特集尿細管・間質性腎疾患 -...

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特集尿細管 ・間質性腎疾患

トピックス

1.尿 細間 ・間質性腎疾患の基礎知識

3.尿 細管 ・間質性腎疾患の病理

田 口 尚A.Nazneen劉 殿閣

要 旨

尿細管 ・間質性腎疾患は病変の主座が尿細管 と間質にある腎疾患を指す.多 様な原因で出現するが,

病理組織的変化は共通 したものが多 く,組 織像の評価 には臨床像 との対比が大切である.本 稿では

WHOの 尿細管 ・間質性腎疾患の分類 に準 じて病理組織像を概説する.特 に,通 常遭遇する疾患や鑑

別上重要な疾患について,臨 床病理学的な鑑別の問題点を中心 に解説を加える.

〔日内会誌 88:1402~1409,1999〕

Key words:尿 細管間質性腎炎,薬 剤性腎障害,遺 伝性腎疾患,病 理診断

は じめ に

尿細管性疾患 と腎 間質性疾患は,本 来は原因

や病態 が異 な り,臨 床像 や病理形態像 も原因に

よ り多彩 な像 を示す。 しか し,尿 細管 と間質の

病変は相互 に影響 しあい,両 者の機能的,形 態

的障害 が共存することか ら,尿 細管 間質性 腎炎

(腎疾患)と 一括 して扱 うようになったP.本 病

変は きわめて多様 な原因で出現するが,病 理組

織的変化 は共通 したものが多 く,特 異病変に乏

しいため,病 理形態学的アプローチ は,機 能面

での追及 ほど積極的ではなかった.し か し,近

年の尿細管間質に関する知見の集積か ら,本 病

変の病理組織学 的な見直 しの気運が高 まって き

た.本 稿では病理形態的立場か ら各種の間質尿

細管障害 における変化を概説する.

1.尿 細 管 間 質性 障 害 の病 理 像

尿細管問質性腎疾患 は主 たる,あ るいは最 も

顕著 な病変が尿細管 と間質 に認め られる多彩 な

腎疾患群である.原 因や発症機序が異 なって も,

類似 した組織 的変化を有す る疾患 が多 いため,

純病理形態学的分類は困難 で,実 際上 は意味が

ない と思 われる.WHOで もこの立場 か ら,尿

細 管間質性 障害 については原因的分類 を行 って

い る(表1).こ こでは このWHO分 類1)に準 じ

て述べ るが,紙 面の都合上,日 常臨床 で遭遇す

るこ との多い疾患や鑑別上重要 な疾患を と りあ

げる.

1)感 染性疾患

感染性疾患では腎盂 腎炎が代表的でその頻度

も最 も多 い.そ の他,全 身性感染症の一分症 と

して腎に病巣,特 に膿瘍 を形成 した り,結 核 な

どの特異 的炎症 が腎 に出現 することもあ るが,

これ らは間質尿細管のみでな く,糸 球体 を含 む

腎実質のいずれの部位 も炎症 の場 となる.

(1)急 性 腎盂 腎炎

た ぐち た か し,ナ ズニ ー ン,り ゅう で んか く:長

崎 大 学 第 二病 理

日本内科学会雑誌 第88巻 第8号 ・平成11年8月10日 (18)

1403

表1.尿 細管間質性腎障害のWHO分 類*

・感染性疾患

急性お よび慢性 腎盂腎炎,全 身性感染に伴 うもの,

特 異的炎症による もの(結核,癩 病,梅 毒 など)・薬剤性尿細管間質性腎炎

急性中毒性尿細管傷害,薬 剤過敏性尿細管間質性腎炎

慢性薬剤性尿細管間質性 腎炎・免疫疾患に伴 う尿細管間質性腎炎

抗尿細管抗体 によるもの:

抗糸球体基底膜抗体,免 疫複合体性性 糸球体腎炎,薬 剤性など

内因性お よび外因性抗原抗体複合物による:

