空間多重光通信 大容量光ネットワーク マルチコア …52 ntt技術ジャーナル...

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NTT技術ジャーナル 2014.8 52 大容量光ネットワークを支え る空間多重光通信技術の意義 光ネットワークの大容量化を支えてき た光通信技術の変遷を図1 に示します. これまで,もっぱら 1 本の光ファイバに 光の通り道(コア)が 1 つで,かつ導波 モードが 1 つになるよう設計されたシン グルモード光ファイバが,基本の伝送媒 体として用いられてきました.NTT研究 所では,その広帯域性を最大限に活か す経済的な最先端光伝送方式をタイム リに研究開発 ・ 実用化することにより, 30年で約 5 桁近い大容量化に貢献して きました.1980年代までは, 1 波長を高 速変調する電気多重技術によりGbit/s 級の大容量化が実現され,高信頼 ・ 経 済的な電話網のための基幹ネットワーク が完成されました.1990年代中ごろにな ると,インターネットの普及によるデー タトラフィックを経済的に収容転送する ための光ネットワークの実現が重要とな り,光増幅技術と波長合分波技術の実 用化により,複数波長を多重して光増幅 中継する波長多重光増幅中継システム (WDM: Wavelength Division Multiplex) が実用化されました.シリカ平面光波回 路による波長合分波フィルタの高性能 化が進み,波長多重されるチャネル数が 30を超えたあたりから,高密度波長多重 システムと呼ばれるようになりました. 現在では,ファイバ 1 心で約 1 Tbit/s ( 1 Tbit/sは1000 Gbit/s)容量を伝送す る高密度波長多重光増幅中継システム が実用化されています.さらに近年,大 規 模 超 高 速CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)集積回路 の進展により,100 Gbit/sを超える実用 的な超高速デジタル信号処理を用いて 高感度なコヒーレント検波を実現する, デジタルコヒーレント技術が注目される ようになりました.その実用化と,さら なる高性能化のための研究開発が活発 化しています. デジタルコヒーレント技術は,受信感 度と周波数利用効率を向上するととも に,従来は困難であった長距離伝送時 の光ファイバの歪特性補償性能を大幅 に向上できます.現在,光ファイバの異 なる偏波軸に別々の光信号を 4 値位相 変調信号で変調して偏波多重 ・ 伝送す ることで, 1 波長当り100 Gbit/s級の大 容量伝送が実現され,従来の波長多重 システムと同様に搬送波の周波数間隔 図 1  光通信システムの発展と今後の展開 10 P 1 P 100 T 10 T 1 T 100 G 10 G 1 G 100 M 10 M 1980 1990 2000 2010 2020 2030 (年) (bit/s) 1空間多重光通信技術(SDM) シングルモード 光ファイバの 物理限界 デジタルコヒーレント技術 波長多重光増幅 中継技術 電気多重 :空間多重光通信技術を用いた伝送実験(研究) :空間多重光通信技術を用いない伝送実験(研究) :NTTの実用化システム容量 20 Tbit/s/fiber 400 Gbit/s/ch. 100 Gbit/s/ch. 8 Tbit/s/fiber ファイバ内入力パワー限界・非線形シャノン限界 毎秒ペタビット級伝送の実現を目指した 高密度空間多重光通信技術 NTT未来ねっと研究所 みやもと ゆたか /竹 たけのうち ノ内 ひろかず 1本の光ファイバで現在の100 〜 1000倍を超える毎秒1ペタビット(Pbit)以 上の大容量伝送の実現に向けて,空間多重光通信技術の研究開発が本格化していま す.ここでは,1本のファイバ中に複数のコア(光信号の通り道)を持つマルチコア ファイバや,マルチモードファイバにおけるモード分割多重を駆使することで光ネッ トワークの飛躍的な大容量化を実現する,高密度空間多重光通信技術の最近の研究 開発の現状と展望について紹介します. R & D 空間多重光通信 大容量光ネットワーク マルチコア・マルチモード光ファイバ

