第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池...

17
第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池の科学と技術」 2011 年 11 月 18 日(金)―19 日(土) 筑波大学総合研究棟 B 棟 0110 公開講義室 趣旨 筑波大学プレ戦略イニシアティブ「グリーンイノベーションのためのキーマテリアル高度デザイン 研究拠点」では、筑波大学におけるナノテクノロジー・ナノサイエンスの研究成果をグリーンイノベ ーション分野の産業界に発信し、グリーンイノベーションに関する産学連携の構築を目的に活動を 行っています。特に、産学の間に草の根的なパイプをつくり、企業の皆様とのコミュニケーションを 豊かなものにしていきたいと願っております。本事業の一環として、太陽電池、燃料電池、リチウ ムイオンバッテリー、グリーンケミストリー、炭素材料など環境・エネルギー分野に関して、基礎知 識から先端研究にわたる内容のフォーラムを開催することにいたしました。 第一回のフォーラムは有機太陽電池に関するものを企画いたしました。第二回のフォーラムで は二次電池と燃料電池に関するものを企画し、つくば地区を中心に第一線で活躍されている先生 方に講演をお願いすることにしました。 主催:プレ戦略イニシャティブ 共催:学際物質科学研究センター、KEK大学等連携支援事業 第二回フォーラム企画責任者 筑波大学数理物質科学研究科 守友 浩、中村潤児

Upload: others

Post on 05-Jan-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム

「二次電池と燃料電池の科学と技術」

2011 年 11 月 18 日(金)―19 日(土)

筑波大学総合研究棟 B 棟 0110 公開講義室

趣旨

筑波大学プレ戦略イニシアティブ「グリーンイノベーションのためのキーマテリアル高度デザイン

研究拠点」では、筑波大学におけるナノテクノロジー・ナノサイエンスの研究成果をグリーンイノベ

ーション分野の産業界に発信し、グリーンイノベーションに関する産学連携の構築を目的に活動を

行っています。特に、産学の間に草の根的なパイプをつくり、企業の皆様とのコミュニケーションを

豊かなものにしていきたいと願っております。本事業の一環として、太陽電池、燃料電池、リチウ

ムイオンバッテリー、グリーンケミストリー、炭素材料など環境・エネルギー分野に関して、基礎知

識から先端研究にわたる内容のフォーラムを開催することにいたしました。

第一回のフォーラムは有機太陽電池に関するものを企画いたしました。第二回のフォーラムで

は二次電池と燃料電池に関するものを企画し、つくば地区を中心に第一線で活躍されている先生

方に講演をお願いすることにしました。

主催:プレ戦略イニシャティブ

共催:学際物質科学研究センター、KEK大学等連携支援事業

第二回フォーラム企画責任者

筑波大学数理物質科学研究科

守友 浩、中村潤児

Page 2: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

会場までの交通

【TX を利用】

1. つくばエキスプレス終点「つくば」より右まわり大学循環バス(昼間は 20 分間隔)に乗車

2. 「第一エリア前」で下車

3. 総合研究棟B棟(□)をめざす

【高速バスを利用】

1. 東京駅からつくば大学行き高速バス(昼間は 30 分間隔)に乗る

2. 「大学会館」で下車(下りはお勧めです)

3. 総合研究棟B棟(□)をめざす

大 学 会 館

Page 3: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム

「二次電池と燃料電池の科学と技術」

筑波大学総合研究棟 B 棟 0110 公開講義室

2011 年 11 月 18 日(金)―19 日(土)

11月18日(金)

13:00-13:10 はじめに 中村潤児(筑波大)

【セッション I】 二次電池

座長:小林 航(筑波大)

13:10-13:40 朝倉大輔、大久保将史(AIST)

リチウムイオン 2 次電池の高性能化に向けた電極材料開発

13:40-14:10 守友 浩(筑波大)

ポリマー型正極材料とその展開

14:10-14:40 高田和典(NIMS)

全固体リチウム電池の高出力化に向けた界面構築

14:40-15:00 休憩

【セッション II】燃料電池

座長:近藤剛弘(筑波大)

15:00-15:30 森利之(NIMS)

燃料電池用セリア系材料に関する研究

15:30-16:00 堀田照久(AIST)

