生徒指導・学習集団編成 - 新興出版社啓林館...4 2年連続減少 平成3年度以...

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4 2年連続減少 平成3年度以 来初めて減少 7年連続減少 2年連続減少 14.7%減 5.4%減 11.3%減 11.1%減 15.5%減 89,461人(前年度 104,894人) 〔中退率2.3%〕 131,211人(前年度 138,722人) 25,869人(280人に1人) 105,342人(37人に1人) 22,207件(前年度 25,037件) 学校内 29,454件(前年度 33,130件) 学校外 4,311件(前年度 5,101件) 高等学校中途退学者数 不登校児童生徒数 (年間 30日以上欠席) いじめの発生件数 暴力行為の発生件数 平成 14年度の概要(速報値) 問題行動等 生徒の問題行動速報値 生徒指導上の諸問題への対処 管理職のリーダーシップが厳しく問われる対応策 文部科学省初等中等教育局視学官 宮川 八岐 平成6年度から文部省初等中等教 育局小学校課教科調査官 (特別活 動,生徒指導等を主に担当)。平 成 13年度より現職。著書として 『個を生かす集団活動と学級文化 の創造』『小学校特別活動基礎・基 本と学習指導の実際』(東洋館出 版社),『21世紀型特別活動の実践 構想』(明治図書),『新しい生徒 指導への経営戦略』(教育開発研 究所)等多数。 1.生徒指導上の諸問題」の現状 我が国の教育問題の1つに,暴力行為」いじ め問題」不登校問題」といった,いわば「生徒 指導問題」がある。これらについて,文部科学省 は文部省時代から長年にわたって全国悉 しっ かい 調査を 実施し,その結果を公表している。近年,児童生 徒数や学校数が減少傾向にあるにもかかわらず, 生徒指導上の諸問題は増加の一途を辿ってきてい て深刻な状況にある。 平成14年度の現状の調査結果についての速報版 が,本年8月 22日に公表されたが,暴力行為の 発生件数は学校内外とも2年連続減少,いじめの 発生件数も7年連続減少している。しかも,昨年 度調査で,不登校児童生徒だけが前年度より 3.3 %増という実態であったが,今回の調査結果では じめて前年度を下回り,数字的には好ましい方向 性が出てきていると言える。 しかし,児童生徒数・学校数の急激な減少を考 えれば,真に喜べる状況ではない。特に,小学校 におけるいわゆる“学級崩壊”といわれる問題な ども含めて生徒指導上の諸問題は,すべての学校 が取り組まなければならない重要な教育課題であ ることには変わりはない。 2 生徒指導・学習集団編成

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2年連続減少

平成3年度以

来初めて減少

7年連続減少

2年連続減少

14.7%減

5.4%減

11.3%減

11.1%減

15.5%減

89,461人(前年度104,894人)

〔中退率2.3%〕

131,211人(前年度138,722人)

小 25,869人(280人に1人)

中 105,342人(37人に1人)

22,207件(前年度25,037件)

学校内 29,454件(前年度33,130件)

学校外 4,311件(前年度5,101件)

高等学校中途退学者数

不登校児童生徒数

(年間30日以上欠席)

いじめの発生件数

暴力行為の発生件数

備 考平成14年度の概要(速報値)問題行動等

生徒の問題行動速報値

生徒指導上の諸問題への対処管理職のリーダーシップが厳しく問われる対応策

文部科学省初等中等教育局視学官

宮川 八岐平成6年度から文部省初等中等教育局小学校課教科調査官 (特別活動,生徒指導等を主に担当)。平成13年度より現職。著書として『個を生かす集団活動と学級文化の創造』『小学校特別活動基礎・基本と学習指導の実際』(東洋館出版社),『21世紀型特別活動の実践構想』(明治図書),『新しい生徒指導への経営戦略』(教育開発研究所)等多数。

1. 生徒指導上の諸問題」の現状

我が国の教育問題の1つに, 暴力行為」 いじ

め問題」 不登校問題」といった,いわば「生徒

指導問題」がある。これらについて,文部科学省

は文部省時代から長年にわたって全国悉しっ皆かい調査を

実施し,その結果を公表している。近年,児童生

徒数や学校数が減少傾向にあるにもかかわらず,

生徒指導上の諸問題は増加の一途を辿ってきてい

て深刻な状況にある。

平成14年度の現状の調査結果についての速報版

が,本年8月22日に公表されたが,暴力行為の

発生件数は学校内外とも2年連続減少,いじめの

発生件数も7年連続減少している。しかも,昨年

度調査で,不登校児童生徒だけが前年度より3.3

%増という実態であったが,今回の調査結果では

じめて前年度を下回り,数字的には好ましい方向

性が出てきていると言える。

しかし,児童生徒数・学校数の急激な減少を考

えれば,真に喜べる状況ではない。特に,小学校

におけるいわゆる“学級崩壊”といわれる問題な

ども含めて生徒指導上の諸問題は,すべての学校

が取り組まなければならない重要な教育課題であ

ることには変わりはない。

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生徒指導・学習集団編成

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学校内における暴力行為発生件数の推移(『文部科学白書』平成14年度) 平成8年度までは「校内暴力」の状況

