看護職のワーク・ライフ・バランス風土に関する研究スタッフ間のコミュニケーションはよくとれている...
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1.問題と目的ワーク・ライフ・バランス(以下WLB)とは「仕事と生活の調和」ともいわれ、「『仕事』と『生活(家事・育児などの家庭生活および地域活動、個人の自己啓発などを含む)』における様々な活動を自分の希望するバランスで実現できる状態」である(内閣府、2007)。…一般的に、看護職は交代制勤務を伴うなどの要因によりWLBが取りにくいとされてきた。そして人材不足の折、看護師の確保定着や専門性(生産性)の向上に寄与するものとしてWLBの実現を積極的に支援する必要性が唱えられてきた。最近では短時間勤務制度や交代制勤務時間帯の工夫など、多様な勤務制度・体制を導入することによりWLBを支援する病院施設等も増えており、離職率の安定・低下に一定の効果があることが報告されている(日本看護協会、2008)。一方、看護職に限らないが就業女性が第一子出産後に退職する率は 41%であり、その割合は 20 年前から減らずむしろ増え続けている(内閣府、2008)。これには仕事と生活、とりわけ育児や介護などのライフイベントとの両立が依然難しい現実がある。育児(介護)休業等の法制度が整備されてもこのような状況にある一因として、制度があっても利用しにくい「組織風土」の問題が考えられる。
制度を利用しにくいのは「職場へ迷惑がかかる」ことを懸念することが大きな理由として挙げられる。細見・関口(2009)は制度の実質的な運用には、非受益者の負担感および不公平感が関連していること、そしてこれを解決するためにはWLBを推進する組織風土を醸成することが重要であると指摘している。さらに松田(1996)は制度の存在そのものでなく、制度を「運用」できることが両立における葛藤を低減することを明らかにしている。 本研究では看護職が「所属する職場(病棟)におけるWLB推進的な組織風土の認知」をWLB風土とする。そして、WLB風土の醸成が看護職のWLB推進の重要な要因になるだけでなく、職場でのストレスを予防・低減しひいては定着の向上にも寄与するものと考える。すなわち、WLB風土の要因を明らかにし、看護職の職業性ストレスとしてのバーンアウトとの関連を検討することを第1の目的とする。さらに、WLB風土および職場ストレスは‘ワーク(職場)’の要因であるが、‘ライフ’すなわち個人の要因も考慮する必要がある。‘ライフ’の要因は先述のとおり家事、育児、地域活動等様々であるが、このうち本研究では育児状況を取り上げる。仕事と育児の両立支援はWLBのそのものではなくあくまで一部であるが重要な柱であることには変わりない。育児期の看護職
看護職のワーク ・ ライフ ・ バランス風土に関する研究-個人変数との関連-
荻野佳代子
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に対する支援をどのように行うか、WLB風土とバーンアウトとの関連から検討をし、その示唆を得ることを第2の目的とする。
2.方法調査対象者中部地方の1総合病院に勤務する看護師、417 名(有効回答 397 通)。調査用紙は各職場(病棟)にて配布し、プライバシーに配慮した上で留め置き法で回収された。対象者の平均年齢は34.0(SD= 9.8)歳、平均経験年数は 11.3(SD= 9.2)年。男性16名(4.0%)、女性380名(95.7%)だった。調査時期は2010年2月から3月であった。調査内容(1)WLB風土項目:予備調査で自由記述を収集し、それをもとに作成した項目合計 36 項目。職場(病棟)について「全くそう思わない」から「強くそう思う」の5件法により評定するもの。(2)バーンアウト:日本版MBI-GS(北岡(東口)・…荻野・増田、2004)=疲弊感 5 項目、シニシズム 5項目、職務効力感(の低下)6項目の合計 16 項目を 7件法により評定するもの。(3)職場環境:JCQ日本語版(Job…Content… Questionnaire…:…Kawakami,…et.al,… 1995)、仕事の要求度(demand)5項目、仕事のコントロール 9 項目を 4 件法により評定するもの。…(4)家事負担:家事(育児・介護を含む)の多さについて4件法により評定するもの。(5)個人属性=年齢、子どもの有無、末子の年齢等をたずねた。
