算術教育入門 加法と減法と補助数字...1 算術教育入門...

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1 算術教育入門 加法と減法と補助数字 典型的な筆算の指導 東京・荒井公毅 もっとも基本となる筆算の指導については,『たしざん ひきざ んプリント集』(上・下,荒井公毅著,1997 年,国土社)で詳し く説明しました。今回の資料は,水道方式でいう水源地と呼ばれる 典型的な筆算(2位数+2位数,2位数-2位数といった計算)の 指導です。この計算は,補助的な数字(補助数字)を書くことで, 間違いを少なくすることができます。そこで,補助数字の書かせ方 についての試みは,昔からありました。ただ,系統的に,先を見通 した書かせ方というものは,私の知るかぎりありませんでした。そ こで,今回,今までの自分自身の実践結果から導きだした,授業科 学といえる指導法を紹介することにしたのです。 (2017 年 06 月) 自分が属している例会で発表したところ,若い先生方から,たい そういい評価を頂きました。そこで,多くの人に知ってもらいたい と考え,今回,増補・改訂したのが,この資料です。 さて,この提案には,前提条件があります。その条件とは,3年 生以上の学年では,5ミリ方眼のノートを使うということです。指導 するときには,必ず準備させてください。 (2019 年 02 月)

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算術教育入門

加法と減法と補助数字

典型的な筆算の指導

東京・荒井公毅

もっとも基本となる筆算の指導については,『たしざん ひきざ

んプリント集』(上・下,荒井公毅著,1997年,国土社)で詳し

く説明しました。今回の資料は,水道方式でいう水源地と呼ばれる

典型的な筆算(2位数+2位数,2位数-2位数といった計算)の

指導です。この計算は,補助的な数字(補助数字)を書くことで,

間違いを少なくすることができます。そこで,補助数字の書かせ方

についての試みは,昔からありました。ただ,系統的に,先を見通

した書かせ方というものは,私の知るかぎりありませんでした。そ

こで,今回,今までの自分自身の実践結果から導きだした,授業科

学といえる指導法を紹介することにしたのです。(2017年 06月)

自分が属している例会で発表したところ,若い先生方から,たい

そういい評価を頂きました。そこで,多くの人に知ってもらいたい

と考え,今回,増補・改訂したのが,この資料です。

さて,この提案には,前提条件があります。その条件とは,3年

生以上の学年では,5ミリ方眼のノートを使うということです。指導

するときには,必ず準備させてください。 (2019年 02月)

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水道方式の発展Ⅰ

長加法と短加法と補助数字

長加法,短加法という言葉は,筆者が使いはじめたものです。わ

り算に長除法,短除法という言葉があったので,その考え方を加法

(たし算)にも適用したというわけです。

さて,加法では,繰り上がった1を,どう書くかが問題になりま

す。多くの場合,1を上に書きます。これは,繰り上がった1を加

えるときに間違えないからです。2位数+2位数の計算からは,こ

こで,紹介する長加法を使って指導すると,補助数字(補助記号と

しての数字)の書き方が,変わってきます。これは,長加法で書い

ていた数字を,小さくして,補助数字にするからです。

(1)2位数+2位数(長加法)

右にある二つの計算のよ

うに,一の位,十の位と別々

に計算し答えを書き,その

のち加えて答えを求める計

算を「長加法」と呼ぶことに

したのです。この長加法と

いう言葉は,一般的な加法

と区別するためです。この

長加法で計算すると,1年生からできるようになります。もちろ

ん,2年生で,2位数+2位数を学習する計算の苦手な子どもた

ちにとっても,かりやすく,間違いなくできる書き方です。

さて,くり上がりがある2位数+2位数では,一の位だけにく

り上がりがある計算(左 36+27,29+29 型)と,一の位と十の

位ともにくり上がりがある計算(右 96+87,99+99 型)があり

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ます。左と右のような二つのたし算を長加法で計算すると,二つ

をあまり区別することなく指導することができます。

(2)長加法から長短加法へ(長短加法Ⅰ)

長加法の指導では,

問題になりませんが,

短加法へと導くため

には,指導の流れが

大切です。左の 36+

27 と,右の 96+87

では,右の 96+87 から指導します。これは,左(36+27,29+

29 型)の問題数が 1300 なのに対して,右(96+87,99+99 型)