についての調査である。平成9年度からは調査方法を改めたため,それ以前との比較はできない。なお,小学校に

ついては,平成9年度から調査を行っている。

2.文部科学省等における

「各種の改善充実施策」

戦後の生徒指導上の諸問題の状況に対して文部

省・文部科学省は,各種の施策をもって対応して

きている。それらを大まかに捉えると,次のよう

にまとめることができる。

⑴ 戦後,少年非行が増加し,登校拒否,性の逸

脱行動など生徒指導上の問題が多様化していくこ

とに対して,文部省は昭和40年に「生徒指導の

手引き」を発行している。これがその後の考え方

や取り組みの基本姿勢とされた。

⑵ 昭和50年代になると,罪や法に触れる行為

をする恐れのある虞ぐ犯はん少年や対教師暴力をはじめ

とする校内暴力が一層増加し,登校拒否に至って

は,昭和59年までの10年間では3倍となって3

万人を超えたように著しく急増する。文部省は,

生徒理解,カウンセリングの考え方・進め方,生

徒指導の推進体制,問題行動をもつ生徒の指導等

に関する指導資料を毎年のように刊行するととも

に,小学校の生徒指導資料も刊行するようになる。

⑶ 昭和60年代から平成時代にかけて,いじめ

事件が多発し,特に小学校において,いわゆる学

級崩壊といった状況が多発し,大きな問題になる。

また,薬物乱用が増加するなど生徒指導問題が複

雑化し,一層深刻化していった。登校拒否は平成

7年度には7万7,000人を超えるまでになる。文

部科学省は,校内暴力,高校中退やいじめ問題の

調査を開始するとともに,市町村教育相談機関の

設置,数年遅れて適応指導教室等設置やスクール

カウンセラーの配置事業が始まる。

⑷ 平成10年代になると,少年非行の凶悪・粗暴

化,中学生等による殺傷事件が多発するとともに,

不登校児童生徒数が13万人を超える事態となる。

さらには,ひきこもり問題や出会い系サイトなど

新たな問題が発生するようになる。文部省・文部

科学省は,児童生徒の問題行動等に関する調査研

究協力者会議を継続的に行い,問題解決への提言

を繰り返し, 児童生徒の問題行動への対応等に

関する点検項目(例)」を作成して各学校に提供

し,学校の自己点検・自己評価の徹底と生徒指導

の充実を求めてきた。

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生徒指導・学習集団編成生徒指導上の諸問題への対処 管理職のリーダーシップが厳しく問われる対応策

