文理選択と大学入試kawaijuku guideline 2013.11 3 特集...

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2 Kawaijuku Guideline 2013.11 生徒が文系・理系を選択したり、文系・理系によっ てホームクラスを分けたクラス編成(文理分け)を行 うことは、日本の高校では一般的なことになっている。 今回実施したアンケートでも約8割の高校で文理分 けが行われていた。 高校では、当たり前になっている生徒の文理選択、 高校での文理分けだが、一方で、大学では学問の学 際化や、文系・理系にかかわらず幅広い知識や視野 を持ち、課題発見・課題解決ができるような人材の 育成をめざしている。 主に大学入試に起因した高校生の文理選択。今回 は、高校の先生の立場、生徒の立場からのアンケー トを中心に、文理選択・文理分けをめぐる問題につ いて考えてみたい。 CONTENTS 文理選択大学入試 特集 ………………………………………………………………………………………… p3 ………………………………………………………………………………… p7 ………………………………………………………………………………… p12 …………………………………………………………………………………………… p17 文理選択の現状と課題 -国立教育政策研究所「中学校・高等学校における理系進路選択に関する研究」より 大学志願者割合の高い高校の方が、教科を「好き」「将来重要」と回答する率が高い傾向 高1より高3で、数学を「将来重要」と回答する生徒の割合が低下 高2より高3で文理コース分けを行う高校の生徒の方が、教科に関する好感度・重視度が高い 教科を「好き」「将来重要」と回答する割合の高い高校では、「汎用的な力をはぐくむ取り組み」「きめ細かいわ かる授業に向けての取り組み」「学ぶ意義を実感できる体験を重視した取り組み」の3つの教育活動が共通 高校の先生から見た文理選択 高校の先生へのアンケート結果より 文理分けを行っている高校が8割、「文理分けをした方がよい」と考える先生も8割 高校の先生へのインタビュー1ーーー 愛知県立西尾高等学校 江﨑 寛先生 高校の先生へのインタビュー2ーーー 東京都立国立高等学校 佐々木 昭一先生 コラム:生徒への文理選択のアドバイス 生徒・学生から見た文理選択 大学1年生へのアンケートより 約8割の生徒が高1までに文理選択を決定 文系生は「数学が苦手」「文系の学問や職業に興味」という理由で選択 理系生は「数学や理科が好き」「理系の学問や職業に興味」という理由で選択   大学3年生以上へのアンケートより 文理分けに賛成は5割、特に教員養成系、法・政治系、工学系、理学系などで文理分けを支持 文理選択と大学入試 筑波大学 金子元久教授 推薦・AO入試による入学者が半数近い現状や基礎的・汎用的能力育成の必要性を考えると、幅広い学習が重要に

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Page 1: 文理選択と大学入試Kawaijuku Guideline 2013.11 3 特集 東アジアの理科の大学入試問題分析 特集 文理選択と大学入試 文理選択の現状と課題 ー国立教育政策研究所「中学校・高等学校における理系進路選択に関する研究」より

2 Kawaijuku Guideline 2013.11

 

 生徒が文系・理系を選択したり、文系・理系によってホームクラスを分けたクラス編成(文理分け)を行うことは、日本の高校では一般的なことになっている。今回実施したアンケートでも約8割の高校で文理分けが行われていた。 高校では、当たり前になっている生徒の文理選択、高校での文理分けだが、一方で、大学では学問の学

際化や、文系・理系にかかわらず幅広い知識や視野を持ち、課題発見・課題解決ができるような人材の育成をめざしている。 主に大学入試に起因した高校生の文理選択。今回は、高校の先生の立場、生徒の立場からのアンケートを中心に、文理選択・文理分けをめぐる問題について考えてみたい。

 CONTENTS

文理選択と大学入試特集

………………………………………………………………………………………… p3

………………………………………………………………………………… p7

………………………………………………………………………………… p12

…………………………………………………………………………………………… p17

文理選択の現状と課題-国立教育政策研究所「中学校・高等学校における理系進路選択に関する研究」より

▶大学志願者割合の高い高校の方が、教科を「好き」「将来重要」と回答する率が高い傾向▶高1より高3で、数学を「将来重要」と回答する生徒の割合が低下▶高2より高3で文理コース分けを行う高校の生徒の方が、教科に関する好感度・重視度が高い▶教科を「好き」「将来重要」と回答する割合の高い高校では、「汎用的な力をはぐくむ取り組み」「きめ細かいわ

かる授業に向けての取り組み」「学ぶ意義を実感できる体験を重視した取り組み」の3つの教育活動が共通

高校の先生から見た文理選択高校の先生へのアンケート結果より

▶文理分けを行っている高校が8割、「文理分けをした方がよい」と考える先生も8割

高校の先生へのインタビュー1ーーー 愛知県立西尾高等学校 江﨑 寛先生高校の先生へのインタビュー2ーーー 東京都立国立高等学校 佐々木 昭一先生

コラム:生徒への文理選択のアドバイス

生徒・学生から見た文理選択大学1年生へのアンケートより

▶約8割の生徒が高1までに文理選択を決定▶文系生は「数学が苦手」「文系の学問や職業に興味」という理由で選択▶理系生は「数学や理科が好き」「理系の学問や職業に興味」という理由で選択  

大学3年生以上へのアンケートより▶文理分けに賛成は5割、特に教員養成系、法・政治系、工学系、理学系などで文理分けを支持

文理選択と大学入試筑波大学 金子元久教授

推薦・AO入試による入学者が半数近い現状や基礎的・汎用的能力育成の必要性を考えると、幅広い学習が重要に

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Kawaijuku Guideline 2013.11 3

特集 東アジアの理科の大学入試問題分析特集 文理選択と大学入試

文理選択の現状と課題ー国立教育政策研究所「中学校・高等学校における理系進路選択に関する研究」より

 「中学校・高等学校における理系進路選択に関する研究」では、全国の中学校 485 校、高等学校 488 校の学校と生徒を対象として、質問紙による意識調査が実施された。さらに、生徒に対する意識調査において、文系でも数学や理科の学習が「好き」「将来重要」と回答した生徒の多い学校を、パイロット調査校として3校、本調査として中学校6校、高校9校、教育センター1カ所に依頼し、具体的な教育活動内容についての学校訪問調査が実施された。なお、全国規模の意識調査は 2011 年9月に実施し、学校訪問調査は 2012 〜 2013 年にかけて実施された。 意識調査は、生徒が各教科の学習にどの程度好感を持ち、進路選択や文理選択においてどの程度重視しているのかなど、実態を把握し、理系文系の進路選択に関わる課題を明らかにすることを目的としたものである。学校訪問調査は、よりよい進路選択のためには学習に対する高い意欲や態度が必要であるとの仮定のもと、生徒の意欲や態度向上につながると考えられる優れた教育活動を抽出することを目的としたものである。さらに、調査結果の追加分析を行い、高校での文理選択の時期をはじめ、どのような要因が生徒の教科に対する好感度や重視度に影響を与えているかを探った。

 意識調査はさまざまな角度から分析されているが、ここでは高校を大学進学志願者割合別の結果を中心に見て行く。高校を大学志願者の割合ごとに、大学志願3割未満、3割以上6割未満、6割以上9割未満、9割以上の

 国立教育政策研究所では、2011年から「中学校・高等学校における理系進路選択に関する研究」を行い、2013年3月に最終報告書をまとめた。この調査に関して、教科の好感度・重視度、それと文理選択の時期との関係、生徒が教科に好感を持ち重視し続けるようになるための教育活動について、教育課程研究センター基礎研究部の後藤顕一統括研究官と、教育政策・評価研究部の宮﨑悟主任研究官にお話を伺った。

将来重要と考える度合いと教科の好き・嫌いと進路選択の関連を調査

4つの区分で分析している。 全体的な傾向として、大学志願者割合が高い高校の生徒の方が教科を「大好き」「好き」と回答する率が高い。例えば、「地理・歴史」「公民」「数学」「外国語」については、大学志願者割合の高い高校の生徒ほど「大好き」

「好き」と回答している。理科の「物理」「化学」は、大学志願9割以上の高校で、「大好き」「好き」と回答している生徒の割合がやや高い。 また、各教科が将来生きて行く上で重要な学習かについて、「とても重要」「重要」と意識している生徒の割合も、大学志願者割合の高い高校の生徒ほど、高い傾向を示している。特にその傾向が顕著な教科は「公民」「外国語」「情報技術」である。「物理」「化学」「生物」については、大学志願9割以上の高校でやや高い。

 このような結果の中から、後藤総括研究官が特に注目するのは、「数学」に対する意識調査だ<図表1>。どの区分の生徒も、数学について高校1年生より3年生の方が「将来重要」と回答する生徒の割合が低くなっている。特に、大学志願3割以上6割未満、6割以上9割未満の高校でこの傾向が顕著であった。 高校で身に付けておくべき汎用的能力の1つとして、知識の基盤となる緻密な論理構成能力を育成することが大切である。言語的な論理構成能力の育成の中心となる教科は国語であるが、記号・数量的な論理構成能力の中心は数学である。この点を考えると「将来重要」と回答する割合が高校3年生の方で低いことは問題であろう。 「要因はいろいろ考えられますが、これらの高校では、問題演習など大学受験に対応するための学習中心の授業となってしまい、数学が本来持っている大切な要素を勉強できずに、苦手意識が高まってしまうのではないかと

