緩和ケアにおける 臨床薬理学 - asahikawa medical …...2010/10/18 1...

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2010/10/18 1 あさひかわ緩和ケア講座 あさひかわ緩和ケア講座 2010 2010 あさひかわ緩和ケア講座 あさひかわ緩和ケア講座 2010 2010 あさひかわ緩和ケア講座 2010 第4講 第4講 緩和ケアにおける 緩和ケアにおける 臨床薬理学 臨床薬理学 あさひかわ緩和ケア講座 あさひかわ緩和ケア講座 2010 2010 臨床薬理学 臨床薬理学 医療法人社団慈成会東旭川病院 がん専門薬剤師・がん指導薬剤師 里見眞知子 第4講『緩和ケアにおける臨床薬理学』 あさひかわ緩和ケア講座 カリキュラム あさひかわ緩和ケア講座 カリキュラム オピオイドの薬理学・薬剤学 オピオイドの薬理学・薬剤学 正しく安全に使うための基本 正しく安全に使うための基本 オピオイド製剤使用時に注意す オピオイド製剤使用時に注意す べき患者 べき患者 オピオイドの薬理学・薬剤学 オピオイドの薬理学・薬剤学 正しく安全に使うための基本 正しく安全に使うための基本 オピオイド製剤使用時に注意す オピオイド製剤使用時に注意す べき患者 べき患者 あさひかわ緩和ケア講座 あさひかわ緩和ケア講座 2010 2010 参考文献 参考文献 参考文献 参考文献 ある日の午後ルヒネを使おうと思っている医師ルヒネを使おうと思っている医師あさひかわ緩和ケア講座 あさひかわ緩和ケア講座 2010 2010 こんな説明をしました こんな説明をしました 「病状が進んで、痛みが極めて強くなってきました。普通の痛み止 「病状が進んで、痛みが極めて強くなってきました。普通の痛み止 めで抑えることが出来なくなっています。今の痛み止めに変えて、 めで抑えることが出来なくなっています。今の痛み止めに変えて、 いよいよ最後の手段としてモルヒネを始めようと思います。モルヒ いよいよ最後の手段としてモルヒネを始めようと思います。モルヒ ネを使い出すと、徐々に効かなくなって量がどんどん増えていくこ ネを使い出すと、徐々に効かなくなって量がどんどん増えていくこ とが予想されます。また、途中で止めることは出来ないので、最後 とが予想されます。また、途中で止めることは出来ないので、最後 まで使い続けることになります。麻薬中毒になったり、呼吸が弱く まで使い続けることになります。麻薬中毒になったり、呼吸が弱く なって、命を縮めることになるかもしれません。眠気が強くでて意 なって、命を縮めることになるかもしれません。眠気が強くでて意 がなくな ていきますが みがわからなくなるのでそのがご がなくな ていきますが みがわからなくなるのでそのがご あさひかわ緩和ケア講座 あさひかわ緩和ケア講座 2010 2010 がなくなていきますがみがわからなくなるのでそのがご がなくなていきますがみがわからなくなるのでそのがご 本人は幸せかもしれません。モルヒネを始めるので 本人は幸せかもしれません。モルヒネを始めるので今して 今している抗が いる抗が ん剤の治療は中断しましょう。強い薬なので、胃がすごく荒れるこ ん剤の治療は中断しましょう。強い薬なので、胃がすごく荒れるこ ともありますし、他にも様々な副作用がありますが、今は痛みをと ともありますし、他にも様々な副作用がありますが、今は痛みをと るのが最優先なので我慢してもらうしかありません。いろいろと危 るのが最優先なので我慢してもらうしかありません。いろいろと危 険を伴う治療ではありますが、苦しみをとる唯一の方法ですのでど 険を伴う治療ではありますが、苦しみをとる唯一の方法ですのでど うかご理解下さい。心配させてもいけないのでご本人には内緒にし うかご理解下さい。心配させてもいけないのでご本人には内緒にし ておきましょう!」 ておきましょう!」 医師A:麻薬中毒 になって・・・ あさひかわ緩和ケア講座 あさひかわ緩和ケア講座 2010 2010 「オピオイド=麻薬」ですか? オピオイド=麻薬」ですか?

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Page 1: 緩和ケアにおける 臨床薬理学 - Asahikawa Medical …...2010/10/18 1 あさひかわ緩和ケア講座2010 あさひかわ緩和ケア講座2010 第4講 緩和ケアにおける

2010/10/18

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あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

あさひかわ緩和ケア講座 2010

第4講第4講緩和ケアにおける緩和ケアにおける

臨床薬理学臨床薬理学

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

臨床薬理学臨床薬理学

医療法人社団慈成会東旭川病院

がん専門薬剤師・がん指導薬剤師

里見眞知子

第4講『緩和ケアにおける臨床薬理学』

あさひかわ緩和ケア講座 カリキュラムあさひかわ緩和ケア講座 カリキュラム

•• オピオイドの薬理学・薬剤学オピオイドの薬理学・薬剤学•• 正しく安全に使うための基本正しく安全に使うための基本•• オピオイド製剤使用時に注意すオピオイド製剤使用時に注意す

べき患者べき患者

•• オピオイドの薬理学・薬剤学オピオイドの薬理学・薬剤学•• 正しく安全に使うための基本正しく安全に使うための基本•• オピオイド製剤使用時に注意すオピオイド製剤使用時に注意す

べき患者べき患者

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

•• 参考文献参考文献•• 参考文献参考文献

ある日の午後‥

モルヒネを使おうと思っている医師Aがモルヒネを使おうと思っている医師Aが

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

ルヒネを使おうと思っている医師 がルヒネを使おうと思っている医師 がこんな説明をしましたこんな説明をしました

「病状が進んで、痛みが極めて強くなってきました。普通の痛み止「病状が進んで、痛みが極めて強くなってきました。普通の痛み止めで抑えることが出来なくなっています。今の痛み止めに変えて、めで抑えることが出来なくなっています。今の痛み止めに変えて、いよいよ最後の手段としてモルヒネを始めようと思います。モルヒいよいよ最後の手段としてモルヒネを始めようと思います。モルヒネを使い出すと、徐々に効かなくなって量がどんどん増えていくこネを使い出すと、徐々に効かなくなって量がどんどん増えていくことが予想されます。また、途中で止めることは出来ないので、最後とが予想されます。また、途中で止めることは出来ないので、最後まで使い続けることになります。麻薬中毒になったり、呼吸が弱くまで使い続けることになります。麻薬中毒になったり、呼吸が弱くなって、命を縮めることになるかもしれません。眠気が強くでて意なって、命を縮めることになるかもしれません。眠気が強くでて意識がなくな ていきますが 痛みがわからなくなるのでその方がご識がなくな ていきますが 痛みがわからなくなるのでその方がご

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

識がなくなっていきますが、痛みがわからなくなるのでその方がご識がなくなっていきますが、痛みがわからなくなるのでその方がご本人は幸せかもしれません。モルヒネを始めるので本人は幸せかもしれません。モルヒネを始めるので今して今している抗がいる抗がん剤の治療は中断しましょう。強い薬なので、胃がすごく荒れるこん剤の治療は中断しましょう。強い薬なので、胃がすごく荒れることもありますし、他にも様々な副作用がありますが、今は痛みをとともありますし、他にも様々な副作用がありますが、今は痛みをとるのが最優先なので我慢してもらうしかありません。いろいろと危るのが最優先なので我慢してもらうしかありません。いろいろと危険を伴う治療ではありますが、苦しみをとる唯一の方法ですのでど険を伴う治療ではありますが、苦しみをとる唯一の方法ですのでどうかご理解下さい。心配させてもいけないのでご本人には内緒にしうかご理解下さい。心配させてもいけないのでご本人には内緒にしておきましょう!」ておきましょう!」

医師A:麻薬中毒になって・・・

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

「「オピオイド=麻薬」ですか?オピオイド=麻薬」ですか?

