玉取埼北方サンゴ礁の流動特性の把握...海洋科学技術センター試験研究報告...

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海洋科学技術 センター試験研究報告 第37号 JAMSTECR, 37 (March 1998) 玉取埼北方サンゴ礁の流動特性の把握 中村 仁*1 工藤 君 明*1 沖縄県石垣島北東部沿岸に位置する玉取埼北方のサンゴ礁について海水流動調査を 行い,流動特性の解析を行った。調査では,リーフ内に設置した複数の測点における 流向流速の連続計測と船舶による漂流物の追跡測位を行った。本海域はりーフが海岸 線に沿って南北方向に発達しており,観測結果からりーフに沿って南下する流 れが, 吹送流や潮流よりも著しく卓越していることがわかった。'さらにこれらの観測結果に 基づいて,リーフの効果を取り入れた流動モデルを用いて漂流粒子の追跡シミュレー ションを行い流動特性の解析を行った。その結果,リーフ内の水塊は,外洋からりー フを越えてくる位置やその時の潮位によって漂流パターンが異なり,隣り合わせた水 塊でも時間的差が大きくなることがわかった。 また,リーフ内に鋭く切れ込む水路は, リーフ内の流動パ ターンを決定づける重要な役割を果たしていることがわかった。 キーワード:流動特性,サンゴ礁,数値モデル,漂流追跡シミュレーション Analysis of the flow property around the coral reefs in the northern part of Tamatori-zaki HitoshiNAKAMURA*2 Kimiaki KUDO*2 Flow observations around coral reefs were carried out in the northern part of Tamatori-zaki located along the north-east coast of Ishigaki island, Okinawa. And the flow property in this region was analyzed by a numerical model. We measured the currents on the moat and reef crest continuously. During the same term, the trajectories of floating buoys was run after by the ship and their positions measured. The coral reefs in this region progressed along the north and south coast line.Results of these observations are that the flow down to south along reef crest is stronger than wind driven or tidal flow clearly. Moreover, based on these results,the simulations of floating particles was carried out by a numerial flow model with functions of effect by the flow induced reef crest. Then the flow property was analyzed by these simulations. Results of analysis indicate that water masses inside the reef crest are different from near other water masses with the inflow position as well as with sea level on coming over the reef crest. Further results indicate that the sharp chan- nels in the coral reef play a major role in shaping the flow pattern inside the reef crest. Key Words : Flow property, Coral reef,Numerical model, Floating particlessimulation 33 *1 *2 海域開発・利用研究部 Coastal Research Department

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Page 1: 玉取埼北方サンゴ礁の流動特性の把握...海洋科学技術センター試験研究報告 第37号 JAMSTECR, 37 (March 1998) 玉取埼北方サンゴ礁の流動特性の把握

海洋科学技術センター試験研究報告 第37号 JAMSTECR, 37 (March 1998)

玉取埼北方サンゴ礁の流動特性の把握

中村 仁*1 工藤 君明*1

沖縄県石垣島北東部沿岸に位置する玉取埼北方のサンゴ礁について海水流動調査を

行い,流動特性の解析を行った。調査では,リーフ内に設置した複数の測点における

流向流速の連続計測と船舶による漂流物の追跡測位を行った。本海域はりーフが海岸

線に沿って南北方向に発達しており,観測結果からりーフに沿って南下する流れが,

吹送流や潮流よりも著しく卓越していることがわかった。'さらにこれらの観測結果に

基づいて,リーフの効果を取り入れた流動モデルを用いて漂流粒子の追跡シミュレー

ションを行い流動特性の解析を行った。その結果,リーフ内の水塊は,外洋からりー

フを越えてくる位置やその時の潮位によって漂流パターンが異なり,隣り合わせた水

塊でも時間的差が大きくなることがわかった。また,リーフ内に鋭く切れ込む水路は,

リーフ内の流動パターンを決定づける重要な役割を果たしていることがわかった。

キーワード:流動特性,サンゴ礁,数値モデル,漂流追跡シミュレーション

Analysis of the flow property around the coral reefsin the northern part of Tamatori-zaki

