神戸製鋼技報...神戸製鋼技報 53, 3 / 2 003 通巻205号ページ 1 (巻頭言)...

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神戸製鋼技報 53 , / 2003 通巻205号 ページ 1 (巻頭言) 原子力特集号の発刊にあたって 青木克規 2 (解説) 当社におけるキャスク開発の現状 谷内廣明・吉村啓介・赤松博史 7 (論文) 耐熱性コンクリートを使用した新型コンクリートキャスク 下条 純・谷内廣明・萬谷健一・大脇英司・杉原 豊・畑 明仁 12 (論文) ボロン添加アルミニウム合金の製造技術 下条 純・谷内廣明・梶原 桂・有賀康博 18 (技術資料)高性能中性子遮へい体 kobesh 赤松博史・谷内廣明・萬谷健一 23 (解説) 濃縮ボロン製品の今後の展望 谷内廣明・下条 純・萬谷健一 26 (技術資料)使用済燃料輸送容器保守施設(f 3 施設) 古田尚行・山田 斉・仲谷雅光・小川圭一・白谷 誠・西木場 31 (技術資料)バーナブルポイズン棒(燃料集合体構成部材)の減容装置 北村義則・室尾洋二・浜中 36 (解説) コールドクルーシブル誘導溶融技術の原子力分野への適用 西尾隆志・和田本章・草道龍彦 41 (技術資料)第 2低レベル廃棄物貯蔵建屋(DB建屋)の無人搬送システム 北村義則・宮上秀敏 47 (技術資料)HIP 法による放射性ヨウ素含有廃棄物の岩石固化技術 和田隆太郎・西村 務・栗本宜孝・今北 56 (技術資料)低レベル放射性廃棄物の焼却処理技術 須鎗 護・中西良太・能浦 毅・藤冨昌志・阿野晋太郎 61 (技術資料)放射性雑固体廃棄物のプラズマ溶融技術 康夫・杉本雅彦・藤冨昌志・能浦 66 (技術資料)放射性液体廃棄物の処理技術 田中良明・岩田俊雄・和田本章 72 (論文) 低透水層用充填材「ベントボール 和田隆太郎・山口憲治・竹内靖典・隈元純二・小峯秀雄・中西 78 (論文) 地層処分場における金属腐食に伴う水素ガス発生量評価 西村 務・和田隆太郎・藤原 和雄 84 (論文) in situ レーザ誘起蛍光分光法による高圧下溶解度評価手法 山口憲治・山本誠一・増田 薫・清水孝浩・今北 毅・坂本 89 (技術資料)原子力施設事故時の情報遠隔収集ロボット 中山準平・杉本雅彦 92 (論文) 超臨界圧軽水炉用燃料被覆管材料 原田 誠・久保田修・穴田博之 98 (解説) 燃料チャンネルの機能及び製造方法 野高昌之・藤沢匡介 103 神戸製鋼技報掲載 原子力関連文献一覧(Vol.33, No.1 ~ Vol.53, No.2) 新製品・新技術 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 105 新しい回旋誘導型人工膝関節 K-MAX EMK システム 高野恭寿・山脇 105 チタン製滑雪パネル 山本喜孝 106 PVD法によるαアルミナ皮膜形成技術 小原利光・玉垣 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 107 編集後記・次号予告 特集:原子力 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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  • 神戸製鋼技報

    ���� 53,���� 3 / �����2003 通巻205号

    ページ

    1 (巻頭言) 原子力特集号の発刊にあたって 青木克規

    2 (解説) 当社におけるキャスク開発の現状 谷内廣明・吉村啓介・赤松博史

    7 (論文) 耐熱性コンクリートを使用した新型コンクリートキャスク

    下条 純・谷内廣明・萬谷健一・大脇英司・杉原 豊・畑 明仁

    12 (論文) ボロン添加アルミニウム合金の製造技術 下条 純・谷内廣明・梶原 桂・有賀康博

    18 (技術資料) 高性能中性子遮へい体 kobesh � 赤松博史・谷内廣明・萬谷健一

    23 (解説) 濃縮ボロン製品の今後の展望 谷内廣明・下条 純・萬谷健一

    26 (技術資料) 使用済燃料輸送容器保守施設(f 3 施設) 古田尚行・山田 斉・仲谷雅光・小川圭一・白谷 誠・西木場 晶

    31 (技術資料)バーナブルポイズン棒(燃料集合体構成部材)の減容装置 北村義則・室尾洋二・浜中 勲

    36 (解説) コールドクルーシブル誘導溶融技術の原子力分野への適用 西尾隆志・和田本章・草道龍彦

    41 (技術資料) 第 2 低レベル廃棄物貯蔵建屋(DB建屋)の無人搬送システム 北村義則・宮上秀敏

    47 (技術資料) HIP 法による放射性ヨウ素含有廃棄物の岩石固化技術 和田隆太郎・西村 務・栗本宜孝・今北 毅

    56 (技術資料) 低レベル放射性廃棄物の焼却処理技術 須鎗 護・中西良太・能浦 毅・藤冨昌志・阿野晋太郎

    61 (技術資料) 放射性雑固体廃棄物のプラズマ溶融技術 東 康夫・杉本雅彦・藤冨昌志・能浦 毅

    66 (技術資料) 放射性液体廃棄物の処理技術 田中良明・岩田俊雄・和田本章

    72 (論文) 低透水層用充填材「ベントボール�」 和田隆太郎・山口憲治・竹内靖典・隈元純二・小峯秀雄・中西 宏

    78 (論文) 地層処分場における金属腐食に伴う水素ガス発生量評価 西村 務・和田隆太郎・藤原 和雄

    84 (論文) in situ レーザ誘起蛍光分光法による高圧下溶解度評価手法

    山口憲治・山本誠一・増田 薫・清水孝浩・今北 毅・坂本 俊

    89 (技術資料) 原子力施設事故時の情報遠隔収集ロボット 中山準平・杉本雅彦

    92 (論文) 超臨界圧軽水炉用燃料被覆管材料 原田 誠・久保田修・穴田博之

    98 (解説) 燃料チャンネルの機能及び製造方法 野高昌之・藤沢匡介

    103 神戸製鋼技報掲載 原子力関連文献一覧(Vol.33, No.1 ~ Vol.53, No.2) 

    新製品・新技術 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    105 新しい回旋誘導型人工膝関節K-MAX EMKシステム 高野恭寿・山脇 昇

    105 チタン製滑雪パネル 山本喜孝

    106 PVD法によるαアルミナ皮膜形成技術 小原利光・玉垣 浩 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 107 編集後記・次号予告

    特集:原子力 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  • "R&D" Kobe Steel Engineering Reports, Vol. 53, No.3 (Dec. 2003)

    《FEATURE》 Nuclear Engineering

    1 Recent Trends in Nuclear Katsunori Aoki

    2 Status of Cask Development at Kobe Steel Dr. Hiroaki Taniuchi・Keisuke Yoshimura・Hiroshi Akamatsu

    7 New Heat Resistant Concrete Casks Jun Shimojo・Dr. Hiroaki Taniuchi・Kenichi Mantani・Dr. Eiji Owaki・Yutaka Sugihara・Akihito Hata

    12 Borated Aluminum Alloy Manufacturing Technology Jun Shimojo・Dr. Hiroaki Taniuchi・Katsura Kajihara・Yasuhiro Aruga

    18 Kobe Steel's Highly Effective kobesh � Neutron Shield Hiroshi Akamatsu・Dr. Hiroaki Taniuchi・Kenichi Mantani

    23 The Prospect of Enriched Boron Products Dr. Hiroaki Taniuchi・Jun Shimojo・Kenichi Mantani

    26 Nuclear Waste Storage Cask Maintenance Facility Naoyuki Furuta・Hitoshi Yamada・Masamitsu Nakatani・Keiichi Ogawa・Makoto Shiratani・Akira Nishikoba

    31 BP Volume Reduction Equipment Yoshinori Kitamura・Yoji Muroo・Isao Hamanaka

    36 The Applicability of Cold Crucible Induction Melting to Nuclear Engineering Takashi Nishio・Akira Wadamoto・Tatsuhiko Kusamichi

    41 An Automatically Controlled System for Waste Transport in Low Level Nuclear Waste Storage Facilities Yoshinori Kitamura・Hidetoshi Miyaue

    47 HIP Rock Solidification Technology for Radioactive Iodine Contaminated Waste Ryutaro Wada・Tsutomu Nishimura・Yoshitaka Kurimoto・Dr. Tsuyoshi Imakita

    56 An Incineration Technology for Low Level Radioactive Solid Waste Mamoru Suyari・Ryota Nakanishi・Tsuyoshi Noura・Masashi Fujitomi・Shintaroh Ano

    61 A Plasma Melting System for Solid Radioactive Waste Dr. Yasuo Higashi・Masahiko Sugimoto・Masashi Fujitomi・Tsuyoshi Noura

    66 A Treatment Technology for Liquid Waste Generated from Nuclear Reprocessing Facilities Yoshiaki Tanaka・Toshio Iwata・Akira Wadamoto

    72 Low Permeability Layer "BENTBALL�" Ryutaro Wada・Kenji Yamaguchi・Yasunori Takeuchi・Junji Kumamoto・Hideo Komine・Hiroshi Nakanishi

    78 Evaluation of Gas Generation Rates Caused by Metal Corrosion under the Geological Repository Conditions Tsutomu Nishimura・Ryutaro Wada・Kazuo Fujiwara

    84 Solubility Assessment Technology for High Pressure Environments by in situ Laser-induced Fluorescence Spectroscopy Kenji Yamaguchi・Dr. Seiichi Yamamoto・Dr. Kaoru Masuda・Takahiro Shimizu・Dr. Tsuyoshi Imakita・Shun Sakamoto

    89 Information Gathering Robots for Nuclear Accidents Jumpei Nakayama・Masahiko Sugimoto

    92 Fuel Cladding Materials for Supercritical-water Cooled Power Reactors Makoto Harada・Osamu Kubota・Hiroyuki Anada

      98 Functions and Fabrication Technologies of Fuel Channel Masayuki Nodaka・Kyosuke Fujisawa

      103 Papers on Advanced Processing Technologies for Nuclear Presented in R&D Kobe Steel Engineering Reports (Vol. 33, No.1 ~ Vol. 53, No.2)