SLE,ク リオグロプ リン血症, Sjogren症 候群,腎 移植 など

細胞性免疫による/伴 うもの:

細菌性,ビ ールス性,寄 生虫性など

即時型(IgE)過 敏反応 によるもの・閉塞性腎障害

感染の ないもの(水腎症),感 染を伴 うもの,膿 腎症・逆流性腎症

・腎乳頭壊死を伴 う尿細管問質性腎炎

糖尿病,鎮 痛剤,閉 塞性等・重金属 による尿細管障害および尿細管間質障害

鉛,水 銀など・急性尿細管障害/壊 死

中毒性,虚 血性,圧 挫症候群,流 産,熱 傷,シ ョック,敗 血症

不適合輸血,ミ オグロブ リン尿・代謝異常による尿細管障害お よび尿細管間質障害

高カルシウム血症,尿 酸,蓚 酸,シ スチン尿症,低 カリウム血症,

浸透圧性 ネフローゼ,胆 汁性 ネフローゼ・遺伝性尿細管間質障害

家族性若年性 ネフロン痩一髄質嚢胞性疾患,家 族性間質性 腎炎,

アルポー ト症候群

・腫瘍性疾患 に伴 う尿細管間質性腎炎

骨髄腫腎,軽 鎖病,マ クログロブ リン血症,自 血病/リ ンパ腫浸潤・糸球体あるいは血管性疾患 に伴う尿細管間質障害

急性および慢性 糸球体疾患,虚 血性萎縮,終 末腎・その他

放射線性腎症,バ ルカン腎症,肉 芽腫性サルコイ ド腎症

慢性特発性尿細管 間質性腎炎

*:文 献1を 一部改変

腎 は腫 大 し,皮 質 を中心 に微小膿瘍 を形成す

る.腎盂 粘膜 は充血性 で,顆 粒状 を呈す る.組

織的 には急性炎症細胞浸潤が 間質に見 られ,尿

細管上皮 の変性,消 失や基底膜の破壊 を示す.

また,尿 細管上皮への細胞浸潤 も伴 い,白 血球

円柱 も諸所 で認め られる(図1).

(2)慢 性腎盂 腎炎

病 変部 が不規則 に分布す ることか ら,肉 眼的

には腎盂,腎 杯の不整 な拡張や変形 を示 し,腎

の萎縮は非対称性 である.こ のことは対称性の

びまん性 腎萎縮 を呈す る糸球体疾患 との鑑別点

となる.組 織的には間質の線維化 と,リ ンパ球

や単球を主 とした慢性炎症細胞浸潤が認め られ

る.尿 細管は萎縮あるいは消失や破壊が見 られ,

萎縮尿細管の基底膜 の肥厚 も目立つ.ま た,拡

張 した尿細管 も含 まれる.扁 平 な上皮細胞 を有

す る尿細管の腔内には好酸性 の円柱 が充満 し,

い わゆる甲状腺 の濾胞様構造 を示す(図2).

(19) 日本内科学会雑誌 第88巻 第8号 ・平成11年8月10日

1404

図1.急 性腎盂 腎 炎.間 質の浮腫 と著明 な炎症細胞

浸潤が見 られ,左 には膿瘍の形成 を伴 う.白 血球円柱

も見 られる.(HE染 色 ×50)

図2.慢 性腎盂 腎 炎.尿 細 管は種 々の大 きさに拡張

し,上 皮は扁平化 し,腔 内に好酸性 の円柱 を有する.

