結果は,身体合併症看護全体への不安の調査であり,具体的な不安の内容との比較は行われていない. 以上のとおり,がんを併発した精神疾患患者の看護やがんを含む身体合併症看護への困難な内容は明らかになっているが,具体的な困難の内容と看護師の特性との比較検討は行われていない.そこで本研究では,精神科病院の看護師を対象に調査を行い,がんを併発した精神疾患患者のケアへの示唆を得たい.

Ⅱ.研究目的

 精神科病院の看護師が,がんを併発した精神疾患患者に関わる際に感じる困難の実態を明らかにする.

Ⅲ.研究方法

1.研究対象 A県の精神科病院に勤務し,今までにがんを併発した精神疾患患者に関わった経験がある看護師・准看護師.

2.調査期間 平成27年2月から平成27年9月

3.データ収集方法 質問紙を用いた実態調査である. A県内の精神科病院の看護部責任者に,電話で研究の趣旨説明と協力を依頼し,研究説明書,研究計画書を郵送した.研究協力の同意が得られた場合は,条件を満たす対象者を推薦してもらった.

 看護部責任者を通して対象者に研究説明書と質問紙を配布し,質問紙は2週間の留置として施設ごとに取りまとめて返送してもらった.質問紙は無記名とし,研究への同意は回答をもって承諾を得られたこととした.

4.調査内容1)基本属性 調査内容は,性別,年齢,看護師免許の所持状況,精神科病棟での経験年数,一般病棟での経験年数,現在勤務している病棟とした.

2)看護ケアの困難感 看護ケアの困難感は,がんを併発した精神疾患患者に関わる際に難しいと感じることとし,美濃6)の「がんを併発した精神疾患患者の治療と看護に影響を及ぼす要因に関する研究」で抽出された6個の要因,「患者のセルフケア」,「家族による支援」「医療者による援助行為」,「患者の自己決定・自己選択」,「治療における自己責任」「合併症治療施設・制度」の視点で調査を行うことにした. そこで,これらの要因から25の質問項目を設定した.

「患者のセルフケア」に関する質問1~6,「家族による支援」に関する質問7~9,「医療者による援助行為」に関する質問10~14,「患者の自己決定・自己選択」に関する質問15~17,「治療における自己責任」に関する質問18~20,「合併症治療施設・制度」に関する質問21~25とした.それぞれ,「まったく思わない」「あまり思わない」「まあまあ思う」「とてもそう思う」の4段階で回答を得た.

3)がんを併発した精神疾患患者への対応に必要なこと がんを併発した精神疾患患者と関わるために必要な知識を,精神看護に携わる研究者,がん看護に携わる研究者らが検討し,がん看護の基本的な知識,精神疾患患者への応用とした.がん看護の基本的な知識の内容は,がん発見や治療についての全般的知識,がん看護の全般的知識,症状マネジメント,疼痛緩和の方法,がん患者の家族ケア・遺族ケアとした.精神疾患患者への応用の内容は,精神疾患患者に対するがんの告知のあり方とその後の心理的なサポート,家族との協力体制作り,理解能力・判断能力のアセスメント技術,身体の観察とアセスメント技術とした. 知識を提供する方法として,事例検討会の参加とがん看護の専門家からの助言とし,看護ケアの困難感と同様,

「まったく思わない」「あまり思わない」「まあまあ思う」「とてもそう思う」の4段階で回答を得た.

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4 福島県立医科大学看護学部紀要 第21号 1-12, 2019

5.分析方法 基本統計量の算出後,看護ケアの困難感は,4段階で得た回答を,「思う」「思わない」の2群に分け,対象者の看護師資格,一般病棟での勤務経験の有無,精神科病棟での経験年数との比較を行った.精神科病棟での勤務経験年数は,ばらつきを確認し「15年未満」「15年以上」の2群に分けた. 分析には IBM SPSS Statistics 21を使用し,χ2検定および Fisher の直接確立検定(有意水準5%)を行った.

6.倫理的配慮 看護管理者に研究協力の承諾を得た後,推薦された対象者に研究説明書と調査票を配布した.研究説明書には,回答は本研究以外には使用しないこと,調査結果は全体で統計処理するため個人は特定されないこと,調査への協力は自由意志であることを記載した.調査票は無記名とし,回答をもって研究同意とした.なお本研究は福島県立医科大学倫理委員会の承認(承認番号:2206)を得て実施した.