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Page 1: 空間多重光通信 大容量光ネットワーク マルチコア …52 NTT技術ジャーナル 2014.8 大容量光ネットワークを支え る空間多重光通信技術の意義

NTT技術ジャーナル 2014.852

大容量光ネットワークを支える空間多重光通信技術の意義

光ネットワークの大容量化を支えてきた光通信技術の変遷を図 1 に示します.これまで,もっぱら 1 本の光ファイバに光の通り道(コア)が 1 つで,かつ導波モードが 1 つになるよう設計されたシングルモード光ファイバが,基本の伝送媒体として用いられてきました.NTT研究所では,その広帯域性を最大限に活かす経済的な最先端光伝送方式をタイム

リに研究開発 ・ 実用化することにより,30年で約 5 桁近い大容量化に貢献してきました.1980年代までは,1 波長を高速変調する電気多重技術によりGbit/s級の大容量化が実現され,高信頼 ・ 経済的な電話網のための基幹ネットワークが完成されました.1990年代中ごろになると,インターネットの普及によるデータトラフィックを経済的に収容転送するための光ネットワークの実現が重要となり,光増幅技術と波長合分波技術の実用化により,複数波長を多重して光増幅

中継する波長多重光増幅中継システム(WDM: Wavelength Division Mul ti plex)が実用化されました.シリカ平面光波回路による波長合分波フィルタの高性能化が進み,波長多重されるチャネル数が30を超えたあたりから,高密度波長多重システムと呼ばれるようになりました.現在では,ファイバ 1 心で約 1 Tbit/s

( 1 Tbit/sは1000 Gbit/s)容量を伝送する高密度波長多重光増幅中継システムが実用化されています.さらに近年,大規 模 超 高 速CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)集積回路の進展により,100 Gbit/sを超える実用的な超高速デジタル信号処理を用いて高感度なコヒーレント検波を実現する,デジタルコヒーレント技術が注目されるようになりました.その実用化と,さらなる高性能化のための研究開発が活発化しています.

デジタルコヒーレント技術は,受信感度と周波数利用効率を向上するとともに,従来は困難であった長距離伝送時の光ファイバの歪特性補償性能を大幅に向上できます.現在,光ファイバの異なる偏波軸に別々の光信号を 4 値位相変調信号で変調して偏波多重 ・ 伝送することで, 1 波長当り100 Gbit/s級の大容量伝送が実現され,従来の波長多重システムと同様に搬送波の周波数間隔

図 1  光通信システムの発展と今後の展開

10 P

1 P

100 T

10 T

1 T

100 G

10 G

1 G

100 M

10 M1980 1990 2000 2010 2020 2030 (年)

(bit/s)

ファイバ1心当りの伝送容量

空間多重光通信技術(SDM)

シングルモード光ファイバの物理限界デジタルコヒーレント技術

波長多重光増幅中継技術

電気多重

:空間多重光通信技術を用いた伝送実験(研究):空間多重光通信技術を用いない伝送実験(研究):NTTの実用化システム容量

20 Tbit/s/fiber

400 Gbit/s/ch.

100 Gbit/s/ch.

8 Tbit/s/fiber

ファイバ内入力パワー限界・非線形シャノン限界

毎秒ペタビット級伝送の実現を目指した 高密度空間多重光通信技術NTT未来ねっと研究所

宮みやもと

本  裕ゆたか

/竹た け の う ち

ノ内 弘ひろかず

1本の光ファイバで現在の100〜 1000倍を超える毎秒1ペタビット(Pbit)以上の大容量伝送の実現に向けて,空間多重光通信技術の研究開発が本格化しています.ここでは,1本のファイバ中に複数のコア(光信号の通り道)を持つマルチコアファイバや,マルチモードファイバにおけるモード分割多重を駆使することで光ネットワークの飛躍的な大容量化を実現する,高密度空間多重光通信技術の最近の研究開発の現状と展望について紹介します.

