爪自癖新治療法の試み:20%尿素軟膏と...

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日皮会誌:92 (7), 737-742, 1982, (昭57) 爪自癖新治療法の試み:20%尿素軟膏と 抗自癖外用剤によるODT 石井 正光 演田 稔夫 爪自癖においては, griseofulvinの登場以来,その内 服療法か治療の主流をしめているが,内服期間が年余に わたる場合が多く,胃腸障害,頭痛などの発現により患 者が内服を休止して目的を達し得ないことがしばしばみ られる.またより重篤な副作用もとぎにみられたりし て,有効な外用療法の開発が望まれるところである.従 来の抗白癖外用療法が不成功に終るのは罹患爪甲の角質 が有効成分の吸収を妨げるためであると考えられる.著 者らは尿素軟膏か爪甲を浸軟させることに着目し,抗白 癖外用剤と併用することにより,その爪内吸収が著しく 高まるであろうと想定,これにより爪白癖の非経口,非 外科的治療が可能になると考えた. 臨床的に爪自癖と診断し,鏡検で菌要素を確認し得た 20症例の罹患爪甲に対して,連日ナフチオメートT(ト ルナフテート)含有軟膏と20%尿素軟膏を二重塗布し, その上からODTを施行した結果,まず爪甲の浸軟化 が20例中17例に認められた.次いで1~2週間で爪甲剥 離を合併してくるのがそれら17例中7例で,これは主と して,罹患爪甲の肥厚,混濁が顕著な場合に限られてい た.剥離した爪甲はできるだけ短く切除して,さらに ODTを継続させ,爪甲浸軟化のみの場合と同様に1ヘー 数カ月間続けて,新生爪甲が肉眼的に他の罹患していな い爪甲と同様の正常度をもつようになるのをまち,鏡検 にて菌要素の陰性化を確認して治癒とした.その結果, 有効14例,やや有効1例,無効5例で,ほぼ満足すべき 大阪市立大学医学部皮膚科学教室(主任 廣田稔夫 教授) Masamitsu Ishii, Toshio Hamada and Yoshie Asai: Combined topical treatment under occlusive dre- ssings of 205^ urea ointment and fungicidal agent tinea ungium 昭和57年1月19日受理 別刷請求先:(〒545)大阪市阿倍野区旭町1丁目 5-7 大阪市立大学医学部皮膚科学教室 石井 正光 浅井 芳江 成績が得られた.また,刺激,疼痛,出血,感染などの 副作用は全く認められなかった. はじめに 1959年,白癖に対してgriseofulvin内服療法が登場し て以来,爪白癖ではこれまで外用療法のみでは不治とさ れていたのが治癒するようになり,現在ではそれらの大 半の症例に使用されている.しかし,実際には治癒率は 必ずしも高くなく,指爪自癖では56.8%,趾爪白辨では 16.7%に過ぎず1),その原因としては一般にgriseofulvin の自癖菌に対する感受性の低下か治療効果の低下と相関 性をもつことも報告されている^'. griseofulvinは自癖菌 に対し殺菌作用はなく静菌作用のみを有し,このため一 般に.長期にわたる内服が必要となる.爪自癖に対する giseofulvinの投与は普通,6ヵ月間を必要とするが,趾 爪自癖では12~18ヵ月を要する場合もあり3),東4)も趾爪 白鮮で1年以内に治癒したものは52.6%に過ぎない事を 報告している. griseofulvinの内服により胃腸障害や頭痛などの発現 がしばしばみられ,また聶麻疹ないし多型紅斑様の発 疹,光線過敏症,口内炎,舌炎,全身倦怠などもみられ ることがある≒ またときに肝障害を来たす例のあるこ とも知られている.全身性エリテマトーデス様病状を示 す場合も報告されており"' griseofulvin投与で糞便中のポ ルフィリン排泄の上昇もみられている7).これらの副作 用の多くは内服を一時中止することにより消失するが, 爪白癖に対するgriseofulvinの投与は長期にわたるた め,長期間の内服を継続するのが困難となり目的を達し 得ないことが多い.そのため,有効な外用療法の開発が 望まれるところである. FarberとSouth'"は爪白癖,尋常性乾癖や外傷で細 菌感染などによって発育障害を来たした爪甲を非外科的 に除去するのに尿素軟膏の密封療法(occlusive dressing technique,以下ODTと略す)を行って好成績を得てト る.尿素軟膏は角質層の水分保持作用があり,角質蛋白

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Page 1: 爪自癖新治療法の試み:20%尿素軟膏と 抗自癖外用剤によるODTdrmtl.org/data/092070737.pdf · 第4図 同症例、24時間ODTによる本療法施行2 ヵ月日.一部に爪甲の新生をみる.やや有効例.