この所見は甲状腺組織に類似することから,甲 状腺様

変化 とよぶ.間 質は線維化や炎症細胞浸潤を示す.係

蹄辺縁が硬化 した糸球体 と壁肥厚 を示す動脈を下方に

見る.(HE染 色 ×50)

図3.薬 剤 過敏性 間質性腎炎.浮 腫性 間質 には リン

パ球や形質細胞 などの単核細胞の びまん性浸潤が見 ら

れ,尿 細管の萎縮や消失 を伴 う.糸 球体 には変化 を見

ない.(PAS染 色 ×100)

この像は慢性腎盂 腎炎の特徴的所 見 として よく

知 られているが,必 ず しも本疾患 に特異的な も

ので はな く,他 の病態の場合 にも出現 しうる.

糸球体は病変が進行す ると,糸 球体周囲の線維

化 に伴いボウマ ン嚢基底膜の肥厚か らボウマ ン

腔 の線維化 を示 し,糸 球体係蹄 の硬化 が認 め ら

れるようになる.ま た,血 管の変化 も目立つ よ

うにな り,小 ・細 動脈 には内膜肥厚がみ られ る.

2)薬 剤性尿細管間質性腎障害

薬剤性の尿細管 間質性 腎障害の うち,急 性の

障害には2つ の機序の ものが含 まれる.ひ とつ

は薬剤 の尿細管毒性 による尿細管傷害で,重 篤

な ものが急性尿細管壊死 となる.他 は薬剤過敏

性 間質性 腎炎であ る.こ こで は後者 につ いて触

れ,前 者について は後述す る.ま た,慢 性 の薬

剤性尿細管間質性病変には鎮痛剤 を大量 に常用

した場合 に起 こる腎乳頭壊死 があるが,こ れ も

後述する.

(1)薬 剤過敏性間質性 腎炎

臨床的には急性 に発症 し,血 尿や尿細管機能

障害 を伴い腎不全状態を呈す る.急 性 間質性腎

炎の大部分は薬剤 に対するア レルギー反応 と考

えられてい る.腎 は浮腫性 で腫大 し,蒼 白とな

る.組 織 的には間質の浮腫 とリンパ球,形 質細

胞 を主体 とした炎症 細胞浸潤 を認め る2}.好 酸

球浸潤 を見ることもある.間 質反応の強い部で

は尿細管 は破壊 され,基 底膜 の断裂や尿細管 の

消失 を示す(図3).糸 球体 には特徴 的変化 は

み ない.

3)免 疫疾患 に伴 う尿細管間質性障害

この中に は抗尿細 管基底 膜(tubular base-

ment membrane:TBM)抗 体 に よる もの,免

疫複合体 による もの,細 胞性免疫 による もの,

即時型過敏反応に よる ものな どの多 くの免疫的

機序に関連 して起 こる疾患が含 まれる.し か し

病変の主座が尿細管 間質以外の部 にある もの も

多 い.

日本内科学会雑誌 第88巻 第8号・ 平成11年8月10日 (20)

1405

図4.Sjogren症 候群.間 質 には局所性 なが ら強い リ

ンパ球を主 とした単核細胞 の浸潤 を見る.尿 細管はi萎

縮性で基底膜の肥厚 を示す.糸 球体は著変ない.(HE

染色 ×100)

(1)Sjogren症 候群

本症においては糸球体病変あるいは間質尿細

管病変が認 め られ るが,間 質尿細管病変が主体

である.組 織学的には リンパ球や形質細胞 を主

とする慢性炎症細胞浸潤が見 られ,間 質の線維

化や 尿細 管 の萎 縮 を伴 う(図4).IgGやC3の

沈着 と電顕 的にdense depositがTBMに み られ

ることが ある.臨 床 的には尿細管障害 によ り,

尿濃 縮力障害 と尿細管性 アシ ドーシス を起 こす

が,腎 不全へ移行 することは稀 であ る.