3.結果看護職 WLB 風土項目の因子分析看護職のWLB風土を測定するために作成した 36 項目について因子分析(主因子法、斜交プロマックス回転)を行った。この結果固有値の減衰状況から4因子が抽出された。そして因子負荷量が .40 未満の 14 項目を除外して 22 項目で再度分析を行い、さらに因子負荷量 .40 未満の 5項目のうち 4項目を除いた 18 項目で再度分析を行った(1項目は因子を構成する項目数が少なくなるために残した)。最終的な結果をTable 1に示した。第1因子は「上司は職場の問題を積極的に解決しようとしている」、「上司はスタッフの相談によくのっている」等の 7項目から構成され、『上司の支援』とした。第2因子は「スタッフ同士、お互い協力し合う雰囲気がある」などの4項目から構成され『スタッフのチームワーク』とした。第3因子は「職場には、勤務時間(残業等)の長い人が評価される傾向がある」などの3項目から成り『‘ワーク’最優先』と命名した。第4因子は「スタッフ同士で勤務日(時間)を交代しやすい」などの 3項目から構成され『‘ライフ’の尊重』とした。信頼性係数は第1因子からα= .90,… .76,… .54,… .56…であり、第3、4因子がやや低いものの一定の内的整合性が確認された。看護職 WLB 風土とバーンアウトとの関連WLB 風土の4下位尺度と職場環境、バーンアウトの各変数間の相関係数を算出しTable2 に示した。この結果、「上司の支
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援」では主に仕事のコントロールと r= .39、シニシズムと r= -.35 の中程度の相関がみられた。「スタッフのチームワーク」は主に仕事のコントロールと r= .25、シニシズムと r = -.29 の相関がみられ、「‘ワーク’最優先」では逆に仕事のコントロールと r= -.21 の負の相関、疲弊感と r= .23 やシニシズムと r= .22 の正の相関
がみられている。また「‘ライフ’の尊重」は仕事の要求度と r= -.28 およびシニシズムと r= -.31 と負の相関がみられた。以上より「‘ワーク’最優先」はストレッサーおよびバーンアウトに正に、それ以外の3因子は負の関連をしていること、「上司の支援」が比較的職場環境やバーンアウトの各変数との関連が強いことが示された。
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ h2
因子Ⅰ:上司の支援
上司は職場の問題を積極的に解決しようとしている .89 -.03 .05 -.01 .73
96.40.-20.40.-88.るいてっのくよに談相のフッタスは司上
上司はスタッフの仕事の成果を正しく評価している .80 .00 -.06 -.07 .61
上司はスタッフの個人的な事情によく配慮している .78 -.12 -.05 .16 .66
上司はスタッフの仕事についてよく指導・助言している .76 .10 .02 -.07 .62
25.70.10.41.-67.るいてし整調くまうを暇休のフッタスは司上
職場は自分が望むキャリアアップへの支援をしてくれる .54 -.01 -.11 .01 .34
この職場は看護職として成長することができる場だと思う .51 .22 -.05 -.02 .45
因子Ⅱ:スタッフのチームワーク
46.20.-60.-18.40.-るあが気囲雰うあし力協士同フッタス
26.70.-50.67.11.るいてれとくよはンョシーケニュミコの間フッタス
46.50.90.66.02.う思とるあがりまとまてしとムーチは場職
育児(介護)の経験は職場に良い影響をもたらすだろう -.22 .45 -.06 .10 .17
因子Ⅲ:‘ワーク’最優先
職場には,勤務時間の長い人が評価される傾向がある -.07 .06 .64 .08 .42
職場には家族・自分の生活より仕事を優先すべきという雰囲気がある .01 -.18 .55 -.08 .39
71.10.-93.10.60.-うろだくびひに給昇進昇とるとを暇休児育
因子Ⅳ:‘ライフ’の尊重
スタッフ同士で勤務日(勤務時間)を交代しやすい -.06 .02 -.03 .69 .44
職場はWLBのための制度(短時間勤務等)が利用しやすい環境だと思う
.24 .00 .08 .40 .31
職場では趣味や仕事外の活動(組合・PTA・町内会等)を積極的に行っている人が多い
.12 .18 .01 .35 .28
2乗和 6.60 1.61 1.48 1.13 10.81
寄与率(%) 36.65 8.94 8.22 6.27 60.07
因子間相関 Ⅱ .60
Ⅲ -.26 -.25
Ⅳ .47 .33 .00
