産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用...

25
1 17 5 【目 次】 Ⅰ.我が国農薬業界の動向 ・・・・・・・・・・・・ P. 2 Ⅱ.海外農薬業界の動向 ・・・・・・・・・・・・P. 11 Ⅲ.我が国農薬メーカーに求められる戦略 ・・・・・・・・・・・・P. 14 Ⅳ.結論 ・・・・・・・・・・・・P. 21 Appendix~海外市場の個別動向 ・・・・・・・・・・・・P. 22 【要 旨】 これまで我が国農薬メーカーは、 10 社強の開発型メーカーを中心に総じて安定的 に収益を計上してきた。これは、各社がニッチ分野を中心に世界的にみても高い 研究開発力を有することに加え、我が国農薬業界に特有の規制や構造により、参 入メーカー間の競合が比較的緩やかなものに留まっていたことに起因する。 しかしながら、足元、国内では政府によりジェネリック農薬の普及促進などの農 業改革が進みつつあるうえ、海外ではダウ・ケミカルとデュポンの合併をはじめと する大型再編が立て続けに起こるなど、我が国農薬メーカーを取り巻く環境が大 きく変化する兆しがみられる。 こうしたなか、我が国農薬メーカーにおいては、これらの将来的な環境変化を見 据えた戦略の転換が求められよう。具体的には、強みである「高い研究開発力の 維持」と、課題である「海外における販売力の強化」が必要。 まず、「高い研究開発力の維持」については、今後、新薬開発難度が高まるなか、 ①農薬登録体制の拡充、並びに②外部リソースの活用が求められる。 一方、「海外における販売力の強化」については、販売委託を中心とする海外展開 方法から転じて、今後は費用対効果を重視のうえ、①地域ごとに濃淡をつけた自 前の海外販売網の設置、並びに②海外における製品の重点領域の明確化に取り組 むことが有効。 なお、我が国農薬メーカーは総じて規模が小さく、単独でこれらに取り組むには 限界があることから、M&A 等を通じた事業規模の拡大も併せて検討すべきとい えよう。 産業レポート 農薬業界の動向と 我が国メーカーに求められる戦略 佐藤 友里 戦略調査部 企業調査室 株式会社 三菱東京 UFJ 銀行 A member of MUFG, a glob

Upload: others

Post on 07-Feb-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

1

2017年 5月

【目 次】

Ⅰ.我が国農薬業界の動向 ・・・・・・・・・・・・ P. 2

Ⅱ.海外農薬業界の動向 ・・・・・・・・・・・・P. 11

Ⅲ.我が国農薬メーカーに求められる戦略 ・・・・・・・・・・・・P. 14

Ⅳ.結論 ・・・・・・・・・・・・P. 21

Appendix~海外市場の個別動向 ・・・・・・・・・・・・P. 22

【要 旨】

これまで我が国農薬メーカーは、10 社強の開発型メーカーを中心に総じて安定的

に収益を計上してきた。これは、各社がニッチ分野を中心に世界的にみても高い

研究開発力を有することに加え、我が国農薬業界に特有の規制や構造により、参

入メーカー間の競合が比較的緩やかなものに留まっていたことに起因する。

しかしながら、足元、国内では政府によりジェネリック農薬の普及促進などの農

業改革が進みつつあるうえ、海外ではダウ・ケミカルとデュポンの合併をはじめと

する大型再編が立て続けに起こるなど、我が国農薬メーカーを取り巻く環境が大

きく変化する兆しがみられる。

こうしたなか、我が国農薬メーカーにおいては、これらの将来的な環境変化を見

据えた戦略の転換が求められよう。具体的には、強みである「高い研究開発力の

維持」と、課題である「海外における販売力の強化」が必要。

まず、「高い研究開発力の維持」については、今後、新薬開発難度が高まるなか、

①農薬登録体制の拡充、並びに②外部リソースの活用が求められる。

一方、「海外における販売力の強化」については、販売委託を中心とする海外展開

方法から転じて、今後は費用対効果を重視のうえ、①地域ごとに濃淡をつけた自

前の海外販売網の設置、並びに②海外における製品の重点領域の明確化に取り組

むことが有効。

なお、我が国農薬メーカーは総じて規模が小さく、単独でこれらに取り組むには

限界があることから、M&A 等を通じた事業規模の拡大も併せて検討すべきとい

えよう。

取引先情報

写・配布用写以外コピー厳禁 A-1 産業レポート

農薬業界の動向と 我が国メーカーに求められる戦略

佐藤 友里

戦略調査部 企業調査室

株式会社 三菱東京 UFJ銀行

A member of MUFG, a global

financial group

Page 2: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

2

社 外 秘

Ⅰ.我が国農薬業界の動向

1. 農薬事業の特徴~多品種少量の化学品であり、研究開発が重要

農薬とは、農作物に用いる殺虫剤や殺菌剤、除草剤などの総称。製品の効能や対

象とする農作物などに応じて細かく品目が分かれている(図表 1)。

とりわけ、我が国の場合、生産される農作物の種類が多いことを主因に、多数

の品目の農薬が使用されており、現在、国内では約 4,300 品目(有効成分では

500 種類強)が販売されている。

図表 1:農薬の種類・用途別の国内出荷額(2015年度)

農薬メーカーの事業内容をみると、以下の通り、「研究開発」、「製造」、「販売」に

大別される。

(1)研究開発~農薬事業の要ながら難易度は高い

研究開発では、農薬の有効成分である“原体”となる候補化合物を探索したのち、

実用化に向けた薬効評価・毒性試験等のデータをもとに、販売を予定する各国に

おいて製品登録を行う(図表 2)。

図表 2:農薬の開発フロー

(単位:億円) (単位:億円)

品種 主な効能 出荷額 構成比 用途 具体例 出荷額 構成比

除草剤 雑草の発生を防ぐ 1,099 33.4% 水稲用 米 1,222 37.2%

殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4%

殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用 りんご、メロン、もも 503 15.3%

殺虫殺菌剤 害虫と病気を同時に防ぐ 347 10.6% その他 小麦、大豆、とうもろこし 398 12.1%

その他 成育促進、ネズミ防除など 106 3.2% 3,286 100%

3,286 100%

合計

合計

(資料)農薬工業会 HP をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(資料)産業競争力会議実行点検会合資料などをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

項目 スクリーニング 実用性評価 開発・登録申請データ取得 登録

・原体の薬効評価を実施 ・毒性、環境負荷に関する 予備試験実施

・登録に必要なデータ収集 ・毒性、環境負荷に関する 試験実施

その他(開発期間等)

有効成分を持つ化合物

が見つかる確率は、

160,000分の1程度

(1人の研究者が1年で合成

 する化合物は約200個)