  •  科学技術の発達は,人々の生活を大いに豊かにした

    が,その一方で“地球温暖化”に象徴されるように,放

    置し続ければ生物の存在そのものを危うくするような深

    刻な問題をもたらした。人が豊かさを持続的に追求して

    いくためには,過去の反省に立ち,科学技術の持つ負の

    側面を十分考慮しながら,その利用を進めていくことが

    求められる。

     われわれの生活の豊かさを支えているのは生産力であ

    り,それを生み出す源はエネルギである。エネルギを安

    定的に,経済的に,豊富に,また温室効果ガスを排出す

    ることなく提供するもの,それが原子力エネルギである。

    原子力の特徴は,極めて少量の核燃料で,莫大なエネル

    ギ量を長時間,持続的に供給することである。日本のよ

    うな小資源国家においては,真に豊かな社会を実現する

    ためには,原子力を除いてエネルギ政策は語ることがで

    きない。

     ただし原子力には「危険」という負の側面も内在して

    いる。原子力に携わるすべての関係者が,その危険性を

    当然のこととして十分認識し,これを自らのコントロー

    ル下におくための技術,法律,教育などを含め総合的な

    システムを社会全体で創り上げる必要がある。

     1999 年の東海村ウラン加工工場における臨界事故,

    2002 年の原子力発電所での検査・点検時における不祥事

    など,度重なる事故・不祥事の発生により,原子力に対

    する国民の信頼が,現在著しく損なわれていることは残

    念なことである。信頼回復のため,いま一番求められる

    ことは,原因分析の結果まとめられた再発防止策を,原

    子力関係者全員が,倫理観と順法精神にのっとり誠実に

    実行すること,そしてそのことについて情報公開を通じ

    国民によく知ってもらうこと,その上で,わが国におけ

    る原子力エネルギのもつ重要性を正しく理解してもらう

    ことである。

     さて,この度のR&D神戸製鋼技報の原子力特集号は,

    当社の保有する高度な技術を網羅している。当社は

    1960 年代に核燃料の被覆管となるジルカロイの研究を

    開始して以来,材料分野においてジルカロイ被覆管,タ

    ービンロータ材,復水器用チタン材などを納入してき

    た。また原子力プラント分野では,1975 年に当時の動

    力炉 ・核燃料開発事業団殿向けのクリプトン回収技術開

    発施設の設計に着手して以来,主として核燃料サイクル

    の分野で種々の設備・施設の設計,建設を行ってきた。

     さらに原子力機器分野では,1980 年代に使用済燃料輸

    送兼貯蔵容器の開発に着手して以来,世界トップでかつ

    国内 60%のシェアを占める貯蔵輸送容器や,燃料チャン

    ネルを製作,納入してきた。これらのメニューのうち,

    金属廃棄物処理用の溶融炉や燃料構成要素の減容処理装

    置など,当社の技術開発本部での研究から生まれたもの

    も少なくない。

     今回の原子力特集は,1989 年 4 月刊行 Vol. 39,No. 2

    「放射性物質の輸送・貯蔵技術特集」以来となる。前回

    の特集では,当社の原子力分野における黎明期から成長

    期を網羅したが,今回は 1990 年代から 2000 年代の拡大

    期についてご報告する。特に,日本原燃㈱殿向再処理施

    設などで建設が進んでいるバックエンド関連の大型施設

    にかかわる報告,そしてコンクリートを使用するなど新

    しい開発も進んでいる使用済燃料輸送貯蔵容器,さらに

    地層処分場などの放射性廃棄物処理処分分野や燃料被覆

    管などの材料分野での先端技術の報告に注目頂きたい。

     原子力分野は高度な技術を必要としている。当社の持

    つ幅広い事業領域と技術開発力を活かし,今後ともこの

    分野での技術の維持発展に力を注いでいきたい。加え

    て,放射性物質を取扱う技術開発を通じて培われた品質

    管理,安全解析,安全設計などの技術は,危険がなくか

    つ安心して住める社会の基礎作りに欠くことのできない

    技術である。これらの技術を提供し続けることで,豊か

    な社会の実現に貢献していく所存である。

    1神戸製鋼技報/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    ■原子力特集 FEATURE : Nuclear Engineering

    (巻頭言)

    原子力特集号の発刊にあたって青木 克規常務執行役員 エンジニアリングカンパニー バイスプレジデント

    Recent Trends in NuclearKatsunori Aoki

  • まえがき=キャスクとは,原子炉から取出した使用済燃料を輸送あるいは貯蔵するための容器であり,用途により色々な構造がある。当社のキャスクへの取組みは,1980 年初頭に国内の使用済燃料をフランスの再処理工場へ輸送する TN型輸送キャスクの製造から始まった。その後,これまでの二十数年間に,研究炉の使用済燃料を輸送する小型キャスクから商業炉の使用済燃料を輸送・貯蔵する大型キャスクまで,多種多様の金属製キャスクの開発,設計,製造に携わり,表 1に示すように 150基以上のキャスクを製造しており,世界的に見ても有数の製造実績を誇っている。 ここではこれまでの実績を振返るとともに,最近の当社のキャスクの開発状況,特に今後需要の拡大が見込まれている貯蔵キャスクを中心に説明する。

    1.輸送キャスク

     1980 年代に TN型キャスク,研究用原子炉燃料用キャスクの製造を実施しキャスク設計のノウハウを確立し,その後,NFT型キャスク設計の共同開発へと進んでいった。今後は,放射性廃棄物関連の輸送キャスクの需要が見込まれている。

    1.1 TN型キャスクの製造

     当社が最初に製造したのは,国内発電所で発生する使用済燃料をフランス COGEMAの再処理工場まで運ぶために,COGEMA LOGISTICS社(以下ACL社と呼ぶ。当時は TRANSNUCLEAIRE 社と呼ばれていたが,現在はCOGEMAの関連会社となり,2002 年に社名も現在の名称に変更された)が設計した TN12 型と呼ばれる PWR燃料を 12 体収納することのできる鍛造炭素鋼製乾式輸送キャスク(輸送時にはキャスク内部を乾燥状態に保持するタイプであり貯蔵キャスクと同等の構造)である。写真 1に外観を示すが,直径約 2.5m,長さ約 6.5m,重量約 115 トンの大きさである。 このキャスクを製造するにあたり,日本のユーザである電力会社は日本当局の認可(設計承認)をあらかじめ取得する必要があるが,このためにこのキャスクが安全であることを示すための安全解析(構造,熱,密封,遮へい,臨界の五つの解析)を実施する必要があり,当社はこの安全解析書作成業務も同時に初めて経験することとなった。フランス当局向けの安全解析書をベースとして,国内の技術基準に則った解析方法などを確立して安全解析書を完成させたが,このときの苦労が当社のキャスク設計技術の実力を向上させる上で大きく寄与している。この経験を通じて,キャスクの安全機能である除熱機能(キャスクに収納する使用済燃料などの発熱を適切にキャスク外部に逃がす機能),密封機能(放射性物質の閉じ込め機能),遮へい機能(使用済燃料などの放射線を適切に遮へいする機能),臨界防止機能(使用済燃料などが臨界状態になることを防ぐ機能)及びこれらの機能をいかなる運用状態においても維持するための構造強度設計の設計技術を蓄積することができた。 その後,TN12 型の改良型である TN12A(PWR 燃料12 体収納),TN12B(BWR 燃料 32 体収納),少し小型

    2 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    当社におけるキャスク開発の現状

    Status of Cask Development at Kobe Steel

    Kobe Steel has been involved in the design, safety analysis and fabrication of transport and/or storage casks for radioactive materials for more than 20 years. Transport casks were primarily developed early on, however, now production has largely shifted to storage casks. To make the casks as safe as possible, without huge added expense, the advanced types of casks have been and will be developed and new materials such as high performance neutron shields and neutron absorbing materials are being increasingly developed and used.

    ■原子力特集 FEATURE : Nuclear Engineering

    (解説)

    谷内廣明*(工博)Dr. Hiroaki Taniuchi

    *エンジニアリングカンパニー エネルギー本部 高砂機器工場

    吉村啓介*

    Keisuke Yoshimura赤松博史*

    Hiroshi Akamatsu

    No. of casksType of caskDelivery year

    68TN type transport cask1981-2003

    2JRC-80Y-20T transport cask1981

    61TN type transport/storage cask1985-2003

    19NFT type transport cask1997-2000

    25Cask for radioactive waste1988-2001

    12Others1988-1993

    187Total

    表 1 当社のキャスク製造実績��������Casks fabricated by Kobe Steel

  • となる TN17 型(BWR燃料 17 体収納)の安全解析,製造を数年の間に立て続けに実施していった。1.2 研究用原子炉燃料用キャスク

     TN型輸送容器の製造と平行して,当社では日本原子力研究所の研究用原子炉燃料を輸送するキャスクの設計,製造業務を実施した。このキャスクの外観を写真 2に示す。JRC-80Y-20T型と呼ばれ,重量約20トンの小型キャスクではあるが,バスケットを交換することにより多種類の形状の燃料が収納でき,規則に定められた 9 m落下試験時の落下エネルギ吸収のためにキャスク本体に取付けた放熱フィンを利用するなど,色々なアイデアを取入れている。この設計が当社にとっては新型キャスクの最初の設計であったが,国内では数少ない BU型核分裂性輸送物としての認可を受けている。1.3 NFT 型キャスク1)

     青森県六ヶ所村に建設中の国内再処理工場へ国内の各発電所から使用済燃料を輸送するためのキャスクの開発は,電力会社の指導のもと,原燃輸送㈱の下で国内キャスクメーカ 4社が共同で設計を実施した。当社はこの設計に参画し,主に鍛造炭素鋼タイプである BWR燃料用キャスクの設計に貢献した。NFT型キャスクは6種類設計されており,写真3に代表的なNFT-38B型キャスクの外観を示す(NFT型キャスクは湿式キャスクであり,輸送時にもキャスク内部に水を保持している)。 以上,主要な使用済燃料輸送キャスクについて述べた