固体酸化物形燃料電池の耐久性向上と反応機構解析

16:00-16:30 久保佳実(NIMS)

CNH への Pt 触媒担持と DMFC への応用 16:30-17:00辻村清也(筑波大)

バイオ燃料電池の研究開発

17:00-17:30 中村潤児(筑波大)

ナノカーボンを用いた燃料電池電極触媒

18:00- 懇親会

Page 4: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

11月19日(土)

【セッション III】Review 講演

座長:中村潤児(筑波大)

9:00-9:40 高須芳雄(信州大学名誉教授)

PEFC 用非白金カソード触媒研究の進歩と課題

9:40-10:20 工藤徹一(東大)

二次電池の発展ーその意外性と将来ー

10:20-10:40 休憩

【セッション IV】二次電池と空気電池

座長:松田智行(筑波大)

10:40-11:10 周 豪慎(AIST)

ポストリチウムイオン電池の開発

11:10-11:40 山田淳夫(東大)

リチウム遷移金属酸素酸塩の電極機能とその機構

11:40-12:10 井手本康(理科大)

中性子、放射光を駆使したリチウムイオン電池正極材料の平均・局所構造、

電子構造と電池特性ー 中性子によるコインセルサイズ正極における充放電過程の構造解析ー

12:10-12:15 おわりに 守友 浩(筑波大)

Page 5: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

リチウムイオン2 次電池の高性能化に向けた電極材料開発 大久保 將史

産業技術総合研究所・エネルギー技術研究部門 [email protected]

近年、地球温暖化、及び、化石燃料資源の枯渇が盛んに論じられ、特に、高効率自動車(電

気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車)の実用化・普及は、非常に重要

な社会ニーズとなっている。高効率自動車を開発するにあたり、重要となるコンポーネントは電

力貯蔵を担う 2次電池である。

現行のリチウムイオン 2 次電池を高性能

化するためには、電極材料(正極、負極)、

電解液(電解質)、等について様々な課題

を挙げることができる。ハイブリッド自動

車は現行技術における市販高効率自動車

の最たる例であるが、十分な加速・登坂

性能を満たすと同時に、減速時のエネル

ギー回生を迅速に行うためには、高速充

放電が可能な正極材料が必要不可欠であ

る(図1)。同様に、ゼロエミッションが

可能な電気自動車の電源装置としても高

性能電源が必要不可欠であるが、現在使

用されているリチウムを含む遷移金属酸化

物(LiMxOy、M = Co、Ni、Mn、他)は安全

性や元素戦略上の課題を抱えており、リチウムイオンを可逆的に脱離・挿入することができる新

規なホスト構造を開発・探索することも、極めて重要な研究課題である。

我々は、高出力型正極材料の開発を目指し、これまでに様々な電極材料のナノ構造制御に

成功し、電極材料におけるナノサイズ効果の系統的な解析を行ってきた。また、遷移金属酸化

物・ポリアニオン型電極といった既存の電極材料設計軸の延長線上に無い多孔性配位高分子

に着目し、電極特性の評価・改善を行ってきた。

本講演においては、酸化物電極材料 LiCoO2、LiMn2O4 の電極特性へのナノサイズ効果の

解明、新規電極材料としてのシアノ架橋配位高分子の開発について、最近の研究成果を報告

する。

参考文献 1. M. Okubo, et al., J. Am. Chem. Soc., 129, 7444 (2007).

2. M. Okubo, et al., J. Phys. Chem. C, 113, 15337 (2009).

3. M. Okubo, et al., ACSnano, 4, 741 (2010).

4. M. Okubo, et al., J. Phys. Chem. Lett., 1, 2063 (2010).

5. M. Okubo, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 50, 6269 (2011).

6. D. Asakura & M. Okubo, et al., Phys. Rev. B, 84, 045117 (2011).

図 1 高効率自動車への搭載を目指した

高出力型 2 次電池の性能図

Page 6: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

ポリマー型正極材料とその展開 守友 浩

筑波大学大学院・数理物質科学研究科 [email protected]

