cdレンタルがcd売り上げに与える影響 · web view雨宮 悠介・神谷...
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田中辰雄研究会 6期生
雨宮 悠介・神谷 龍・佐藤 壮
鈴木 日出美・高橋 恵美
~目次~
第1章 日本国内におけるレンタル・販売CDの現状及び問題1.CD 売り上げの現状----------------------------------------------------------32.CD の生産量が減少している原因
2-1 少子化--------------------------------------------------------------42-2 携帯電話・パソコン・インターネットの普及--------------------------------52-3 CD を買わずに音楽を聴ける手段の普及---------------------------------6
3.CD レンタル店について-------------------------------------------------------74.問題提起--------------------------------------------------------------------95.仮説-------------------------------------------------------------------------9
第2章 CD アルバム総和データを用いた分析1.定義------------------------------------------------------------------------102.仮説
2-1 被説明変数と説明変数-----------------------------------------------112-2 説明変数の期待される符合-------------------------------------------11
3.基礎統計3-1 各変数の統計量-----------------------------------------------------113-2 ピアソン相関係数----------------------------------------------------123-3 単回帰-------------------------------------------------------------12
4.回帰分析4-1 最小二乗法による回帰分析
4-1-1 分析結果--------------------------------------------------124-1-2 考察------------------------------------------------------13
4-2 操作変数法による回帰分析
4-2-1 操作変数法とは---------------------------------------------134-2-2 分析結果--------------------------------------------------144-2-3 考察------------------------------------------------------15
5.インターネット普及の影響---------------------------------------------------156.まとめ-----------------------------------------------------------------------16
1
第3章 CD シングル総和データを用いた分析1.定義------------------------------------------------------------------------172.仮説
2-1 被説明変数と説明変数-----------------------------------------------172-2 説明変数の期待される符合-------------------------------------------18
3.基礎統計3-1 各変数の統計量-----------------------------------------------------193-2 ピアソン相関係数----------------------------------------------------193-3 単回帰-------------------------------------------------------------20
4.回帰分析4-1 操作変数法による回帰分析-------------------------------------------204-2 分析結果-----------------------------------------------------------214-3 考察1--------------------------------------------------------------224-4 説明変数の取捨選択-------------------------------------------------234-5 考察2--------------------------------------------------------------24
5.まとめ-----------------------------------------------------------------------24
第4章 CD 売り上げとレンタルの関係についての結論1.結論------------------------------------------------------------------------252.おわりに--------------------------------------------------------------------263.出典・参考資料-------------------------------------------------------------26
第1章2
日本国内におけるレンタル・販売 CD の現状及び問題
1.CD 売り上げの現状
国内 CD 生産量の変化
ここ数年、日本国内では音楽 CD の売り上げがアルバム・シングルともに低下している
(図1、図2、図3参照)。
図1:国内 CD 生産数推移(アルバム・シングル合計)
図2:CD アルバム生産数量推移
3
図3:CD シングル生産量推移
2.CD 生産量が減少している原因
考えられる理由としては、
① 少子化
② 携帯電話・パソコン・インターネットなどの普及
③ CD を買わずに音楽を聞ける手段の普及
などが挙げられる。
2-1 少子化
図4を見てもわかるように、少子化は最近の深刻な社会問題である。少子化によって、