日皮会誌:92 (7), 737-742, 1982, (昭57)

爪自癖新治療法の試み:20%尿素軟膏と

   抗自癖外用剤によるODT

石井 正光 演田 稔夫

           要  旨

 爪自癖においては, griseofulvinの登場以来,その内

服療法か治療の主流をしめているが,内服期間が年余に

わたる場合が多く,胃腸障害,頭痛などの発現により患

者が内服を休止して目的を達し得ないことがしばしばみ

られる.またより重篤な副作用もとぎにみられたりし

て,有効な外用療法の開発が望まれるところである.従

来の抗白癖外用療法が不成功に終るのは罹患爪甲の角質

が有効成分の吸収を妨げるためであると考えられる.著

者らは尿素軟膏か爪甲を浸軟させることに着目し,抗白

癖外用剤と併用することにより,その爪内吸収が著しく

高まるであろうと想定,これにより爪白癖の非経口,非

外科的治療が可能になると考えた.

 臨床的に爪自癖と診断し,鏡検で菌要素を確認し得た

20症例の罹患爪甲に対して,連日ナフチオメートT(ト

ルナフテート)含有軟膏と20%尿素軟膏を二重塗布し,

その上からODTを施行した結果,まず爪甲の浸軟化

が20例中17例に認められた.次いで1~2週間で爪甲剥

離を合併してくるのがそれら17例中7例で,これは主と

して,罹患爪甲の肥厚,混濁が顕著な場合に限られてい

た.剥離した爪甲はできるだけ短く切除して,さらに

ODTを継続させ,爪甲浸軟化のみの場合と同様に1ヘー

数カ月間続けて,新生爪甲が肉眼的に他の罹患していな

い爪甲と同様の正常度をもつようになるのをまち,鏡検

にて菌要素の陰性化を確認して治癒とした.その結果,

有効14例,やや有効1例,無効5例で,ほぼ満足すべき

大阪市立大学医学部皮膚科学教室(主任 廣田稔夫

 教授)

Masamitsu Ishii, Toshio Hamada and Yoshie Asai:

 Combined topical treatment under occlusive dre-

 ssings of 205^ urea ointment and fungicidal agent

 ● ・    ● m tinea ungium

昭和57年1月19日受理

別刷請求先:(〒545)大阪市阿倍野区旭町1丁目

 5-7 大阪市立大学医学部皮膚科学教室 石井

 正光

浅井 芳江

成績が得られた.また,刺激,疼痛,出血,感染などの

副作用は全く認められなかった.

           はじめに

 1959年,白癖に対してgriseofulvin内服療法が登場し

て以来,爪白癖ではこれまで外用療法のみでは不治とさ

れていたのが治癒するようになり,現在ではそれらの大

半の症例に使用されている.しかし,実際には治癒率は

必ずしも高くなく,指爪自癖では56.8%,趾爪白辨では

16.7%に過ぎず1),その原因としては一般にgriseofulvin

の自癖菌に対する感受性の低下か治療効果の低下と相関

性をもつことも報告されている^'. griseofulvinは自癖菌

に対し殺菌作用はなく静菌作用のみを有し,このため一

般に.長期にわたる内服が必要となる.爪自癖に対する

giseofulvinの投与は普通,6ヵ月間を必要とするが,趾

爪自癖では12~18ヵ月を要する場合もあり3),東4)も趾爪

白鮮で1年以内に治癒したものは52.6%に過ぎない事を

報告している.

 griseofulvinの内服により胃腸障害や頭痛などの発現

がしばしばみられ,また聶麻疹ないし多型紅斑様の発

疹,光線過敏症,口内炎,舌炎,全身倦怠などもみられ

ることがある≒ またときに肝障害を来たす例のあるこ

とも知られている.全身性エリテマトーデス様病状を示

す場合も報告されており"' griseofulvin投与で糞便中のポ

ルフィリン排泄の上昇もみられている7).これらの副作

用の多くは内服を一時中止することにより消失するが,

爪白癖に対するgriseofulvinの投与は長期にわたるた

め,長期間の内服を継続するのが困難となり目的を達し

得ないことが多い.そのため,有効な外用療法の開発が

望まれるところである.