(2)ル ープス腎炎

ループス腎炎の約半数 に,種 々の程度 で尿細

管間質障害を認める.一 般に糸球体変化 の強 い

ものほど間質病変が 目立ち,間 質 におけるリン

パ球主体 の炎症細胞浸潤,線 維化,尿 細管の萎

縮 な どが認め られる.こ の ような尿細管や間質

の変化の強さはループス腎炎の活動性 の指標 と

もされている.尿 細管基底膜や間質に免疫 グロ

ブ リンや補体が沈着 し,電 顕的 にもdense de

positがTBMに 見 られることもある(図5).し

か し,か かる沈着を証明 しえない間質障害の場

合 も少な くない.一 方,糸 球体病変が軽微で,

間質尿細 管障害が著 明な場合 もあ り(図6),

このような例で急性腎不全 を示 した症例 も報告

されてお り,尿 細管 間質病変 は糸球体の変化 と

は異 なる機序の関与 も考え られている3).

(3)移 植拒絶反応

移植腎における間質尿細管病変においては,

その病変形成 に多 くの要因が関与 している.ド

ナー腎における腎炎や急性尿細管壊死 などの虚

血性腎病 変の存在,移 植直後の超急性拒絶反応,

移植後の拒絶反応,脈 管傷害に よる虚血性変化,

免疫抑制剤の腎毒性,感 染症 などの多様な病 因

図5.ル ー プ ス腎 炎 の電 顕像.尿 細 管 基 底膜 は肥厚 し,electron dense depositの 沈着

が認 め られ る.周 囲 間質 に は リ ンパ 球 な どの 炎症 細 胞浸 潤 を伴 う.本 例 は糸球 体 の病

変 も強 く,IV型 の び まん増 殖 型 であ った.(×4000)

(21) 日本内科学会雑誌 第88巻 第8号 ・平成11年8月10日

1406

図6.ル ー プス腎 炎.図5と は別 の症 例.

A:糸 球体 病 変 は軽 度 で,H型 の メサ ンギ ウム増 殖 型.

間 質 に は局所 性 の線 維 化 と細 胞浸 潤 を認 め,尿 細 管 の

萎 縮 を伴 う,PAS染 色 ×100. B:同 一 切 片 の 異 な る

部.間 質 には密 な リ ンパ 球浸 潤 を認 め,尿 細 管 の萎 縮

や 消 失 もみ られ る.(PAS染 色 ×50)

図7.急 性拒絶反応.間 質に は単核細 胞の浸潤 が見

られ,リ ンパ球 と形質細胞 を含 む.尿 細管炎の像 も見

られる.糸 球体 には変化 を認めない.(HE染 色 ×100)

に よる変化 を混在する.

細胞性拒絶反応 は移植早期に起 こるが,移 植

後の どの ような時期にで も出現 しうる.免 疫抑

制療法が進んで きた現在では治療 のコン トロー

ル状態 に左右 されて発症す る.組 織的には血管

周 囲か ら間質全体へ と広が る単核細胞の著 明な

浸潤 を示 し,リ ンパ球,形 質細胞 あるいは免疫

芽細胞 を思 わせ る大型 の単核細 胞が 含 まれ る

(図7).多 核細胞の関与 は少ない.間 質は浮腫

性 で,尿 細管へ の浸潤細胞の波及が認め られ,

尿細管炎の像 を示す.病 変が強 くなる と,尿 細

管基底膜の破綻や上皮細胞 に変性 や壊死がみ ら

れる.血 管性拒絶反応 による内腔狭窄が起 こる

と,対 応 した尿細管間質の梗塞や壊死巣 を形成

す る.移 植拒 絶反応 に関す るBanff分 類 で は,

細胞浸潤 の広が りに加 えて,尿 細管炎 と動脈内

膜炎の程度の応 じて重症度 を規 定 している.ま

た,感 染 を合併することも少な くな く,組 織像

の解析 が困難 となる.移 植腎の組織的評価 には

臨床経過 との詳細 なつ き合わせ が常 に必要 と思

われ る.