内容

・分子設計、合成を繰り返し

 行う中で有効成分を持つ

 化合物(=原体)を探索

 ・提出したデータに基づく  各国での登録審査

         ・製剤製法の検討         ・原体の工業生産プロセスの検討

2~3年 3~5年 1~2年

新たな有効成分の発見から約10年

特許の取得 製品化の決定

Page 3: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

3

社 外 秘

農薬は、人体・周辺環境に対する安全性が極めて厳格に求められ、販売にあたっ

ては各国の厳しい登録基準を満たす必要があることから、国内において新たに登

録される原体は年間 10 個程度に過ぎない。

したがって、農薬メーカーにとっては、一旦、有望な新薬の承認が得られれば、

特許・規制に守られ中長期的に安定した売上を確保できるため、新薬の研究開発

が極めて重要となる。

しかしながら、足元では、①新たな候補化合物の発見余地の縮小、②各国での登

録基準の厳格化を背景に、新薬の開発難度の上昇(製品化の確率の大幅な低下)

並びに開発期間の長期化が進んでいるため(図表 3)、農薬メーカーにとっては、

開発費用の増嵩など開発負担は着実に高まってきている。

図表 3:新薬の開発難度・期間

このように、研究開発の難易度が高いゆえに当業界への新規参入は難しく、新薬

開発を継続的に手掛けるメーカーは、世界全体でも日米欧の 20 社程度に限られる。

(2)製造~農薬事業における相対的な重要度は低い

製造については、①農薬の有効成分である“原体”を、有機合成技術を用いて製

造する工程と、②原体に乳化剤などの添加物を配合し、粉状、顆粒状、液体など

の製剤に仕上げる工程に大別される(次頁図表 4)。

本工程は、比較的単純であるため、高付加価値化の余地があまりないことから、

事業全体に占める相対的な重要度は低い。

8.3年

9.8年

11.3年

0.0000%

0.0010%

0.0020%

0

4

8

12

1995 2005-08 2010-14

製品発売までの

経過期間(左軸)

(年)

1 / 140,000

1 / 159,574

1 / 52,500

スクリーニングの

成功確率(右軸)

1 / 50,000

1 / 100,000

0.0

(資料)欧州農薬工業会資料をもとに 三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

Page 4: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

4

社 外 秘

図表 4:農薬の製造フロー

(3)販売~国内は全農・商社経由が中心/海外は欧米大手への販売委託が中心

国内販売については、全農(注)や商社への卸売が中心(図表 5)。これは、小売を

担う地域農協が数百も点在していること、消費者の多くが小規模農家であること

から、農薬メーカーが自社で流通事業を手がけるにはコスト負担が大きいため。

(注)正式名称は、「全国農業共同組合連合会」。地域農協(2015 年度は全国に 664 存在)の上部

組織として、農畜産物の販売事業、生産資材の購買事業などを手掛ける。

図表 5:農薬の流通経路(2013年度)

ただし、自社製品の販売促進を進めるうえでは、全農に一任するのではなく、農

家の直接の購買窓口となる農協に対して営業活動を行うことも求められる。

これは、農薬のユーザーである農家は、農協に推薦された農薬の組み合わせ

を購入することが多く、意思決定を農協に左右される傾向が強いため。

農協への営業活動においては、売上規模の大きい地域への自社販売拠点の設置、

気候・作物特性に応じた提案型販売の実施等が有効となる。

一方、海外販売については、バイエルや BASF といった欧米大手への販売委託を

通じて、欧米市場を中心に製品を供給している。

販売委託という手法を採ってきた理由は、欧米大手が世界各地に構築した販

売網を通じた製品供給が可能となり、自前で販売網を構築する時間・コスト

を省けるため。また、委託先の商品とセット販売してもらう効果(注)も期待で

きる(詳細後述)。

農薬(製剤)

メーカー

全農

商社

県連 各地域の農協

小売店(ホームセンター等)

7%

33%

33%

60%

40%

20%

40%

(資料)農薬要覧をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

製造

基礎原料

中間体 原 体(有効成分)

製 剤(最終製品)

有機合成

農薬メーカーが手掛ける範囲

(原料)化学メーカーから調達 原体工程 製剤工程

原体の配合

添加物の配合

剤型の加工

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(注)具体的には、欧米大手の農薬と補完的な効果を持っていたり、一般の農薬が効きにくい

遺伝子組み換え作物と相性の良い製品であれば、セット販売してもらうことによる売上

拡大が期待できる。

Page 5: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

5

社 外 秘

2. 国内の業界構造

(1)参入企業~多数のメーカーが参入しており、メーカーの上位集中度が低い

多品種少量型の製品特性を背景に、国内には約 50 社の農薬メーカーが参入。ただ

し、新薬開発から製造・販売まで一貫して手掛ける“開発型”メーカーは 10 社強

に留まる。

残りの約 40 社は原体を外部調達し製造工程のみ手掛ける製剤メーカー。

主な参入企業としては、農薬専業メーカーの他、国内大手化学メーカー、欧米農

薬メーカーが挙げられるが(図表 6)、市場シェアは、最大手であっても 1 割程度

に留まっており、上位集中度の低い業界構造となっている。

図表 6:国内市場における農薬メーカーの主な顔ぶれ

なお、我が国メーカーは、販売先により、全農向け売上が主体の“系統メーカー”

と商社向け主体の“商系メーカー”に大別される(図表 7)。

図表 7:農薬メーカーの区分

専業 化学 外資系

日産化学工業 ●

クミアイ化学工業 ●

北興化学興業 ●

住友化学 ●

三井化学アグロ ●

バイエルクロップサイエンス ●

日本農薬 ●

日本曹達 ●

協友アグリ ●

アグロカネショウ ●

企業名区分

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部

企業調査室作成

(注)系統メーカー3 社はいずれも全農から出資を受けている。

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

区分 企業名

系統メーカー(注) クミアイ化学工業、北興化学工業、協友アグリ

商系メーカー 住友化学、石原産業、日産化学工業、三井化学、日本農薬、日本曹達等

Page 6: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

6

社 外 秘

(2)我が国農薬メーカーの特徴~各社は高い研究開発力を有する

我が国農薬メーカーの特徴としては、主要な欧米大手に並ぶ高い水準の研究開発

力を有することが挙げられる。

原体となる新規有効成分を開発している“開発型”のメーカーは、世界にお

いて欧米大手並びに我が国メーカー10 社強を合わせた 20 社程度に限られる。

実際、過去約 10 年の研究開発状況をみると、新規有効成分を成す化合物の開発数

は、事業規模で劣る我が国メーカーの実績が欧米大手と並ぶ(図表 8)。

図表 8:新規化合物の開発状況(2004~2014年)

