特別な支援を要する子どもの -...
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特別な支援を要する子どもの支援
通常学級における特別支援教育と
学習のユニバーサルデザイン
• 物事を考えたり、言語、運動、生活技能の獲得に問題が生じる
• 発達の遅れ、質的なゆがみがある
• 学習困難(学習障害)、落ち着きのなさ・衝動性(ADHD)、対人関係の困難さ(広汎性発達障害)などの障害がある
発達障害とは
目に見えない発達上のゆがみや遅れのために社会適応困難を示すことがある
病気ではありません「個性」ととらえてください
社会的情報処理理論
できごとことば体験
解釈↓
問題解決↓
目標↓
メッセージ
行動
我々は事態を受け止め、分析し、最良の対応をしようとする
発達障害はなぜ問題を起こすのか?
できごとことば体験
解釈↓
問題解決↓
目標↓
メッセージ
行動
バイアス
バイアス
バイアス
バイアスへの支援
できごとことば体験
解釈↓
問題解決↓
目標↓
メッセージ
行動
事実を正しく認知できる工夫
自分にとって良好な問題解決支援
正しい自己主張支援
子どもが抱える困難
発達障害だけではなく
何らかの困難を抱える
グループが存在する
「○○障害」でなくても、困難さを抱える子どもが存在する
LD PDD
ADHD
3つの困難への特別な支援(領域)
発達障害に限らず、3つの支援を必要とする子どもが対象
3つの支援の前に考えること
4.チームアプローチ
1.自己肯定感を育てる
2.自己決定支援
自己解決・自己評価本人参加
5.特性に応じた支援
学習、対人、行動
3.学習支援(学習のユニバーサルデザイン)
保護者との協働作業
個別計画
特別な支援の基本的な考え方
1.自己肯定感を高めるかかわり• 子どものやる気を高めるかかわり
• できたという成功体験をあたえる
• 自分はできるという自信を育てる
• 自分でも役に立つという体験を与える
親しく声をかける、子どもの話に関心を持つ
できることから始める、無理のない目標設定
当たり前のことができたらほめる、みとめる
子どもに仕事を与え、感謝する係活動、ボランティア体験
できたことを認め、ほめてのばし、自分を好きになる
自己選択 自己解決 自己主張 自己理解
自分で選ぶ決める
結果を受け入れる
問題意識
目標設定
実行
自己評価
自分はできるという自信
意思を表現する
Noを言う
得意、不得意
自分にあった生き方
人生観
自己決定:4つの要素、さまざまなスキル
2.自己決定の概念図
自己選択
• 自分で選ぶ、きめる
• 結果を受け入れる
– そのためには、選択肢と結果を前もって教えておくこと
ブランコと滑り台、どっちで遊ぶ?
このTシャツとこれとでは、どっちがいい?
バスに乗ると30分かかる、電車だと10分だけど、10分歩くよ
選択の機会を与え、選択肢と結果を示す
自分で解決できるようなかかわり方
• ×「どうしてそんなことをしたの!」
• ×「そんなことしちゃ、ダメでしょう!」
• ×「いい、今度から○○しなさい!!」
• ×「なんでできなかったの」
「何があったか、ゆっくり話してごらん」
「それはいいことかな」「どんな約束だったの?」
「『あやまる』『弁償する』『先生に相談する』、あなたならどれができる?」
「なんとか『ごめん』が言えたね。今度は自分から『すみませんでした』って言おうね」
自己解決のポイント
• 内容の視覚化
• 共感的態度
• 具体目標の設定
• 自己評価とフィードバック
状況や話し合いの経過・結果をビジュアルに
考えや感情を受け入れる、認める
実行可能で評価しやすい客観的な目標設定
できたことを認め、次につなげる働きかけ
自己評価のチェックリスト
月 日 月 日 月 日 月 日
できた問題数
自分の評価
教師の評価
目標:プリントの問題10問解く
自己評価と教師のフィードバックで、コミュニケーション・信頼関係を深める
本人参加による個別の計画作成と評価
手続き
• 目標をきめる
• 必要な支援をきめる
• 計画作成
• 定期的に評価する
困っていることを聞き、どうなりたいのかを一緒に考える
提供可能な支援の情報提供と、自己選択による決定
できたこと、がんばったことを言わせるできたこと、がんばったことをほめる
本人の参加 → 問題解決の意識、自信へ
事例
• 対象:LD(小6女子)• 問題:状況理解や人間関係の困難さからの暴言
• 対応
– 視覚教材を使った自己解決法
– 主な活動のシナリオの作成
共感、見えるように、自己選択、具体目標
レベル1 レベル2 レベル3
心の状態
気持ち 余裕
まだまだがんばれる
少しイライラ
少ししかがんばれない
爆発寸前
もうダメ
適切な言い方、対処の仕方
「だいじょうぶだよ」
課題を続ける
「少し休ませてください」
先生に助けを求める
・・・・
保健室に行く
困っていることを聞き、どうなりたいのかを一緒に考える
結果
• 本人
– 乱暴なことばの減少
– 乱暴なことばを言ってしまったあとですぐに言い直す
– ふり返られるようになる(何でこんなことで怒ったんだろう)
• 両親
– 冷静に子どもを見られるようになる
– 怒っているときにこそ、優しく問いかけることができる
3.学習支援
誰もがわかる授業づくり
学習のユニバーサルデザイン(UDL)の視点
なぜ今UDLなのか?