Hitoshi NAKAMURA*2 Kimiaki KUDO*2

Flow observations around coral reefs were carried out in the northern part of Tamatori-zaki

located along the north-east coast of Ishigaki island, Okinawa. And the flow property in

this region was analyzed by a numerical model. We measured the currents on the moat and

reef crest continuously. During the same term, the trajectories of floating buoys was run

after by the ship and their positions measured. The coral reefs in this region progressed

along the north and south coast line. Results of these observations are that the flow down

to south along reef crest is stronger than wind driven or tidal flow clearly. Moreover,

based on these results, the simulations of floating particles was carried out by a numerial

flow model with functions of effect by the flow induced reef crest. Then the flow property

was analyzed by these simulations. Results of analysis indicate that water masses inside

the reef crest are different from near other water masses with the inflow position as well as

with sea level on coming over the reef crest. Further results indicate that the sharp chan-

nels in the coral reef play a major role in shaping the flow pattern inside the reef crest.

Key Words : Flow property, Coral reef, Numerical model, Floating particles simulation

33

* 1

* 2

海域開発・利用研究部

Coastal Research Department

Page 2: 玉取埼北方サンゴ礁の流動特性の把握...海洋科学技術センター試験研究報告 第37号 JAMSTECR, 37 (March 1998) 玉取埼北方サンゴ礁の流動特性の把握