3.生徒指導問題の解決のための実践課題

― 各学校の問題行動等への対応と点検」

の状況を踏まえて―

各学校は,国や教育委員会等の各種の改善充実

策を効果的に生かして生徒指導上の諸問題の解決

に取り組み,具体的に成果を示さなければならな

い。そのためには,各学校が生徒指導の取り組み

について,適宜に厳しい自己点検・自己評価が必

要である。

⑴ 「調和のとれた人間」の育成を目指す

教育課程の編成・実施

まずもって,各学校は教育課程の編成・実施に

おける自己点検・自己評価への取り組みである。

学習指導要領総則は,各学校が教育課程を編成す

るねらいとして「人間として調和のとれた育成を

目指すこと」を明示している。そのねらいを実現

するには,教科(知),道徳(心の陶冶),特別活

動(望ましい集団活動を通した社会性の育成)の

3領域の目標,内容等の確かな実践を確実にする

ことにある。そこにおいて〔人間力A〕が育成さ

れる。それが総合的な学習の時間においてグレー

ドアップされ〔人間力A′〕となる。調和のとれ

た実践的な人間が育成されている状況の評価が重

要である。

しかし,3領域をどのように編成するかである。

教科学力に偏る学校は,社会性の育成を目指す領

域であり,望ましい集団活動を特質とする特別活

動への取り組みを弱めてしまう。学級活動や児童

会生徒会活動などは, 自分もよく,みんなもよ

い活動や生活をどうつくるか」の実践は,生徒指

導上の諸問題の解決に直接関わる教育活動である

が,そのことへの取り組みが多くの学校で不十分

な状況であるとの指摘がある。その結果は,生徒

指導上の諸問題を一層深刻にしかねないのである。

今回,問題行動への対応に関わる緊急点検をした

結果,そうした問題に気づきはじめた学校が増え

つつあるという県教育委員会からの報告がある。

各学校は,教育課程の編成・実施について適切

な評価を行い,具体的な改善策に取り組み,着実

な成果を挙げていくことが基本課題である。生徒

指導の充実は,学習指導要領に示される各教科等

の目標・内容・趣旨の実現の過程において可能に

なるのであり,しかも,生徒指導の原理と方法が

適切であってこそのねらいがよりよく実現される。

それらの自己点検・自己評価は,教師・児童生徒・

保護者や地域社会によって適切に行われるように

工夫することが必要である。

⑵ 管理職のリーダーシップ

平成13年に「少年の問題行動に関する調査研

究協力者会議」において,児童生徒の問題行動へ

の対応等に関する点検項目を作成し,各学校の参

考例として示している。さらに少年事件が連続し

たことに対応して,平成15年9月にも類似の点

検項目例を急遽示し,各県抽出で実施してもらい,

結果の報告を求めている。点検項目の「1学校に

おける管理・指導体制の在り方」の⑴が「管理職

のリーダーシップ」である。すべての対応策が生

きるも死ぬも,管理職のリーダーシップにかかっ

ているといってもよい。したがって,当然のこと

ながら,自らの指導性は適切であったかどうかが

問われる。

第1は,管理職自身の問題行動への危機意識の

問題,推進組織への指導(生徒指導主事等に任せ

きりにせず,校長等への「報告」「連絡」「相談」

の実施の確認と指導),一人ひとりの教師や保護

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者等への指導などについて適切であったかどうか

である。

第2は,教師一人ひとりの授業や個別的な指導

の「見とどけ」である。年度初めの学級生活をス

タートする学級活動等の授業の見とどけであり,

学級経営案の実現状況の見とどけである。不登

校・いじめ問題等を未然に防ぐには,年度初めの

「新しい学校生活への適応に関する指導」, 不安

や悩みの解消」の適切な授業実践がポイントであ

る。管理職自身が教師の授業を見とどけ,適切な

授業の在り方を考える機会を設定することである。

第3は,児童生徒理解の在り方への指導の問題

である。学校は問題行動指摘型の生徒指導になり

がちとの指摘がある。 あの優秀な子が…」「特に

問題行動の経歴はなかったのに…」と驚く事例は,

児童生徒理解に問題がある場合が多い。特に,指

導上問題のある児童生徒に対する理解にのみ教師

の目が向けられるが,すべての児童生徒の理解に

努める指導体制を確立することが基本的な課題で

ある。対症療法型生徒指導では,本質的な解決に

はならないということである。そのことへの適切

な指導が十分かどうかである。

⑶ 学校生活の充実を目指す指導」の確かな授業

不登校児童生徒の原因を見ると各学校,教師一

人ひとりの取り組み如何でかなり改善できるはず

である。つまり,いじめ問題等人間関係に関する

問題が改善され,魅力ある学校生活が創出される

ならば,諸問題全体を大きく減少させられるので

はないかということである。そこで,次の点につ

いての評価・改善に取り組むことが,ぜひとも必

要である。

第1は,新しい学校生活への適応に関する学校

全体の指導の充実である。学校間の接続時の適応

に関する指導や学年進行時の引き継ぎ等に関する

指導を十分に行っているかどうかの確認や評価が

必要である。日本の学校は,入学式・始業式から

人間関係づくりが始まる。そして,教師と児童生

徒,児童生徒同士の出会いづくり,学年や学級で

の新しい学校生活に関するオリエンテーションが

行われ, 理想とする学校生活」を考える学級活

動の授業を充実することが重要である。新入生を

迎える会などを行う児童会・生徒会の活動,遠足

などの学校行事へと集団活動や生活が繫がる。問

題はそれらの取り組みがどのように行われている

か,児童生徒の充実感との関係でそれらをどう捉

えているかの評価である。

第2は,生活創造活動,問題解決活動の確かな

授業の展開である。新たな人間関係の中で「理想

とする学校生活の実現」に向けての組織づくり,

集会の活動,約束づくりの話し合いなどに児童生

徒が自主的に取り組むようにすることが重要であ

る。それには,小学校では,例えば,背面黒板な

どに「みんなのコーナー」(学級生活ノート」と

いってもよい)を設置し,願いや提案のカードを

貼ったり,係などの自発的な活動が掲示されるス

ペースを確保するなど工夫が必要である。平成

10年版学習指導要領では, 小・中・高等学校を通

じて児童生徒が生活上の諸問題の解決に積極的に

取り組めるようにする観点から,学級活動の改善

を図る」として例示が改められたのである。改め

て,指導計画の見直しとそのための時間確保など

の場や機会は十分であるかどうかを,再検討すべ

きである。

⑷ 個性を生かす教育」の基本原理に立つ

集団指導の展開

学級も学校も小社会であり,そこでの生活や学

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生徒指導・学習集団編成生徒指導上の諸問題への対処 管理職のリーダーシップが厳しく問われる対応策

