世界のリーディングホテル vol5 フォーシーズンズ...

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‐2011.8.12‐ 10 二つのプールの周りにはデッキチェアではな く、ゴージャスなツインベッドが用意されている フリーフォームプールと、左側には連結しているワールプー ルが見える。地元産の大きな御影石とチークの丸太で造 園されていて、実に気持ち良いプールだ メイン棟前面にあるテラス席。目の前に見えるルアック川の対岸はミャンマー領で、右側数㎞先を下るとメ コンの大河と合流しラオスとの国境に達する。ゴールデン・トライアングルのハイライトだ 幻想的なジャングルに囲まれた「San Valley」に架かる高さ18mのつ り橋。橋の下の渓谷添いには小径が続いており、キャンプ内に点在す るテントを結んでいる Four Seasons Tented Camp Golden Triangleのメイン棟。空港から キャンプ近くの船着き場まで車で行き、ロングテールボートに乗り換え て川からキャンプ地に上陸する ミャンマーと国境を接するルアック川を臨むテラス席。国境を越えて吹 いてくる生暖かい風が心地よい。この下にボート船着き場があり遊歩 道で結ばれている フォーシーズンズ・ テンテッド・キャンプ・ ゴールデン・トライアングル 世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコ ーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテ ル」を紹介する。 これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんど が現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマ ンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は 省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年 にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、 自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。 ※本連載は毎月2・4週号掲載 世界のリーディングホテル VOL5 筆者 小原康裕 ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部 法律学科卒。74年Munich Re入社。85年 築地原健㈱代表取締役。2001年投資顧問 会社原健設立、代表取締役CEO。 ※現在、著者のホームページで「世界のリー ディングホテル」を連載中。多くの美しい写 真と興味深いコメントで、世界中のホテルと それら関連都市を紹介。ホテルだけにとど まらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係 の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさ まざまな情報が得られる。 www.jhrca.com/worldhotel タイ国立ゾウ保護センター(TECC)の指 導と専門家のケアを受けて、キャンプ内 には10頭以上の象が飼育されている。こ のように自然なかたちで象と触れ合うこ とができる 全15棟のテントは番号 とニックネームが付き、 このテントは№1で「The Elephant Tent」の名称 で54㎡の広さがある。 バスルームはリビングと 一体化しており、中央に カスタムメイドの銅製の バスタブがある ‐2011.8.12‐ 11 インドシナ半島の奥地にタイ、ミャンマー、ラ オスの3カ国の国境が一点で交わるポイントが ある。ゴールデン・トライアングルと呼ばれる タイ最深部の地域で、ラオスと国境を接するメ コン川にミャンマーと接するルアック川が合流 した部分である。かつては世界最大の麻薬、 覚せい剤密造地帯だった場所で悪の巣窟と呼 ばれた地域だ。 そんな辺境の地も今ではすっかり開発の手 が伸び、ジャングルと3カ国のトライアングル 観光をアピールした総合開発が進んでいる。 先鞭をつけたのは2003年秋に極上のリゾート を開業したアナンタラ・リゾート&スパである。 スイートを含め全77室のゴージャスなリゾート で、ゲストのほとんどが欧米からの観光客で あり定評あるアナンタラスパが人気だ。この 異国情緒豊かな3カ国ツアーやジャングルトレ ッキングに人気が高まり、この時流に乗り06 年にフォーシーズンズ・テンテッド・キャンプ (以下FSTC)が鬱蒼 うっそう とした広大なジャングルの 敷地にオープンした。 FSTCは名前の通りすべての客室が「テント」 のリゾート&スパである。テントと言ってもそこ はフォーシーズンズ流の豪華な内装が施され、 完璧な空調と特注の銅製バスタブなど極上の 住空間を提供している。FSTCのコンセプトは 19世紀のノスタルジックな「冒険旅行」であり、 それに合わせて家具類もカスタムメイドのも ので統一し、建物もヴィラではなくテントで表 現した訳である。また顧客対象は「行動的な大 人の旅人」であり、真のセレブ層である「ジェ ットセッター」をイメージして、すべてが最高の ものを提供している。したがって料金体系も オールインクルーシブを採用して、1日3食、空 港送迎、象のトレッキング、ゴールデン・トライ アングルツアー、スパトリートメントなど「すべ て」を含んでいる。うれしいのはアルコール類 も余程の高額のワインを除いて無料であり、 「Burma Bar」でのカナッペ付きのサンセットド リンクもありがたい。 FSTCはキャンプ敷地内に15棟の豪華テン トを配置し、メインダイニングの「Nong Yao Restaurant」、サンセットバーの「Burma Bar」、 ワインセラー棟、スパ施設、プール、象のキャ ンプなどを配備している。ゲストの送迎にも 個性が感じられ、チェンライの空港から車で直 接キャンプ敷地に乗り入れるのではなく、いっ たんボート乗り場で下車し専用のロングテイ ルボートに乗り換える。そしてメイン棟近くの 船着き場から上陸するという、まさに冒険旅行 的な効果を与えている。 FSTCのゲスト数はわずか15棟の最大30名 余りに過ぎないが、スタッフの数は膨大な人 員を有している。キャンプマネージャーのMr. M・フォルクを筆頭に、スタッフ全員がゲスト のあらゆる要望に応えるべくホスピタリティー に徹している。そのような心配りは象使いの末 端のスタッフまで感じ取ることができる。非 日常の最高のイベントとして、一度はこのよう なインドシナ最奥の秘境に自分の身を置いて みるのも一興かと思う。 レストランの前には独立したワインカーブ棟が あり、見事なワイン収蔵コレクションを誇る。 希望すればここでワインに囲まれたディナーも 可能だ キャンプ敷地の一番西側に「Burma Bar」がある。こ こも草ぶき屋根で吹き抜けのラウンジだ。夕日がル アック川対岸のミャンマー側に沈む最高のサンセッ トポイントになる メイン棟にある「Nong Yao Restaurant」。屋根は東 南アジアらしい草ぶきで床は厚みのある板張りの吹 き抜けのスタイルだ。ディナー時は白リネンのテー ブルクロスが掛けられる テントと言ってもこのように豪華な仕様だ。天井からエレガントな蚊帳(かや)がつるされ、ターンダウン後 にはベッドに広げられる。テントの壁部分はビニールや網の3層構造になっており、窓はファスナーで開閉 する。小高い丘陵面の小径1㎞に沿って、15棟のテントが程よい間隔を保ち建っている

