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2 0 1 9 年 7 月 1 6 日
工学系研究科技術経営戦略学専攻
教授 坂田 一郎
経済社会のパラダイムシフトと政策
1
科学技術産業政策論第13回(最終回)
次期科学技術計画に関する議論のラップアップ
経済社会のパラダイムシフトを捉えた議論と提案が更に必要
1班: 人類社会の持続的な発展脱炭素社会の実現(低炭素発電、エネルギーの地産地消、省エネルギー)
3班: 国際的な知の戦略人材・知・資金が集まる世界トップレベルの研究機関
4班: オープンイノベーション対応と人材の準備スモールアイランド型研究の活性化ユーザーイノベーションに関する制度整備ビジネスアイデアの集積地の形成
6班: 超スマート社会(自動運転等)地球的な課題への対応(気候変動、健康長寿)産学連携
共通: 基礎研究の基盤強化、若手研究人材への支援 等
政策立案を考える際の横軸
効果・インパクト
政策コスト
実現可能性
事前に予測が可能?だれにとっての効果?
<6班提案の3つの軸>
効果とコストはリンク?先行投資のコストは?
経験がないと評価難しい?考え過ぎは政策を歪める?
それら以外の軸はないか?
〇政府による介入の正当性(外部経済性、安全・環境など)〇ステークホルダー間の公平性 〇新技術との親和性〇緊急性と政策効果が出るまでの期間 等
第1部 パラダイムシフトを駆動したAI
研究開発投資
市場
石油価格、気候変動、環境汚染冷戦、超高齢化、都市と過疎・・・
技術動向
知のストック(ニッチ)
連携構造
市場構造ルール・規制安全等の意識
ランドスケープ
レジーム
(参考)Geelsらによる議論を参考
画像認識、動画解析テキスト分析ロボット、VRウエブシステム 等
個人情報保護、DFFT、自動運転システム、電子政府・・
MLPフレームワークとAI
AIによるパラダイムシフト
第1次革命
第2次革命
第3次革命
第4次産業革命
蒸気機関を用いた機械化
電力を用いた大量生産
コンピュータによる自動化
✓ デジタル革命✓ スマート社会✓ インダストリー 4.0 ✓ ソサエティ 5.0
✓ 機械学習・深層学習✓ ハイパフォーマンス・コンピュータ✓ データ・クラウド・サービス 等
コンセプトが見えつつある
AI とは?The term AI refers to a set of computer science techniques that enable systemsTo perform tasks normally requiring human intelligence, such as visual perception,Speech recognition, decision-making and language translation.(Source)The Economist “Artificial intelligence in the real world”(2016)
3つのAIブームの波
7
ビッグデータ活用、ディープラーニング、
音声認識、画像認識、ベイズ統計、
アルファ碁が世界最強棋士に勝利(2017)
25.7%
2.3%
2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
ディープラーニング
の登場
2015年に人間の精度(5.1%)を
超えた
画像認識のエラー率の劇的改善
東京大学 松尾豊特任准教授作成資料より
自然言語処理の黎明期、人工対話システム、
ニューラルネットワーク
甘利俊一先生 (理化学研究所)
(ニューラルネットワークに関する理論の先駆者)
第1次
第2次
知識ベース、音声認識、データマイニング
第3次
「探索・推論」 1950年代後半~60年代
「知識表現」 1980年代
「機械学習」 2010年代~
(参考)平成28年版情報通信白書
25.7%
2.3%
なぜ、今なのか① ~コンピュータの進歩
8
スパコン
パソコン
スマホ
CPU性能 メモリ容量 CPU性能 メモリ容量
1980年代 2018年現在
200 PFLOPS
5 MFLOPS相当
1.3 GFLOPS
640KB
256MB
18 GFLOPS相当 6 GB
10 PB
8 GB27 GFLOPS相当
― ―
(5400倍) (1.3万倍)
(1.5億倍) (4千万倍)
(※1) スマホ:Sony SO-04K(※2) パソコン:PC-9801 (1982年)とNEC Lavie Direct HZを比較(※3) スパコン:NEC SX-2 (1983年) とIBM Summitを比較
(※1)
(※2)
(※3)
(1980年代比の性能)
なぜ今なのか② ~Big Data の蓄積~