リチウムイオン電池技術は、携帯電話やスマートフォンとの小型電化機器の電源だけでなく、

車載要や電力貯蔵用となどの大型用途展開が期待されている。こうした展開を図るためには、既

存技術の改良だけではなく、新しい材料系への果敢な挑戦が必要であると考える。 本講演では、まず、ネットワークポリマー化合物であるプルシャンブルー類似体(または、シ

アノ錯体)薄膜の正極性能を多角的に議論する。左図に示すように、シアノ錯体は二種類の遷移

金属(赤丸と青丸)がシアノ基(棒)で架橋されている。ネットワーク空隙にリチウムイオンが

収容され、正極材として機能する。我々は、Mn-Fe の組み合わせで 128mAh/g の容量と高いサ

イクル特性(100 回で初期値の 87%)を得ている。この材料

の特徴は、ネットワークが堅固であり、リチウムイオンの量

が変わっても立方晶のままで構造相転移を示さない、ことで

ある。講演では、ネットワークポリマーの構造、遷移金属の

価数、インピーダンス解析、色変化、等を紹介する。 次に、一歩引いて、ネットワークポリマー化合物の構造物

性をゲストカチオンの変えながら概説する。第一原理計算を用いたゲストカチオンのポテンシャ

ル曲線が実験結果を見事に説明する、事例を紹介する。さらに、放射光構造解析の結果に基づき、

ゲストカチオンがどのようにネットワーク空隙を占有しているかを、議論する。 最後に、リチウムイオン電池技術を他のデバイスに転用するアイデアを二つ紹介する。一つは

リチウムイオン移動を利用したメモリー効果であり、もうひとつは電気化学ゼーベック効果を利

用した熱電変換である。 参考文献 1. T. Matsuda and Y. Moritomo, “Thin film electrode of Prussain blue analogue for Li-ion battery”,

Appl. Phys. Express, 4, 047101 (2011). 2. Y. Kurihara and Y. Moritomo, “Fabrication of epitaxial interface between transition metal cyanides”,

Jpn. J.Appl. Phys., 50, 060210 (2011) 3. Y. Moritomo, T. Matsuda, Y. Kurihara, and J. E.Kim, “Cubic-rhombohedral structural phase

transition in Ma1.32Mn[Fe(CN)6]0.83 3.6H2O” , J. Phys. Soc. Jpn. 80, 074608 (2011). 4. Y. Moritomo, K. Wakaume, Y. Kurihara, J. E. Kim, “Magnetic properties of valence-controlled

Na3y-2Cr[Cr(CN)6]yxH2O” , J. Phys. Soc. Jpn. 80, 07716 (2011). 5. J. E. Kim, H. Tanaka, K. Kato, M. Takata, and Y. Moritomo, "Extended d-Electron State of Fe(CN)6

Unit in Prussian Blue Analogue", Appl. Phys. Express, 4, 125801 (2011). 6. Y. Moritomo, K. Igarashi, J. E. Kim and H. Tanaka, “Size dependent cation cannel in Nanoporous

Prrussian blue lattice”, Appl. Phys. Ex., 2, 085001(3 pages) (2009) (3 pages) 7. Y. Moritomo and T. Shibata, "Electric pressure-induced ferromagnetism mediated by Prussian blue

junction", Appl. Phys. Lett., 94 043502 (3 pages) (2009)

Page 7: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

全固体リチウム電池の高出力化に向けた界面構築 高田 和典

物質・材料研究機構 電池材料ユニット [email protected]

