cmsi計算科学技術特論c (2015) ライセンスについて

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ライセンスについて 物質科学シミュレーションとオープンソース CMSI 計算科学技術特論C 7東京大学物性研究所 五十嵐亮 CC BY 4.0 INTERNATIONAL

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Page 1: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

ライセンスについて物質科学シミュレーションとオープンソースCMSI計算科学技術特論C  第7回

東京大学物性研究所 五十嵐亮

CC BY 4.0 INTERNATIONAL

Page 2: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

目次1. 自己紹介と免責条項

2. ライセンスと著作権

3. 論文の“ライセンス”

4. “オープンソース”ライセンスの種類

5. その他のライセンス

6. 結局どのライセンスを選ぶべきか?

Page 3: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

目次1. 自己紹介と免責条項

2. ライセンスと著作権

3. 論文の“ライセンス”

4. “オープンソース”ライセンスの種類

5. その他のライセンス

6. 結局どのライセンスを選ぶべきか?

Page 4: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

自己紹介と免責事項五十嵐亮◦ 東京大学物性研究所計算物質科学研究センター特任研究員

◦ 計算物質科学イニシアティブ(CMSI) 拠点研究員カテゴリD◦ 物質科学シミュレーションのポータルサイトMateriAppsの運営

◦ 2005年ごろから量子格子模型シミュレーションソフトウェアALPSの開発・普及に関わる

◦ 1999年ごろからオープンソースソフトウェアおよびライセンスへの興味・関心

注意事項◦ 五十嵐は弁護士ではありません

◦ 法律の話の保証はできません

図1: CMSI Torrent No. 5 p. 14

Page 5: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

本講義の目的著作権って何?

オープンアクセスジャーナルって何?

オープンソースソフトウェア(OSS)って何?

ソフトウェアの「ライセンス」ってどういうこと?

物質科学の研究でも出てくる上記の疑問に答えられるように

Page 6: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

参考文献角川インターネット講座第2巻 「ネットを支えるオープンソース」◦ 第2部オープンソースが高めたネットの価値

◦ 第5章ライセンスというプロトコル OSSエコシステムを繋ぐ仕組み やまねひでき著

◦ 第7章企業とオープンソース 鵜飼文敏著

独立行政法人情報処理推進機構(IPA) OSSライセンス関連情報◦ http://www.ipa.go.jp/osc/osslegal.html

◦ 「GNU GPL v3 解説書」 (CC BY‐NC‐ND 2.1)◦ 「OSSライセンスの比較、利用動向および係争に関する調査」 (CC BY‐NC‐ND 2.1)

Page 7: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

目次1. 自己紹介と免責条項

2. ライセンスと著作権

3. 論文の“ライセンス”

4. “オープンソース”ライセンスの種類

5. その他のライセンス

6. 結局どのライセンスを選ぶべきか?

Page 8: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

ライセンスと著作権オープンソースソフトウェア(OSS)ライセンスとは[1]◦ ×契約の債権を権原として書かれたもの

◦ ○著作権を権原として書かれたもの

著作権の知識が必要

著作権の一部を利用者に「許可」

[1] @IT 姉崎章博 「OSSライセンス=契約」という誤解を解く[2] 角川インターネット講座2 第5章

Page 9: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

著作権とは知的財産権の一種◦ 知財4権: 特許権、実用新案権、意匠権、商標権

◦ 著作権

◦ 回路配置利用権、育成者権

著作権法

◦ 第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

◦ 第二条一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

Page 10: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

著作物とは◦ 言語の著作物

◦ 音楽の著作物

◦ 舞踊又は無言劇の著作物

◦ 美術の著作物

◦ 建築の著作物

◦ 地図又は図形の著作物

◦ 映画の著作物

◦ 写真の著作物

◦ プログラムの著作物

◦ 二次的著作物

◦ 編集著作物

◦ データベースの著作物

Page 11: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

著作権とは様々な権利の束

著作者人格権: 譲渡不可能◦ 公表権・氏名表示権・同一性保持権

著作財産権: 譲渡可能◦ 複製権・公衆送信権等・譲渡権

◦ その他いろいろ

著作隣接権: 譲渡可能◦ 実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者の権利

Page 12: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

ソフトウェアの特徴部品の再利用・組み合わせが容易

「プログラムの著作物」として保護される

Page 13: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

論文のオープンアクセス2010ごろからオープンアクセス論文誌が増加◦ オープンサイエンス

◦ SCOAP3: 素粒子の論文をオープンアクセスにするための資金を提供

◦ PRX, PLOS ONE, PTEPなど

◦ PRB, PRE, JACSなどでも著者が選択できる

1. 著者がクリエイティブ・コモンズ(CC BY)で論文を公開

2. 出版社が CC BYの条件で編集・出版

OA論文は著者が著作権を維持している

Page 14: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

クリエイティブ・コモンズ(CC)「インターネット時代のための新しい著作権ルール」1

自由に利用してもらうための”著作権者”の意思表示

著作権のうち一部の権利のみ主張する Some Rights Reserved.