9
日本の企業が活用するビッグデータ(※)の推移
日本のインターネット平均トラヒックの推移 (推定)
(総務省2017.2.7) (総務省「 2015年版情報通信白書」)
(※) 企業が受信する業務データ、販売記録、顧客等とのコミュニケーション、GPS等データ等の自動的に取得するデータ。データ形式はテキスト、音声、画像、動画。
0
2,000,000
4,000,000
6,000,000
8,000,000
10,000,000
12,000,000
14,000,000
16,000,000
(TB)
9年間で約9.3倍
なぜ今なのか③ ~手法の成熟~
10
【目】画像の中に写っているものを正確に認識する(画像認識)◎
【耳】会話を文章に変換する(音声認識) ◎
自然文の意味を理解する 〇
自然文で会話する ▲
転ばないように歩く・走る ◎
事故を起こさないように自転車・自動車を運転する ▲
2018年時点の人工知能ができること・できないこと
(出典)シバタナオキ・吉川欣也「テクノロジーの地政学」日経BP社(2018)(備考)◎今すでに出来ている、◎2~3年以内に出来そう、▲ 5年かかっても難しそう
に関するシバタナオキ氏の評価
●データの特徴について正確に理解していないと、データから正しい知見を引き出すことは出来ない。
●専門家による労働集約的な知識活動は価値を生み出す上で、.極めて重要 (e.g.マテリアルインフォマティクス)
●異なる種類のデータのマッシュアップが価値を生む、連携必須(e.g. 都市関連の多様なデータ、シュミレーションとDL)
●価値創出には、データを生み出す場所とデータが価値を生む場所(双方の職場)の間の密な連携が必須
●データ処理場所の想定(サーバー、メモリ近く、センサ近く、人近くetc.)
●近い将来、リアルタイムデータの活用が拡がることを想定すべき
データからの価値の生み出し方
従来の学理とAIの比較
V.S.
従来の科学 AI(特にDL)
モデルの予測精度を競うブラックボックス
多次元の科学
複雑な現象への適用
既存のドメイン横断的AI×●●型
人間が理解できる知見(教科書になる知)
抽象化(低次元)の科学
複雑な現象解明に長時間
人間の理解力の制約で分断されがちな学理
答え合わせのポテンシャル
デジタル革命Digital
Transformation
✓ 知恵が価値を生み、個を活かす社会
✓ インクルーシブ、総活躍社会
✓ 生産性向上と高付加価値化
Society 5.0Japan 2.0, globalization 4.0, …
✓ 一部の企業や国家がデータを独占
✓ データを持つ者と持たざる者に決定的な断絶や格差が生まれる
データ独占社会、デジタル専制主義
日本は世界に先がけてGoodシナリオを提示(Data free flow with trust)
13
AI・デジタル革命と社会システム
第2部 パラダイムシフトの中身
パラダイムシフトにより起こったこと
ロードマップの消失
社会的な価値の変化
期待値ビジネスの成長
事業ドメインの再定義
リアルタイムビックデータ
ロードマップの消失
1985:Windows 1.01 リリース
1998:Google創業
2004:Google Map/Google Earth2004 Facebook創業
2005:YouTube登場
2007:iPhone発売
2010:iPad発売
2011:LINEリリース
2013:Slackリリース
2015:AlphaGo勝利
2009:Google自動運転
2014 荒川区 タブレット全校導入
1995 Amazon.com開始
・サステナブルな社会・幸福・繁栄に寄与
する価値・社会との価値共創
社会における価値軸の変化
社会的起業
仕組み定着社会に広く波及
市場下の経済活動
・ビジョンや枠組み(例:SDGs、Society5.0、TICAD)・経済と社会の調整システム(ESG投資など)・新技術と新ビジネスモデル(社会起業家など)・ESG/SDG経営
http://www.economist.com/news/leaders/21697834-gdp-bad-gauge-material-well-being-time-fresh-approach-how-measure-prosperity
-経済と社会的ゴールとのより密な調整-
サステナビリティに関する知の爆発
18
2000年国連MDGs
2015年国連SDGs, パリ協定
2016年
Society 5.01989年Exxon Valdez原油流出事故
(備考)Scopusよりsustainability関連の論文(50万件弱)を取得し分析
Copyright @ ICHIRO SAKATA The University of Tokyo