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国民行政

法律覚せい剤

大麻

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幻覚発現薬コカイン

麻薬性鎮痛薬麻薬性鎮咳薬

医療従事者医療用麻薬

Q)Q)覚せい剤や大麻も麻薬である。覚せい剤や大麻も麻薬である。 YesYes:約:約2020%%

【広辞苑】

「麻薬は麻酔作用を持ち、常用すると習慣性となって中毒作用を起こす物質の総称」

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麻薬はオピオイドのみならず覚せい剤や大麻までも含む依存性薬物全体を指す用語として使用されている

医療用麻薬も大変危険な依存性薬物であり、その使用により中毒になり、さらには廃人になってしまうという誤解

20~50%

オピオイドはどうして

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効くのでしょうか?

薬は受容体と結合して効果をあらわす薬は受容体と結合して効果をあらわす

受容体は細胞にあって外界や体内からの刺激(薬も)を受け取り、情報として利用できるように変換する仕組みをもった構造

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

仕組みをもった構造

刺激(薬も含む情報伝達物質)=「鍵」

受容体(レセプター)=「鍵穴」

薬は受容体と結合することで効果をあらわす

オピオイド受容体の種類オピオイド受容体の種類表 オピオイド受容体タイプの特徴

μ受容体 δ受容体 κ受容体

内因性リガンド

β-エンドルフィン

エンドモルフィンⅠ

エンドモルフィンⅡ

メチオニン-エンケファリン

ロイシン-エンケファリン

ダイノルフィン

モルヒネ コデイン ペチジン メチオニン エンケフ リン ケトシクラゾシン

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成田 年他:月刊薬事2007.Vol.58.No.11から一部改変

作動薬モルヒネ,コデイン,ペチジン

フェンタニル、オキシコドン

メチオニン-エンケファリン

ロイシン-エンケファリン

ケトシクラゾシン

生理機能

鎮痛、鎮咳、多幸感、身体精神依存、徐脈、神経伝達物質の遊離抑制

鎮痛、情動、身体、精神依存、神経伝達物質の制御

鎮痛、鎮咳、鎮静、

縮瞳、徐脈、利尿、嫌悪感

脳内分布大脳皮質、視床、扁桃核、青斑核、弧束核、黒質など

大脳皮質、側坐核など 脊髄、線条体、側坐核、弧束核、視床下部など

薬効の個人差

組織血中濃度

作用 薬 効

効果

薬物濃度

感受性(pharmacodynamics:PD)

吸収

分布

Rx

薬物動態(pharmacokinetics:PC)

静注

経口

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肝臓代謝

作用部位

薬 効有害反応

生体内利用率(バイオアベラビリティ)

排泄

処方量-効果関係

投与量-効果関係

薬物濃度-効果関係

腎臓

経口

筋注

直腸内

受容体

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モルヒネが徐々に効かなくなっ

医師A:

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モルヒネが徐々に効かなくなって量がどんどん増えていく?

薬物耐性とは薬物耐性とは

『薬物を反復投与することにより効果が減弱し、目的の効果を得るためには次第に投与量を増加しなければならなくなっていく現象』

1 代謝耐性:チトクロムP450誘導に基づく薬効の減弱

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1.代謝耐性:チトクロムP450誘導に基づく薬効の減弱

(代表例;フェノバルビタール)

2.組織耐性:受容体の脱共役(結合できなくなる)

受容体の減少(ダウンレギュレーション)

オピオイド耐性の原因は受容体のリン酸化による構造変化で細胞表面から受容体がなくなる!

ぜ が 疼痛治療時

医師A:麻薬中毒になって・・・

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なぜ、がん疼痛治療時においてモルヒネの依存性はあまり問題にならないのでしょうか?

正常および炎症性疼痛時における生体内正常および炎症性疼痛時における生体内μμおよびおよびκκ神経系の生理的バランスの概念図神経系の生理的バランスの概念図

通常、生体内においてμとκ神経系は相互に調節し合い、バランスを保持

非疼痛下でモルヒネ投与↓

バランス崩れ、依存形成

痛みがない時

κμ

痛みがある時

μ

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*炎症性疼痛下ではκ神経系が活性化↓

ダイノルフィンが遊離↓

ドパミン過剰遊離抑制

*神経障害疼痛下ではミュー受容体低下↓

ドパミン過剰遊離抑制

μ

κ

κμ κ

モルヒネ投与

モルヒネ投与

ダウノルフィン神経

炎症性疼痛

炎症性炎症性疼痛下に疼痛下におけるおけるモルヒネ精神モルヒネ精神依存不形成のメカニズム依存不形成のメカニズム

側坐核

刺激

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側坐核

ドパミン神経

κ受容体

ӗ受容体活性化ドパミン抑制

ドパミン受容体

GABA受容体

:ドパミン :ダウノルフィン :GABA

μ受容体

腹側被蓋野抑制性GABA

神経神経障害性障害性疼痛下における疼痛下におけるモルヒネ精神モルヒネ精神依存不形成のメカニズム依存不形成のメカニズム

神経障害性疼痛

μ受容体の機能低下

刺激

抑制性

に結合できない!

モルヒネが抑制性GABA介在神経上に分布のμ受容体に結合できない!

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ドパミン神経

腹側被蓋野

βエンドルフィン含有神経

GABA受容体

介在神経

κ受容体

:GABA :βエンドルフィン:モルヒネ

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オピオイドの剤形別の特徴は?

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剤形剤形別オピオイド別オピオイドの薬物動態のの薬物動態の特徴特徴

オピオイドの薬物動態の特徴を十分に理解していると、いろいろな病態、患者の状態(腎機能低下時 肝血流量の低下時など)に合わせてオ

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低下時、肝血流量の低下時など)に合わせてオピオイドを使い分けできる。また、剤形が違うと薬物動態も変わってくる。剤形別にみた特徴も十分につかんでいるとオピオイドローテーション時にも役立つ。

各オピオイド各オピオイドの薬物動態パラメータの薬物動態パラメータ

モルヒネ フェンタニル オキシコドン

バイオアベイラビリティ

(F:生体内利用率)

徐放錠:20~40%

ネブライザー:5%

経皮吸収:92%

口腔内崩壊錠:50%

速放錠:60~87%

徐放錠:50~87%

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参考文献:DRUGDEX Healthcare Series

蛋白結合率 20~36% 80~86% 45%

分布容積(Vd) 1~6L/kg 3.2~4L/kg 2.6L/kg

クリアランス(CL) 1.2~1.8L/hr/kg 46L/kg 48L/kg

未変化体尿中排泄率 2~12% 10% 19%

半減期 2.2±0.3hr 34.6hr(デュロテップMTパッチ) 5.7±1.1hr

ここでチョット簡単薬物動態学

• 吸収:absorption→A

• 分布:distribution→D

• 代謝:metabolism→M

排泄:excretion→E

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• 排泄:excretion→E

薬の血中濃度concentration (C)を

規定する因子

ADME(アドメ)

薬効の個人差

組織血中濃度

作用 薬 効

効果

薬物濃度

感受性(pharmacodynamics:PD)

吸収

分布

Rx

薬物動態(pharmacokinetics:PC)

静注

経口

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肝臓代謝

作用部位

薬 効有害反応

生体内利用率(バイオアベラビリティ)

排泄

処方量-効果関係

投与量-効果関係

血中薬物濃度-効果関係

腎臓

経口

筋注

直腸内

受容体

薬の吸収

経口

静注

皮下

静脈内のみが吸収率100%

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筋注

直腸

舌下

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くすりの生体内利用率(バイオアベイラビリティ)

錠剤

食道

経口投与

経皮投与

舌下投与

酵素誘導・阻害

小腸上皮

肝臓初回通過効果

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CYP3A4

P-gp

GFJ=グレープフルーツジュース,p-gp=P糖蛋白

作用部位

GFJ

薬物代謝酵素

代謝体

分解不活化

吸着

併用薬

=薬の受容体

肝初回通過効果を受けるため生体内利用率が低い代表的薬物

三・四環系抗うつ薬:トリプタノール、

トフラニール

コントミン

ワソラン・ヘルベッサー

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ワソラン・ヘルベッサー

5-FU

ニトログリセリン

モルヒネ

インデラルなどベータブロッカー

生体内利用率の違いで薬の効果・副作用はどうなる?