    が,当社はこれ以外にも放射性廃棄物,中性子源などを輸送するキャスクの設計,製造も実施している。また,今後は発電所内に貯蔵されている放射性廃棄物や原子炉の解体時に発生する放射性廃棄物を輸送するためのキャスクの需要が生じてくると考えている。

    2.貯蔵キャスク

     当社は,使用済燃料の貯蔵キャスクに関し,早くからその安全性や経済性などのメリットに注目し,輸送貯蔵兼用の金属キャスク TN24 の開発を開始した。現在,世界的に輸送貯蔵兼用キャスクの需要が拡大しており,この TN24 をベースに TK69 などの新型キャスクの開発を進めている。2.1 原型 TN24

     当社と ACL社は,TN型輸送キャスクの製造に際しお互いの能力を高く評価して,1983 年に輸送貯蔵兼用キャスクの共同開発に着手した。輸送実績の豊富な TN型乾式輸送キャスクをベースに貯蔵の特性を考慮した基本設計を行い,2/5 スケールモデルを用いた 9 m 落下試験(写真4参照)などを含めた2年間のR&D実施後,1985年には日本最初の輸送貯蔵兼用キャスクとなる鍛造炭素鋼製キャスク TN24 の詳細設計を完了した。TN24 は,

    3神戸製鋼技報/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    写真 1 TN12 型輸送容器������� TN12 type transport cask

    写真 3 NFT 型輸送容器������� NFT type transport cask

    写真 2 JRC-80Y-20T 型輸送容器������� JRC-80Y-20T type transport cask

    写真 4 TN24 2/5 スケールモデル落下試験������� TN24 2/5 scale model drop test

  • PWR燃料を 24 体収納できることからこの名前を付けたものである。当社は,図 1に示すこのプロトタイプキャスクを 1基製造し,米国 Idaho National Engineering and Environmental Laboratory(INEEL)での使用済燃料貯蔵の実証試験用として納入した。INEEL では,現在もこのキャスクを用いて試験が継続されているが,これまで実施した試験などにより数々の貴重なデータが取得され,公開されている2), 3)。2.2 国内初の貯蔵キャスク TN24

     1990 年代に入り,TN24 は国内での貯蔵キャスクの候補にあげられ,当社は,当時の通商産業省の乾式キャスク貯蔵実用化にあたっての法令,技術基準の整備に全面的に協力した。その結果,TN24 は国内で最初の貯蔵キャスクとしての認可を受け,東京電力㈱福島第一原子力発電所において,1995年より 9基のTN24を用いた使用済燃料の貯蔵が実施されている。写真5にその外観を示す。また,主要な仕様を表 2に示す。 一方海外においても,ACL社は当社と共同で開発したTN24 をベースに,ヨーロッパにおいてTN24 シリーズと

    して TN24D,TN24XL など多数のラインアップをそろえ,米国でも ACL社の子会社である TRANSNUCLEAR社(TNY社)が TN-32,TN-40,TN-68 などをそろえている。なお,TN-32,TN-40 は貯蔵専用キャスクとしての設計である。2.3 TK型キャスク

     TN24 のプロジェクト完了後,貯蔵の経済性の重要度がますます高くなり,1997 年に当社と ACL 社は,再び共同で,TN24 をベースとしながら,これまで培ってきた多くの乾式キャスクの設計,製造,運用の実績を用いて,さらに進んだ鍛造炭素鋼製輸送貯蔵兼用キャスクとしてTK型キャスクの開発を実施した。図2は,BWR燃料用に開発したTK-69の構造である。このキャスクにはBWR 燃料を 69 体収納可能である。TK 型キャスクの主要な仕様を表 2に示している。なお,TK-69 は既に輸送の認可を取得済みである。   TK-69 の設計思想は,安全性をさらに高め,同時に経済性を向上させることである。つまり収納体数を高めるとともに,安全性に関しては日本及びヨーロッパの安全基準を同時に満たすことができる設計とすることにより,日本及びヨーロッパでの輸送を可能とした。ヨーロッパでの輸送が可能となることにより,将来,貯蔵後ヨーロッパの再処理工場に送るというオプションが可能となり,顧客にとって使用済燃料管理の柔軟性が増える。

    4 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    ConcreteKATSTKTN24

    BWR typePWR typeKATS-B69KATS-P24TK-69TK-PWRDomestictypePrototype

    BWRPWRBWRPWRBWRPWRBWRPWRFuel type45 00050 00033 00044 00033 00044 00033 00035 000Average burn-up (Mwd/tU)10101010101045Cooling time (years)-165

    -168

    132120

    131119

    132120

    132120

    -115

    9488

    TransportStorage

    Total weight(ton)

    6.23.4

    6.23.4

    5.32.6

    5.22.7

    5.42.6

    5.12.6

    5.62.5

    5.12.3

    Axial (Main body)Diameter (Main body)

    Length(m)

    More than 52More than 21692469More than 265224No. of loaded fuels2020192119252824Total heat (kW)

    Under developmentUnderdevelopmentLicensedfor storageNote

    表 2 当社のキャスクの主要な仕様��������Major characteristics of casks designed by Kobe Steel

    写真 5 TN24 型輸送・貯蔵容器������� TN24 type transport/storage cask

    図 1 TN24 型輸送・貯蔵容器の構成������ Structure of TN24 type transport/storage cask

    Secondary lid

    Primary lid

    Upper trunnion

    Outer shell

    Copper fin

    Main body

    Basket eB-AL developed  by KSL

    Neutron shielding e    developed  by KSL

    Lower trunnion

    kobesh

  •  このような設計が可能となった一つの理由は,後で述べる高性能中性子遮へい体 kobesh やバスケット材のボロン添加アルミニウム合金の開発により,より安全性の高い材料の使用が可能になったからである。今後は,それぞれの顧客の要望に応じて,世界的に TKシリーズとして個々の設計を実施していく予定である。

    3.新型キャスクの開発

     キャスク構造としては,TN型を代表とする鍛造炭素鋼のほかにガンマ線遮へい能力が高い鉛を使用したサンドイッチタイプ,短期間に製造できる球状黒鉛鋳鉄タイプ,経済性を追及したコンクリートタイプなどがある。当社では,これら全てのタイプについてその特徴を把握し設計検討を実施してきたが,以下の 2種類のタイプについては今後も有力とみて検討を継続している。3.1 KATS タイプ(鉛ブロックタイプ)

     1990 年代の初頭にキャスクのリサイクル性を考慮し,かつコストの安いキャスクとして KATS を開発した。KATS は図 3に示すように,主要なガンマ線遮へい体を鉛ブロック,中性子遮へい体をレジンブロックとして,大量生産型の部品を使用することにより,製造工程の短縮化,キャスク解体時の材料の再利用を容易にできるようにしたものである。上で述べた鉛を鋼板でサンドイッチするタイプでは,鉛と鋼板との間の熱伝導性を確保するため特殊な表面処理を施す必要があるが,KATS では鉛ブロックに熱伝導を期待しないため,このような特殊処理の必要がなく,簡単に施工できる点が大きな特徴となっている。今後,リサイクルの要望が高まった場合には有力な構造になる。3.2 密封型コンクリートキャスク

     以上はいずれも金属キャスクであるが,コンクリート

    キャスクについても新型構造を検討し,現在,密封型コンクリートキャスクの開発を推進している。設計思想としては,金属キャスクと同等の安全性を確保しながら経済性をさらに追及したキャスクの実現である。この目的のために,当社は,コンクリートに深い知見を持つ大成建設㈱と共同で新型の耐熱性コンクリートの開発に数年前より着手し,実用性の高い材料の開発に成功した。このコンクリートは,キャスク内部で想定される 150℃程度の環境下においても中性子遮へいに有効な水分を放出することがなく,強度も維持できる材料であるため,金属キャスクと同様の本体構造が可能である。従来のコンクリートキャスクは,コンクリートの温度を低く保つ必要があり,構造上,密封監視が不可能となり,キャニスタ材の腐食が懸念されるなどの問題があったが,この新規材料を使用することにより,これらの問題を解決できる。 現在,材料特性の最終確認を実施するとともに,この材料を用いた密封型コンクリートキャスクの基本設計を完了した。図 4に構造を示す。主要な仕様を表 2に示している。ここに示したのは貯蔵専用キャスクの設計であるが,将来的には輸送貯蔵兼用キャスクの設計を目標としている。また材料開発の今後の目標としては,収納効率を向上させるためにより密度の高いコンクリートを開発していくことである。

    4.キャスク材料に関する開発

     当社は,これまで 20 年間以上にわたり,常によりよいキャスク設計を行うために多くの研究開発を進めてきた。特に原子力特有の遮へい安全,臨界安全を十分確保するための材料開発に注力しており,これまで,耐熱性が高く中性子遮へい性能にも優れる高性能中性子遮へい

    5神戸製鋼技報/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    図 2 TK69 型輸送貯蔵容器の構成������ Structure of TK69 type transport/storage cask

    Secondary lid

    Upper trunnion

    Main body

    Basket

    Outer shell

    Neutron shielding

    Lower trunnion

    Primary lidPressure monitoring

    Copper fin

    図 3 KATS 型輸送・貯蔵容器の構成������ Structure of KATS type transport/storage cask

    Secondary lid

    Primary lid

    Basket

    Outer shell

    Inner shell

    Neutron shielding

    Upper trunnion

    Pressure monitoring

    Lower trunnion

    Copper fin

  • 材として kobesh シリーズを開発し,臨界安全に関しては,バスケット材として使用される濃縮ボロン添加アルミニウム合金の製造方法を確立してきた。これらの材料に対しては,長期貯蔵後でもその性能が確保されていることを確認するために,実際の使用温度よりも高い温度に長期間保持する加速試験を実施して,その安全性を評価している。以下に各材料の特徴を簡単に述べる。4.1 高性能中性子遮へい体 kobesh