音楽の主な消費層である若者が減ったことは CD 売り上げに大きな打撃を与えていると考
えられる。生産枚数的にも一番活気のある 1998 年当事に、15 歳~25 歳だった者の生ま
れた年を見ると、10 年の間に 4 分の 3、さらに 5 年後には 5 分の 3 程まで出生数が減っ
ている。
図4:国内出生率推移
4
2-2 携帯電話・パソコン・インターネットの普及
昔に比べて、携帯電話・パソコン・インターネットなど、音楽に代わる趣味・娯楽が増
えたので、CD 購入のために使えるお金が減ったことも考えられる。図5・図6・図7か
らも明らかなように、ここ数年、携帯電話とパソコン、インターネットの普及はうなぎ
上りに増えている。
PHS携帯電話・ 契約数推移
010,00020,00030,00040,00050,00060,00070,00080,00090,000
1998
1年
月
1998
7年
月
1999
1年
月
1999
7年
月
2000
1年
月
2000
7年
月
2001
1年
月
2001
7年
月
2002
1年
月
2002
7年
月
2003
1年
月
2003
7年
月
2004
1年
月
2004
7年
月
年
( )件数 千台
図5:携帯電話・PHS 契約者推移
(%)国内パソコン世帯普及率
32.6 37.750.5 58.0
71.7 78.2
0.020.0
40.060.0
80.0100.0
98年 99年 00年 01年 02年 03年 ( )年
(%)
パソコン(%)普及率
図6:国内パソコン世帯普及率(%)
5
DSLサービスの加入者数
02000000400000060000008000000
100000001200000014000000
2000
1年
月
2000
4年
月
2000
7年
月
2000
10年
月
2001
1年
月
2001
4年
月
2001
7年
月
2001
10年
月
2002
1年
月
2002
4年
月
2002
7年
月
2002
10年
月
2003
1年
月
2003
4年
月
2003
7年
月
2003
10年
月
2004
1年
月
2004
4年
月
2004
7年
月
年
加入件数
図7:DSL サービスの加入者数
2-3 CD を買わずに音楽を聞ける手段の普及
CD を購入する人が減ったからといって、人々は音楽を聞かなくなったとは言えない 。
CD を買わなくても、ほかの手段で音楽を聞ける新しい方法が普及してきたことが、昔と
大きく異なる点である。考えられる手段としては、
①レンタル店で借りてくる
②友人等から借りる
③P2P ソフト等でダウンロードする
などが考えられ、このうち、①と②の場合は「カセットテープ・MDへ録音」「CD-R・
CD-RWへ複製」③の場合は「MP3プレイヤー・パソコン上で聞く」などの形で消費され
る。
そのような中で、「CD レンタル店による影響が強い」という見方がある。
6
図8:CD レンタル店数推移
図8より、1986年あたりから急激に CD レンタルは増加している。1989年をピ
ークにここ数年は減少傾向にあるが、これは「TSUTAYA」などに代表される大規模チェ
ーン店の出現により一つ一つの店舗面積が拡大して、小さな店舗は淘汰されたためであ
る。
3.CD レンタル店について
「CD 売り上げが減っているのは CD レンタル店の影響が強い」と主張している人の意
見は、「多くの人がレンタルで済ませてしまうので、CD の売り上げが不振になっている。
レンタル CD は廃止すべきである」というものである。
実際に、貸しレコード店に対して著作権をめぐる訴訟が過去に起き、その結果、貸与
権・報酬請求権が認められるようになった。数回にわたる交渉を経て、現在では邦盤ア
ルバムは発売日から最長3週間レンタル禁止、邦盤シングルは発売日から最長3日レンタ
ル禁止、日本国内での洋盤 CD は、本国での発売から 1 年間レンタル禁止となっている。
また、邦盤でも販売のみで、レンタルを許可しないアーティストは多数存在する。アメ
リカでは「レンタル CD」という制度が存在しない(レンタルビデオ・ゲームソフトのレ
ンタルは有り)という現状がある。
つまり、このようなレンタルを一定期間禁止する措置がとられているのは、「CD レン
タルは CD 売り上げを減らす」と考える人が多い証拠である。
現在、用いられている CD レンタルに関する細かい制度は次のページの図9を参照して
いただきたい。
7
図9:CD レンタル使用料・報酬制度等の内容
8
4.問題提起
「2.CD 生産量が減少している原因」を踏まえて、私たちは CD レンタル普及が CD売り上げを減少させるという考え方に着目した。CD レンタルは、本当に売り上げに対し
て悪影響を与えているのか、ということを実証した例はないようで、その意見は疑わし
く思われる。では、レンタルの影響は実際にはどうなのか。レンタル CD で試聴し、気
に入ったものを購入したり、無名な新人アーティストの音楽に気軽に触れる機会とし
て、知名度を上げるのに役立っていることも考えられるのではないだろうか。
CDレンタルが実際に売り上げに対してどのような影響を与えているのか。それを調
べようというのが本論分の主旨である。
5.仮説
レンタル CD は、 CD の売り上げに対して悪影響を与えない。むしろ販売促進効果があ
る。
この仮説を実証し、また、CD の売り上げ増加に繋がる要素を考察する。
9
10
第2章CD アルバム総和データを用いた分析
1.定義
“CD アルバム総和データ”とは、調査期間(2002 年 1 月~2004 年 6 月)にオリコンに
記載されている各週の CD アルバム売り上げ枚数トップ 100 を、タイトルごとにすべて
足し合わせたものである。例えば、Mr.Children の“シフクノオト”は 2004 年 4 月 5 日~
11 日の週に初登場で 803,442 枚のセールスを記録した。その次の週には 181,256 枚売
れ、その次の週は 82,459 枚売れた。その後はトップ 100 にランクインしなかったとす
ると(実際はランクインしているが)、“シフクノオト”はトータルで、803,442+181,256+82,459=1,067,137 枚売れたとみなし、これを総和データとした。
CD レンタルされた回数のデータもこれと同様に、週次のデータを総和にして分析に用
いた。
2.仮説
“CD のレンタル回数が多いタイトルは、その影響で売り上げ枚数も多くなる。”CD ア
ルバムのレンタル回数と売り上げ枚数で散布図を描いてみると下の図 10 のようになる
(データはすべて対数をとってある)。
45678910111289101112131415 TS x R
図 10:CD アルバムのレンタル回数と売り上げ枚数の関係
この図を見てみると、CD アルバムのレンタル回数と売り上げ枚数の両者には正の相関
関係がありそうである。
11
2-1 被説明変数と説明変数
被説明変数:CD アルバム売り上げ総和(TS)
説明変数:CD アルバムレンタル回数、前作タイトル売り上げ、前作タイトルレンタル