UDLと統合教育との強い関係
統合教育とは
• 地域の通常の学級で、障害があっても、障害のない児童生徒と一緒に学ぶこと
• 単に一緒にいるだけではなく、その子どものニーズにあった特別な教育的支援を提供する
• 同じカリキュラムを適用するか、カリキュラムを変えるかは、さまざまな考え方がある
場所、カリキュラム、学習内容それぞれについて、同じにするかどうかによって、統合教育の内容が変わる
統合教育実施上の課題
• 一つの教室で、学力差・能力差への対応
• 一つの指導法で全員が学ぶことが困難
• Universal Design for Learning– (定義)すべての学習者が、学習に対する知識、
技能、やる気を得ることを可能にするカリキュラムを設定するための枠組み
我が国でも同じ状況へ通常学級でUDLの実施の必要性
発達障害とその対応(例)障害名 有効な支援 具体例
ADHD 集中できる話を聞く課題を成し遂げる
導入の工夫、スケジュール表(手順表)、自己評価法
PDD 見通しを持つ話の意味理解マイペースで(ゆっくり)
スケジュール表、視覚的手がかり、黒板の分割、ICTの活用
LD 本人にあった学習個別指導
支援プリント、机間支援、個別学習支援
発達障害への対応はすべての子どもにわかりやすい
UDLの原則(長江・細渕,2004)
• すべての子どもが学びに参加できる
• 多様な学びに柔軟に対応できる
• 視覚や触覚に訴える教材教具、環境
• ほしい情報がわかりやすく提供される
• 間違いや失敗が許容され、試行しながら学べる
• 自分の力で達成できる授業
• 必要な学習活動の十分に取り組める課題設定
UDLとは:発達障害の子=なくてはならないもの、全員=あると便利なもの
学習のユニバーサルデザイン
• 授業構成の工夫
• 指示、説明、発問の工夫
• 板書と机間支援の工夫
• 視覚情報や作業・動作の活用
授業の流れを示す、導入の工夫、準備のタイミングの明示
簡潔化、具体的、肯定的表現、活動がイメージできる表現
きれいな黒板、分割法、机間支援と一斉支援・個別支援
視覚的手がかり、「見て→読んで→書く」、作業動作で集中
特別な対応をすべての子に:特別が特別でなくなる
UDLの成果
• 読み書き困難から学習困難になると思われる子どもを早めに発見する
• 学習困難になる前に、早めに対応する
• テスト→診断→対応という従来の方法より、時間がかからない
• 診断されていない子どもにも適用できる
• 担任一人でもある程度特別な対応ができる
多様な実態に早期に対応できる予防措置
UDL:二つの実践
• 目的
• UDLを実践するためのチェックリスト、「教師
用授業チェックリスト」を使って授業改善を図ることで、クラスが落ち着き、発達障害の児童の問題が減少するか?
