生活課題を解決する力を育む家庭,技術・家庭科 学習指導の在り方 ·...

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生活課題を解決する力を育む家庭,技術・家庭科 学習指導の在り方 -課題意識の継続を支える対話活動の工夫を通して- 福岡市教育センター 家庭,技術・家庭科研究室 平成 30 年度 研究報告書 (第 1055 号) G7-02 自然災害の多発や人口構造の変化などにより生活の在り方が問われてい る我が国で,適切に対応して生きていくために家庭科を学ぶことは大変重 要である。新学習指導要領では,実生活で活用する力を育成するために, 問題解決的な学習過程が重視されている。 そこで本研究では,問題解決的な学習過程を通して,「生活課題を設定 する力」,「課題の解決方法を検討する力」,「よりよい家庭実践を検討 する力」の三つの力を生活課題を解決する力として育むことにした。その 力をつけるためには,なりたい自分に近づきたいと思う児童の課題意識が 継続する必要がある。 手だてとして,思考ツールや可視化ツールを用いた「自己対話活動」と 「他者対話活動」という二種類の対話活動の工夫を行った。 今の自分を振り返る自己対話活動や友達などと解決方法を検討する他者 対話活動をすることで,解決したい課題を設定し,解決方法を検討して, よりよい家庭実践を行う姿がみられた。

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生活課題を解決する力を育む家庭,技術・家庭科

学習指導の在り方

-課題意識の継続を支える対話活動の工夫を通して-

福岡市教育センター

家庭,技術・家庭科研究室

平成 30 年度

研究報告書

(第 1055 号)