その背景には、研究開発方法における違いが挙げられる。

具体的には、欧米大手は約 200~300 人の研究者が幅広く候補化合物をスクリ

ーニングする一方、我が国メーカーは研究者が約 20~40 人と限られるため、

知識・経験に基づき有望な候補化合物を選定したうえで、スクリーニングに

かけることが多い。

すなわち、我が国メーカーは、人的資源等は限られながらも、これまで蓄積した

ノウハウを強みに、欧米大手に並ぶ研究開発力を有していると言えよう。

実際、我が国メーカーの研究開発力に対する評価は世界的に高く、欧米大手から

我が国メーカーへ共同開発を持ちかけるケースが少なくない。

36% 38% 26%1新規化合物

(合計105個)

欧米大手我が国メーカー その他

(資料)日本農薬学会「農薬産業の現状と将来」をもとに

三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

Page 7: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

7

社 外 秘

3. 国内の市場推移~市場規模は近年横這いで推移してきたが、今後は漸減傾向

国内における農薬の市場規模は、直近 10 年間で約 3,300 億円前後とほぼ横這い。

これは、販売量こそ耕作地面積の縮小(年率▲0.5%程度)を背景に減少したもの

の、販売単価が高付加価値な製品の普及に牽引される形で上昇したため(図表 9)。

ただし、今後は、耕作地面積の減少が続くとみられるうえ、更なる高付加価値化

の余地は限られているとの見方が一般的であり、市場は漸減傾向を辿る見通し。

図表 9:国内の農薬出荷額・耕作地面積の推移

4. 国内の収益環境~我が国農薬メーカーは、良好な収益環境を享受

一方、我が国農薬メーカー大手各社の業績をみると、堅調な推移を辿っている

(図表 10)。

図表 10:我が国農薬メーカーの業績推移(2011~15年度)

0%

5%

10%

15%

0

50,000

100,000

150,000

11 12 13 14 15

(百万円)

(年度)

0%

5%

10%

15%

0

50,000

100,000

150,000

11 12 13 14 15

(百万円)

(年度)

平均営業利益率

(右軸)

農薬関連事業売上合計(左軸)

(注)図表 6 掲載の 10 社のうち、情報制約のためシンジェンタ、三井化学、バイエルクロッ

プサイエンスを除いた 7社の農薬関連事業を対象とした。 (資料)各社 IRをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(資料)農薬工業会、農林水産省「農林水産基本データ集」をもとに

三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

0

1,000

2,000

3,000

4,000

05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

農薬出荷額(左軸)

耕作地面積(右軸)

(年度)

(億円) (千ha)

Page 8: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

8

社 外 秘

これは、各社が 6 頁のとおり高い研究開発力を有することに加え、国内において

販売価格が安定的に推移する傾向にある等、良好な収益環境を享受しているため。

販売価格が安定的に推移する背景としては、まず供給面をみると、農作物・用途

毎に利用できる農薬が限られていることから、農薬メーカーの価格交渉力が相応

に強いことがある。

一方、需要面をみると、最大の購入者である全農は、出資先である系統メーカー

と農耕地用(注)農薬を全量買い上げる契約を結ぶなど、系統メーカーが安定的に

採算を確保できるよう配慮する傾向があるため、価格引き下げ圧力が強くないこ

とも影響している。

(注)「農耕地用」とは水稲、果樹、野菜用等向けを指す。なお、「非農耕地」用はゴルフ場、

林地等向け。

加えて、農薬メーカーは、大半の製品では年一回、まず全農と卸売価格を交渉・

妥結した後で、商社と交渉するが、その際、全農と妥結した価格を参考指標とし

て用いるため、全農向けと商社向けの間で大きな価格差は発生せず、市場全体と

しても価格は安定する傾向がある。

5. 農業改革の概要と我が国農薬メーカーへの影響~収益環境の悪化が懸念される

我が国農薬メーカーは、これまで安定的な収益を確保してきたが、足元では政

府主導で競争原理の導入を目的とした改革が進展しており、収益環境に変化の

兆しがみられる。

具体的には、2016 年 11 月、安倍政権は、農業改革に向けた取り組みをまとめた

「農業競争力強化プログラム」(注)のなかの重要検討課題として、農薬を含む生

産資材の価格引き下げを挙げ、以下のような施策を打ち出した(次頁図表 11)。

(注)2017 年 2 月 10 日には、改革法案を閣議決定・国会に提出している。

図表 11:農業改革の骨子

農業改革の骨子

農業の競争力強化

目標 課題 具体的な施策

①ジェネリック農薬

普及に向けた登録簡素化

②流通構造の改革

(全農の購買事業の見直し)

TPPの大筋合意

①価格引き下げ圧力の高まり

②農薬メーカーの系統系と商系の

すみ分けの消滅による競争激化

想定される影響契機

(農薬を含む)

生産資材の

価格引き下げ

(資料)農林水産省資料「農業競争力強化プログラム」をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

Page 9: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

9

社 外 秘

(1)ジェネリック農薬の普及促進~試験費用の低下を促し普及を目指す

まず、政府は低価格のジェネリック農薬の普及促進を図る方針。というのも、我

が国では、ジェネリック農薬(注)の普及率が 5%と、世界全体の平均普及率 59%

と比べ低位に留まる状況であるため(図表 12)。

これは、ジェネリック農薬の試験費用の差異によるもの。同費用は、米国や

EU等では約 1億円に留まるのに対し、我が国では約 6億円と高い。このため、

我が国においては、ジェネリック農薬は新薬に対する価格優位性に乏しくな

り、普及が進みづらい。

(注)ジェネリック農薬とは、特許が失効した原体を元に開発した製品であり、開発コストを

抑えられる分、新薬に比べ安価であることが特徴。

この状況を踏まえ、政府は、ジェネリック農薬の普及の梃子入れ策として 2017

年 4 月より登録制度の簡素化を通じて試験費用の低下を促す施策を導入。

図表 12:各国のジェネリック農薬の普及率と農薬登録制度の比較

(2)流通構造の改革~全農に対し仕入れ体系の自由競争化を促す

さらに、政府は、農協の上部組織として生産資材の仕入れ等を取り纏める全農が、

生産資材の価格高止まりの原因を作っているとして、購買事業の見直しも求めて

いる。

具体的には、全農に対して、出資先である系統メーカー中心の仕入れ体系(注)を

自由競争化する等の見直し(具体的には競争入札方式の導入や取り扱う商品数の

削減)を求めている。

(注)8 頁で述べた通り、全農は系統メーカーから農耕地用農薬を全量買い上げたうえで、不足分を商系メーカーから仕入れる方式を採っている。

日本 世界全体

ジェネリック農薬の普及率(注1)