サステナビリティに関する知の世界
Note: 0.3 Million Papers from Scopus (2019)Source: 東京大学 坂田森研究室
0: Soil, agriculture
1: Ecosystem
2: Corporate
3: Bio/renewable energy
4: Urban/City
5: Building
6: Health care
7: Energy/Emergy8: Fishery
9: Tourism
10: Forest
11: Energy efficiency/emission12: Water
13: Education
14: Sustainable development
15: Water resource
16: Green computing
17: Electrochemical
18: Mining
19: Waste management
20: Fiscalsustainability
21: Microfinance
プラスチックごみ問題への世界の共感
プラスチックごみによる海洋汚染の顕在化によって、プラスチックのストロー廃止の動きと紙や生分解性プラのストローの価値化。「地球のサステイナビリティ」への社会的な注視の傾向。「コスト」、「機能性」、「品質」、「耐久性」、「配送速度」等とは別の価値軸としての「人間の感性」への訴求。例えば、「信頼感」、「倫理的」、「驚き」、「他では手に入らない」、「心地良い」、「共感できる物語」。
新しく生み出された価値の事例
• ハイセンスなエコカー
• ITビジネスの感覚でのアフターサービス
テスラ
(エコカー)
• 信頼感のある楽曲の配信サービス
• アーティストへの利益還元(正義、公正さ)
スポティファイ
(音楽配信)
• 「人と地球を健康にする」「途上国の栄養失調問題に貢献」
• 食品、化粧品等からバイオ燃料へ
ユーグレナ
(食品等)
• 石灰石を利用した紙・プラスチックの代替素材
• 世界の水、森林資源の枯渇問題に貢献
TBM
(石灰石を用いた新素材)
• 軽い掛け心地、鼻に跡がつかない
• 「技術を極めればアートになる」
シャルマン
(眼鏡、医療用具)
• しまんと地栗と国際水準で衛生管理された工場
• 逆Amazon
四万十ドラマ
(食)
期待値ビジネスの急成長
BATは売上高に比べて大きな時価総額
⇒ 売上高・利益が小さくても、株主からの「期待値」
によって世界的に成長するモデル
BAT平均 Baidu Alibaba Tencentトヨタ
自動車
16.6倍 8.0倍 19.2倍 22.6倍 0.8倍
(出所)YCHARTS(時価総額:2017年末時点)、 The Global Innovation 1000 study(売上高:2017年見込み)
時価総額/売上高の比較の例(BAT, トヨタ自動車)
時価総額/売上高の比較(東大関連ベンチャーの例)
「期待」を伸ばす力の重要性
日本でも芽が出てきている
東大関連ベンチャー✓ 300社以上(年間40社ペース)✓ 時価総額合計は1兆4千億以上✓ IPOした企業は17社
(2018年6月現在)
ペプチドリーム ユーグレナPKSHA
Technology
112.4倍 5.1倍 169.8倍
事業ドメインの再定義
Primary Secondary Tertiary
Labor Intensive
Capiital Intensive
Knowledge
Intensive
消えていく業種、産業間の壁 !
Smart mobility Smart health Smart farming
✓ 社会ニーズ主導✓ データドリブン✓ 期待値による資金流入✓ サイエンスリンケージ✓ コネクテッド
融合へ
知識集約による新たなスタイルでの価値創造へ
リアルタイムビックデータの力
既存の障壁群
• 人的資源の不足• 技術・知見の不足• 経験知の不足• 経済性の不足• 地理的な距離• 強固な規制• 過去への依存性 等
諸課題 解決策
新知識, AI, サイバー空間・・
empowering
バイパス 又は 跳躍
リアルタイムになることによる違い
ちいき
販売支援
・事後での来店者の購買分析・売上の予測、仕入れの調整
・来店中の商品推薦・自動店舗
河川管理
・災害の原因の解明・河川管理や防災計画の立案
・ダムの貯水量の自動操作・自動での避難指示
人的交流
・異なる場所に居る楽団員によるオーケストラの演奏
・厳密な同時性を追求しない交流
事例 :無電化地帯の電化
電力網の高い電力コスト
スマホと電子マネー普及
無電化地帯での少量電力の量り売り
ソーラーキヨスク東大発ベンチャーWASSHA
(仮想通貨、リアルタイムデータ等)
無電化地帯