G7-02

自然災害の多発や人口構造の変化などにより生活の在り方が問われてい

る我が国で,適切に対応して生きていくために家庭科を学ぶことは大変重

要である。新学習指導要領では,実生活で活用する力を育成するために,

問題解決的な学習過程が重視されている。

そこで本研究では,問題解決的な学習過程を通して,「生活課題を設定

する力」,「課題の解決方法を検討する力」,「よりよい家庭実践を検討

する力」の三つの力を生活課題を解決する力として育むことにした。その

力をつけるためには,なりたい自分に近づきたいと思う児童の課題意識が

継続する必要がある。

手だてとして,思考ツールや可視化ツールを用いた「自己対話活動」と

「他者対話活動」という二種類の対話活動の工夫を行った。

今の自分を振り返る自己対話活動や友達などと解決方法を検討する他者

対話活動をすることで,解決したい課題を設定し,解決方法を検討して,

よりよい家庭実践を行う姿がみられた。

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家-1

1 主題について

(1) 主題設定の理由

① 今日的課題から

平成 23 年には東日本大震災での地震・津波災害,また西日本でも熊本地震,西日本豪雨被害が

起きるなど,我が国は自然災害が多発する地域であり,今後も発生を避けて通ることはできない。

自然災害の中で,長期にわたるエネルギーや物資の不足など不便な生活を強いられ,私たちの生

活の在り方が問い直されている。また,子どもたちが成人するころには生産年齢人口の減少,グ

ローバル化の進展や絶え間ない技術革新等,社会は急速に変化し,我が国は厳しい挑戦の時代を

迎えていると予想される。このような時代に,学校教育では子どもたちが様々な変化に積極的に

向き合い,他者と協働して課題を解決していくことなどができるようにすることが求められてい

る。また,子どもたちがこれからの時代に求められる資質・能力を身に付け,生涯にわたって能

動的に学び続けることができるようにするために,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向け

た授業改善を推進することが求められている。

② 家庭科教育のねらいから

社会の変化に対応していくためには,まず家族や地域の人々との関わりを大切にし,協力して

いくこと,衣食住の生活の変化に適応すること,エネルギーを工夫して使用することなどの力が

必要になってくる。そこで家庭科を学ぶことは,大変,有意義で重要であると言える。しかし,

「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領の改善及び必要な方策に

ついて(答申)」(平成28年度12月)では,現行学習指導要領の課題として,「家族の一員

として協力することへの関心が低いこと,家族や地域の人々と関わること,家庭での実践や社会

に参画することが十分ではないこと」が挙げられた。新学習指導要領では,A家族・家庭生活の

内容に「(4)家族・家庭生活についての課題と実践」が新設された。このことは,小学校家庭

科の教科目標を達成するための学習過程の重要性を明確に示しており,問題解決的な一連の学習

過程を経て,実生活で活用する力を育成することが求められていると分かる。この問題解決的な

学習過程の中で課題解決に向けて自分なりに考え表現するなどして資質・能力を身に付ける深い

学びが必要である。そこで,大切になるのが主体的な学びや対話的な学びである。新学習指導要

領解説によると主体的な学びとは「題材を通して見通しをもち,日常生活の課題の発見や解決に

取り組んだり,基礎的・基本的な知識及び技能の習得に粘り強く取り組んだり,実践を振り返っ

て新たな課題を見つけ,主体的に取り組んだりする態度」としている。児童が題材を通して自分

の生活課題を明確にし,持ち続けることで,解決したい意欲をもち,主体的に解決方法を考え続

けることができるような姿を目指さなければならない。さらに,対話的な学びとは「児童同士で

協働したり,意見を共有して互いの考えを深めたり,家族や身近な人々などとの会話を通して考

えを明確にしたりするなど自らの考えを広げ深める学び」としている。児童が題材を通して,自

己や他者と対話し,課題の解決方法を検討していく姿を目指さなければならない。

③ 児童生徒の実態から

非常勤研修員所属校3校の児童生徒に実施した家庭実践についての事前アンケートによると,