回数、価格、紅白出場ダミー(前年に紅白歌合戦に出場したアーティストの
タイトルを1とするダミー)
2-2 説明変数の期待される符合
CD アルバムレンタル回数(R):+
CD のレンタル回数が増えれば、音楽を聴く機会がより増えるため、そのタイトルを
買いたいと思う人も増加するため。本論文ではこれを実証することを目的としている。
前作タイトル売り上げ(PRES):+
前作タイトルがたくさん売れれば、そのアーティストの知名度が高くなり、またそ
のアーティストを好む人が増え、次回作を買おうとする人が増えると考えられるから。
前作タイトルレンタル回数(PRER):+
前作タイトルがたくさんレンタルされれば、そのアーティストの知名度が高くなり、
またそのアーティストを好む人が増え、次回作を買おうとする人が増えると考えられ
るから。
価格(P):-
価格が高ければ高いほど、消費者はその CD を買うインセンティブが下がると考えら
れるので。
紅白出場ダミー(RW):+
前年に紅白歌合戦に出場していれば、そのアーティストに対する好感度・知名度・評
価が高くなり、次回作を買う人は増加すると考えられるため。
3.基礎統計
3-1 各変数の統計量
Number Mean Std
DevMinimum
Maximum Sum Variance
TS 1124 123855 256633 1621 3544201
139213000
65860600000
R 1124 15402 31696 36 218719 17311800 1004660000
PRES 418 156519 317736 1960 354420 6542490 1009560000
12
1 0 00
PRER 396 28688 44120 45 410043 11360400 1946580000
P 1124 2829 457 1000 6999 3180212 208759 RW 1124 0.0836 0.2770 0 1 94 0.0767
表1:アルバム総和データの各変数の基礎統計量
3-2 ピアソン相関係数
分散を一定に抑えるために、TS,R,PRES,PRER には対数変換を施した(本章これ
からの分析ではすべて対数変換をしたデータを用いている)。
Correlation Matrix n=325
TS R PRES PRER P RWTS 1
R 0.85892 1
PRES 0.37071 0.36939 1
PRER 0.53290 0.60667
0.65872 1
P 0.16124 0.14482
0.00223
0.01767 1
RW 0.21023 0.24546
0.21026
0.23426
0.03498 1
表2:アルバム総和データの各変数のピアソン相関係数
3-3 単回帰
TS との単回帰
C Coefficient t-statistic R^2(Adjusted
R^2)Number
R 6.77252 0.494798 33.13 *** 0.49453
8 0.49408
7 1124
PRES 6.54310 0.404015 9.37 *** 0.174259
0.172274 418
PRER 7.51793 0.390668 10.9 *** 0.23280 0.23085 396
13
3 3 6
P 9.67039 0.003673 3.99 *** 0.013989
0.013111 1124
RW 10.63960 0.838432 5.56 *** 0.02677
8 0.25911
0 1124
表3:アルバム売り上げ総和と各変数の単回帰結果
※t値横の***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示
している。これ以降の表も以下同様である。
4.回帰分析
4-1 最小二乗法による回帰分析
4-1-1 分析結果
まず、最小二乗法で回帰してみたところ、表4のような結果となり、R と PRES が常に
有意となった。(1)の回帰結果はすべての説明変数を用いた結果であり、そこから有意
でない変数を除いていった結果が(2)~(5)の結果である。
(1) (2) (3) (4) (5)
Coef t-statistic Coef t-
statistic Coef t-statistic Coef t-
statistic Coef t-statistic
C 4.4554
10.27 *** 4.474
4 10.44 *** 4.846
5 14.76 *** 5.005
5 13.41 *** 5.17
92 19.09 ***
R 0.6632
23.88 *** 0.662
1 24.08 *** 0.669
2 24.37 *** 0.622
5 28.85 *** 0.62
24 29.67 ***
PRES 0.0669
1.86 * 0.066
0 1.8
5 * 0.0663
1.84 * 0.060
8 2.2
1 ** 0.0585
2.16 **
PRER-
0.0177
-0.5
2
-0.018
3
-0.5
4
-0.020
4
-0.6
0
P 0.0014
1.38
0.0014
1.38
0.0005
0.60
RW-
0.0325
-0.3
1
-0.031
6
-0.3
0
-0.041
5
-0.3
8
14
R^2 0.750142 0.750070 0.748697 0.735754 0.735433 AdR^2 0.746333 0.747031 0.745642 0.733194 0.734158
N 334 334 334 418 418 表4:CD アルバム総和、最小二乗法による回帰分析結果
4-1-2 考察
この分析結果より、(1)~(5)すべてにおいて CD レンタル回数が1%増えると
CD 売り上げは約 0.65%増え、前作売り上げが1%増えると CD 売り上げは約 0.07%増
えると言える。
今回の研究で注目すべきところである、R の符号が+になったことは成果があったと言
えるが、CD レンタルと CD 売り上げの関係はそう単純なものではない。上の回帰式では、
CD レンタル回数が1%増加すると CD 売り上げはどうなるか、という一方的な影響しか
考慮されていないが、実際には CD がたくさん売れているからレンタルしようとすると
いう逆因果の可能性も加味しなければならない。また、その音楽 CD自体の人気や価値な
ど、データでは測れない誤差項が売り上げやレンタルに影響していることも考えられる
ので、誤差項と説明変数の間に相関が生じているかもしれない。
そこで、最小二乗法による推定では限界があるため、操作変数を用いる。
4-2 操作変数法による回帰分析
4-2-1 操作変数法とは
誤差項と相関を持つような説明変数が含まれるモデルの推定において、その説明変数
の代理として用いられる変数を操作変数と言い、操作変数を使ってパラメータの推定量を
求める方式を操作変数法と言う。
例えば今回の研究では、その CD の人気(誤差項)が上がるからレンタル回数が増加し、