     当社では,従来材に対し中性子遮へい性能を高め,かつ十分な耐熱性を持つ中性子遮へい材の開発を貯蔵キャスクの開発と同時に着手し,それぞれ特色のある材料を開発することができた。 これまで開発してきた kobesh としては,①シリコーンゴム(SR)タイプ,②エチレン・プロピレンゴム(EPR)タイプ,③水素化チタン(TH)タイプ,④ポリプロピレン(PP)タイプの 4 種類がある。SR は国内向の TN24型キャスクで使用するとともに海外への販売も実施しているもので,耐熱性が特に高い。EPR については,TKタイプなどの新型キャスクでの使用を考えている材料で

    あり,耐熱性は SR よりも少し低いが中性子遮へい性能が高い。THタイプは,最も遮へい性能が高く耐熱性も非常に高いため究極の遮へい材であるといえるが,残念ながら製造コストが現状の製造方法では非常に高く,キャスクへの採用はまだ行われていない。4.2 濃縮ボロン添加アルミニウム合金

     国内向 TN24 型キャスクの設計に際し濃縮ボロン添加アルミニウム合金の将来性を確信したため,1995 年より本製品の自社製造技術の開発に着手した。 材料的には 4~ 5%程度までボロンを添加することが可能であるが,構造強度部材として用いるためには,ボロン含有量を 1%程度に押さえる必要がある。当社では,1 %ボロン添加アルミニウム合金として,まず A6061材について実用化し,現在,A3004 材をベースとした材料について実用化を図っている。4.3 その他

     上記以外にも,本体の密封上重要な金属ガスケットの長期健全性の評価,各種緩衝材料の特性評価などの試験も実施し,より安全性が高く,経済性に優れたキャスクの設計を追及するために新材料の開発を継続している。

    むすび=当社は,キャスクに関しこれまで ACL との共同開発や独自開発を進めてきた。1984 年に ACL と共同で子会社としてトランスニュークリア㈱(TNT)を東京に設立,2002 年に国内を含むアジア地域におけるキャスクの基本設計,開発から販売まで中心的な役割を持たせることに合意し,現在,TNT は当社と ACL を代表することになった。当社は TNT を支援しながら,今後ともキャスクの開発・製造を通じて原子力産業の発展に尽くしていくつもりである。  参 考 文 献 1 ) S. Shimura:RAMTRANS, Vol.8, Nos3-4(1997), p.257. 2 ) J. M. Creer et al.:Electric Power Research Institute, EPRI NP-

    5128(1987). 3 ) M. A. McKinnon et al.:Electric Power Research Institute,

    EPRI NP-6191(1989). 

    6 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    図 4 密封型コンクリートキャスクの構成������ Structure of seal type concrete cask

    Concrete lid

    Canister lid

    Basket

    Heat resistant concrete

    Inner shell

    Copper fin

    Canister

    Pressure monitoring

    Outer shell

  • まえがき=国内の電力会社を主体として,2010 年ごろの実用化を目処に使用済燃料の中間貯蔵設備の準備が進められている。現状での最有力候補は輸送及び貯蔵の両方で実績がありかつ信頼性の高い金属キャスクであるが,経済性の観点からコンクリートキャスクについても実用化に向けて技術基準の作成が進められている。また,米国では普通コンクリートを使用した貯蔵用コンクリートキャスクが,既に実用化されている。 しかしながら,従来のコンクリート材料は,含有水のほとんどを 100℃以上で蒸発する自由水で保有していることから,通常の使用可能温度として 65℃以下,局所的な高温部でも 90℃以下に制限されていた。これは,自由水が蒸発することにより,中性子遮へいに有効な水素含有量が低減し,更にコンクリート材料の強度が劣化するためである。 したがって,従来型のコンクリートキャスクには,除熱のために図1に示すような吸排気口が必要不可欠であった。すなわち,使用済燃料を装荷した金属製の密封容器であるキャニスタとコンクリートキャスクとの間に外気を自然対流させて除熱することにより,コンクリート材料の温度上昇を防いでいた。しかしながら,これら吸排気口は遮へい体の欠損部となり放射線のストリーミングが発生して局所的に線量当量率が増加すること,また,外気から取込まれる海塩粒子などによるキャニスタの腐食の問題があり,その対策として,例えば,前者に対しては吸排気口を屈曲構造にすることにより,後者に対しては耐腐食性に優れた二相系ステンレス鋼であるSUS329J4L(25Cr-6Ni-3Mo-0.2N-LC)などを使用することにより克服している1)。 当社は,吸排気口に起因する技術的な問題を解決するために,150℃程度の高温でも中性子遮へいに有効な水素含有量を確保することができる耐熱性コンクリート材

    料を大成建設㈱と共同で新たに開発した。本材料を使用することで,図 2に示すように,従来型コンクリートキャスクに必要不可欠であった吸排気口をなくすことができ,現在実用化されている金属キャスクと同様の技術概念の新しいコンクリートキャスクの設計製造が可能となった。

    1.耐熱性コンクリート材料の特徴

    1.1 材料組成

     本材料の大きな特徴は,100℃以上の温度でも中性子遮へいに有効な水素含有量(含水量)を確保することができる点にある。このような高温環境下では,従来の普通コンクリートのように自由水では必要な水素量を確保できない。そこで,水酸化カルシウムを添加して,その結晶水で水分を保持させることにより,100℃以上の高温でも中性子遮へいに十分な水素量を確保することを可能にした。一方,キャスクの遮へい材としては,ガンマ線に対する遮へい性能も要求される。そのため,本材料では,金属材料(鉄粉及び鉄繊維)を添加することで従来の普通コンクリートと同等以上の密度を維持することで,十分なガンマ線遮へい性能の確保をも可能にした。なお,本材料にはコンクリートとして本来含まれるべき細骨材及び粗骨材を使用していないが,ここでは耐熱性コンクリートと称する。1.2 材料物性

     本材料を使用するために必要と考えられる基礎物性値を測定した。その結果を表 1に示す。ここでは,常温及び想定した実際の使用環境温度 150℃での物性値を測定した。ここで,熱伝導率は JIS R 2616「耐火れんがの熱伝導率の試験方法」により,線膨張係数は JIS A 1325「建築材料の線膨張係数測定方法」により,圧縮強度はJIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」により,

    7神戸製鋼技報/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    耐熱性コンクリートを使用した新型コンクリートキャスク New Heat Resistant Concrete Casks

    Heat resistant concrete containing hydrogen has been developed in the design of a new type of cask that has been modeled on the same concept of metal cask technologies for use under high temperature conditions. The allowable temperature of conventional concrete is limited to 90℃ because most of its moisture is free water and therefore hydrogen, which is effective for neutron shielding, can be easily lost. Our newly developed concrete uses crystal water and as a result can be used under high temperatures.

    ■原子力特集 FEATURE : Nuclear Engineering

    (論文)

    下条 純*

    Jun Shimojo谷内廣明*(工博)Dr. Hiroaki Taniuchi

    萬谷健一*

    Kenichi Mantani大脇英司**(工博)Dr. Eiji Owaki

    杉原 豊***

    Yutaka Sugihara畑 明仁***

    Akihito Hata

    *エンジニアリングカンパニー エネルギー本部 高砂機器工場 **大成建設㈱ 技術センター 土木技術研究所***大成建設㈱ エンジニアリング本部 原燃サイクル施設グループ

  • 比熱は液体混合法により測定し,密度は質量と外形寸法から計算して求めた。また,150℃における結晶水の含水率は,サンプル(約 30g)を窒素パージしながら 1 000℃で加熱して発生するガス中に含まれる水分をシリカゲルで捕集し,その質量増加量から測定した6)。比較のために,普通コンクリートの物性値を参考に併記した。この結果から,密度は普通コンクリートと同等であり,含水率は 2~ 3倍であることが分かった。室温と 150℃における含水率に 5 %程度の差があることから,本材料は加熱により蒸発する自由水を約 5 %保持しており,これが室温と 150℃における密度の差として現れていると考えられる。また,圧縮強度は加熱後において高強度コンクリートに相当することが確認された。1.3 加熱劣化特性

     本材料を遮へい材として使用するためには,使用環境温度で密度低下(水素の減少)の傾向を把握しておくことが必要不可欠である。金属キャスクで使用されている中性子遮へい材(レジン或いはゴム系の材料)では,約1年間にわたる加熱試験を実施して,その間の密度減少傾向から使用期間(40 ~ 60 年程度)中の密度減損量を

    予測する方法が一般的によく使用されている。今回はその予備的な試験として,開放系の熱風炉を使用し,想定使用環境温度の150℃で最長30日間にわたる加熱試験を実施して,本材料の質量の経時変化を調べた。その結果を図 3に示す。この結果から,加熱初期に約 5 %質量減

    8 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    図 3 耐熱性コンクリートの加熱による質量変化(加熱温度:150℃)

    ������ Mass variation of heat resistant concrete during heated time (Heated temperature:150℃)

    1.00

    0.98

    0.96

    0.94

    0.92

    0.901 10

    Heated time (h)100 1 000

    Relative mass variation

    Sample No.1 Sample No.2

    Compressivestrength(MPa)

    Specific heat(kJ/(kg・K))

    Coefficient oflinear expansion

    (l/K)

    Heat conductivity(W/(m・K))

    Moisture content(mass%)

    Density(g/cm3)

    870.941.1×10-52.016.62.3Heat resistant concreteat room temp.

    ---1.410.82.17Heat resistant concreteat 150℃

    18~40*41.0~1.3*21.0×10-5*12.6~2.8*34~7*22.25~2.3*1Ordinary concreteat room temp.