「題材が終わる時,なりたい自分を意識しながら学んでいますか。」という問いに対して,肯定

的な回答をしたのは 64%であった。「家庭科で学んだことを、家庭で実践していますか。」とい

う問いに対して,肯定的な回答をしたのは 70%であった。このことから,学習を通して,なりた

い自分を継続してイメージできていない,つまり題材を通した見通しをもって学べていなかった

ことが分かった。また,家庭科で学んだことを家庭で実践しているものの,工夫して自分の生活

に活用できているかについてはまだ課題がある。家庭での実践につなげたり,自分の生活に活用

させたりするためには,まず一つ目に生活の中の問題を認識し解決したい生活課題を設定するこ

と。二つ目に,他者との関わりを通して,知識及び技能を習得しよりよい解決方法を検討するこ

と。三つ目に実践と評価をしてよりよい家庭実践を検討すること。これら三つの力を生活課題を

解決する力ととらえ,育むことが必要であると考えた。以上,①②③から,本主題を設定した。

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家-2

(2) 主題及び副主題の意味

① 「生活課題」とは

自分の生活から問題を見いだし,生活の営みに係る見方・考え方を働かせ,児童が解決したい

と思った事柄である。その生活課題を解決できた自分の姿を「なりたい自分」とする。なお,生

活は「家族・家庭生活」,「衣食住の生活」,「消費生活と環境」の三つの枠組みとする。生活

の営みに係る見方・考え方に示される視点とは,「協力・協動,健康・快適・安全,生活文化の

継承・創造,持続可能な社会の構築等」とする。

② 「生活課題を解決する力」とは

問題解決的な学習過程を通して,「生活課題を設定する力」,「課題の解決方法を検討する力」,

「よりよい家庭実践を検討する力」の三つの力を,生活課題を解決する力ととらえる。

その力をつけるためには,「なりたい自分」と「今の自分」とのずれを感じ,生活課題を解決

したいという課題意識をもち続け,題材を通してなりたい自分に近づいていく,つまり児童の課

題意識が継続する必要がある。

③ 「課題意識の継続を支える対話活動の工夫」とは

児童の課題意識が継続するように,なりたい自分と今の自分のずれをみつめる自己対話活動と

課題解決の過程でなりたい自分に近づく方法を検討できる他者対話活動を仕組む。この二種類の

対話活動を,「今の自分を振り返る自己対話活動」と「課題設定,解決方法,家庭実践を検討す

る他者対話活動」とする。その対話活動を行う際に,思考ツールや可視化ツールなどの教具を活

用することである。

2 研究の目標

課題意識の継続を支える対話活動の工夫を通して,児童の生活課題を解決する力を育む家庭,技術・

家庭科学習指導の在り方を明らかにする。

3 研究の仮説

家庭,技術・家庭科学習指導において,「今の自分を振り返る自己対話活動」と,「課題設定,解

決方法,家庭実践を検討する他者対話活動」という二種類の対話活動を図れば,生活課題を解決する

力を育むことができるだろう。

4 研究の構想

(1) 内容

本研究では,生活課題を解決する力を三つの段階でとらえ,表-1のように設定した。

生活課題を解決する力 目指す児童の姿

生活課題を設定する力 自分の生活を振り返り,生活課題を設定して,なりたい自分を思い描いて

いる。

課題の解決方法を検討する力 課題意識をもち続けて,身に付けた知識及び技能を活用し,よりよい解決

方法を検討している。

よりよい家庭実践を検討する力 課題解決を評価・改善し,さらなる生活課題を設定している。

(2) 過程

本研究では,学習過程を「つかむ」「さぐる」「いかす」とする。「つかむ」過程では,自分の

生活を振り返り,生活課題を設定する。「さぐる」過程では,身に付けた知識及び技能を活用し,

よりよい解決方法を検討する。「いかす」過程では,実践を評価・改善をして,よりよい家庭実践

を検討する。これらの各学習過程において課題意識の継続を支える対話活動の工夫をすること

で,生活課題を解決する力を育む。

表-1 生活課題を解決する力を育むための三つの段階

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家-3

(3) 手だて

① 課題意識の継続を支える対話活動の工夫

ア 今の自分を振り返る自己対話活動

○ 目的

・自分を振り返り,なりたい自分と今の自分とのずれを見つめる。

○ 対話活動の場面

・毎時間のはじめ(前時の記録を見て,今の自分を振り返る。)