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Page 1: 世界のリーディングホテル VOL5 フォーシーズンズ …ohtapub.co.jp/wlh200/WLH005.pdfFour Seasons Tented Camp Golden Triangleのメイン棟。空港から キャンプ近くの船着き場まで車で行き、ロングテールボートに乗り換え

‐2011.8.12‐10

二つのプールの周りにはデッキチェアではなく、ゴージャスなツインベッドが用意されている

フリーフォームプールと、左側には連結しているワールプールが見える。地元産の大きな御影石とチークの丸太で造園されていて、実に気持ち良いプールだ

メイン棟前面にあるテラス席。目の前に見えるルアック川の対岸はミャンマー領で、右側数㎞先を下るとメコンの大河と合流しラオスとの国境に達する。ゴールデン・トライアングルのハイライトだ

幻想的なジャングルに囲まれた「San Valley」に架かる高さ18mのつり橋。橋の下の渓谷添いには小径が続いており、キャンプ内に点在するテントを結んでいる

Four Seasons Tented Camp Golden Triangleのメイン棟。空港からキャンプ近くの船着き場まで車で行き、ロングテールボートに乗り換えて川からキャンプ地に上陸する

ミャンマーと国境を接するルアック川を臨むテラス席。国境を越えて吹いてくる生暖かい風が心地よい。この下にボート船着き場があり遊歩道で結ばれている

フォーシーズンズ・テンテッド・キャンプ・ゴールデン・トライアングル世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

※本連載は毎月2・4週号掲載

世界のリーディングホテル VOL5

筆者 小原康裕ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健㈱代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

タイ国立ゾウ保護センター(TECC)の指導と専門家のケアを受けて、キャンプ内には10頭以上の象が飼育されている。このように自然なかたちで象と触れ合うことができる

全15棟のテントは番号とニックネームが付き、このテントは№1で「TheElephant Tent」の名称で54㎡の広さがある。バスルームはリビングと一体化しており、中央にカスタムメイドの銅製のバスタブがある