Ⅳ.結  果

 研究協力の承諾を得た病院は15病院,35ユニットだった.推薦された対象者に調査票を配布し,154名(83.2%)

の回答があり,有効回答138名(89.6%)を分析対象とした.

1.対象者の基本属性(表1) 対象者の性別は女性109名(79.0%),男性29名(21.0%)であった.年齢は50歳代が43名(31.2%)と最も多く,次いで40歳代39名(28.3%),30歳代38名(27.5%)であった.精神科病棟での経験年数は平均15.8±8.37年で,最長37年,最短1年であった.看護師免許の所有状況では,看護師資格をもつものが109名(79.0%),准看護師をもつものが29名(21.0%)であった.一般病棟での勤務経験の有無では,経験ありが83名(60.1%),経験なしが55名(39.9%)で,一般病棟での勤務経験ありの83名のうち看護師資格をもつものが71名(65.1%),准看護師資格をもつものが12名(41.4%)であった. 一般病棟での経験年数の記載があった80名の平均年数は9.8±6.81年で,最長33年,最短1年であった.現在働いている病棟は,慢性期病棟が29名(21.0%),療養病棟が27名(19.6%),急性期病棟が25名(18.1%),合併症病棟28名(20.3%)であった.

2.がんを併発した精神疾患患者への看護ケアの困難感(図1) 看護ケアの困難感は,がんを併発した精神疾患患者に関わる際に難しいと感じることとし調査を行った.

表1 基本属性� n=138

注) 無回答を除く

人数 %性別 女性 109 79.0

男性 29 21.0年齢 20歳代 7 5.1

30歳代 38 27.540歳代 39 28.350歳代 43 31.260歳代 11 8.0

看護師資格 看護師 109 79.0准看護師 29 21.0

一般病棟勤務 経験あり 83 60.1経験なし 55 39.9

勤務病棟 慢性期病棟 29 21.0療養病棟 27 19.6

急性期病棟 25 18.1合併症病棟 28 20.3

社会復帰病棟 6 4.3認知症病棟 5 3.6

その他 18 13.0

平均値 ±SD

精神科病棟での経験年数 15.8 ±8.37一般病棟での経験年数(n=80) 9.8 ±6.81

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精神科病院に勤務する看護師が感じるがん患者の看護ケアに関する困難感 5

 まず,「患者のセルフケア」に関する質問では,「1.患者が自覚症状を訴えない」,「2.患者が検査や治療を拒否する」,「3.治療に対する患者の協力が得られにくい」,「4.患者が再発の危険性を感じていない」,「5.患者が自分の要望や苦痛を訴えられない」,「6.患者が同意・理解能力が乏しい」の項目で70.3~83.4%の対象者が,「まあまあ思う」「とてもそう思う」を回答し,関わりが難しいと感じていた. 次に,「家族による支援」に関する質問では,「7.家族関係の希薄さ」,「8.家族が検査や治療の協力を拒否」,

「9.家族が検査や治療の拒否を選択」の項目で73.2~89.1%の対象者が「まあまあ思う」「とてもそう思う」を回答し,家族の協力が得られにくい状況から関わりが難しいと感じていた. 「医療者による援助行為」に関する質問では,「11.看護師のがん発見のための働きかけ不足」について67.4%,

「12.看護師の再発に関する問題意識の不足」,「13.看護師の身体疾患に対する苦手意識」,「14.看護師の家族への働きかけ不足」について48.6~54.3%の対象者が,「まあまあ思う」「とてもそう思う」と回答し,医療者の働きかけや身体疾患に対する意識不足により,関わりが難しいと感じていた. 「患者意思決定・自己選択」に関する質問では,「17. 患者への意思決定支援の不足」で「まあまあ思う」「とてもそう思う」と感じているという回答が44.2%だった.

「15.患者の責任能力や意思決定能力を軽視する傾向」では18.1%,「16.がん告知に消極的な姿勢」では31.8%と,

「まあまあ思う」「とてもそう思う」と感じている割合は低かった.精神疾患患者の責任能力や意思決定能力は信頼し,がんの告知にも消極的ではないが,意思決定支援への難しさを感じていた. 「治療における自己責任」に関する質問では,「18.医療スタッフの役割分担が不明確」,「19.患者不在の決定に対するジレンマ」,「20.医療スタッフの情報交換や連携の不足」について,52.2~65.2%の対象者が,「まあまあ思う」「とてもそう思う」と感じていた.精神疾患患者に関わる医療スタッフ間の問題から関わりが難しいと感じていた. そして,「合併症治療設備・制度」に関する質問では,全ての質問項目で80.9~98.6%の対象者が「まあまあ思う」「とてもそう思う」と回答しており,精神科病院の治療設備や緩和ケアの提供の限界や,合併症治療制度の不十分さ,精神疾患患者に対する受け入れ体制が整っていないことで,対応が難しいとを感じていた.