・毎時間の終わり(本時の学習したこと,なりたい自分への近づきを記録する。)

○ 対話活動に使うツール

・思考ツール…わかったことやできたこと,反省,なりたい自分に向けての思いを毎時間記録

できる教具

(例) ・ちりつもカード

・ちりつもカード

イ 課題設定,解決方法,家庭実践を検討する他者対話活動

○ 目的

・つかむ過程…自分の生活を振り返り,解決したい課題を設定する。

・さぐる過程…身に付けた知識及び技能を活用し,よりよい解決方法を検討する。

・いかす過程…実践を評価・改善をして,よりよい家庭実践を検討する。

○ 対話する相手

・家族,地域の人々

・教員

・友達

○ 対話活動に使うツール

・思考ツール…課題解決のために,アイデアを出す,振り返る,意思決定する,比較する,

多面的に見る,関連づける,分類する,評価することができる教具

(例)・PSカード ・マトリックス ・マップ

・PSカード ・マトリックス

・買い物上手マップ ・イメージマップ

Plus

(わかった・できた) Minus(反省)

つかむ過程で

生活課題を記入

Reflection

(なりたい自分に向けて)

大事にしたい視

点の内容を記入

比較する

ものを記入

問題を

記入

解決方法を

記入

視点ごと

に比較し

たものを

評価する

分類する視点

分類した

視点の内容 思考を広げるテーマ

テーマから連想

される事柄

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家-4

・可視化ツール…インタビュー,調査,活動の様子などを動画や写真,グラフ,表などにし

て,課題設定,課題解決に必要な情報を分かりやすく提示できる教具

(例)・事前アンケート結果をグラフに表した板書資料

・実習の様子などの記録を各自が確認できる動画資料

・家族の願いや思いを記録したインタビューカード

グラフに表した

板書資料

各自が確認できる

動画資料

家族への

インタビューカード

② 検証方法

ア 自己対話活動で使う思考ツールの分析

各学習過程でなりたい自分と今の自分とのずれを見つめた記述をしているか見取る。

イ 他者対話活動で使う思考ツールの分析

各学習過程で自分の考えを付加・修正・強化し,解決したい課題の設定,解決方法の検討,

家庭実践の検討をした記述が見られたか見取る。

5 研究構想図

図-1 研究構想図

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6 研究の実際と考察

(1) 課題意識の継続を支える対話活動を工夫した指導の実際(その1)

小学校第5学年 「上手に使おうお金と物」(全4時間)

① 研究の実際

家庭科のアンケート(H30.9,N=105)で,「おこづかいをもらっていますか」という質問に

対し,「はい・必要な時にもらう」と答えた児童が 79%いることが分かった。しかし,「自分のお

金で買った物で,買わないほうがよかったと思うものはありますか」という問いに対し,「はい」

と答えた児童が 51%と約半数もいることが分かった。このことから,お金を使うことを経験はし

ているが,買い物の仕方に問題があると考えられる。

そこで本実践では,自分のお金の使い方について課題を設定し,物の選び方や買い方に関する

基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け,課題解決に向けて物の選び方や買い方を工夫できる

ようにすることをねらいとした。まず,物の選び方や買い方の知識として,買い物に必要な視点

つまり「買い物の技」を増やすために,家族にインタビューしたり,「買い物上手マップ」を使っ

て友達と対話活動を行ったりした。次に,課題解決のために,物の選び方や買い方を比較したり,

多面的に見たり,評価したりすることができる「マトリックス」を使って買い物シュミレーショ

ンを行い,友達と対話活動を行った。また,なりたい自分に現在の自分がどれほど近づいたか確

認するために,自己評価カードを使い,自己対話活動を行った。(表-2)。

主な学習活動 配時 課題意識の継続を支える対話活動

1 家庭生活を行うためにはお金が必要であり,計

画的に使う必要があることに気づく。

2 事前アンケートの結果から,自分の課題を見つ

け,なりたい自分を考える。

1 自己対話活動 他者対話活動

思考ツール

・ちりつもカード

友達

可視化ツール

・板書資料

3 買い物をするうえで必要な視点(買い物の技)

を話し合い,なりたい自分に必要な買い物の技を

書き出す。

4 前時までに得た買い物の視点を使って,商品を

選び,理由をグループで話し合う。

5 「わくわくミシン」の学習で自分が作るナフキ

ンの布を選ぶ視点を考える。

(1)