R&D

空間多重光通信 大容量光ネットワーク マルチコア・マルチモード光ファイバ

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NTT技術ジャーナル 2014.8 53

R&Dホットコーナー

50 GHz間隔において,既存の光ファイバを用いた10 Tbit/s級の大容量光ネットワークが実用化レベルにあり,研究レベルでは多値数を64 〜 128値に高度化することで100 Tbit/sの大容量伝送が報告されています.

しかし,100 Tbit/sを超えるさらなる大容量化には,光伝送媒体,伝送方式上のさまざまな限界がみえつつあります.そのような中で空間多重光通信技術(SDM: Space Division Multiplexing)は,媒体としての光ファイバに空間の自由度という新しい要素を付加し,デジタル信号処理をさらに高度化することにより,従来のシングルモード光ファイバの物理限界を超える大容量化技術として提案され(1),近年研究開発が活発化しています.

NTT未来ねっと研究所イノベイティブフォトニックネットワークセンタ(IPC)では,100 Tbit/sを超えて毎秒ペタビット級( 1 Pbit/sは1000 Tbit/s)の 伝 送容量まで拡張可能なスケーラブル光ネットワークの実現に向け,長期的な視点でNTT独自のシステム技術とキー部品 ・ 材料技術を結集し,さらにNTT研究所内外の人材 ・ 技術と広く連携することで,空間多重光通信技術の高密度化を可能とする将来の革新的基盤技術の研究開発を推進しています.ここでは,将来にわたり持続的に伝送容量を拡張可能なスケーラブル光ネットワークを実現する基盤技術の 1 つとして,高密度空間多重光通信技術の研究開発状況について紹介します.

シングルモード光ファイバを用いた光通信システムの技術課題

従来の光伝送技術における第 1 の課題は,光ファイバ中の非線形光学効果* 1

による周波数利用効率の制限です.一

般的な通信理論によれば,一定の信号対雑音比に対する周波数利用効率(帯域当りの通信容量)の上限は,理論的にシャノン限界* 2で与えられます.光ファイバ通信システムでは,通信容量を増やすために通信容量に比例して信号パワーを上げると,光ファイバの非線形光学効果によりWDM信号間にクロストーク(光信号の漏れ込み)や波形歪みが生じ,信号を長距離伝送できなくなります.このため光ファイバ通信システムにおける周波数利用効率は,非線形光学効果によりシャノン限界で与えられる値よりさらに制限されます.近年のWDMシステムでは,高性能誤り訂正技術を適用することで,送信信号パワーを非線形効果が顕在化しない信号パワーにおいて設計することで大容量化が実現されてきました.最近では,これらの非線形光学効果による伝送劣化をデジタル信号処理により補償する技術も検討されています.さらに,海底伝送システムでは,光ファイバの選択に自由度があるため,コア径拡大により非線形光学効果を低減した光ファイバが適用されています.これらの要素技術を組み合わせて,非線形光学効果を抑圧し,周波数利用効率向上を図る長距離大容量システム設計技術は今後も着実に進むと考えられます.しかしながら,長期的に 1 桁をはるかに超えるシステム利得の向上,すなわち100 Tbit/s以上の伝送性能のスケーラビリティの飛躍的な拡大を実現するためには,シングルモード光ファイバにおける,周波数利用効率の物理的な限界を超える新しい技術が必要とされています.

第 2 の課題は,光ファイバ損傷しきい値による光入力パワー制限です.波長多重光増幅中継システムの実用化に際しては,光通信システムにおける光ファイ

バ内入力パワーの高パワー化が進み,典型的な光信号パワーは現状,約100 mW程度( 1 波長当り 1 mW程度)となっています.さらなる大容量化を進めると,本質的にファイバ内の信号入力パワーをさらに上昇させる必要があり,光増幅中継器の出力パワーを今より向上させるとともに,光ファイバ内の許容される入射パワーを考慮する必要があります.その物理的な限界として,光ファイバのファイバフューズと呼ばれる熱破壊現象を考慮する必要があります.ファイバフューズは光ファイバの直径約10μmのコア部分を光信号が伝搬時に,何らかの原因で局所的な損失が生じた場合に光吸収が起こり,コア部分の温度が急上昇すると,コア部分が溶融しながら光源側に伝搬する現象です.既存の光ファイバのファイバフューズの伝搬が止まるしきい値パワーが詳細に調べられ,1.2〜1.4 W程度であることが知られています.これらの現象を回避するためのフィールド環境における高パワー信号を安全に取り扱う運用技術や安全ガイドラインが確立され,実用システムにおいてはこれまで安全な運用が図れてきました.したがって,さらなる大容量化に向けてはファイバフューズの制限を回避する耐パワー性と保守者の安全性が高い光ファイバ ・ 光コネクタ ・ 光通信システム技術の研究開発が必要となります.