レンタル回数が増加するから売り上げ枚数が上昇するというように、人気の影響、つま
り誤差項の影響がレンタルにも影響してしまうので、レンタルが売り上げに及ぼす正確
な影響が測れない。そこで、レンタル回数を被説明変数とする式を作り、誤差項とは無相
関な説明変数(操作変数)を加えて回帰することで、誤差項がレンタルに及ぼす影響を取
り除く。その上で売り上げに関して回帰して、レンタル回数が売り上げに及ぼす正確な
影響を調べるのである。
今回は操作変数として、MD コンポ出荷台数(MD)、MDウォークマン出荷台数
(MDW)、TSUTAYA 店舗数(SHOP)、TSUTAYA 会員数(MEMBER)、サウンドトラ
ックダミー(S;その CD がサウンドトラック CD であれば1とするダミー)、オムニバ
15
スダミー(O;その CD がオムニバス CD であれば1とするダミー)、洋楽ダミー(W;その CD が洋楽 CD であれば1とするダミー)を用いた(MD,MDW,SHOP,MEMBERは月次データ)。
また、“CD の売り上げがレンタル回数に影響を及ぼす”という逆因果の可能性を加味す
るために新たに作ったレンタル回数を被説明変数とした回帰式には、売り上げを説明変
数として加えてある。ここで、推定したい回帰式は、
TS=C+a*R+b*PRES+c*PRER+d*P+e*RW ・・・①
R=C+f*TS+g*PRES+h*PRER+i*RW+j*MD+k*MDW+l*SHOP+m*MEMBER+n*S+o*O+p*W ・・・②
この二式であり、②式の影響を含んだ上での①式を推定することができるのが操作変数
である。
4-2-2 分析結果
操作変数を用いた回帰結果は表5のようになった。4-1-1と同様に、(6)の結果
はすべての説明変数を用いた結果であり、そこから有意でない変数を除いていった結果
が(7)~(10)の結果である。
(6) (7) (8) (9) (10)
Coef t-statistic Coef t-
statistic Coef t-statistic Coef t-
statistic Coef t-statistic
C 4.2832
6.72 *** 4.495
6 7.7
9 *** 4.9376
6.59 *** 4.897
1 12.47 *** 5.13
92 16.65 ***
R 0.7258
3.03 *** 0.618
0 2.6
9 *** 0.6289
3.41 *** 0.672
2 8.2
0 *** 0.6232
8.49 ***
PRES 0.0852
2.03 ** 0.076
5 1.9
2 * 0.0767
1.91 * 0.038
8 0.7
9 0.06
12 1.2
5
PRER-
0.0681
-0.4
4
-0.005
4
-0.0
4
-0.062
4
-0.0
5
P 0.0010
0.57
0.0017
0.95
0.0003
0.35
RW -0.064
-0.3
-0.094
-0.0
-0.094
-0.7
16
6 9 4 6 7 0 R^2 0.741449 0.742456 0.741127 0.727830 0.728615 AdR^2 0.737397 0.739237 0.737891 0.725122 0.727271
N 325 325 325 407 407 表5:アルバム総和、操作変数法による回帰分析結果
4-2-3 考察
分析結果より、(6)~(10)のすべての場合において、R は 1%水準で有意にCD売
り上げに正の影響を及ぼすことがわかった。CD のレンタル回数が 1%増えると売り上げ
は約 0.6~0.7%増加すると言える。つまり、レンタル回数を倍増させれば、CDの売り
上げは6~7割増しさせることができるのである。CDアルバムにとって、レンタルは
売り上げ促進へ非常に強い効果が期待できることがわかった。
次に他の説明変数についての考察をしてみたいと思う。
PRES についてだが、式によって有意なものと有意でないものがあるが、全て符号はプ
ラスであり、前作売り上げが高くなれば、次回作の売り上げも上昇することがあると言
える。なぜ、有意である式と有意でない式の双方が出てしまったのか。そもそもアルバ
ムは基本的に先にリリースされたシングルを収録するという場合が多い。ベスト盤など
はその最たる物であろう。このことを考えると、アルバムの売り上げには、前作のアル
バムが売れたという事実よりむしろ、前作に売れたシングルの影響がより強く作用され
るのではないかと考えられる。つまり、アルバムの前作売り上げの影響は、あるにはあ
るが、それほど大きなものではないと考えられる。これが有意である式と有意でない式
が出てしまった一因であろう。実際に有意である式の具体的な数値を見ても、PRES が
1%上昇した時、売り上げは 0.08%の上昇と、些細な影響である。
PRER についてだが、これはどの式においても全く有意とならなかった。アルバムに
おいては、前作レンタルはCD売り上げに対して影響力は無いことが読み取れる。
P についてだが、これもどの式においても全く有意とならなかった。これはほとんど
のCDアルバムの値段が 3000円程度の水準で落ち着いていて、差がほとんどないこと
が原因であろう。統計的に見ても、本章3-1基礎統計量の Std Dev(標準偏差)が小さ
いことからわかる。
RW についてだが、これもどの式においても有意とならなかった。紅白出場はアルバ
ムの販売促進に影響を与えないということである。先の内容だが、シングルに対しては
正の影響を与えるという分析結果が得られている。つまり、紅白出場は、シングルCD
の売り上げには効果があるが、アルバムまでの影響はないということである。
5.インターネットの影響
17
前章2-2で触れたように、携帯電話・パソコン・インターネットなどの音楽に代わ
る趣味・娯楽が増加したため、消費者が CD 購入のために使用できるお金が減ったことも
考えられる。そこで、インターネットの普及率を示すものとして、DSL 加入率データ
(DSL:月次データ)を説明変数として追加して、同じように回帰をした。(11)が最
小二乗法による分析結果で、(12)が操作変数法による回帰結果である。
(11) (12) Coefficient t-statistic Coefficient t-statisticC 10.9045 5.71 *** 11.5195 5.02 ***
R 0.6478 23.02 *** 0.5752 3.85 ***
PRES 0.0936 2.54 ** 0.0889 2.32 **
PRER -0.3172 -1.07 0.0073 0.08
P 0.0002 1.65 0.0002 1.55
RW -0.0091 -0.86 0.0292 0.22
DSL -0.4105 -3.49 *** -0.4407 -
3.30 ***
Adjusted R^2 0.7480 0.7453
表6:アルバム総和、DSL追加回帰