友達

思考ツール

・マップ

友達

思考ツール

・マトリックス

・マップ

買い物の技を使ってナフキンの布を買いに行く。 課外 友達

思考ツール

・マップ 6 買い物の仕方について振り返り,これからの取

り組み方を考える。

ア 生活課題を設定する力

つかむ段階では,今の自分の物や金銭の使い方から生活課題を設定

することをねらいとした。

そのためにまず,児童に物や金銭の使い方についての事前アンケー

トを取り,その内容をグラフで表した板書資料を提示した(資料-1)。

板書資料としてグラフを使ったことにより,買い物の失敗を経験して

いる友達がたくさんいることに気づき,買い物の失敗の理由を友達同

士で対話した。「消しゴムを何個も持っているのに,その時安かったか

ら買ってしまった。」「自分の好きなキャラクターのキーホルダーだっ

たから買ったけど,すぐに壊れた。」「新しいお菓子が出ていたから,

あまり考えずに,その時『欲しい』と思って買っていた。」など,身近

な物の選び方や買い方に問題があることに児童が気付いた。そして,

授業の終末の自己対話活動では,自己評価カードに「買い物が上手になりたい」「必要な物を

選べるようになりたい」など自分の生活課題を設定していた。

学習テーマ 上手な買い物の技を知り,買い物

上手になろう。

表-2 各学習過程における課題意識の継続を支える対話活動

資料-1 児童の事前アンケート をグラフにした板書資料

はい いいえ

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家-6

イ 課題の解決方法を検討する力

身近な物の選び方や買い方の観点として,値段や分量,

品質を挙げた。さらに,持続可能な社会の構築の視点をも

った物の選び方や買い方にも気づかせるため,環境を入れ,

4つの観点とした。「値段」には,安い・特売品など,「分

量」には,サイズ・使い切る量など,「品質」には,産地・

安全性など,「環境」には3R,詰め替えなど,4つの観点

の下位項目を「買い物の技」とし付箋紙に書き出し,買い

物上手マップに書き溜めた。まず,文房具や食品を買うと

きには,どんな買い物の技があると思うか,一人で考え,

書き出した。そして,書き出したマップをもとに友達と対

話することで,買い物の技を書いた付箋紙を増やすことが

できた(資料-2)。

次に,買い物の技を使った買い物の練習として同じ物だ

が,条件が異なる 3 種類の物の買い物シミュレーションを

行った。どの買い物の技を優先して,商品を比較し選ぶか,

マトリックスを使って検討した。その後,同じような生活

課題をもった児童同士で,なぜその商品を選んだのか,生

活課題と選んだ買い物の技の優先順位をもとに対話した。

「無駄な買い物をせずに,自分に必要な物を選びたい」と

生活課題をもった児童が,「今日必要な自学ノートを買う」

というシミュレーションの際,買い物の技を「必要な分」

「3R」「安い」を選んでいたが,似た課題の児童との対話

で,使いやすいほうが,自分に必要な物ではないかと判断

した。そして,買い物の技を「使いやすさ」に変更し,課

題意識をもち続けて,よりより解決方法の検討をすること

ができた(資料-3)。

ウ よりよい家庭実践を検討する力

次の単元の授業でナフキンづくりに使う布を買いに家庭の家庭実践のふり返りを行った。こ

こでは,マトリックスを使い友達と対話させることで,よりよい家庭実践の検討を行った。そ

の結果,「今度から買い物をするときには,値段だけでなく,「3R」など環境も見て,買い物

上手になりたい」と,さらなる生活課題を設定し,よりよい家庭実践を検討することができた。

② 考察

課題意識の継続を支える対話活動の工夫について

ア 今の自分を振り返る自己対話活動

ちりつもカードの分析をすると,つかむ過程では,84.3%の児童が自分の生活の問題を振り

返った上で課題を設定することができた。さぐる過程では,93.2%の児童が,学んだ知識及び

技能をもとになりたい自分に向けた解決方法の検討をすることができた。いかす過程では,

84%の児童が,学校の実習を評価・改善からよりよい家庭実践の検討することができた。この

ことから,毎時間,自己対話活動で振り返ることが,課題意識を継続させ,各過程での生活課

題を解決する力を育てることに有効であったと考える。

イ 課題設定,解決方法,家庭実践を検討する他者対話活動

つかむ過程では,児童へのアンケートで着目してほしい内容をグラフで表し,その資料をも

とに友達と対話させたことで,消費の面での課題を設定できた。ちりつもカードに,アンケー

トをもとに友達と話すことが,課題を立てることにつながったという内容を書いていた児童が

79.6%いた。さぐる過程では,買い物上手マップとマトリックスを使い,友達と話すことで,

解決したい生活課題の解決の方法を検討できたという内容の記述を行う児童が 81.1%いた。い

かす過程では,行ってきた家庭実践を記録したマトリックスをもとに友達と対話させることで,

新たな生活課題を作り出していた児童が 93%いた。これらのことから,他者対話活動を組むこ

とが生活課題を解決する力を育てることに有効であったと考える。

資料-3 マトリックスの変容

資料-2 買い物上手マップの変容

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家-7

(2) 課題意識の継続を支える対話活動を工夫した指導の実際(その2)

小学校第6学年 「クリーン大作戦」(全6時間)

