大学生における同一性の達成度とヤマアラシ・ジレンマ

漁田ゼミ

荒木，瀬崎，二橋，松本

2005/10/26

Erikson(1959)の発達課題

　

　　　　　　青年期⇒同一性の確立　

＊同一性とは

・・・自我の確立状態であり，幼児期以来形成されてきた個別的多数の同一化が，青年期において取捨選択されることによって成立する。

Marcia(1966)の同一性地位のアプローチ

　　１．危機(crisis)の有無

　　２．自己投入の有無

操作的に扱うことが難しい同一性概念を実証的

に研究する事を可能にした。

加藤(1983)の同一性地位判定尺度

【同一性地位の定義】

・同一性達成

・権威受容

・AF中間地位

・モラトリアム

・同一性拡散

・DM中間地位

DM中間地位が

全体の半数を占める。

DM中間地位と「新しいモラトリアム」心理

「新しいモラトリアム心理」

・・・従来の自立への渇望や自己探求などと

　　 異なり，無為欲・無関心・しらけなどの

　　 新たな特色を持つ。

DM中間地位が新しいモラトリアム心理を反映。

　現代日本の青年に当てはまるもの

青年期の対人関係

ヤマアラシ・ジレンマ　・・・他者との適度な心理的距離を巡る葛藤。

　　　「近づきたいー離れたい」という心理。

　　　同一性の混乱状態にある青年期には，密接

　　　な対人関係を求める中で，このジレンマが

　　　引き起こされるといわれている。

　・互いが近づき合えば近づきあうほど生じやすい。

　・相手との関係を重要だと思えなかったり，心理的

　 距離が遠いと感じる友人関係において，生じやすい。　

現代の「ヤマアラシ・ジレンマ」

　・・・従来のものと比べて，より「適度さ」に敏感

　　　なジレンマ。相手との適度な心理的距離を

　　　自分の中で模索して生じる。

　「近づきたいー近づきすぎたくない」

　「離れたいー離れすぎたくない」

青年期の対人関係

青年期の同一性の達成とヤマアラシ・ジレンマは密接な関係がある。

　→現代青年のヤマアラシ・ジレンマを抽出し、　　 同一性の達成度との関係を調べることを

目的とする！

　ヤマアラシ・ジレンマは現代青年に特徴的か？

本研究の目的

1．同一性地位はDM中間地位に集中する

2．DM中間地位は新モラトリアム心理を保有する

3．ヤマアラシ・ジレンマが現代青年に特有である

ならば、ヤマアラシ・ジレンマを所有している人はDM中間地位に集中する

4．ヤマアラシ・ジレンマを所有している人は新モ

ラトリアム心理も持っている

本研究の予測

・加藤の同一性地位判定尺度（1983）とMEISを併用

加藤の同一性地位判定尺度では、その後の研究と同様に同一性地位の分布がDM中間地位に集中すると予測することができる。（予測1）

2つの尺度を併用することによって、同一性の達成度

を、地位に分けるのと同時により多角的に見ることができる！

本研究で用いた尺度

方法

○実験参加者

　静岡大学男女１２８名（男：１０６名，女：２２名）

○調査時期

　２００１年１０月下旬

○４種類の尺度を構成する質問項目を使用

尺度

（１）藤井（２００１）：ヤマアラシ・ジレンマ項目

　 ①「近づきたい－近づきたくない」

②「離れたい－離れたくない」

（２）加藤（１９８３）：同一性地位判定尺度

（３）浅田（２０００）：新モラトリアム項目

（４）谷（２００１）：多次元自我同一性尺度（ＭＥＩＳ）

（１）ヤマアラシジレンマ項目

• ３８項目，５段階評定　　①「近づきたい－近づきたくない」ジレンマ　　 ②「離れたい－離れたくない」ジレンマ

　　→欲求の有無（各１項目）

• ①，②に相反する項目　　①「近づきたくない」（１９項目）　　②「離れすぎたくない」（１７項目）

☆得点が高いほど，ヤマアラシジレンマを感じている。

（２）同一性地位判定尺度

• １２項目，６段階評定

　　＜３変数の下位項目＞

• 現在の自己投入

• 過去の危機

• 将来の自己投入の希求

☆得点が高いほど同一性が達成されている。

（３）新モラトリアム項目

• １０項目，５段階評定

• ５つの新モラトリアム心理（鑪ほか，１９８４）

　　全能感

　　無意欲，しらけ

　　自我分裂

　　遊び感覚

　　解放，局外者

☆得点が高いほど新モラトリアム心理を持っている。

（４）多次元自我同一性尺度（ＭＥＩＳ）

• ２０項目，５段階評定

• ４つの下位概念　　自己斉一性・連続性　　対自的同一性　　対他的同一性　　心理社会的同一性

☆得点が高いほど同一性達成度が高い。　　

各同一性の分布（結果）

本研究（２００２）

浅田（２０００）

加藤（１９８３）

ともに，DM中間地位が過半数。

卒論P１７参照。

結果（１）

○ヤマアラシジレンマ

※近づきたい群／離れたい群に分ける。

　　得点との相関はどちらの群も・・・

• 新モラトリアム項目 　 ：　　not　有意

• MEISの得点との差異 ： 　not 有意

　→次に，各項目の間の相関を調べる。

結果（２）

＜近づきたい群＞

• 新モラトリアム項目‐ＭＥＩＳ項目

　　　　　　　　　　自己斉一性・連続性

　　　　　　　　　　対他的連続性

　　　　　　　　　　心理社会同一性

＜離れたい群＞

　　　　　　　　　　　　　＋

　　　　　　　　　　対自的同一性

有意な負の相関

結果（３）

○新モラトリアム高得点

　同一性拡散（８５．７％）

　ＤＭ中間　　（５５．６％）

○ＭＥＩＳ高得点

　同一性達成（８７．５％）

　権威受容　 （８０．０％）

　ＡＦ中間 （７８．６％）

※50％以下は省略。

結果（４）

　X二乗検定の

　結果・・・

　DM中間地位のみ

　ヤマアラシジレンマを

　感じる人⇔感じない人　　　　　有意な差　

考察①

• 同一性に関する尺度間の関係– 被験者の過半数がＤＭ中間地位

– ＤＭ中間地位には新モラトリアム心理が関係している

• ヤマアラシ・ジレンマと同一性尺度との関係– ヤマアラシ・ジレンマは現代青年を特徴付けていない

– ヤマアラシ・ジレンマと新モラトリアム心理，同一性達成度はあまり関係がない

考察②

• 現代青年におけるヤマアラシ・ジレンマ

結果：ヤマアラシ・ジレンマを感じていない

対人関係での深入りをさけているのでは

深刻な葛藤が生じる場面で

葛藤を感じないとは考えにくい

考察③

• 「近づきたい」と感じていること– 「親密性」の表れではない⇒相手を傷つけても構わない

• 「離れたい」と感じていること– 表面的な人間関係しか形成できていない

1.緊密な人間関係を形成していない。相手を傷つけてしまうことを予測することや，孤立不安を感じることができない

2.対人関係の問題を上手く回避している

まとめ

現代青年の大半はヤマアラシ・ジレンマを感じていない

自己の秘密化・孤立化