の問題数が 4860 あるからです。右の方が,一般的なたし算とい

えます。

上の二つの計算は,短加法へいくための途中の段階(長短加法)

の書き方です。長加法から短加法へは,直接すすむと理解できな

い子どもたちがでてきてしまうからです。子どもたちに理解させ

ようとしたら,ステップを小さくすることが指導のコツです。

(3)長加法から長短加法へ(長短加法Ⅱ)

長加法から短加法へとは,すぐに移行で

きないために,途中の段階として長短加法

が必要になります。

36+27のような十の位の計算に繰り上

がりないものは,⑵から⑶へ進むことがで

きますが,96+87のように,十の位にも

繰り上がりのあるたし算の場合は,ここに

あるような段階が必要になります。補助数字は,忘れないように

するための,頭の補助をするための数字というわけです。

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この段階が必要な計算があります。そ

れは,56+47のように,十の位では繰り

上がりがないのに,一の位の繰り上がり

ために,それにひきずられて十の位に繰

り上がりができてしまう場合です。それ

が右の計算で,このように補助数を書か

せることで,子どもの間違いを減らすこ

とができます。

(4)2位数+2位数(短加法)

左の計算は,2位数+2位数で一般的

な(問題数が多くある)繰り上がりがあ

るものです。長加法,長短加法Ⅰ,Ⅱと

順序よくやってくると,左のように補助

数字を書くことに何の抵抗もありません。

このような書き方を短加法と呼ぶことに

したのです。

ところで,繰り上がった1を下に小さく書くと,かけ算のとき

に書く補助数字と似てくるという心配があります。しかし,途中

に1段で書き表す長短加法を教えていれば,難しいことなく指導

することができます。

右の 36+27(29+29 型)のように,一

の位だけが繰り上がるたし算の数は,1300

題あります。

29+29 型と呼ばれる右の計算ような計

算は 1300 題あって,そのうち,繰り上が

った1で繰り上がるたし算(次ページ,56

+47)は,252 題あります。29+29 型の計算全体のおよそ2割で

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す。56+47 のような計算は,⑶にある長

短加法Ⅱの段階(前ページ,右上の計算)

の指導が必要となります。これは,56+47

のような計算は,29+29 型としてではな

く,99+99 型の計算の特殊な型として,

扱った方がよいからです。

2位数+2位数で,繰り上がりがあるた

し算の指導は,長加法では,問題数の多い 99+99 型,29+29 型

の順になります。このときも,29+29 型の特殊型である 56+47

(29+79 型)をやってから,29+29 型の一般的な(36+27 のよ

うな)計算へと進めていきます。指導のすべてが,一般から特殊

ではなく,特殊から一般への指導の流れもあるのです。

(5)3位数+3位数

たし算についていえば,2位数+2位数の段階で,「全員が短加

法を使いこなせる」ようになって欲しいものです。これは,2年

生で短加法を使いこなせるようにする,ということです。

3年生になると,右のような3位数

+3位数の計算がでてきます。このと

きに,まだ長短加法で計算していると,

2位数×1位数の長短乗法の計算を指

導するときに,似ているので混乱する

ことがあるからです。

指導は,繰り上がりのない222+222

型から始めます。次に繰り上がりのある 299+299型,229+279型,

229+229 型,292+292 型の順に指導していきます。最後に,千の

位に繰り上がる 999+999 型,929+929 型,992+992 型となりま

す。299+299 型の筆算が,計算力向上に最も重要な型といえます。

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水道方式の発展Ⅱ

くり下がりがある減法の補助数字 繰り下がりのあるひき算のもっとも基本となる計算,12-9型

(13-7のような 1年生で学習する計算)は,答えを求めるため

に,2回ひき算をする減減法か,ひき算とたし算をする減加法のど

ちらかをします。そこで,子どもたちにとって分かりやすい「1年

生から筆算を使う減加法」を紹介してきました。

私が紹介してきた減加法の補助的な数字(補助数字)の使い方と

似たものが,教科書(東京書籍)3年生のひき算に載るようになり

ました。これは,できない子どもたちが多かったために,3年生で

入れたという感じです。さて,わり算のアルゴリズムでの「ひく」

にあたるひき算へつながる指導,という考え方がこの資料です。

(1) 2位数-1位数(12-9型)

