砂防ソイルセメントを使用した 「jsウォール堰...

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製品・技術紹介 48 JFE 技報 No. 31 2013 1 月)p. 48-49 1. はじめに 鋼材使用した砂防構造物鋼製砂防構造物ばれ1960 年代ごろから開発され各地導入されめた 1その ,土石流捕捉などを経験,砂防構造物として土砂 災害防止貢献してきた鋼製砂防構造物には重力式堰堤があり,鋼製枠鋼矢板 などをいたダブルウォール堰堤があるこのうちダブル ウォール堰堤中詰材現地発生土砂使用してきたかし,近年現地発生土砂有効利用,温室効果ガス削減,従来現地発生土砂使用した堰堤より経済的とい 観点から,中詰材砂防ソイルセメントを使用したダブル ウォール堰堤製品化され,実績ばしているそこでJFE 建材,従来現地発生土砂中詰材としたタイプに ,砂防ソイルセメントを使用するJS ウォール堰堤 INSEM タイプ® 」(以下,「JS ウォール堰堤 ® 」) 開発した2. ソイルセメントの砂防分野での適用 砂防ソイルセメント工法,施工現場において現地発生 土砂とセメントはセメントミルク攪拌混合して製造 ,砂防施設などを構築する工法総称である。現地発生 土砂有効活用する工法として,現在までにISM 工法」, CSG 工法」,「INSEM 工法」,「砂防 CSG 工法」4 工法 開発されているJS ウォール堰堤 ® ,下記理由により INSEM 工法(in-situ stabilized excava materials採用したINSEM 工法にて 製造する砂防ソイルセメントを INSEM )。 INSEM はスランプの発生しない超硬練材料というがある。従来のダブルウォール堰堤同様敷均・転 圧作業可能,汎用性建設機械使用できるまた,中詰材堰堤内部応力抵抗できる強度確保 することでコンクリート重力式堰堤同様剛体として検討 なうことができ堰堤断面さくなるよって,従来ダブルウォール堰堤べても経済断面可能となる3.「JS ウォール堰堤®」の概要 JS ウォール堰堤 ® ,上下流外面外部保護材INSEM 中詰材とした重力式堰堤である。概要図図1 下流外部保護材,修景機能ねた模様付コンクリー トパネル(鉄筋コンクリート製)とし,上流外部保護材石流荷重する耐衝撃性被覆性ねた鋼材形鋼板パネルとする中詰材強度,堰堤内部応力抵抗できる強度とし 「砂防ソイルセメント設計・施工便覧」((財)砂防・地 すべり 技術 センター2める 目標強度 レベル 3.0 Nmm 2 以上)とする4.「JS ウォール堰堤®」の特長 JS ウォール堰堤 ® 特長,以下のとおりである1)経済性 従来のダブルウォール堰堤台形断面堰堤であっ たが,「JS ウォール堰堤 ® 上流外部保護材袖部勾 配(水通位置より上部)とすることで断面くすることが可能,堰堤全体中詰材施工量できるため経済性れる2)施工性 波形鋼板パネルは上下左右をボルト連結しているた パネルの移動・回転がなく,従来のダブルウォー 堰堤必要としていた腹起不要パネルの みで構築可能施工性れる3)中詰材露出防止 波形鋼板パネルは上下左右をボルト連結しているた ,礫衝突しても中詰材露出防止をすることがで 2012 6 6 日受付 砂防ソイルセメントを使用した 「JS ウォール堰堤(INSEM タイプ) ®」 JS-Wall Dam (Type INSEM) Using the Sabo Soil-Cement 図 1 概略図 Fig. 1 Diagrammatical view 保護コンクリート 上流外部保護材 波形鋼板パネル 【上流側】 【下流側】 下流外部保護材 内部材 (INSEM ) 3.0 N/mm 2 コンクリートパネル または 波形鋼板パネル

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製品・技術紹介

- 48 -

JFE技報 No. 31(2013年 1月)p. 48-49

1.はじめに

鋼材を使用した砂防構造物は鋼製砂防構造物と呼ばれ,1960年代ごろから開発され各地で導入され始めた 1)。その後は,土石流の捕捉などを経験し,砂防構造物として土砂災害防止に貢献してきた。鋼製砂防構造物には重力式堰堤があり,鋼製枠や鋼矢板

などを用いたダブルウォール堰堤がある。このうち,ダブルウォール堰堤は中詰材に現地発生土砂を使用してきた。しかし,近年現地発生土砂の有効利用,温室効果ガス削減に加え,従来の現地発生土砂を使用した堰堤より経済的という観点から,中詰材に砂防ソイルセメントを使用したダブルウォール堰堤が製品化され,実績を伸ばしている。そこで,JFE建材は,従来の現地発生土砂を中詰材としたタイプに加え,砂防ソイルセメントを使用する「JSウォール堰堤(INSEMタイプ)®」(以下,「JSウォール堰堤®」)を開発した。