モルヒネ生体内利用率40%のひとが100mgを服用

モルヒネ生体内利用率20%のひとが100mgを服用

わずか20%の違い

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20mg

体循環に入り作用部位に到達する薬の量

40mg2倍の差

生体内利用率(F)

生体内利用率とは経口投与された量に対して循環血中に入った量の割合Fの小さい薬物は吸収が悪いか、肝臓で代謝(初回通過効果)を受けて消失しやすいモルヒネ徐放錠の20~40%に比べてオキシコドンは50~

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モルヒネ徐放錠の20~40%に比べてオキシコドンは50~87%と大きく、血中濃度はモルヒネに比べて安定モルヒネの経口剤と注射剤を比較した場合の効力比は1/2~1/3オキシコドンにローテーションの際には経口オキシコドンは経口モルヒネの約70%の用量

(例:モルヒネ60mg⇔オキシコドン40mg)

分 布distribution(D)

1. みかけの分布容積(Vd)で実容積でない

2. 薬物に固有

3. 組織移行性大きい→分布容積は大きい血液 組織

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血中濃度=10mg/L

血中濃度=1mg/L

薬Aを100mg

薬Bを100mg

分布容積は10L

100÷10

分布容積は100L100÷1

血液 組織

例:テオフィリンの分布容積は約20L

テオフィリン400mg服用:400mg÷20L血中濃度約 20mg/L(20μg/mL)

喘息発作で受診

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ネオフィリン250mg1A点滴(テオフィリンとして200mg)

血中濃度200÷20= 10mg/L(10μg/mL)

テオフィリン血中濃度20+10=30mg/L(30μg/mL)中毒量!!!

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うそかほんとか?

分布容積は、体内で薬物が移行する組織の実容積を示すものである・・・うそ?ほんと?

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薬物の組織への移行性が大であれば、分布容積の値は小になる・・・・うそ?ほんと?

分布容積

分布容積(L)=投与量(mg)÷血中濃度mg/L

薬物が見かけ上、血中濃度と等しい濃度で均一に分布するような体液の容積

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どのオピオイドも大きく、約200Lくらい

組織中に比べて血液中には非常に少なく、血液透析や一時的な出血ではほとんど抜けない、また腹水などのサードスペースへの体内貯留分はあまり考えなくて良い

蛋白結合率遊離している薬のみが作用する

蛋白結合率が低いモルヒネの場合 蛋白結合率が高いフェンタニルの場合

血漿たんぱくモルヒネ フェンタニル

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血漿タンパクの低下

血液中の遊離モルヒネ量は変わらない 血液中の遊離フェンタニルが増える

効きすぎ効き方は変わらない

蛋白結合率

蛋白に結合していない薬が受容体と結合し効果

モルヒネやオキシコドンは蛋白結合率が低いので問題ない

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ない

フェンタニルが80から86%と大きく、低栄養など蛋白濃度が低くなった時に血液中にフェンタニルが遊離してフェンタニルの血中濃度が上昇

腎機能正常な人のモルヒネの半減期 t1/2

モルヒネ

10

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ネ血中濃度

時間

0 1 2 3 4 5

半減期t1/2

腎機能障害者・高齢者のモルヒネの半減期

モルヒネ

10

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ネ血中濃度

時間

0 1 2 3 4 5

半減期t1/2

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半減期 t1/2

キーワードは半減期の5倍

その薬が体の中で満ち足りる(定常状態)のはその薬の半減期の5倍の時間が経ってから

その薬が体の中からなくなるのはその薬の半減期の

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その薬が体の中からなくなるのはその薬の半減期の5倍の時間が経ってから

例)授乳婦がどうしても飲まなくてはならない薬があってその薬は乳汁に血中濃度の4倍の量が出てしまう。

その薬の半減期が2時間とすると10時間経ったら授乳可

腎機能正常な人のモルヒネの排泄

モルヒネモルヒネモルヒネ代謝物M-6G

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腎臓からM6Gは排泄

腎機能障害者・高齢者のモルヒネ排泄

モルヒネモルヒネ+M6Gモルヒネ代謝物M-6G

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腎臓からの排泄が低下

クリアランス(CL)

クリアランスとは、どのくらい体から薬を排泄することができるか(肝での代謝+腎での代謝)

クリアランスの大きい薬ほど体内から消失速度が大き

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クリアランスの大きい薬ほど体内から消失速度が大きい

どのオピオイドも非常に大きく、肝血流量の変化に対して影響が大きい

肝機能低下時、血中濃度上昇

オピオイドオピオイド製剤の製剤の剤形別特徴剤形別特徴薬剤名 投与経路 変換比 吸収開始時間

最高血中濃度到達時間(hr)

効果持続時間(hr) 処方間隔(hr)

モルヒネ速放製剤

(モルヒネ錠・末・水・オプソ内服液)経口 1 10分以内 30分~1 3~5

4時間、ただしレスキューでは1時

(MSコンチン錠・細粒・MSツワイスロンカプセル)

経口 1 1時間 2~4 8~14 12

(カディアン、ピーガード錠) 経口 1 30分~1時間 6~8 24 24

(パシーフカプセル) 経口 1 30分以内 ≦1 24 24

モルヒネ坐薬(アンペック坐剤) 直腸内 2/3 20分 1~2 6~10 8

モルヒネ徐放剤

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モルヒネ注射薬

持続静注 1/3 直ちに 12

8~12 -持続皮下注 1/3 数分 12

持続硬膜外 1/18 30分 1≦

オキシコドン速放製剤(オキノーム散) 経口 2/3 15分以内 1~2 3~66,ただしレスキューで

は1時間

オキシコドン徐放剤(オキシコンチン) 経口 2/3 10~20分 2~4 8~14 12

複方オキシコドン注射液(パビナール)持続静注、

皮下注1.3~2 直ちに 12 8~12 -

フェンタニル貼付剤(デュロテップMTパッチ) 経皮 1/100 2時間 17~48 72 72

フェンタニル注射薬

持続静注 1/100 直ちに 12

8~12 -

持続皮下注 1/100 数分 12

加賀谷 肇:がん疼痛緩和ケアQ&A p70,じほう、2006より引用,一部改変

オピオイド製剤の変換表

オピオイド各種製剤

経口・坐薬

モルヒネ塩酸塩錠・カプセル(mg/日) 20 <45 60 120 240 360

アンペック坐剤(mg/日) <30 40 80 160 240

オキシコンチン錠(mg/日) <30 40 80 160 240

デ プ パ チ( / )

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

薬・経皮

デュロテップMTパッチ(mg/3日) 2.1 4.2 8.4 16.8 25.2

コデインリン酸塩散・錠(mg/日) 120

静脈・皮下

モルヒネ塩酸塩注射液(mg/日) <15 30 60 120 180

フェンタニル注射液(mg/日) <0.3 0.6 1.2 2.4 3.6

パビナール注(mg/日) 24(3A)

48(6A)

96(12A)

144(18A

)

旭川医大病院緩和ケアチーム作成オピオイド換算表一部改変

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2010/10/18

8

注意)製剤の違いで体内動態が違う!