チェックリストの項目
• 授業構成の工夫
• 指示の出し方の工夫
• 板書の工夫
• 机間支援の工夫
• 情報の活用の工夫
http://www7b.biglobe.ne.jp/~udl/
(チェックリストの入手先)
実践(1)
小学校通常学級
小林・古田島・長澤(2009)
実践(2)
中学校通常学級
小林(2010)
総合考察
• 教師がUDLを実践することにより学級集団が変わる
• 同時に、特別な支援を要する子どもの行動も変わる
よって、UDLはどの子どもにも有効だといえる学習だけではなく、問題行動にも有効かもしれない
UDLの条件
UDLの条件
• 通常学級の全員を対象とした指導・支援である
• 学習困難や失敗させない予防的対応である
• 指導方法やルールを事前に説明する
• 成果を科学的に実証しなければならない
• 複数のスタッフで担当する(TT、連携)
• 段階的対応が求められる
UDLは統合教育を実施するためのものUDLでうまくいかない子どもへの対応を準備すること
UDL通常学級で全員を対象
補習、特別な指導基準に達しない生徒・少人数指導
個別対応・教育措置変更基準に達しない生徒・一対一対応
UDL
誰もがわかる授業の工夫
ICTの積極的活用(授業へ積極的参加)
自己管理・自己決定支援
各段階共通:説明責任、客観的評価・評価の連続性、できていることを積極的に強化(評価)する
UDLは予防的対応。できない子どもに対する準備をすること
段階的な介入
1:UDL
2:少人数指導
3:個別指導
学級
小グループ
相模原市立富士見小学校
• ユニバーサルアプローチ&パーソナルアプローチ
個別支援↑
(小集団での支援)↑
クラス全体の支援
学級経営・授業作りの工夫
個別指導計画、ケース会議、学習補助員、少人数指導、教師力のスキルアップ、特総研との連携
4.保護者と連携=協働作業
• 相手の立場を尊重する
• 一緒に考え、一緒に指導する
• 自分の問題として考える
• 問題の原因追及より解決を目指す
• それぞれの立場でできることを考える
対応の基本
• 訴えをじっくり聴く
• 要求していることを具体的に理解する
• 事実と主観を区別する
うなずく、話を復唱する、最後まで聴く
積極的に質問し、何を望んでいるかを知る
ひどいことを言われた(主観)、「帰れ」と言われた(事実)
聴く、理解する、訴えを具体的に分析する
対応の基本(続き)
• 願いを知る
• 「できない」ではなく「どうすればできるか」を一緒に考える
• できることとできないことを明確に説明する
子どもにどうなって欲しいのか、願いを丁寧に聞く
少しでも可能性のある対応を具体的にひとつひとつ検討する
願いを知り、考え、説明する
できることは自分から提案し、できないことは理由を言って断ること。曖昧にしない
話し合いを継続する• 親の悩みに応える姿勢
• 良いことをまず報告
• 親のがんばりを評価する
• 次回までの対応をきめる
「いつでも相談にいらしてください」
あせらず、できることを評価し、時間をかけて対応
できていることから話題にし、残された問題を話し合う
親の努力を積極的に誉めること
できることを約束し、次回の日にちをきめること
5.特性に応じた支援
(問題)行動支援(主にADHD)
ADHDの対応に使われる技法
• 不注意・注意欠陥
– 興味・関心、集中できる工夫、視覚的手がかり
• 多動性
– 望ましい行動を教える、ほめる
– スケジュール表
• 衝動性
– 自己評価:目標設定→振り返り→ほめる
– トークンシステムとタイムアウト
叱るより、特性にあった技法を積極的に取り入れる
対応(1)自己管理の仕方を教える
• 話し合って約束をきめる
• 実行したかどうか、記録する
• できたことを評価する
約束「手をあげてから発言する」にします!
チェックリストを用い、記録することを教える記録することが行動抑制になります
「手をあげながら言えたね!」
自分できめた約束を守ることと、約束を守るといいことがあることを教える
対応(2)して良いことを教える
• 子どもの問題行動は間違った自己主張
• 何を訴えたいのか、よく話を聴くこと
• 問題行動を正すのではなく、正しい自己主張を教えること
わからないときに大騒ぎ→「うるさい、静かにしなさい
話をよく聴く「~してはいけません」 → 「○○しましょう」
「『教えてください』って、言うんだよ」
対応(3)メリハリのある対応
• 望ましい行動
• 悪くない行動
• 問題行動
– してほしくない行動
– 許しがたい行動
強化(大)ほめことば
強化(小)悪くない状態を認める
消去無視、ルールを繰り返し言う
教育的な罰活動の制限、タイムアウト
1000ポイント:ゲームソフト500ポイント:カラオケボックス3時間100ポイント:カード10パック50ポイント:カード3パック10ポイント:おやつ
よいおこない手を挙げて発言した:1ポイント声をかけてからものを借りた:2ポイント悪口にことばで反論した:3ポイント
忘れ物をしなかった:2ポイント 約束を具体的に価値のないシールやスタンプ
ポイントを集めてものと交換ごほうびに差をつけること今の楽しみを我慢する練習
与えるときにはもらえた理由を認識させること
対応(4)トークンシステム
ポイントを与え、ごほうびと交換するシステム(計画的に実行すれば、かならず効果があります)
対応(5):タイムアウト(教育的な罰)
• 警告 → 別室(静かで安全な部屋)
• まず、落ち着かせる
• 約束、簡単な課題(漢字の書き取りなど)
すぐに復帰を!説教しない!