 FarberとSouth'"は爪白癖,尋常性乾癖や外傷で細

菌感染などによって発育障害を来たした爪甲を非外科的

に除去するのに尿素軟膏の密封療法(occlusive dressing

technique,以下ODTと略す)を行って好成績を得てト

る.尿素軟膏は角質層の水分保持作用があり,角質蛋白

Page 2: 爪自癖新治療法の試み:20%尿素軟膏と 抗自癖外用剤によるODTdrmtl.org/data/092070737.pdf · 第4図 同症例、24時間ODTによる本療法施行2 ヵ月日.一部に爪甲の新生をみる.やや有効例.

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第3図 症例12、玉趾爪白廓(治療前)

第5図 症例にが第I趾爪白桁(治療的)

石井 正光ほか

皿置眼.丿万し.ミ:=;・・・・し二……I.・.             ………:・・ j.

第2図 M症例、20%尿素軟膏と抗白郷外用剤によ

 る1日j~5時間ODTのにて]力月後に治癒.

 有効例.

第4図 同症例、24時間ODTによる本療法施行2

 ヵ月日.一部に爪甲の新生をみる.やや有効例.

第61岡 [.i]症例,2・1時間ODTによる本嶼法施行10

 力川目.完治の状態となる.町列例.

Page 3: 爪自癖新治療法の試み:20%尿素軟膏と 抗自癖外用剤によるODTdrmtl.org/data/092070737.pdf · 第4図 同症例、24時間ODTによる本療法施行2 ヵ月日.一部に爪甲の新生をみる.やや有効例.

爪白癖に対する尿素軟膏と抗白鮮外用剤のODT

第7図 症例18、左第1趾爪内鮮(治療前)

第9図 症例20、両抑指爪白孵(治壕前)

の水結合性を増して皮膚を浸軟させ,その結果,魚鱗碑

などの角化症に効果があると考えられてお丿) 10) 実際

に角化異常症に使用して比較的よい成績を得ており,特

に尋常性魚鱗桁には有用な薬剤と考えられるl几署者ら

はFarberとSouth"の報告から,尿素軟膏か爪の浸軟

化を来たす事に着目し,尿素軟膏を抗白柳外川剤と併用

することにより,爪内への抗∩疸菌剤の吸収が高まり,

その結果,非経目的,非外科的に爪∩桁を治癒せしめ得

ると考えた.今川,爪∩棺忠占に対し,2%ナフチオノ

ート(トルナフテート)含イf軟行と20%尿素軟膏の二■R

塗布にODTを施行した.この方法により爪甲の浸軟,

剥離などの変化を来たしながら,かなりの症例に冶癒を

確認し得たので,ここに樅吉する.

739

第8図 同症例,夜間のみODTによる本療法を2

 ヵ月間施行後,中止して6ヵ月日の状態ODT

 後新生し七部分と古ト肥厚混濁した部分が一線を

 両してトる.有効例.

第10図 同症例,不定期ODTのによる本療江施行

 4ヵ月目に治癒状態となる.有効例.

       治療薬剤,対象および方法

 臨床的に爪自癖と診断し,鏡倹にて菌要素の確認され

た20例の患者を対.象とした.罹患爪甲にぱ連日2%ナフ

チオメー!ヽT含有軟膏(屈剤:水祐性軟膏)を塗布した上

に20%尿素軟膏(ケラチナミンコーワ⑩)(怯剤:親水軟

膏をヤ分帛丿塗布し,その上からーサランつツブなどで指趾

水軟膏)体をODTするように指示ト,てヽきるだ叶長時

間,可能ならば1口中ODTを施行トツバように指導し

た.0DTは1~12力川川継続し,卜帽に甲の兄育が確実

になり,鏡検にて菌要素が陰性化する迄行った.また爪甲

剥離をおこして来た場介には,さらに薬剤のイf効性を高

めるためにできるだけ爪を短く切るよう指示した.なお

全例にgriseofulvin内服は行っておらず,その他の併用

Page 4: 爪自癖新治療法の試み:20%尿素軟膏と 抗自癖外用剤によるODTdrmtl.org/data/092070737.pdf · 第4図 同症例、24時間ODTによる本療法施行2 ヵ月日.一部に爪甲の新生をみる.やや有効例.

740 石井 正光ほか

薬剤も投与していない.

