先端技術と芸術文化との融合により 創造産業を発展させ、 変革 … ·...

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第7回恵比寿映像祭「惑星で会いましょう」 展示より 山口典子《KEITAI GIRL》 2015 年  写真:新井孝明 提供:東京都写真美術館 六本木アートナイト 2012 の様子 ※1 巨大な資本力をもち,複数の国に生産・販売の拠点をもつ 大規模な企業。世界企業。国際企業 先端技術と芸術文化との融合により 創造産業を発展させ、 変革を創出 文化戦略 時代を牽引する革新的な技術による新しい芸術文化の創造、流通、 鑑賞・体験の可能性を追求する。 才能ある多様な創造的な人材とグローバル企業 ※1 との 新たな出会いを推進し、東京の経済成長を牽引する 創造産業の振興を促進させ、 変革を促す寛容性の高い環境を創出する。 7 62 61

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Page 1: 先端技術と芸術文化との融合により 創造産業を発展させ、 変革 … · 第7回恵比寿映像祭「惑星で会いましょう」 展示より 山口典子《keitai

第7回恵比寿映像祭「惑星で会いましょう」 展示より 山口典子《KEITAI GIRL》 2015年 

写真:新井孝明 提供:東京都写真美術館

六本木アートナイト2012の様子

※1 巨大な資本力をもち,複数の国に生産・販売の拠点をもつ大規模な企業。世界企業。国際企業

先端技術と芸術文化との融合により創造産業を発展させ、変革を創出

文化戦略

● 時代を牽引する革新的な技術による新しい芸術文化の創造、流通、 鑑賞・体験の可能性を追求する。

● 才能ある多様な創造的な人材とグローバル企業※1との 新たな出会いを推進し、東京の経済成長を牽引する 創造産業の振興を促進させ、 変革を促す寛容性の高い環境を創出する。

文化戦略

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Page 2: 先端技術と芸術文化との融合により 創造産業を発展させ、 変革 … · 第7回恵比寿映像祭「惑星で会いましょう」 展示より 山口典子《keitai

東京の強みである高度な技術力と芸術家の柔軟な創造力により先端技術と芸術文化を融合させ、新たな作品創造や芸術表現を生み出す●新たな領域を開拓していくため、革新的

な表現を行う芸術家と時代を牽引する先端技術を持つ技術者や企業との出会いの場を創出していく。

●新たな芸術作品の制作発表の場として、東京都現代美術館をはじめとした都立文化施設を活用する。

最先端の技術を活用した創作・鑑賞・体験システムの構築●新技術を駆使した演劇、音楽等の公演や、

世界中の人々が東京から発信される芸術文化を、世界中のどこでも鑑賞・体験できる事業など、情報技術の革新が日進月歩で進む現代ならではの仕組みを企業等と開発する。

創造産業の活性化を促す環境の整備●都市開発に創造産業の機能を取り入れ、

拠点化を計画する都市開発事業者をはじめ、教育機関や企業などと協力して、創造産業の人材育成等の活性化を促進する。

●開発理念(コンセプト)、技術、品質など、物質的な特性はもとより、様々な社会課題の解決に向けた方策を、視覚、触覚等により簡潔に表現し伝えるための重要な手段として、デザインを戦略的に活用するための環境整備を促進する。

● 東京・日本は、モノと人がつながっている伝統的な ものづくりの精神に支えられ、工業生産で用いられる ロボット技術はもとより、介護ロボット、 人間型ロボットといった日常的な生活の中で 人間と共存するロボット技術等、 独自の発想により世界の様々な 技術革新を牽引している。

● 近年では、先進的な技術と芸術を組み合わせ、 新たな表現活動を追求する メディア芸術※1の世界においても、 世界的評価を得ている。

● アニメ、ゲーム、デザイン、ファッション、 映像といった東京発のポップカルチャーも世界で高く評価され、 それらを含む最先端の創造産業が集積、 進化する都市として、その地位を確立している。

●アーツカウンシル東京では、創造産業に属する芸術文化の支援事業の一環として、最新の情報技術を活用した芸術表現活動をテーマとした講演会(セミナー)や討論会(シンポジウム)を開催し、その活動を広めている。

●インターネットを活用した最新の情報技術を利用した創作活動を行うグループが、これまでの芸術、ゲームなどの娯楽、広告の要素を組み合わせた表現活動を行っている。また、次世代型の芸術家や創作家を育成するため、多彩な表現を行うための技術や機械装置の仕組みを講義・演習する学校を運営するなど、多様な活動を展開している。

●現代美術家の創造力や柔軟な発想力と科学者や企業等が持つ技術力を組み合わせた、新たな芸術作品や工業製品の開発が行われている。

※1 文化芸術振興基本法によると、映画、漫画、アニメーション及びコンピュータその他電子機器等を利用した芸術と定義されている。

「光の蘇生」プロジェクト - 《Counter Void》再生をめぐってPhoto:Masahiro Hasunuma

第7回恵比寿映像祭「惑星で会いましょう」展示より久野ギル《Haze》2012年写真:新井孝明 提供:東京都写真美術館

施策の方向性東京が持つ芸術文化の力

現在の取組例

文化戦略

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夜の上野公園に最先端の映像技術を使った映像作品の投影を展開。利用者数の向上と、海外への日本文化発信を目指す。また、上野の各文化施設が持つ収蔵作品などのアーカイブを使って、各館のキュレーションによる夜間展示を実施。公園全体に展示施設を設け、人の循環を作る。