大学志願者割合の高い高校の方が教科の「好き」「将来重要」と回答する率が高い

高1より高3で 数学の重視度が低下

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4 Kawaijuku Guideline 2013.11

推察されます」(後藤総括研究官) ただし、後藤総括研究官は、意識調査では生徒の「好き・嫌い」や「重要かどうか」といった質問項目であったため、なぜ「好き」なのか、なぜ「重要」だと思うのか、といった答えた理由や要因等を明らかにできなかったことが今後の課題であると考えている。

 意識調査の追加分析を担当した宮﨑主任研究官が注目したのが、高校の文理選択によるコース分け時期と教科

への好感度や重視度との関連である。なお、追加分析では、高校を大学志願6割未満の進路多様校と6割以上の進学校との2つの区分に分けて分析している。 文理選択によるコース分けを、全く行わない高校、2年生の春に行う高校、3年生の春に行う高校などがあるが、現在、普通科高校の多くが1年生の 10 月から 12 月頃にコース選択をさせて2年生春にコース分けを行っている<図表2>。 <図表3>は、普通科高校の全生徒、理系コース所属生徒、文系コース所属生徒別に、国語、地理・歴史、公民(政治・経済、現代社会)、数学、物理、化学、生物、地学、外国語という各教科に対する好感度と重視度を、

<図表1>高校生の「数学」に対する意識調査

高2より高3で文理コース分けを行う高校の生徒の方が、教科に対する好感度・重視度が高い

<図表2>理系・文系コース選択時期とコース分け時期(N=488)

250

200

150

100

50

02 23 2 0 0 0 0 0 0 0 0

10 901 01 02 0 00 00 0 00 02 01021

16

4257

432711 7 3 304 51 21

18910

162

65

224

無回答

理文コース分けなし

時期不明

3年生5月以降

3年生4月

2年生3月

2年生2月

2年生1月

2年生12月

2年生11月

2年生10月

2年生9月

2年生8月

2年生7月

2年生6月

2年生5月

2年生4月

1年生3月

1年生2月

1年生1月

1年生12月

1年生11月

1年生10月

1年生9月

1年生8月

1年生7月

1年生6月

1年生5月

1年生4月

(校)

○学年が上がるに従って、「重要だと思う」生徒の割合が減少する状況がある。○中堅層の学校の生徒は、進学率が9割以上、3割未満の学校の生徒に比べて低い。○進学率が3割未満の学校の生徒は、「重要だと思う」生徒の割合が学年が上がっても減らない。

高校1年生 あなたが将来生きていく上で重要な学習 数学 N=33,071 高校3年生 あなたが将来生きていく上で重要な学習 数学 N=33,127

大学志願3割未満の学校に通う高校1年生

大学志願6割未満3割以上の学校に通う高校1年生

大学志願9割未満6割以上の学校に通う高校1年生

大学志願9割以上の学校に通う高校1年生

大学志願3割未満の学校に通う高校3年生

大学志願6割未満3割以上の学校に通う高校3年生

大学志願9割未満6割以上の学校に通う高校3年生

大学志願9割以上の学校に通う高校3年生

■とても重要だ ■重要だ ■あまり重要ではない ■まったく重要でない ■無回答など ■とても重要だ ■重要だ ■あまり重要ではない ■まったく重要でない ■無回答など

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特集 東アジアの理科の大学入試問題分析特集 文理選択と大学入試

文理コース分け時期が2年生春の高校生と3年生春の高校生とで比較し、統計学的に有意な差が出た箇所に色をつけたものである。 その結果、3年生からコース分けをする方が、全般的に教科に対する好感度や重視度が高くなる傾向が見られた。特に、理系コース所属者や進学校の生徒、教科では理系教科において、この傾向が顕著となった。 つまり、文理選択を遅い時期に行う方が、生徒が教科に対する好感を持ち、教科の重要性を認識しながら高校生活を送ることにつながることを示唆している。 宮﨑主任研究官はこの理由を「教科・科目を学ぶ機会がなければ、教科・科目への関心も持てず、面白さや楽しさもわかりません。早く文理選択をすることにより、選択しなかった教科・科目に全く触れなくなってしまうのと、好きでなかったり苦手であったりしても触れ続けるのとでは、興味の持ち方が違うのではないでしょうか」と推測する。 そして後藤総括研究官は「文理コース分けを3年春に実施している高校にヒアリングしたところ、保護者からの要望もあるが、大学進学後や就職後に必要な知識や教養を身に付けるという長期的な視点に立って3年春から

の文理選択によるコース分けとしている、という回答がほとんどでした。高校としての考え方・姿勢が文理コース分けを何年生からするかに反映されているようです」と言う。

 今回の調査では、意識調査だけではなく、教科を「好き」「将来重要」と回答する割合の高い高校ではどのような教育活動を行っているかを明らかにするために全国訪問調査を行った。その結果からは、「汎用的な力をはぐくむ取り組み」「きめの細かいわかる授業に向けての取り組み」「学ぶ意義を実感できるような体験を重視した取り組み」の3つが、各校に共通する教育活動として浮かび上がった。 「『汎用的な力をはぐくむ取り組み』とは、授業中、教師と生徒、あるいは生徒同士が対話をし、言葉を紡ぎながら知を構成していくような授業、添削指導が充実しており教師が生徒一人ひとりに応じた的確なコメントをつけて返却していること、弁論大会のような言語的な論理

<図表3>理文コース分け時期による教科好感度・重視度の比較(教科・科目別での平均値検定)

教科を好きで重要と回答する割合の高い高校に共通する3つの教育活動

*図表1〜3は、国立教育政策研究所プロジェクト研究「理系文系進路選択」報告会資料より

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6 Kawaijuku Guideline 2013.11

構成力が求められる行事の実施といったことです。 『きめの細かいわかる授業に向けての取り組み』とは、生徒の主体的な学習を大切にすると同時に、他者を認める雰囲気や授業についていけない生徒に対する配慮、失敗を認める雰囲気があること、教員が教科を超えて連携し、学校全体で生徒の指導が行われているといったことです。 『学ぶ意義を実感できるような体験を重視した取り組み』とは、協働的な取り組みを取り入れ、生徒が学ぶ意義を感じ、学問は将来生きる上で大切だという考えがはぐくまれるような活動を行っていることを意味します」

(後藤総括研究官) 特に体験活動では、総合的な学習の時間の活用がポイントだと、後藤総括研究官は指摘する。総合的な学習の時間の目標のとおり、「横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるよう」にすべきだという指摘だ。 「例えば、今回訪問調査したある高校では、ちょうど校舎を建て替えることになったため、生徒に新しい校舎のアイデアを出してもらうことにし、校舎立て替えのプロジェクトを行ったそうです。生徒が出した校舎の建て替え案は、当初、夢のようなアイデアでしたが、建築会社の人や大学の教員に講義をしてもらいながら、1年かけて建築について学んでいき、自分たちのアイデアを実現させることとなりました。経験した生徒たちは、学ぶ意義やものの考え方を身に付け、建築分野をはじめとする理工系志望者が増加し、全体として目的意識を持って進路選択ができたということです。校舎をいつも建て替えるわけにはいきませんが、学ぶ意義を実感できる体験を通じて、自分の生き方を考えることができるようになったという一例です」(後藤総括研究官) そして後藤総括研究官は、生徒の教科の好き嫌いや重視度から今回の調査がスタートしたが、基礎的・汎用的能力の育成やキャリア観の育成のための取り組みの実践状況と関係が深いことがわかったことに大きな意義を感じている。 また後藤総括研究官が訪問調査を通して感じたことと

して、「多くの学校は、なさっていることの教育的な価値に気づいていないことがわかりました。学校の伝統と文化、地域の中で大切にはぐくんできたこと、きめ細やかな指導など、どれもわれわれから見ると高い教育的価値がある取り組みなのですが、そこでご指導されている先生方にとっては、毎日行っている当たり前のことなのです。熱心な指導に深い感銘を受けましたが、是非、学校教育の価値を感じていただくとともに、その活動や工夫を他の学校とも共有できればよいと考えているところです」と語る。

 文理選択が遅い方がよいにもかかわらず、高校2年生の春に文理選択によるコース分けを行う背景には、やはり大学入試対策のために早くから学ぶ教科・科目を集中して勉強する方が効率的であり、教えやすい面もあるという現実的な問題がある。 「しかし一方で、近年、社会も政府も高校に、生徒に基礎的・汎用的能力を育成することを求めています。さらに現代社会の抱えている課題は、文系・理系、一方の素養だけでは答えの出ないものばかりです。また、進路選択の面においても、訪問調査から、丁寧な指導をして生徒が理系の教科を理解できるようになると、理系へ進む人数がある程度増える傾向があることがわかりました。 ですから、個人的には、高校2年生の春という早い段階で、しかも数学が苦手であるとか英語が苦手であるといった消極的な理由で、文系・理系に分けて生徒が学ぶ分野を狭めてしまうことは問題があると考えます。大学入試の在り方が変われば、高校の教育も、本来高校で学ぶべき内容を幅広く、生徒は好感度を保ち、将来重要だと感じながら学べるように変われるのではないかと、期待しています」と後藤総括研究官は締めくくった。

生徒の進路実現のための効率的な入試対策と高校で学ぶべき素養の狭間で揺れる文理選択

報告書は、国立教育政策研究所ホームページで見ることができます。http://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h24/2_3_all.pdf

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特集 東アジアの理科の大学入試問題分析特集 文理選択と大学入試