3.看護ケアの困難感と対象者の基本属性との比較 看護ケアの困難感の回答を,「思う」「思わない」の2

群に分け,対象者の看護師資格,一般病棟での勤務経験の有無,精神科病棟での経験年数との比較を行った. まず,看護師資格との比較(表2)では,「12.看護師の再発に関する問題意識の不足」で,思うと回答した看護師が54名(49.5%),准看護師が21名(72.4%)と有意差があり(χ2=4.83,df =1,p<0.05),准看護師資格をもつものが,がんの再発に関する問題意識の不足を感じていた.「19.患者不在の決定に対するジレンマ」で思うと回答した看護師が77名(70.6%),准看護師が13名(44.8%)と有意差(χ2=6.73,df =1,p<0.05)あり,看護師資格をもつものが患者不在の決定にジレンマを感じていた. 次に,一般病棟での勤務経験の有無との比較(表3)では,「11.看護師のがん発見のための働きかけ不足」で,思うと回答した一般病棟経験ありが50名(60.2%),一般病棟経験なしが43名(78.2%)と有意差(χ2=4.85,df =1,p<0.05)があり,一般病棟の経験なしが,がん発見のための働きかけの不足を感じていた.「12.看護師の再発に関する問題意識の不足」で,思うと回答した一般病棟経験ありが36名(43.4%),一般病棟経験なしが39名(70.9%)と有意差(χ2=10.11,df =1,p<0.05)があり,一般病棟経験なしが,再発に関する問題意識の不足を感じていた.「13.看護師の身体疾患に対する苦手意識」で思うと回答した一般病棟経験ありが28名(33.7%),一般病棟経験なしが39名(70.9%)と有意差(χ2=18.30,df =1,p<0.05)があり,一般病棟経験なしが身体疾患に対する苦手意識を感じていた. そして,精神科病棟での経験年数は,ばらつきを確認し「15年未満」「15年以上」の2群に分けて比較(表4)した.その結果,「8.家族が検査や治療の協力を拒否」で思うと回答した15年未満が53名(71.6%),15年以上が56名(87.5%)と有意差(χ2=5.21,df =1,p<0.05)があり,精神科経験15年以上が,家族が検査や治療協力を拒否するために関わりが難しいと感じていた.「9.家族が検査や治療の拒否を選択」で思うと回答した15年未満が49名(66.2%),15年以上が52名(81.3%)と有意差

(χ2=3.95,df =1,p<0.05)があり,精神科経験年数15年以上が,家族が検査や治療拒否を選択するため,関わりが難しいと感じていた.

4.がんを併発した精神疾患患者への対応に必要なこと(図2) がん看護の基本的な知識と精神疾患患者への応用についての知識では,92.7~97.1%対象者が「まあまあ思う」

「とてもそう思う」と回答していた.なかでも,「とてもそう思う」と回答した割合が多い項目は,「4.がん患者の疼痛緩和の方法について知りたい」が83名(60.1%),

「7.精神疾患患者に対するがんの告知とその後の心理

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6 福島県立医科大学看護学部紀要 第21号 1-12, 2019

図1 看護ケアの困難感図1 看護ケアの困難感

0% 20% 40% 60% 80% 100%

1.患者が自覚症状を訴えない

2.患者が検査や治療を拒否する

3.治療に対する患者の協力が得られにくい

4.患者が再発の危険性を感じていない

5.患者が自分の要望や苦痛を訴えられない

6.患者が同意・理解能力が乏しい

7.家族関係の希薄さ

8.家族が検査や治療の協力を拒否

9.家族が検査や治療の拒否を選択

10.看護師の患者の身体症状を軽く見る傾向

11.看護師のがん発見のための働きかけ不足

12.看護師の再発に関する問題意識の不足

13.看護師の身体疾患に対する苦手意識

14.看護師の家族への働きかけ不足

15.患者の責任能力や意思決定能力を軽視する傾向

16.がん告知に消極的な姿勢

17.患者への意思決定支援の不足

18.医療スタッフの役割分担が不明確

19.患者不在の決定に対するジレンマ

20.医療スタッフの情報交換や連携の不足

21.精神科病院の検査・治療設備の限界

22.緩和ケア提供の不十分さ

23.合併症治療制度の不十分さや医療費制度の落とし穴

24.一般科病院の受け入れ体制が整っていない

25.末期がん患者の受け入れ施設の不足

全く思わない あまり思わない まあまあ思う とてもそう思う

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精神科病院に勤務する看護師が感じるがん患者の看護ケアに関する困難感 7