           結  果

 本臨床実験を施行した20例の爪白癖症例の治療成績の

概要を第1表に示す.治療効果の判定は臨床像の改善度

及び鏡検による菌要素の陰性化によった.判定規準に

ついては,正常爪甲の新生がみられ罹患爪甲が大部分又

は全く消失しかつ菌要素の陰性化をみとめたものを有効

 (十),菌要素の陰性化はみとめるが,爪甲変形の持続

するものをやや有効(土),まったく治癒傾向をみない

ものを無効(-)と表わした.

 またそのうちの5症例について治療の前後の状態を写

真(第1図~第10図)に示すとともに治験経過を略述す

る.

 症例7 :35歳,男.右第1趾の爪白癖(治療前,第1

図)に1日4~5時間のODTによる本療法にて間もな

く爪甲の浸軟化を来たしたが,爪甲剥離をおこすことな

く,2ヵ月後に治癒した(第2図).有効例.

 症例12 : 37歳,女.全趾爪白癖で(治療前,第3図),

24時間ODTを行い,2週間日には爪の浸軟化がみら

れ,4週間目には爪甲剥離を来たしたので,短く切除.

2ヵ月目では右第1趾に正常な爪甲の新生はまだみられ

ないが,右第Ⅲ,IV趾では既に正常に近い爪の発育がみ

られている(第4図).やや有効例.

 本症例はリウマチで指趾変形があり,血行不全などの

基礎疾患があるために,24時間ODTを施行したにもか

かわらず爪の変形を完全に正常化させるわけにはいかな

かったが,鏡検による菌要素の陰性化はみとめられた.

 症例17 : 28歳,女.右第1趾爪甲の肥厚,混濁か著明

で,24時間ODT施行して2週間目に爪甲剥離を来た

し,剥離した爪甲は切除した(第5図).0DTを続けて

10ヵ月後には完治した(第6図).有効例.

 症例18 : 31歳,女.左第1趾の爪自癖(治療前,第7

図)に対し,2ヵ月間ODTを行ったが,本人は効果が

みられないと思い,そのまま放置していたところ,爪母

より正常に近い爪甲が発育してきたためODTを再開し

たいと6ヵ月後に来院した例である(6ヵ月後,第8

図).0DT後,新しく発育した部分と古い肥厚,混濁

した部分がくっきりと一線を画してみとめられる.有効

例.

 症例20 : 28歳,女.両栂指爪の爪白癖で,爪甲の肥

厚,混濁とともに,一部に爪甲剥離もみられている(第

9図).爪甲部分切除を併用し,4ヵ月後には治癒した

 (第10図).有効例.

 爪自癖の4罹患爪甲は本臨床実験によりいろいろの変化

を示したが,その,うち最も多くみられたのは爪甲の浸軟

化であり,次におこって来るのが爪甲剥離であった.治

療経過は爪甲浸軟化のみを来たす場合とそれに爪甲剥離

を合併してくるものに大別される.

 爪甲の浸軟化は2o例中17例にみとめられた,浸軟化は

oDT実施後,数日からI週間で大多数の症例にみとめ

られた.浸軟化のおこらない症例は問診によってODT

実施時間が極めて短い場合であると判った.浸軟化のみ

がみられ,爪甲剥離をおこさないものは10例であった.

これらの例では治療開始後,多くは数日で浸軟化がおこ

るが,その後は一見何の変化もないように経過する.し

かし,1~2ヵ月間,0DTを続けて罹患爪甲に引き続

き新生して来た爪甲は肥厚,混濁がかなり改善されてお

り,罹患爪甲との間に明瞭な一線を画してその違いがは

っきりする場合も多くみられた.これらのきれいな新生

爪甲が伸びて,罹患爪甲部分がなくなる迄ODTと継続

させて,治癒に導くことが可能であった.

 爪甲の浸軟化と爪甲剥離をおこして来る場合は2o例中

7例に認められた.爪甲剥離はODT実施後,1~2

週間でみられる場合が多いが,これは主として罹患爪甲

の肥厚,混濁が顕著な場合に限られていた.剥離した爪

甲は抜去することなく,できる限り短く切除する事で爪

廓附近までの罹患爪甲を除くことができた.このような

症例では罹l患爪甲か切除されて,薬剤の浸透が高度にな

り,臨床的には重症のものが多いにもかかわらず,臨床

像の改善度が高いようであった.0DTは爪甲の浸軟化

のみの場合と同様に1~数カ月間継続し,新生爪甲が肉

眼的に他の罹患していない爪甲と同様の正常度をもつに

至る迄つづけ,鏡検にて菌要素をみとめなトことを確認

して治癒とした.