空間多重光通信方式の概要前述した 2 つの課題を克服するため

に,図 2 のように光ファイバの空間の自由度を最大限に利用し,コアの断面

*1 非線形光学効果:光強度に依存して,光信号の位相や周波数などが変調される現象.

*2 シャノン限界:通信チャネルが持つSNRと周波数帯域幅によって決まる,これ以上データ伝送速度を上げられない伝送容量の限界のこと.

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NTT技術ジャーナル 2014.854

積を増加させることにより,伝送容量を拡大しても光信号のパワー密度が上昇しない空間多重光通信方式が提案され,大別して以下の 2 つが検討されています(2).

(1)  マルチコアファイバを用いた光空間多重伝送方式

1 心のファイバ中に,コアを複数形成したマルチコアファイバを用いた空間多重光通信方式では,コア数を増やすことで,コア当りのパワー密度を増加させることなく,ファイバ 1 心当りの総伝送容量を拡大できる利点があります.コア間の独立性を確保したマルチコア光ファイバ通信システムでは,コア間の光信号のクロストークの設計が,もっとも重要となります.従来の光ファイバと同様のシングルモードコアから構成されるマルチコア光ファイバ通信システムにお

いては,コア間クロストークを考慮したコアの配置設計を適切に行うことで,従来のシングルモード光ファイバと同様の光送受信システムを用いて 1 本のファイバでコア数分の大容量化が可能となります.

(2)  マルチモードファイバを用いた空間多重光通信方式

マルチモードファイバを用いた空間多重光通信方式では,コアの断面積を拡大し,パワー密度を減らすマルチモードファイバを用います.コアの断面積を拡大するため,必然的にコアにおいて伝搬を許容される導波モードが複数となるマルチモード光ファイバになります.これまでの光通信システムでは,同じ波長(光搬送波周波数)において個々のモードに別々な信号を乗せて多重伝送することは困難でした.それは,

受信側で異なるモードで伝送された個々の信号を分離することが技術的に困難だったからでした.しかしながら,近年の携帯電話や無線LANなどで開発されたMIMO(Multiple Input Multiple Output)* 3 信号処理を応用した送受信端のデジタル信号処理を光通信システムに適用することで,受信側でのモード分離の可能性が示されました.この結果,許容されるモード数を増やすことで空間多重数を向上するモード分割多重光通信方式がさかんに検討されています.分離可能なモード数は,主にモード間の遅延量とデジタル信号処理量の実現性で本質的に決まり,現状の研究レベルではメモリ ・ 計算機による

図 2  空間多重光通信技術の概要

空間多重光通信技術による伝送容量のスケーリング:M × N > 100

DSP Tx 1

DSP Tx 2……

………

DSP

DSP

(2N×2N MIMO

信号処理回路)

(2N×2N MIMO

信号処理回路)

Tx M

Tx 1モード 2

モード 1

モード 2

モード 1

モード 1

モード 3

Tx 2

Tx N

Tx

Rx:受信フロントエンド回路Tx:送信フロントエンド回路DSP(Digital Signal Processing):デジタル信号処理回路

DSPRx

Rx 1

Rx 2

Rx N

マルチコアファイバ(コア数:M >10)

マルチモードファイバ(モード多重数:N>10)

従来のシングルモード光ファイバ

and/or

DSPRx 1

DSPRx 2

DSPRx M

*3 MIMO:複数の送受信機を組み合わせてデータの送受信の帯域を広げる通信技術.