伝統的な手段
スマートなアプローチ
高度医療機関への物理的アクセスが難しい地方
先進医療@Medical Center
Telemedicineバイタルセンサー
高精細医療画像、5G
伝統的な手段
スマートアプローチ
事例:遠隔での診断・治療
5つの変化と新たな対応
• 「予定調和なき知的対流」「偶然の幸運な出会い」ロードマップの消失
• 幅広い社会の変化への鋭敏なアンテナ
• 仮説の立案能力価値の変化
• 流れを読んだ仮説を事業に転換する創造力
• 世界の共感/受容を創り出す力期待値ビジネスの成長
• 「遠距離交流力」、異分野の知識の結合事業ドメインの
再定義
• 信頼関係をベースとした協働(データ共有)
• 高いレベルでのサイバー・フィジカルの融合リアルタイムデータ
資本集約型
価値高い
製品が価値の中心(コスト、機能性、品質、納期・・)
部品
素材
金属
プラスチック
課題解決・ソリューション
コト・知が価値の中心(感性、課題解決力、共感力・・)
製品
知識集約型
✓ 健康長寿✓ 介護支援✓ 地方と都市との
格差縮小(地方におけるモビリティ確保)
半導体
データ (リアルタイムBig Data)
自動運転
サイバー・フィジカルの融合戦略
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サイバー・フィジカルの
融合
画像認識、音声認識、言語処理
機械学習、ネットワーク解析
Ref. “The Emporium strikes back”, The Economist May 21th, 2016
情報の独占・偏在
ポストトゥルース
フィルターバブル
フェイクニュース
プライバシー侵害
サイバー・フィジカルの複合課題
地球温暖化
森林の破壊
大気汚染
廃棄物の山
交通渋滞や事故
Society 4.0が残した課題例 AIが生み出した新しい課題例
※Society4.0の課題を解決しようとして、新たに生み出されたリスク群(原子力、遺伝子組み換え作物etc.)も引き継がれている
豊かさの帰結としての超高齢化 18
選挙前 選挙後
Hillary G: 0.69 → 0.46Trump G: 0.89 → 0.65
ポジチィブな意見を持つグループ
ネガティブな意見を持つグループ
異なる意見(ポジティブとネガティブ)を持つ者の間でのコミュニケーションの発生確率は、選挙後に顕著に低下。社会におけるコミュニケーションの分断が一層進んだのではないか?
(備考) 発生確率は、ツイートをランダムにサンプリングした場合の確率を1とした場合の数字(出典)與島・大知・浅谷・森・坂田「感情分析を用いたショック前後における会話ネットワーク上の
コミュニティに変化」、人工知能学会第31回全国大会(2017)
ポジチィブな意見を持つグループ
ネガティブな意見を持つグループ
アメリカ大統領選とエコーチェンバー
Society 4.0と5.0移行期の戦略
「成長力」と「競争優位」の創出
フィジカル(新材料、センサー、ロボット
機械装置、測定手法等)
サイバー(データ、AI、フィンテック、
セキュリティ、5G等)
ビジョン・期待の創造(工業化時代の価値+新しい価値)・SDGsの流れ(発展途上国、先進国、共通課題)・日本/東アジア流のアプローチ
知識化時代のインフラ(データPF、知的交流拠点)
文理の学術知識(工学、AI、人文社会・・・)
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戦略を支える「予定調和なき知的対流」
計画型の知的対流 予定調和なき知的対流
●「地域未来牽引企業サミット」●ビジョンから議論、メンバー・進め方は柔軟●フィジカル、サイバー、新しい価値の出会い●成長モデルが不明な場合に必須
●従来の政府プロジェクトや組織●目標は明確、メンバー・進め方は計画的●定まった範囲の中での力の結集●成長モデルが見えている際に効果的
33(参考)国土審議会 稼げる国土専門委員会
「東京大学ビジョン2020」における社会システムの言及
資本主義や民主主義といった現代社会を支える基本的な仕組みの限界も露わになっています。地球環境の劣化、資源枯渇、地域間格差といった地球規模の課題が顕在化し、世界情勢がますます不安定になっているように感じます。
より大きな力を得た人類がどのようにして、安定的で平穏な社会を構築するのか、その道筋は明らかではありません。私は、多様な人々が尊重しあいながら協力して経済を大きく駆動する新たな仕組みを生み出すことが必要だと考えています。
この新しい仕組みを駆動するものは人々の知恵に他なりません。すなわち、知恵が経済を動かす社会です。
(出典)「東京大学ビジョン2020」の公表にあたって(2015年10月22日)