固体電解質を用いたリチウム電池の全固体化は,有機溶媒電解質に起因する安全性の課

題を抜本的に解決するのみならず,副反応を引き起こす拡散種を取り除くことで電池の長寿命

化も達成することができる.特に最近では携帯電話やノート PC などの民生用途に加え,電気自

動車やスマートグリッド用の大型電池が要望されるようになり,この課題の解決は喫緊のものとな

っている. 全固体化における大きな課題は,固体電解質のイオン伝導度が低いうえに,電池構成部材

の界面が固固界面となるため,出力性能を確保しにくいという点にある.出力性能を確保するた

めにまず必要となるものは高いイオン伝導性を示す固体電解質であるが,現在ではいくつかの

硫化物において 10−3 S·cm−1 台のイオン伝導度が観測されているにとどまらず,最近のイオン伝

導度は 10−2 S·cm−1 台にまで達している.一方の固固界面の問題であるが,硫化物固体電解質

は比較的柔らかい格子をもつため,酸化物固体電解質にみられるような大きな粒界抵抗,すな

わち固体電解質粒子間における大きな抵抗成分は認められず,粒界抵抗の低い成型体を作

製するための焼結過程すら不要である.しかしながら,正極活物質との接合界面における抵抗

は極めて大きなものであり,出力性能の律速段階となっていた. 我々はこの界面における抵抗成分の起源を探り,硫化物固体電解質が Li1−xCoO2 に接触し

た部分において,これら部材におけるリチウムイオンの電気化学ポテンシャルの違いからリチウ

ムイオン欠乏層が形成され,電池反応の律速過程となっていることを見出した.さらに,この界

面に酸化物固体電解質層をリチウムイオン欠乏層形成に対する緩衝層として介在させることで

有機溶媒電解質を用いた市販電池と同等の出力性能を有する全固体リチウムイオン電池の開

発も成功した 1).フォーラム当日は,この界面イオン伝導現象に基づくいくつかの高出力界面構

造 2,3)についてもあわせて報告する.

1. N. Ohta, K. Takada, L. Q. Zhang, R. Z. Ma, M. Osada and T. Sasaki, “Enhancement of the high-rate capability of solid-state lithium batteries by nanoscale interfacial modification”, Adv. Mater., 18, 2226 (2006).

2. X. X. Xu, K. Takada, K. Fukuda, T. Ohnishi, K. Akatsuka, M. Osada, B. T. Hang, K. Kumagai, T. Sekiguchi and T. Sasaki, “Tantalum oxide nanomesh as self-standing one nanometre thick electrolyte”, Energy Environ. Sci., 4, 3509 (2011).

3. X. X. Xu, K. Takada, K. Watanabe, I. Sakaguchi, K. Akatsuka, B. T. Hang, T. Ohnishi and T. Sasaki, “Self-organized core–shell structure for high-power electrode in solid-state lithium batteries”, Chem. Mater., 23, 3798 (2011).

Page 8: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

燃料電池用セリア系材料に関する研究 森 利之

物材機構・電池材料ユニット燃料電池材料G/GREEN ヘテロ界面設計G [email protected]

燃料電池は、空気と水素(または可燃性ガス)から、電気を直接生み出すデバイスとして、

知られており、家庭用コジェネや大型バス用エンジンなど、着実に実用化が進んでいる。しかし、

燃料電池材料の性能・安定性・信頼性改善を阻む問題点や、さらなる特性改善の可能性が

材料中に埋もれていることに対する認識や材料研究は、必ずしも進んでいない。

本研究では、古くから知られたセリウム酸化物を、500℃以下の温度で作動させる酸化物形

燃料電池用材料として用いた場合における、セリア系固体電解質中の粒内、粒界に現れる

微細構造 1)-4)や、セリア系固体電解質/電極界面の微細構造 5),6)が特性に及ぼす影響につい

て検討している。その1例を図1に示す。この図は、Gd ドープセリア固体電解質と Ni-GDC サ

ーメット界面の分析電顕

観察結果を示した結果で

あるが、電極及び電解質

双方の側から、各構成

成分が等距離の拡散を

おこし(Mutual diffusion と

命名)、界面に酸素欠陥

が秩序化した構造を形成

している様子が伺われる。

このような界面構造は

固体電解質/カソード界面 図1 セリア系固体電解質/アノード界面の分析電顕観察結果.