この結果から、最小二乗法でも操作変数法でも、DSL は CD 売り上げを減少させる影響
を及ぼしている可能性はあると言える。ただし、前章1節の図2と2-2の図7で示し
たグラフを見てもわかるように、CD の売り上げが単調減少しているのに対して、DSL 加
入者は単調増加をしている。したがって、回帰分析をすれば両者に有意な関係が現れる
ことは当たり前であり、DSL のt値が有意な結果になったとはいえ、本当に CD 売り上
げと DSL 加入者の間に理論的な関係があるかどうかはわからない。ただ、インターネッ
トの普及、すなわちパソコンの普及によって、CD をコピーする人が増えたり、また P2Pなどを利用してインターネット上で音楽をダウンロードする人が増えている可能性は大
いに有り得るので、それが CD の売り上げを下げていることは考えられる。
いずれにしても本論文のテーマである、レンタルの影響は売り上げに対して有意に正
の影響を与えているという結果はこれまで通り導き出すことができた。
18
6.まとめ
以上、最小二乗法で5通り、操作変数で5通り、さらに DSL を加えた回帰式で2通り、
の計 12通りの組み合わせで回帰分析を行ったが、説明変数の組み合わせに関わらず、常
にレンタル回数の符号は有意に+となった。このことから、“CD のレンタル回数が多い
タイトルは、その影響で売り上げ枚数も多くなる。”という仮説は実証されたと言える。
第3章CD シングル総和データを用いた分析
1.定義
“CD シングル総和データ”とは、“CD アルバム総和データ”と同様に、調査期間(2002年 1 月~2004 年 6 月)にオリコンに記載されている各週の CD シングル売り上げ枚数ト
ップ 100 を、タイトルごとにすべて足し合わせたものである。
2.仮説
これも第2章と同様、“CD レンタル回数が多いタイトルは、その影響で売り上げ枚数
も多くなる。”である。CD シングルのレンタル回数と売り上げ枚数の関係を視覚的に捉
えるために散布図を描いてみると、下の図 11 のようになる(データはすべて対数値)。
19
234567891011127891011121314 TS x R図 11:CD シングルのレンタル回数と売り上げ枚数の関係
やはりアルバムと同様シングルにも、レンタル回数と売り上げ枚数の両者には正の相
関関係がありそうである。
2-1 被説明変数と説明変数
被説明変数:CD シングル売り上げ総和(TS)
説明変数:CD シングルレンタル回数、前作タイトル売り上げ、前作タイトルレンタル
回数、ラジオオンエア回数、有線リクエスト最高順位、価格、紅白出場ダミ
ー、タイアップダミー(CMやドラマなどのタイアップがついているタイト
ルを1とするダミー)
2-2 説明変数の期待される符合
CD シングルレンタル回数(R):+
CD のレンタル回数が増えれば、音楽を聴く機会がより増えるため、そのタイトルを
買
いたいと思う人も増加するため。本論分ではこれを実証したい。
前作タイトル売り上げ(PRES):+
前作タイトルがたくさん売れれば、そのアーティストの知名度が高くなり、またそ
の
アーティストを好む人が増え、次回作を買おうとする人が増えると考えられるから。
前作タイトルレンタル回数(PRER):+
前作タイトルがたくさんレンタルされれば、そのアーティストの知名度が高くなり、
またそのアーティストを好む人が増え、次回作を買おうとする人が増えると考えられ
る
20
から。
ラジオオンエア回数(RADIO):+
ラジオオンエアが多ければ多いほど、宣伝効果が高く、そのタイトルを買いたいと
思
う人が増加すると思われるから。
有線リクエスト最高順位(USEN):-
有線のリクエスト順位が高ければ高いほど(数値で言えば低ければ低いほど)、そ
の曲
は人気があるということなので、買いたいと思う人も多くなると考えられるから。
価格(P):-
価格が安ければ安いほど、消費者はそのタイトルを購入しやすいと考えられるので。
紅白出場ダミー(RW):+
前年に紅白歌合戦に出場していれば、そのアーティストに対する好感度・知名度・評
価が高くなり、次回作を買う人は増加すると考えられるため。
タイアップダミー(TIEUP):+
タイアップがついているタイトルほど、そのタイトルを日常で聴く回数が増えて知
名
度が高くなるから、そのタイトルを買いたいと思う人も増加すると思われるので。
3.基礎統計
3-1 各変数の統計量
Number Mean Std
DevMinimum
Maximum Sum Variance
TS 1685 53794 120675 1017 2468071
90642600
14562400000
R 1691 28694 49583 4 361375 4852100 2458460000
21
0
PRES 995 62347 115402 1150 1005840
62034900
13317600000
PRER 910 41398 56575 4 337323 37672500 3200770000
RADIO 1691 162 326 0 2414 273886 106446
USEN 1691 5.4826 8.8550 0 50 9271 78.411
P 1691 1123 173 300 2625 1899606 29797
RW 1691 0.1082 0.3108 0 1 183 0.0966
TIEUP 1691 0.5529 0.4973 0 1 935 0.2473
表7:シングル総和データの各変数の基礎統計量
3-2 ピアソン相関係数
分散を一定に抑えるために、TS,R,PRES,PRER,RADIO には対数変換を施した
(本章これからの分析はすべて対数変換をしたデータを用いている)。
Correlation Matrix N=785
TS R PRES PRER RADIO USEN P RW TIEUPTS 1
R 0.76443 1
PRES 0.69085 0.58643 1
PRER 0.58347 0.76492 0.70111 1
RADIO
0.39200 0.44874 0.28007 0.36785 1
USEN 0.06165 0.11779 0.04486 0.06733 0.0859
1 1
P -0.0187
-0.02052
-0.01583
-0.00164
0.04942
0.01637
1
22
4
RW 0.28338 0.26841 0.27310 0.25593 0.0631
3 0.0806
4 0.04225 1
TIEUP 0.16846 0.20882 0.08246 0.13254 0.0398
2 0.0484
1 -
0.02172 0.0372
0 1
表8:シングル総和データの各変数のピアソン相関係数
3-3 単回帰
TS との単回帰
C Coefficient t-statistic R^2(Adjusted
R^2)Number
R 6.81161 0.365732 40.3
8 *** 0.492145
0.491843 1685
PRES 2.79408 0.707910 30.7