表2 看護ケアの困難感と看護師資格との比較� n=138

看 護 師(n=109)n(%)

准看護師(n=29)n(%) p値

1.患者が自覚症状を訴えない 思う思わない

94(86.24%)15(13.76%)

21(72.41%)8(27.59%) 0.094

2.患者が検査や治療を拒否する 思う思わない

77(70.64%)32(29.36%)

20(68.97%)9(31.03%) 0.861

3.治療に対する患者の協力が得られにくい 思う思わない

82(75.22%)27(24.78%)

23(79.31%)6(20.69%) 0.647

4.患者が再発の危険性を感じていない 思う思わない

76(69.72%)33(30.28%)

23(79.31%)6(20.69%) 0.308

5.患者が自分の要望や苦痛を訴えられない 思う思わない

87(79.82%)22(20.18%)

22(75.86%)7(24.14%) 0.642

6.患者の同意・理解能力が乏しい 思う思わない

91(83.49%)18(16.51%)

22(75.86%)7(24.14%) 0.343

7.家族関係の希薄さ 思う思わない

100(91.74%)9(8.26%)

23(79.31%)6(20.69%) 0.087

8.家族が検査や治療の協力を拒否 思う思わない

86(78.90%)23(21.10%)

23(79.31%)6(20.69%) 0.961

9.家族が検査や治療の拒否を選択 思う思わない

80(73.39%)29(26.61%)

21(72.41%)8(27.59%) 0.916

10.看護師の患者の身体症状を軽く見る傾向 思う思わない

38(34.86%)71(65.14%)

7(24.14%)22(75.86%) 0.274

11.看護師のがん発見のための働きかけ不足 思う思わない

71(65.14%)38(34.86%)

22(75.86%)7(24.14%) 0.274

12.看護師の再発に関する問題意識の不足 思う思わない

54(49.54%)55(50.46%)

21(72.41%)8(27.59%) 0.028

13.看護師の身体疾患に対する苦手意識 思う思わない

51(46.79%)58(53.21%)

16(55.17%)13(44.83%) 0.422

14.看護師の家族への働きかけ不足 思う思わない

60(55.05%)49(44.95%)

15(51.72%)14(48.28%) 0.750

15.患者の責任能力や意思決定能力を軽視する傾向 思う思わない

21(19.27%)88(80.73%)

4(13.79%)25(86.21%) 0.496

16.がん告知に消極的な姿勢 思う思わない

31(28.44%)78(71.56%)

13(44.83%)16(55.17%) 0.092

17.患者への意思決定支援の不足 思う思わない

48(44.04%)61(55.96%)

13(44.83%)16(55.17%) 0.939

18.医療スタッフの役割分担が不明確 思う思わない

62(56.88%)47(43.12%)

14(48.28%)15(51.72%) 0.408

19.患者不在の決定に対するジレンマ 思う思わない

77(70.64%)32(29.36%)

13(44.83%)16(55.17%) 0.009

20.医療スタッフの情報交換や連携の不足 思う思わない

60(55.05%)49(44.96%)

12(41.38%)17(58.62%) 0.190

21.精神科病院の検査・治療設備の限界 思う思わない

107(98.17%)2(1.83%)

29(100.0%)0(0.00%) 1.000

22.緩和ケア提供の不十分さ 思う思わない

104(95.41%)5(4.59%)

25(86.21%)4(13.79%) 0.093

23.合併症治療制度の不十分さや医療費制度の落とし穴 思う思わない

87(79.82%)22(20.18%)

26(89.65%)3(10.34%) 0.221

24.一般科病院の受け入れ体制が整っていない 思う思わない

107(98.17%)2(1.83%)

28(96.55%)1(3.45%) 0.510

25.末期がん患者の受け入れ施設の不足 思う思わない

108(99.08%)1(0.92%)

28(96.55%)1(3.45%) 0.377

注)χ2検定注)期待度数が5未満のセルが1以上ある場合は Fisher の直接確立検定

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8 福島県立医科大学看護学部紀要 第21号 1-12, 2019