4)腎 乳頭壊死

フェナセチ ンやアス ピリ ンな どの鎮痛剤 を大

量 に常用 した場合の慢性薬剤性 障害,あ るい は

糖尿病や閉塞性尿路障害 を基礎 疾患 として発症

する.臨 床 的には急激 に発熱,膿 尿,血 尿で発

症 し,急 速に腎不全に至 る.腎 髄質乳頭部が壊

死 に陥 り,壊 死乳頭が しば しば尿路 に脱落する.

また,壊 死部周囲は急性 の尿細管間質性 腎炎 の

像を示 し,経 過す る慢性変化へ と移行す る.乏

血性変化が成 因のひとつ と考 え られている.

5)急 性尿細管壊 死

急性 尿細 管壊死(ATN)は 可 逆性尿 細管 病

変であ り,急 性 腎不全の主な原 因 となる.原 因

としては腎毒性物質 による中毒性 と虚血性変化

がある.

中毒性急性尿細管壊死の場合 の腎毒性物質 と

しては重金属,抗 生物質,農 薬,四 塩化炭素,

エチ レング リコールな どがある.中 毒性 のATN

は近位尿細 管全域 にわた る尿細 管壊 死が特 徴

で,遠 位尿細管か ら集合管 にかけて円柱 を有 す

る.尿 細 管 基 底 膜 の 破 綻(tubulorrhexis)は 通

日本内科学会雑誌 第88巻 第8号 ・平成11年8月10日 (22)

1407

図8.急 性尿 細管壊 死.中 央 部の尿細管 は尿細管上

皮の凝固壊死 を示 している.(HE染 色 ×50)

常 み られ ない.

虚血性 急性尿細管壊死における虚血 の機序 は

循環血液量の減少であ り,原 因としては外傷 ・

手術 ・出産や流 産などによる大量出血,熱 傷,

重篤 な嘔吐 ・下痢,異 型輸血,敗 血症 シ ョック

な どが含 まれ る.こ の タイプのATNは 尿細 管

傷害が主 に下部 ネフロンにみ られ るとして,下

部 ネフロンネフローゼ(lower nephron nephro-

sis)と 呼 ばれて いたが,現 在 では近 位尿細 管

の傷害 もみ られることが明 らか になった.組 織

的にはネ フロ ンの各部における散在性の尿細管

壊死 を示すが(図8),壊 死像 がみ られない こ

とも少な くない.尿 細管の変化の特徴 は上皮の

扁平化 と管腔の拡張であ り,病 変の強い場合 に

は尿細管基底膜の破綻(tubulorrhexis)を 示す.

また,円 柱 による内腔 の閉塞 を示す.円 柱は遠

位尿 細管 や集合管 に多 く,内 容 と してTomm-

Horsfall蛋 白,ヘ モ グロ ビ ン,ミ オグ ロビ ンな

どを含 んでいる.間 質の浮腫や炎症細胞の浸潤

もみ られる.経 過する と,尿 細管上皮細胞は再

生性変化 を示す.

臨床経 過 はいず れの タイ プのATNも,侵 襲

後,短 期 間で乏尿ない し無尿 となる.そ の後,

利尿期 を経過 し回復期 となるが,尿 細管機能は

まだ傷害 されているので,電 解 質異常な どの尿

細管機能障害は長期 間残 っている.ま た,非 乏

尿性ATNは 乏尿 を伴 わない もので 中毒性 の と

きに起 こ り,そ の予後は乏尿性 よりも良好 であ

る.

ATNと の鑑 別上重要 な疾患 と して腎皮質壊

死がある.急 性腎不全 を呈するが,成 因は急激

な循環 不全 で,ATNと 同様 であ るが,よ り重

篤 な状態で起 こり,産 科 的疾患(胎 盤早期剥離

など),重 症感染症 に よる敗血症性 ショック,

外傷,熱 傷,出 血性 ショック,DICな どが あげ

られる.病 理 組織 的には,ATNが 尿細 管 を主

体 とした病変で可逆性変化であるの に対 し,皮

質壊死 は皮質構成成分のいずれ も凝固壊死 に陥

り,不 可逆性 変化 であ る.ま た,発 症 はATN

に似るが,予 後 は重篤で透析 にて も回復 しない.