4 *** 0.488046
0.487529 993
PRER 6.83247 0.348844 20.5
4 *** 0.317378
0.316625 909
RADIO
9.42335 0.203827 17.5
4 *** 0.154474
0.153972 1685
USEN 9.73686 0.013263 3.32 *** 0.06493
7 0.05903
4 1685
P 10.39130
-0.005176 -2.52 ** 0.03753
2 0.03161
2 1685
RW 9.70420 0.972617 8.70 *** 0.04304
8 0.04247
9 1685
TIEUP 9.51922 0.524840 7.46 *** 0.03199
6 0.03142
1 1685
表9:シングル総和データと各変数の単回帰結果
4.回帰分析
23
4-1 操作変数法による回帰分析
前章で触れたように、最小二乗法による回帰分析では逆因果の可能性や誤差項の影響を
加味することができず、分析に限界が出てしまう。そこで、シングルの場合でも操作変
数法を用いた分析を行う。
シングルでは操 作変 数として、 アルバムの時にも用 いた MD コンポ出荷台数
(MD)、MDウォークマン出荷台数(MDW)、TSUTAYA 店舗数(SHOP)、TSUTAYA会員数(MEMBER)のデータに加え、演歌ダミー(ENKA;その CD が演歌であれば1と
するダミー)を使用した。
ここで推定したい回帰式は、
TS=C+a*R+b*PRES+c*PRER+d*RADIO+e*USEN+f*P+g*RW+h*TIEUP ・・・③
R=C+i*TS+j*PRES+l*PRER+m*RADIO+n*USEN+o*RW+p*TIEUP+q*MD+r*MDW+s*SHOP+t*MEMBER+u*ENKA ・・・④
この二式であり、④式の影響を含んだ上での③式を操作変数法によって推定する。
分析に用いた有線のデータについて、データを入手する段階で、J-POP の有線順位と演
歌の優先順位が分かれていた時期があった。このため、以下の5通りの方法で分析した。
(13)説明変数 USEN を除いて回帰。
(14)演歌のデータを落として回帰。
(15)J-POP と演歌は同様の扱いにして回帰(つまり J-POP の1位と演歌の1位はとも
に有線1位とする)。
(16)演歌の順位は 10繰上げて回帰(つまり演歌の1位は J-POP の 11位に相当する)。
(17)演歌の順位は 5倍にして回帰(つまり演歌の1位は J-POP の5位に相当する)。
なぜこれらの方法をとったのか。(13)については、説明変数を減らすのはあまり好
ましくないが、J-POP と演歌を織り交ぜた正確なデータがない以上、除くのは止むを得な
いと考えることができるからである。(14)についてだが、実は有線順位にランクイン
していて分析上問題を引き起こす演歌データは 11個に過ぎない。このことから、演歌の
データは落としてもあまり大勢に変化はないだろうと考えたからである(実際には大き
く変化してしまったが)。(15)については、J-POP であろうと演歌であろうと同じ1
位なのだからそのまま分析する必要もあると考えたからである。(16)、(17)につい
ては、演歌と J-POP の順位が分かれていなかった時期の順位を見た印象で、だいたいこ
の程度だろうと予測してこのような措置をとった。
24
いずれにしても、このように多くの方法で回帰することによって、より正確な分析結
果を得ようとしたのである。以上を踏まえた分析結果が次節の表9である。
4-2 分析結果
(13) (14) (15) (16) (17)
Coef t-statistic Coef t-
statistic Coef t-statistic Coef t-
statistic Coef t-statistic
C 2.9050
6.98 *** 2.480
1 5.4
6 *** 2.9272
7.18 *** 2.970
8 7.3
9 *** 2.9952
7.40 ***
R 0.3427
2.69 *** 0.550
5 3.4
3 *** 0.3413
2.72 *** 0.318
3 2.6
3 *** 0.3082
2.56 ***
PRES 0.5015
15.42 *** 0.454
9 11.57 *** 0.499
7 15.18 *** 0.503
9 15.50 *** 0.505
3 15.56 ***
PRER-
0.1363
-1.7
8 *
-0.233
7
-2.6
2 ***
-0.133
4
-1.7
9 *
-0.121
4
-1.6
7 *
-0.115
7
-1.6
0
RADIO
0.0445
2.12 ** 0.015
4 0.6
2 0.045
5 2.2
3 ** 0.0486
2.43 ** 0.050
2 2.5
2 **
USEN
-0.072
0
-1.7
0 *
-0.039
9
-1.0
2
-0.029
5
-0.7
9
-0.033
7
-0.9
3
P-
0.0006
-0.3
3
0.0001
0.06
-0.000
6
-0.3
3
-0.000
7
-0.3
7
-0.000
8
-0.3
9
RW 0.2217
2.22 ** 0.100
5 0.8
1 0.225
5 2.2
9 ** 0.2368
2.43 ** 0.243
4 2.5
0 **
TIEUP
0.1182
1.39
0.0356
0.38
0.1225
1.47
0.1325
1.61
0.1377
1.67 *
R^2 0.701570 0.705716 0.701961 0.698055 0.696262 AdR^2 0.698882 0.702639 0.698888 0.694943 0.693131
N 785 774 785 785 785 表 10:シングル総和、操作変数法による回帰分析結果
4-3 考察1
25
すべての場合において R のt値は正の符号で有意となり、CD レンタルは売り上げに正
の影響を及ぼすことが実証された。
具体的に数字を見ると、レンタル回数が1%上がるにつれ、CD 売り上げは 0.3~
0.55%ほど上がることが読み取れる。言い換えると、レンタル回数が 100%上がれば、
すなわちレンタル回数が2倍になれば CD 売り上げは 30~55%ほど上昇すると言える。
つまり 10万枚売れていて 1000 回レンタルされている CD は、レンタル回数が 2000 回
に増えると売り上げは 13万~15.5万枚になると言える。このように CD レンタルは売
り上げを上昇する手段としてかなり効果的な方法と言うことができる。
次にその他に変数の結果はどのようになったかを検証したいと思う。
PRES についてだが、全ての場合で 1%水準有意になり、符合も理論通りであった。前
作売り上げが増加すればそれにともなって売り上げも上昇するといえる。ではどれだけ