表3 看護ケアの困難感と一般病棟での勤務経験の有無との比較� n=138

注)χ2検定注)期待度数が5未満のセルが1以上ある場合は Fisher の直接確立検定

一般病棟経験あり(n=83)

n(%)

一般病棟経験なし(n=55)

n(%)p値

1.患者が自覚症状を訴えない 思う思わない

72(86.75%)11(13.25%)

43(78.18%)12(21.82%) 0.186

2.患者が検査や治療を拒否する 思う思わない

61(73.49%)22(26.51%)

36(65.45%)19(34.55%) 0.312

3.治療に対する患者の協力が得られにくい 思う思わない

63(75.9%)20(24.10%)

42(76.36%)13(23.64%) 0.951

4.患者が再発の危険性を感じていない 思う思わない

58(69.88%)25(30.12%)

41(74.55%)14(25.45%) 0.551

5.患者が自分の要望や苦痛を訴えられない 思う思わない

65(78.31%)18(21.69%)

44(80.00%)11(20.00%) 0.812

6.患者の同意・理解能力が乏しい 思う思わない

68(81.93%)15(18.07%)

45(81.82%)10(18.18%) 0.987

7.家族関係の希薄さ 思う思わない

74(89.16%)9(10.84%)

49(89.09%)6(10.91%) 0.990

8.家族が検査や治療の協力を拒否 思う思わない

68(81.93%)15(18.07%)

41(74.55%)14(25.45%) 0.297

9.家族が検査や治療の拒否を選択 思う思わない

62(74.70%)21(25.30%)

39(70.91%)16(29.09%) 0.623

10.看護師の患者の身体症状を軽く見る傾向 思う思わない

27(32.53%)56(67.47%)

18(32.73%)37(67.27%) 0.981

11.看護師のがん発見のための働きかけ不足 思う思わない

50(60.24%)33(39.76%)

43(78.18%)12(21.82%) 0.028

12.看護師の再発に関する問題意識の不足 思う思わない

36(43.37%)47(56.63%)

39(70.91%)16(29.09%) 0.001

13.看護師の身体疾患に対する苦手意識 思う思わない

28(33.73%)55(66.27%)

39(70.91%)16(29.09%) 0.000

14.看護師の家族への働きかけ不足 思う思わない

47(56.63%)36(43.37%)

28(50.91%)27(49.09%) 0.509

15.患者の責任能力や意思決定能力を軽視する傾向 思う思わない

17(20.48%)66(79.52%)

8(14.55%)47(85.45%) 0.375

16.がん告知に消極的な姿勢 思う思わない

26(31.33%)57(68.67%)

18(32.73%)37(67.27%) 0.863

17.患者への意思決定支援の不足 思う思わない

35(42.17%)48(57.83%)

26(47.27%)29(52.73%) 0.554

18.医療スタッフの役割分担が不明確 思う思わない

43(51.81%)40(48.19%)

33(60.00%)22(40.00%) 0.343

19.患者不在の決定に対するジレンマ 思う思わない

59(71.08%)24(28.92%)

31(56.36%)24(43.64%) 0.075

20.医療スタッフの情報交換や連携の不足 思う思わない

44(53.01%)39(46.99%)

28(50.91%)27(49.09%) 0.809

21.精神科病院の検査・治療設備の限界 思う思わない

82(98.80%)1(1.20%)

54(98.18%)1(1.82%) 1.000

22.緩和ケア提供の不十分さ 思う思わない

77(92.77%)6(7.23%)

52(94.55%)3(5.45%) 1.000

23.合併症治療制度の不十分さや医療費制度の落とし穴 思う思わない

70(84.34%)13(15.66%)

43(78.18%)12(21.82%) 0.358

24.一般科病院の受け入れ体制が整っていない 思う思わない

81(97.59%)2(2.41%)

54(98.18%)1(1.82%) 1.000

25.末期がん患者の受け入れ施設の不足 思う思わない

82(98.80%)1(1.20%)

54(98.18%)1(1.82%) 1.000

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精神科病院に勤務する看護師が感じるがん患者の看護ケアに関する困難感 9

表4 看護ケアの困難感と精神科経験年数との比較� n=138

注)χ2検定注)期待度数が5未満のセルが1以上ある場合は Fisher の直接確立検定

精神科経験年数15年未満(n=74)

n(%)