(数量ベース)5% 59%

日本(注2) 米国・EU

登録時の管理項目 有効成分+製造方法 有効成分と不純物の組成

ジェネリック農薬の試験費用(1製品当たり)

約6億円 約1億円

(注)1.日本の普及率は 2014 年度、世界全体の普及率は 2013 年時点。

(注)2.農林水産省は 2017 年 4 月以降、登録制度を簡素化。

(資料)農林水産省資料、Phillips McDougal 資料より三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部

企業調査室作成

Page 10: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

10

社 外 秘

(3)農業改革が我が国農薬メーカーに与える影響~収益環境の悪化が懸念される

これまで安定的に収益を確保してきた我が国農薬メーカーであるが、上記改革が

進めば、主力の国内事業の収益性低下を余儀なくされることが懸念される。

具体的には、ジェネリック農薬の普及に伴い、特許切れ後の先発品が安価な

ジェネリック農薬との価格競争に晒されることで、販売量の減少、価格の引

き下げ圧力等に見舞われることが懸念される。

仮に、ジェネリック農薬を自社販売した場合も、ジェネリック農薬は先発品

に比べマージンが小さいことから、収益性の低下を余儀なくされる公算大。

また、全農が政府の求めに応じ、流通構造の改革が実現した場合、全農向け

の販売において農薬メーカー間の価格競争が引き起こされる等の影響が想定

されよう。

実際、農業改革への対応を迫られた全農は 2017 年 3 月、農産物の販売強化、生産

資材価格の引き下げに向けた自己改革案を発表するなど、改革の実現に向けた動

きに着手。政府も定期的に進捗状況をフォローするとコメントしており、今後も

改革が推し進められる公算は大きいとみられる。

全農は自己改革案の発表に先立ち、2016 年 8 月に今後 3~5 年間で最大 10 品

目のジェネリック農薬を農薬メーカーと新たに開発することを発表したこと

に加え、2017 年 1 月にジェネリック農薬の普及を目指す「ジェネリック農薬

協議会」を海外ジェネリックメーカー及び国内製剤メーカーと共同設立した。

こうしたなか、我が国農薬メーカーは業績の維持・向上に向けて、従来軸足を置

いてきた国内のみならず、海外への販売拡大にも本格的に取り組むことが求めら

れよう。

Page 11: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

11

社 外 秘

Ⅱ.海外農薬業界の動向

1. 海外の再編動向

(1)再編の概要~圧倒的地位を誇る大手 6社の間でさらなる再編が進む

海外の農薬市場をみると、“Big6”(注)と呼ばれる農業化学(農薬・種子)分野の

大手 6 社が販売規模で他社を圧倒しており、6 社合計での世界シェアは 7 割にも

及ぶ。

その他、中小規模のメーカーの多くは、原体を外部調達する製剤メーカーやジェ

ネリックメーカーの位置付け。

(注)Big6 とは、シンジェンタ、バイエル、BASF、ダウ・ケミカル、モンサント、デュポン の 6 社を指す。

さらに今後は、2015~2016 年に相次いで発表された 3 件の大型買収・経営統合を

経て、現在の“Big6”体制から、“農薬・種子を手掛ける 3 強+BASF”体制へ再

編され、さらなる上位集中型の業界構造となる見込み。結果、欧米大手と我が国

メーカーの事業規模の差は一層拡大する見込み(図表 13、14)。

図表 13:世界の主要農薬メーカーの顔ぶれと再編動向

図表 14:再編後の主要農薬メーカーの売上規模比較

新薬主体

ジェネリック

主体

1 シンジェンタ スイス ● 118  2016年に中国ケムチャイナ(注2) が買収を発表

2 バイエル ドイツ ● 111

3 BASF ドイツ ● 72     2016年に買収発表

4 ダウ・ケミカル 米国 ● 57

5 モンサント 米国 ● 49        2017年に合併予定

6 デュポン 米国 ● 37

7 ADAMA イスラエル ● 30  2011年に中国ケムチャイナが買収

8 ニューファーム 豪州 ● 23

9 FMC 米国 ● 22

10 住友化学 日本 ● 21

順位 企業名

区分

売上高(注1)

(億ドル)備考国

Big6 の

世界シェアは約 7 割

(注)1.売上高は 2014 年度実績値。

(注)2.ケムチャイナ(中国化工集団)は中国国有の大手化学メーカー。一連の買収を通じて農薬市場に参入。

(資料)Bloomberg をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

0 50 100 150

シンジェンタ

(ケムチャイナ傘下)

ダウ・ケミカル+デュポン

BASF

住友化学

バイエル+モンサント

(億ドル)(資料)新聞記事をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

Page 12: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

12

社 外 秘

(2)再編の背景~収益環境が厳しくなるなか、大手は再編を通じた規模拡大を志向

欧米大手がさらなる再編に踏み切る背景には、世界市場は食糧需要の増加を受け

て拡大傾向にあるものの(図表 15)、①研究開発費の増嵩、②価格競争の激化、

といった要因により収益環境が厳しさを増すなか、研究開発費の確保、販売の合

理化を進めるべく規模拡大を志向していることがある。

① 研究開発費の増嵩

欧米大手 5 社の研究開発費の総額は、1990 年代から比較すると 2 倍弱程度まで増

加(図表 16)。これは、3 頁で述べた通り、新薬開発において、開発難度の上昇並

びに開発期間の長期化が進んでいるため。

② 価格競争の激化

2000 年代以降、遺伝子組み換え作物と一緒に用いられる大型農薬の特許切れによ

り、米州・アジア(日本を除く)を中心にジェネリック農薬の販売が拡大したこ

とで、価格競争は激化しつつある。(図表 17)。

図表 15:農薬の世界市場規模推移

53%

33% 28% 23% 23% 23%

33%

32%32%

25% 22% 18%

14%

35% 40%52% 55% 59%

0%

50%

100%

1993 1999 2008 2011 2012 2013

ジェネリック製品

特許切れの新薬

新薬(特許期間内)

(年)0

100

200

300

1995 2000 2005-08 2010-14

184

256

286

実用性評価~

申請データ取得

登録

(百万USD)

152

スクリーニング

(資料)アグロカネショウ IR 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行

戦略調査部企業調査室作成

0

100

200

300

400

500

600

05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

(億ドル)

(年)

中南米

アジア

欧州

北米

その他CAGR5%

(資料)Phillips McDougall 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行

戦略調査部企業調査室作成

図表 17:世界市場におけるジェネリック農薬

の販売割合(数量ベース)