 本臨床実験の期間中,刺激,疼痛,出血,感染などの

副作用は全例において全くみとめられなかった.また治

療にて症状の悪化した症例もみられなかった.

 以上の治療成績をまとめると,効果判定では2o例中,

有効14例,やや有効I例,無効5例で,ほぼ満足すべき

結果が得られた.

           考  察

 今回の爪白癖に対する尿素軟膏と抗白癖外用剤による

ODTでは予期以上の成績が得られ,副作用もみられな

かったので,新しい外用抗自癖剤としての開発が可能と

考えられる.今回の臨床実験はナフチオタートT含有軟

膏(水溶性軟膏)に2o%尿素軟膏(基剤:親水軟膏)を

Page 5: 爪自癖新治療法の試み:20%尿素軟膏と 抗自癖外用剤によるODTdrmtl.org/data/092070737.pdf · 第4図 同症例、24時間ODTによる本療法施行2 ヵ月日.一部に爪甲の新生をみる.やや有効例.

       爪白癖に対する尿素軟膏と抗白癖外用剤のODT

1表 爪白癖に対する20%尿素軟膏と抗白癖外用剤によるODT施行の治療成績一覧

741

症例 氏 名 性別 年令 初診日

ODT実

施爪数 ODT実

施期間

昌溜

(豊言)爪の*浸軟化

   鏡検***

爪甲**iによる菌

剥離 要素陰性

   北

培養****

陽性例の菌種名

効 果趾爪 指爪

レ堀 ○ 女,37 昭54. 7.10 2 3ヵ月 + + | + 有効

2 堀 O 男1 40 54. 6. 1 帽 i4 // + - + T.R. 有効3 木 ○ 男 60 j 54. 7.5・ 21 2・ 3 // 夜間のみ  十 - + T.R. 有効4 油 ○ 女フド 54. 7. 6 1 3/g 24時間 + - - T.R. 無効

5 青 ○ 女 22 54. 6. 9 2 1 4// l + + + 有効

6 真 01男1 45 54. 7.18 2 3z7 ! + - l + 有効7 杉 ○ヽ男 35 54. 7.27 1 3// 4~5時間 + - + 有効8 安 ○ 女 601 5七8.3 2 2// + + + 有効

9 浜 ○ 男 36 1 54. 7.101 2 41 3 ・・ + - - T.R. 無効

10 影 ○ 女12割 54. 6. 6 2, 4//       I + - + i 有効11 東 O 女131 54. 8.31 2 2 1.5 " + + + T.R. 有効

12 篠 ○ 女 37 54. 8. 3 10 2 /ノ リ4時間 + + + やや有効

13 峯 ○ 男 51 54. 8. 4 2 2 '/ l + - + i 有効

14 川 ○ 女 25 54. 4.21 2 6// 夜間のみ + + + T.M. 有効

15 紀 01女 43 54. 8.18 1 2// 夜間のみ - - - 無効

16 藤 O 女 48 1 54. 5.30 2 1 4/7 - - - 無効

17 j 中 ○ 女 28 53.11.18 1 11// 124時間 + + + T.R. 有効

18 宮 ○ 女 31 53.11.18 1 11 /' 夜間のみ + - + 有効

19 市 ○ 女 36 54. 8. 8 2 2// | -_   _ T.M. 無効

20 香 O 女 28 54. 5.23 2 4/z l ! 十 - ! 十 有効

(註)* 十:本療法にて爪の浸軟化をきたしたもの.

   ** 十:本療法にて爪甲剥離をきたしたもの.

   ***十:本療法にて菌要素の陰性化(鏡検的)をしめしたもの.

   **** T.R.; Trichophyton rubrum

        T.M.; Trichophyton tnentagrophytes

重層してODTを行ったもので,同一の基剤であればよ

り効果が期待される.さらに2剤を重層すると,尿素や

ナフチオノートTの濃度か薄められるために効果が弱ま

ることか予想されること及び2剤を重層してODTを行

う事の煩雑さなど改良すべき点を考慮して,現在,親水

軟膏に尿素20%,ナフチオメートT2%を溶解したもの

を試作し,1斉UのみでのODTを一部のものに使用開始

している.今後,本剤を用いて検討を加えていきたいと

予定している.尿素を用いた爪の治療についてFarber

とSouth"'は無水ラノリン,白ろう,白色ワセリンを基

剤とし,22.25%,40Xの尿素を含有させて真菌による

発育障害を来たした爪甲の除去に使用して成果を上げて

いる.40%の方が幾分優れているが有意の差はみられな

いと述べている.彼らの基剤が硬質油脂性であるのに比

し,今回用いた尿素軟膏(ケラチナ1ソコーワ@)は親

水軟膏であり,又ナフチオメートTは水溶性軟膏である

が,効果は劣ることなく,むしろ, ODTでは経皮吸収

の面で親水軟膏の方がすぐれているように思われた.