1 はじめに

サンゴ礁海域は,さまざまな海域の中でも最も生物の

多様性のある海域であり,広く沿岸に分布しているため

人間生活とも密接に関係している。地球環境が大きな問

題として取り上げられている現在,サンゴ礁は地球環境

変動指標としてそのモニタリングが重要視されつつある。

環境をモニタリングする上で流動場は非常に重要であり,

サンゴ礁海域では特異な地形とそれに応じた物理環境を

もっているため,外海から寄せる波浪や潮汐に対するサ

ンゴ礁の応答,礁内海域の海水循環と海水交換などは物

理過程として注目されている1)。特にりーフや水路など

の地形的効果による流れが重要となる。また,このよう

な物理的要因は海域固有のものであり,それぞれの海域

においてそれぞれの特性が現れる。本研究は,サンゴ礁

海域の生態系変動の解明をターゲットとしたプロジェク

ト研究における物理環境の把握の一環として,石垣島の

玉取埼周辺サンゴ礁海域の流動特性の解析を実施したも

のである。

手法としては,海水流動調査より得られた結果をもと

に数値モデルを作成し,漂流粒子の軌跡をシミュレーショ

ンすることによって潮流や吹送流に対する特性の解析を

行った。第2章では海域調査とその結果から玉取埼北方

サンゴ礁の流れの傾向を示し,第3章では潮流や吹送流

などの条件を変えた漂流粒子の軌跡シミュレーションよ

り流動特性の解析を試みたO

2 海域調査による流動特性の把握

2.1 調査海域及び方法

調査海域は,沖縄県のほぼ最南西に位置する石垣島の

東岸で,海岸線に沿って約1.5km の幅でサンゴ礁がよく

発達しており,石垣島全体を取り囲むように連なってい

る。玉取埼という岬を挟んで南北にサンゴ礁に切れ込ん

だ大小の水路があり,南側の水路は規模が大きく船舶等

の出入口となっている(図1)。リーフはほぼ海岸線に

平行に発達しており,水深はlm程で大潮のとき以外は

平出することはない。リーフ内の水深は2~4mあり平

坦ではない。

測流には定点の時間変化をみるオイラー的方法と漂流

ブイを追跡するラグランジュ的方法とがある力15),サン

ゴ礁海域の複雑な流動特性を的確に把握するためにこの

両方の方法を用いて計測を行ったoリーフ内及びりーフ

上の海底近くに電磁流速計を設置し,約1週間の連続観

測を行った。またそれと合わせて,音響発信器を付けた

漂流ボトル(ドリフトボール)を2組ずつ漂流させ,船

34

124・1 7 ゛ 124 °181

図1 調査海域及び海水流動調査測点。

雲形の線はりーフェッジ,実線は等深線を示す。

No, M 。SO( 礁地), Mi( 礁嶺):流向流速,

M2( 礁斜面):潮位,有義波高

でGPS測位を行いながら漂流軌跡を追跡した。

オイラー的測流データは,平成8年1月14日から1月

18日の期間に実施した流動調査から得られたりーフ上1

点(MI) ,礁地内3点(NO,MO,SO,) における流向流速で

ある。同時に礁斜面(m2) において水位及び有義波高を

計測し,風向風速データは伊原間観測所から入手した

(図1,図2)。ラグランジュ的測流データとしては1月

15, 16, 17 日の午前から午後にかけてと1月17日の午後

に,2組ずつの漂流ボトル(ドリフトボール) を流し船

で追跡しながらGPS 測位することによって軌跡を得た

(図3)。

2.2 玉取埼北方サンゴ礁の海水流動

2.2.1 定点での流れの特徴(図2)

観測期間中の風況は,5 m/s 前後の南東風と北東風が

1~2日ごとに交互に吹いており比較的強めの風が続い

ていた。また,潮汐は小潮から中潮に向かっており平均

潮位は0.5m 程度であった。

礁地の流れは,3ケ所で計測したが場所によって流動

パターンがそれぞれ異なっていた。ところが,どの地点

においても風向きや潮位の変動には流れのパターンが全

JAMSTECR, 37 (1998)

Pig. 1 Reserch region and measurement points for

the research of flow.

A cloud shape and solid line indcate reef edge

and isobath, respectively.

Current directory and speed are measured at

the points of No, Mo, So (moat) and Mi (reef

crest). Sea level and significant wave height are

measured at the point of Ms (reef slope)

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く影響されていないことが共通している。特にMoにお

ける強い南下流 (15~20cm/s) が顕著で,流れとほぼ逆

の北西風の連吹時の場合でも流れと同 じ南風の連吹時の

場合でも風向 ・風速ともにほぼ一様で変化はなかった。

礁嶺(リ ーフ)の流れは 干潮時に強い流れ(約40cm

/s)が現れるが,方向はほぼ一様で南西方向に卓越して

いた。この方向は リーフエッジの方向と一致する。ま

た,礁地の流れと同様に風況の影響をほとんど受けてい

なかった。

リーフでの流れの特徴は,一般的に潮の干満にかかわ

らずリーフを越えて流入する流れが卓越するが, この海

域ではリーフを越えて礁地に流入してきた流れは川のよ

うにリーフ内を南下し流れ続け, この一連の流れは潮流

や吹送流よりも卓越することがわかったのヘ

調

。、um

mpv

調

羽問 ef口est

(Ml)

3O

;:「し十:::[に;::::;::;

1/2O 1/18

一"一

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明剛

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-

-

-

-

-

VE

n

-

-

1/14 1ノ16 1/18 1ペヨB

図 2 礁嶺.礁地における流れのスティックダイアグラム。

比較のために最上段に風況 最後の 2段に礁斜面での ・

水位と有義波高の時系列を並べた

Fig. 2 Stick diagrams of the currents at the reef

crest and moat.

The top figure indicates wind vector and two

figures from bottom indicate time series of

sea level and significant wave height

JAMSTECR, 37 (1998)

2.2.2 リーフ内の漂流軌跡 (図 3)

リーフ内では 2個組の漂流ボトルを投入場所を替えて

4回漂流軌跡、を追跡した。いずれの場合も漂流時の風況,

潮の状態は異なっていたが,どの軌跡、も基本的には一線

に南下する方向へ漂流する傾向が顕著にみられた。特に

1月15日の軌跡では,北方のリーフのl隔が狭く なった位

置から漂流を開始したが,流れとは逆向きの南風(3 m

/ s)が連吹する中を風上に向かつて流れ続けた。 また,

l月17日の午後の軌跡では,玉取埼先端から漂流を開始

し,玉取埼南側の水路へ引き込まれるように流れた。 こ

の時の潮汐は上げ潮から満潮に向かつており,通常なら

水路からリ ーフ内に外海水が流入しているはずだが,漂

流ボトルの流れは逆に水路に向かっていることがわかっ

た。

24:29.5

24:29

24:28.5

24:28 124:16.5 124:17.5 124:18 124:18.5 124:17

図3 ドリフトボールによる玉取埼北方サンゴ礁内の漂流軌

跡。黒丸は約20分ごとの位置を示す

Fig. 3 Drifting trajectories by the drift ball buoys in

the northern part of Tamatori-zaki.