図表 16:欧米大手 5社の研究開発費の推移

(資料)欧州工業協会資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行

戦略調査部企業調査室作成

Page 13: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

13

社 外 秘

2. 海外再編が我が国農薬メーカーへ与える影響

~欧米大手への委託を中心とした海外販売の収益性が低下する恐れ

このように欧米大手間でさらなる再編が進むなか、我が国農薬メーカー各社にお

いては、従来採ってきた欧米大手への委託を通じた海外販売の収益性が低下する

ことが懸念され、海外販売戦略の見直しを迫られる公算が大きい。

すなわち、欧米大手は、自社の製品ポートフォリオの不足を補うため、我が国メ

ーカー品の販売も手掛けてきた。しかし、業界再編を契機に、①製品ポートフォ

リオの補完が進み、我が国メーカーとの販売委託契約を打ち切る、②規模拡大に

よる価格交渉力強化を背景にマージン縮小を求めてくる、といった事態が想定さ

れる(図表 18)。

図表 18:海外再編が我が国農薬メーカーの販売委託に与える影響

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

Page 14: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

14

社 外 秘

Ⅲ.我が国農薬メーカーに求められる戦略

1. 求められる取り組み~「研究開発力の維持」並びに「海外販売力の強化」が重要

既述の通り、国内外の農薬業界において足元で大きな変化の兆しが見えはじめて

いるなか、我が国農薬メーカーにおいては、将来的な収益環境の悪化を見据えた

対応が求められよう。具体的には、(1)我が国農薬メーカーの強みである高い「研

究開発力」を維持しつつ、(2)海外における「販売力」を高めることが必要。

(1)については、「農薬登録体制の拡充」並びに「外部リソースの活用」が求め

られる一方、(2)については、「地域ごとに濃淡をつけた自前の海外販売網の設置」

並びに「海外における製品の重点領域の明確化」にも取り組むことが有効。

ただし、これらの対応には固定費負担の増加が予想され、単独での取り組みには

限界があることから、M&A 等を通じた事業規模の拡大も併せて検討すべき。

我が国メーカー各社は、最大手の住友化学を除けば農薬関連の売上規模は現

状 300~500 億円程度であるが、今後の研究開発費の増加等の影響を考慮する

と、業界内では売上 1,000 億円以上は必要との見方が大勢を占める。

(1)研究開発力の維持

~「農薬登録体制の拡充」並びに「外部リソースの活用」が重要

我が国メーカーが高い研究開発力を維持するためには、①農薬登録体制の拡充、

②外部リソースの活用、が求められよう。

① 農薬登録体制の拡充による投資回収サイクルの短縮

研究開発難度が高まりつつあるなか、継続的に新製品の開発を行っていくには、

従来以上に投資回収のサイクルを短縮していく必要がある。

この点、我が国農薬メーカーの多くは新規製品の登録申請を各国で一斉に行うだ

けの体制が整っていないことから、販売対象各国に順次、個別申請を行う手法を

採っている(次頁図表 19)。このため、製品化の段階では販売可能な国が少なくな

り、投資回収が長期化する傾向が強い。

Page 15: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

15

社 外 秘

図表 19:クミアイ化学工業の除草剤「ピロキサスルホン」の上市国数(計画)

こうしたなか、我が国政府は農薬産業の国際競争力強化の観点から、販売登録を

効率化するべく、国際共同評価(注)を導入予定としている。しかし、実際にこの枠

組みを活用するには、同時に複数国分の申請データを準備可能な登録体制が必要

であり、人員の制約や拠点設置に伴うコストの問題などから現時点で利用可能な

企業は一部の大手メーカーに限られるとみられる(図表 20)。

(注)従来は 1 ヵ国ごとに個別実施していた農薬登録の作業を、複数国で分担することで登録速度を向上させることを目的とした国際的な枠組み。既に米国主導で OECD 加盟の複数国にて導入済み。

従って、我が国メーカーは今後、農薬の登録体制の拡充に向け、他社との合併な

いし提携を通じた協働も必要と考えられる。

図表 20:国際共同評価の流れ

3 3

6 67

9

15

17

20

0

5

10

15

20

25

2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020

カナダ

サウジアラビア

日本トルコ

メキシコ

インド

ニュージーランド

ブラジル

アルゼンチン

チリ

中国

米国

豪州

南アフリカ

(国数)

(上市年)

申請

A国

B国

C国

各国評価者との連携

評価結果の共有

毒性評価

(人への影響)

毒性評価

(環境影響)

植物代謝

残留農薬

基準設定

残留農薬

基準設定

残留農薬

基準設定

登録

登録

登録

・申請様式の共通化

・英文データの受理

(資料)農林水産省資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(資料)クミアイ化学工業 IR 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部

企業調査室作成

Page 16: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

16

社 外 秘

② 外部リソースの活用による研究開発方法の効率化

我が国農薬メーカーは従来、研究開発を原則自社単独で行ってきた経緯にあるが、

今後は、研究開発難度が高まるなか、積極的に外部リソースを活用することで研

究開発手法を効率化することも求められる。

<他社との共同開発の活用>

研究開発における経費のうち、約半分を占めるのは、販売対象各国における「実

用性評価」や「データ収集」等に関わる費用となっており、この部分を抑制する

ことが研究開発の効率化に繋がる。

この点については、自社単独での開発に固執せず、販売を企図する地域や製品分

野に応じて、他社との共同開発を活用し、上記プロセスに関わるコストを分担す

ることで、より効率的に研究開発を進めることが可能となる。

実際、殺虫剤の開発に定評のある三井化学アグロは、2014 年に BASF と新規殺

虫剤の共同開発契約(2016 年の日本登録を皮切りに、各国で順次登録を実施)

を結び、日本など一部地域を除き世界中における開発(データ収集~登録)を

負担してもらう代わりに販売権を付与している。

また、住友化学は、モンサントから研究開発力の高さとこれまでの共同開発

実績を評価されて、2016 年に提携を拡大。現在は、防除体系全体(種子~農

薬などの一連の組み合わせ)を共同開発中。

<ベンチャー企業の買収>

今後市場拡大が期待できる、バイオ農薬(注)では、我が国農薬メーカーは一部で製

品化の実績はあるものの、我が国メーカーが従来得意としてきた化学農薬とは異

なる開発手法が必要となるため、本格的な取り組みには至っていない。

(注)生きたままの状態で農薬として使用できる微生物や昆虫を指す。化学農薬とは異なり、毒性が低く環境負荷が軽いことから需要は拡大傾向にあるものの、現時点では大量生産、効果の安定性・持続性等にネックが残るため、化学農薬を補完する位置付け。