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R&Dホットコーナー

実験的なデジタル信号処理(オフライン処理)により,偏波モードを除く 6モードまでの多重分離伝送実験が報告されています.

上述したマルチコアファイバ,あるいはマルチモードファイバを用いた空間多重光通信方式は各々独立な技術であるため,これらを適切に組み合わせることで,波長多重システムと同様に多重数として,将来的には30 〜 100を超える空間多重数を持つ高密度空間多重光通信システムを実現できる可能性があります.

空間多重光通信技術の実験例と今後の発展

空間多重光通信の研究開発は近年活発化し,これまでに損失や分散などの特性は従来のシングルモード光ファイバとほぼ同等のものが研究レベルで実証されつつあります.マルチコア光ファイバと従来のシングルモード光ファイバのインタフェース技術(ファンイン ・ファンアウトデバイス,融着技術)に

関するデバイス技術も進展し,マルチコアファイバを用いた大容量伝送実験や長距離伝送実験が多数報告されてます.最近の研究状況を図 3 に示します.最近の伝送容量のトップクラスのデータは,いずれも現時点ではマルチコアファイバを用いた伝送実験です.NTT研究所では,情報通信研究機構の委託研究の一部支援の下,他研究組織と連携して,図 3 の斜線部分のような最先端の成果を実証してきました(3)〜(5).最近私たちは,コア当りの周波数利用効率 を 高 め る こ と が で き る16値QAM

(Quad ra ture Amplitude Modulation)や32値QAMなどの多値度の高い変復調技術と,シングルモード ・ 12コアマルチコアファイバを用いた空間多重技術を併用することで,2012年 9 月には総伝送容量 1 Pbit/sを超える大容量伝送実験(3)(http://www.ntt.co.jp/news2012/ 1209/120920a.html),2013年 9 月 に はPbit/s容量級の長距離伝送実験(4)に世界で初めて成功しています.

コア間の信号の独立性を保ちつつ多重数(コア数)を増加させるためには,まずコア間のクロストークをある程度抑えなければいけません.そのために一定距離以上のコア間隔を維持しながらコア数を増加させる配置設計を行う必要があります.

一方で,機械的な信頼性確保の点からマルチコア光ファイバのクラッド直径には上限(200 μm程度)を考慮する必要があるため,無制限にコア数を増やすことができないトレードオフがあります.図 4 に,これまでのマルチコア空間多重伝送を用いた大容量伝送実験に関して1000 km伝送後のクロストークと,空間多重数の関係をプロットしました.これまでコア数Nとして 7 〜 19のシングルモードコアのマルチコアファイバ伝送が報告されていますが,クラッド径の制限下では,コア数の増加とともにクロストークが急激に増加してしまうため,空間多重数は19にとどまっています.今後のデジタルコヒーレント伝送技術の発

図 3  空間多重光通信技術の研究開発状況

10000

(Tbit/s)

1000

100

10

11 10 100

伝送距離

10 Ebit/s×km

10 Ebit/s×km

1000 10000 (km)

シングルモードコアのマルチコアファイバ(双方向伝送)

マルチコア・マルチモードファイバ

シングルコア・マルチモードファイバ

シングルモードコアのマルチコアファイバ

従来のシングルモード光ファイバの物理限界

シングルモードファイバ(シングルコア)

ファイバ1心当りの伝送容量

1 Ebit/s×km100 Pbit/s×km10 Pbit/s×km1 Pbit/s×km

0.1 Pbit/s×km

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NTT技術ジャーナル 2014.856

展を考慮すると,実用レベルの 4 値より 多 値 度 の 高 い 変 調 方 式( 8 〜64QAM)の適用も考えられ,コア間の許容クロストーク量は−30 dB以下であることが望ましいと考えられます.さらに,インフラ用光ファイバとしては,シングルコアファイバと同様に,数10年以上にわたり多重度のスケーラビリティを確保できることが望ましいと考えられます.NTT未来ねっと研究所IPCでは,社内外の関連研究機関と連携し,2014年 3 月に各コアにおいて 3 つの異なるマルチモード多重分離を実現した12コアのマルチコア ・ マルチモードファイバを用いた空間多重数が30を超える超高密度空間多重伝送実験(空間多重数36= 3 モード多重×12コア多重)に世界で初めて成功しました(5),(6).コア間のクロストークを抑えつつ,多重度のスケーラビリティを30〜100以上に拡張できるマルチコア ・ マルチモードファイバを用いた超高密度空間多重光通信の長距離化等,今後の進展が期待されます.