1回の1回の投与量投与量

効果発現効果発現時間時間((約約 分分))

最高最高血中濃度血中濃度到達時間到達時間

最高最高血中濃度血中濃度((ngng//mLmL))

血中濃度曲線下血中濃度曲線下面積面積((ngng・・hr/hr/mLmL))

オプソ内用液(オプソ内用液(11回のみ投与)回のみ投与) 10mg10mg 1010 0.90.9±±0.10.1 16.616.6±±3.33.3 39.639.6±±6.26.2**11

MSMS (10 12(10 12h 毎h 毎33回回)) 3030 9090 2 72 7±±0 80 8 29 929 9±±13 313 3 165 5165 5±±78 378 3**22

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

MSコンチンMSコンチン(10mg12(10mg12hr毎hr毎33回回)) 30mg30mg 9090 2.72.7±±0.80.8 29.929.9±±13.313.3 165.5165.5±±78.378.3**22

ピーガード(ピーガード(55日間反復投与)日間反復投与) 60mg60mg 6.36.3±±4.14.1 16.516.5±±4.14.1 487.0487.0±±151151**33

アンペックアンペック(8hr(8hr毎毎11日日33回回33日日)) 10mg10mg 2020 1.51.5±±0.30.3 25.825.8±±2.12.1 120.7120.7±± 8.48.4**44

*1:AUC0*1:AUC0--∞∞時間時間 **2: AUC 02: AUC 0--1212時間時間 **3:AUC 03:AUC 0--7272時間時間 **4:AUC 04:AUC 0--88時間時間 各インタビューフォームから各インタビューフォームから

参考:外科手術に耐え得る鎮痛効果は平均65ng/mLを要するとされる。

120120

AUC(血中濃度下面積)

モルヒネ血中濃度

投与後 経過時間

① ② ③ ④ ⑤ ⑥

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投与後の経過時間

AUC=①+②+③+④+⑤+⑥

① ② ③ ④ ⑤ ⑥

モルヒネの代表的薬理作用(モルヒネの代表的薬理作用(11)中枢作用)中枢作用

鎮痛作用大量では催眠を起こすが、低用量できわめて選択的に強度の鎮痛作用を示し、多くの痛みに有効

呼吸抑制作用 脳幹にある呼吸中枢のCO2に対する反応を減弱させ、呼吸衝動(respiratory drive)を抑制

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鎮咳作用 一部は延髄の咳中枢に直接作用し、咳反射を抑制

嘔気/嘔吐作用延髄最後野にある化学受容器引き金帯

(chemoreceptor trigger zone)のドパミンD2受容体の直接刺激により起こる

縮瞳作用瞳孔を支配している副交感神経が動眼神経を興奮させ起こる。耐性はほとんど形成されない

モルヒネの代表的薬理作用(モルヒネの代表的薬理作用(22))

2.末梢作用

鎮痛作用:炎症組織におけるPGの発痛増強作用に拮抗

平滑筋への直接作用:腸管、膀胱等の平滑筋緊張亢進

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便秘や腹満、排尿困難

3.痒みを引き起こす作用

肥満細胞からのヒスタミン遊離による

上位中枢ならびに脊髄におけるモルヒネの鎮痛作用発現機序

大脳知覚領域

視床

中脳

青斑核(LC)

中脳水道周囲灰白質

:痛覚伝導系:下行性抑制系

モルヒネ

モルヒネ

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010脊髄

後角

視床

組織

脊髄後根神経節(DRG)

大縫線核(NRM)

:2次ニューロン:オピオイド神経:GABA神経:セロトニン神経

ミュー受容体

モルヒネ

モルヒネ

モルヒネの末梢作用

細胞膜

AC:アデニル酸シクラーゼ

Gs

PGEΩ

EP₂

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

cAMP

PKA

P

K⁺

AC:アデニル酸シクラ ゼP:リン酸PKA:プロテインキナーゼA

Giμ

モルヒネ

AC

P

侵害受容線維自由終末

Page 9: 緩和ケアにおける 臨床薬理学 - Asahikawa Medical …...2010/10/18 1 あさひかわ緩和ケア講座2010 あさひかわ緩和ケア講座2010 第4講 緩和ケアにおける

2010/10/18

9

第4講『緩和ケアにおける臨床薬理学』

あさひかわ緩和ケア講座 カリキュラムあさひかわ緩和ケア講座 カリキュラム

•• オピオイドの薬理学・薬剤学オピオイドの薬理学・薬剤学•• 正しく安全に使うための基本正しく安全に使うための基本•• オピオイド製剤使用時に注意すオピオイド製剤使用時に注意す

べき患者べき患者

•• オピオイドの薬理学・薬剤学オピオイドの薬理学・薬剤学•• 正しく安全に使うための基本正しく安全に使うための基本•• オピオイド製剤使用時に注意すオピオイド製剤使用時に注意す

べき患者べき患者

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

•• 参考文献参考文献•• 参考文献参考文献

痛み(鎮痛薬)COX阻害(-)•アセトアミノフェンCOX阻害(+)•アスピリン•イブプロフェン•インドメタシン•その他NSAIDsCOX2選択性阻害(+)•セレコキシブ

オピオイド受容体

オピオイド鎮痛薬•モルヒネ製剤•オキシコドン•フェンタニル• (コデイン)

オピオイド鎮痛薬•ペンタゾシン•トラマドールブプレノルフィン

解熱・鎮痛作用

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

•ブプレノルフィン

オピオイド受容体

内臓痛

神経ブロック•局所麻酔薬•神経破壊薬

炎症

PGsBK

抗炎症作用(COX阻害)

侵害受容器

PG:プロスタグランジン BK:ブラジキニン

-+

治療戦略

①痛覚刺激伝達の遮断または抑制

②発痛物質産生の抑制

WHOWHO方式がん疼痛治療法方式がん疼痛治療法

経度から中等度の

中等度から強度の痛みに用いるフェンタニル

ヒネ

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

必要に応じて鎮痛補助薬抗うつ薬,抗てんかん薬,抗不整脈薬,NMDA受容体拮抗薬,ステロイド等

NSAIDsまたはアセトアミノフェン(カロナール)※

経度から中等度の痛みに用いる

コデイン

モルヒネオキシコドンⅠ

※日本では現在(2010年4月)がん性疼痛に唯一適応が認められている非オピオイド鎮痛薬最大投与量は1回500mg1日1500mgまで。

フルボキサミン(デプロメール)パロキセチン(パキシル)

SSRINA

NA神経終末

抑制性5‐HT 神経

セレギリン(エフピー)

MAO阻害薬 5‐HT

感情障害(うつ病、躁病)

MAOによるNA・セロトニンの

不活化を防ぐ

- -

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

アミトリプチリン(トリプタノール)アモキサピン(アモキサン)

ミアンセリン(テトラミド)

複素環系抗うつ薬PIP₂

IP₃

IP₂

IP

NA

MAO

後シナプス神経

NA再吸収ポンプ

α₁受容体

α₂受容体

MAO:モノアミン酸化酵素 NA:ノルアドレナリン 5‐HT:セロトニン SSRI:選択的セロトニン再吸収阻害薬

治療戦略

①ノルアドレナリン再吸収阻害②選択的セロトニン再吸収阻害③MAO阻害

SNRIミルナシプラン(トレドミン)

てんかん

Na⁺

Cl⁻

抑制性Cl⁻チャネル

抑制性GABA神経

GABA結合部位

バルプロ酸GABA分解酵素

- ? 治療戦略

①電位作動性Naチャネルの抑制②抑制性GABA作動性神経刺激↑③興奮性Ca³チャネルの抑制

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

Ca²⁺興奮性Naチャネル

興奮性T型Ca³チャネル

BZD結合部位バルビタール酸結合部位

- -不活化遅延

フェニトインカルバマゼピンバルプロ酸?