‐2011.8.12‐ 11

インドシナ半島の奥地にタイ、ミャンマー、ラオスの3カ国の国境が一点で交わるポイントがある。ゴールデン・トライアングルと呼ばれるタイ最深部の地域で、ラオスと国境を接するメコン川にミャンマーと接するルアック川が合流した部分である。かつては世界最大の麻薬、覚せい剤密造地帯だった場所で悪の巣窟と呼ばれた地域だ。そんな辺境の地も今ではすっかり開発の手

が伸び、ジャングルと3カ国のトライアングル観光をアピールした総合開発が進んでいる。先鞭をつけたのは2003年秋に極上のリゾートを開業したアナンタラ・リゾート&スパである。スイートを含め全77室のゴージャスなリゾートで、ゲストのほとんどが欧米からの観光客であり定評あるアナンタラスパが人気だ。この異国情緒豊かな3カ国ツアーやジャングルトレッキングに人気が高まり、この時流に乗り06年にフォーシーズンズ・テンテッド・キャンプ(以下FSTC)が鬱蒼

うっそう

とした広大なジャングルの敷地にオープンした。FSTCは名前の通りすべての客室が「テント」

のリゾート&スパである。テントと言ってもそこはフォーシーズンズ流の豪華な内装が施され、完璧な空調と特注の銅製バスタブなど極上の住空間を提供している。FSTCのコンセプトは19世紀のノスタルジックな「冒険旅行」であり、それに合わせて家具類もカスタムメイドのもので統一し、建物もヴィラではなくテントで表現した訳である。また顧客対象は「行動的な大人の旅人」であり、真のセレブ層である「ジェットセッター」をイメージして、すべてが最高のものを提供している。したがって料金体系もオールインクルーシブを採用して、1日3食、空港送迎、象のトレッキング、ゴールデン・トライアングルツアー、スパトリートメントなど「すべて」を含んでいる。うれしいのはアルコール類も余程の高額のワインを除いて無料であり、「Burma Bar」でのカナッペ付きのサンセットドリンクもありがたい。FSTCはキャンプ敷地内に15棟の豪華テン

トを配置し、メインダイニングの「Nong YaoRestaurant」、サンセットバーの「Burma Bar」、ワインセラー棟、スパ施設、プール、象のキャンプなどを配備している。ゲストの送迎にも個性が感じられ、チェンライの空港から車で直接キャンプ敷地に乗り入れるのではなく、いったんボート乗り場で下車し専用のロングテイルボートに乗り換える。そしてメイン棟近くの船着き場から上陸するという、まさに冒険旅行的な効果を与えている。FSTCのゲスト数はわずか15棟の最大30名

余りに過ぎないが、スタッフの数は膨大な人員を有している。キャンプマネージャーのMr.M・フォルクを筆頭に、スタッフ全員がゲストのあらゆる要望に応えるべくホスピタリティーに徹している。そのような心配りは象使いの末端のスタッフまで感じ取ることができる。非日常の最高のイベントとして、一度はこのようなインドシナ最奥の秘境に自分の身を置いてみるのも一興かと思う。

レストランの前には独立したワインカーブ棟があり、見事なワイン収蔵コレクションを誇る。希望すればここでワインに囲まれたディナーも可能だ

キャンプ敷地の一番西側に「Burma Bar」がある。ここも草ぶき屋根で吹き抜けのラウンジだ。夕日がルアック川対岸のミャンマー側に沈む最高のサンセットポイントになる

メイン棟にある「Nong Yao Restaurant」。屋根は東南アジアらしい草ぶきで床は厚みのある板張りの吹き抜けのスタイルだ。ディナー時は白リネンのテーブルクロスが掛けられる

テントと言ってもこのように豪華な仕様だ。天井からエレガントな蚊帳(かや)がつるされ、ターンダウン後にはベッドに広げられる。テントの壁部分はビニールや網の3層構造になっており、窓はファスナーで開閉する。小高い丘陵面の小径1㎞に沿って、15棟のテントが程よい間隔を保ち建っている