■参考文献(1) T. Morioka: “New Generation Optical Infra­

structure Technologies “EXAT Initiative”Towards 2020 and Beyond,” OECC2009,FT4,Hong Kong,China,July 2009.

(2) Y. Miyamoto, H. Takara, and A. Sano:“Crosstalk­managed multicore fiber transmission with the capacities beyond 1 Pbit/s,” ACP 2013, AF3D. 2,Beijing, China, Nov. 2013.

(3) H. Takara, A. Sano, T. Kobayashi, H. Kubota,H. Kawakami, A. Matsuura, Y. Miyamoto, Y. Abe, H. Ono, K. Shikama, Y. Goto, K. Tsujikawa, Y.Sasaki, I. Ishiba, K. Takenaga, S. Matsuo, K. Saitoh, M. Koshiba, and T. Morioka: “1.01­Pb/s

(12 SDM/222 WDM/456 Gb/s)Crosstalk­managed Transmission with 91.4­b/s/Hz Aggregate Spectral Efficiency,” Proc. ECOC 2012, Th.3.C.1, Amsterdam, Netherlands, Sept. 2012.

(4) T. Kobayashi, H. Takara, A. Sano, T. Mizuno, H. Kawakami, Y. Miyamoto, K. Hiraga, Y. Abe, H. Ono, M. Wada, Y. Sasaki, I. Ishida, K. Takenaga, S. Matsuo, K. Saitoh, M. Yamada, H. Masuda, and T. Morioka: “ 2 ×344Tb/s Propagation­direction Interleaved Transmission over 1500­km MCF Enhanced by Multicarrier Full Electric­field Digital Back­propagation,”ECOC 2013, PD3. E. 4, London, U. K., Sept. 2014.

(5) T. Mizuno, T. Kobayashi, H. Takara, A. Sano, H. Kawakami, T. Nakagawa, Y. Miyamoto, Y. Abe, T. Goh, M. Oguma, T. Sakamoto, Y. Sasaki, I. Ishida, K. Takenaga, S. Matsuo, K. Saitoh, and T. Morioka: “12­core× 3 ­mode

Dense Space Division Multiplexed Transmission over 40 km Employing Multi­carrier Signals with Parallel MIMO Equalization,” OFC 2014, Th5B. 2, San Francisco, U.S.A., March 2014.

(6) http://www.ofcconference.org/home/news­and­press/ofc­nfoec­press­releases/day­ 5 ­thursday, ­march­13­final­day­of­ofc­includ/

(左から) 宮本  裕/ 竹ノ内 弘和

 今回紹介した高密度空間多重光通信技術は,将来の光ネットワークの飛躍的な大容量化を実現する主要技術になっていくと期待されています.今後も持続的な光ネットワークの発展に向けた,革新的な基盤技術の確立を目指します.

◆問い合わせ先NTT未来ねっと研究所 イノベイティブフォトニックネットワークセンタTEL 046-859-3064FAX 046-859-5541E-mail miyamoto.yutaka lab.ntt.co.jp

図 4  高密度空間多重光通信の実現に向けた検討

(dB)

0

-10

-20

-30

-40

-50

2 7 10 20 30 50 100

1000 

km伝送後のコア間クロストーク量

空間多重数(N×M)

高密度空間多重(空間多重度30~100)

各変調方式における伝送劣化 0.5 dB以下の許容クロストーク量

64QAM32QAM16QAM8QAMQPSK

N×M=12× 1

N×M=19× 1

N×M= 7 × 1

N×M=12×3