でも観察され、その周囲に

は、広くマイクロドメインと呼ばれる領域が点在することも分かっている。こうしたナノ構造の理

解や制御が燃料電池材料及びデバイス研究では必須である。また、こうした界面構造は、燃

料電池デバイス作成時に、不可避のものとして生まれてしまい、性能の低下をもたらすが、そ

の発生を抑制する方法や、こうした界面構造を、役立つものとして燃料電池デバイスの高性

能化に活用することも、ナノスケールの界面及びバルク構造の詳細を知れば可能である。

当日は、こうした当グループの研究成果に関する紹介を行う。

参考文献 (一例) 1. Mori T, Drennan J, Lee J H, Li J G, and Ikegami T, Solid State Ionics, Vol.154, pp.461-466(2002). 2. Mori T, Drennan J, Wang Y, Auchterlonie G, Li J G, and Yago A, Science and Technology of Advanced

Materials, Vol.4, pp.213-220(2003). 3. Ou D R, Mori T, Ye F, Takahashi M, Zou J, and Drennan J, Acta Materialia, Vol.54, pp.3737-3746

(2006). 4. Ou D R, Mori T, Ye F, Zou J, and Drennan J, Physical Review B 77, article number 024108 (2008). 5. Li Z P, Mori T, Auchterlonie G, Guo Y, Zou J, Drennan J, and Miyayama M, Journal of Physical

Chemistry C, Vol.115, pp.6877-6885(2011). 6. Li Z P, Mori T, Auchterlonie G, Zou J, and Drennan J, ACS Applied Materials & Interfaces, Vol.3(7),

pp.2772-2778(2011).

Page 9: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

固体酸化物形燃料電池の耐久性向上と反応機構評価 堀田照久

産業技術総合研究所・エネルギー技術研究部門燃料電池材料グループ [email protected]

固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、実証研究が行われ、エネファームとして商品化の段階に

来ている。商品化まである程度こぎつけたが、さらなる技術開発が必要で、1)10 年以上耐久を

確実にする技術、2)効率向上、3) ロバストネス、4)低コスト化、などが重要な課題である。当グル

ープでは、NEDOプロジェクト「SOFCシステム要素技術開発/基礎的・共通的課題のための

研究開発」に参画し、SOFCの耐久性・信頼性向上に関する研究開発をおこなってきた。SOF

Cの劣化要因としてどのような現象があるか、劣化機構を解明しその対策を如何にするべきか、

などを解明してきた。研究体制として、開発スタックメーカーと産総研、電中研で構成されるワー

キンググループ、及び産総研と大学、開発会社で構成されるコンソーシアムなどで中心的な役

割を果たしている。共通基盤的な技術内容は、ある程度公開しながら、開発SOFCセル・スタッ

クの耐久性向上に貢献しており、現状の耐久性レベルは、電圧劣化 10%/5 年を見通すレベル

に達してきている。

当グループが、劣化要因・劣化機構として特に注目しているのは、微量不純物による材料科

学的劣化である。燃料ガスや空気に含まれる微量不純物が長期運転でどのように影響するか

を検討している。例えば、空気極である(La,Sr)MnO3 系酸化物/ジルコニア系電解質の界面近

傍では、酸素分子が吸着解離してイオン(O2-)となり、電解質中に拡散する反応が起こる。不純

物として Cr などがあると、その反応活性サイトに選択的に反応し、活性サイトを失活させて劣化

を及ぼす。また、SOFC は数種類の機能性界面で構成されるので、酸素のイオン化がどこで活

発に起こり、拡散していくか、拡散障害があるかを解明

することが重要となってくる。図1は、安定同位体酸素

(18O2)をラベル元素として、燃料電池反応下での酸素・

酸化物イオンの動きを2次イオン質量分析計(SIMS)で

可視化した結果である。実用 SOFC セル・スタックとし

て、筒状平板形(京セラ製)を使用している。中間層付

近で 18O の濃度が上昇しており、この近傍で 18O の流

れが滞留していることが推定され、この部分の構造最

適化が重要となる。今回の講演では、SOFC の開発現

状を紹介すると共に、当グループの耐久性向上への

取り組み、貢献を紹介し、下記の項目について講演す

る:

1)SOFC システムの開発と現状、

2)信頼性向上に向けた劣化機構解明と対策、

3)反応機構解明のための新規分析法の紹介:

・同位体ラベル法による酸素・酸化物イオンの動き

の可視化、

・ラマン分光法による相変態現象の in-situ 分析

図1 安定同位体酸素(18O)を使用した

酸化物イオンの動きの可視化:空気極/中間層/電解質界面近傍での酸素のイオ

ン化と O2-拡散を筒状平板形 SOFC に

て観測。

Page 10: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

カーボンナノホーンへの Pt 触媒担持と DMFC への応用 久保 佳実

物質・材料研究機構 ナノ材料科学環境拠点 [email protected]