精神科経験年数15年以上(n=64)

n(%)p値

1.患者が自覚症状を訴えない 思う思わない

63(85.14%)11(14.86%)

52(81.25%)12(18.75%) 0.541

2.患者が検査や治療を拒否する 思う思わない

52(70.27%)22(29.73%)

45(70.31%)19(29.69%) 0.996

3.治療に対する患者の協力が得られにくい 思う思わない

56(75.68%)18(24.32%)

49(76.56%)15(23.44%) 0.903

4.患者が再発の危険性を感じていない 思う思わない

55(74.32%)19(25.68%)

44(68.75%)20(31.25%) 0.468

5.患者が自分の要望や苦痛を訴えられない 思う思わない

57(77.03%)17(22.97%)

52(81.25%)12(18.75%) 0.544

6.患者の同意・理解能力が乏しい 思う思わない

60(81.08%)14(18.92%)

53(82.81%)11(17.19%) 0.792

7.家族関係の希薄さ 思う思わない

64(86.49%)10(13.51%)

59(92.19%)5(7.81%) 0.283

8.家族が検査や治療の協力を拒否 思う思わない

53(71.62%)21(28.38%)

56(87.5%)8(12.5%) 0.022

9.家族が検査や治療の拒否を選択 思う思わない

49(66.22%)25(33.78%)

52(81.25%)12(18.75%) 0.047

10.看護師の患者の身体症状を軽く見る傾向 思う思わない

22(29.73%)52(70.27%)

23(35.94%)41(64.06%) 0.438

11.看護師のがん発見のための働きかけ不足 思う思わない

49(66.22%)25(33.78%)

44(68.75%)20(31.25%) 0.752

12.看護師の再発に関する問題意識の不足 思う思わない

37(50.00%)37(50.00%)

38(59.37%)26(40.63%) 0.270

13.看護師の身体疾患に対する苦手意識 思う思わない

31(41.89%)43(58.11%)

36(56.25%)28(43.75%) 0.092

14.看護師の家族への働きかけ不足 思う思わない

45(60.81%)29(39.19%)

30(46.87%)34(53.13%) 0.101

15.患者の責任能力や意思決定能力を軽視する傾向 思う思わない

15(20.27%)59(79.73%)

10(15.62%)54(84.38%) 0.480

16.がん告知に消極的な姿勢 思う思わない

23(31.08%)51(68.92%)

21(32.81%)43(67.19%) 0.828

17.患者への意思決定支援の不足 思う思わない

32(43.24%)42(56.76%)

29(45.31%)35(54.69%) 0.807

18.医療スタッフの役割分担が不明確 思う思わない

39(52.70%)35(47.30%)

37(57.81%)27(42.19%) 0.547

19.患者不在の決定に対するジレンマ 思う思わない

48(64.86%)26(35.14%)

42(65.62%)22(34.38%) 0.926

20.医療スタッフの情報交換や連携の不足 思う思わない

38(51.35%)36(48.65%)

34(53.12%)30(46.88%) 0.835

21.精神科病院の検査・治療設備の限界 思う思わない

73(98.65%)1(1.35%)

63(98.44%)1(1.56%) 1.000

22.緩和ケア提供の不十分さ 思う思わない

70(94.59%)4(5.41%)

59(92.19%)5(7.81%) 0.733

23.合併症治療制度の不十分さや医療費制度の落とし穴 思う思わない

60(81.08%)14(18.92%)

53(82.81%)11(17.19%) 0.792

24.一般科病院の受け入れ体制が整っていない 思う思わない

72(97.30%)2(2.70%)

63(98.44%)1(1.56%) 1.000

25.末期がん患者の受け入れ施設の不足 思う思わない

73(98.65%)1(1.35%)

63(98.44%)1(1.56%) 1.000

Page 11: 福島県立医科大学 学術機関リポジトリmethod), consisting of 12 questions regarding education required in caring for psychiatric patients with cancer. [Result] The

10 福島県立医科大学看護学部紀要 第21号 1-12, 2019

的なサポートについて知りたい」が84名(60.9%)であった. 知識を提供するための方法として,「11.事例検討会に参加してみたい」は87.0%,「12.がん専門家から助言してもらいたい」は92.1%の対象者が「まあまあ思う」

「とてもそう思う」と回答しており,がんを併発した精神疾患患者と関わるために必要な知識へのニーズは高かった.