Black circles indicate the positions at every

twenty minutes

35

Page 4: 玉取埼北方サンゴ礁の流動特性の把握...海洋科学技術センター試験研究報告 第37号 JAMSTECR, 37 (March 1998) 玉取埼北方サンゴ礁の流動特性の把握

示した。

リーフの流れのモデル化については, 中村・ 工藤

(1996 )2)の線境界で条件を与える方法を使ったc しかし,

玉取埼北方サンゴ礁海域ではリーフを越えてくる流量と

一方,玉取埼北側にある小規模な水路付近では渦巻く

ような複雑な軌跡がみられており(1/17am),小規模で

も流動パターンに及ぼす水路の効果は大きいことが示唆

された。

有義波有義波高の関係はほとんど相関がなく(図 5),

シミュレーションによる流動特性の解析3.

-守口

高はリーフに垂直な風の成分に対しでほぼ一定であった

(図 6)。そこで,今回のリ ーフ条件としては風の大きさ

にかかわらず一定の流量を線境界で与えたー

y = 0.582 x・0.093(r = 0.314)

0.7

0.6

0.4

0.5

0.3

0.2

0.1

(的、何日)窃guMgMOZロω〉。

モデルの概要

玉取埼北方サンゴ礁海域の流動特性を把握するために,

漂流粒子追跡、シミュレーションを行った。流動モデルは

差分法を用いた鉛直2層レベルモデルで, リーフ内はす

べて 1層に含まれるように上層の厚さを5mとした。リー

フ内の海底地形は,いくつかの測線で測深したデータと

航空写真から得られた海底地形の形から.現実に近い起

伏を与えた(図 4)。初期条件の詳細については表 1に

3.1

U門

H同

N

0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0

0.0

Significant wave height (m) Ibaruma

玉取埼北方海域におけるリーフへ流入する流量と外洋

からの波高との関係

Fig. 5 The relation of the fJux over the reef crest

and significant wave height out of the reef

crest on the northern part of Tamatori舗 zaki

s

average : 0.477 S.O. : 0.036

. 1_-_-~ ' ・・'-・22ha•

10

玉取埼北方海域における外洋からの波高と リーフに垂

直な風成分の関係

Fig. 6 The reiation of the significant wave height

out of the reef crest and vertical component of

wind for reef crest on the northern part 01'

Tamatori-zaki

JAMSTECR, 37 (1998)

8

Vertical component of wind for the reef crest (mls)

6 4 2 。

0.8

g

.z 0.6 c.o u

~ 0.4 ~ 注 1

51 :.> -i

害0.2ト29 ; 的「

0.0 -2

図5

Tamatori-zaki

図6

海水流動数値モデルにおける計算海域と水深(単位 :m)。

実線は10mごと,点線は 2mごとの等深線,赤太線は

リーフ条件設定位置を示す

Fig. 4 Calculated area and bottom the numerical flow model.

Solidand Dot lines are indicated isobath

the interval of 10 m and 2 m, respecti vely. Current

condition over the reef crest is set up on the

bold red lines

on

at

topography

図4

36

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表l 流動数値モデルにおける計算の初期条件

Table 1 lnitial values of parameters to calculate .the

flow nurnerial model

Parameler Value

Time step: d. t

Hori zontal mesh sacle: d. lt. d. y

Dras coefticient : Cd

Horizontal eddy viscosily : Kh

Vertical'eddy viscosily : I<z

Corlolis parameter : f = 2 Q sinφ

'Thickness of upper )evel : h 1

Botlom friction coefficient: i b2

2 sec.