2.ソイルセメントの砂防分野での適用

砂防ソイルセメント工法は,施工現場において現地発生土砂とセメント又はセメントミルク等を攪拌混合して製造し,砂防施設などを構築する工法の総称である。現地発生土砂を有効活用する工法として,現在までに「ISM工法」,「CSG工法」,「INSEM工法」,「砂防 CSG工法」の 4工法が開発されている。「JSウォール堰堤®」は,下記理由により INSEM工法(in-situ

stabilized excava materials)を採用した(INSEM工法にて製造する砂防ソイルセメントを INSEM材と呼ぶ)。

INSEM材はスランプの発生しない超硬練り材料という特長がある。従来のダブルウォール堰堤と同様に敷均し・転圧作業が可能で,汎用性が高い建設機械が使用できる。また,中詰材が堰堤の内部応力に抵抗できる強度を確保することで,コンクリート重力式堰堤同様に剛体として検討を行なうことができ堰堤断面が小さくなる。よって,従来のダブルウォール堰堤と比べても経済断面が可能となる。

3.「JS ウォール堰堤®」の概要

「JSウォール堰堤®」は,上下流の外面に外部保護材を設け,

INSEM材を中詰材とした重力式堰堤である。概要図を図 1に示す。下流外部保護材は,修景機能を兼ねた模様付コンクリー

トパネル(鉄筋コンクリート製)とし,上流外部保護材は土石流荷重に対する耐衝撃性と高い被覆性を兼ねた鋼材の波形鋼板パネルとする。中詰材の強度は,堰堤の内部応力に抵抗できる強度として「砂防ソイルセメント設計・施工便覧」((財)砂防・地すべり技術センター)2)

が求める目標強度レベルⅢ(3.0 N/mm2以上)とする。

4.「JS ウォール堰堤®」の特長

「JSウォール堰堤®」の特長は,以下のとおりである。(1)経済性

従来のダブルウォール堰堤は台形断面の堰堤であったが,「JSウォール堰堤®」は上流外部保護材の袖部勾配(水通し位置より上部)を直とすることで断面を小さくすることが可能で,堰堤全体の中詰材の施工量が削減できるため経済性に優れる。

(2)施工性波形鋼板パネルは上下左右をボルト連結しているた

め,パネルの移動・回転がなく,従来のダブルウォール堰堤に必要としていた腹起し材が不要で,パネルのみで構築が可能で施工性に優れる。

(3)中詰材露出防止波形鋼板パネルは上下左右をボルト連結しているた

め,礫が衝突しても中詰材の露出防止をすることがで2012年 6月 6日受付

砂防ソイルセメントを使用した「JS ウォール堰堤(INSEMタイプ)®」

JS-Wall Dam (Type INSEM) Using the Sabo Soil-Cement

図1 概略図

Fig. 1 Diagrammatical view

保護コンクリート

上流外部保護材波形鋼板パネル

【上流側】

【下流側】

下流外部保護材

内部材(INSEM材 )3.0 N/mm2

コンクリートパネルまたは波形鋼板パネル

砂防ソイルセメントを使用した「JSウォール堰堤(INSEMタイプ)®」

- 49 - JFE技報 No. 31(2013年 1月)

きる。

5.機能検証

5.1 組立試験

上下流外部保護材の組立試験を実施し,精度良くスムーズに組立を行なうことができた。写真 1は下流外部保護材の組立試験状況である。また,同時に中詰材の試験施工を実施した。外部保護材の近傍も敷均し・締固め作業は支障なく行なうことができ,強度,密度ともに目標値を満足した。

5.2 性能確認試験

上流外部保護材は,土石流荷重(礫衝突荷重)が作用する。このため,耐衝撃性と高い被覆性が要求される。これら要求性能を確認するため実物大実験を実施した。上流外部保護材に衝撃荷重を作用させ,上流外部保護材およびその継手部が中詰材の露出防止機能を有する構造であることを確認した。(1)実験条件

土石流規模(礫径と流速)を設定し,礫の衝突エネルギーを重錘の衝突エネルギーと想定し,外部保護材に衝突させた。その実験状況を写真 2に示す。衝撃載荷は,重錘(2.16 t)をクレーンで吊り下げ,もう一方のクレーンにより振り子状に持ち上げて衝突させる方法と自由落下による方法で,所定の高さから落下させて試験体に衝突させた(約 70 kJ)。

(2)実験結果外部保護材の変形状況を写真 3に示す。変形状況か

ら,上流外部保護材は想定した衝撃荷重に対して,外部保護材およびその継手部の亀裂,めくれなどはなく,内部材の露出には至っていないことを確認した。

6.おわりに

本製品は,2011年 6月に建設技術審査証明(砂防技術)3)

を取得し,同年 8月に販売開始し,受注実績もできた。今後はさらなる施工性,安全性を高め改良を加えるととも

に,土砂災害防止に対して重要な役割を果たしていきたい。

参考文献 1) 砂防・地すべり技術センター.鋼製砂防構造物設計便覧 2009年. 2) 砂防・地すべり技術センター.砂防ソイルセメント設計・施工便覧

2011年. 3) 砂防・地すべり技術センター.建設技術審査証明(砂防技術)報告書

JSウォール堰堤工法(INSEMタイプ).

〈問い合わせ先〉JFE建材 土木技術部

TEL:03-5644-1221  FAX:03-5644-5413ホームページ:http://www.jfe-kenzai.co.jp/

写真1 組立試験

Photo 1 Assembling examination

写真2 実験状況

Photo 2 Experiment situation

重錘(2.16 t)(約 70 kJ)

上流外部保護材(波形鋼板パネル)

重錘(2.16 t)(約 70 kJ)

3.3 m

写真3 外部保護材の変形状況

Photo 3 Heteromorphic situation of outside protection materials