6)遺 伝 性 尿 細 管 間 質 性 腎 炎

こ の な か に は 家 族 性 若 年 性 ネ フ ロ ン瘍(famil-

ial juvenile nephronophthisis:FN),髄 質 性 嚢

胞 性 疾 患(medullary cystic disease:MCD),

原 因 不 明 の 家 族 性 間 質 性 腎 炎,ア ル ポ ー ト症 候

群 が 含 まれ る.

(1)家 族 性 若 年 性 ネ フ ロ ン瘍 お よ び髄 質 性 嚢

胞 性 疾 患

FNとMCDは 異 な る 疾 患 と し て 扱 わ れ て き た

が,病 理 形 態 的 に 同 じ変 化 を 示 し,両 疾 患 と も

に 遺 伝 的 背 景 を 有 し,腎 不 全 へ 移 行 す る こ と か

ら,関 連 し た 疾 患 群 と し て,familial nephro-

nophthisis-medullary cystic disease(FN-MCD)

complexと して 一 括 さ れ る よ う に な っ た4'.

腎 は 皮 質 萎 縮 の た め に 小 さ くな る.組 織 的 に

は 尿 細 管 の 変 性,萎 縮,拡 張 が 見 られ,問 質 の

線 維 化 や 慢 性 炎 症 細 胞 浸 潤 を 伴 う (図9).糸

球 体 は 周 囲 間 質 の 線 維 化 に 伴 い 硬 化 を 示 す よ う

に な る.基 本 的 に は 非 特 異 的 組 織 像 で あ る が,

皮 髄 境 界 部 か ら髄 質 に か け て の 部 に 嚢 胞 が 種 々

の 程 度 で 認 め られ る.約25%に は 嚢 胞 の 形 成 が

な い と され,嚢 胞 の確 認 に は 腎 生 検 よ りは 画 像

診 断 が 有 用 で あ る.本 症 は 髄 質 海 綿 腎 と は 厳 格

に 区 別 し な け れ ば な ら な い.

臨 床 的 に はFNは 若 年 で 発 症 し,発 育 不 良 で

多 尿 や 貧 血 を 示 し,徐 々 に 腎 不 全 へ 移 行 す る が

(23) 日本内科学会雑誌 第88巻 第8号 ・平成11年8月10日

1408

図9.家 族性若年性 ネフロ ン瘻.尿 細管 の不規則 な

拡張,萎 縮が見 られ,尿 細管内の円柱 も目立つ.間 質

の線維化や炎症細胞浸潤も認め られ,糸 球体の硬化や

血管の動脈壁肥厚 も見 られる.こ の組織像は慢性腎盂

腎炎の変化 と一致す る.(PAS染 色 ×25)

図10.骨 髄腫腎.尿 細管内の多角形 円柱 が見 られ,

単核ないし多核 の細胞 を伴 う.間 質の線維化 と細胞浸

潤 も見る.(HE染 色 ×100)

そ の進行 はMCDよ り遅い.ま た,網 膜疾 患 や

肝線維症 などの腎外疾患 を しば しば伴 う.常 染

色 体劣性 遺伝 とされ る.MCDは30~40歳 台 で

発症す ることが多 く,速 やかに腎不全に移行す

る.遺 伝形式 は常染色体優性 であるが,弧 発例

もみ られている.

7)腫 瘍性疾患 に伴 う尿細管間質障害

尿細 管間質障害を示す腫瘍性疾患は,リ ンパ

球 ・形質細胞系の増殖性,腫 瘍性疾患が主 な も

のであ り,特 に多発性骨髄腫 における骨髄腫腎

が問題 となる.