150 m

0.0013

10 m',$

0.01 m11s

3.0 X 10・./S

5m

0.0026 (depth孟 5m)

gj(主+h)C'(depth < 5 m) *

12 hours

0.5 m

Tidal conditions p.ぽiod:T

Amplitude : a

* g : gravitalional acceleration ( = 9.8 mls' )

':sωlevel (m). h: dep山(的)

C = I/n本n川(n=0.070 : roughness∞efficie羽t)

-・・@・・011 211 4h 611 8h lOh

図7 玉取埼北方の水路付近における上げ潮時の粒子群漂流

シミュレーション。

(a)水路が浅く短い場合, (b)水路が深く長い場合

Fig. 7 Simulations of floating particles around

Tamatori~zaki at the flood with the short and

shallow channel (a) and the long and deep one

(b)

3.2 水路の効果と現況の再現性

玉取埼周辺には,南側に大規模水路,北側に小規模水

路が存在する。大規模水路は,玉取埼北方からリーフ内

を南下してきた水塊の外海への出口となっており,リー

フ内の海水交換に重要な役割を果たしている。一方,小

規模水路も図3でみられたように水路付近の流動パター

ンに影響を与えている。本モデルの海底地形は海図をも

とに作成しており,当初の地形では小規模水路のリーフ

への切れ込みはほとんどなかった。しかし現場の調査

から現実の地形はもっとリーフの奥まで深く切れ込んで

いることがわかった。そこで,現実に合うようにモデル

の小規模水路地形を修正したところ,モデルにも小規模

水路の流動パターンへの影響,具体的には小規模水路か

らの流出が顕著に現れるようになった(図 7)。

次に,このj毎底地形を用いてモデルの流れの再現性を

確認したc まず,平成 8年 1月15臼の 9時から18時, 1

月17日の 9時から18時の漂流軌跡をシミュレーションし

た(凶 8) 0 1月15日は流れに対して逆風が吹いている

場合であり,海岸線pに沿って平行に南下する軌跡及び流

速はよく 一致しているc 1月17日は流れの方向に風が吹

いている場合であり, 玉取t奇を越えて南側の大規模水路

から外海へ抜けていく傾向は再現できているが,小規模

水路周辺の複雑な動きや玉取埼先端をかすめるような軌

跡は再現できなかったa この原因は,モデルの解像度

(水平方向のメッシュの大きさ:本モデルでは, 150m)

が粗いために,細かい動きに対して再現性が悪くなった

と考えられる。

比較のために, 1月15日及び17日と同じ条件で粒子群

の漂流シミュレーションも行った(図 9) 0 1月15日で

弘、、

図8 漂流軌跡シミュレーション。巳印,漂流開始地点,

0印は 1時間ごとの位置を示す。

(a) 1997年1月15日9:00-18:00,南風3m/s.

潮汐:上げ潮~下げ潮.振幅0.5m

(b) 1997年1月17日9:00-18:00,東北東風6m/s.

潮汐:干潮~上げ潮,振幅O.5m

Fig.8 Simulation of drifting buoys. The square and

circle indicated the start point of drifting and

positions of each 1 hour; respectively.

(3) 9 a.m. to 6 p.m. on 15th January 1996.

South wind is blowing by 3 'meter per seconds

contineouslv. Tide is flood to ebb with the

amplitude of 0.5 meters.

(b) 9 a.m. to 6 p.m. on 17th January 1996.

E.¥JE wind is blowing by 6 m.eter per seconds eontIneouslv. Tide is flow tide to flood with

the amplitude of 0.5 meters

JAMSTECR, 37 (1998) 37

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-・・@・9:∞11:00 13:00 15:00 17:∞

図9 漂流粒子群軌跡シミュレーション

(a) 1997年 1月1G日9:00--18:∞,南風3m/s,

潮汐:上げ潮~下げ潮,振幅0.5m

(b) 1997年1月17日9:00--18:00,東北東風6m/s,

潮汐:干潮~上げ潮,振幅O.5m

Fig. 9 Simulation of floating particles.

(a) 9 a.m. :0 6 p.m. on 15th January 1996.

South wind Is blowing by 3 meter per seconds

contineously. Tide is flood to ebb. with the

amplitude of 0.5 meters.

(b) 9 a.m. Lo 6 p.m. on 17th January 1996.