① 研究の実際

家庭科アンケート(30.9,N=88)で,「そうじは大切だと思うか」という問いに,98%の児童が

肯定的に答えている。しかし,「自分が家で任されているそうじ場所があるか」という問いに,

はいと答えたのは 50%と低かった。これらのことから,清掃を大切だと思っているが,清掃に対

する関心が低い,家庭での清掃の経験も少ない実態が分かった。

そこで本実践では,清掃の仕方について自分の生活課題を設定し,健康・快適・安全のための

清掃について考え,汚れに合った清掃の仕方を適切にできるようになることをねらいとした。主

な手立てとして,今の自分を振り返る「ちりつもカード」を用いた自己対話や,清掃の仕方につ

いてアイデアを出す,比較する,評価することができる「PSカード」を用いた他者対話で,課

題意識の継続を支える対話活動の工夫を図った(表-3)。

表-3 各学習過程における課題意識の継続を支える対話活動の工夫

主な学習活動 配時 課題意識の継続を支える対話活動の工夫

自己対話活動 他者対話活動

つかむ

1 清掃の意味を知り,学習テーマをつくる。

学習テーマ 健康・快適・安全に過ごすために,

汚れに合ったそうじができるようになろう。

1 思考ツール

・ちりつもカード

友達,家族

可視化ツール

・動画資料

・インタビューカード 家庭の汚れ調べと,家族の願いをインタビューする。 課外

2 生活課題を設定し,清掃の仕方を知る。 1

さぐる

3 家族にインタビューしたことをもとに,清掃の計画

を立てながら,清掃の工夫を考える。

4 実習をする。

5 解決方法を検討し,計画を見直す。

友達

思考ツール

・PSカード

可視化ツール

・動画資料

いかす

家庭で実践し,保護者の評価をもらう。 課外 家族

可視化ツール

・インタビューカード

6 家庭での実践報告会を行い,これからの取り組み方

を考える。

ア 生活課題を設定する姿

つかむ過程では,健康・快適・安全に過ごすには清掃が大切であ

ることに気付き,自分の生活から問題を見いだし,生活課題を設定

することをねらいとした。そのために,児童が教室の汚れ調べを行

い,見つけた汚れの写真と汚れが病気の原因になることが分かる動

画資料を見た(資料-4・5)。この2つの活動で,思ったことや

感じたことを友達と話し合った。児童は,毎日掃除していても汚れ

があることへの不快さや,汚れによって病気になるという怖さに気

付き,健康・快適・安全に過ごすための清掃の必要性を感じた。さ

らに,自分の家の日常よく使う場所の汚れ調べと家族に清掃に対す

る願いをインタビューした。「清掃を週に一度しかしていなかった。」

「消しゴムのかすを机に置いたままどんどんたまってしまってい

た。」など自分の生活の問題を見いだすことができた。また,自己

対話としてちりつもカードに「自分の部屋はお母さんがそうじして

いるので自分で汚れがたまる所を知ってそうじしたい。」「もっと

積極的に清掃をしようと思った。」など,自分の清掃の取り組み方

を振り返り,生活課題を設定することができた。

イ 課題の解決方法を検討する姿

さぐる過程では,自分の生活課題を解決するために,清掃に関する知識及び技能を習得・活

用し,よりよい解決方法を見いだすことをねらいとした。そのために,PSカードを活用し,

友達と問題を共有しながら解決方法を検討した。例えば,PSカードの問題に,玄関掃除でほ

こりが舞うという記述をした児童同士で対話をした。ぬれた新聞紙をまいてもほこりが舞った

という問題に対し,同じ方法で試した児童から,もっと多くまくとよいという解決方法を得て,

資料-4 汚れ調べの様子

資料-5 汚れが病気の原因に なることが分かる動画資料の提示

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家-8

手順の見直しができた。水道のアカの汚れをとるという問

題をもった児童同士での対話では,歯磨き粉で試した児童

が,他の児童からジーンズ生地でも落ちるという解決方法

を得て,付加することができた(資料-6・7)。また,

ちりつもカードに「水アカの汚れが深くなりすぎて落ちな

いときの方法を知りたい。」「じゃ口は一番歯磨き粉がい

いことが分かった。」など,自分の生活課題の解決に向け

て,汚れに合った清掃の仕方が適切かどうかを考えること

ができた。

ウ よりよい家庭実践を検討する姿

いかす過程では,なりたい自分に近付くために,実践

を評価・改善し,よりよい家庭実践を検討することをね

らいとした。そのために,家庭実践の際にインタビュー

カードを用い,家族から,よりよい清掃の仕方になるた

めの評価・助言をもらった。その後,実践報告会を行っ

た。同じような生活課題の児童同士でインタビューカー

ドを用いて他の家族の助言を取り入れられるようにし

た。児童は,「古い布などで清掃したら環境にも良いと分かったからそうしたい。」「じゃが

いもの皮で汚れを落とす方法も知ったので試したい。」「前より時短でできるようになりたい。

汚れに合った洗剤を覚えたい。」など,インタビューカードに書かれた助言をもとに,これか

らの家庭での取り組み方について,環境や時短に目を向けて,よりよい清掃の仕方を考えるこ

とができた。

② 考察

課題意識の継続を支える対話活動の工夫について

ア 今の自分を振り返る自己対話活動

ちりつもカードの分析をすると,つかむ過程で

は 77.4%の児童が自分の生活の問題を振り返っ

た上で課題を設定することができた。さぐる過程

では 96.7%の児童が,生活課題に対する適切な清

掃の仕方を検討することができた。いかす過程で

は 87%の児童が,これからの家庭での取組方につ

いて検討することができた。毎時間の終わりに自

分を振り返り,なりたい自分と今の自分とのずれ

を見つめたことで,次時に取り組む課題が明確に

なり,解決したいという意欲をもつことにつなが

ったと考える(資料-8)。

イ 課題設定,解決方法,家庭実践を検討する他者

対話活動

つかむ過程で,ちりつもカードの分析をすると,93.5%の児童が,汚れ調べや動画資料を見

て,友達や教師と対話したことで,健康・快適・安全のための清掃の必要性を感じることがで

きた。その後,家庭の汚れ調べと家族のインタビューをもとに,自分の生活課題を設定できた

のは 77.4%だった。家族から願いを聞くための対話を仕組む手立てが不十分だったと考えられ

る。さぐる過程で,PSカードを分析すると,74.1%の児童が他者対話で得たアイデアを加え

たり,比較して手順を見直すなどの修正ができたりしていた。残りの児童も家庭の実践計画に,

解決方法を付加・修正することができていた。いかす過程で,家庭の実践計画を分析すると

90.3%の児童が,インタビューカードで得た助言をもとに,家庭での取り組み方についてさら

によりよい清掃の仕方を取り入れることができた。

以上のことから,自己対話活動で課題解決の意欲をもち続けたり,他者対話活動で課題解決

の方法を検討したりして,課題意識の継続を支える対話活動の工夫をしたことは,生活課題を

解決する力を育むのに有効だったといえる。

資料-6 PSカードでの交流の様子

資料-7 考えを付加したPSカード

資料-8 第2~4/6時間目のちりつもカード

水アカの汚れを解決したい意欲が継続

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家-9

(3) 課題意識の継続を支える対話活動を工夫した指導の実際(その3)

小学校第6学年 「くふうしようおいしい食事」(全 12時間)