フェノバルビタールジアゼパムクロナゼパム

バルプロ酸エトスクシミド脳神経細胞

+ :刺激:抑制

?=臨床的意義が不明である作用 BZD:ベンゾジアゼピン

不整脈

電気的除細動Β遮断薬(Ⅱ群)プロプラノロールアテノロール 等

電解質異常低酸素血症心不全心筋刺激薬

憎悪因子

Β₁受容体刺激頻脈興奮性増加

内因性カテコールアミン

Na⁺チャネル阻害薬(Ⅰ群)ⅠA:キニジン、ジソピラミドⅠB:リドカイン、メキシレチンⅠC:フレカイニド

1相

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

細胞外

細胞内心筋細胞膜

多チャネル阻害薬(Ⅲ群)アミオダロンソタロール

Ca²⁺チャネル阻害薬(Ⅳ群)ベラパミルジルチアゼム

心筋刺激薬

4相

0相 3相

2相

活動電位

(mV)

-80

Na⁺ Ca²⁺ Na⁺ K⁺

治療戦略

①不整脈誘発要因除去②Na⁺チャネル阻害③β受容体遮断④K⁺チャネル阻害⑤Ca²⁺チャネル阻害

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2010/10/18

10

炎症(副腎皮質ステロイド)

副腎皮質

抗炎症効果 半減期弱 ヒドロコルチゾン 短

プレドニゾロンメチルプレドニゾロントリアムシノロンデキサメタゾン

強 ベタメタゾン 長

鉱質ステロイド作用糖質ステロイド作用

アルドステロン

N 再吸収↑

ACTH分泌抑制

負のフィードバック

ACTH

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

副腎皮質 Na再吸収↑浮腫高血圧K保持↓コルチゾール

炎症

受容体蛋白

抗炎症作用

免疫抑制作用

ホスホリパーゼAΩ阻害

特異的蛋白合成

クッシング症候群糖利用↓ 糖尿病蛋白異化↑ 成長遅延脂肪異化↑骨吸収↑ 骨粗鬆症組織修復反応↓ 消化性潰瘍中枢機能↑↓ 躁・うつ状態眼圧↑ 緑内障

白内障血液凝固能

糖尿病

成長遅延

骨粗鬆症消化性潰瘍躁・うつ状態緑内障白内障血液凝固能 腎臓易感染性

抑制

炎症~ステロイドの種類と作用の比較

一般名 商品名 抗炎症作用生理的一日分泌相当量(mg)

鉱質ステロイド作用

生理学的半減期

(時間)

ヒドロコルチゾンコートリル¯サクシゾン

¯1 20 1 8~12

コルチゾン酢酸エステル コートン¯ 8 25 0.8 8~12

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プレドニゾロン プレドニン¯ 4 5 0.3 18~36

メチルプレドニゾロン メドロール¯ 5 4 0 18~36

トリアムシノロンアセトニド ケナコルト-A¯ 5 4 0 18~36

デキサメサゾン デカドロン¯ 30 0.75 0 36~54

ベタメタゾン リンデロン¯ 35 0.6 0 36~54

剤形別オピオイド製剤一覧剤形別オピオイド製剤一覧剤形 一般名 性状 商品名(会社名) 規格

経口製剤

モルヒネ塩酸塩

速効性 モルヒネ塩酸塩錠(大日本住友) 10mg

速効性 モルヒネ塩酸塩末(第一三共、武田、シオノギ) 現末

速効性 オプソ内服液(大日本住友) 5mg/2.5mL、10mg/5mL

持続性 パシーフカプセル(武田) 30mg、60mg、120mg

モルヒネ硫酸塩

持続性 MSコンチン錠(シオノギ) 10mg、30mg、60mg

持続性 MSツワイスロンカプセル(日本化薬) 10mg、30mg、60mg

持続性 モルペス細粒(藤本) 10mg、30mg

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

持続性 カディアンカプセル(大日本住友) 20mg、30mg、60mg

持続性 カディアンスティック(大日本住友) 30mg、60mg、120mg

持続性 ピーガード錠(田辺) 20mg、30mg、60mg、120mg

オキシコドン

持続性 オキシコンチン錠(シオノギ) 5mg、10mg、20mg、40mg

速効性 オキノーム散(シオノギ) 2.5mg、5mg

坐剤 モルヒネ塩酸塩 持続性 アンペック坐剤(大日本住友) 10mg、20mg、30mg

貼付製剤 フェンタニル 持続性 デュロテップMTパッチ(ヤンセン) 2.1mg,4.2mg,8.4mg,12.6mg,16.8mg

注射製剤

モルヒネ塩酸塩

モルヒネ塩酸塩注(シオノギ、武田、田辺三菱)

アンペック注(大日本住友)

10mg・1mL、50mg/5mL

200mg/5mL

プレペノン注(武田):プレフィルド製剤 10mg/1mL、50mg/5mL。200mg/5mL

フェンタニル フェンタニル注 0.1mg・2mL、0.25mg/5mL

患者情報による剤形の選択患者情報による剤形の選択

基本的な投与ルートは経口

経口摂取不能で点滴ライン→注射剤、貼付剤、

坐薬

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

坐薬

販売名 規格薬価(円)

等鎮痛用量1日薬価(円)

1ヵ月のコスト(円)

オキシコンチン錠 20 mg 523.00 40 mg/日 20 mg×2 1046.00 31380

MSコンチン錠 30mg 725.10 60 mg/日 30 mg×2 1450.02 43506

ピーガード錠 60 mg 1386.70 60 mg/日 60 mg×1 1386.70 41601

患者の経済的要件からみた選択

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

カディアンスティック 60 mg 1450.60 60 mg/日 60 mg×1 1450.80 43524

パシーフカプセル 60 mg 1483.10 60 mg/日 60 mg×1 1483.10 44493

MSツワイスロンカプセル 30 mg 567.90 60 mg/日 30 mg×2 1165.40 34962

モルペス細粒 6% 1g 1129.00 6%1g/日6%1包

(0.5g)×21129.00 33870

デュロテップMTパッチ* 4.2 mg 3467.80 4.2 mg/3日 4.2 mg/3日 3467.80 34678

*添付文書上ではモルヒネ:デュロテップMTパッチ=1:150であるがこの表では1:100として計算 *薬価;2010度新薬価で計算

医師A:今の痛み止めに変えて

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

NSAIDsをオピオイド開始時に中止してはいけないのはなぜですか?

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2010/10/18

11

オピオイド開始時NSAIDsを中止してはいけない理由

オピオイドにはないNSAIDsのがん疼痛鎮痛メカニズム

『進行がんが周囲組織に浸潤しその細胞膜から遊離したアラキドン酸にシクロオキシゲナーゼ(酵素)が働き、プロスタグランジン(PG;痛覚過敏形成)が発生

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

NSAIDsはシクロオキシゲナーゼの働きを阻害』

NSAIDs中止により疼痛悪化しオピオイドを急速増量するとオピオイドの副作用対策が必要

NSAIDsによる腎血流量の低下、消化管障害に注意

NSAIDs中枢性作用:モルヒネ鎮痛作用を増強:鎮痛耐性を抑制

後策腫瘍周囲

NSAIDs末梢性作用:COX阻害作用による過敏化抑制

PGによる受容器の過敏化(感化)

ブラジキニン、H⁺等の発熱物質による受容器刺激

刺激インパルス発生

癌発生メカニズムとNSAIDsの鎮痛作用点

大脳皮質

視床

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

2次ニューロン線維

前策

前角

後角

脊髄

腫瘍周囲炎症

癌組織 痛覚繊維(1次知覚線維)