Table 1 ワーク・ライフ・バランス風土尺度因子分析結果
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育児状況別 WLB 風土、バーンアウト、家事負担各変数平均値比較育児状況との関連を調べるうえで、末子の年齢が 6歳以下の群、7歳以上の群、子どもがいない群の 3群に分けて比較を行った。これは、同じ育児期であっても就学前の育児がいる群がより負担が大きく、WLBに及ぼす影響も大きいと考えられるためである。WLB風土4下位尺度、バーンアウト3下位尺度について3群別に平均値を算出し一要因の分散分析を行った。この結果、WLB風土尺度で有意差がみられたのは「ライフの尊重」でTUKEY法による多重比較の結果、末子が 7歳以上の群が他の2群より得点が高いことが示された(F(2,385)= 7.2、p<.01)。またバーンアウトでは、子どものいない群が他の2群よりシニシズムが高く職務効力感が低いことが示され、疲弊感は多重比較の結果は有意傾向であった。(疲弊感:F(2,396)= 3.6、p<.05、シニシズム:F(2,396)= 7.3、p<.01、 職 務効力感:F(2,396) =13.2、p<.01)。さらに、家事負担は、末子
が 6歳以下の群が他の2群より高いことが示された。(F(2,396)= 98.4、p<.01)なお、この 3群の平均年齢を比較したところ、子どものいない群(M = 29.1、…SD = 6.2)、末子が 6 歳以下の群(M=33.8、SD= 4.2)、末子が 7歳以上の群(M= 48.8、SD= 6.5)の順に高いことが示された。(F(2,393)= 321.8、p<.01)
育児状況別 WLB 風土と職場環境がバーンアウトに与える影響育児状況がWLB風土・職場環境の認知およびバーンアウトに与える影響を検討するために、目的変数をバーンアウト3下位尺度とする階層的重回帰分析を行った。説明変数にはまず統制変数として性別・年齢を投入し、WLB風土4下位尺度、職場環境2下位尺度を順次投入した。この結果、子どものいない群においては、バーンアウト3下位尺度いずれにおいてもWLB風土および職場環境の重決定係数の増分が有意であり、疲弊感には「‘ワーク’最優先」と仕事の要求度が正の影響をしていた。シニシズムには「上司の支援」と「‘ライフ’の尊重」および仕事のコン
職場 環境 仕 事の要 求度 - .16 * * -.11 * .14 ** - .2 8 ** 仕 事のコン トロール .39 * * .25 ** -.21 ** .2 3 **バーンアウト 疲 弊感 - .23 * * -.21 ** .23 ** - .2 0 ** シ ニシズ ム - .35 * * -.29 ** .22 ** - .3 1 ** 職 務効 力感 .20 * * .21 ** -.03 .1 1 *
*p <.05, * *p<.01
上司支援 ス タ ッ フ のチームワーク
ワ ー ク最優先
ライフの尊 重
W LB風土
Table 2 WLB 風土と職場環境、バーンアウトとの相関係数
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トロールが負、仕事の要求度が正の影響をしていた。職務効力感においては、仕事のコントロールが負の影響をしていた
(Table 3)。次に末子が 6歳以下の子どもがいる群においてはWLB風土の重決定係数の増分は有意であったが、職場環境の影響は疲弊感に対してのみであり、シニシズムには有意傾向であった。疲弊感においては「スタッフのチームワーク」が負、仕事の要求度が正の影響を与えていた。シニシズムにおいては「‘ワーク’最優先」と仕事の要求度が正の影響をしていた。職務効力感には「スタッフのチームワーク」の正の影響および「‘ワーク’最優先」と仕事の
コントロールの負の影響がみられた(Table 4)。一方、末子が 7歳以上の子どもがいる群においては、WLB風土の重決定係数の増分が有意だったのは職務効力感であり、シニシズムにおいては有意傾向であった。また職場環境の重決定係数の増分は疲弊感が有意であり、職務効力感には有意傾向であった。疲弊感においては仕事の要求度が正の影響を与え、職務効力感には「‘ワーク’最優先」が負の影響および「スタッフのチームワーク」の影響力が有意傾向であり、仕事のコントロールが負の影響を与えていた(Table 5)。
Table 3 WLB 風土と職場環境がバーンアウトに与える効果: 階層的重回帰分析結果(子どものいない群 N = 245)
説明変数性別 -.06 -.05 -.02