上昇するのか。前作売り上げが 1%上がると売り上げはおよそ 0.5%上昇するようだ。つ
まり、前作売り上げが倍増すれば、50%増の売上が見込めるといえる。
PRER についてだが、(14)で 1%水準有意、(13)、(15)、(16)の3ケースで
10%有意となり、全 5ケースで理論に反し負の符号となった。前作レンタルが増加する
と次作レンタルは減少してしまうのである。つまり、先の R の結果と合わせて検証する
と、レンタルが増加すればその作品の売り上げも上昇するが、次作の売り上げは減少し
てしまうという結果である。なぜこのような結果になってしまったのか。これについて
は4-5において説明する。
RADIO についてだが、4つの場合において 5%水準で有意になり、符合も理論どおり
であった。ラジオオンエア回数が 1%増加すれば、約 0.04%の売り上げ増となることが
読み取れる。ラジオは CD宣伝において効果のあるメディアと言えよう。
USEN についてだが、(14)で 10%水準有意になった他はすべて有意とならなかった。
符合は理論どおり負の符号であった。USEN は放送回数のデータがなく、その順位を持っ
て変数とした。絶対的なデータではなく、相対的なデータなのである。つまり、極端に
言えば、1000 回放送の 1位も 100 回放送の 1位も同様の 1位とみなされている。これ
が有意にならなかった原因と言えるだろう。
P についてだが、全ての場合において有意とならなかった。符合は理論通り負の符号と
なったが、有意でないのであまり意味のある結果とは言えない。この原因は、CD シング
ルの値段はほとんどが 1000~1200円の水準で落ち着いているため、差がほとんどない
からであると思われる。これは本章 3-1 基礎統計量の Std Dev(標準偏差)を見ても、
絶対的数値が小さいことから示されている。相対的にも、 P の変動係数(Mean / Std Dev)は他の変数の変動係数よりも小さい。
RW についてだが、4つの場合において 5%水準有意となった。符合も理論と一致して
おり、前年に紅白出場していれば、CD 売上は増加するといえる。その効果は、出場して
いれば 0.23%前後増、10万枚売り上げの CD は 12.3万枚となる。
26
TIEUPダミーについてだが、(17)で 10%水準有意なった以外はすべて有意にならな
かった。これは意外である。しかしタイアップダミーは主題歌から挿入歌まで、ゴール
デンタイムのドラマ使用から地方テレビのマイナーな番組での使用までピンキリであっ
た。それが有意にならなかった一因であると考えられる。符号は正の符号であるので、
理論には適合していると言える。
以上の結果を踏まえて全体的に見ると、最良の回帰式はどの回帰式だろうか。(14)
は若干特殊で他のケースの分析結果とも大きく異なることがわかる。データ数も減らし
てしまっているので、あまり良い回帰式とは言えないだろう。(13)は説明変数を一つ
除くという特殊なパターンであるし、残りの(15)~(17)が安定した回帰式だと考え
られる。その中で、(15)は演歌と J-POP が差別化されていないが、これは現実的に考
えるとやはり受け入れ難い。(16)と(17)の選択になるが、TIEUPダミーが有意とな
っている(17)を次節以降に用いる回帰式として採用する。
4-4 説明変数の取捨選択
前節で採択した(17)において、変数を取捨選択して回帰した結果が下の表 10 の通り
である。t値が最も有意でなかった変数 P を除いて回帰した結果が(18)である。さら
に(18)の回帰式から有意でない変数、USEN を除いて回帰した結果、PRER を除いて回
帰した結果がそれぞれ(19)、(20)である。最後に P,USEN,PRER をすべて除いて
回帰した結果が(21)である。
(17) (18) (19) (20) (21)
Coef t-statistic Coef t-
statistic Coef t-statistic Coef t-
statistic Coef t-statistic
C 2.9952
7.40 *** 2.905
5 9.8
4 *** 2.8312
9.26 *** 3.201
1 13.39 *** 3.18
77 13.40 ***
R 0.3082
2.56 *** 0.309
3 2.6
2 *** 0.3430
2.74 *** 0.164
7 3.2
0 *** 0.1719
3.23 ***
PRES 0.5053
15.56 *** 0.505
5 15.59 *** 0.501
7 15.44 *** 0.491
1 11.16 *** 0.48
59 10.79 ***
PRER-
0.1157
-1.6
0
-0.116
4
-1.6
3
-0.136
4
-1.8
1 *
RADIO
0.0502
2.52 ** 0.049
8 2.5
5 ** 0.0443
2.15 ** 0.065
7 4.2
0 *** 0.0636
3.98 ***
USEN - - - - - -
27
0.0337
0.93
0.0340
0.94
0.0181
0.49
P-
0.0008
-0.3
9
RW 0.2434
2.50 ** 0.241
3 2.5
1 ** 0.2202
2.24 ** 0.290
5 3.0
9 *** 0.2822
2.99 ***
TIEUP
0.1377
1.67 * 0.137
7 1.6
8 * 0.1185
1.40
0.1981
2.78 *** 0.19
18 2.6
7 ***
R^2 0.696262 0.696433 0.701568 0.646478 0.649260 AdR^2 0.693131 0.693698 0.699266 0.643752 0.647009
N 785 785 785 785 785 表 11:シングル総和、操作変数法による回帰分析結果2
4-5 考察2
(18)を見ればわかるように、説明変数 P を除いても結果に大きな変化は見られなか
った。ここからさらに USEN を除いた(19)を見るとどうだろうか。PRER は有意とな
ったが、その代償として TIEUP が有意でなくなってしまった。次に PRER を除いた
(20)の結果はどうだろうか。何と TIEUP のt値が一気に1%水準有意となった。
RADIOや RW も5%水準有意から1%水準へと改善された。これは PRER が何らかの説
明変数と多重共線性を引き起こしていた可能性がある。そこで本章3-2のピアソン相関
係数を見ると、PRER は R と PRES にやや高い相関関係があることが読み取れる。ここで、
PRER,R,PRES のいずれかの変数をはずすという選択に迫られるが、R と PRES の相関係
数は 0.58643 と、PRER絡みの相関係数(R:0.76443、PRES:0.76492)より比較的
小さいので、PRER を除くのが妥当な選択と言える。よって、上の(20)のように結果
が大幅に改善されたのは必然であったと言える。