Ⅴ.考  察

1.がんを併発した精神疾患患者への看護ケアの困難感 今回の調査では,精神科病棟での経験年数は平均15.8±8.37年,最長37年,最短1年と幅広い対象者であり,精神科経験年数の少ない対象者もいることがわかった.一般病棟での勤務経験があるものは83名(60.1%)で,一般病病棟勤務の平均年数は9.8±6.81年,最長33年,最短1年と幅広かった.看護師資格では,厚生労働省の

「平成28年医療施設調査・病院報告」11)による精神科病院に従事する看護資格の割合(准看護師49.6%)と比べると,看護師資格をもつものが109名(79.0%)と多かった.これは,対象者の推薦を看護管理者に依頼したことが影響していると考える.また,対象者が現在働いている病棟は急性期病棟,慢性期病棟,療養病棟などと様々であり,異なる病態像の精神疾患患者のケアを行う際に感じた困難感の結果と推測された. これらの対象者に対し,がんを併発した精神疾患患者

へのケアの困難感を調査した結果,「患者のセルフケア」では,70.3~83.4%の対象者が関わりの難しさを感じていた.遠藤ら9)の調査でも,看護をする上で困ったことの内容として「疾病の発見の困難」,「身体疾患の治療を行う上での困難」が挙げられている.この内容は「患者のセルフケア」に関する内容も含んでおり,この結果を支持するものと考える. 「合併症治療設備・制度」では,80.9~98.6%の対象者が精神科病院の治療設備や緩和ケアの提供の限界や,合併症治療制度の不十分さ,精神疾患患者に対する受け入れ体制が整っていないことで,対応が難しいと感じていた.遠藤ら9)の調査でも施設・設備の限界や転院先の受け入れの悪さが困りごととして挙げられていた.厚生労働省の「身体合併症への対応・総合病院精神科のあり方について」12)でも検討され対策を講じてはいるが,看護師の感じる困難感は続いている現状は明らかである.

2.看護ケアの困難感と対象者の基本属性との比較 がんを併発した精神疾患患者へのケアの困難感と対象者の看護師資格,一般病棟での勤務経験の有無,精神科病棟での経験年数との比較を行った. まず,看護師資格との比較では,准看護師資格をもつものは,「12.看護師の再発に関する問題意識の不足」を感じていた.今回対象となった准看護師資格をもつものは,58.6%が一般病棟での勤務経験がなかった.そのため,がん患者の一般的な治療経過に関わる機会も少なく,再発の意識に至りにくいのではないかと考える.そして,

図2 がんを併発した精神疾患患者への対応に必要なこと

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1.がんの発見や治療についての全般的な知識を得たい

2.がん患者の看護についての全般的な知識を得たい

3.がん患者の症状マネジメントについて知りたい

4.がん患者の疼痛緩和の方法について知りたい

5.がん患者の見取りのケアについて知りたい

6.がん患者の家族ケア・遺族ケアについて知りたい

7.精神疾患患者に対するがんの告知とその後の心理的なサポートについて知りたい

8.家族との協力体制をつくるための方法について知りたい

9.患者の理解能力や判断能力に関するアセスメント技術を身に付けたい

10.患者の身体面に関する観察とアセスメント技術を身に付けたい

11.事例検討会に参加してみたい

12.がん看護の専門家から助言してもらいたい

全く思わない あまり思わない まあまあ思う とてもそう思う

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精神科病院に勤務する看護師が感じるがん患者の看護ケアに関する困難感 11

看護師資格をもつものは,「19.患者不在の決定に対するジレンマ」を感じていた.一般病棟勤務で行われていたがんの告知や治療の自己決定が,精神疾患患者にはなされていない現状にジレンマを感じていると思われる. 次に,一般病棟での勤務経験の有無との比較では「11.看護師のがん発見のための働きかけ不足」,「12.看護師の再発に関する問題意識の不足」,「13.看護師の身体疾患に対する苦手意識」で,一般病棟経験なしが働きかけや問題意識の不足と身体疾患に対する苦手意識を感じていた.荒木ら10)の身体合併症への不安は一般病棟の経験の無い群が有意に高いという結果と同じ傾向にあった. そして,精神科経験年数との比較では,精神科経験年数15年以上が,「8.家族が検査や治療の協力を拒否」,

「9.家族が検査や治療の拒否を選択」で関わりが難しいと感じていた.家族への関わりは精神科看護でも難しいケアの一つであり,経験年数の多い看護師が家族ケアを行うことが多いと推測する.そのため,困難感を感じる機会が多かったのではないかと考える.