習は基本的には集団的である。しかし,教科学習

はもとより集団活動を特質とする特別活動におい

ても,その集団指導を推進する過程では,児童生

徒一人ひとりは<かけがいのない個性的な存在>

として尊重されなければならず,次のような配慮

とその点検・評価が必要である。

第1は,学級等における集団学習が個別的指導

も効果的に取り入れ,グループ別指導においても

児童生徒の興味・関心に応じるなど個に応じた指

導の工夫は十分かということである。例えば,当

番も学習も固定的な「班」を中心で運営する集団

指導になっていないか。自発的活動である係の活

動まで生活班で分担させるところもある。具体的

な各学級の取り組みを把握しなければならないで

あろう。下図で言うと,Aは,生活班の1斑が本

係りを分担するという形,Bは,係編成の話し合

いに深く関わりつつ所属は個人の希望が生かされ

る形である。個を生かす集団活動が適切に行われ

ているかは重要な課題である。

第2は,リーダーシップ発揮の指導の場や機会

の工夫についての共通理解が必要である。リーダ

ーを固定させる指導法でなく,互いの個性的な思

考や行動性を認め合い,学び合うことを重視し,

誰にもリーダーシップ発揮の経験が与えられるよ

うな指導について,学校としての基本姿勢を明確

にする必要がある。例えば, 場面リーダーの指

導」もその1つである。学級計画委員会の活動に

「輪番制」を取り入れ,協力活動を充実すること

であり,それらの実践状況についての点検・評価

を充実している学校は少ない。

⑸ 体験活動への積極的な取り組み

学校生活の魅力のひとつは,学校行事などの体

験的活動にある。不登校児童生徒も修学旅行や自

然教室には参加する。それがきっかけになって以

降,登校し始めるといったケースは少なくない。

特に,次のような取り組みについて十分検討し,

充実に努める必要がある。

第1は,体験的活動を特質とする学校行事(5

種類)については,各学年で種類ごとに教育的価

値のある行事体験ができるように工夫しなければ

ならない。安易な削減も見られるが,生徒指導の

充実の観点からも,創意工夫した積極的な取り組

みが必要である。

第2は,平成10年版学習指導要領では,学校

行事において,①自然体験の充実,②ボランティ

ア活動など社会体験の充実,③幼児・高齢者・障

害のある人々との触れ合いの充実,を改めて強調

している。しかも,学校教育法の一部改正等が行

われたにもかかわらず,それらの体験活動への取

り組みは十分とはいえない現状にある。各学校の

取り組みを見直し,一層積極的に行われるように

工夫することが求められるところである。

第3は,集団宿泊活動の取り組みに,いくつか

の体験活動を組み合わせ,その充実を図る観点か

ら十分な時間の確保を工夫するということである。

入学式から1週間以内に学級合宿を行い,人間関

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係づくりを工夫し,不登校を大きく減少させてい

る学校がある。なお,学校行事だけで多くの時間

数を確保することは難しい面もある。総合的な学

習の時間と組み合わせるなど工夫することが考え

られる。また,体験活動によっては,夏季休業中

にまとまった取り組みを実施することもできよう。

農山漁村での宿泊体験活動を7泊,9泊と実施し,

大きな成果を挙げている学校もある。それらの実

践に学ぶことも必要である。

学校週5日制を理由にして,安易に学校行事を

削減し,体験活動への取り組みを低調にしてはな

らない。その意味でも,新しい教育課題への対応

状況の点検・評価が必要である。

⑹ 自校の生徒指導上の課題及び改善策」

の明確化

全国のすべての学校には,それなりの生徒指導

上の課題が存在する。本校には暴力行為問題がな

い,不登校児童生徒がいない,いじめ問題は発生

していない,だから本校には生徒指導上の問題・

課題はないということではない。生徒指導上の課

題は,問題行動対応だけではない。児童生徒の

「学校生活満足度の調査」をどう実施するか,基

本的な生活習慣など生活指導における課題は何か,

積極的な生徒指導の在り方を考えれば,どこの学

校にも生徒指導上の課題は存在する。各学校は,

そうした自校の生徒指導上の課題を見いだし,そ

のことへの対応策を,生徒指導部あるいは各学年

で検討してみることである。また,児童生徒自身

が,そのことに向き合えるようにするにはどうす

るかの検討が大切である。さらには,保護者や地

域社会の声をどう捉え,それにどう対応していく