このことから、前節で PRER が理論に反して負の符号で有意になった原因が次のよう
に考えられる。それは、CD 売り上げに対するレンタル回数や前作売り上げの影響が、前
作レンタルの影響を取り除いてしまったからである。実際に、PRER ではなく PRES を、
PRER ではなく R を除いてそれぞれ回帰してみると、PRER は正の符号で有意となった。
つまり、PRER が負の符号となってしまったのは、相関関係が高い Rや PRES に正の効果
を吸収されてしまったからであるといえる。
最後に(20)からさらに有意でない説明変数 USEN を除いた(21)の結果を見ると、
すべての説明変数が1%水準で有意となり、符合もすべて理論と適合した。この(21)
の回帰式がシングルにおける最良の回帰式としたいと思う。
28
5.まとめ前節で得られた(21)の回帰式の意味は次のようになる。
① レンタル回数が1%増加すると、それにともなって CD 売り上げも 0.17%増加する。
② タイアップがつくと、CD 売り上げは 0.19%増加する。
③ 前作売上が1%増加すると、それにともなって売り上げも 0.49%増加する。
④ ラジオオンエア回数が1%増加すると、それにともなって CD 売り上げも 0.06%増
加する。
⑤ 前年に紅白歌合戦に出場すると、CD 売り上げは 0.28%増加する。
このような結果を得ることができた。また、(13)から(21)、単回帰の結果も含めて
10通りの分析をしたが、どの回帰分析でも一貫してレンタル回数 R という変数は1%水
準有意で CD 売上に正の影響を与えているという結果を得ることができた。
第4章CD 売り上げとレンタルの関係についての結論
この論文では日本において CD のレンタルが売り上げに与える影響、特にレンタルが売
り上げを促進させているということを証明するべく分析を行ってきた。アメリカの CD業界が主張しているような CD レンタルが売り上げを減少させる大きな要因であるとい
う見識を否定すれば、CD のレンタルに関する現状(アメリカでは CD レンタルはなく、
日本での洋楽 CD レンタルは発売後 1 年経過以降など)を変えこともできうる。実際にそ
れができれば、日本とアメリカ両国の CD 産業にプラスとなる効果を与える画期的な分析
を打ち出せたことにもなるだろう。ではその結果をまとめ、考察していこう。
1.結論
CD シングル及びアルバムともに、レンタルは有意に売り上げに正の影響を与えている
ことを確認できた。すなわち CD レンタルは悪影響どころかむしろ売り上げを増加させ
る効果があることを証明できたことになる。分析にはレンタルのみが売り上げへ与えて
いる影響をできる限り抜き出し明示し、ほぼ確実にレンタルと売り上げの真の関係を示
すことができたといえるだろう。
アルバム及びシングルでそれぞれ複数通りの分析を行った結果、レンタル 1%の増加に
対し、各分析でアルバムではおよそ+0.6~0.7%強、シングルではおよそ+0.3%強の効
果があることが見出せた。見解として強く広まっているような CD レンタルの悪影響を与
29
えているという主張を見出すような根拠はまったくないといえる。
またその他に売り上げを増加させるような要因として、前作売り上げ、ラジオオンエ
ア、前年度紅白出場があげられる。それは特にシングルについて顕著である。アルバム
では前作といってもシングルよりも期間が長くあくため、アルバムではシングルほどは
効果が出なかったと考えられる。紅白に関しても、実際に紅白歌合戦で歌われるのは基
本的に1アーティストにつき 1曲なのでシングルについては強く影響がでる。しかし年
1 回の紅白と年1、2 枚というペースが一般的な、しかも多数の曲を含むアルバムでは関
係が見出せるほどではなく、アーティストの選好による影響があったとしても確認でき
るほどではなかったのではないだろうか。
よって今回の分析によれば、まず CD レンタルを否定する必要はなく、むしろ売り上げ
を増加させるので推進すべきである。また CD の売り上げを伸ばしたいなら、ラジオオ
ンエア、アーティストの紅白出場が重要な要因となっている。1度売り上げが増加すれ
ば次回作も売り上げ増が期待される。さらにどの場合においてもレンタルは売り上げを
増加させることができるといえる。
今回の分析はデータの取り方によってより深めることができる。タイトルごとの売り
上げ総和ではなくタイトルごとかつ期間ごと(週次など)の売り上げによる分析も可能
だと考えられる。今回も CD レンタルの良い影響を確かに示せたが、その分析も行うこと
ができればより確実に示すことも可能かもしれない。
2.おわりに
本論文を作成する上で、非常に多くの方々にご協力をしていただきました。本論文は
そのようなお力添えがあってこそのものだと私たちは考えております。この場を借りて 、
改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。
3.出典・参考資料
①2002 年からの 2 年半分の CD の個別タイトルごとの「全国での総レンタル回数」
“日本コンパクトディスク ビデオレンタル商業組合”より・②CD 生産量推移・CD レンタル店舗数の推移・CD報酬制度の内容
“社団法人 日本レコード協会”より
(http://www.riaj.or.jp/)
③2002 年からの 2 年半分の CD の個別タイトルごとの「売り上げ枚数」、「値段」、
30
「発売日」、「ドラマ・CM曲などのタイアップの有無」・「その週にラジオで放送され
た回数」・「その週に有線にてリクエストされた回数」
“週刊 オリジナル・コンフィデンス”より
④過去 4 年間に紅白歌合戦に出場したアーティスト
“Yeemar’s HomePage”より
(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/index.htm)
⑤2002 年 4 月から 2 年分の全国 TSUTAYA 店舗数・会員数の推移
“TSUTAYA”より
⑥2002 年からの 2 年半分の国内 MD コンポ・ポータブル MDプレイヤー売り上げ台数
“JEITA 社会法人電子情報技術産業協会”より
(http://www.jeita.or.jp/japanese/index.htm)
⑦過去 4 年間のブロードバンド普及率
“総務省・情報通信行政”より
(http://www.soumu.go.jp/index.html)
⑧1973 年から 2002 年までの出生数
“国立社会保障・人口問題研究所”より
(http://www.ipss.go.jp/syoushika/syindex.htm)
⑨1998 年から 2003 年までの国内パソコン世帯普及率
“社会実情データ図録”より
(http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/)
⑩1998 年から 2004 年までの携帯電話・PHS 契約者数推移
“社会法人 電気通信事業者協会”より
(敬称略)
31
32