高校の先生へのアンケート結果より

 まず、「勤務校で文理分けを実施しているかどうか」を聞いた<グラフ1>。文理分けを行っている高校が8割と、ほとんどの高校で文理分けを行っている。 次に、文理分けについての考えを4つの選択肢の中から1つ選んでもらったところ、「文理分けをしたほうがよい」が8割に上った<グラフ2>。「文理分けに賛成ではないが、やらざるを得ない」(15%)まで含めると、95%の先生が文理分けを支持している。 しかし、「文理分けに対するご意見・ご感想」の記述内容を見ると、「現状維持で問題なし」「当然の流れだと思う」との回答も見られる一方、「文理分けをしたほうがよい」を選びつつ、志望が変わった生徒への対応の難しさ、理系希望者へのアドバイスの仕方、大学入試に対応するために文理分けをせざるを得ない現状などについて書かれている回答が非常に多い。また、大学入試の変化を望むコメントもあった。アンケート自由記述欄より、高校の先生方のご意見を紹介する。

文理分けは実施したほうがよい▶現在の進路指導の流れから考えて絶対必要であるし、公

立高校ではそうしないと教職員のマンパワーが充足しな

い。

▶クラスを分けることにより大学受験でその科目を必要と

する生徒が多くなる。そのため授業の質が上がる。

▶文理別のクラスを作ることができれば、授業の編成がし

やすく、自習も少なくなるので効率がよい。

▶文理分けをしないと、学ばなければならない科目が多す

ぎて困るであろう。

▶文理分けは、進学校では必ずやる必要があるものだと思

う。ただ、大学入試のシステムや、教科書の内容がコロ

コロ変えられ、生徒も先生も苦労する。

▶文理分けは、授業を進めていく上でレベル設定などを効

 ガイドライン編集部では、高校の先生方の文理分けに対する考えを聞くために、Kei-Net ホームページでアンケートを実施した。その結果に基づき、高校の先生方のご意見を紹介する。さらに、アンケートにご協力いただいた先生のうち、2人の先生に話を伺った。

文理分けを行っている高校が8割「文理分けをしたほうがよい」と考える先生も8割

果的にできる長所がある。その反面、文系らしい発想・

理系らしい発想に触れる機会を逸する可能性がある。そ

の部分を教師がフォローする必要がある。

▶ゆとり教育の結果からか、高校現場でも基礎学力の不足、

あるいは学習する能力の欠如が見られる生徒が多々いる。

大学入試の現状もよいとは思わないが、とりあえずは実

情に合っているのではないか。

▶生徒の進路意識は低いと言える。そのような意味では進

路学習をしっかりさせてから、文理選択をさせたい。そ

の一方で、早くやれば大学入試に向けての早期の対策は

取りやすくなる。

<グラフ1>勤務校では文理分けを行っていますか

行っている 82%

行っていない16%

その他 2%

文理分けをしたほうがよい80%

文理分けに賛成ではないが、やらざるを得ない

15%

文理分けに賛成ではないので、やりたくない

1%

文理分けはやらない方がよい3%

その他 1%

<グラフ2>文理分けについてのご意見

行っている 82%

行っていない16%

その他 2%

文理分けをしたほうがよい80%

文理分けに賛成ではないが、やらざるを得ない

15%

文理分けに賛成ではないので、やりたくない

1%

文理分けはやらない方がよい3%

その他 1%

*高校の先生方に対するアンケートより。Kei-Net ホームページ上で、2013 年 7 月実施。回答件数 146 件。* Kei-Net は河合塾が提供する大学入試情報サイト。http://www.keinet.ne.jp/

(n=139)

(n=143)

*グラフ1・2は河合塾 Kei-Net アンケートより

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8 Kawaijuku Guideline 2013.11

▶文理隔てなく勉強すべきであろうが、入試という選抜が

ありそれに対応するには時間が足りない。文理分けも仕

方がない。

いつから文系・理系のクラスを分けるか▶文理分けをどの時期で行っても、結局はそこにいくまで

に、どれくらい考えていたのかが重要。2 年次よりも 3

年次の方がよいという人もいるが、やはり選択の直前に

ならないと本気で考えておらず、結果的に準備が遅れて

しまう。ただ、数学を教えている立場からすると、文系

でも数学Ⅲの内容を一部教えたい気持ちもある。

▶効率を求めるなら2年次からの文理分けしかないのだろ

うが、本当はきちんとさまざまな分野を一通り学んでか

ら、文理選択をさせてやりたいと思う。高校の教育課程

や大学側の対応など不満な面が多いが、われわれは現状、

目の前の生徒のために時間的に制約された中で対応する

しかないと思っている。

▶本校では 2 年次で文理分けを行う。将来の職業、大学の

イメージが希薄な場合は主に授業内容などから決断する

ことになるのが常なのだが、この段階での「得意」「不

得意」は 2 年次、3 年次の段階と必ずしも一致するとは

限らない。また進学実績などを考えると、理系に残す指

導になりがちになるのも少々問題かもしれない。本音と

建て前が錯綜する文理分けといった感じが少なからずし

ます。

▶基本的には2年生まで共通のカリキュラムがよい。3年

次に数学Ⅲを履修するか否かのみで文理分けができると

よい。

▶できれば遅めに3年生からがよいと考えるが、学校と

社会の実情として、2年生から分かれなければならな

いと考える。カリキュラムや大学入試の制度そのもの

が問題。

理系選択の悩み▶就職の有利性を重視して理系を希望する生徒がいるが、

その後、数学・理科の成績の不振に悩む者が多い。

▶保護者の意向、目先のことしか考えずにミスマッチして

いる生徒がいます。

▶理科の縛りがきついため、理科ができないからという理

由で理系を諦める生徒が増えている。公立高校では、理

科や数学の授業確保が大変である。大学ではリベラル

アーツを重視してほしい。

▶栄養系のように、本来ならば理系に進んで進学後に困

らないように理科をしっかりと学んでほしい場合でも、

実際には文系に進んで理科の負担を減らすことを選ん

でしまう生徒がいる。ミスマッチを生まないためにも

大学側も必要な科目を受験科目として設定してほしい

し、高校もきちんとそれを指導しなければならないと

思う。

▶数学や物理へのアレルギーから消極的に文系を選ぶ場合

があり、そういう時には結局、文系科目もものにならな

かったりする。

▶数学が極端に苦手であるのに理系に進んで苦労している

生徒が以前より増えている気がします。

志望変更への対応▶本校はほとんどの生徒が理系志望であり、3年次に文系

コースを取る(文転する)生徒がいるが、大学に行って

から理系に向いていないと気付くよりよいし、高校で理

科科目の学習をしたことが文系学部で生きることも多い

と指導している。

▶どの学校でも同じだが、2 年次に志望が変わった生徒に

とっては受験科目と授業カリキュラムが合わなくなる。

文転することは可能だが理転は非常に難しい。

文理分けをしたくないが▶文理分けしなくて済むのならばしない方が理想だが、そ

んなにたくさんのことをやり切れる生徒だけを抱える高

校はいくつもない。仕方なくやっているに過ぎない。

▶できれば、文理分けせず全生徒に全教科(数学は数学Ⅲ

まで、理科は物理・化学・生物・地学、社会は日本史・

世界史・地理・現代社会)を履修させたい。しかし、

3年間では無理。従って文理分けはやらざるを得ない。

少なくとも数学は文系・理系ともに数学Ⅲまで必修が

よい。

▶文系なら理数科目、理系なら国語や地理歴史・公民を捨

ててしまう傾向があることが最大の問題。減らせば楽に

なるという甘い考え。結局、学習時間を減らすだけ。

▶多様な選択科目として、文系科目・理系科目を生徒自身

が選択できることが望ましい。ホームルーム単位での文

理選択は、多様な思考を体験できる。人格形成していく

上で賛成とは思っていない。

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Kawaijuku Guideline 2013.11 9

特集 東アジアの理科の大学入試問題分析特集 文理選択と大学入試

 現在、私が勤務する愛知県立西尾高等学校では、2年から文理分けをします。文理選択の指導の際には、まず生徒が「漠然とした流行」に流されていないかに留意します。例えば、近年、「就職に有利」という理由で理工系や資格を取得できる学部・学科が人気です。また、この傾向は保護者にも広がっています。最近の生徒は保護者の言うことを素直に聞く傾向にあり、なおさら流行の影響を受けやすくなっています。 しかし、例えば、人気の管理栄養士の場合、愛知県内の大学の入学定員の合計に比べて実際の就職先の数はそれほど多くありません。資格取得後の実際の就職まで考えて、学部を選ぶ生徒や保護者は多くないのが現状です。 また、理系女子(リケジョ)と言う言葉が流行っていますが、これも社会が作った流行ではないでしょうか。女子に人気の理系の学部は、生物系のバイオや医療・食品関係で、入学定員の多い工学部の方に女子生徒の目が向いているわけではありません。すると小さなパイを奪い合っているにすぎないことになります。 では、これも流行のキャリア教育をしっかり行って、自分が進みたい道を見つけてから文理選択をさせることができるかというと、それもやや理想論ではないかと思います。都市部のキャリア教育の先進校では、それが可能かもしれません。しかし本校のような地方の高校の場合、地元での就職先として生徒や保護者の希望が多いのは、公務員、医師・薬剤師・看護師など医療系の資格、教員などです。もちろん全員がその職につける可能性は大きくありません。また、都会にあるような広報や編集など生徒が憧れるような仕事は、地元には希少ですし、就ける者は非常に少数です。こうした事情もあり、将来の希望がはっきりせず数学ができる生徒には、工学部を薦めることが多くなります。これは本校の立地する愛知県は自動車をはじめとする機械産業が盛んだから出来ることですが・・・。 私は、文理選択は、数学ができるか否かで決まると思っています。もちろん数学が得意でも「歴史が好き」といった知的好奇心を持った生徒もいますし、そういう生徒は自分で大学について調べてきますから、志望する進路を応援