か,教育相談の推進やスクールカウンセラーとの

連携は効果的かの検討など,常に,不断の検討を

通して課題や改善策を明確にする必要がある。そ

して,そのことについては,学期末や学年末には

評価会議を行うことによって,成果と課題を明ら

かにし,着実に改善していかなければならない。

⑺ 家庭・地域社会との新たな連携推進

学校の方針や課題について,保護者の理解を得

ること,家庭との連携について十分機会を確保す

ることなど学校としての積極的な取り組みが必要

である。その際には,例えば,次のような点への

配慮が大切である。

第1は,年度初めに「保護者からの学校への要

望」などを把握し,授業参観時の保護者会や教育

相談などの機会を工夫して,連携策について共に

検討することが大切である。

第2は,学校の実態や家庭への協力依頼など必

要に応じて発信していく。時には,学校全体の計

画で行う保護者会の他に「学級で適宜に話し合い

を持つ」ことも考えていく。

第3は,PTA活動において,生徒指導上の課

題に関わる学習会を計画できるようにすることも

大切である。例えば,学校評議委員会のような組

織との連携も有効であろう。警察,福祉や青少年

育成部局,保護司などの関係機関や民間団体との

連携について, 行動連携サポートチーム」とい

った組織による行動計画の評価も必要になる。

教師は地域をよく知り,地域の情報が得られる

ように,地域の人々との交流も欠かせない。その

ためには,家庭訪問や地域巡りは学年初めだけで

なく適宜に行う。その場合,地域の人々には,児

童生徒の問題点のみならず,児童生徒のよさの発

見や変容に関する情報を提供してほしい旨依頼す

ることも,これからの生徒指導の在り方であろう。

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個に応じた指導」を一層充実する観点から

1.少人数指導を習熟度別指導に結びつける

一般的に,少人数指導と習熟度別指導とは,2

つの別の指導のあり方と考えられているようであ

る。すなわち,少人数指導は,1つの学級集団を

2つの学習集団に分けて,あるいは,2つの学級

集団を3つの学習集団に分けて指導することであ

り,単に「より小さな学習集団」を作って指導す

ることと考えられている。この学習集団を構成す

る子どもたちは,質が異なる「異質集団」である。

これに対して習熟度別指導は,学習集団を構成

する子どもたちの量というより質に着目し,でき

る限り同じ質,すなわち「等質集団」をつくって

指導することである,と考えられている。しかも,

質は「習熟の程度」が同じである,という前提に

立っている。

もちろん,大きな学習集団をより小さな学習集

団に作り変えることによって,きめ細かな指導が

できるに違いない。研究によれば, 20人以下」

の学習集団を作り出せれば,効果的に指導が可能

であると言われる。これに対して,差別感は残る

が, 習熟の程度」を同じくする学習集団を作っ

て指導する場合,学力の着実な定着を図ることが

できると言われる。

したがって,算数・数学,英語,国語といった

用具系教科の指導では,単により小さな学習集団

ではなく,習熟の程度を加味したより小さな学習

集団を作って指導するという習熟度別少人数指導

を行うことが,徐々にではあるが多くなってきて

いる。

2.学年とともに

「習熟の程度の差」は拡大する

近代学校教育は, 学年制」を確立しつつ,成

立してきた。すなわち,学校は暦年齢が同じ子ど

もたちによって構成される ‘学級’をベースとし

て成立してきた。1つの学級に1人の学級担任が

配置され,学級は教室という指導・学習活動のた

めの空間によって他の学級と区分されてきた。1

つの学級は,同じ年齢の子どもたちで構成されて

いる。しかし,学年制は,最初から常に学級を構

成する子どもたちの間に存在する違いによって翻

弄されてきた。特に「習熟の程度」の違いは,学

級での指導・学習活動を大きく妨げてきた。伝統

的な一斉授業では,文字通り,学級を構成する子

どもたちは「一斉に」教師の指導を受け,学習し

ていくのである。一斉に授業していくためには,

教師は学級を構成する子どもたちの「中央・中間」

生徒指導・学習集団編成

上智大学教授 加藤 幸次1937年愛知県生まれ。名古屋大学大学院・ウィスコンシン大学大学院修了。国立教育研究所(現国立教育政策研究所)の室長を経て現在に至る。全国個性化教育研究連盟会長。著書として『学校を開く』(ぎょうせい),『個性を生かす先生』(図書文化),『総合学習の実践』(黎明書房),『個別化教育入門』(教育開発研究所)など多数。