プロジェクションマッピング、インターネット技術、無人小型ヘリコプター(ドローン)など、最先端技術を活用し、芸術やデザイン、娯楽や広告等、既存分野の枠組みにこだわることなく、様々な分野を組み合わせることで、新しい表現方法が生み出されている。こうした活動は、世界的に見ても高い独自性を持っており、国内外から注目を集める創造企業が東京に数多く存在している。

 中国・上海にあるバスケットボールコート「ハウス・オブ・マンバ」。コート全面がLEDでできており、選手の動きに反応して、コートに映し出された映像が変化し、観客が選手の動きを視覚的に楽しめるようになっている。 また、選手一人ひとりの動きを記録し、個別の練習メニューを表示することも可能である。

 自分が、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS※1)の「Facebook」に投稿している写真やよく利用する単語、インターネット上で得た情報等の履歴を、美術館に展示されているかのように映し出してくれるインターネットのソフトウェア。 まるで美術館を歩いているような映像と音楽で構成されている。

 メガネの鼻パッドと眉間部分にセンサーを取り付け、目の動きや瞬きのリズムを感知。その動きに合わせてバックに映し出されたデジタル映像が、躍動感のあるサウンドとともに変化する芸術作品。 この技術や表現技法を応用し、仕事の「疲れ」や「集中度」を数値やイラスト等で判断したり、ドライブの安全運転支援、医療やリハビリ等、人々の生活に密着した場面での活用が期待されている。

 夏、秋、冬でもあの満開の桜が見られる。桜の木にプロジェクションを施し、春の桜を夜だけ再現する。さらに、日本の四季の移ろいも表現することで、海外からの観客を楽しませる。

 巨大な8Kスーパーハイビジョンモニターと、最新鋭サラウンドシステムを使い、高精細映像で作品を上映。能、オペラ、コンサートなどのパブリックビューイングとしても活用できる。

 最先端の技術を使った芸術文化を東京から世界へ発信することをテーマとした、2013年から六本木ヒルズほかで開催される展覧会(MEDIA AMBITION TOKYO [MAT] )で、展示された作品。 クルマを後ろから見た美しさを活かし、LED蛍光灯の光と、音と、風によって、六本木ヒルズの窓を突き破り東京の街へ出ていくような演出を施している。

先端技術を活用した鑑賞・体験システム例

文化戦略 7

文化戦略

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※1 個人間の意思や感情、思考の伝達を促進し、社会的なつながりの構築を支援する、インターネットを利用したサービス

戦略 7_P62-63 コラム

NIKE ‘house of mamba' LED basketball court in Shanghai / 2014© NIKE

Intel Museum of Me

JINS MEME : R&D support, Creative by Rhizomatiks

地面からせり出すスーパーハイビジョン巨大モニター

季節はずれの桜並木に満開の花四季の映像プロジェクション

“physical presence”Intersect by Lexus×Rhizomatics at MAT / 2014 / ©media ambition tokyo 2014

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Message from Ryohei MiyataMessage from Katsuhiko Hibino

金工作家東京藝術大学学長

東京芸術文化評議会 評議員 宮みや

田た

亮りょう

平へい

氏アーティスト

東京藝術大学美術学部先端芸術表現科教授東京芸術文化評議会 評議員 日

比び

野の

克かつ

彦ひこ

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Page 5: 先端技術と芸術文化との融合により 創造産業を発展させ、 変革 … · 第7回恵比寿映像祭「惑星で会いましょう」 展示より 山口典子《keitai

アーツカウンシル東京オープンフォーラム(2014年) 撮影:新井卓

東京が持つ芸術文化の力で、都市力を引き出し、史上最高の文化プログラムを実現

文化戦略

● 2020年五輪大会を機に、都市自体を劇場とした、 先進的で他に類を見ない東京の活力を象徴する文化プログラムを展開し、 世界に向けて東京の魅力を発信する。

● 2020年に向けた取組を、オリンピック・パラリンピックの開催によって 創出する有形・無形のレガシーにつなげていくとともに、 それを次世代に継承し、世界一の文化都市東京を実現する。

文化戦略

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2016年リオ大会以降に展開される文化プログラムの先導的役割を果たす