流行に流されていないか本人がしっかり考えているかを面談で確認

愛知県立西尾高等学校 江﨑 寛先生高校の先生に聞く文理選択の現状

▶必要ない。高校時代は、文理にわたり広く学ぶべき。た

だし、その中で科目を選択できるようにすればよい。ま

た、普通科でもキャリア教育などの観点から、普通科目

だけでなく、職業科目も選択できるようにするべき。

▶高校、もしくは大学の4年間(学部)までは文理関係なく、

一般常識として「市民性教育」の観点などからも学ばせ

たい。

しやすいですね。 文理選択に限らず進路選択のサポートで重要なのは、個別面談だと思います。本校の場合、1年生の 10 月頃には文理選択の希望を出します。私の場合、それまでに4〜5回程度は面談を行い、面談記録を付けながら、本人がしっかり考えた上で志望しているのかどうかを見極めます。あやしい場合は、面談で志望する分野以外の分野の話題を振ってみるなどして、本人の意志を確かめます。その上で、生徒の状況に合わせたアドバイスをするよう心がけています。

 ただ、本来高校では、生徒に幅広い教養を身につけてほしいと思います。学力の高い生徒が集まる高校では、多くの科目を履修させても大学入試に必要な学力をつけることは可能ですが、それはごく一部であり、そうでない高校では、現在の大学入試制度の下では、早期に文系・理系によりクラスを分けて、教えざるを得ないというのが現状ではないでしょうか。 文理分けが早期に行われるようになった理由は、共通一次試験の導入だと思います。共通一次試験の導入前までは、合否判定は大学の個別試験中心でしたから、今のような早期かつ厳密な文理分けは、ある意味必要ではなかったと思います。共通一次では一定の得点を取ることができれば、それまでの国公立大学の個別試験には対応できなかった生徒でも、国公立大学に合格できるようになりました。その意味では共通一次試験や大学入試センター試験は、多くの生徒に国公立大学への門戸を開いたという大きな意義もあります。   本来は高校で幅広く学んだほうが将来の伸びしろは大きいと思います。早くから科目を絞って狭い視野しか持てないと、方向転換を余儀なくされたときにそれが難しくなります。しかし、高校の立地や生徒の学力によっては、大学に合格するためには早くからの文理分けが必要です。このジレンマを解消するにはどうすればよいか、永遠の課題だと思っています。できることは個別に丁寧に面談を重ねることくらいだと思っています。

文理分けをして教えざるを得ないのが現状

Interview 1

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10 Kawaijuku Guideline 2013.11

大学入試への要望▶入試科目を多くしてほしい。

▶大学入試のやり方が変われば、高校でのやり方も変える

ことができる。

▶現状の大学入試のシステム上、文理分けをしなくては受

験に影響が出てしまうので行っているが、本来はしない

方がよいと思う。文系であろうが理系であろうがすべて

の教科を学習するというスタンスがよいのではないかと

思う。まず大学入試のシステムが文理の垣根を取り払う

のが前提だが。文理の垣根がなくなれば入試もすっきり

すると思う。

 文理によるクラス分けは、大学入試に対応する科目を履修するための、カリキュラム作成上の都合によるものです。 私が現在勤務する東京都立国立高等学校では、1〜3年生まで文系・理系でクラスを分けていません。教育課程は1・2年生は必修科目のみで、全ての生徒が生物基礎・化学基礎・物理基礎、世界史B・日本史B、地理B、そして古典も履修します。3年生からはクラスを分けず、科目を選択させています。文系学部を志望する生徒も、数学Ⅱと数学Bまで履修します。これは、本校の生徒はほとんど全員が国公立大学を志望するという前提のためにできることで、2年生までに大学入試センター試験(以下、センター試験)で必要な科目を履修し、3年生になって選択科目によって国公立大学の個別試験(2次試験)に必要な科目を履修するという教育課程になっています。 全国的には2年生や3年生からの文理分けが大勢を占めるとはいえ、男女で分かれる体育のような科目もありますし、学校行事のバランスもあります。さらに、教育課程編成の複雑さなどを考えると、本来は分けない方がいいのでしょうが、ただ、高校によって事情は複雑です。 東京都の場合、国公立大学と私立大学を希望する生徒がそれぞれいる場合、本校のように、国公立大学志望者のみを対象とした指導はなかなかできませんし、私立大学をめざす生徒が多い場合、推薦入試やAO入試に対応する指導も必要です。また、専門学校に進学する生徒がいる高校では、秋に推薦で進路が決定する生徒もいます。そうなると、センター試験まで大学入試に向けた勉強をする生徒とそうでない生徒のクラスを分けるというのが理想的ですが、現実として、このような事情からクラス分けをしている学校は少ないでしょう。文理選択とは別の理由でクラス分けが必要な場合もあるでしょう。各高校さまざまな理由によって文理分けをしているのが実情です。 ただ文理選択に際しては、数学ができないからという理由で生徒が文系を希望し、それを教師が薦めるという指導が行われがちなのは問題だと感じています。これは「数学はできる者がやればよい」という数学に特異な風潮が背景にありま

クラスによる文理分けは実施せず1・2年生は必修科目を学ぶ

東京都立国立高等学校 主幹教諭 佐々木 昭一先生高校の先生に聞く文理選択の現状

す。逆に国語の教師が「古典ができない生徒に理系を薦めたらどうなるか」を考えてみれば、教科の得意・不得意に大きなウエートを置いて文理を決めさせるのは、本来の進路指導ではないことは明らかです。

 私は、文理分けの一番の問題は履修する科目を狭めてしまうことだと思います。本校で全ての生徒に幅広い科目を履修させているのは、視野を広げて、しっかりと教養を身につけてほしいという学校から生徒へのメッセージでもあります。教科・科目の数(幅)だけでなく、科目の指導においても幅広い視野と教養を身につけるような指導がされています。例えば、英語では検定教科書のほかに多くの副読本を使っており、内容も幅広い教養が身につくようなものを選んでいます。これは、将来、国際社会に出たときに知っておくべき共通の教養があるということを、英語を通して伝えるためです。他の科目でも、機会を作って教養が身につくような取り組みを行っています。 また、進路選択に際しては、近年、大学での学びと将来の職業を直結させて学部・学科を選ばせることがキャリア教育のように捉えられがちなことも問題ではないでしょうか。例えば、読書が大好きな生徒が、文学部に行ってもそれを活かした就職は限られているから止めろと言われれば、夢も希望もなくなります。就職を考えると文系より理系、東京大学理学部に進学したいと思っている生徒が、確実に仕事に就けるから医学部を選ぶという場合もあります。そもそも医師は、そうした理由で選ぶ仕事ではないはずです。高校も、また、自由な学びの場であるはずの大学までも、就職を中心に考えざるを得ないのは、寂しく感じています。 社会は常に変化しており、同じ企業が以前と異なる製品を作ったり、異業種に進出したりすることも珍しくありません。高校の履修科目にしても大学の学びにしても、受験に必要かどうかや就職に有利かどうかといった視点でのみ学ぶと、社会の変化に対応できる力をつけることができません。長い目で生徒の将来を考えれば、教養として高校時代に教えなければならないことをきちんと教えていくべきだと考えます。

高校で学ぶ科目が少なくなってしまう文理分けの問題点

Interview 2

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Kawaijuku Guideline 2013.11 11

特集 東アジアの理科の大学入試問題分析特集 文理選択と大学入試

【全体的なアドバイス】◆将来の職業観や興味ある科目、得意科目、不得意科目な

ど、さまざまな面から考えるようにアドバイスしています。ただ、一部の職業や大学の学部を除いて、文転、理転してもどうにかなるから、気楽に考えなさいとも付け加えます。

◆自分の適性や進路を考えるよい機会なので、まず十分に考えさせるようにする。いろいろなホームページや保護者の意見等を聞いて、最終的には自分で結論を出すように伝える。

◆とにかく文系に行こうとも数学をきちんと学習すること、理系に行く場合には社会をどう扱っていくのかを考えておくこと。

◆生徒自身の適性、生徒の興味・関心、模試等の結果、成績、適性検査の結果等を見ながら話をします。

【興味・関心から考える】◆自分が興味を持っていること、関心があることをまず洗

い出す。それらを学ぶためにはどのような学部に進めばよいかを考える。教科の好き嫌いで文理を選択すると進路の選択肢が狭まるので、あくまでも自分の興味・関心に基づいて妥協のないように選ぶことを強調したい。特に、国語や英語が嫌いだからという消去法で理系を選ぶことは絶対に避けなければならないと考えている。このような選択をすると大抵、学年が進むにつれて数学、理科もついてこれなくなる。

◆まずは、自分の行きたい学部・方面で考えてほしい。ともすると数学や理科の成績だけで決めているが、スイッチが入っていない状態での成績で判断すると後悔することになる。ただし、迷っている人は教科の先生、先輩、家族などいろいろな人の話を聞いて自分で納得して判断してほしい。