1年生で学習する 13

-9のような繰りさがり

のあるひき算は,もっと

も基本となる計算です。

そこで,ひき算の答えを

暗記することが目標にな

ります。

しかし,すぐに暗記と

いっても,なかなかでき

るものではありません。

そこで,まず,10 の補数

(1と9,2と8,3と

7……)を,暗記させま

す。10-のひき算という

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よりは,10 の合成と分解が何とかできるようになれば,前ページ

のようなやり方で,くり下がりがあるひき算を教えることができ

ます。(荒井公毅『たしざん ひきざんプリント集』1997 年,国

土社)

3から9は,ひけません。そこで,となりの十の位から1本(1十)

借りてきて,10個(10)に変身します。変身した 10から9をひ

きます。ひいた残りは,1です。はじめからあった一の位の3と,10

からひいた残り1をたして(合わせて)4と答えがでます。

と,指導することができます。このように,借りてきた 10 から

ひいて,ひいた残りをたして,答えを求める方法を「減加法」と

よんでいます。ひき算の教え方には,この減加法のほかに減減法

があります。減減法というのは,13-9の場合,ひく9を3と6

に分解します。3-3,10-6とひき算を2回することから,こ

の名前がついています。

さて,くり下がりがあるひき算のタイル操

作を教えたあとに,左の図のように補助数字

を書いてドリルします。最終目的が暗算です

から,左のやり方でずっとやっているわけに

はいきません。

そこで,まず,右上の図

のように補助数字を書きま

す。借りた1を消して,借

りてきた 10 と5を合わせ

て(〇で囲んで),15 としてみます。その 15 か

ら-8をします。つぎに,右下の図のように,借

りた1を消したあとに,1を一の位に直接書いて

15 にします。最終的には,右の図のように補助

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数字を書いて,暗算で答えを求めます。この書き方にすると,2

位数-2位数や3位数-3位数で,くり下がりがあるひき算があ

るときに,利用することができて大変便利です。

ひき算のもっとも基本となる計算(素過程という)は,かけ算

九九のように,すぐに答えがだせるようになることが最終の目的

です。これは,桁数の多いひき算が,基本となる計算(素過程)

が集まってできているからです。基本となる計算を覚えれば,あ

とはそれを使うだけです。まさに,「基本の計算を,知って,覚え

て,使って,計算力を磨きましょう」となるわけです。昔は,こ

の素過程を「減法九九」とって,九九のように唱えさせる指導も

あったのです。

(2)2位数-2位数(92-29型)

教科書では,筆算の計算を学習するのは,2年生です。これは,

1年生が-1位数の計算で,-2位数の計算は2年生だからです。

さて,2位数-2位数の筆算では,はじめ一の位,十の位に,繰

りさがりのないひき算から練習します。そ

れから,一の位に繰りさがりあるひき算と

いう順番で指導します。

2年生でも,くり下がりがあるひき算の

習熟が不完全な子どもがいるので,左の図

から,進めていくとよいでしょう。このと

き,2年生で前ページ(7ページ)のよう

な指導はしません。これは,前ページの計

算が1年生の内容で,できないから復習す

るという感じで,2年生としての自尊心を

傷つけてしまうからです。

2位数-2位数のくり下がりがあるひき算で,くり下がりの計

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算手順をていねいに扱います。-2位数になっただけで,7ペー

ジのくり下がりの指導と同じです。8ページの51-38の計算が,

はじめの導入です。

このやり方が理解できたら,右の図の上,

下と進んでいきます。借りてきた 10 を一の

位に入れて,右のように〇で囲んで 11 にし

てしまうことが指導のヘソです。これで,11

-8というもっとも基本となる計算(素過程)

になります。

さて,素過程を覚えている子が多くいるの

で,いつまでもやらせると「できる子の謀叛」

が起きて逆効果になります。素過程の定着が

不十分な子どもに対しては,8ページや右上

の図のやり方を認めます。そして,徐々に右

下の図の書き方へ移行していきます。

素過程を十分に暗記している子どもは,頭

の中で計算する傾向があります。右下の図のように補助数字を書

かせることで,位が増えたひき算でのミスを減らすことができま

す。そこで,2年生では,右下の図の書き方で統一します。ノー

ミソの働きのように,書かせることが低学年にとっては,大切な

指導だからです。

もっとも基本となるひき算は,暗記するのが目標でした。そこ

で,もっとも基本となるひき算のドリルは,繰りかえし練習し,

ひき算の答えがすぐにでるようにしなくてはなりません。2年生

で,このもっとも基本となるひき算を暗記させることが,3年生

以上のひき算の土台となります。そのことを教師が意識して,ド

リルさせることが大切です。

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(3)3位数-3位数(922-299型)