こうしたなか、バイオ関連のベンチャー企業買収等を通じてバイオ農薬に関する

する技術・ノウハウを取り込むことを検討することが求められよう。

実際、住友化学 Gr は、2015 年に微生物農業資材を手がける米国のマイコライ

ザル・アプリケーションズ社を買収。これは、微生物農薬で必要とされる培養

技術の取り込みを狙った買収とみられる。

Page 17: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

17

社 外 秘

(2)海外販売力の強化

~「海外展開エリアの選定」並びに「製品の重点領域の明確化」が重要

既述の通り、海外市場における再編進展を受けて、我が国農薬メーカー各社は、

委託を通じた海外販売の収益性低下が懸念されるため、海外における自社の販売

力を高めることが求められる。

ただし、我が国農薬メーカーの事業規模に鑑みると、費用対効果を重視のうえ、

①販売網、②製品ラインナップにおいて欧米大手との差異化が可能な地域・製品

分野を重点的に強化することが不可欠となる。

① 地域ごとに濃淡をつけた自前の海外販売網の設置

我が国農薬メーカーは、総じて、人員・コスト等の制約下で十分な海外販売網を

構築できていなかったため、高付加価値な新薬を開発できた場合でも、海外販売

では欧米大手への販売委託をせざるを得なかった。

一方、欧米大手が、欧州・米州など主要地域に設置した販売拠点を通じて自

社販売可能な体制を確立しているのは、長い業歴を経て販路を構築してきた

ことに加え、マーケティングや与信管理、農薬登録等に十分な人員を配置で

きているため。

こうしたなか、我が国農薬メーカーは、従来採ってきた、欧米大手への販売委託

中心の体制を見直し、重点的に開拓すべき地域については現地企業の買収や販社

設立を含めた、自前の販売網の設置を検討すべきであろう(図表 21)。

図表 21:進出形態によるメリット・デメリットの比較

販売戦略の自由度現地企業との調整のもと、自社の裁量で決定可能

自社の裁量で決定可能販売戦略はコントロール不可(販促してもらえる保証無し、契約打ち切りのリスク有り)

マーケティング現地ニーズの把握が可能かつ人材の確保が容易

現地ニーズの把握は可能だが、人材の確保が必要

直接、現地ニーズを把握することは困難

販路 現地企業の販路を利用可能自社での販路獲得にあたり時間を要する

委託先の販路を利用可能

ブランド力現地企業のブランドを利用可能だが、統一した自社ブランドを利用できない

他地域と統一した自社ブランドを利用可能だが、定着に時間がかかる

自社ブランドは強調されない(出たとしても製品名)

費用買収費用および固定費用が発生

固定費用が発生固定費用は発生しないが、マージンの支払いあり

マネジメント(PMI)自社内における統合プロセスの経験・人手の不足

立上げプロセスのみ 特に無し

その他現地企業が保有する安価なジェネリック製品を製品ラインナップへ追加することが可能

他社との合同設立の場合、投資を少額に抑制可能

特に無し

販社設立 販売委託現地企業の買収/合弁会社の設立

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

Page 18: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

18

社 外 秘

我が国農薬メーカー及び各市場の特性を踏まえ、地域ごとに求められる取り組み

を整理すると以下の通り(各市場に関する特性の詳細は 22 頁以降にて後述)

<アジア(日本を除く)>

アジアは今後の市場成長の余地が大きいうえ、欧米大手も未だ十分なシェアを獲

得できていないことから我が国農薬メーカーが最も注力すべき市場といえよう。

我が国メーカーは、欧米大手に先んじてシェアを確保するべく、現地農薬メーカ

ーの買収・アライアンスを活用し、早期に販路を構築することが重要となる。

<欧州>

欧州も、我が国と同じく成熟市場ではあるものの、米州に次ぐ規模を有するうえ、

足元の業界動向に鑑みれば、欧米大手が寡占してきた同市場において参入余地が

生まれる可能性があることから、我が国農薬メーカーにとって有望な市場。

これは、欧米大手が、安全規制の厳格化が進む欧州市場への製品投入を減ら

す傾向にあることに加え、足元の再編にあたり、重複する製品の整理、独禁

法への対応に向けた自社製品の売却等、製品ポートフォリオの見直しを進め

るとみられるため。

このように欧米大手の製品数が減少するなか、我が国農薬メーカーにとって

は参入余地が生まれることが予想される。ただし、参入にあたっては、欧米

大手への販売委託に拠らない、自社販売での展開が求められよう。

こうしたなか、我が国農薬メーカーの欧州における展開状況をみると、販売委託

先の欧米大手との調整を行うための営業拠点を設けている事例は散見されるが、

その殆どが出張所程度の機能しか持っておらず、自社販売網としては十分といえ

ないケースが多い。

従って、我が国農薬メーカーは、今後これらの拠点に対して人員を増やし販売機

能の強化を進め、販路拡大を進めていくことが求められよう。

<米州(北米・中南米)>

我が国農薬メーカーにとっては他地域に比べると参入が難しい市場となる。これ

は、同市場では遺伝子組み換え作物が普及しているものの、我が国農薬メーカー

はこれらの作物に対する効果が高い製品に乏しく、欧米大手からシェアを奪うの

は容易ではないため。

遺伝子組み換え作物には、除草剤耐性や害虫抵抗性が付与されているため、

専用に開発した農薬を用いる必要がある。

Page 19: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

19

社 外 秘

また、足元の再編により欧米大手が世界最大の規模を誇る米州市場への注力度を

一層引き上げる方針を掲げていることも踏まえれば、同市場に関しては、我が国

農薬メーカーは従来通り、販売委託を活用する形態に留めておくことが望ましい。

② 海外における製品の重点領域の明確化

我が国農薬メーカーは、関連製品のラインナップが少ないうえ、農薬自体の製品

分野も限定的であるため(図表 22)、自社単独ではエンドユーザーに対する製品

提案の余地が乏しく、販売力は低い状況。従って、海外販売にあたっては欧米大

手に頼らざるを得ないのが実状。

一方、欧米大手は幅広い農薬のラインナップに加え、種子や農業資材などの

関連製品も有し、農家の手掛ける作物、地域の風土(気候、作物病の種類等)

に最適な製品の組み合わせを提案することで、顧客満足度を向上させており、

高い販売力を誇る。

図表 22:我が国農薬メーカー各社の主な製品分野

こうしたなか、我が国農薬メーカーの販売力強化にあたっては、海外における製

品の重点領域の明確化も重要となる。これは、特定の用途(水稲用、果樹用等)