◆職業からアプローチをさせても高校生の段階ではピンと来ない生徒が多いです。ですから、学問からのアプローチをしています。やはり、4年間勉強することになるので、何を勉強したら面白そうかと聞いています。

◆原則、本人が勉強していて興味が持てる方を選ぶように伝えています。就職や景気動向、入試科目、本人の成績などいろいろな雑音が学習してみたいという純粋な生徒の気持ちを邪魔しています。それを考慮しつつ、本当の

気持ちを自分で探りつつ決めていければと思っています。

◆大学で研究したいことをまず第一に考える。教科の得意、不得意では決めないこと。

◆学問への興味・関心が持てるか、今後8年間くらいその学問を学び続けることになるが、どちらなら学び続けられるかを考えること。

【将来・社会に出てからのことを考える】◆まずはなりたい職業、「やりがい」を持ってどんな仕事

に就くかを考えさせる。そのためにはどのような学問を学ぶか、学部は、学科は、と逆に考えていくことで文系か理系かが見えてくる。

◆その生徒が自分の将来をどう生きていこうとしているのか、そこまで描けなければ、大学に進んで何を学ぼうとしているのかを考えさせ、それに応じて、学問や学部・学科、職業や働くことについて考えさせる。もちろん教科の得意・不得意は考慮すべきである。

◆目先の大学・学部・学科にこだわらず、「10 年後何をしてご飯を食べたい」と聞いている。やりたい仕事、就きたい職業をイメージすれば、選択肢は広がる。

◆将来どのような職業をイメージしているかを優先させ、科目の得意・不得意では選択しないようにアドバイスする。

【理系選択に関するアドバイス】◆(特に理系希望者に対して)①理系でどのようなこと

を学びたいのか ②この2年ほどで理系学部がかなり難関になっている ③「こつこつ」学習できる人間かどうか。上記の点を話した上で、自分にとって納得できる選択をするよう指導します。

◆理系の場合は将来、どんな仕事に就きたいのか、それと合わせて数学の成績も加味してアドバイスをします。

◆「教科の得意・不得意より、将来自分の興味・関心のある方へ進学するのがよい。例えば、数学や物理が今は苦手だが、工学に興味・関心があるのであれば理系を勧める。ただし、それなりの覚悟をして理系にいくこと。本気でないのであれば、理系に行かない方がよい」という話をします。

生徒が、文系・理系をどのように選べばよいかと聞いてきた場合、どのようにアドバイスするか

 高校の先生へのアンケートでは、文理選択に悩む生徒への具体的なアドバイスも聞いた。

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12 Kawaijuku Guideline 2013.11

大学1年生のKei-Net 特派員へのアンケートより

 大学1年生の特派員へのアンケートでは、高校教員へのアンケート結果と同様に、8割近い生徒が高校1年生で文理選択を決めている<グラフ1>。中でも高校入学前(理数科など)、高校1年生の1学期までの早い時期に文理選択を決めている生徒も4割近い。

 アンケートでは文系・理系を決めた理由を聞いた(自由記述)。自由記述欄に記入があった回答の内容を分析すると、文系選択者の理由については<グラフ2>のようになった。「大学で学ぶ内容や将来の仕事・職業に興味」が 49%と最も多いが、次いで「数学が苦手」となっており、「文系科目が得意」を上回っている。なお、実際の回答は1つだけの理由ではなく、「数学が苦手だったが国語は得意だったから」など複数の理由によるものが大半である。以下、いくつか文系を選んだ理由について紹介する。▶数学Ⅲ・数学 C をやる自信が持てず、国語が好きだった

から。(筑波大)

▶中学時代から社会が好きでした。理科や数学にも面白さ

があることはわかっていましたが、社会を勉強している

時の興奮は理科以上でした。特に日本史は小学生のころ

から好きで、中学時代には高校の内容をやや先取りして

勉強していました。こうした理由から積極的に文系を選

択しました。また消極的な理由として、数学Ⅲの難しさ

がありました。当然、数学Ⅲにも魅力があることは理解し

ていますが、受験までの残り少ない時間の中で抽象度の

高い数学Ⅲの内容を完全に理解して問題を解くために使

いこなすのは厳しいと判断しました。(東京大)

▶数学があまり得意でなかったうえに、理科がとても苦手

で、物理や化学の授業に全然ついていけなくなっていた

ので、理系に進むとかなり厳しいと考えました。そして、

私は暗記するのが得意だったので、世界史や日本史など

 ここまで文理選択や文理分けについて、高校教員へのアンケート結果を見てきたが、一方で生徒はどのように考えて文理選択をしているのか。大学1年生のKei-Net 特派員へのアンケート結果から見てみよう。

のようにコツコツ細かいことを暗記することの多い文系の

ほうが理系よりも自分には向いていると思いました。また、

私は英語がとても得意で好きだったので、大学でも語学

をたくさん学び、どんどん伸ばしていきたいと考え、文系

に進むことにしました。(東京外国語大)

▶物理、化学が苦手で、逆に社会が得意だったから。(一橋

大)

▶理系教科がものすごく苦手だったということもあるが、将

来の夢が文系の仕事につきたい、というものだったこと

が大きい。(信州大)

▶経済に関心が高く地理が好きだったこともあり、迷わず文

系を選択した。(京都大)

▶数学が苦手だったから。また、文系学部の方が興味を持

てる内容であったため。(神戸大)

▶高校1年生で理科総合 A を全員習うが、その授業の後半

で化学や物理の内容が主になっていき、習ったばかりの

数学の知識を多く使うため、ついていけなくなり理系科目

が苦手になったから。(愛知県立大)

▶看護学部志望でしたが、試験科目に数学Ⅲ・数学 C、生

物と化学Ⅱが必要ではなかったので文系にしました。理

系に進むと苦手だった化学が必須になってしまうのでそ

れを避けたかったというのも理由の1つです。(名古屋市

立大)

▶数学がいくらやってもできなくて、受験科目にはできない

と思ったから。(文教大)

▶数学が苦手だったから。その時は将来のことについてしっ

<グラフ1>最終的に文系・理系を決めた時期約8割の生徒が高1までに文理選択を決定

文系選択者が文系を選んだ理由とは高1の2学期19%

高校入学前28%

高1の1学期12%

高1の3学期18%

高2の1学期8%

高2の2学期 8%高2の3学期 3%

高3の1学期 2%高3の2学期 0%

高3の3学期 1%高校を卒業してから 1%

* 2013 年度第2回 Kei-Net 特派員(大学1年生)アンケートより。2013 年 6 〜 7 月にかけて実施。回答件数 262 件。

(n=261)

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Kawaijuku Guideline 2013.11 13

特集 東アジアの理科の大学入試問題分析特集 文理選択と大学入試

かり考えていなかったから。(専修大)

▶国語が得意で数学や理科など数字が苦手だと、自分で実

感していたから。(法政大)

▶中学時代から理科が壊滅的にできなかったため。(立教大)

▶具体的な将来の夢が決まっていなくて、文系学部へ行っ

た方が職業の選択肢が増えると考えたため。(早稲田大)

▶将来、歴史の研究をしたいと思っており、日本史の研究

者になりたいと考えていました。(同志社大)

 次に理系選択者の理由については<グラフ3>のようになった。「大学で学ぶ内容や将来の仕事・職業に興味」が約4割で、「理系の方が就職に有利」の7%を加えると、半数近くが理系の学部での学びや仕事・就職のことを考えて理系を選んでいる。一方で、「数学が好き」「理科が好き」を合わせると約4割、「文系科目が苦手」は 14%で、文系選択者に比べて、理系選択者は数学や理科が好きという積極的な理由で理系を選んでいるようだ。また、文系・理系の選択を決めるのが難しく、「文転はしやすいのでとりあえず理系」という理由の人も7%いた。▶理系の勉強(研究)は理系でないとできないが、文系の

勉強なら教えてもらわなくても、できなくもないと思った

ため。(北海道大)

▶社会が苦手で興味が持てなかったから。サイエンス系の

仕事に興味があったが、別段これといった具体的な興味

が無かったため、入学後に進学振り分けで進路を決定で

きる大学を選んだ。(東京大)

▶学校の授業で化学や物理の勉強をしているうちに興味を

持ち、もっと学びたいと思ったから。(信州大)

▶化学が好きだったことが最初のきっかけ。(名古屋大)

理系選択者が理系を選んだ理由とは

▶もともとは文系志望だったが、国語があまりに苦手で理系

にした。好きな教科も数学と化学だったので理系でも大

丈夫だろうと思った。(名古屋工業大)

▶就職に有利で、国語が苦手だったので理系にした。(三重

大)

▶理系からの文転はできるがその逆は難しいから。(京都大)

▶理系の方が就職の幅が広いと思ったから。(大阪大)

▶自分ではなかなか決められなかったので、信頼する先生

に相談したりオープンキャンパスや進学イベント等に多く

参加したりしてさまざまな意見を聞いた。それでもきっぱ

りと決められなかったので、最終的には先生の意見や、

理転より文転の方がしやすいことから理系に決めた。(神

戸大)

▶将来、食品関連の企業に就職したいと思っていたために、

早い時期から農学部への進学を考えており、理系を選び

ました。(九州大)

▶数学が得意で、国語が苦手だとわかったから。(名古屋市

立大)

▶小学生の時から医師になりたかった。また国語や社会より

数学の方が好きだった。(岩手医科大)