51-38(92-29 型)ができるように

なると,3年生で学習する3位数-3位

数で二つくり下がりがある計算(922-

299 型)も,簡単に理解することができ

ます。計算する手順(アルゴリズム)が

同じだからです。基本となるひき算(右

図の一の位 12,十の位では 14)に変身

する位置が,一の位と十の位では違っています。この違いを知っ

て,覚えて,使え(練習すれ)ば,確実にできるようになります。

3位数-3位数で,くり下がりのない典型的な問題(999-222

型)は4万 6656 題あります。一の位にくり下がりがある計算(992

-229 型),十の位にくり下がりがある計算(929-292 型),一と

十の位の二つにくり下がりがある計算(922-299 型)は,どれも

同数の3万 6288 題あることがわかっています。

そこで,指導の順番は,

① 999-222 型(繰り下がりがない)

② 922-299 型(一の位,十の位,共に繰り下がりがある)

③ 992-229 型(一の位に繰り下がりがある)

④ 929-292 型(十の位に繰り下がりがある)

となります。

さて,一の位のひき算をすると,十の

位が0(右の図,514-376)になるよ

うな計算についてです。一の位に1(1

本=10 個)貸してしまうと十の位は,

0になってしまいます。百の位から1借

りてくると,十の位は 10 になります。

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子どもたちの中には,0が特別なものと思っていることがありま

す。そこで,十の位が0になる場合の計算は,教える必要がある

のです。

今度は,十の位がもともと0の場合です。

右の図のような 602-279 のような計算で

す。一の位のひき算をしようとすると,十の

位が0で,借りる数がありません。そこで,

百の位から借りてきます。百の位は1貸し

て6→5,十の位は借りてきて 10 になりま

す。この 10 を一の位に1貸して 10→9に

なります。一の位は 12-9,十の位は9-7,百の位は5-2と

計算します。

この 602-279 のような計算で,簡単そ

うに思えて,間違える子どもたちの多い計

算が,右図のような 602-8です。ひく数

の十の位,百の位が空いていて,0が書か

れていません。位が空っぽです。この位が

空っぽという意味の「空位」を,数学者は

「0」と書くということが,わかっていないので,混乱してしま

うのです。空位の0,これを意識化させることが大切なのです。

指導としては「ノーミソの目で,まぼろしの0を見つけよう」と

教えるのがよいでしょう。

(4)3位数-3位数(922-299型)の発展

補助数字(補助記号としての数字)の書き方について,これで

おしまいという訳にはいきません。いわゆるひき算の計算ならば,

⑶までのやり方でいいのですが,4年生から学習するわり算の中

にあるひき算では,この補助数字の書き方では困ったことがおき

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てしまいます。それは,1行に収ま

らないということです。823÷34の計

算(右)をみると,〈ひいて〉で繰り

さがりのひき算があります。そのた

め,わり算でのひき算は,右図のよ

うに,1段に収まるように,補助数字

を小さく書く必要性が生まれます。

右上がおすすめの補助数字の書き方

です。右下のような補助数字の書き方

もありますが,頭に記憶する部分があ

って,できない子がでてきます。

右上のように,繰りさがった「1」

を書かせることが大切です。この練習

は,3年生の後半から4年生の前半ま

でに,知って,覚えて,使えるように

させておきます。

11ページに

あるような補

助数字の書き方から,左のような書き方へと

練習をすることになります。このとき,ノー

トは,5ミリ方眼のものを使います。このノ

ートに,1センチ方眼の数字一つを書かせる

ようにします。右図のマス目が5ミリ方眼を

表しています。補助数字は,5ミリ方眼の中

に小さく書かせます。

全員が補助数字を小さく書けるようになる

までは,左のように計算の上を空けて,補助

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数字が書けるようにします。ノート指導をするときに,全員が同じに