01.-*31.50.齢年
R2 .01 .00 .01
WLB風土 上司の支援 -.14 † -.19 * -.09 スタッフのチームワーク -.07 -.04 -.06 ‘ワーク’最優先 .14 * .10 .02 ‘ライフ’の尊重 .02 -.13 † .05
R2 .11 .21 .05
⊿R2 .10 ** .21 ** .04 *
職場環境 仕事の要求度 .26 ** .16 ** .02 仕事のコントロール -.02 -.24 ** -.17 *
R2 .17 .28 .08
⊿R2 .06 ** .06 ** .02 *
目的変数:バーンアウト
疲弊感 シニシズム 職務
効力感
†p<.10, *p<.05, **p<.01
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説明変数*12.90.-†61.別性
81.-90.11.齢年
R2 .07 † .00 .07 †
WLB風土 上司の支援 .28 .18 .07 スタッフのチームワーク -.35 * -.19 .42 ** ‘ワーク’最優先 .20 .23 * -.25 ** ‘ライフ’の尊重 -.18 -.20 .17
R2 .27 .24 .24
⊿R2 .20 ** .23 ** .31 **
職場環境 仕事の要求度 .35 ** .27 * .14 仕事のコントロール .08 -.17 -.25 †
R2 .39 .30 .36
⊿R2 .11 ** .06 † .04
†p<.10, *p<.05, **p<.01
目的変数:バーンアウト
疲弊感 シニシズム 職務
効力感
Table 4 WLB 風土と職場環境がバーンアウトに与える効果: 階層的重回帰分析結果(6 歳以下の子有群 N = 71)
説明変数00.00.00.別性70.-50.90.齢年
R2 .00 .00 .00
WLB風土 上司の支援 -.10 -.04 .20 スタッフのチームワーク -.02 -.03 .22 † ‘ワーク’最優先 .06 .19 -.36 * ‘ライフ’の尊重 -.09 -.17 .04
R2 .08 .12 .15
⊿R2 .08 .12 † .15 *
職場環境 仕事の要求度 .42 ** .06 .01 仕事のコントロール .05 -.04 -.30 *
R2 .25 .13 .22
⊿R2 .16 ** .00 .07 †
†p<.10, *p<.05, **p<.01
目的変数:バーンアウト
疲弊感 シニシズム 職務
効力感
Table 5 WLB 風土と職場環境がバーンアウトに与える効果: 階層的重回帰分析結果(7 歳以上の子有群 N = 81)
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4.考察WLB 風土の構成概念と職場環境、バーンアウトとの関連について本研究では、看護職のWLB風土について「上司の支援」、「スタッフのチームワーク」、「‘ワーク’最優先」、「‘ライフ’の尊重」の4因子から構成される尺度が得られた。第1因子「上司の支援」に含まれる「職場は自分が望むキャリアアップへの支援をしてくれる」などの項目は当初の予備調査では、「キャリア支援」として別因子になることを想定していたが、今回は1つの因子として得られた。さらに第1因子の項目のみを因子分析しても1つの因子として得られており一次元性が高いものと思われる。すなわちWLB実現のための「上司の支援」とは休暇の調整など働きやすさへの支援だけでなく、積極的にキャリアアップを支援することが含まれたものと考えられる。 また、WLBの実現には「業務の効率化」が重要といわれており本研究でも当初は関連する項目が含まれていたが、因子分析の過程で採用されなかった。本研究ではそれよりも例えば第2因子で得られた「スタッフのチームワーク」などがWLBの構成要素として認識されていることが示された。例えばWLBに関する制度を利用する際なども職場の理解やスタッフ間のコミュニケーションがとれていることが重要であることが推測される。一方第3因子「‘ワーク’最優先」と第4因子「‘ライフ’の尊重」は信頼性係数がα= .54,… .56 とやや低かった。これらの概念もWLB風土を構成する要素として内容的妥当性はあると考えられるが、信頼性について今後さらに検討をし