に集中して製品分野(除草剤、殺虫剤等)を拡充することで(次頁図表 23)、各

製品のセット販売が可能となり、売上の拡大が期待できるため。

例えば、園芸用途の製品を販売する際に、殺虫剤だけでなく除草剤、殺菌剤

といった、園芸農家において併用される製品を販売できれば、ユーザーの利

便性向上に寄与するため、採用される可能性が高まる。

除草剤 殺虫剤 殺菌剤殺虫殺菌剤

その他売上に占める割合

住友化学 ①③ ①②③ ①②③ ①②③ 生物農薬、植調剤、肥料30%以上

日本農薬 ① ①②③ ①②③ 植調剤20%以上、30%未満

クミアイ化学工業 ①③ ② ①②③ 植調剤、生物農薬の殺菌剤10%以上、20%未満

日産化学工業 ① ②③ ③ 植調剤10%未満

三井化学アグロ ① ①②③ ①②③ ハイブリッドライス種子

日本曹達①③ ②③ ①②③ 植調剤、生物農薬の殺菌剤

北興化学工業 ① ①②

①水稲用、②果樹用、③野菜・畑作用

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

Page 20: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

20

社 外 秘

図表 23:製品分野の拡充のイメージ

我が国農薬メーカーが特に注力すべき領域としては、欧米大手と競合しにくい、

水稲用、園芸用(野菜、果樹)といった市場規模が比較的小さいニッチ分野が挙

げられる。

例えば、水稲用は、我が国農薬メーカーが従来から得意とする用途であるこ

と、地理的に近いアジアが最大の生産地であること、欧米大手のシェアが比

較的低いこと等に鑑みれば、有望な領域の 1 つといえよう。

また、新しい製品分野であるバイオ農薬も有望。これは、化学農薬に対する

忌避傾向の強い欧州・日本市場では、環境負荷の軽いバイオ農薬に対する需

要が拡大すると見込まれるものの、依然としてニッチ分野の位置付けにある

ことから欧米大手の注力度も高くないため。

このように製品ラインナップの拡充を進めるにあたっては、自社単独では数年単

位の長い期間を要することから、我が国農薬メーカーにおいては、他社製品の買

収・ライセンス販売、ジェネリックメーカー買収による安価なジェネリック農薬

の獲得も視野に入れる必要があろう。

このほか、自社の重点領域から外れる製品については他社へライセンス供与や売

却し、得た資金を重点領域の研究開発へ再投資するなど、ポートフォリオの入れ

替えを進めることも必要となろう。

除草剤 殺虫剤 殺菌剤殺虫殺菌剤

生物農薬有り

水稲用無し

製品分野

「除草剤」「殺菌剤」について、

自社開発・他社からの品目買収等を通じて強化

(資料)各種資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

Page 21: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

21

社 外 秘

Ⅳ.結論

なお、我が国農薬メーカーは総じて規模が小さく、単独でこれらに取り組むには

限界があることから、M&A 等を通じた事業規模の拡大も併せて検討すべきとい

えよう。

以 上

これまで我が国農薬メーカーは、10 社強の開発型メーカーを中心に総じて安定的

に収益を計上してきた。これは、各社がニッチ分野を中心に世界的にみても高い

研究開発力を有することに加え、我が国農薬業界に特有の規制や構造により、参

入メーカー間の競合が比較的緩やかなものに留まっていたことに起因する。

しかしながら、足元、国内では政府によりジェネリック農薬の普及促進などの農

業改革が進みつつあるうえ、海外ではダウ・ケミカルとデュポンの合併をはじめと

する大型再編が立て続けに起こるなど、我が国農薬メーカーを取り巻く環境が大

きく変化する兆しがみられる。

こうしたなか、我が国農薬メーカーにおいては、これらの将来的な環境変化を見

据えた戦略の転換が求められよう。具体的には、強みである「高い研究開発力の

維持」と、課題である「海外における販売力の強化」が必要。

まず、「高い研究開発力の維持」については、今後、新薬開発難度が高まるなか、

①農薬登録体制の拡充、並びに②外部リソースの活用が求められる。

一方、「海外における販売力の強化」については、販売委託を中心とする海外展開

方法から転じて、今後は費用対効果を重視のうえ、①地域ごとに濃淡をつけた自

前の海外販売網の設置、並びに②海外における製品の重点領域の明確化に取り組

むことが有効。

Page 22: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

22

社 外 秘

1. アジア市場の特徴と今後の展望

アジア市場(日本を除く)は、世界全体に占める割合は 2 割弱と欧米市場(同比

率 7~8 割)に比べ規模が小さいことから、欧米大手の注力度が相対的に低い一方、

直近 5 年間の年成長率は 6~7%と欧米市場に比べ高く、人口増加や生活水準向上

に伴う食糧需要の増加に鑑みれば、将来的にはさらなる需要拡大が期待できる。

特にインドは、現時点では 1ha あたりの農薬使用量が少ないものの、耕作地面

積の広さを踏まえれば、将来的に大きな伸びが期待できるうえ、欧米大手のシ

ェアも他の市場と比べれば低いことから、我が国農薬メーカーにとって有望な

市場といえよう(図表 24、25)。

ただし、足元では欧米大手もアジアへ注力する動きを見せ始めていることから、

我が国農薬メーカーがシェアを確保するには早期に販路を獲得することが重要。

欧米大手の BASF はインドへの研究開発拠点の設置及び、水稲向けの殺菌剤等

の新製品の投入を発表するなど、注力姿勢を鮮明化している(図表 26)。

アジア市場における販路構築における留意点は、国ごとに異なる風土特性(気候、

作物病の種類等)を理解することが必要なことや、外資参入規制が敷かれている

国が多く当局との関係構築が重要となる等。こうした地域特性に鑑みれば、我が

国農薬メーカーにとっては、現地メーカーの買収・アライアンスが有効となろう。

図表 24:主要各国の農薬使用量(2012年)図表 25:インド農薬市場の上位企業(2014 年)

図表 26:アジア地域への主要各社の展開状況

(注)インドの農薬使用量は 2010 年の実績、米国は 2007 年。

(資料)統計局資料、FAOSTAT をもとに三菱東京 UFJ 銀行

戦略調査部企業調査室作成

(資料)各社 IR 及び新聞記事をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(資料)住友化学 IR 資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行