① 研究の実際

家庭科アンケート(H30.9,N=71)で,「調理を通して家族の一員として何かできることはあ

ると思うか。」の問いに対し肯定的な回答をした児童が 93.2%であった。しかし,「家庭でおいし

い食事をくふうしているか。」の問いに対し肯定的な回答をした児童は 26.3%と低かった。これ

まで,「ゆでる」「いためる」などの家庭科の調理実習には意欲的に取り組んでいたものの,「家庭

で調理をよくしている。」という児童は 35.2%と継続的な実践につながっていない。

そこで本実践は,自分の普段の食事についての生活課題を設定し,「ゆでる」「いためる」など

の調理技能を活用して,わが家のおいしい1食分の食事を工夫しようとする実践的な態度を育む

ことをねらいとした。主な手立てとして,献立の立て方や調理に関する課題を解決するために,

アイデアを出す,振り返る,意思決定をすることができる「PSカード」を用いた他者対話や,

今の自分を振り返る「ちりつもカード」を用いた自己対話で,課題意識の継続を支える対話活動

の工夫を図った(表-4)。 表-4 各学習過程における課題意識の継続を支える対話活動の工夫

主な学習活動 配時

課題意識の継続を支える対話活動の工夫

自己対話活動 他者対話活動

1 学習テーマをつくり,生活課題を設定する。

2 栄養バランスのよい献立の立て方を知る。

思考ツール

・ちりつもカード

教員,友達

思考ツール

・PSカード

・イメージマップ

3 じゃがいも調理の課題を設定し,調理実習

をする。

4 調理実習を振り返り,解決方法を検討する。

5 2回目の調理実習をする。

6 家庭実践する献立と調理の計画を立てる。

友達

思考ツール

・PSカード

家族

可視化ツール

・インタビューカード

家庭実践する。

7 家庭実践の発表会を行う。

課外

家族

可視化ツール

・インタビューカード

ア 生活課題を設定する姿

つかむ過程では,自分の食生活を振り返り,「1食分の献

立を考え,おいしい食事を工夫して作ることができるよう

になりたい。」という生活課題を設定することをねらいとし

た。

そのためにまず,イメージマップを用いておいしい食事

について話し合った。互いのマップを見ながら対話するこ

とで,おいしい食事についてのイメージが膨らんだ(資料

-9)。さらに,自分や家族の食事のために家庭でしている

ことや自分の献立を振り返り,問題をPSカードのPに記

入した。家庭でしていることについては「自分は食事の準

備をあまり手伝っていなかった。」「コンロや包丁は学校

でしか使っていなかった。」などと自分の問題に気付いた。献立については「今まで健康面を

考えていなくて好きなものばかり食べていた。」「自分のいつもの食事は緑色の食品が少なか

った。」などと自分の問題をみつめた。さらに,それぞれのPSカードを用い友達と対話した

ことで,自分には気付かない問題に気付くことができた。対話活動を通し「栄養バランスを考

えて,おいしい食事を作れるようになりたい。」「一人で一品栄養バランスのよいおかずを作れ

るようになりたい。」と自分の問題から生活課題を設定した。

イ 課題の解決方法を検討する姿

さぐる過程では,なりたい自分に近付くために,調理に関する知識及び技能を習得・活用し,

PSカードを用いて友達と対話し,よりよい解決方法を検討することをねらいとした。

そのためにまず,身近な食品であるじゃがいもを用い,1回目の調理実習を行った。実習を

振り返り,「切り方」「火かげん」「ゆで・炒め時間」「食材を入れるタイミング」などの上手く

いかなかった問題点と自分なりに考えた解決方法をPSカードに記入した。次に,このPSカ

資料-9 イメージマップ

学習テーマ 1食分のこんだてを考え,

おいしい食事をくふうしてできるようになろう。

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家-10

資料-10 PSカードでの交流の様子 ードを用い同じ問題をもつ友達同士で対話を行い,解

決方法を検討した(資料-10)。対話したことで「玉

ねぎが透明になったらじゃがいもを入れる。」「じゃが

いもが固くないか,くしでさして確認する。」などと

解決方法が付加・修正された(資料-11)。付加・修

正したPSカードをもとに調理計画を見直し,2回目

の調理実習を行った。検討した解決方法で実習し,調

理に関する課題を解決することができた。さらに,自

分の家庭に合った実践計画を立てるために,家族にイ

ンタビューを行った。インタビューカードに家族の好

みの「食材」「切り方」「固さ」などを聞き取るように

した(資料-12)。この家族との対話活動を通し,家

族の思いや願いをいれ,「お母さんが好きなきゅうり

を入れ,少しやわらかくゆでて,栄養バランスのよい

ポテトサラダを作る。」「じゃがいもは歯ごたえがある

ように厚めに切って,家族の好きなねぎを入れて野菜

炒めを作る。」などと自分の家族に合った実践計画を

立てた。

ウ よりよい家庭実践を検討する姿

いかす過程では,なりたい自分に近付くために,実

践を評価・改善し,よりよい家庭実践を検討すること

をねらいとした。

そのために,実践計画をもとに家庭で実践し,家族

や友達に実践の評価や助言をもらった。インタビュー

カードを用いた家族との対話で「好きな野菜が入った

野菜炒めはとても美味しかった。また作ってほしい。」

などと肯定的な評価をもらったことで,自信をつけた。

さらに,同じような課題に取り組んだ友達との対話で,

違う解決方法が成功したことを知り,「次は弟の好み

も聞いて好きな野菜を入れ,もう一度野菜炒めを作り

たい。」「今度は違うじゃがいも料理を作って,喜んで

もらいたい。」などと新たに家庭実践への意欲をもっ

た。

② 考察

課題意識の継続を支える対話活動の工夫について

ア 今の自分を振り返る自己対話活動

ちりつもカードを分析すると,つかむ過程では,自分の問題から生活課題を設定していた児

童は 86.3%いた。さぐる過程では,生活課題に対するよりよい解決方法を検討することができ

た児童は 92.4%いた。いかす過程では,よりよい家庭実践を検討していた児童は 90.2%いた。

このことから,毎時間,自己対話活動で振り返ることが,課題意識を継続させ,各過程での生