単層グラフェンからなるカーボンナノホーン(SWNHs)は、イガグリ状のユニークな集合体

形状をもち[1]、触媒担持体などへの応用が期待されている。我々は、直接メタノール型燃

料電池(DMFC)への応用を目指して、SWNHs への Pt 触媒の担持を検討した。SWNHs は、

H2O2 水溶液中で部分酸化することによってグラフェン面に欠損が生じ、そこが核となって Pt触媒を高担持率(60%)まで微細(2.9 nm)に分散担持できることが判明した。また、この

Pt/SWNHs 担持触媒を用いた膜-電極接合体(MEA)についても作製法を検討し、多重空

孔構造を有する高効率 MEA を開発した。それを空気極に用いたパッシブ型 DMFC(4cm×4cm MEA)を作製したところ、常温、空気中、0.4V 動作電圧において 76 mW/cm2 とい

う従来より 1 桁大きなパワー密度が得られた[2]。講演では、レーザーアブレーション法によ

る SWNHs の大量合成法[3] についても併せて報告する[4]。 なお、本研究は NEC 中央研究所において、一部 NEDO の支援を受けて行われた。

1. S. Iijima, M. Yudasaka, R. Yamada, S. Bandow, K. Suenaga, F. Kokai, and K. Takahashi, “Nano-aggregates of single-walled graphitic carbon nano-horns”, Chem. Phys. Lett. 309, 165 (1999).

2. M. Kosaka, S. Kuroshima, K. Kobayashi, S. Sekino, T. Ichihashi, S. Nakamura, T. Yoshitake, and Y. Kubo, “Single-Wall Carbon Nanohorns Supporting Pt Catalyst in Direct Methanol Fuel Cells”, J. Phys. Chem. C 113, 8660 (2009).

3. T. Azami, D. Kasuya, R. Yuge, M. Yudasaka, S. Iijima, T. Yoshitake, and Y. Kubo, “Large-scale production of single-wall carbon nanohorns with high purity”, J. Phys. Chem. C 112, 1330 (2008).

4. 久保佳実, “カーボンナノホーンの大量合成と燃料電池応用”, 応用物理 79, 925 (2010).

SWNHs

SEM images of the surface of very porous MEA with Pt/SWNHs catalyst [2]

TEM images of Pt/SWNHs catalyst [2]

20 wt% Pt

60 wt% Pt

Page 11: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

バイオ燃料電池の研究開発 辻村 清也

筑波大学数理物質系 [email protected]

環境に負荷を与えず,いつでもどこでも安全に電

気を得ることのできる発電デバイスの需要が高まっ

ている.演者は生体内エネルギー変換化学反応の精

緻かつ巧妙な構造と機能に学び,糖やアルコールな

どから発電する燃料電池型次世代発電デバイス,バ

イオ燃料電池(右図)の研究を進めてきた 1,2.生体

触媒を電極触媒として利用し,糖などの還元剤の酸

化反応と,酸素の還元反応をそれぞれ負極,正極で

進行させることで,化学エネルギー差を電力に変換

する.レアメタルを一切利用せず,食物残滓などか

ら直接発電できる持続可能な発電デバイスであり,室温で作動する超小型発電装置とし

ての発電効率は非常に高い.課題は,出力,安定性,容量密度の向上である.

これまで演者らは,効率的な電極界面での電子移動を実現する酵素を見いだし,高い

導電性を有する酵素担持体としてのメソ多孔質炭素を改良し 1.3,電池の出力を向上させ

てきた.現実的なバイオ燃料電池の作動を考慮すると,ポンプやファンを用いずに受動

的に反応場である電極表面にまで物質・イオンは供給されなければならないが,高い比

表面積を有する多孔性炭素を電極として利用することで,燃料の供給が大きな問題にな

ってきている.特に,カソードにおける酸素の供給は大きな問題であった.演者らは,

電極の親水性と疎水性の制御することでガス拡散型バイオ電極を作成し,カソードにお

ける酸素の供給不足の問題を解決している. 講演では,バイオ燃料電池の基本メカニズムと研究開発動向を紹介する.