ENE wind is blowing by 6 meter per seconds

contineously. Tide is flow tide to flood with

the amplitude of 0.5 meters

は,どの粒子も海岸線に沿って南下し,玉取埼を越えて

いく傾向がはっきりみられた。 1月17日では, 玉取埼先

端付近まで南下したのち.そのまま南下して南側の大規

模水路からリーフ外へ流出する群と逆に北上して北側の

小規模水路からリ}フ外へ流出する群に分かれた。これ

は,北側水路付近の複雑な流れを再現している結果とい

える。

3.3 流動特性の解析

観測ではある特定の条件の下の漂流データしか得られ

なかったため.これらから流動特性を把握するのは不十

分であるc そこで,潮汐と風況について条件を変えて漂

流軌跡シミ ュレーションを行った。

3.3.1 潮汐に対する流動パターンの応答

まずはじめに潮汐(潮流)による流れのパターンへの

影響を調べるために.粒子群の投入時刻を上げ潮,満潮,

下げ潮,干潮の 4つの場合について漂流軌跡シミュレー

ションを行った(図10)0伊原間沖のリ}ヲ内から 9個

38

の粒子群を投入したが,いずれの場合も海岸線に沿って

南下し, 12時間後には玉取埼南側の水路からリーフ外で

出ていく傾向がみられた。この結果より,南側水路では

上げ潮の時でも絶えずリーフ外へ流出する流れが卓越す

ることがわかった。次にリ ーフを越えてきた水塊がリー

フ内をどのように移動していくかを調べるために,リ ー

フエッジ、に括ってリーフ内側に粒子投入位置を並べて漂

流軌跡をシミュレーションした(図11)。前の粒子群の

シミュレーショ ンと同様に海岸線に沿って南下し,南側

水路から出ていく傾向がみられたo 特に投入点が流れの

上流側にあるときほど岸近くまで、寄ってくる傾向がみら

れた。また玉取埼北側の水路近くからの投入では,上げ

潮と満潮のときに限って南側の水路には抜けず,再び北

側水路に戻ってきてそこから外海へ出ていくことがわかっ

た。

3.3.2 風況に対する流動パターンの応答

風況に対する応答については 卓越流である海岸線

(またはリーフエッジ)に沿って南下する流れに対して.

それと平行な風と垂直な風及びそれらと逆向きの風が一

様に吹いた場合についてシミュレーションを行った(図

12)。基本的には,どちらから風が吹いても卓越流のパ

ターンは変わらず,投入点による漂流パターンの違いは

無風時と同様であった。リーフ内の水塊は,風況によっ

てほとんど影響を受けず南下して南側水路からリ ーフ外

へ出ていくことが確認された。

次に,リーフ外側の水塊がど、のようにリ ーフ内に入っ

てくるかを諦べるために投入点をリーフの外側にずらし

て同様の 4つのパターンでシ ミュレーションを行った

(図13)。リ ーフ外から入ってくる水塊の流動パターンは,

風向の変化によって違いが現れた。特徴的なものは投入

位置による違いで,流れに平行に追い風が吹いた場合

(図13(a)),北側水路に近い水塊は水路を通ってリ ーフ内

には入らず.水路を通過してからリーフ内に入っていく

傾向がみられた。また流れに平行に向かい風が吹いた場

合(図13(b))では,北側に弧を描くようにリーフ内に入

るためにタイムラグが生じ リーフ内でほぼ隣り合わせ

の水塊でも異質の場合があることがわかったo

JAMSTECR. 37 (1998)

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• • • Oh 3h ぬ@ ・9h 12h

~10 投入時刻の違いによる粒子群漂流シ、ミユ レーションの

比較(無風時)

(a)下げ潮, (b)上げ潮, (c)満潮, (d)干潮

comparison of simulation flow Fig.l0 The

at

patterns

tide(d) ebb(a), flood(b), high tide(c), and low

JAMSTECR, 37 (1998)

図11 投入時刻の違いによる粒子群漂流シミュレーションの

比較(無風時)

O印は, 1時間ごとの位置を示す

(a)下げ潮,(b)上げ潮, (c)満潮, (d)干潮

Fig.ll The comparison of simulation flow pa.tterns at ebb(a), flood(b), high tide{c), and low tide(d).