快適な環境に置かない
警告、別室でクールダウン。事前の説明責任を果たす
UDLに基づく問題行動への対応
段階的な対応
段階1:UDL通常学級で全員を対象
段階2:特別な指導基準に達しない生徒
段階3:個別対応基準に達しない生徒・一対一対応
手続き
• 段階1(UDL)– クラス全員が守るべき(守れる)目標をきめる
– チェックリストで自己評価する
– できている子ども全員を評価する(ご褒美)• 段階2(3)
– 基準に到達できなかった子どものニーズにあった個別(小グループ)対応
– 学習支援、TT、保護者連携、タイムアウトなど、さまざまな方法を採用
期待される成果
• 問題行動を起こしそうな子どもを早めに発見する
• 当たり前のことをしている子どもが評価される
• 学級崩壊になる前に、早めに対応する
• 診断されていない子どもにも適用できる
• 支援が必要な子どもが複数いても、担任一人でもある程度特別な対応ができる
多様な実態に早期に対応できる予防措置
事例:小学校の学級への介入
関戸(2010)
実態と方法
• 実態
– 小4(39名在籍)、問題行動のある児童5名– 離席、授業不参加
– 担任:経験年数20年以上
• 対応
– 1:クラス全体への支援
– 2:個別支援
目標:話を聞く、ノートをとる→がんばりカード→ポイント→シール
対象児童1名。個別学習支援。
結果と考察
• 結果
– 話を聞く、ノートをとる目標がおおむねクリア
– 対象児童5名中4名が問題改善
– 1名も個別支援で問題改善
– 児童、教師とも、介入を評価
• 考察
– 問題行動の対応においても、全体から個人への段階的な対応が有効
段階1:UDL通常学級で全員を対象
段階2:特別な指導基準に達しない生徒
段階3:個別対応基準に達しない生徒・一対一対応
問題を起こさない対応→起こしそうな子どもへの対応→問題への対応
問題行動へのさらなる対応(概念図)
自己肯定感を育てる
チームアプローチ客観的な評価
教師
保護者現状の認識対応の説明
保護者自身による対応
指導の質の向上学習支援
学習スケジュール表タイムアウト
対象生徒への対応問題の認識学習権の理解
問題の自己解決違反行為への対応の説明
学級全体への対応
対応マニュアル個別の指導計画協働作業
障害特性への配慮
このモデルの説明
• 包括的な対応を
• 必要な学習支援の実施
• 本人に考えさせる
• 「悪くないこと」をほめる
自己肯定感、チームアプローチ、保護者との協働作業
基礎学力、将来の進路にあわせた支援、個別支援
自己認識、自己解決
完璧さを要求しない、できることを評価し伸ばす
http://www.ed.niigata-u.ac.jp/~nagasawa/manual(problem).pdfhttp://www.ed.niigata-u.ac.jp/~nagasawa/checklist(problem).pdf
対人関係支援(主にPDD)
対応(1)見えるように教える
• スケジュール表を活用する
• 絵に描いて説明する
– 絵カード、4コマ漫画
• 文章にして教える
– ソーシャルストーリー
• 話を図に整理して考えさせる
– 認知行動療法
視覚教材作成の労力を惜しまない他の子どもにとってもわかりやすい教材を
ルールの視覚化ルールが常に見えるよう
にしておく
本人の訴えを聞き、自己選択支援
教科書の漢字のみ書く
教科書以外の漢字も書く
宿題が出た
○がもらえる
○がもらえない
本人の意見と、通常の選択の結果を比べ、どうするかを今一度考えてもらう
対応(2)具体的な会話を
• 具体的な約束を
• わかりやすい表現で
• 相手の過激な表現に惑わされない
– 「死にたい」
×遅れないように ○8:30までに教室に入りなさい
死にたいほどつらい、とても嫌なことがあったという意味。訴えをよく聴く
×小さな声で言いなさい ○レベル2の声で言いなさい
事実に基づく、客観的な表現を心がける
約束表
• 親切
– ものを貸す
– 大丈夫、と言う
• 親切でない
– ものを貸さない
– 無視する
・約束:同級生には親切にしましょう。
・意味:相手が困っているとき、相手が「してほしい」と言ったことをしてあげる。
約束の意味と具体例を示すこと
約束、意味、具体例をわかりやすく示しながら、対応を教えること
対応(3)文脈理解の工夫
• 活動の流れを図に表す
• 予想されるトラブルを未然に防ぐための約束を書く
• 苦手な活動は事前練習する(リハーサル)
見学の流れ 約束
更衣室で着替える
整列する
器械体操
入り口から一番遠いところで着替える
私語に気づいても注意しない
最初から教師に援助を求める
体 育
構造化された環境で教師との一対一の学習
問題が起きる前に活動の流れを提示し、リハーサルを
特別支援教育(まとめ)
1. 自分を好きになる
2. 自分で問題解決
3. 居心地のよいクラス
4. 教師と保護者が一緒に
5. 個のニーズに合わせた支援
特別支援教育は障害の有無にとらわれず、積極的に支援することです
自己肯定感・自尊感情
自己解決・自己理解
UDLの考え方
協働作業
特性にあった対応、支援
長澤研究室
http://www.ed.niigata-u.ac.jp/~nagasawa/メールマガジン、特別支援教育・発達障害の情報、資料