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東レリサーチセンター The TRC News No.115(May.2012)・19
●各種雰囲気下でのTG-DTA測定(特殊雰囲気TG-DTA)
1.はじめに
材料が高温にさらされると、酸化による重量増加や分解や燃焼による重量減少が生じることがある。TG(Thermogravimetry:熱重量測定)は、材料を加熱あるいは所定温度に保持した際の重量変化を調べる測定法である。その特長を活かし、材料の熱安定性を把握するために利用される。また、重量変化以外に、DTA(Differential Thermal Analysis:示差熱分析)で熱の出入りを同時に測定することで、反応や分解の要因推定にも活用できる(TG-DTA:熱重量-示差熱分析)。TG-DTA測定は一般的に窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下や、空気等の活性ガス雰囲気下で行われる場合が多い。しかし、湿潤雰囲気下のような実使用条件下での測定への要望もある。本稿では、湿潤雰囲気下や減圧下で測定可能な特殊雰囲気TG-DTAについて紹介する。
2.装置概要
TG装置の方式には天秤と試料の位置関係により、吊り下げ型、上皿型、水平型の3種類がある1︶。その中で、今回用いたTG装置は水平型に相当し、試料とリファレンスとの重量差を検出する差動方式を取っている。また、試料およびリファレンス近傍に熱電対がそれぞれ接続されているため、試料に熱の出入りが生じた際に、試料とリファレンス間の温度差としてDTA信号を得ることができる。この装置の天秤部を共通部材として、試料部周りの加熱炉と試料管を変更することで、以下の例に示す様な種々の雰囲気下におけるTG-DTA測定が可能となる。
3.特殊雰囲気TG-DTAの適用例
3.1 湿度制御重量測定 湿度制御重量測定は、試料の温度制御を行うとともに、湿度を制御した湿潤ガスを導入する測定法である。測定時の温度や湿度は、試料近傍に設置したセンサーを用いて測定する。測定可能な温度範囲は室温~80℃、湿度範囲は20~80% RH(温度により制御可能な範囲が異なる)である。 一例として、25℃、60% RH一定下で、水蒸気の吸収・吸収による活性炭、吸水性ポリマー、ポリイミド(PI)フィルム、トナーの重量変化を調べた結果を図1に示す。
初期の重量変化の立ち上がりは、トナー≦PIフィルム<吸水性ポリマー<活性炭の序列になることがわかる。一方、トナーやPIフィルム、活性炭が約40分経過後に飽和水分量に達しているのに対し、吸水性ポリマーは300分経過しても飽和に達しておらず、さらに吸水が進行することが予想される。図1から、材料によって吸水量や吸水速度が異なることがわかる。
図1 各種材料の吸水による重量変化
3.2 水蒸気導入TG-DTA測定 先述した湿度制御重量測定では、100℃以下の一定温度、水蒸気量のコントロールされた一定湿度下での重量変化を測定するのに対して、水蒸気導入測定では、バブリングによって調整した湿潤ガスを導入しながら、最高1000℃まで加熱昇温した際の重量変化を計測する方法である。試料近傍に湿潤ガスを導入することで試料の乾燥を防ぎながら、水蒸気の存在する状態での加熱重量変化を測定することができる。 図2に、乾燥または水蒸気含有の湿潤ガスを導入しながら加熱したときの高分子電解質膜の重量変化および熱の出入りを調べた結果を示す。測定雰囲気には、乾燥ガス(Dry窒素 or Dry Air)および湿潤ガス(Wet窒素 or Wet Air)を用いた。 室温にて約4時間保持される間に、乾燥雰囲気下では試料に付着した水分が揮発することで、約6%の減量が認められた。一方、湿潤雰囲気下では水分を吸着・吸収して、約10%増量が認められた。
図2 高分子電解質膜の重量変化の時間依存性
各種雰囲気下でのTG-DTA測定(特殊雰囲気TG-DTA)
材料物性研究部 大田 玲奈
20・東レリサーチセンター The TRC News No.115(May.2012)
●各種雰囲気下でのTG-DTA測定(特殊雰囲気TG-DTA)
さらに、同試料について、室温から10℃ /minの速度でそれぞれ昇温測定を行ったところ、いずれの雰囲気下においても、約600℃までにほぼ100%減量することがわかった(図3)。図3の各TG曲線から減量開始温度を比較すると、Wet Air<Dry Air<Wet窒素<Dry窒素の序列になった。雰囲気の違いに伴って、分解挙動が異なることがわかる。
図3 高分子電解質膜の重量変化の温度依存性
図4に高分子電解質膜のDTA曲線を示す。減量の見られた約300~600℃間のDTA曲線に着目すると、Dry AirおよびWet Air中では、酸化由来と思われる発熱ピークが見られるため、熱酸化分解が生じていると推察される。一方、Dry窒素およびWet窒素中では、酸化由来と思われる発熱ピークは認められず、ブロードな吸熱ピークが見られるため、熱分解が生じているものと推察される。
図4 高分子電解質膜のDTA曲線
なお、窒素、空気共に湿潤雰囲気下での加熱減量挙動が乾燥雰囲気下の場合よりも低温で見られたことは、水の存在によって熱(酸化)分解が促進されたためと考えられる。
3.3 減圧TG-DTA測定 装置に真空ポンプを接続して真空排気することで、装置内を減圧に保ちながら測定することも可能である。測定可能な温度範囲は室温~1000℃、最高到達真空度は5~10Paである。 図5に、シュウ酸カルシウム一水和物について、減圧下および大気圧下(窒素中)で、室温~1000℃での加熱
重量変化を調べた結果を示す。なお、シュウ酸カルシウム一水和物の化学式から求めた減量率は以下のように推定される1︶。
CaC2O4・H2O → CaC2O4 + H2O (12.3%) CaC2O4 → CaCO3 + CO (19.2%) CaCO3 → CaO + CO2 (30.1%)
トータルの減量率 → (₆1.₆%)
図5 シュウ酸カルシウム一水和物のTG曲線
各段階での減量率とトータルの減量率は理論値とほぼ一致しているが、減量の生じている温度は、減圧下の方が大気圧下と比べて、低温側にシフトしていることがわかる。減圧TG-DTA測定法を利用すると、雰囲気の違いに伴う減量挙動の違いも明確になる。なお、今回はDTA曲線を記載していないが、本測定でもTG信号と同時にDTA信号も取得可能である。
4.おわりに
特殊雰囲気TG-DTA装置により、新たに湿度制御重量測定、水蒸気を流通させながらのTG-DTA測定、減圧下でのTG-DTA測定が可能となった。本装置を用いることで、乾燥ガス以外の実使用環境を模擬した雰囲気下での測定に対応できる。今後もお客様のご要望を叶えるべく、技術の深化に努めたい。
5.参考文献
1) 小澤丈夫・吉田博久 著,“最新 熱分析”,講談社サイエンティフィク (2005).
■大田 玲奈(おおた れな) 材料物性研究部 材料物性第1研究室 略歴:㈱東レリサーチセンターで熱分析に従事 趣味:陶芸