 今回の臨床実験を行った20名について,1日のODT

実施時間を調べたが,連日定期的に一定時間のODTを

実施しているものは8名に過ぎず,これらは総じて良い

成績が得られている(第1表).理想的には24時間ODT

であるか,夜間だけでも確実にODTが行えれば,より

効果を期待し得ようし,入院して実施できればさらに効

果的であろう.通院の場合にはODTの熱心さは患者し

だいであるので,この点を充分に指導する必要がある.

 治療の対象となった患者の年齢層は20歳台から70歳台

にわたっており,若い患者によりよい結果か出ているよ

うであるが,症例数が少ないのでまだ結論を出しにく

い.老齢になると爪甲の発育が低下することが知られて

Page 6: 爪自癖新治療法の試み:20%尿素軟膏と 抗自癖外用剤によるODTdrmtl.org/data/092070737.pdf · 第4図 同症例、24時間ODTによる本療法施行2 ヵ月日.一部に爪甲の新生をみる.やや有効例.

742 石井 正光ほか

おり12≒このような因子と関係があるかもしれない.

 爪自癖の起因菌はこれまで圧倒的にTrichophyton

rubrumが多いが", T. mentagrophytes は数は少なく,

griseofulvin感受性がT. rubramより低いことも報告され

ている13)本臨床実験では臨床的に爪白癖と診断し,鏡

検で菌要素を確認したものを対象に選び,かなりの症例

については培養も行ったが全例に行ってはいない.その

場合,爪カンジダ症の可能性も考慮し,抗カンジダ剤と

してクロトリマゾールなどを選ぶべきであるが,爪カン

ジダ症ではODTを行うと湿潤して治療を妨げる場合も

考えられるかもしれない.最近,T. rubrum についても

griseofulvin耐性菌の存在が注目されており2≒griseofu-

lvinの効力の低下が指摘されている.またgriseofulvin

は微粒子化されたものが登場して20年近くになるが,そ

                             文

  1) Anderson, D.W.: Griseofulvin: biology and

    clinical usefulness; a review, Ann. Aル吸y, 23:

    103-110, 1965.

  2) Artis, W.M., Odle, B.M. & Jones, H.E.:

    Griseofulvin-resistant dermatophytosis cor-

    relates with in vitro resistance, Arch. D・rmatol..

    117: 16-19, 1981.

  3) Samman, P.Dべ The Nails in Disease,3rd Ed.,

    w. Heinemann Medical Books Ltd。London,

    1978, pp・40-49.

  4)東 萬彦: 爪出癖の治療成績.臨皮,33:

    309一一313, 1979.

  5)χA'ilson, J.W- & PIunkett, O.A.: The Ftragotts

    2)むeases of Man, 1st Ed., Univ. Calif. Press,

    Berkeley, 1965, pp・ 213-251.

  6) Alexander, S.: Lupus erythematosus in two

    patients after griseofulvin treatment of tricho-

    phyton rubrum infection, Br. I. 1^ermatol., 74:

    72-74, 1962.

  7) Rimington, C, Morgan, P.N., NichoUs, K.,

    Everall, J.D. & Davies, R.P.: Griseofulvin

    administration and porphyrin metabolism,

    Lancet, Z:318-322, 1963

れまでの粗粒子griseofulvinの1/2量で同等の血中濃度が

得られ,また胃腸障害も少なくなっている14)とは言え,

それでも副作用は大きな問題であり,爪白癖,特に趾爪

自癖では長期間の投与を要するために治癒に至らない例

も実際には多く存在している.今回の爪自癖に対する新

しい治療法の試みは,そのような観点からさらに推進さ

れるべきものと考えられる.なお本療法による治療経過

は治療を打ち切って大半がほぼ1年半を経過しており,

再発例は認められていないが,菌学的な検索を含めてさ

らに多くの症例の長い経過を追跡していきたいと考えて

いる.

 本論文の要旨は昭和54年10月27一28日の第23回日本医

真菌学会総会において発表した.

  8) Farber, E.M. & South, D.A.:Urea ointment

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