(1)骨 髄腫腎(myeloma kidney)

糸球体 を濾過 したベ ンス ・ジ ョー ンズ蛋 白に

よる尿細管傷害 と特異 な円柱 形成 を主体 とす る

腎病 変 をmyeloma kidneyあ る い はmyeloma

cast nephropathyと よぶ5}.本 症 に見 られる円

柱(myeloma cast)は 大 きさや形が不定 で1

濃染 もし くは不均 一 な染色性 を示 す(図10)、

円柱 は単核 ない し多核 巨細胞の細胞 反応 を伴 う

が,こ れ らは尿細 管上皮 細胞 あ る いは マ クロ

ファー ジと考 えられる.尿 細管 は萎縮性 ない し

拡張性 で,上 皮細胞 は扁平化,空 胞化 あるいは

壊死 を示す.間 質の変化 は多様で浮腫 か ら強い

線維化 まで見 られる.種 々の程度の炎症細胞浸

潤 を伴 い,ま れに間質 に多核 巨細胞 の出現 も見

る.糸 球体 は特 に変化 を示 さない.

2.尿 細 管 間 質 性 障 害 の 鑑 別 診 断

尿細管 問質性 腎疾患 を発症様式や 臨床像か ら

分けて検討する と,鑑 別診断上の問題点が明瞭

となる.

1)急 性尿細管間質性 障害

急性 の尿細管間質障害 に含 まれる もの には,

感染性 変化 として急 性腎盂 腎 炎が あげ られる

が,基 本的 には予後良好 な疾患 である.急 性 の

腎機 能低下や急性腎不全 を呈 する疾患 は,薬 剤

過敏性 間質性腎炎,急 性尿細 管壊死,腎 乳頭壊

死お よび急性拒絶 反応がある.こ れ らの疾患は

治療 面か らも鑑 別が必要 とな る.薬 剤過敏性間

質性 腎炎 は最近 しば しば遭遇する ようになった

疾患 で,臨 床の コメ ン トが的確 であれば診断は

困難ではないが,時 に急性腎盂 腎炎 との鑑別が

必要なこ とがある.浸 潤細胞の種類 が後者で は

好中球主体である ことが組織 的な鑑 別点の ひと

つである.

急性尿細管壊死 は循環障害 と腎毒性薬剤 を原

因 とするが,そ の極期 に生検 を行 うこ とはほ と

ん どな く,多 くは経過 した利尿期の組織 をみる

ことになる.こ の時点では尿細管の再生反応が

主体 で原因の追及が困難 となる.ま た,本 症 で

は必ず しも尿細管 の壊 死が見 られ ないこ とも,

日本内科学会雑誌 第88巻 第8号 ・平成11年8月10日 (24)

1409

表2.尿 細管 間質性腎障害の臨床経過か らみた分類

1.急 性に発症する尿細管間質性障害

急性腎盂腎炎,腎 乳頭壊死,急 性薬剤過敏性間質性腎炎,

急性尿細管障害/壊 死,急 性腎移植拒絶反応

2.急 速進行性の尿細管問質性障害

髄質嚢胞性疾患

3.慢 性に経過する尿細管間質性障害

a.他 疾患との鑑別を要するもの

慢性腎盂腎炎,逆 流性腎症,慢 性薬剤性問質性腎炎,

特発性尿細管問質性腎炎,家 族性若年性ネフロン瘻

b.明 らかな病態,基 礎疾患,全 身性疾患を有するもの

慢性拒絶反応,SLE,シ ェーグレン症候群,

サイコイドーシス,骨 髄腫腎

重金属による慢性尿細管間質性障害,

代謝異常による尿細管間質性障害,放 射線性腎症

b.病 変の主座が尿細管間質以外にある腎病変

慢性糸球体疾患,腎 硬化症,ア ルポー ト症候群

組織診断上の留意点である.