ていく必要がある。 バーンアウトおよび職場環境変数との関連において、WLB風土4下位尺度はそれぞれ関連を示した。なかでも「‘ワーク’最優先」のみがバーンアウトに促進的に関連し、その他の3下位尺度はバーンアウトに抑制的に関連していた。このうち、比較的関連が強かったのが「上司の支援」であり、とりわけ仕事のコントロールを促進し、シニシズムを抑制することによりバーンアウト予防・介入に果たす役割が大きいものと推測される。さらに「スタッフのチームワーク」も「上司の支援」とほぼ同様の働きを示している。また「‘ライフ’の尊重」はより仕事の要求度とシニシズムを抑制する働きが強いこと示唆された。一方「‘ワーク’最優先」は仕事のコントロールを抑制し、疲弊感やシニシズムを促進することが示された。 このことより、WLBに配慮した職場であることが、とりわけ「上司の支援」が、バーンアウトを予防・軽減するうえで効果的であると考えられる。
WLB 風土とバーンアウトの関連における育児状況の影響について育児状況との関連では、WLB風土で差がみられたのは「‘ライフ’の尊重」であった。7歳以上の子どもがいる群でこの得点が高いことが示されたが、松田(1996)の指摘どおり育児をしながらその子どもが成長するまで勤続するには、スタッフ同士で勤務時間を交代しやすかったり、短時間勤務等のWLBのための制度がとれることが重要と考えられる。ただ一方で、6歳以下
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の子どもがいる群の得点は高くはない。この群は、家事負担が他の群より高いという結果からみても、職場の支援を感じられるような風土がより求められているといえる。さらにバーンアウトは、子どものいない群が比較的高いという結果となった。今回この群の年齢が最も低いことが示されており、従来よりバーンアウトは年齢が上がるほどその程度は低いことが指摘されている…(Maslach……et…al.…2001)…ことを勘案すると、個人要因としては育児状況や育児負担そのものよりも年齢の方がバーンアウトに大きく影響していることが考えられる。このことはバーンアウトがうつなどの指標と異なり職業性ストレスとして職場要因とより密接に関連した概念であるために、‘ライフ’の要因よりも、年齢に伴い仕事の経験年数が‘ワーク’の要因として強く影響していることが考えられる。またWLBは、それまでの「ファミリーフレンドリー」概念と異なり企業等の育児・介護中の従業員を中心とした支援にとどまらずすべての人を対象とすることを強調した概念である。今回の結果は、‘ライフ’への支援は例えば就職を機に実家を離れ、家事と仕事ともに慣れない若年層にも育児負担の多い層と同様‘ライフ’への配慮・支援が求められているかもしれない。この点については今後さらに検討することが課題である。育児状況群別にWLB風土と職場環境がバーンアウトに与える影響をみてみると、各群においてそれぞれ異なる影響をしていることが明らかとなった。まず、子どもの
いない群すなわち年齢や勤続年数の低い群においては、「上司の支援」が疲弊感とシニシズムに影響している点が他群と異なる特徴である。これまでバーンアウトは「疲弊感」から「シニシズム」、「職務効力感」へと進行するプロセスであると考えられているが、これに基づくと、「‘ワーク’最優先」で「上司の支援」が少ない風土のところに仕事の要求度が高まると疲弊感が高まり、引き続き「上司の支援」が少ない風土に仕事の要求度、さらに仕事のコントロールのなさが加わるとシニシズムを高める。そしてコントロールのなさは引き続きバーンアウトを進行させ職務効力感を低めると考えられる。一方 6歳以下の子どもがいる群においては、総じてWLB風土のバーンアウトに対する影響力が大きいことが特徴である。とくに「スタッフのチームワーク」が強く影響し、「‘ワーク’最優先」および仕事の要求度とともにバーンアウトのプロセスに影響していることが示されている。やはりこの群は家事負担も多くまた、短時間勤務制度などの育児支援策を利用する対象者でもある。よってこの群のバーンアウトを防ぐにはWLB風土、とりわけ身近なスタッフが互いに協力的な関係をとり、育児支援制度なども利用しやすい環境であることが重要といえる。そして 7歳以上の子どもがいる群においては、WLBの影響力は他の2群に比べて小さいが、「‘ワーク’最優先」が「スタッフのチームワーク」とともに職務効力感に比較的強い影響を与えていた。さらに職場環境、とくに仕事の要求度が疲弊感に、仕