受容体への直接刺激または痛覚刺激への浸潤

:発痛物質(ブラジキニン、H⁺等)

:疼痛関連PG(プロスタグランジン):PGE₂、PGI₂

:侵害受容器(痛覚神経終末)

:シナプス構造

1次ニューロン細胞体

細胞膜リン脂質

アラキドン酸

ホスホリパーゼA2(PLA2)

シクロオキシゲナーゼ

((COXCOX 11 COXCOX 22))

テキスト疾患編P7

NSAIDsNSAIDsNSAIDsNSAIDs

ステロイド

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PGH2

プロスタグランジン(PG)G2

((COXCOX--11,,COXCOX--22))

PGE2 PGA2

PGF2α

トロンボキサンA2 PGI2

血管拡張発熱、発赤炎症性疼痛胃粘膜保護

血小板凝集 痛覚刺激血管拡張腎血流維持抗血栓作用

TXsPGAsPGEs PGIs

NSAIDsNSAIDsNSAIDsNSAIDs

アラキドン酸

構成酵素:ほとんどの細胞に常に発現

COXCOX--11 COXCOX--22誘導酵素:主に炎症部位の細胞

に発現

COX-2阻害薬:COX-2を選択的に阻害するため、消化管、血小板に対する副作用を減らすことができる。

COX-2阻害薬:COX-2を選択的に阻害するため、消化管、血小板に対する副作用を減らすことができる。

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発現 に発現

非選択的非選択的NSAIDNSAID両方を非選択的に阻害する両方を非選択的に阻害する

COXCOX--22阻害薬阻害薬COX-2を阻害し、

COX-1に影響しない

プロスタグランジン胃粘膜保護血小板凝集腎機能維持

プロスタグランジン

炎症、発痛、浮腫

横田敏勝:臨床医のための痛みのメカニズム 改訂第2版. 東京, 南江堂, 71-90, 1997より作図

生体保護に関与?

炎症反応に関与?

腫瘍の血管新生阻害作用あり?→エビデンスが弱い→判定保留

国内で使用可能なCOX-2阻害薬:選択性強い順

セレ キシブ(セレ クス)>メ キシカム

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セレコキシブ(セレコックス)>メロキシカム(モービック)>エトドラク(ハイペン)

消化性潰瘍リスクは低いが、腎障害リスクについては未確定

血栓形成、心毒性など未知の面あり

消化性潰瘍の治療戦略

治療戦略 代表的薬剤

① 胃酸の中和 制酸剤;マーロックス¯

② 胃酸分泌刺激の遮断 H2受容体拮抗薬;ファモチジンほか抗コリン薬;ピレンゼピン

③ 酸産生 抑制 プ ポ プ 害薬 プ ゾ

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③ 胃酸産生の抑制 プロトンポンプ阻害薬;ランソプラゾール(タケプロン¯)

④ 胃粘膜損傷部の保護 粘膜保護剤;スクラルファートプロスタグランジン誘導体;ミソプロストール(サイトテック¯)

⑤ 粘膜傷害因子の除去 ピロリ菌の除去療法;タケプロン¯+クラリスロマイシン+アモキシシリン

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2010/10/18

12

消化性潰瘍治療薬

H⁺

H⁺

H⁺

H⁺

H⁺

H⁺H⁺

H⁺ ピロリ菌除菌

タケプロン¯ +アモキシシリン+クラリスロマイシン

粘液バリア重炭酸イオン

ピロリ菌

粘膜筋板

粘膜保護剤スクラルファート

制酸剤マーロックス®アルミゲル

アセチルコリンアセチルコリン

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ムスカリン受容体HΩヒスタミ

ン受容体

壁細胞H⁺

H⁺

抗コリン薬プロパンテリン選択的抗ムスカリン薬ピレンゼピン

HΩ受容体遮断薬シメチジンファモチジン

プロスタグランジン製剤ミソプロストール

重炭酸イオン粘液分泌

H逆拡散

プロトンポンプ阻害薬

タケプロン¯オメプラゾール

腹痛

H⁺ポンプ

ヒスタミンヒスタミン

- -

オピオイドオピオイド製剤で注意すべき副作用製剤で注意すべき副作用ととそのその対策・対応対策・対応

医師A :呼吸が弱くなって命を縮める?眠気が強く

出て意識がなくなる?

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そのその対策 対応対策 対応

オピオイドの副作用

患者QOL低下、満足度低下

拒薬

モルヒネの主な薬理作用の50%有効用量の比較

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(

緊張病)

代表的代表的オピオイドとオピオイドと副作用副作用

モルヒネ オキシコドン フェンタニル

剤形

原末・内服液剤・錠剤

徐放製剤・注射剤

徐放錠・散剤

注射剤

貼付剤

注射剤

代謝臓器 肝 肝 肝

活性代謝物 M-6-G oxymorphone (-)

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腎障害の影響 +++ (-) (-)

嘔気・嘔吐 ++ +~++ +

めまい ++ + +

便秘 +++ +++ ±

眠気 ++ +~++ ±

掻痒感 + ± +(局所)

(的場元弘ほか:ターミナルケア、13(1):11, 2003 一部改変)

オピオイドによる便秘オピオイドによる便秘

• 肛門括約筋の収縮力増強作用

• 腸管の輪状筋を収縮させて腸運動低下作用

• 経口投与では中枢μ2受容体と腸管のμ2受容体への直接作用で静注、皮下注に比し強い便秘

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• 静注や皮下注で中枢のμ2受容体を介して便秘

• フェンタニルはμ1受容体に選択性が高いので便秘は軽度、高用量で便秘

• モルヒネ、オキシコドンからフェンタニルにオピオイドローテーション時の下剤用量に注意

便秘・下痢

モルヒネコデイン

ロプラミド(ロペミン)

オピオイド受容体刺激薬

抗コリン薬

抗コリン作用

メトクロプラミド(プリンペラン)ドンペリドン(ナウゼリン)

腸運動促進薬

膨張性下剤 ①

蠕動抑制止痢薬

便秘誘発

蠕動亢進

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抗コリン薬3・4環系抗うつ薬

ジソピラミド(リスモダン)

グリセリン

直腸刺激薬

CMC-Na(バルコーゼ)

ラクツロース

浸透性下剤②

センナ、センノシドピコスルファートNa(ラキソベロン)ピサコジル(テレミンソフト坐)

刺激性下剤 ③

セロトニン5HT3拮抗薬

グラニセトロン(カイトリル)オンダンセトロン(ゾフラン)パロノセトロン(アロキシ注)

その他

コレスチラミンリチウム

浣腸

下剤

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2010/10/18

13

便秘の治療戦略

治療戦略 代表的薬剤

① 腸管内容積の増加 食事療法;植物繊維の多い食事膨張性下剤;CMC-Na(バルコーゼ¯)

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② 腸内浸透圧増加 浸透圧下剤;ラクツロース(適応外)塩類緩下剤;酸化Mg(マグミット¯)

③ 腸管蠕動直接刺激 刺激性下剤;センノシド

便秘便秘対策対策薬剤薬剤

目的 分類 一般名 商品名 用法・用量

硬さの調節

塩類下剤酸化マグネシウム

カマ 1~3g(2~3回)

マグミット 1~3g(2~3回)

水酸化マグネシウム ミルマグ 3~6錠(2~3回)

膨張性下剤 カルメロールナトリウム バルコーゼ 1.5~6g(2~3回)

糖類 ラクツロースモニラック

カロリールゼリー

10~60mL(2~3回)1~3個

センナエキス アローゼン 1~3g(2~3回)

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大腸の蠕動刺激 大腸刺激性下剤

センナエキス アロ ゼン 1~3g(2~3回)

センノシド プルゼニド1~4錠(眠前/起床時と眠

前)