3.がんを併発した精神疾患患者への対応に必要なこと がんを併発した精神疾患患者に関わるために必要な知識のニーズを調査した結果,92.7~97.1%対象者が知識を得たいと思っており,がんを併発した精神疾患患者と関わるために必要な知識へのニーズは高かった. 今回の調査でも,一般病棟の経験がないものは身体疾患に苦手意識を持っていることが多かった.がん看護の基本的な知識の提供は,身体症状のアセスメント能力を高めることにもつながると考える.また,がんを併発した精神疾患患者の精神症状のアセスメントは,より複雑になるため,精神科経験年数の少ない看護師にとっては,精神症状に関する知識と技術を学び直す機会も必要と考える. 知識を提供する方法として,事例検討は87.0%.がん専門家からの助言は92.1%が希望しており,知識と技術を学ぶ機会を提供するとともに,精神看護とがん看護に携わるものが共同し,支援体制を検討していく必要があると考える.

4.研究の限界 本研究の対象者は看護管理者から推薦された看護師であり,看護師全体の結果ではない.また,がんの進行度などは調査しておらず,どの時期の困難感かは把握していない.現在は精神科医療も入院治療から地域で生活しての治療が主流になってきており,地域で生活する精神疾患患者に対するがんの告知や治療,家族を含めた支援についても検討が必要になってくると考える.

Ⅵ.結  論

 A県の精神科病院に勤務し,がんを併発した精神疾患患者に関わった経験がある看護師を対象に,関わる際に感じる困難の実態を明らかにするために調査を行った.その結果,「患者のセルフケア」について70.3~83.4%,

「家族による支援」について73.2~89.1%の対象者が,関わりが難しいと感じていた. 看護ケアの困難感と対象者の基本属性との比較では,看護師資格と「12.看護師の再発に関する問題意識の不足」,

「19.患者不在の決定に対するジレンマ」,一般病棟経験の有無と「11.看護師のがん発見のための働きかけ不足」,

「12.看護師の再発に関する問題意識の不足」,「13.看護師の身体疾患に対する苦手意識」,精神科経験年数と「8.家族が検査や治療の協力を拒否」,「9.家族が検査や治療の拒否を選択」の間に有意差があった.がんを併発した精神疾患患者に関わるために必要な知識のニーズでは,87.0~97.1%の看護師が必要性を感じていた. 今後は,知識と技術を学ぶ機会を提供するとともに,精神看護とがん看護に携わる看護師が情報交換を行い,相談できる体制作りが必要である.

謝  辞 本研究にご協力いただきました,精神科病院の看護部管理者およびスタッフの皆様に深く感謝申し上げます. 本研究は,公立大学法人福島県立医科大学看護学部平成26年度共同研究事業の助成を受けて実施した.また,第47回日本看護学会学術集会慢性期看護で発表したものに加筆・修正したものである.

引 用 文 献

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誌,53(3),298-312,2000.

2)厚生労働省:平成26年度患者調査の概況,https://www.mhlw.

go.jp/toukei/list/10-20-kekka_gaiyou.html,2018年10月閲覧

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討会第17回資料,https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/s0521-

3.htm,2018年10月閲覧

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5)稲垣卓司:単科精神病院におけるがんを併発する統合失調

症患者状況について,Japanese General Hospital Psychiatry,19

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6)美濃由紀子:がんを併発した精神疾患患者の治療と看護に

影響を及ぼす要因に関する研究,お茶の水医学雑誌 ,52(2),

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Page 13: 福島県立医科大学 学術機関リポジトリmethod), consisting of 12 questions regarding education required in caring for psychiatric patients with cancer. [Result] The

12 福島県立医科大学看護学部紀要 第21号 1-12, 2019

7)荒井春生,林文:精神科病院における終末期ケアの現状と

課題 がんを合併した統合失調症の実態調査から考える,精

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8)佐藤忠:がんにより死に至った長期入院の統合失調症患者

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9)遠藤淑美,吉本照子,杉田由加里他:悪性腫瘍と合併した

統合失調症患者の看護援助に関する研究,精神科看護,34(2),

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看護師の合併症看護への不安に関する研究,大阪医科大学看

護研究雑誌,3,100-108,2013.

11)厚生労働省:「平成28年(2016)医療施設(動態)調査・病

院報告の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/16/

2018年10月閲覧

12)厚生労働省:「身体合併症への対応・総合病院精神科のあ

り方について」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/s0521-3.

html 2018年10月閲覧