▶行きたい学部が理系だったし、文系科目より理系科目の

方がずっと得意だったため。(杏林大)

▶ギリギリまで迷っていたが、理系の方が幅広く学べるか

ら。(東邦大)

▶生物が好きだったから。また、将来理系の職業に就きた

いと考えたから。(日本女子大)

▶中学生のころから数学が好きだったため、大学で数学が

勉強したいと思い、迷うことなく理系を選びました。(神

奈川大)

▶就職に有利だから。(同志社大)

<グラフ2>文系を選んだ理由 <グラフ3>理系を選んだ理由

7%

14%

0% 10% 20% 40%30% 50% 0% 10% 20% 40%30% 50%

数学が苦手

理科が苦手

文系科目が得意

学問や仕事に興味

46%

14%

49%

30%

文系が苦手

理科が好き

数学が好き

理系が得意

学問や仕事に興味

就職に有利

文転はしやすいから

14%

24%

39%

8%

7%

7%

14%

0% 10% 20% 40%30% 50% 0% 10% 20% 40%30% 50%

数学が苦手

理科が苦手

文系科目が得意

学問や仕事に興味

46%

14%

49%

30%

文系が苦手

理科が好き

数学が好き

理系が得意

学問や仕事に興味

就職に有利

文転はしやすいから

14%

24%

39%

8%

7%

*グラフ1〜3は河合塾 Kei-Net アンケートより

(n=98) (n=119)

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14 Kawaijuku Guideline 2013.11

大学3年生以上のKei-Net 特派員へのアンケートより

 「文理分けに賛成か反対か」に対する回答を、「高校時代の文系・理系のクラス」「学年」「進学した学部・学科の系統」ごとに分析した。 「高校時代の文系・理系のクラス」では、理系クラスの方が「賛成」が多い<グラフ1>。「学年」では、修士・博士で「賛成」が少なくなり、3年生、修士・博士で「反対」が増えている<グラフ2>。 「系統」では差が生じている<グラフ3>。いわゆる文系の中では、「教員養成系」の賛成 82%が目立つ。次いで「法・政治」が 60%とやや高いほかは、いわゆる文系では賛成は 40%台である。いわゆる理系では、「理」

「工」「医・歯・薬・保健・看護」で賛成の割合がやや高めだが、「農・林・水産・獣医」や「家政・生活科学」はやや低めである。 以下、大学3年生以上の意見を紹介する。大学1年生とは違って、専門を学び始めた上で、あるいは大学を卒業した上での意見をご覧いただきたい。

文理分けに賛成▶大学受験においては最短ルートで合格への道を歩んだ方

が肉体的にも精神的にも高校生の段階ではよいと思う。

大学生の今となってみれば両方学んだほうが今後の役に

は立てるとは思うが、それは興味がある範囲や必要に迫

られないとわからないだろう。(群馬大・医・4年)

▶入試科目にあわせ、学習時間を確保するのが現実的に必

要。個人的には、大学入試で社会の難易度を少し下げて、

多くの大学が文理問わずセンター試験 5 教科 9 科目(英語、

数学、国語、理科 3、地理、歴史、公民)受験を義務づ

けるなどにすれば、文理幅広く学べるはずだと思う。(千

葉大・医・4年)

▶おおざっぱな分け方だとは思いますが、自分がどのような

特徴を持っているのか、それに気づくよいきっかけだと

思います。ただし、文系・理系というのを、国語が好きか、

数学が好きか、社会が好きか、あるいは理科が好きか、

 大学で専門を学び始める3年生以上、大学院生や社会人になった特派員は、現在どのように文理分けについて考えているのか。大学3年生以上のKei-Net 特派員へのアンケート結果を見てみよう。

ということと同一視するのには問題があるでしょう。自分

のモノの捉え方が、どちらの傾向にあるのかを考えるよう

気をつけるべきだと思います。(東京大・教養・学部卒)

▶大学入試の際、文系学部・理系学部それぞれで受験科目

が違っているため、現段階では文理分けは必要であると

思う。文理分けをしなかったら、各科目の勉強時間が減っ

てしまい、大学受験対策が疎かになってしまう。文理に

分けて受験科目を重点的に、受験科目でない科目は控え

めに勉強することで、大学入試に勝利できると思う。(富

山大・経済・4年)

▶私は理数科でしたが、理数科では特殊なカリキュラムが

組まれており、実験などの時間が多く取られていました。

何をしたいか決めている人にとってはそのようなカリキュ

ラムは魅力的です。(静岡大・工・3年)

▶高校での最終成果が大学合格であるという風潮のもとで

は、合理的な判断だと思うからです。ただし、今後、高

校での最終成果が人間としての内面の成長であるという

ことになれば、文理分けはせず高校生レベルで理解でき

る範囲で、文理の幅広い知識を身につけさせるべきだと

感じます。(大阪大・経済学研究科・大学院卒)

▶得意・不得意が理由で選ぶなら反対だが、進路がしっか

りしている場合、勉強を効率的に行えるため賛成。(九州

大・経済・学部卒)

▶文理分けをしないと、大学受験の科目に対応できないし、

苦手な教科を勉強するのはつらいと思うから。(名古屋市

立大・経済・3年)

<グラフ1>文理分けに賛成・反対ー高校時代の文系・理系別文理分けに「賛成」は5割

全体

文系

理系

クラス分けなし

全体

3年生4年生

修士・博士学部卒大学院卒

54%

0% 10% 20% 40%30% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

18% 21% 7%

62% 11% 23% 5%

52% 20% 17% 10%

24% 40% 29% 7%

■賛成 ■反対 ■どちらでもない ■わからない ■その他

0% 10% 20% 40%30% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

■賛成 ■反対 ■どちらでもない ■わからない ■その他

53% 18% 22% 7%

52% 26% 14% 7%54% 15% 22% 8%

42% 27% 16% 16%53% 16% 25% 6%53% 13% 25% 7%

全体

文・人文・教育学社会・国際法・政治

経済・経営・商教員養成

総合科学課程 理工

農・林・水産・獣医医・歯・薬・保健・看護

家政・生活科学芸術・体育など

総合・情報・環境・人間0% 20% 40% 60% 80% 100%

53% 18% 22% 7%

43% 23% 26% 9%46% 15% 23% 15%60% 19% 14% 7%45% 32% 13% 10%

46% 15% 30% 9%

47% 21% 21% 12%

57% 11% 26% 5%45% 36% 9% 9%

17% 67% 17%

60% 16% 19% 6%

40% 10% 30%58% 21% 21%

20%82% 5%5%5%

■賛成 ■反対 ■どちらでもない ■わからない

* Kei-Net 特派員(大学3年生以上)アンケートより。2013 年 9 〜 10 月にかけて実施。回答件数 681 件。

(n=647)

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Kawaijuku Guideline 2013.11 15

特集 東アジアの理科の大学入試問題分析特集 文理選択と大学入試

▶本当は文理問わずまんべんなく学び、また自分とは異なる

分野の専門を持つ友人を持つ方がよいが、現在の受験の

システム上仕方がないと思う。(慶應義塾大・文・3年)

▶就職活動を通じ、文系の仕事と理系の仕事は大きく異な

ることを改めて実感しました。それぞれの専門性を高め

ていくという意味で、文理分けは必要なことだと私は考

えます。しかし、自分の高校時代のことを思い返すと、「な

んとなく」進路を選択する同級生が多かったように感じ

ます。消極的な理由ではなく、将来何の仕事をしたいか、

そのためにはどのような専門性を身につけておくべきかを

考えた上で大学入試に臨むべきだと思います。従って、

文系ないし理系に進むとどのような仕事があるのか、学

校側が情報を提供した上で、文理分けの選択をすること

が大切だと思います。(早稲田大・法・4年)

▶文理分け自体の善悪はひとまずおいておくとして、現行

の入試制度で文系学部と理系学部における入試科目に違

いがある以上、自分の希望する学部に即した内容のカリ

キュラムを習得することが「入試」をクリアするにあたっ

て効率的である。そのために文理分けによって科目の取

捨選択することは現行の入試制度である以上、受験生に

とって効率的であり有益であると考えるので賛成です。

(甲南大・法学研究科・大学院卒)

文理分けに反対▶大学に入って気付いたが、文系学部に行っても理系の知

識は必要だし、理系の学部でも文系の知識が必要。高校

時代は、大学合格のために文理を分けるのではなく、大

学につながる学びと考えて文理を等しく学ぶのが良いと

思う。そのためには、先行して入試制度改革が必要だと

思う。(筑波大・人間・4年)

▶私は経営工学という分野を学んでいる.経営工学は、文

系要素が強い「経営」に対して「工学的」、つまり理系

的・数学的アプローチをする学問である。このような分

野を専門とする自分からすると、文系と理系の区別ははっ

きり言って必要ないのではないかと思う。大学受験のた

めには文理の区別があるが、社会人になれば理系の学生

でも経済、経営などの知識は必要になり、文系の学生で

も基礎的な数学、科学の知識は必要になると思う。私は

かたくなな文理分けには反対する。(電気通信大・電気通

信・学部卒)

▶片方を選ぶともう一方をあまり勉強しなくなることが多い

が、大学や会社では両方のスキルや知識が必要となるた

め。(東京大・経済・学部卒)