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を意識して,指導することになる。どちらの方向

であれ,中央・中間からズレている子どもたちは

問題である。

他方,特に日本では, 習熟の程度」の違いを

活用し,一斉授業を成り立たせる努力がなされて

きた。いわゆる「集団思考」である。ここでは,

むしろ‘違うこと’が重要である。集団思考には,

違った考え方や見方が不可欠である。日本語で言

えば, 響き合い,学び合い,助け合い」である。

調査によれば,日本の教師は,学級規模が小さ

くなることに反対してきた。20人を割り込むよ

うな学級では,子どもたちの違った考え方や見方

が期待できず,したがって,集団思考による一斉

授業が成立しなくなると恐れる。アメリカやイギ

リスでは,学習効果が向上するためには,学級集

団は20人以下であるべきであり, 小さければ小

さいほどよい」となるのである。しかし,日本で

は「学級で野球ができなくなる」と反対する。好

対照である。

アメリカやイギリスでは, 習熟の差」につい

て2つの考え方がある。1つは,習熟の差は「前

後3年の幅」になる,という考え方である。たと

えば,小学校6年生の場合,習熟の程度の低い子

どもは小学校3年生程度の学力であり,高い子ど

もは中学校3年生の学力である。他の1つは,

当該学年の幅」になる,という考え方である。

すなわち,学年が上がれば上がるほど,習熟の構

成の差は,ますます拡大するという考え方である。

日本では,こうした考え方は公にならない。差

を否定し, 中央・中間」を意識しなければ,一斉

授業が成り立たないからである。あるいは,形式

的平等主義が先行し,一人ひとりの子どもたちの

発達を直視することを避けてきたのであろう。当

然のことであるが,学習は一人ひとりの子どもの

内に成立してこそ意味があるのであり,一斉授業

が成立するとかしないといったことは, 教師の

都合」の問題にすぎないのである。

少子化社会を迎えて,日本でも子ども一人ひと

りの学習成立ということに注目が払われるように

なったと言えるかもしれない。

3.用具系教科で習熟度別少人数指導を行う

具体的に考えてみると,実に恐ろしいことに気

づく。たとえば,算数の学力テスト (100点満

点)で30点しか取れない子どもがいたとする。

そう稀なことではない。一体,この子どもについ

てどんな補充指導がなされているのだろうか。実

は, 何もなされてきていない」のである。 放っ

たらかし」の状態である。そして教師は,次の単

元の授業に移らねばならない。しかも,また,

中央・中間」に位置する子どもたちに焦点を当て

た一斉授業である。日本が誇る「響き合い,学び

合い,助け合い」による学習は,こうした習熟の

程度のきわめて低い子どもに「落ちこぼれ」を拡

大しつつ,授業は進行していくのである。教師は

「教師の都合」で次の単元の授業に移らねばなら

ない。さもなければ, 教科書が終わらない」の

である。

特に,指導内容に強い系統性が存在し,一歩一

歩,ステップごとに進んでいかねばならない用具

系教科,すなわち,算数・数学,国語や英語とい

った教科では,いったん「落ちこぼれ」てしまえ

ば,よほど幸運でない限り,授業にもどれないの

である。現実には,授業にもどるために塾に行く

か家庭教師に学ぶかのどちらかしかない。学校の

授業は,原則として「前にもどる」ことはないの

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である。

これに対して,内容系教科といわれる社会,理

科,生活科や総合学習では,指導内容に系統性が

あるが,用具系教科に比べて「弱い」と考えらる。

たとえば,歴史的分野は不得意であっても,地理

的分野には関心がある,ということでよい。また,

歴史的分野は不得意といっても,近代は得意とい

うことも生ずる。分野や単元によって,学力テス

トの結果に大きな差が生ずるものである。

したがって,習熟度別少人数指導は,まずは用

具系教科で行うべきであろう。そこには一定の差

別感が生ずる。どのような名称のコースを用意す

るにしろ,どうしても「できる・できない」とい

ったことを意識したコースとならざるをえない。

親も子どもたちも,差別的な扱い方には敏感に反

応するにちがいない。

今日では,コースの選択にあたって,親の承認

を得たり,何より,学習者である子ども自身の選

択を重視するようになってきている。とはいえ,

どうしても「できる・できない」という意識が伴

うので,特に,コースに分かれた後の指導が,本

当にその子どもにとって意味ある学習になったか

どうかが,きわめて重要になってくる。差別感は

「分けられる」ことにあるというよりも, 分け

られた後の指導が真に子どもたちにとって意味が

あったのかどうか」ということにある。

確かに,内容系教科も習熟の程度の差は存在す

る。しかし,ここでは,興味・関心によるコース

選択学習はあっても,習熟度別コース学習はさけ

たい。なぜなら,もし内容系教科でも習熟度別学

習集団が構成されて授業がなされると,子どもた

ちは学校生活のほとんどにおいて「分けられて」

授業を受けることになるからである。

4.習熟度別少人数指導には

4つの授業モデルが考えられる

習熟度別少人数指導の次元