活課題を解決する力を育てることに有効であったと考える。

イ 課題設定,解決方法,家庭実践を検討する他者対話活動

つかむ過程では,生活課題はすべての児童が設定できていたが,自分の問題から生活課題を

設定した児童は 86.3%だった。自分の考えを付加・修正・強化し,生活課題を自分自身の課題

として捉えるために,家族との対話活動を行う必要があったと考える。さぐる過程では,PS

カードを分析すると,友達との対話で解決方法が付加・修正・強化され,よりよい解決方法を

検討できた児童が 96.6%いた。「2回目の調理実習の時に,実際に班の人と話した方法を試し

てみたら上手くいった。」などと 96.3%の児童が肯定的な記述評価をしていた。いかす過程で

は,学習後のアンケート結果で「家族や友達から評価や助言をもらったことで,よりよい家庭

実践をしたいと思いましたか」の問いに対し肯定的な回答をした児童が 94.5%いた。これらの

ことから,他社対話活動を仕組むことが生活課題を解決する力を育てることに有効であったと

考える。

資料-11 PSカードに考えを付加

資料-12 インタビューカード

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家-11

7 研究のまとめ

(1) 研究の成果

本研究で,生活課題を解決する力を育むために,課題意識の継続を支える対話活動の工夫をした

ことは,次のような点で有効であった。

① 今の自分を振り返る自己対話活動について

思考ツールのちりつもカードを用い,今の自分

を振り返る自己対話活動を行った。Plus の欄に,

毎時間のわかったことやできたことを書くことで,

自分の成長の記録ができて,自信につながった。

また,Minus(反省)の欄を書くことで,次時に取

り組むことを明確にすることができた。さらに,

毎時間 Reflection(なりたい自分に向けて)の欄

を書くことで,毎時間なりたい自分を意識しなが

ら,課題解決を行い,自分の成長を実感すること

ができた。

学習後のアンケートで「題材を通して,なりたい自分を意識しながら学んでいますか。」の問

いに対し,学習前は肯定的な回答をした児童は 65.7%であったが,学習後に肯定的な回答をした

児童は 88.3%に増加した(図-2)。また,「毎時間ちりつもカードに学習を振り返ってみてど

うでしたか。」の問いに対して,「振り返ってみて分かる問題点やなりたい自分に向けて実践す

ることが分かりやすくなり便利だった。」「なりたい自分に近付いていることが分かるから良い

と思った。」などと肯定的な記述評価をしていた。

以上のことから,ちりつもカードを用いて自己対話活動を行ったことは,課題意識の継続を支

え,自分の課題解決力の成長を実感できるとともに,次時の課題解決への意欲付けにもつながり,

生活課題を解決する力を育むことができたと考える。

② 課題設定,解決方法,家庭実践を検討する他者対話活動について

課題設定の場面で,動画資料やグラフに表した

板書資料などの可視化ツールを使って友達や教員

と対話活動を行ったことで,生活の問題を具体的

に想起できたり,友達の問題との違いに気付いた

りして,自分にとって解決する必要のある生活課

題を設定することができた。また,解決方法を検

討する場面では,PSカードやマトリックスなど

の思考ツールを用いて友達と対話活動を行ったこ

とで,課題意識を継続しながら解決方法を付

加・修正することができた。家庭実践を検討す

る場面では,インタビューカードなどの可視化ツールを用いて家族や友達と対話活動を行ったこ

とで,家族や友達から評価や助言をもらい,今後のよりよい家庭実践について検討することがで

きた。

学習後のアンケートでは,「対話をしたことで解決方法を検討できたか」の問いに対し,肯定

的な回答をした児童は 92.3%であった(図-3)。また,「PSカードが増えていくと嬉しくな

って,友達ともっと解決方法を考えようと思った。」「付箋に書いて,友達と話しながらマトリ

ックスに動かすことができたので,解決方法を何度も考え直せて一番納得できる方法を選ぶこと

ができた。」などと思考ツールを使った対話活動に対して肯定的な記述評価をしていた。

以上のことから,思考ツールや可視化ツールなどの教具を用いて他者対話活動を行ったことは,

課題意識の継続を支え,生活課題を解決する力を育むことができたと考える。

(2) 研究の課題

① 自己対話活動をするために,学習プリントとちりつもカードの内容を精査して,書く時間を確

保していきたい。

② 友達と他者対話活動を行う際に,どのような課題で分けるか,人数は何人程度がよいかなど,

グループ編成の仕方についてさらに探っていきたい。

図-2 事前事後アンケート結果(N=269)

図-3 事後アンケート結果(N=269)

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家-12

引用文献

1 文部科学省 小学校学習指導要領解説 家庭科編 P71,P77 (平成 29 年)

参考文献・参考資料

1 文部科学省 小学校学習指導要領解説 家庭科編 東洋館 (平成 29 年)

2 内野紀子 わたしたちの家庭科5・6 開隆堂 (平成 26 年)

3 鈴木明子 小学校新学習指導要領ポイント総整理 家庭 東洋館 (平成 29 年)

4 関西大学初等部

思考ツール 関大初等部式 思考力育成法<実践編> さくら社 (平成 25 年)

5 田村 学 授業を磨く 東洋館 (平成 27 年)

6 田村 学 深い学び 東洋館 (平成 30 年)

7 家庭科教育実践講座刊行会

Asset ビジュアル家庭科教育実践講座 ニチブン (平成 27 年)

8 香曽我部琢 家庭科教育が震災後の教育復興に果たした役割とは

-震災を単元に取り入れた家庭科授業実践のKJ法を用いたレビュー-

宮城教育大学 教育復興支援センター紀要 第4巻(2016)

9 古重奈央・伊藤葉子・鎌野育代

小学校家庭科における災害に備えた調理実習

千葉大学教育学部研究紀要 第 64 巻 229~234 頁(2016)

研究指導員

貴志 倫子 (福岡教育大学 教授)

非常勤研修員

樽見 啓佑 (若宮小学校 教諭) 川畑 みなみ (住吉小学校 教諭)

馬場 朝美 (高木小学校 栄養教諭)

担当主事

篠原 裕子 (研修・研究課 主任指導主事)