「オープンアクセス論文」はCC BYのライセンス

CC BY および CC BY‐SAが Free Culture License

2015‐11‐12現在 “2.1日本” または “4.0 国際”を明記するべき

[1] http://creativecommons.jp/licenses

図: クリエイティブ・コモンズは限定された権利を主張する

Page 15: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

OSSとは何かオープンソース・ソフトウェア(OSS)の定義(OSD)を満たすソフトウェア1,2

1. 再頒布の自由

2. ソースコードでの頒布の許可

3. 派生ソフトウェアの頒布の自由

4. 原著作者のソースコードの完全性 (Integrity)5. 特定人物・集団に対する差別の禁止

6. 利用する分野 (Fields of Endeavor) に対する差別の禁止

7. ライセンスの権利配分

8. 特定製品でのみ有効なライセンスの禁止

9. 他のソフトウェアを制限するライセンスの禁止

10.ライセンスは技術中立 (Technology‐Neutral) でなければならない

[1] http://opensource.org/osd[2] http://www.opensource.jp/osd/osd‐japanese.html

Page 16: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

OSSとは何か立場の違いによりいくつかの略語がある◦ OSS Open Source Software◦ FOSS Free/Open Source Software◦ FLOSS Free/Libre and Open Source Software

ライセンスの種類が約2000種類くらいあると言われている

Open Source Initiative(OSI)承認が約70種類

Page 17: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

コピーレフトとは1. ソフトウェア利用者が、ソースコードの改変をした際、改変部分の

ソースコードの開示を義務付ける

2. ソフトウェア利用者が、他のソースコードと組み合わせて新しいソフトウェアを頒布する際、他のソースコードの開示を義務付ける

GPLで最初に主張されたもので、ソースコードの独占を排する目的

第一原理計算分野では、クローズドな追加コードの公開を防止する効果があった

Page 18: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

OSSライセンスの類型「コピーレフト」と呼ばれる概念への適用状況で主に3種類に分類

[1] OSSライセンスの比較 http://ipa.go.jp/files/000028335.pdf

Page 19: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

主要なライセンス1

Apache License 2.0

BSD 3‐Clause "New" or "Revised" license

BSD 2‐Clause "Simplified" or "FreeBSD" license

GNU General Public License (GPL)

GNU Library or "Lesser" General Public License (LGPL)

MIT license

Mozilla Public License 2.0

Common Development and Distribution License

Eclipse Public License

[1] http://opensource.org/licenses

Page 20: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

主要なライセンス

https://www.blackducksoftware.com/resources/data/top‐20‐open‐source‐licenses

Page 21: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

GNU General Public License (GPL)GPLの歴史◦ 1989‐02‐25 version 1◦ 1991‐06 version 2 (GPL2)◦ 2007‐06‐29 version 3 (GPL3)

◦ 反DRM, 反ソフトウェア特許

GPLの注意点◦ GPL”感染”

◦ GPLのコードをコピーやリンクするプログラムはGPLで公開する必要がある

◦ GPL1, GPL2, GPL3はそれぞれ別個のライセンスであり、非互換◦ 多くのソフトウェアでは(GPL2 or later)としているため、新バージョンの選択ができる

◦ Linux(kernel), MySQLなど、GPL2に明示的にとどまるソフトウェアもある

Page 22: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

GNU General Public License (GPL)Free Software Foundation (FSF) により管理

コピーレフト型ライセンス

GPLの概要[1]1. 著作権は放棄しない

2. プログラムの改変の許可

3. 複製物の再頒布の許可

4. 改変物の(GPLでの)頒布の許可

ソースコード提供は一次ユーザにのみ義務付け

[1] GPLv3逐条解説 http://ipa.go.jp/files/000028320.pdf[2] 角川インターネット講座2 第5章

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Page 23: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