The circles indecate the position at each one

hour

39

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........ 圃 圃咽・b

図12 風向の違いによるリーフ内側からの漂流軌跡シミュレー

ション。口印は各粒子の漂流開始地点を示す

(a)リーフに垂直に入る風,(b)リーフに垂直に出る風,

(c)リーフに平行に南下する風, (d)リーフ に平行に北上

する風

Fig.12 Simulations of particles trajectories at the

inner reef induced by different wind directions

across the reef crest into the reef (a), outside

the reef (b), along the reef crest to down south

(c), and to up north (d).

Squate marks indicate the positions to start

floating

40

4噌圃

圃~

図13 風向の違いによるリ ーフ外側からの漂流軌跡シ ミュレー

ション。口印は各粒子の漂流開始地点を示す

(a)リーフに垂直に入る風, (b)リーフに垂直に出る風,

(c)リーフに平行に南下する風,(d)リーフに平行に北上

する風

Fig.13 Simulations of particles trajectories at the

outer reef induced by different wind directions

across the reef crest into the reef (a), outside

the reef (b), along the reef crest to down south

(C), and to up north ~d).

Square marks indicate the positions to start

floating

JAMSTECR, 3i (1998)

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4 まとめ

玉取埼北方サン ゴ礁の流動特性を把握するために海水

流動調査を実施 し,得られたデータを基に流動数値モデ

ルを用いて漂流シミュレーシ ョンを行い流動解析を試み

た。海水流動調査から は リーフに沿って南下する リー

フ内の流れが吹送流や潮流より も卓越することが観測さ

れた。リー フをモデル化した流動モデルを用い,観測し

た流動場の特徴をほぼ再現することができ た。このモデ

ルを使っ て漂流軌跡、シミュレーションを行い,本海域に

おいて以下のような流動特性を得た。

(1) 基本的には,絶えずリーフから流入してくる流れ

は海岸線に沿って南下し 玉取埼南側の水路からリ ー

フ外へ流出する。

(2) この南下流は 吹送流や潮流よりも卓越する。

(3) 流入位置が北側(上流側)になるほど,水塊はリー

フ内に深く入り込む。

(4) 北側の小規模水路は リーフ内の流れを複雑にす

る要因となる。

(5) リーフ外から来る水塊は,流入する位置や風況に

よってリーフ内で異なる水塊と隣り 合わせになるこ

とがある。

5 おわりに

サンゴ礁海域の中の一例と して玉取埼北方サンゴ礁を

取 り上げたが,流動特性を把握することはその海域の物

質循環や生態系変動を解明するには必要不可欠である。

観測する範囲や期間には限界があるため, 広域の流動特

性の概要を捉えるには数値シミュ レーションは非常に有

JAMSTECR, 37 (1998)

効な手段である。シミュレーショ ンはすべてを再現でき

るも のではないが,ある特定の目 的に対 しては十分に信

頼性がある。 今回は,リーフ内の流動特性に焦点を絞っ

たので木モデルで十分な成果が得られたが,水路等の効

果をも っと詳しく調べるためには,水平もしくは鉛直方

向の解像度の高いモデルが必要となる。また, 生物生産

や物質循環を考えるなら流動モデルの他に生態系モデル

が必要と なってく る。今後は, 生態系モデルを使った物

質循環を検討していきたいと考えている。

参考文献

1) 宇野木早苗:沿岸の海洋物理学.東海大学出版会,

東京,672pp. (1993)

2) 中村 仁・ 工藤君明:)11平サンゴ模の海水流動に

おけるリ ーフによ る流れのモデル化.海洋科学技術

センター試験研究報告, 33, 55-64. (1996)

3) 中村仁 ・工藤君明:玉取埼 ・伊原間知先サンゴ

礁の流動特性 とそのモデル化.1997年度日本海洋学

会秋季大会講演要旨集.75. (1997)

4) 中村 仁 ・工藤君明:玉取埼北方サンゴ礁の流動

特性.日本サンゴ礁学会設立大会講演要旨集,46.

(1997)

5) 柳 哲雄 :沿岸海洋学一海の中でものはどう動く

か一. 恒星社厚生閤,東京,154pp. (1989)

6) 川合英夫:流れと生物と一水産海洋学特論-.京

都大学学術出版会,京都.41upp. (1991)

(原稿受理:1997年12月26日)

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