大黄末 大黄末 0.3~0.5g/回

ピコスルファートNaラキソベロン

(1錠=5滴)

5~30滴/2~6錠

(1日2~3回)

排便刺激大腸刺激性下剤 ピサコジル テレミンソフト 1日1~2回(頓用)

複合剤 新レシカルボン 1日1~2回(頓用)

消化管全体の

蠕動刺激

セロトニン受容体刺激 モサプリド ガスモチン 3~6錠(1日2~4回)

PGE1誘導体 ミソプロストール サイトテック 4錠(1日4回)

どうしても出ない 塩類下剤 クエン酸Mg マグコロールP 50g(頓用)

今朝お通じがありましたか? 便は普通の硬さでしたか

これからは

今まで通り下剤をのんで下さい

硬くて排便の時痛みが

あった

下痢ではないが軟便だった

下痢になりトイレに何回か行 た

午前中に下剤を追加してください

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寝る前までにお通じがありましたか

寝る前に下剤をさらに増やして下さい

これからは

下剤を朝と寝る前に飲んで下さい

あった

今晩から下剤を増やして

下さい

便だった 回か行った

今晩から下剤を減らして

下さい

今日は下剤を飲まないで明日から下剤を減らして下さい

国立がんセンター中央病院薬剤部作成図を一部改変

下剤の換算値

一般名 商品名ピコスルファート錠(1錠5滴相当)

ピコスルファート液(1本10mL150滴)

センノシド12mg

プルゼニドフォルセニッドチネラックソルダナリタセンドセネバクールソルドールE

センノシド12mg2T ≒ 3T

2T ≒ 15滴(1mL)

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ソルド ルEフォルセニッドラキソロンセンナルセンナリドセンノサイド

2T ≒ 3T (1mL)

センノシド7.2mg

プルノサイドセナン

1T ≒ 1T2T ≒ 15滴

(1mL)

センナエキス80 ヨーデル80mg 1T ≒ 3T1T ≒ 15滴

(1mL)

オピオイドによる嘔気・嘔吐オピオイドによる嘔気・嘔吐

主に化学受容器引き金帯(CTZ)を介して嘔吐中枢を刺激することで起こる。

体動時の嘔気・嘔吐は前庭神経・前庭神経核への作用。めまい・ふらつきを伴う。

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便秘が二次的に嘔気・嘔吐の原因となりうる。

投与開始から2週間程度で耐性形成

頻度 経口モルヒネ:30~50%デュロテップMTパッチ:30~40%オキシコンチン:40%以下

嘔気・嘔吐感情の動き

ex)暗示・連想・情動内耳前庭器

大脳大脳皮質

乗り物酔い

第四脳室CTZ

求心性神経 ①①①①

モルヒネ

モルヒネ

モルヒネ

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便秘

小腸

嘔吐嘔吐

延髄

胃内容物停留→胃内圧の上昇

5‐HT産生→5‐HT₃受容体刺激

求心性神経

CTZ ①①

モルヒネ

遠心性神経

治療戦略①CTZのドパミン受容体遮断:ノバミン②ヒスタミン受容体遮断:トラベルミン、ドラマミン③CTZおよび腸管5-HT3受容体遮断:カイトリル他④機序不明:ステロイド(デカドロン)⑤胃内容排出促進:プリンペラン、ナウゼリン⑥便秘対策

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2010/10/18

14

嘔気・嘔気・嘔吐の嘔吐の対策薬の対策薬の薬剤薬剤

一般名 商品名 剤形 1回投与量 投与間隔 鎮静 錐体路 コメント

プロクロルペラジン ① ノバミン

錠・散

5mg

8時間

弱 少

第1選択薬 中枢作用

注 持続 用法上は筋注

メトクロプラミド ①⑤ プリンペラン

錠・散・液

5~10mg

8~12時間

まれ まれ効果が弱い

(中枢移行が少ない

+消化管運動亢進)

注 持続

ドンペリドン ①⑤ ナウゼリン

錠・細・DS 5~10mg8~12時間

まれ まれ坐剤 60mg

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クロルプロマジン ① コントミン

錠・散 5~12.5mg 8~24時間

強 少 鎮静に注意する注 10~50mg 持続

ハロペリドール① セレネース

錠・顆粒 0.75mg 12~24時間

強 高

アカシジアなど

の副作用あり

第2選択薬注 2.5~5mg 持続

ジフェンヒドラミン

ジプロフィリン② トラベルミン

錠 1錠 8時間

なし なし前庭障害、めまい、体動

時の嘔気・嘔吐

注 1A 頓用

ジメンヒドリナート② ドラマミン 錠 50mg 6~8時間

ペロスピロン塩酸塩① ルーラン 錠 4mg 8時間 弱 小

フマル酸クエチアピン① セロクエル 錠 25mg 8時間 弱 小 高血糖に注意

統合失調症治療薬の作用と副作用

ムスカリン受容体遮断作用

αアドレナリン受容体遮断作用

•ハロペリドール(セレネース)ク ルプ ジン( ントミン)

抗精神病薬

5‐HT受容体遮断作用

非定型抗精神薬•起立性低血圧

•口渇•排尿困難•便秘•視力調節障害

受容体遮断作用

--

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010黒質・線条体系 視床下部・下垂体系

中脳辺縁系

•クロルプロマジン(コントミン)•プロクロルペラジン(ノバミン)ヒスタミン受容体

遮断作用

錐体外路症状•パーキンソン病•ジストニア•ジスキネジア•アカシジア•遅発性ジスキネジア

抗精神病作用鎮静作用

•体重増加

内分泌障害•抗プロラクチン血症•女性化乳房•月経障害•体重増加

•クロザピン

•顆粒球減少症•鎮静作用DΩ受容体遮断作用

ドパミンDΩ受容体

オピオイドによる眠気

(1)機序

オピオイドによる中枢抑制作用により、催眠作用が生じる

(2)時期

オピオイド開始後数 間 急激なオピオイド 増量

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オピオイド開始後数日間、急激なオピオイドの増量

(3)オピオイド以外の原因

脳転移、高Ca血症、感染症、水腎症

(4)対策

通常は1週間程度で耐性形成

腎機能低下の場合はモルヒネの減量やローテーション

オピオイドオピオイドによるせんによるせん妄妄

軽度から中等度の意識障害(よく診ないと捉え難い)に、錯覚や幻覚、精神運動興奮、または活動性の低下を伴い、一日のうちで変動するもの→せん妄

モルヒネによるせん妄出現率は投与初期約2%(高齢者、全身衰弱患者)

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

(高齢者、全身衰弱患者)

腎機能低下によりモルヒネ活性代謝物M-6-G蓄積

原因

※高Ca血症、感染、環境要因などせん妄の他の原因を除外すること

((すぐにオピオイドのせいにしない))

オピオイドオピオイドによるせんによるせん妄妄

対対応

① オピオイドの減量② オピオイドロ テ シ ン

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

② オピオイドローテーション③ リスペリドンの定期投与

(0.5mg~1X就寝前、適応外に注意)④ 規則正しい生活リズムの確保⑤ 不安・心配事を減らす

オピオイドオピオイドによる呼吸抑制による呼吸抑制

モルヒネは直接脳幹の呼吸中枢に作用しCO2

の蓄積に対する呼吸反応を抑制

がん患者 鎮痛効果を確認 ながら ヒネ増量

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

がん患者:鎮痛効果を確認しながらモルヒネ増量

重症の呼吸抑制は生じない

病状変化や過量投与対応:ナロキソン静注

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2010/10/18

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オピオイドオピオイドによるその他の副作用によるその他の副作用

排尿障害

尿管平滑筋緊張収縮、膀胱括約筋緊張亢進による症状:排尿障害、尿閉

対応:排尿筋収縮力↑:ベサコリン、ウブレチド

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

対応:排尿筋収縮力↑:ベサコリン、ウブレチド膀胱出口の圧↓:αブロッカー

かゆみ

肥満細胞刺激によるヒスタミン遊離

対応:抗ヒスタミン薬の投与

症例A:男性 肝臓がん 70歳 50kg疼痛残存、日中傾眠、反応鈍い

処方 MSコンチン40mg2× 8時20時マグミット330mg3T3×疼痛時 オプソ5mg 1包 1×

血液・生化学検査結果

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

白血球4500 赤血球400万 血小板16万アルブミン(g/dL)3.0血清クレアチニンmg/dL 1.28Ca(mg/dL)8.5NH3(μg/dL)50

症例Aの眠気の原因は何?処方変更は?