急激 に発症 する腎乳頭壊死 は糖尿病 や鎮痛剤

頻用,麻 薬常習 を背景に持つ ことが多い.ま た,

急性拒絶反応 の細胞性障害の診断 に際 しては感

染症や循環障害な どとの鑑別 あるいは混在 を考

慮す る必要がある.

2)急 速進行性尿 細管間質性 障害

発症後,急 速進行性の腎障害 を呈す る尿細管

間質性障害には髄質嚢胞性疾患がある.本 症 は

髄質 に嚢胞を形成す るが,腎 切片で嚢胞 を確認

で きることは期待で きず,組 織的には非特異的

間質尿細管障害 を示す ことか ら,診 断確定には本

症の存在 を認知 してお くことが まず必要である.

3)慢 性尿細管間質性障害

慢性 に経過す る尿細管 間質性 障害 には多彩 な

疾患群が含 まれる.腎 組織変化 のみで は鑑別が

で きない もの も多 く,臨 床像 との対比が常に必

要 となる.表2の 中で,他 疾患 との鑑別が必要

なもの として まとめた疾患群には,組 織変化の

みでは鑑別 し難い もので,通 常 の臨床検査 で も

診断に至 りえず,見 逃 される可 能性のある もの

をあげた.特 に家族性若年性 ネ フロン瘻 の よう

な進行性疾患は鑑 別診断 として常 にあげてお く

必要が ある.若 年者 に,慢 性 腎盂 腎炎類似 の慢

性尿細管問質性 腎炎の像 を観察 したら,家 族性

若年性 ネフロン瘻 と逆流性腎症 の可能性 を検討

すべ きであ る.

明 らか な病態や基礎疾患 を有す る尿細 管間質

性障害の場合は,症 例 によ り病変 の現われ方が

異なることが多 く,そ の程度や広が りが予後 と

関係する.こ の他,糸 球体性疾患や血管性疾患

などの病変の主座が尿細管間質以外の部 にある

疾患において も強い尿細管間質障害 を示 すが,

終末期腎 になる と基礎疾患の鑑別 はほ とん ど不

可能 となる.

お わ りに

尿細管間質性腎疾患 障害の病理像につ いて概

説 した.全 ての疾患を網羅することはで きない

ため,通 常遭遇す ることの多い疾患や鑑 別上重

要 な疾患 について,病 理診断学的立場 か ら解説

を加えた.尿 細管間質障害は全 身性,代 謝性疾

患や,薬 物中毒性,遺 伝性の ものが多 く,診 断

その ものが問題 となることはあま りなかった.

しか し,近 年,尿 細管 間質病変 の意義が見直 さ

れてお り,病 変 の質的な評価や,現 在不 明 とさ

れている尿細管 間質性 腎炎の本態が明 らかにな

ることが期待 される.最 後に,尿 細管間質性腎

炎の病理組織学 的診断や評価は決 して容易 な も

のではな く,臨 床像 との対比が最 も大切 である

ことを強調 したい.

文 献

1) Renal disease : Classification and atlas of tubulo

interstitial disease. Eds. by J. Churg, R.S. Cotran, J. Sin

niah, H. Sakaguchi, L.E. Sobin., Igaku-Shoin, Tokyo, New

York, 1984.

2)重 松秀 一:間 質 性 腎炎.現 代 日本病 理 学大 系,15 B.

腎臓.石 川栄 世 他編.中 山書 店.王986.pp113-119.

3) Singh AK, et al : Predominant tubulointerstitial lupus

nephritis. Am J Kid Dis 27: 273-278,1996.

4) Risdon RA: Development, developmental defects, and

cystic diseases of the kidney. Pathology of the Kidney,

ed by R. H. Heptinstall. Litttle Brown, Boston, 1992, pp

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5)田 口 尚,他:骨 髄腫 にみ られ る腎 障害.腎 と透 析 35:

175-180, 1993.

(25) 日本内科学会雑誌 第88巻 第8号 ・平成11年8月10日