    表 1 耐熱性コンクリート及び普通コンクリートの物性値��������Properties of heat resistant concrete and ordinary concrete

    Note *1:According to reference 2)Note *2:According to reference 3)Note *3:According to reference 4)Note *4:According to reference 5)

    図 1 従来型コンクリートキャスク������ Conventional concrete cask

    Concrete lid

    Air outlet

    Basket

    Canister

    Steel bar

    Air inlet

    Canister secondary lid

    Ordinary concrete

    Steel liner

    Canister primary lid

    図 2 新型コンクリートキャスク������ New type concrete cask

    Concrete lid

    ※No air inlet and outlet which is conventionally required

    Canister lid

    Basket

    Heat resistant concrete

    Inner shell

    Outer shell

    Pressure monitoring

    Canister

    Copper fin

  • 少しその後ほぼ一定の質量を保持していることが認められた。これは,加熱初期に保有していた自由水を主に放出したためである。水酸化カルシウムの分解温度は約580℃であることから,150℃では分解することはなく安定したコンクリート材料であるといえる。1.4 その他の特徴 

     本材料の切断サンプルを写真 1に示す。本材料には骨材として使用される砂利や鉄筋が使用されないので,従来の普通コンクリートと比較して均質な遮へい材料である。また,鉄繊維を添加することで,コンクリートの熱膨張によるひび割れ抵抗性にも優れている。

    2.遮へい性能評価

     本材料の遮へい性能を確認するために,簡易遮へい計算を行い比較した。2.1 評価方法

     計算に使用した燃料仕様を表 2に示す。この燃料を収納するコンクリートキャスクについて遮へい計算を実施し,耐熱性コンクリート及び普通コンクリートの遮へい性能を比較した。計算モデルは図4に示すとおりであり,遮へい体に使用するコンクリートを普通コンクリート及び耐熱性コンクリートの場合の 2ケースについて計算し

    た。この計算モデルは,普通コンクリートを使用した場合にキャスク側部中央表面から1 mにおける合計線量当量率が 100μSv/h 8)となるように設定したものである。ここで,ガンマ線及び中性子の線源強度は燃焼計算コードORIGEN2 9)により求め,遮へい計算には一次元輸送遮へい計算コードである ANISN 10)を用い,各元素の断面ライブラリはDLC23/CASK ライブラリ11),線量当量率変換係数は ICRP Publ.74 12)を基にした値を使用した。また,計算に用いた各コンクリート材料の原子個数密度を表 3に示す。耐熱性コンクリートの原子個数密度の算出には,150℃加熱後の密度(2.17g/cm3)を使用した。 上記の条件で遮へい計算を行い,コンクリートキャスク側部中央表面から1 mにおける線量当量率を求めた結果を表 4に示す。この結果から,本材料は特に中性子の遮へい性能に優れており,この計算例では中性子の線量当量率は約 70%,合計線量当量率でも約 30%低減することができた。この計算結果から,耐熱性コンクリート材料が従来の普通コンクリートと比較して優れた遮へい材であることが確認された。

    3.打設試験

     一般的にコンクリート材料は型枠に流し込んで打設されることから,フレッシュコンクリートの状態での施工性(流動性)を確認しておくことが重要である。ここでは,本耐熱性コンクリートの打設性を確認するために,

    9神戸製鋼技報/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    写真 1 耐熱性コンクリートの断面サンプル������� Cut sample of heat resistant concrete

    RemarksCondition

    BWR STEP Ⅲ3.545 00055 00025101.3

    (1) Fuel specification Fuel type Initial enrichment (%) Average burnup (MWD/MTU) Maximum burnup (MWD/MTU) Specific power (MW/MTU) Cooling time (year) Peaking factor

    Note*:Accordingto reference 7)

    522.15*2.17 

    (2) Calculation condition Number of fuel assemblies Density of ordinary concrete (g/cm3) Density of heat resistant concrete (g/cm3)

    表 2 遮へい計算仕様及び条件��������Specification and condition of shielding calculation

    Ordinary concrete*

    (atoms/barn・cm)Heat resistant concrete(atoms/barn・cm)Element

    5.34 × 10 -3

    4.11 × 10 -2

    6.13 × 10 -5

    2.14 × 10 -4

    1.78 × 10 -2

    2.22 × 10 -3

    6.35 × 10 -4

    1.6 × 10 -2

    2.0 × 10 -2

    6.9 × 10 -4

    1.1 × 10 -2

    8.1 × 10 -3

    H

    C

    O

    Mg

    Al

    Si

    Ca

    Fe

    表 3 コンクリート材料の原子個数密度��������Atomic density of concrete material

    Dose equivalent rate (μSv/h)

    TotalNeutronGamma

    69

    100

    13

    42

    56

    58

    Heat resistant concrete

    Ordinary concrete

    表 4 キャスク表面から 1 mにおける線量当量率��������Dose equivalent rate at 1m from surface of cask

    図 4 遮へい計算モデル������ Shielding calculation model

    App. 75

    Fuel region

    Carbon steel (Canister)

    Air Carbon steel (Inner shell)

    ConcreteAir 100

    Detector(unit : cm)

    App. 80

    Carbon steel (Outer shell)

    Note *:According to refrence 7)

  • 胴体の 1/3 スケールモデルの試験体の打設試験を実施した。試験体の外観を写真 2に示す。また,試験体の切断面を写真 3に示す。切断面を確認したところ,伝熱フィンと内外筒とのコーナ部分にも本材料が充填されていた。この結果,コンクリートの流動性などの打設性能に問題が無いことが確認できた。 また,打設された材料の均一性を確認するために,打設試験体からランダムに切出したサンプルの密度を測定し,そのばらつきを調べた。その結果を表 5に示す。材料の均一性を損ねる原因としては,添加される原材料の不均一性及び打設時の空気の巻込みなどが考えられ,こ

    れらは材料密度のばらつきとして現れると考えられる。この結果から,ばらつきの誤差は約 2.5%であり,混合されている材料が分離することなく硬化後においても安定した材料が得られていることが確認された。

    4.新型コンクリートキャスク

     図 2は新型コンクリートキャスクの例を示している。図 1に示される従来型コンクリートキャスクではコンクリートの耐熱温度が低いため,吸排気口を設けて空気による除熱が必要不可欠であった。本材料は 100℃以上の温度においても中性子遮へいに有効な水分(水素)を結晶水の形で確保することができるため,金属キャスクと同じ密封構造のコンクリートキャスクが設計可能となった。このことにより,本コンクリートキャスクの特徴として以下の点が挙げられる。4.1 放射線のストリーミング対策

     従来この吸排気口の部分が遮へい体の欠損部となるために,放射線のストリーミング対策が必要であった。例えば,ダクトを屈曲させるなどの対策が必要であり,一方で流路抵抗を考慮した除熱性能を確保する必要があった。しかし,本コンクリートキャスクは材料の耐熱性の向上により完全密封型の構造が可能となったため,放射線のストリーミングを考慮する必要がなくなった。このことから,本コンクリートキャスクは遮へい性能の点から非常に優れた容器であるといえる。4.2 密封監視機能

     従来型コンクリートキャスクで使用されるキャニスタには,密封監視用の圧力センサを取付けることができず,また,コンクリートキャスク自体も密封構造でないため内部の圧力監視をすることができなかった 注)。本コンクリートキャスクは本体を密封型にできるため,キャニスタとキャスク間の空間の圧力監視が可能であり,密封性能の面からも非常に優れた容器である。4.3 キャニスタの耐食性

     従来型のコンクリートキャスクでは吸排気口から外部の空気が流入するため,大気中に含まれる腐食性の粒子(例えば,塩素イオンなど)がキャニスタの外表面に付着して腐食及びこれに伴う応力腐食割れを起こす可能性があった。そのために,二相系或いはスーパーステンレス鋼と呼ばれる耐腐食性に優れた高級なステンレス鋼を使用する必要があった。しかし,本コンクリートキャスクではその心配がないため,通常よく使用される炭素鋼でキャニスタを設計製造することが可能となり,キャニスタの低コスト化が可能となった。

    むすび=当社は大成建設㈱と共同で,100℃以上の高温でも中性子遮へいに有効な水分(水素)を保持可能な耐熱性コンクリート材料を新たに開発した。この材料を用いることにより,従来型では必要不可欠であった吸排気口をなくすことができ,これにより,金属キャスクと全

    10 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    注)金属キャスクでは蓋が二重構造になっており,1次蓋と 2次蓋の蓋間の空間圧力を監視することにより,密封機能が維持されていることを連続的に確認することができる。

    写真 2 1/3 スケールモデル試験体の外観������� Outer view of 1/3 scaled model

    写真 3 1/3 スケールモデル試験体の切断面������� Cross section of 1/3 scaled model

    Measured data

    232.352.5

    Sampling numberAverage density (g/cm3 )*

    Relative standard deviation (%)

    表 5 密度のばらつき��������Dispersion of concrete density

    Note *:Density data are measured at room temperature without     heated.

  • く同じ概念の安全性の高いコンクリートキャスクを設計製造することが可能となった。 今後は,本材料の実用化に向けて 1年間の長期加熱試験を実施するとともに,更なる遮へい性能向上に向けて高密度化及びコンクリート材料自体の除熱性能を上げるために高熱伝導化を図り,貯蔵用だけでなく輸送用キャスクについての検討も進めていく予定である。 参 考 文 献 1 ) 中澤正治ほか:コンクリートキャスク貯蔵方式を中心とした

    キャニスタ系使用済燃料中間貯蔵施設の安全設計・評価手法について(2002),�原子力安全研究協会.

    2 ) 岡村 甫ほか:コンクリート標準示方書[構造性能照査編](2002),p.29,�土木学会.

    3 ) 関口 晃ほか:再処理施設の放射線遮蔽安全ガイド資料,JAERI-M-86-060(1986),p.143.

    4 ) 岡村 甫ほか:コンクリート標準示方書[施工編](2002),p.46,�土木学会.

    5 ) JIS A 5308-1998 レディーミクストコンクリート .

    6 ) 金野正晴ほか:日本原子力学会 2002 年秋の大会予稿集,第Ⅰ分冊(2002),p.122.

    7 ) 小佐古敏荘ほか:核燃料施設遮蔽安全ガイド資料 実際編,JAERI-Tech-96-001(1996),p.92.

    8 ) 原子力発電所内の使用済燃料の乾式キャスク貯蔵について,原子力安全委員会(1992).

    9 ) A.G.Croff:ORIGEN2 - A Revised and Updated Version of Oak Ridge Isotope Generation and Depletion Code, ORNL-5621(1980).

    10) R.G.Soltesz:Revised WANAL ANISN Program User’s Manual, WANL-TMI-1967(1969).

    11) ORNL-RSIC, CASK-40 Group Coupled Neutron and Gamma-ray Cross-section Data, DLC-23(1973).

    12) ICRP, Conversion Coefficients for use in Radiological Protection against External Radiation, Publication 74(1995).