なるようにするためです。一斉指導のコツといってよいでしょう。

(5)さくらんぼ計算ではなく筆算を

●親たちのなげき

小学生の子が、さくらんぼ計算でつまずいています。算数大好き、

計算大好きだったのに、最近浮かない顔してるなぁ、と思って聞いて

みたら「さくらんぼ計算がよくわからない………」というのです。

確かに足し算のさくらんぼはまだわかるのですが、引き算になる

と、逆に混乱してしまうみたいです。答えはパッと出せるし、全部あ

っているのに、さくらんぼ部分が埋まらくて苦慮しているので、「先

に答え書いて、あとでさくらんぼは埋めなさい」とアドバイスしたら、

すらすら進むようになったわけです。(SNSで見つけたもの)

●教科書のやり方とは

まずは,教科書(東京書籍,1年下,2014年版)をみてみまし

ょう。「13-9」の繰り下がり

のあるひき算の説明です。「3

から9はひけない」と書かれ

ていますが,どうして「ひけな

い」のでしょうか。

3から9をひけば,残り6

です。さらに,このひく6を10

からひくという考え方があり

ます。この考えを「減減法」と

いいます。教科書にあるブロ

ック図では,この減減法を否

定することはできません。3

と 10にわけたのですから,どちらの数からもひくという減減法を

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使えば,1と3をたす必要性はありません。教科書は,減減法の

方が「理に適っている」といってよいでしょう。

教科書の説明のように,10-9を計算し,わけた3とたし算す

るという考え方を「減加法」といいます。この減加法は,十進位

取り記数法があって,説明できるものなのです。十進位取り記数

法というのは,一の位,十の位といった位取りがあって,10にな

ると,次の大きい位に進んでいくという数の表し方です。漢字の

記数法は,九・十・十一というように,位がありません。

●十進位取り記数法

右が教科書です。図を見ると,位取りのよう

な感じがしますが,13を 10に分解しただけで

す。ブロックも 10のままで,一の位の3と「違

う位だ」

とはわ

かりま

せん。

左は,拙著の位取りの説

明です。水道方式のタイル

を基に,十を「本や個」と

同じように,個別単位とし

て考え,説明しています。

水道方式のタイルを使う

ことで,一の位が 10 個に

なると,1本に変身して十

の位に進みます。これが,

タイルを使った,十進位取

り記数法の説明です。

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右図は,36 を使って説明しています。これは,十進位取り記数法

の原則に従えば,10~99 で同じ法則が使えます。また,10~19 を最

初に説明していないのは,日本語の構造上の問題からです。たとえば

13 を右図に入れてみると,1本3個で,日本語では1十3になりま

すが,1十の1を省略して読むのがふつうだからです。

文字(十)のまえの係数1は,省略するという数学的な考え方が,

ここでも適用できるということです。

●位取りなくして,繰り下がりを教える(教科書を料理する)

百歩譲って,教科書準拠で 13-9を説明したら,どうなるかとい

うと,下の図のようになります。13 ページの教科書の図と,比べて

みてください。どうでしょうか,わかりやすくなっていませんか。

ところで,算数教育関

係者は,左のようなタイ

ル図のひき算を,絶対に

書きません。それは,タ

イル図が,筆算の形式になっているからです。また,このタイル図の

書き方が,差を求めるひき算(求差)になっています。これもダメで

す。水道方式を推し進める数学教育協議会(略して数教協)の先生方

からも,このタイル算は,拒否反応を示されます。これは,ひき算は,

残りを求めるひき算(求算)で教えることになっているからです。

●補助数字を教える(料理しても限界がある)

教科書には,右のような補助数字を使ったもの

が書かれています。上の図(タイル算)と対応し

て見ると,13 を 10 と3にわけ,10 から9をひく

というようになります。この 13 を 10 と3わけた図が,さくらんぼ

に似ていることから,さくらんぼ計算といわれたのだと思います。

さて,上のタイル算は,あくまでも教科書準拠です。教科書のよう

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な補助数字(さくらんぼ計算)を使えるのは,1年生の繰り下がりを

学習する一時期だけです。これから学年があがってしまい筆算になる

と,全く使えません。その場(1年のこの時期)かぎりの指導法で,

子どもたらが,知って,覚えても,2年生以上では全く使うことがな

い,いや使えないのです。

このような汎用性のない指導法を,子どもたちに押しつけても,算

数が嫌いになるだけです。1年生から筆算を教えた方が,指導上,合

理的であり,子どもたちのためであり,計算力の向上,しいては学力

向上へとつながるのです。