一般的には,習熟度別少人数指導は, 到達度

別学習」と名づけた授業モデルを意味する。すな

わち,学年・学期あるいは単元レベルごとに,子

どもたちのそれまでの習熟の程度を測定し,その

結果によって習熟度別学習集団を結成し,指導す

るというモデルである。 学級集団」は,学年制

を維持して編成されるが,授業になると,習熟の

程度に応じて別の集団を編成しようというのであ

る。この別の学習集団を1年間,あるいは1学期

間固定する場合が多い。単元ごとに集団を編成し

直すことも考えられるが,手続きが煩雑になる。

当然ここでは,この別の学習集団が「少人数集

団」であり,そこでの指導が少人数指導となる。

たとえば,1つの学級集団を2つあるいは3つの

少人数集団に分け,指導することである。この場

合,2人あるいは3人の教師が必要になる。また,

2つあるいは3つの学習集団を,3つ以上あるい

は4つ以上の少人数集団に分け,指導することが

考えられるが,分けられた少人数集団の数だけ教

生徒指導・学習集団編成個に応じた指導」を一層充実する観点から

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習熟度別少人数指導のモデル

師が必要になる。

これに対して,単元ごとに,後半に部分的な習

熟度別学習を常に用意する「完全習得学習」と呼

ばれた授業モデルも,習熟度別授業の1つである。

すなわち,常にー斉指導に対する補足・補充活動

を用意することによって,習熟の程度に対応しよ

うとするモデルである。ここでは,一斉指導を補

足・補充するとき,習熟の程度が測定され,その

結果に基づいて少人数学習集団が編成され,指導

される。このとき,複数の教師が必要になる。

他方, 自由進度学習」および「無学年制学習」

は,原則として習熟の程度を一人ひとり,個人ご

とに測定し,指導するという授業モデルである。

前者は,一般的には単元ごとに,後者は学年ある

いは学期ごとに指導を区切って行う授業である。

この場合,同じ習熟の程度の子どもたちをグルー

プ化して少人数学習集団を編成して指導すること

も可能であるが,特に,グループ化せず,一人ひ

とりに対応した指導という個人別指導という

あり方も考えられる。

5.授業モデルを組み合わせて用いる

改めて言うまでもなく,学級を構成してい

る子どもたちの習熟の程度の差は大きい。し

かも,前述したごとく,学年が高くなればな

るほど大きくなっていくと考えられる。した

がって,1つの授業モデルを採用していても

不十分である。これまた,前述したような学

力テスト(100点満点)で,30点しか取れな

い子どもたちのことを考えれば,よく理解で

きよう。

一般的には,習熟度別少人数授業として,

単元ごとに「完全習得学習」モデルが採用さ

れる場合が多いが,このモデルに従っておれば,

30点しか取れない子どもたちだけを指導してい

けるわけではない。

今日の学校では,次のようなモデルの組み合わ

せが考えられる。たとえば,普段の算数・数学の

授業には,常に「完全習得学習」モデルを用いる。

すなわち,単元あるいは小単元ごとに,必ず一斉

指導を補足・補充する少人数指導を用意する。他

方,既習事項を復習する単元から構成されている

学期末単元では,思い切って,上位・中位・下位

グループに分けて指導する「到達度別学習」モデ

ルを採用してみる。このことによって,普段の授

業での「完全習得学習」を補足・補充して行うこ

とができる。

さらに,学校裁量時間や中学校の選択教科の時

間では, 無学年制学習」を採用してみることで

ある。確かに,週にして1ないし2時間にすぎな

いとしても,子どもたち一人ひとりは,自分が真

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に到達している地点にかえって学習することがで

きる。

このように,3つの授業モデルを組み合わせて

用いることによって,一人ひとりの子どもに着実

に学力をつけていくことを考える。

他方,今日では,少人数指導のための加配教師

が配置され始めた。また,ティーム・ティーチン

グのための加配教師もすでに配置されている。さ

らに,非常勤講師の採用も一般化しつつある。こ

のように指導する教師の数が充実してくれば,差

別感は大きいかもしれないが, 到達度別学習」

モデルを普段の授業に採用できるようになる。た

とえば,中学校でどの学年の英語の授業も,1つ

の学級を3つの学習集団に編成し直し,指導する

ことが考えられる。上位グループは約15名,中

位グループは約15名,下位グループは約5名と

いった学習集団を編成し,それぞれの集団を1名

の教師が少人数指導するといったことも考えられ

るようになってきた。

このように下位グループに「手厚い,きめ細か

な指導」ができるようになれば,自ずと差別感も

減少し,学習への成就感・達成感が増大するもの

と期待される。

さらに,近い将来, 無学年制学習」を主体と

した習熟度別少人数指導を実践する学校が出現し

てくるであろう。たとえば,算数・数学を学習領

域別にいくつかの段階に分け,この段階を子ども

たち一人ひとりが自らのペースで学習していくと

いう授業モデルである。ここでは,少人数指導で

はなく,一人ひとりの子どもに対する個別指導が