     

    11神戸製鋼技報/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

  • まえがき=使用済燃料の輸送貯蔵キャスク(図 1)には,燃料集合体が装荷されるバスケットと呼ばれる格子状の部品が必ず装備される。バスケットに要求される性能として,主に,①未臨界維持のための中性子吸収性能,②除熱のための熱伝導特性,③重量低減のための軽量性があげられる。ボロン添加アルミニウム合金は,上記の要求性能を満足し,ほかの材料と組合わせる必要がなく単純な構造のバスケットとすることができるため,使用済燃料の乾式キャスク用バスケット材として世界中で広く使用されている。 近年,溶解鋳造法以外の炭化ほう素とアルミ粉末を使用した粉末冶金的な製造方法による製品もあるが,粉末原料が高価であり,溶解鋳造法と比較して製造工程が多く加工費が高くなる問題がある。 当社は,独自の溶解鋳造法によりボロン添加アルミニウム合金の製造技術を開発した。真空溶解鋳造法では真空中で撹拌しながら高温で溶解するため,ボロン化合物が微細で均一なボロン分布である高品質の鋳塊が製造可能である。また,DC鋳造法においても,溶解温度を適切に管理すること,溶湯を適切に撹拌することで同様な鋳塊が製造可能であることを確認した。 アルミニウム合金中のボロン含有率は,増加するにしたがって溶解鋳造時の湯流れ性及び熱間圧延性などが低下するため,最大でも 4~ 5mass%に制限される。更に,強度部材として使用するためには,特に伸びが少なくなることから 1~ 2mass%程度に抑える必要がある。しかしながら,ボロン添加率が少ないとキャスクの未臨界維持に必要な中性子吸収材が不足することになる。そこで当社のボロン添加アルミニウム合金は,濃縮ボロン 注)を用いることにより,少ない添加率でもキャスクの未臨界維持のために必要な 10B 量を十分確保するとともに,構

    造材料としての機械的特性も満足させることができた 1)~3)。

    1.ボロン添加アルミニウム合金の製造方法

    1.1 アルミ合金中のボロン化合物

     ボロン添加アルミニウム合金に含まれるボロン化合物は,AlB2の形態で存在している。バスケット材料としての臨界制御機能のためには,この化合物ができる限り細かく均一に分散していることが望ましい。そのために,溶解鋳造条件を適切に制御することが必要である。写真1(a)は,溶解温度が約 700℃で通常の大気溶解法により製造した 1mass % B-A6061 鋳塊のミクロ組織であるが,溶湯の撹拌を適切に実施しなかったためにボロン化合物の凝集物が生成している。また,写真 1(b)は溶解温度約 950℃で大気溶解鋳造した同材料のミクロ組織であるが,巨大に成長したボロン化合物が認められた。これは,この付近の溶解温度では,Al-B 系平衡状態図より溶湯の Al とボロン化合物の共存領域にあり 4),溶湯保持中にボロン化合物の成長,粗大化が生じたためである。更に写真 1(b)に,巨大なボロン化合物についてB及びMg を EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)で分析した結果を示す。ボロン化合物中にMgが取込まれていることが確認された。Mgはアルミ合金の強度に大きく寄与する元素であるため,ボロン化合物中に取込まれることでアルミ合金マトリックス材中の含有量が低下することになるため強度低下の原因となる。以上のことから,

    12 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    ■原子力特集 FEATURE : Nuclear Engineering

    (論文)

    *エンジニアリングカンパニー エネルギー本部 高砂機器工場 **技術開発本部 材料研究所

    ボロン添加アルミニウム合金の製造技術 Borated Aluminum Alloy Manufacturing Technology

    Borated aluminum alloy is used as the basket material of cask because of its light weight, thermal conductivity and superior neutron absorbing abilities. Kobe Steel has developed a unique manufacturing process for borated aluminum alloy using a vacuum induction melting method. In this process, aluminum alloy is melted and agitated at higher temperatures than common aluminum alloy fabrication methods. It is then cast into a mold in a vacuum atmosphere. The result is a high quality aluminum alloy which has a uniform boron distribution and no impurities.

    下条 純*

    Jun Shimojo谷内廣明*(工博)Dr. Hiroaki Taniuchi

    梶原 桂**

    Katsura Kajihara有賀康博**

    Yasuhiro Aruga

    注)自然界に存在するボロンには,10B 及び 11B の同位体がそれぞれ約20at.%,80at.%の比率で存在している。このうち,10B が中性子の吸収性能に優れているが,11B は殆ど吸収しない。10Bの比率を人工的に高めたものを「濃縮ボロン」といい,原子力用途としてよく使用されている。

  • 臨界制御機能及び機械的特性の両面からボロン化合物の微細化が非常に重要である。1.2 ボロン添加アルミニウム合金の溶解温度

     溶解鋳造法によるボロン添加アルミニウムの製造方法には,大きく分けて 2つの方法に大別される。一つは,ボロン化合物を高温(約 1 000℃ 以上)で完全に溶解させる方法であり,十分な冷却速度で鋳造することで,ボ

    ロン化合物の微細化に極めて有効であり,特に,ボロン添加率が低い( 1~ 2mass %程度)場合に適用可能である。もう一つは,比較的低温(約 800℃程度)で溶解する方法であり,ボロン添加率が比較的高い場合(約 2mass%以上)に適用される。これは,ボロン添加量の増加に伴い,ボロン化合物の溶解温度は,更に高温化(1 300~ 1 500℃ 程度)していくが 4),鋳造温度が高温化すると,冷却中の晶出過程で化合物が粗大化しやすくなるためである。ただし,上述のように,低温溶解ではボロン化合物が凝集しやすいため,微細に均一分散させるためには溶湯での制御が重要となる。当社は,真空溶解鋳造法及びDC鋳造法を適用して,様々なボロン添加率のボロン添加アルミニウム合金の製造方法を確立した。

    2.低濃度ボロン添加アルミニウム合金

    2.1 真空溶解鋳造による製造方法

     真空溶解鋳造設備の概略図を図2に示す。真空溶解法の大きな特徴は,真空雰囲気で1 000℃以上の高温で溶解し,十分な冷却速度で鋳造することであり,これにより,ボロン化合物の微細化と均一分散が可能となる。本設備では,誘導加熱により所定の合金種に配合された母合金原料を溶解し,取鍋を経て鋳造される。使用される鋳型は,板材を製造する場合は扁平形状,押出材を製造する場合には円柱形状であり,共に,ボロン化合物の偏析が発生しないように冷却速度を大きくできるような形状と熱容量を有する大きさに最適設計されている。ほかの特徴として,製品の表面性状に悪影響を与える水素含有量を低く抑えることができる。また,本方法ではボロン化合物(万一,巨大化合物や凝集物が若干含まれていても)を完全に溶解するために,製造途中で発生するスクラッ

    13神戸製鋼技報/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    Mg <EPMA>

    B

    (a) Agglomeration of boron compounds (b) Giant boron compound

    100μm200μm

    Material bucket

    Vacuum pump

    Vacuum pump

    Casting room

    Melting roomVacuum induction furnace Handling

    container

    Casting mold

    写真 1 従来溶解プロセスによるボロン化合物

    ������� Coarse boron compounds in conventional melting process

    図 2 真空溶解鋳造設備������ Vacuum induction melting equipment

    Secondary lid

    Primary lid

    Upper trunnion

    Inner shell

    Basket

    Outer shell

    Neutron shielding

    Copper fin

    Pressure monitoring

    Lower trunnion

    図 1 使用済燃料輸送貯蔵キャスク������ Transport and storage cask for spent fuel

  • プ材を再利用することができる。2.2 実製品の試作

     実製品相当サイズで構造部材仕様の圧延材及び押出材の試作を,真空溶解鋳造法で製造した鋳塊を用いて実施した。板材の材質は 1mass%B-A6061-T651,押出材は1mass%B-A3004-H112 であり,これらの化学成分仕様を表 1に示す。板材は,鋳塊を均熱処理,鍛造,面削して10mm 厚さに圧延した後に T651 の熱処理を行った。押出材は鋳塊を均熱処理して12mmt×□170mmの断面形状に押出した後に引張矯正を行った。これらの試作品を写真 2に示す。これらのほかにも顧客の要求に合わせて,1000 系,3000 系,5000 系及び 6000 系など様々な合金種の製品を製造可能である。 2.3 ボロン化合物のミクロ組織

     写真 3に真空溶解鋳造法で製造した 1mass%B-A3004材(押出材)のミクロ写真を示す。ボロン化合物(AlB2)は微細に分散している。2.4 ボロン化合物のマクロ分布

     マクロ的なボロン化合物の分散性を確認するために,真空溶解鋳造からの試作材を用いて様々な箇所から採取

    し,ボロンを化学分析した。図 3(a)は 1mass%B-A6061の圧延材,(b)は 1mass%B-A3004 の押出材についてサンプリングの位置とボロン含有率を調べた結果である。マクロ的なボロン分布を確認した上記の試験結果から,ほぼねらいどおり均一にボロン化合物が分散している。2.5 機械的特性

     本項では,真空溶解鋳塊から製造した 1mass%B-A6061-T651 圧延材及び 1mass%B-A3004-H112 押出材

    14 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    写真 2 ボロン添加アルミニウム合金の試作品������� Trial product of borated aluminum alloy

    表 1 構造材用ボロン添加アルミニウム合金の化学組成(mass%)

    ��������Chemical composition of structural borated aluminum(mass%)

    図 3 ボロン含有率のマクロ分布������ Macroscopic distribution of boron content

    Alloy B Si Fe Cu Mn Mg Zn Cr Ti

    1mass%B- A6061

    0.6 ~1.1

    0.6 ~1.3

    0.40 ~0.80

    <0.30

    <0.70

    <0.7

    0.15 ~0.40

    <0.25

    <0.15

    1.0 ~1.5

    0.8 ~1.2

    0.8 ~1.3

    <0.25

    <0.25

    0.04 ~0.35

    <0.15

    ― 1mass%B- A3004

    Side

    Center

    Head (top of ingot)

    Head (top of ingot)

    Tolerance

    Center

    Center

    Side

    Side

    Result of chemical analysis (B)