BSD License (BSDL)BSD = Berkeley Software Distribution

非コピーレフト型ライセンス

BSDライセンスの注意点◦ 種類がたくさんある

◦ Old BSD License = 4‐clause BSD License(1999年に廃止)◦ GPLと非互換

◦ New BSD License = 3‐clause BSD License◦ 2‐clause BSD License

最近ではMIT/Xライセンスを使うことが多い

Page 24: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

MIT/X LicenseMITとX.orgがライセンスを管理

BSD‐likeな非コピーレフト型ライセンス

Githubでデフォルトライセンスとなっている

単純で利用プロジェクトが多い

Page 25: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

Apache License 2.0Apache Software Foundationのライセンス[1]

BSD‐likeな非コピーレフト型ライセンス

GPL3と互換 (GPL2とは非互換)

特許条項を含む[2]◦ ライセンサは、配布する OSS に自身の特許が含まれる場合、ライセンシに対して当該特許を無償でライセンス付与しなければならない。

◦ ライセンシが誰かを特許侵害で訴えた場合、ライセンサがライセンシに与えていた特許ライセンスは失効することになる。

[1] https://www.apache.org/licenses/LICENSE‐2.0[2] OSSライセンスの比較 http://ipa.go.jp/files/000028335.pdf

Page 26: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

Boost Software License 1.0C++のライブラリ開発プロジェクトBoostによるライセンス

BSD‐likeな非コピーレフト型ライセンス

ソースコードの頒布時にライセンスを明示

バイナリの頒布時にはライセンス明示の義務はない◦ もともとC++のテンプレートライブラリの頒布で必要となった条項

BSD‐likeなライセンスの中で最も制限が緩い

http://www.boost.org/users/license.html

Page 27: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

BSD‐likeライセンスの差異「利用」の際に「明示」(クレジット)をする

ライセンスの種類ごとに内容が微妙に異なる

(1), (2)はGPLと非互換

表明示レベルの分類[1][1] 姉崎章博@IT 企業技術者のためのOSSライセンス入門(3)

GPL互換

Page 28: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

物質科学で利用されるOSSシステムソフトウェアレベル(OS等)◦ Linux (GPL)◦ Darwin (APSL)

ライブラリ・コンパイラレベル◦ コンパイラ (GNU: GPL3+, Clang: BSD‐like)◦ OpenMP (GNU: GPL3+, Intel: BSDL)◦ MPI (OpenMPI: BSD‐like, MPICH: BSD‐like)◦ BLAS/LAPACK (OpenBLAS: BSDL, ATLAS: BSDL)

アプリケーションソフトウェア◦ 第一原理計算/量子化学計算

◦ BSD like: PySCF, SMASH◦ GPL: ABINIT, CP2K, ELK, EXCITING, GPAW, JDFTx, Octopus, OpenMX, PSI, Quantum ESPRESSO, xTAPP

◦ 強相関系・有効模型計算◦ GPL: TRIQS, DSQSS, HΦ, rokko

太字はCMSI関係ソフトウェア

Page 29: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

物質科学分野の”無償”ソフトいろいろなライセンス◦ ALPS: GPL類似(論文引用を義務)◦ PHASE/0: 複製・頒布禁止

◦ GAMESS: 論文引用を義務、頒布禁止

OSSでないライセンスは個別処理が必要

コンパイル済みバイナリの頒布やスパコン等へのインストールが難しい

Page 30: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

公開と評価の両立のために公開されたソフトウェアの開発者が評価されるために

ソフトウェアで実装されている手法の論文が必要

OSSには論文の引用が義務になってはいけない◦ ○ Please cite XXX◦ ○ User should cite XXX◦ × User must cite XXX

コミュニティの良識が必要

Page 31: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

ライセンス選択のススメ独自ライセンスはできるだけ選択しない◦ 「ライセンスはプロトコル(お約束)」1

◦ 個別に処理が必要なソフトウェアは結局使われない

◦ ソフトウェアのライセンスの組み合わせは自動化の方向に

第一原理計算コミュニティの場合◦ スタンダード: GPL (v2 or later)◦ 少なくともGPLと互換性のあるライセンス

汎用性の高いライブラリの公開を目指す場合◦ Apache License 2.0◦ (3‐ or 2‐ clause) BSD License

[1] 角川インターネット講座2 第5章

Page 32: CMSI計算科学技術特論C (2015) ライセンスについて

まとめソフトウェアライセンスとは、著作権を権原とするもの

OSSはOAジャーナルのソフトウェア版

特許の考慮をする場合、GPLまたはApache2を選択しよう!