戦略調査部企業調査室作成

<Appendix~海外市場の個別動向>

(注)2016 年 6 月に住友化学が買収。買収後はタタ Gr の

Rallis を抜いてインド第 4 位の事業規模となった。

順位  企業 国 シェア

1 バイエル ドイツ 12%

2 シンジェンタ スイス 10%

3 UPL インド 10%

4 エクセルクロップケア(注) インド 5%

住友化学 日本 4%

5 Rallis インド 8%

2010年 ベトナム 自社販売体制を立上げ

2016年 インド インド第5位の農薬メーカー(エクセルクロップケア社)を買収

日本農薬 2015年 インド 中堅農薬メーカー(ハイデラバードケミカル社)を連結子会社化

2016年 インド 現地農薬メーカー(PIインダストリーズ社)と合弁会社設立

2016年 ベトナム 現地農薬メーカー(クーロン社)と資本提携

日本曹達 2016年 ベトナム 住友商事グループが設立した販社(SAV社)へ13%出資

外資 BASF 2016年 インド 農業関連の研究開発センターを設置

住友化学

三井化学アグロ

我が国勢

農用地面積 農薬使用量 農薬使用量

(1,000ha) (トン) (kg/ha)

インド 169,000 80,187 0.5

中国 121,720 3,612,000 29.7

タイ 21,060 139,842 6.6

ミャンマー 12,285 6,090 0.5

ベトナム 10,200 n.a. -

マレーシア 7,465 99,621 13.3

米国 157,708 485,343 3.1

日本 4,549 109,433 24.1

フランス 19,293 128,517 6.7

3.9

アジア

その他

南米

ブラジル 79,605 313,370

(注)

(注)

Page 23: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

23

社 外 秘

2. 欧州市場の特徴と今後の展望

これまで欧州は、欧米大手の寡占市場であり、我が国農薬メーカーにとっては参

入が難しい地域であったが、欧米大手が再編を機に同市場向けの製品数を絞る可

能性が高いとみられることから、今後、参入余地が生まれると期待される。

欧州では、近年の安全規制の厳格化に伴い、農薬メーカーの製品登録の負担

が高まりつつあることから、欧米大手は、同市場への製品投入を減らす傾向

にある(図表 27)。

さらに、足元の再編にあたり、重複する製品の整理、独禁法への対応に向け

た自社製品の売却等、製品ポートフォリオの見直しを進めるとみられる。

一方、ユーザーである農家は、農薬の特性上(注)、幅広い製品を回転利用する

傾向が強く、製品数の減少が続くことに対して懸念を抱いているとみられる

ことから、我が国農薬メーカーの新薬が市場で受け入れられる公算は大きい。

(注)同じ製品を継続して使用すると、農薬が効かない“抵抗性”を持った害虫や雑草、

菌類が出現することがあるため。

図表 27:EUにおける農薬登録数の推移

こうしたなか、我が国農薬メーカーの欧州における展開状況をみると、販売委託

先の欧米大手との調整を行うための営業拠点を設けている事例は散見されるが、

その殆どが出張所程度の機能しか持っておらず、自社販売網としては十分といえ

ないケースが多い。

従って、我が国農薬メーカーは、今後これらの拠点に対して人員を増やし販売機

能の強化を進め、販路拡大を進めていくことが求められよう。

(資料)新聞記事及び農林水産省資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(注)農薬再登録制度とは、農薬の有効成分の危険性評価を定期的に見直す制度のこと。登録済みの

農薬であっても、見直しの際に基準を満たさなければ、登録取り消しとなる。

949

483

0

500

1000

1993年 2014年 2017年

14年 再登録制度の本格運用に

より登録数減少

17年 更に登録数減少の見込み

93年 農薬再登録制度(注)導入

09年 登録制度等の大幅改正

Page 24: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

24

社 外 秘

3. 米州市場の特徴と今後の展望

米州は世界最大の規模を誇るうえ、南米を中心に高い成長が見込まれる有望市場。

トウモロコシ、大豆などの単一品種の栽培が盛んで、生産効率向上の観点から遺

伝子組み換え作物が広く栽培されていることから、日本や欧州等、他地域とは異

なり、遺伝子組み換え作物向けの農薬が広く普及している(図表 28~30)。

こうしたなか、欧米大手の多くは遺伝子組み換え作物向けの製品を手掛けること

で、同市場において高いシェアを確保。足元の再編を通じて補完した農薬並びに

種子事業を強みに米州市場への注力度を引き上げる方針を掲げている。

この点、欧州市場や日本市場は遺伝子組み換え作物への抵抗感が強く、普及

していないため、欧米大手にとっては強みを発揮しにくい地域といえる。

我が国農薬メーカーは、遺伝子組み換え作物向けの製品に乏しく、製品ポートフ

ォリオの面で不利となるうえ、今後欧米大手との競合が益々厳しくなる公算も大

きいことに鑑みると、従来通り、販売委託を通じた間接的な展開に留めておくこ

とが望ましいであろう。

図表 28:主要作物の生産量ランキング(2014年)

図表 30:米国における遺伝子組み換え作物用除草剤の使用面積率

作物 順位 国 生産量トウモロコシ 1 米国 361

2 中国 2163 ブラジル 804 アルゼンチン 335 ウクライナ 28

大豆 1 米国 1072 ブラジル 873 アルゼンチン 534 中国 125 インド 11

綿花 1 インド 6.22 中国 6.23 米国 3.64 パキスタン 2.45 ブラジル 1.4

(単位:百万トン)

71.2%

54.6%

22.0%

28.8%

45.4%

78.0%

綿花

大豆

トウモロコシ

GM作物用 非GM作物用

(資料)FAO データをもとに三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部

企業調査室作成

(資料)USDA データより三菱東京 UFJ 銀行戦略調査部企業調査室作成

(資料)FAOデータをもとに当部作成

(注)トウモロコシは 2014年、大豆・綿花は 2015年データ。

図表 29:米国における遺伝子組み換え 作物の栽培面積率の推移

0%

25%

50%

75%

100%

00 02 04 06 08 10 12 14 16

トウモロコシ

大豆

綿花

(年)

(資料)USDA-ERS データをもとに三菱東京 UFJ 銀行

戦略調査部企業調査室作成

Page 25: 産業レポート - bk.mufg.jp · 殺虫剤 害虫を防ぐ 973 29.6% 野菜畑作用 キャベツ、トマト、きゅうり 1,164 35.4% 殺菌剤 病気を防ぐ 761 23.2% 果樹用

農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略|2017年 5月

25

社 外 秘

当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利用に関しては、すべてお客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当部はその正確性を保証するものではありません。内容は予告なしに変更することがありますので、予めご了承下さい。また、当資料は著作物であり、著作権法により保護されております。全文または一部を転載する場合は出所を明記してください。

Copyright © 2017 The Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ, Ltd. All rights reserved.

発行:株式会社 三菱東京UFJ 銀行 戦略調査部 企業調査室

〒100-8388 東京都千代田区丸の内2-7-1

本件照会先:秋元 弘一

(TEL:03-3240-5386、e-mail:[email protected])