    0.6~1.1mass% 0.76~0.91mass% (15 positions)

    Tail (bottom of ingot)

    Tail (bottom of ingot)

    thickness=10mm, width=900mm, length=30 000mm(1 ingot)

    thickness=12mm, □=170mm, length=26 000mm(1 ingot)

    (a) 1mass%B-A6061 rolled plate

    ToleranceResult of chemical analysis (B)

    0.6~1.3mass% 0.82~1.03mass% (10 positions)

    (b) 1mass%B-A3004 extruded pipe(b) 1mass%B-A3004 extruded pipe

    (a) 1mass%B-A6061 rolled plate

    100μm

    写真 3 真空溶解鋳造 1mass%B-A3004 押出材のミクロ組織������� Microstructure of 1mass%B-A3004 extruded material

    made by VIM process

  • (2.2 項記載)についてその機械特性を評価した。ここで,これらのマトリックス材の合金種が選択されている理由は,A6061 材は熱処理することにより高強度部材として一般的に良く使用されている材料であり,また,A3004材は押出成形性に優れ,機械強度及び耐食性に優れているためである。

    2.5.1 機械的特性

     表 2に上記材料の引張強さ,0.2%耐力及び伸びを示す。また,図 4及び図 5にボロンが添加されていない通常材料との比較を示す 5)。両材料共にボロン入りの材料は若干伸びの低下が見られるが,十分な延性を有している。また,引張強さ及び 0.2%耐力についても,通常の

    15神戸製鋼技報/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    図4 1mass%B-A6061-T651材とA6061-T6材の高温引張強度特性の比較

    ������ Comparison of tensile properties at high temperatures of 1mass%B-A6061-T651 and A6061-T6

    表 2 ボロン添加アルミニウム合金の機械的強度��������Typical mechanical properties of structural

    borated aluminum alloy

    Alloy Condition Product form

    At room temperature □ Tensile strength □ 0.2%Proof strength □ Elongation

    338 MPa 303 MPa 13%

    (approximately)

    187 MPa 85 MPa 23%

    (approximately)At 473K □ Tensile strength □ 0.2%Proof strength □ Elongation

    Tensile direction :(Plate) Transverse direction of the rolling direction :(Pipe) Longitudinal direction of the extruding direction

    237 MPa 218 MPa 13%

    (approximately)

    114 MPa 79 MPa 40%

    (approximately)

    Borated A6061 T651

    Rolled plate

    Borated A3004 H112

    Extruded pipe

    350

    300

    250

    200

    150

    100

    50

    0300 350 400 450 500 550 600 650250

    Temperature (K)(a) Tensile strength

    Tensile strength (MPa)

    Borated A6061-T651A6061-T6

    350

    300

    250

    200

    150

    100

    50

    0300 350 400 450 500 550 600 650250

    Temperature (K)(b) 0.2%Proof strength

    0.2% Proof strength (MPa)

    Borated A6061-T651A6061-T6

    30

    25

    20

    15

    10

    5

    0300 350 400 450 500 550 600 650250

    Temperature (K)(c) Elongation

    Elongation (%)

    Borated A6061-T651A6061-T6

    200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0

    140

    120

    100

    80

    60

    40

    20

    0

    120

    100

    80

    60

    40

    20

    0

    300 350 400 450 500 550 600 650250Temperature (K)(a) Tensile strength

    300 350 400 450 500 550 600 650250

    Temperature (K)(c) Elongation

    300 350 400 450 500 550 600 650250Temperature (K)

    (b) 0.2% Proof strength

    Tensile strength (MPa)

    0.2% Proof strength (MPa)

    Elongation (%)

    Borated A3004A3004

    Borated A3004A3004

    Borated A3004A3004

    図 5 1%B-A3004-H112材とA3004-H112材の高温引張強度特性の比較

    ������ Comparison of tensile properties at high temperatures of 1%B-A3004-H112 and A3004-H112

  • アルミ合金とほぼ同じである。2.5.2 クリープ特性

     上記材料について,100~300℃及び 10 ~ 98MPaでクリープ試験を実施した。その結果を図6に示す。同図の中にボロンを添加していない同じ合金種の材料のデータを記載した 5)。この結果から,これらアルミニウム合金材料については,1mass %のボロンの有無によるクリープ特性の違いがないことが確認できた。 一般に析出硬化型のアルミニウム合金は,初期強度は高いが,高温環境下で使用される場合には過時効の効果により強度低下が生じる。そのため,キャスクのバスケット材としてこの材料を使用する場合には使用期間中の強度低下を考慮して設計することが重要であり,この点に関して,その強度低下が予測可能であることが報告されている 6)。

    3.高濃度ボロン添加アルミニウム合金

    3.1 大気溶解及びDC鋳造による製造方法

     真空溶解鋳造法を用いて最大 4~ 5mass%程度までのボロン添加アルミニウム合金の製造を実施しているが,高濃度のボロン添加アルミニウム合金を製造する場合,1.2 項で述べたようにボロン化合物を完全に溶解することが難しいので,この製造法のメリットを余り生かすことができない。逆にボロン化合物が粗大化しないよう

    に溶湯温度を精緻に制御する必要があり,この場合の溶解温度は通常のアルミニウム合金とほぼ同じであり,大気中の溶解も適用可能となる。一方,鋳造方法としては,DC鋳造法の方が鋳型を使用する場合より鋳造時の冷却速度を速くできるので,ボロン化合物のマクロ的な偏析防止に非常に有効である。 ただし,既述のとおり,高濃度のボロン添加アルミニウム合金を低温で溶解する場合,ボロン化合物の粗大化を抑制するための溶湯温度の制御,及び凝集と偏析を防止するための溶湯撹拌制御が重要となる。 今回,DC 鋳造試験を実施し,溶湯撹拌,溶解温度,鋳造速度(冷却速度)を適切に制御することにより,ボロン化合物の凝集がなく,均一分散が得られることを確認した。3.2 ボロン化合物のミクロ組織及びマクロ分布

     大気溶解DC鋳造法により2mass%B-A6351のφ339mm円筒鋳塊を試作した。そのミクロ写真を写真 4に示す。また,同材料から縦方向にスライスサンプルを切出し,中性子ラジオグラフィ写真を撮影した。その結果を写真 5に示す。ボロン(10B)は中性子を吸収することから,写真の濃淡によりその分布を確認することができる。これらの結果から,ボロン化合物のミクロ組織及びマクロ分布に問題ないことが確認できた。

    16 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    0.1mm

    1 000

    1 000

    100

    10

    1

    100

    10

    1

    8 9 10 11 12 13

    473K, 100 000h

    473K, 100 000h

    14

    8 9 10 11 12 13 14

    Larson-Miller parameter (P=T(20+log t)×103)

    Larson-Miller Parameter (P=T(20+log t)×103)

    A6061-T6Borated A6061-T651

    Rupture stress(MPa)

    Rupture stress(MPa)

    (a) Comparison 1mass%B-A6061-T651 and A6061-T6

    (b) Comparison of 1%B-A3004-H112 and A3004-H112

    A3004-H112Borated A3004-H112

    図 6 Larson-Miller パラメータとクリープ破断応力������ Larson-Miller parameter on creep rupture stress properties

    写真 4 DC 鋳造 2mass%B-A6351 鋳塊のミクロ組織������� Microstructure of 2mass%B-A6351 ingot made by DC

    process

    5cm

    写真 5 2mass%-A6351 DC 鋳塊の中性子ラジオグラフィ写真������� Neutron radiography of 2mass%-A6351 ingot made by DC

    process

  • むすび=当社は,真空溶解鋳造及び大気溶解DC鋳造により独自のボロン添加アルミニウム合金の製造技術を開発した。1mass%ボロン添加アルミニウム合金を約1 000℃の高温で真空溶解鋳造することで,ボロン化合物の微細化及び均一分散が可能であり,これにより機械的特性が通常のアルミニウム合金と同等であることを確認した。また,比較的高濃度のボロン添加アルミニウム合金には大気溶解によるDC鋳造法が適用可能であることを確認した。 当社は,原材料である濃縮ボロンの製造からボロン添加アルミニウム合金の板材並びに押出材,及び最終製品であるバスケットの製造まで,一貫した製造体制を確立しており,今後これら材料をキャスクのバスケット材に適用していく予定である。 最後に,本開発を進めるに当たりご協力頂いた日本高周波鋼業㈱及び福岡アルミ工業㈱の関係者の方々に対して深く感謝致します。 

    参 考 文 献 1 ) J. Shimojo et al.: Proceedings of 13th International Symposium on

    the Packaging and Transportation of Radioactive Material (PATRAM)(2001).

    2 ) K. Kajihara et al.: Proceedings of 10TH International Conference on Nuclear Engineering(ICONE10)(2002).

    3 ) 有賀康博ほか:日本原子力学会 2002 年春の年会要旨集,第Ⅱ分冊(2002),p.300.

    4 ) M. Hansen et al.:CONSTITUTION OF BINARY ALLOYS (1991),p.71.

    5 ) J. Gilbert Kaufman:Properties of Aluminum Alloys, Tensile, Creep and Fatigue Data at High and Low Temperatures, The Aluminum Association and ASM International(1999).

    6 ) 長尾 護ほか:日本原子力学会誌,Vol.39,No.3(1997),p.237. 