中心になる。もっとも,同じ段階を学習しようと

している子どもたちで,単元ごとに,学習集団を

編成し,指導することも考えられる。

6.少人数指導のための教育方法を工夫する

以上見てきたように,習熟度別少人数指導には,

4つのモデルからなるあり方が考えられる。習熟

度別少人数指導という習熟の程度に応じて,1学

年あるいは1学期の内,学習集団を固定して指導

する「到達度別学習」モデルが考えられるが,そ

れだけではない。少人数指導のための学習集団の

考え方や固定する期間によって,さまざまな授業

モデルが考えられるべきである。

他方,重要なことは,少人数指導における教育

方法のことである。率直に言うと,今日,いわゆ

る習熟の程度の低い子ども,すなわち,学習に遅

れがちな子どもに対する教育方法は実に貧弱であ

る。多分,多くの場合は「もう一度,ゆっくり,

くり返し説明する」といった程度の指導方法であ

ろう。いわゆる再教授という手法にすぎない。こ

れでは,せっかく少人数集団を編成して指導をす

るとしても,大きな効果は期待できない。

習熟の程度の低い子どもたちへの教育方法は,

指導内容と指導方法という2つの側面から考えら

れるべきである。1つは指導内容である。学年制

システムの中にあるために,上位・中位・下位グ

ループと分けながら,同じ目標の達成をめざす。

したがって,同じ指導内容,すなわち,同じ学習

課題を与えて指導しようとする。当然,下位グル

ープには無理である。一般的には,基礎的目標と

発展的目標(体験的目標)とに分け,下位グルー

プでは基礎的目標の達成をめざし,1,2の基礎

的学習課題だけ指導する。一方,上位グループで

は,基礎的目標とともに発展的目標の達成をめざ

させる。実は,このような便宜的な処方はほとん

ど意味をなさないはずである。そもそも,基礎的

生徒指導・学習集団編成個に応じた指導」を一層充実する観点から

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『中教審答申』(2003107)

抜粋

習熟度別授業の導入へ

当面の充実・改善方策

各学校においては,児童生徒の発達段階や

それぞれの特性,学校の実態,教科等や指導

内容の特質を十分踏まえるとともに,児童生

徒の実態や指導のそれぞれの場面に応じて,

少人数指導,個に応じた選択学習,個別指導

やグループ別指導,学習内容の習熟の程度に

応じた指導,繰り返し指導等,効果的な方法

を柔軟かつ多様に導入することが重要である。

個に応じた指導」を行う上での配慮等

各学校で「学習内容の習熟の程度に応じた

指導」等を実施する際には,児童生徒に優越

感や劣等感を生じさせたり,学習集団による

学習内容の分化が長期化・固定化するなどし

て学習意欲を低下させたりすることのないよ

うに十分留意して指導の方法や体制等を工夫

することが望まれる。また,保護者に対して

は指導内容・方法の工夫・改善等を示した指

導計画,期待される学習の充実に係る効果,

導入の理由等を事前に説明するなどの配慮が

望まれる。

また, 補充的な学習」, 発展的な学習」

を実施する際には,それぞれのねらいを明ら

かにし,扱う内容と学習指導要領に示される

各教科等の目標や内容との関係を明確にして

取り組むことが大切である。具体的には,

補充的な学習」を行う際には,様々な指導

方法や指導体制の工夫・改善を進め,当該学

年までに学習する内容の確実な定着を図るこ

とが必要である。

課題が達成できれば,発展的課題を達成すること

はごく容易であるはずである。下位グループの子

どもにとっては,基礎的課題の達成が困難なので

ある。この指導内容の問題は容易ではない。結局,

無学年制システムを志向したカリキュラムづくり

をめざさなくては解決できない問題である。

このことは評価・評定の問題と直結している。

せっかく下位グループに属し,少人数指導を受け,

基礎的課題に挑み,努力して解決してみても,他

のグループと同じ学力テストを受け,しかも,相

対評価をされれば,やはり評定は低いものとなら

ざるをえないからである。

他の1つは指導方法である。 もう一度,てい

ねいに説明しなおす」といった再教授という指導

方法では不十分である。3つめのことを考慮すべ

きである。その1つは,学習時間のことである。

言い換えると,わかるまで学習時間を与えるとい

うことである。つき進んで考えれば,無学年制シ

ステムになる。しかし,現実には,単元ごとにど

のように学習時間を充分与えるか,ということで

ある。他の1つは,学習スタイルのことである。

一人ひとりの子どもは,固有な学習スタイルを持

っていると考えられる。学習スタイルに対応した

処方が考えられれば理想的である。より具体的に

は,一人ひとりの子どもの学習スタイルに合った

学習材・学習具を与えることである。今日では,

学習材・学習具は,実に多様で豊かなものになっ

た。こうした学習材・学習具を活用して,指導方

法の幅を拡大すべきである。最後の1つは,思考

スタイルのことである。言うまでもなく,一人ひ

とりの子どもは,固有な認知あるいは思考の仕方

をもっていると考えられる。こうした思考スタイ

ルをとらえ,処置することが指導方法として重要

である。

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