1. Fructose/dioxygen biofuel cell based on direct electron transfer-type bioelectrocatalysis, Kamitaka, Y., Tsujimura, S.*, Setoyama, N., Kajino, T., and Kano, K.*, Phys. Chem. Chem. Phys., 9 (15), 1793-1801 (2007).

2. Sakai, H., Nakagawa, T., Sato, A., Tomita, T., Tokita, Y., Hatazawa, T.*, Ikeda, T., Tsujimura, S., Kano, K.*, A High-power Glucose/oxygen Biofuel Cell Operating under Quiescent Conditions, Energy Environ. Sci., 2 (1), 133-138 (2009).

3. Tsujimura S.*, Nishina A., Hamano Y., Kano K., and Shiraishi S., Electrochemical reaction of fructose dehydrogenase on carbon cryogel electrodes with controlled pore sizes, Electrochem. Commun., 12 (3), 446-449 (2010).

4. Tsujimura, S.*, Miura, Y., Kano, K., CueO-immobilized Porous Carbon Electrode Exhibiting Improved Performance of Electrochemical Reduction of Dioxygen to Water, Electrochim. Acta, 53(18), 5716-5720 (2008).

5. Kontani. R., Tsujimura, S.*, Kano, K., Air Diffusion Biocathode with CueO as Electrocatalyst Adsorbed on Carbon Particle Modified Electrodes, Bioelectrochemistry, 76 (1/2), 10-13 (2009).

Page 12: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

炭素担体効果を利用した燃料電池電極触媒の設計 中村潤児

筑波大学・数理物質科学系 [email protected]

我々は、2004 年にカーボンナノチューブ(CNT)を担体とした触媒が高活性を示すことを見

出し、それ以来、炭素担体効果の研究をしてきた。すなわち、炭素担体効果を利用した高性能触

媒の開発と、炭素担体効果の起源を解明するための表面科学的研究を並行して行っている。前者

においては、CNT やグラフェンなどのナノカーボンを触媒担体とした電極触媒の開発を行い、

後者においては、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)に白金微粒子触媒を担持させ、そのモデ

ル触媒の電子状態、構造、触媒活性などを調べ炭素担体効果メカニズムの解明に取り組んでいる。

我々の用いるカーボンナノチューブは多層のもので、直径が 10-50 nm である。最近、多層 CNTが安価(10 円/g 程度)となり、Pt(4000-5000 円/g)に較べると無視しえる価格となった。そ

のため、CNT を用いた白金量の削減、すなわち CNT 担体効果を用いた白金触媒の活性促進は、

工学的に重要な意味を持つと云える。担体効果とは、触媒微粒子が小さくなるとグラファイト系

炭素表面のπ電子と金属 d 電子が相互作用し、その結果、触媒活性の本質である d 電子の状態が

変化するという内容である。この相互作用はどのようなものであるかはほとんどわかっていない。

我々は多層 CNT の表面を、まずは曲率を考えないで、グラファイトと近似し、Pt 粒子と HOPGとの界面相互作用について調べた。その結果、界面相互作用により Pt 触媒の著しい活性変化を

観測した。本講演では、1. CNT やグラフェンを用いた電極触媒に見られる担体効果について

と、2.表面科学的手法を用いた炭素担体効果のメカニズムに関する研究について述べる。

1. グラフェンナノシート担体を用いた耐 CO 性電極触媒 グラフェンナノシート(GNS)に Pt を担持した Pt/GNS 触媒の耐 CO 性を調べる研究を行った

ところ、高い CO 耐性が得られた。一般に、CO 耐性を付与するために、Pt を Ru で合金化する

方法が採られているが、Pt/GNS は PtRu 合金触媒と同程度の CO 耐性が得られた。高分解能の

電子顕微鏡で観察すると、GNS には 1 nm 以下の Pt クラスターが付着していることが明らかと

なった。通常、Pt 触媒を炭素担体に担持すると小さくとも 1 nm 程度であり、 1nm 以下のクラ

スターが観察されることはない。また、CO ストリッピング実験では、低電位側で CO が酸化さ

れることがわかった。これらの結果は、グラフェンが金属クラスターと強く相互作用するためと

考えられる。グラフェンとグラファイト系炭素との違いは、層間の相互作用と考えている。グラ

ファイトでは層間で pz 軌道の重なりがあるが、グラフェンではその相互作用がないためより強

く金属と相互作用するものと考えている。 2. HOPG 表面に生成する非結合性軌道の観測 窒素や欠陥を導入した HOPG 表面を STM-STS で観測すると、窒素原子や欠陥まわりの炭素