▶将来の進路や自分のやりたいことがはっきりしていないう

ちから文理分けを行うことは、将来就ける職業を狭める

ことにもなり望ましくないと考える。また、自分の周りで

は数学ができないから文系など、安易に選択をしている

者も多く、建設的な理由で選択をしている人が少なかっ

た。大学に進学してからも、そのような文系の人は数学

を高校でしっかり学んでいなかったため、基礎的な計算

もできないなど問題になっている。文系・理系の区別で、

学習科目を狭めるべきではないと考える。(東京大・工学

系研究科・大学院卒)

▶文系・理系と生徒を分けることは難しいと思います。文

系大学の3年生の私でさえ、いまだに理系の要素が必要

となってきます。文系と理系という分け方はかえって生徒

を混乱させる気がします。(一橋大・経済・3年)

<グラフ2>文理分けに賛成・反対ー学年別 <グラフ3>文理分けに賛成・反対ー系統別

全体

文系

理系

クラス分けなし

全体

3年生4年生

修士・博士学部卒大学院卒

54%

0% 10% 20% 40%30% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

18% 21% 7%

62% 11% 23% 5%

52% 20% 17% 10%

24% 40% 29% 7%

■賛成 ■反対 ■どちらでもない ■わからない ■その他

0% 10% 20% 40%30% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

■賛成 ■反対 ■どちらでもない ■わからない ■その他

53% 18% 22% 7%

52% 26% 14% 7%54% 15% 22% 8%

42% 27% 16% 16%53% 16% 25% 6%53% 13% 25% 7%

全体

文・人文・教育学社会・国際法・政治

経済・経営・商教員養成

総合科学課程 理工

農・林・水産・獣医医・歯・薬・保健・看護

家政・生活科学芸術・体育など

総合・情報・環境・人間0% 20% 40% 60% 80% 100%

53% 18% 22% 7%

43% 23% 26% 9%46% 15% 23% 15%60% 19% 14% 7%45% 32% 13% 10%

46% 15% 30% 9%

47% 21% 21% 12%

57% 11% 26% 5%45% 36% 9% 9%

17% 67% 17%

60% 16% 19% 6%

40% 10% 30%58% 21% 21%

20%82% 5%5%5%

■賛成 ■反対 ■どちらでもない ■わからない

全体

文系

理系

クラス分けなし

全体

3年生4年生

修士・博士学部卒大学院卒

54%

0% 10% 20% 40%30% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

18% 21% 7%

62% 11% 23% 5%

52% 20% 17% 10%

24% 40% 29% 7%

■賛成 ■反対 ■どちらでもない ■わからない ■その他

0% 10% 20% 40%30% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

■賛成 ■反対 ■どちらでもない ■わからない ■その他

53% 18% 22% 7%

52% 26% 14% 7%54% 15% 22% 8%

42% 27% 16% 16%53% 16% 25% 6%53% 13% 25% 7%

全体

文・人文・教育学社会・国際法・政治

経済・経営・商教員養成

総合科学課程 理工

農・林・水産・獣医医・歯・薬・保健・看護

家政・生活科学芸術・体育など

総合・情報・環境・人間0% 20% 40% 60% 80% 100%

53% 18% 22% 7%

43% 23% 26% 9%46% 15% 23% 15%60% 19% 14% 7%45% 32% 13% 10%

46% 15% 30% 9%

47% 21% 21% 12%

57% 11% 26% 5%45% 36% 9% 9%

17% 67% 17%

60% 16% 19% 6%

40% 10% 30%58% 21% 21%

20%82% 5%5%5%

■賛成 ■反対 ■どちらでもない ■わからない

(n=681) (n=681)

*グラフ1〜3は河合塾 Kei-Net アンケートより

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16 Kawaijuku Guideline 2013.11

▶大学には思った以上に文理の区別がつかない学問領域が

多いです。これは現在の学界のトレンドともいえます。文

理という枠組みが与えられてしまうことで、「理系教科に

強いから理系」「文系教科に強いから文系」という消極的

な進学選択をしてしまいます。(名古屋大・文・3年)

▶文系と理系でとる授業が変わってしまうのは仕方がない

と思うが、わざわざホームクラスまで分ける必要はない。

実際、私が通っていた学校ではホームクラスを分けない

ことで文系・理系それぞれの考え方や知識を共有するこ

とができ、お互いに高め合うことができた。(岐阜大・工・

学部卒)

▶高校は教養を身につける場であるため、本来は文理分け

せずにさまざまな科目を広く学ぶべきです。ただ、進学

状況が高校の生徒募集に重要なカギになってしまってい

るため、よい進学実績を残すには大学受験に必要な科目

に特化したカリキュラムにせざるを得ないジレンマがある

と思います。少子化で大学全入時代になり、ゆとり世代

の学力の低下も問題視されている今、再び幅広く多くの

ことを学ぶ場に高校を変えた方がいいのではないかと思

います。(九州大・歯・学部卒)

▶分ける必要性がない。文系・理系に分けてそれぞれに特

化した教育をするというのなら意味があるだろうが、文

系であれば数学をしなくてよいなどといった、苦手だから

やらずに済んでしまうという事態が発生している。数学

もできずに経済学部に来てしまう。文系・理系はただの

逃げ道だと思っている。(中央大・文・4年)

▶私は大学で心理学を専攻しましたが、そこでは統計の知

識が必要不可欠でした。また、心理学では実験を行うので、

人間の認知プログラムなど、生物の知識も必要となって

きます。文理分けをすれば大学受験は効率的に勉強でき

ますが、大学入学後のことを考えれば、文理関係なくさ

まざまな科目に触れたほうがよいと考えます。(関西学院

大・文・学部卒)

 また、文理分けについて全般的な意見も聞いた。文理分けについては、これまで見てきたようにさまざまな意見がある。高校までに学ぶことは大学に入るための土台であり、今後の社会で活躍するための基盤となるが、高校や大学だけで学びが終わるわけではない。特に、これ

からの知識基盤社会においてはなおさらであろう。最後に、特派員の方から頂いた多くのご意見の中から3つを紹介しよう。▶私の高校は文理分けがありませんでした。私は入試では

文系科目を使ったので、当時は理科や数学の授業が多い

ことに不満がありましたが、思い返せばとてもよい経験に

なったと思っています。今、心理学を専攻していますが、

文系の知識だけではなく数学の知識などが統計に生かさ

れたり、生物の知識などが遺伝学に生かされたりという

ことで助かることがかなりあります。文理分けによって勉

強の幅を狭めずに、いつか役に立つ日が来ると信じ、幅

広く勉強できてとてもよかったと思っています。(お茶の

水女子大・文教育・修士)

▶私の高校は幸いにも先生方の視野が広く、また少人数と

いうこともあり、個人の興味に合わせて補講などを開講

していました。そのため、必要があれば理系でも文系並

みの学習ができました。個人的には、文理選択があって

も複数の教科に興味を持つことは重要だと考えます。な

ぜなら、理系であっても読解力や英語力は「技術を得た

り伝えたりする」ときに必要ですし、文系であっても「相

手に伝わる話し方」は数学のように論理性が必要だった

りするからです。高校生の時は、その科目自体のことし

か考えていないかもしれませんが、実はすべての科目は

つながっています。文理選択であっても、自分自身の中

で「これは理系、これは文系」と決めつけず、広く興味

を持ってほしいです。(東京医科歯科大・医歯学総合研

究科・大学院卒)

▶確かに、高校生までの間に基礎的な教養を身につけてお

くことは大事だと思いますが、だからといって受験対策よ

りも重視して、志望校に入学できなくては元も子もないと

思います。私は社会に出て中学校、高校で得た教養で困

ることはありませんし、もし足りない分野があると思えば、

高校生でも大学生でも社会人になってからも自分で勉強

はいくらでもできます。私が大学で一番よかった点は、自

分で学ぶ姿勢とその学び方を身につけられたことだと思

います。高校での文理分けによって教養に偏りが出ると

感じる人は、高校で幅広く学べるコースが設定されても、

大学に入学した後も自ら学ぶということをしないと思いま

す。学校が設定するコースは指標にはなりますが、それ

だけに頼り切ってしまっては何も得られないと思います。

(津田塾大・学芸・学部卒 )

文理分けの有無にかかわらず幅広く学んでいく

※ 大学3年生以上の特派員へのアンケート内容については、その一部を Kei-Net でご覧いただけます。「河合塾の進学情報誌」⇒「ガイドライン」⇒「バックナンバーを読む」⇒「ガイドライン 11 月号」をご覧ください。

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Kawaijuku Guideline 2013.11 17

特集 東アジアの理科の大学入試問題分析特集 文理選択と大学入試

点分布を見ると、年によって変化はありますが、おおむね国語は 20 点くらいの幅に受験生が入っています。一方、数学は得点分布が広く、数学の方が受験生の学力差があり、合否に影響しやすくなっていました<グラフ

1>。こういう背景もあって、大学進学希望者が多い高校では、理系志望の生徒に対して、早くから時間をかけて数学を学ばせたいということになるのだと思います。 また、進路について、キャリア教育を通してしっかり考えさせた上で、生徒に選択させることが大切だと指摘されていますが、私は、特に医療系を除く、理系一般に関しては、キャリア教育によって具体的な職業のイメージを持つことは簡単ではなく、生徒は、数学ができるかどうかや、就職に有利かどうかといった視点で進路を選択する傾向があるのではないかと思います。さらに、生徒自身の適性ではなく、安定志向から、保護者が子どもに理工系の学部を薦めることもあります。