    17神戸製鋼技報/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

  • まえがき=原子力発電所では,エネルギの有効利用の観点から燃料の高燃焼度化が進んでおり,これに伴い原子力発電所での燃焼を終えた使用済燃料の中性子源強度や発熱量が高くなる傾向にある。 一方,これらの使用済燃料は,我国の場合原子力発電所内のプール貯蔵施設で一定期間保管,冷却された後,現在青森県に建設中の使用済燃料再処理施設や貯蔵施設に輸送されるが,この使用済燃料の輸送や貯蔵に使用される輸送キャスクと貯蔵キャスクには,経済性とリスク低減の観点から,収納効率が高くコンパクトな設計が要求される。使用済燃料の高燃焼度化に伴う中性子線源強度の増加は,輸送キャスクや貯蔵キャスクの遮へいの増強,また発熱量の増加は構成材料の高温化をもたらす。このため,輸送キャスク及び貯蔵キャスクの収納効率を高め,コンパクトな設計とするには,中性子遮へい材の遮へい性能及び耐熱性能の高性能化が望まれている。 このような背景を踏まえ,従来のキャスク用中性子遮へい材に比べて中性子遮へい性能に優れ,耐熱性の高い高性能中性子遮へい材として kobesh を開発した。

    1.kobesh のラインアップ

     kobesh は,主原料の種類から Silicone rubber base タイプ,Polypropylene base タイプ,Ethylene propylene rubber baseタイプ及びTitanium hydride baseタイプの4種類に大別される。表 1に kobesh のラインアップ,写真 1にkobesh の外観写真を示す。1.1 Silicone rubber base kobesh

     新たに開発した室温硬化タイプのシリコーンゴムに,水酸化アルミニウムや水素化チタンを配合した中性子遮へい材である。シリコーンゴムは硬化する前には優れた流動性があり,複雑な部位に容易に鋳込むことができるとともに,あらかじめ型枠に鋳込み成型して輸送キャスク及び貯蔵キャスクの所定の位置に組込むことが可能である。 また,シリコーンゴム中に水素化チタン及び水酸化アルミニウムを配合することで,高い水素含有量を確保している。従来のシリコーンゴムは水素含有量が 4.0~4.5× 1022atoms/cm3程度であったが,本中性子遮へい材料は,水素含有量を 5.5×1022atoms/cm3程度まで高めるこ

    18 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    ■原子力特集 FEATURE : Nuclear Engineering

    *エンジニアリングカンパニー エネルギー本部 高砂機器工場

    高性能中性子遮へい体kobesh �

    Kobe Steel's Highly Effective kobesh � Neutron Shield

    Recently, the management, transport and storage of spent fuels from the nuclear power reactors has become more and more important. A highly effective neutron shield called kobesh has been developed by Kobe Steel to improve safety and the overall economic management of spent fuel transport and management. This paper explains the technical characteristics of kobesh .

    (技術資料)

    赤松博史*

    Hiroshi Akamatsu谷内廣明*(工博)Dr. Hiroaki Taniuchi

    萬谷健一*

    Kenichi Mantani

    表 1 kobesh のラインアップ

    ��������kobesh lineup

    Hydrogen titanium base

    Ethylene propylenerubber basePolypropylene baseSilicone rubber baseType

    TH-OEP-REP-OPP-RPP-OSR-TSR-OSeries

    2.6~3.71.1~1.41.05~0.9~1.30.9~1.4~1.91.4~Density (g/cm3)

    8.9×10226.4×10226.1×10227.6×10227.7×10225.5×10225.0×1022H-Content(max. atoms/cm3)

    VariableVariableVariableVariableVariableVariableVariableB-Content

    300150150120120170170Thermal stability for long use (℃)

    Pre-shapedPre-shapedPre-shapedPre-shapedPre-shapedPouringpre-shapedPouringpre-shaped

    Fabricationmethod

    Used in fire protecting cover

    Used in fire protecting cover

    Remarks

  • とができ,従来材に比べ優れた中性子遮へい性能を確保している。また,水酸化アルミニウムを配合することにより,火災にさらされた場合の自己消火性も高まっている。 本中性子遮へい材料は,優れた耐熱性,耐火性,広い温度範囲での機械的性質の安定性を有する。 また,炭化ほう素を添加することで,中性子遮へい材が中性子を遮へいする際に(n, γ)反応で放出される二次ガンマ線を低減している。1.2 Polypropylene base kobesh

     本中性子遮へい材の主な原料は,耐熱性ポリプロピレンである。ほかの kobesh に比べ耐熱性で若干劣るものの,ポリプロピレンはポリマ自体に水素を多く含有しており,本中性子遮へい材も 7.7×1022atoms/cm3という高い水素含有量となっている。 また,ポリプロピレンは,その密度が 0.9g/cm3程度で非常に軽く,輸送キャスク及び貯蔵キャスクの軽量化に有効である。 Silicone rubber base kobesh と同様に,炭化ほう素あるいは窒化ほう素を添加することで,中性子遮へい材が中性子を遮へいする際に(n, γ)反応で放出される二次ガンマ線を低減している。1.3 Ethylene propylene rubber base kobesh

     本中性子遮へい材の主な原料は,水素含有量が高く,耐熱性や機械的性質に優れたエチレンプロピレンゴムである。エチレンプロピレンゴムベースの kobesh は,水素含有量が最大で 6.7×1022atoms/cm3まで添加することが可能である。 本材料についてもSilicone rubber base kobesh と同様に,炭化ほう素あるいは窒化ほう素を添加することで中性子遮へい材が中性子を遮へいする際に(n, γ)反応で放出される二次ガンマ線を低減しており,難燃剤を配合することで耐火性を確保している。1.4 Titanium hydride base kobesh

     本中性子遮へい材の主な原料は,水素含有量が高く,熱的安定性に優れた水素化チタンの粉末である。本中性子遮へい材はこの粉末を高温でプレスすることにより,水素含有量を 8.9×1022atoms/cm3まで高めることが可能である。

    2.kobesh の特徴

     輸送キャスク及び貯蔵キャスクには,内部に収納する

    使用済燃料から放出される中性子を適切に遮へいするために,中性子遮へい材を配置する必要がある。図 1に貯蔵キャスクの構造を示す。堅固な鍛造炭素鋼で密封容器を構成し,その周囲に中性子遮へい材を配置する構造である。 また,使用済燃料の発熱により中性子遮へい材部の温度が 100~150℃ 程度に上昇するため,この温度に耐える必要がある。特に貯蔵キャスクの場合には,数十年間上記程度の温度環境に中性子遮へい材がさらされるため,通常の高分子材料では劣化が進むという問題点がある。 kobesh は輸送キャスク及び貯蔵キャスクの中性子遮へい材として,非常に優れた特徴をもつばかりでなく,輸送キャスク及び貯蔵キャスク用の用途以外にも,原子力発電所や再処理施設での中性子線環境における中性子遮へい材料として優れた特徴を備えた材料として当社が開発したものである。

    19神戸製鋼技報/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    Secondary lid

    Primary lid

    Trunnion

    Shell

    Basket

    Outer shell

    Cu fin

    Monitoring equipment

    Trunnion

    Neutron shield (    )kobesh

    図 1 TK 型輸送貯蔵キャスク������ TK type transport/storage cask

    写真 1 kobesh������� kobesh

    SR series kobesh PP series and EP series kobesh TH-O series kobesh

  • 2.1 優れた中性子遮へい性能

     すべての kobesh は,中性子線の遮へい効率を高めるために,従来の中性子遮へい材に比べ水素含有量を高めており,また中性子が遮へいされる際に放出される二次

    ガンマ線を低減するためにほう素を効率的に配合している。これにより,輸送キャスク,貯蔵キャスクの使用済燃料の収納効率が向上する。 kobesh の開発にあたっては,材料単体での遮へい性能試験,輸送キャスク及び貯蔵キャスクの遮へい体系を模擬して鋼板と組合わせた状態での遮へい性能試験を実施し,中性子遮へい性能を確認している。 これらの試験の概要を図 2 1)及び図 3 1),試験結果を図 4 1)及び図 5 1)に示す。図 4は,図 2に示す方法で材料そのものの遮へい性能を確認した試験の結果であり,4種類の kobesh それぞれの単体の中性子線に対する遮へい性能に関するデータを取得したものである。図 4に示すように,4種類の kobesh ともに一般的な中性子遮へい材である水よりも優れた遮へい性能を有し,試験結果と解析結果も非常に良く一致している。図 5は,図 3に示す方法で鋼とともに使用される実機と同じ体系で遮へい性能を確認した試験の結果であり,これらのデータから,実機の遮へい体系での高精度な解析が可能となった。2.2 高温環境での長期間の耐熱性

     すべての kobesh は,輸送キャスク及び貯蔵キャスクに収納する使用済燃料の発熱による高温環境に耐えるように開発している。また,貯蔵キャスクに使用する場合には,数十年間にわたり常に高温環境にさらされるため,

    20 KOBE STEEL ENGINEERING REPORTS/Vol. 53 No. 3(Dec. 2003)

    ~12 12.5

    105.0

    Neutron shields 50×50

    252Cf source (37MBq) (point source)

    Rem-counter

    Effective detector point (Surface detector {20.0 in diam.})

    (unit : cm)

    図 2 中性子遮へい性能試験(材料単体)������ Shielding performance test (shielding material only)

    235

    200 640

    650

    Iron plate 550

    YAYOI reactor Fast columnNeutron beam

    Neutrack TS-16N

    1 250

    Neutron shield sample plates

    610 600 (Unit : mm)

    図 3 中性子遮へい性能試験(輸送キャスク,貯蔵キャスクの体系)������ Shielding performance test (transport/storage cask shielding

    structure)

    Exp. Cal.EPR SR

    100

    10

    10

    10 5 10

    Neutron dose rate (μSv/h)

    (b)

    (a)

    Thickness of neutron shield (cm)

    Water EPR SR PP TiH2

    図 4 中性子遮へい性能試験結果(材料単体)������ Shielding performance test result (shielding material only)

    0 5Thickness of neutron shield (cm)

    Neutron dose rate (mSv/h/W)

    10 15

    100

    10-1

    10-2

    10-3

    EPR SR TiH2

    図 5 中性子遮へい性能試験結果(輸送キャスク,貯蔵キャスクの体系)

    ������ Shielding performance test result (transport/storage cask shielding structure)

  • 1 年間にわたる高温保持試験により,材料の遮へい性能の劣化を評価し,許容温度を設定している。試験結果を図 6 2)に示す。 この試験結果から,以下に示すアレニウス則 3)による外挿評価を行い,使用期間での重量減損などの材料の劣化を予測し,中性子遮へい材としての長期間の使用制限温度を設定している。 ln(�)=�+�/�� ………………………………………(1) ここで, ��:使用期間 �:定数 �:活性化エネルギ(J/mol) �:ガス定数(J/mol/K) �:温度(K) 評価例を図 7に示す。この結果より,輸送キャスクとして年間 150 日間輸送し,20 年程度の使用を考えた場合,Silicone rubb