第4講『緩和ケアにおける臨床薬理学』

あさひかわ緩和ケア講座 カリキュラムあさひかわ緩和ケア講座 カリキュラム

•• オピオイドの薬理学・薬剤学オピオイドの薬理学・薬剤学•• 正しく安全に使うための基本正しく安全に使うための基本•• オピオイド製剤使用時に注意すオピオイド製剤使用時に注意す

べき患者べき患者

•• オピオイドの薬理学・薬剤学オピオイドの薬理学・薬剤学•• 正しく安全に使うための基本正しく安全に使うための基本•• オピオイド製剤使用時に注意すオピオイド製剤使用時に注意す

べき患者べき患者

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

•• 参考文献参考文献•• 参考文献参考文献

腎障害によって鎮痛効果・副作用に影響をうけるオピオイドについて

QQ)腎障害)腎障害患者には十分注意が必要なオピオイド患者には十分注意が必要なオピオイドはは??

AA))モルヒネモルヒネ

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

理由)モルヒネは肝臓で代謝

M-3-G:鎮痛作用なし

M-6-G:モルヒネより強い鎮痛作用

両者とも腎臓から排泄

Ccrは蓄尿しなければわからない?• Cockcroft&Gaultの式による概算男性:(140-年齢)×体重/72×sCr女性:(男性の式)×0.85

例 85歳女性体重40kg sCr1.0mg/dL(Jaffe法)Ccr=[(140-85)×40/72×1.0]×0.85

約26 L/ i

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

=約26mL/min

注意!Cockcroft法のsCr値はJaffe法による測定値であり、日本ではほとんどの施設で酵素法で測定。Jaffe法sCr値=酵素法sCr値+0.2参考文献1)Ando Y, Br J Cancer,1997;75:1067-712)プラチナ製剤の臨床薬理;第7回日本臨床腫瘍学会教育セミナー

健常人と腎不全患者におけるモルヒネM-3-GおよびM-6-Gの血中濃度推移

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

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2010/10/18

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代謝物60mg 心臓

分布

薬効の出現

代謝

モルヒネ血中濃度

経口モルヒネ100mgを生体内利用率40%の腎機能正常患者が服用

モルヒネ100mg

40mgが体にいきわたる

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少しだけ糞便中に排泄 ほとんどが尿中排泄されどんどん体からなくなる

100mg崩壊溶出

吸収100mg

肝臓胃

小腸

投与後の経過時間

代謝物60mg 心臓

カプセル錠剤 分

せん妄など

副作用増強

代謝

モルヒネを腎機能障害患者や高齢者が服用モルヒネ100mg

生体内利用率40%

投与後の経過時間

血中薬物濃度

40mgが体にいきわたる

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

少しだけ糞便中に排泄 M-6Gが尿中排泄できず体の中にどんどんたまる

崩壊溶出

吸収100mg

肝臓胃

小腸

投与後の経過時間

オキシコドンにおける腎障害時の体内動態

オキシコドンオキシコドン

約80%が肝臓で代謝オキシコドン

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↓ノルオキシコドン(鎮痛活性なし)

約20%が腎臓から排泄↓

健康成人と比較腎障害者で約1.6倍のAUC

↓腎障害者、高齢者には少量から投与

健常人と腎障害患者におけるオキシコドンの血中濃度推移

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

オキシコンチン錠インタビューフォーム

フェンタニルにおける腎障害時の体内動態

フェンタニルフェンタニル

約90%が肝臓で代謝

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フェンタニル↓

ノルフェンタニル(活性なし)

約10%が腎臓から未変化体で排泄

肝機能障害患者のオピオイド鎮痛薬の使い方で注意は?

モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルは

肝血流量依存性薬物

肝血流 が低

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肝血流量が低下

半減期の延長とクリアランスが低下

経口投与の場合、初回通過効果減弱でFが増大

血中濃度上昇

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2010/10/18

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オキシコドン徐放錠単回投与による血中濃度

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オキシコンチン錠インタビューフォーム

症例Aの眠気の原因と処方変更 案• Cockcroft & Gault式から推定クレアチニンクリアラ

ンスを求める• (140-70歳)×50kg

72×(1.28+0.2)=32.8mL/min.*腎機能障害あり モルヒネ代謝物M 6G体内蓄積の可

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*腎機能障害あり→モルヒネ代謝物M-6G体内蓄積の可能性大→傾眠、反応鈍い

*高Ca血症の可能性は? 血清Caを補正すると8.5-3.0+4=9.5mg/dL 高Ca血症はなし

*肝性脳症の可能性は? アンモニアは正常値

MSコンチンをオキシコンチンまたはMTパッチへ変更

Take Home Message!Take Home Message!

くすり(オピオイド鎮痛薬)は、受容体と結合してはじめて効果や副作用をあらわすことができる

くすり(オピオイド鎮痛薬)の効果や副作用に

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

くすり(オピオイド鎮痛薬)の効果や副作用には個人差がある

上記の2点を踏まえて、患者のQOLを高めるくすり(オピオイド鎮痛薬)の使い方は医療者の責務である

第4講『緩和ケアにおける臨床薬理学』

あさひかわ緩和ケア講座 カリキュラムあさひかわ緩和ケア講座 カリキュラム

•• オピオイドの薬理学・薬剤学オピオイドの薬理学・薬剤学•• 正しく安全に使うための基本正しく安全に使うための基本•• オピオイド製剤使用時に注意すオピオイド製剤使用時に注意す

べき患者べき患者

•• オピオイドの薬理学・薬剤学オピオイドの薬理学・薬剤学•• 正しく安全に使うための基本正しく安全に使うための基本•• オピオイド製剤使用時に注意すオピオイド製剤使用時に注意す

べき患者べき患者

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•• 参考文献参考文献•• 参考文献参考文献

参考文献

1)恒藤 暁著. 最新緩和医療学. 大阪: 最新医学社, 19992)柏木哲夫ほか著. 緩和ケアマニュアル-ターミナルケアマニュアル改

訂第4版-. 最新医学社, 20013)日本緩和医療学会がん疼痛治療ガイドライン作成委員会編. Evidence-

Based Medicineに則ったがん疼痛ガイドライン. 東京: 真興交, 2000)鈴 勉他 が 疼痛管 歩 薬

あさひかわ緩和ケア講座あさひかわ緩和ケア講座 20102010

4)鈴木勉他:がん疼痛管理はじめの一歩,薬局,2861-2941,20075)鈴木勉:薬と疾病Ⅰ.薬の効くプロセス,日本薬学会編,76-80,東京化学6)WHO編,武田文和訳:がんの痛みからの解放-第2版,金原出版,20037)各モルヒネ,フェンタニル,オキシコドン製剤インタビューフォーム8)鈴木勉他:オピオイド治療,鎮痛薬・オピオイドペプチド研会,20019)的場元弘他:緩和ケアにおける便秘の理解とケア,インターサイエンス

社,200410)越前宏俊:図解薬理学,医学書院,2008