 現在の大学の一般入試を前提にすると、高校2年生の春という早い段階での文理選択には仕方のない面もあります。その最も大きな要因は数学の学習です。というのも、理系学部に進むために数学Ⅲまで学習するには、ある程度時間がかかるためです。しかも、現在、大学への進学希望者が多い高校では、本来3年間で学ぶ前提で設計された内容を、大学入試のために2年半程度で終わらせようとしています。この2つの要因が合わさると、理系の進学者には早くそれを選択させる、ということになります。 数学の重要性は、選抜性の高い大学では特に高いといえます。例えば、東京大学2次試験における受験者の得

<グラフ1> 2013 年度 河合塾調査データからみる東京大学入試結果

(占有率)20%

15%

10%

5%

0%

0 20 40 60 80 100 120(点)

(占有率)20%

15%

10%

5%

0%0 20 40 60 80(点)

(占有率)

30%

20%

10%

0%

■一般入試 

■推薦入試 

■AO入試 

■その他

0 20 40 60 80 100 120(点)

201320122011

201320122011

201320122011

201320122011

(平均点)2013 年 28点2012 年 36点2011 年 42点

(平均点)2013 年 68点2012 年 72点2011 年 58点

(平均点)2013 年 35点2012 年 50点2011 年 49点

文科-全体

文科-全体

0 20 40 60 80(点)

(占有率)

30%

20%

40% 40%

10%

0%

(平均点)2013 年 45点2012 年 47点2011 年 40点

理科-全体

理科-全体

56.2%(333,889 人)

34.8%(206,942 人)

8.5%(50,626 人)

0.5%(2,901 人)

(占有率)20%

15%

10%

5%

0%

0 20 40 60 80 100 120(点)

(占有率)20%

15%

10%

5%

0%0 20 40 60 80(点)

(占有率)

30%

20%

10%

0%

■一般入試 

■推薦入試 

■AO入試 

■その他

0 20 40 60 80 100 120(点)

201320122011

201320122011

201320122011

201320122011

(平均点)2013 年 28点2012 年 36点2011 年 42点

(平均点)2013 年 68点2012 年 72点2011 年 58点

(平均点)2013 年 35点2012 年 50点2011 年 49点

文科-全体

文科-全体

0 20 40 60 80(点)

(占有率)

30%

20%

40% 40%

10%

0%

(平均点)2013 年 45点2012 年 47点2011 年 40点

理科-全体

理科-全体

56.2%(333,889 人)

34.8%(206,942 人)

8.5%(50,626 人)

0.5%(2,901 人)

(占有率)20%

15%

10%

5%

0%

0 20 40 60 80 100 120(点)

(占有率)20%

15%

10%

5%

0%0 20 40 60 80(点)

(占有率)

30%

20%

10%

0%

■一般入試 

■推薦入試 

■AO入試 

■その他

0 20 40 60 80 100 120(点)

201320122011

201320122011

201320122011

201320122011

(平均点)2013 年 28点2012 年 36点2011 年 42点

(平均点)2013 年 68点2012 年 72点2011 年 58点

(平均点)2013 年 35点2012 年 50点2011 年 49点

文科-全体

文科-全体

0 20 40 60 80(点)

(占有率)

30%

20%

40% 40%

10%

0%

(平均点)2013 年 45点2012 年 47点2011 年 40点

理科-全体

理科-全体

56.2%(333,889 人)

34.8%(206,942 人)

8.5%(50,626 人)

0.5%(2,901 人)

(占有率)20%

15%

10%

5%

0%

0 20 40 60 80 100 120(点)

(占有率)20%

15%

10%

5%

0%0 20 40 60 80(点)

(占有率)

30%

20%

10%

0%

■一般入試 

■推薦入試 

■AO入試 

■その他

0 20 40 60 80 100 120(点)

201320122011

201320122011

201320122011

201320122011

(平均点)2013 年 28点2012 年 36点2011 年 42点

(平均点)2013 年 68点2012 年 72点2011 年 58点

(平均点)2013 年 35点2012 年 50点2011 年 49点

文科-全体

文科-全体

0 20 40 60 80(点)

(占有率)

30%

20%

40% 40%

10%

0%

(平均点)2013 年 45点2012 年 47点2011 年 40点

理科-全体

理科-全体

56.2%(333,889 人)

34.8%(206,942 人)

8.5%(50,626 人)

0.5%(2,901 人)

2次試験得点分布ー数学

推薦・AO入試による入学者が半数近い現状や基礎的・汎用的能力育成の必要性を考えると幅広い学習が重要に 現在、多くの高校では2年生の春から文系クラス・理系クラスに分かれて学習している。しかし文理選択は不可欠なものなのか? 大学入試の現状と社会の動向などにも触れつつ、文理選択と大学入試について金子元久教授にお話を伺った。

数学の得意不得意と2年半で高校の課程を終える現実が早期からの文理選択の要因

筑波大学 大学教育センター 金子元久教授

2次試験得点分布ー国語

*河合塾資料より

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18 Kawaijuku Guideline 2013.11

 しかし早い時期に文理選択をさせてしまっても高校生くらいの年齢では、志望が変わることは十分にあります。また数学ができない等の理由で文系を選んだ生徒が、理系に興味を持ったり、理系選択者が文系へ選択を変更することもあります。

 ただ、大学入試全体の現状を鑑みると、高校での文理選択が本当に必要かどうかは疑問です。一般入試のみに目を向ければ、早期からの文理選択は入試対策としては必要だとしても、現在、推薦入試やAO入試の比率が高まっており<グラフ2>、一般入試以外で受験する生徒にとっては、必ずしも高校での文理選択が必要とは言えないのではないでしょうか。 また理工系に進む生徒は、高校で微分・積分や、理科の学力を十分につけて大学に進学すべきとだというのは事実です。しかし現実には入学試験で要求される数学の学力は低下していますし、理科については入試の要求科目も少なくなっています。いずれにしても、大学で学力に問題があったり、理科科目の未履修の学生のための授業を開講しているのが現実です。むしろ高校までに身につけておくべき基礎的な学力を明確にするべきなのではないでしょうか。

 現在の大学入試、特に大学入試センター試験では、多数の試験科目から選択して受験する仕組みになっています。これは受験する側にとっても混乱を生じさせ、また試験を行う側にも多大の労力を強いています。少なくとも、試験科目数を整理、統合し、例えば、国語、数学、理科、社会、外国語程度にしてはどうかと思います。 さらにこれとは別に、教科・科目と直接に対応しない、基礎学力を測る科目を追加してもよいと思います。基礎学力は言語的な学力と数理的な学力に分かれますが、理系か文系かを問わず、両方の力を測る必要があります。ちなみにOECDが行っているPISA(生徒の学習到達度調査)では文章を読んで推論を立て、データを解析して文章で答えるという、両方の力が必要な問題を採用

しています。 基礎学力を測るテストが導入されれば、大学は「学力試験を課さずに推薦・AO入試で選抜」「基礎学力を測るテストのみで選抜」「基礎学力テストを受け一定の点数を上回ることが推薦・AO入試等を受ける条件」「学科試験で選抜」といった選択ができるようになります。 ただし、基礎学力を測るテストには、生徒に学習の目標を持たせるために、それが学習の達成目標となることが必要です。また、旧帝国大学や有力私立大学のような選抜性の高い大学では、基礎学力テストの有無にかかわらず独自の試験を課すことになるでしょうが、そうした大学でも、入試科目を細分化せず、基礎的な学力や思考力を試すような問題にシフトしていくと思います。

 今後、文系・理系を問わず、基礎的・汎用的能力は必要になります。これまでは、日本の理系人材は精緻な仕事ができればよかったかもしれません。しかし現在は理系職の流動性が高くなっており、新たな職場で人間関係を築けるような力が必要です。また、理系学部を卒業して研究職や技術開発職に就かない学生は、セールスエンジニアなどになっています。ですから、理系にも、言語的な能力やコミュニケーション能力などは必要なのです。 早くから文理選択をすることは、興味・関心を持てる分野に出会う機会を奪うことでもあります。今すぐ文理選択をなくすことは現実的ではありませんが、大学入試の現状を考えても、社会の要求や動向を考えても、ある程度幅広い学習をしてから進路を選択することが大切だと考えます。

<グラフ2> 2012 年度大学入学者選抜実施状況の概要

*文部科学省資料より

(占有率)20%

15%

10%

5%

0%

0 20 40 60 80 100 120(点)

(占有率)20%

15%

10%

5%

0%0 20 40 60 80(点)

(占有率)

30%

20%

10%

0%

■一般入試 

■推薦入試 

■AO入試 

■その他

0 20 40 60 80 100 120(点)

201320122011

201320122011

201320122011

201320122011

(平均点)2013 年 28点2012 年 36点2011 年 42点

(平均点)2013 年 68点2012 年 72点2011 年 58点

(平均点)2013 年 35点2012 年 50点2011 年 49点

文科-全体

文科-全体

0 20 40 60 80(点)

(占有率)

30%

20%

40% 40%

10%

0%

(平均点)2013 年 45点2012 年 47点2011 年 40点

理科-全体

理科-全体

56.2%(333,889 人)

34.8%(206,942 人)

8.5%(50,626 人)

0.5%(2,901 人)

(入学者計 594,358 人)

入学者の半数近い推薦・AO入試で文理選択は必要か

大学での学習に必要な基礎的な学力を測る新しい試験や科目導入という選択肢

長い目で見れば多くの科目を学んだ上での進路選択と基礎的・汎用的能力育成が重要

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