「リーディングプロジェクト」を国内外で展開●伝統芸能や演劇、音楽、映画、大道芸など

多様な分野の芸術家が参加する「東京キャラバン(仮称)」を実施する。

●国内外の多くの健常者と障害者が交流し、芸術文化を創造・体験する「障害者アートプログラム」を展開する。

●世界中から人々が集まるリオ五輪の機会を捉え、日本の多彩な伝統文化等を発信する。

●小中学生等を対象とした伝統文化体験プログラムや伝統文化の真髄を外国人に伝える体験・鑑賞プログラムを展開する。

●自治体や企業、NPO等と連携し、空き店舗や古民家などを活用したアーティスト・イン・レジデンスの整備を推進する。

都市を劇場とした先進的で他に類を見ない文化プログラムを展開し、東京の魅力を世界に発信●2019年プレ大会や2020年本大会にお

いて、美術館・博物館、劇場ホールをはじめ、公園、道路、寺社仏閣等の公共空間も活用し、伝統芸能からポップカルチャーに至る多彩な芸術文化を、多くの人々が日常生活の中で実体験できるような新たな試みを、国や関係者と連携し都市全体で展開する。

●世界五大陸の音楽家によるオペラの制作・公演など、世界中の様々な分野の芸術家を東京に集結させ、多彩な芸術文化活動を共に展開する。

●様々な事業ごとにプロデューサーを選任するなど、芸術文化事業の運営管理体制を確立させ、各事業を着実に開催する。

2020年大会に向けた取組を通じて、有形・無形のレガシーを創出し、次世代に継承●「リーディングプロジェクト」や文化プロ

グラム、「教育プログラム(仮称)」、世界中の芸術家による交流・創造・発信など、東京文化ビジョンを実現するための取組を通じて得られた人材やその知見や体験等をレガシーとして、次代に継承する。

● 都はこれまでの間、文化事業の強化を行うために、 2006年に東京芸術文化評議会を設置。 2008年4月には「東京文化発信プロジェクト」を立ち上げ、 国際社会における東京の文化的な知名度の向上を目指し、 多様な文化事業を推進してきた。

● さらに、東京都美術館や東京芸術劇場、 東京都庭園美術館などの 大規模改修にあわせて各施設の事業を拡充。 2012年11月には民間の芸術文化活動の 支援機関であるアーツカウンシル東京を発足させるなど、 着実に、2020年大会の文化プログラムを 推進する基盤を整備している。

●都内では、子供たちが本物の芸術文化を体験することや、地域住民と芸術家が共同で芸術活動に取り組むことを通じたコミュニティーづくりなどが行われ、都民が芸術文化を身近に感じるとともに、芸術家の表現機会の拡充が図られている。

●都はもとより、芸術系大学や芸術文化団体、企業等により、ロンドン五輪の文化プログラム等を題材としたシンポジウム等が開催され、幅広い世代の人々が交流を深めるなど、今後の気運醸成に向けた草の根の活動が広がっている。

平成21年度パルテノン多摩 発表公演 パフォーマンスキッズ・トーキョー

「パルテノン☆デビュタント〜野外編〜」©鹿島聖子

施策の方向性東京が持つ芸術文化の力

現在の取組例

文化戦略

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Page 7: 先端技術と芸術文化との融合により 創造産業を発展させ、 変革 … · 第7回恵比寿映像祭「惑星で会いましょう」 展示より 山口典子《keitai

芸術文化への投資から未来をつくる

 今ほど芸術文化の持つ多様な力が必要とされる時代はありません。 芸術文化は、社会に対する新たな見方や多様な価値観を私たちに提示してくれます。同時に、教育や福祉、地域再生など、現代の日本社会が抱える様々な課題と向き合い、革新的なソリューションをもたらすようになってきました。 アート教育で子どもたちの主要教科の成績があがった。芸術家のワークショップでリハビリではあがらなかったおばあちゃんの腕が上がった。過疎と高齢化に悩む小さな山村ではアーティストの滞在制作から人口の社会増に結びついた。こうした事例は国内外で数多く報告されており、産業や経済の面でも芸術の持つ創造性は欠かせないものとなっています。 これまでは社会から支援や保護される存在だった芸術文化への投資が、社会を変え、未来を切り拓いていく…そんな時代が到来しています。

株式会社ニッセイ基礎研究所研究理事東京芸術文化評議会 評議員

撮影:杉全泰吉

よし

本もと

光みつ

宏ひろ

 東京は、2014年の「世界の都市総合力ランキング」で、ロンドン、ニューヨーク、パリに次ぐ第4位です。足を引っ張っているのは文化力不足でした。2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」に向けて、またその後をも見据えて、東京の競争力や魅力を高めるために、文化のパワーアップが求められます。 私自身、日々の美術館運営を通して、次の三点が重要だと痛感しています。既成概念にとらわれないこと、都市全体を巻き込みオープンで自由な雰囲気をつくること、クリエイティブになれる仕組みや場をつくることです。これらを実現することで、東京は新しい芸術文化をグローバルに次々と発信できる拠点都市となれるのです。 伝統と革新がダイナミックに共存する東京は、固有の文化資源にあふれ、文化的にも世界をリードする潜在力が備わっています。それを十分に引き出すには、私たち全員が、様々な文化活動を日常生活の一部にしていくことが大切だと考えます。

森美術館理事長東京芸術文化評議会 評議員 森

もり

佳よし

子こ

Message from Mitsuhiro YoshimotoMessage from Yoshiko Mori

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