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事のコントロールが職務効力感に与える影響は他の群と比較して大きいことが特徴であり、比較的年齢・経験年数の多いこの層にはより良い職場環境が求められていると考えられる。以上より本研究では、看護職の職業性ストレスであるバーンアウトには、従来指摘されてきた職場環境要因に加えてWLBに配慮した職場であることがその予防や軽減に効果的であること、さらにWLB風土がバーンアウトに与える影響は育児状況により異なっており、個人の状況に応じてより有効な介入方法があることが示唆された。ただし今回取り上げた個人変数すなわち育児状況は年齢との関係が強く、結果の解釈には注意が必要である。しかし個人要因を含めることでより具体的で有効な介入方法を検討することが可能となることが示唆されたため、この点について今後、介護負担など様々な‘ライフ’の変数を含めて検討することが課題である。
引用文献
細見正樹・関口倫紀(2009)ワークライフバランスの促進とその効果―非受益者のマネジメントに着目して―、経営行動科学学会第 12 回年次大会発表論文集.
Kawakami,…N.,…Kobayashi,…F.,…Araki,… S.,…Haratani,… T.,… &… Furui,… H.(1995)…Assessment…of… job…stress…dimensions…based…on… the… Job…Demands-Control…model… of… employees… of… telecommu-
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北岡(東口)和代・荻野佳代子・増田真也(2004)……日本版MBI-GS…(Maslach…Burnout … Inventory … – … Genera l…Survey) の妥当性の検討 心理学研究 ,75,415-419.
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松田茂樹(1996)仕事と生活の両立を支える条件…ライフデザインレポート、第一生命経済研究所.
内閣府(2007)…ワーク・ライフ・バランス推進の基本的方向 男女共同参画会議・仕事と生活の調和(ワーク ・ライフ ・バランス)に関する専門調査会報告.
内閣府(2008)男女共同参画白書.日本看護協会(2008)看護職の多様な勤務形態による就業促進事業報告書.
荻野佳代子・稲木康一郎・増田真也・北岡和代(2010)…看護師のワーク・ライフ・バランスとバーンアウトの関連 第 74回日本心理学会発表論文集.
本研究は、科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号 21530668…)の助成を受けている。調査にご協力頂いた看護職の方々に心より御礼申し上げます。本研究の一部は 2010 年経営行動科学学会において発表された。
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The study of work-life balance climate among nurses:Effects of demographic factors on burnout
OGINO Kayoko
Key words: work-life balance climate, burnout, nurses
Abstract
… … …This…study…examined…the…relationship…between…work-life…balance…climate…and…burnout.…397…nurses…completed…questionnaires.…A… factor…analysis… revealed… that…the…concept…of…work-life…balance…climate…had… four…main… factors:… "Supports… from…superiors",… "Teamwork…between… staff",… "‘Work’…as… the…highest…priority",… and…"Respect… for…‘Life’".…Though…all… four… factors… related… to…burnout,…particularly…"Supports…from…superiors"…showed…stronger…relationship…to…burnout.………Furthermore,…the…effects…of…work-life…balance…climate…on…burnout…had…the…most…significant…impact…among…nurses…raising…pre-school…children.