原子(数百個)の電子状態が著しく変化することが明らかとなった。STS スペクトルでは局在し

た状態がフェルミレベル近傍に生じる。すなわち、反応性の高い炭素の状態へと変化することを

意味し、我々は非結合性軌道と帰属した。点欠陥部位では局所的な炭素のジグザグ構造ができそ

れに垂直の方向に非結合性軌道が伝播することがわかった。この軌道が金属微粒子と相互作用し、

金属微粒子の電子状態を変化させるものと考えている。窒素をドープするとこのピークが占有準

位方向にシフトするが、このシフトが金属との相互作用をさらに強めるものと考えている。 文献:1. E. Yoo, J. Nakamura, et al., Nano Letters 9 (2009) 2255. 2. T. Kondo, J. Nakamura, et al., Phys. Rev. B 80 (2009) 233408.

Page 13: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

PEFC用非白金カソード触媒の進歩 高須 芳雄

信州大学名誉教授 [email protected]

PEFC 普及のための主要課題のひとつはカソード触媒の耐久性向上と低価格化である。価

格は大量生産やシステムの改良により下がり得るものと、材料費の関係で下がり難いものとが

ある。PEFC の電極に用いられている白金触媒はその典型であろう。酸素還元の過電圧が大

きいため PEFC ではカソードの白金使用量の低減は容易ではない。本 Review 講演では国の

方針とカソード触媒開発の動向を紹介し、最後に演者の取り組みについて述べる。

PEFCのカソード触媒の改良・開発に関する次に掲げる三大国家プロジェクトが興味深い。

低白金化技術: とりわけ興味深いのは、金などの金属ナノ微粒子を単原子層程度の白金層

で覆えば、同じサイズの白金粒子より酸素還元に対する比活性が数倍高くなる現象を利用す

るコア・シエル触媒である。実用化に向けて触媒の安定性や低価格化が検討されている[1]。

カーボンアロイ触媒: 金属錯体を窒素が残存するように低温で炭化すると高い酸素還元活

性を示すとの研究に端を発し、今日までに種々の金属錯体やポリマーから窒素含有活性炭

カソード触媒が合成されてきた[2, 3]。また、ナノシェルと呼ばれるグラファイト様構造の球状微

粒子を有した活性炭や、窒素含有活性炭に鉄錯体を複合化させた触媒の報告もあるが、活

性や電極の安定性に問題がある。

非貴金属酸化物系触媒: 窒素や炭素を格子サイトなどに含む金属酸化物(Ta-C-N-O,

Zr-C-N-O 系など)や異種元素を含まない金属酸化物(Ta-O, Zr-O 系など)は高い酸素還元

活性を示し、しかも高耐食性である[4, 5]。活性が未だ十分に高くはないことと、絶縁体に近い

ため電極化するにはカーボンブラッ

クなどを必要とする。

無炭素・非白金・金属酸化物ガス拡

散電極: 演者は絶縁体に近い酸化

物でも、チタン基板に多孔質で薄く

形成させると電極として機能し導電

助剤を必要としないことに着目。電極

の比表面積を大きくするため、マクロ

多孔質のチタンシートにメソ多孔質

の金属酸化物触媒の薄い層を形成

させてガス拡散触媒電極とした。安

価ではないが、電子伝導性を示す

IrO2 触媒をカソードとアノードに用い

た PEFC の発電試験に成功した。

1. M. Shao, et al., Electrochem. Commun. 9, 2848(6 pages) (2007). 2. H. Meng, et al., Electrochim. Acta 55, 6450(12 pages) (2010). 3. Y. Nabae, et al., Carbon 48, 2613(12 pages) (2010). 4. A. Ishihara, et al., Electrochim. Acta 55, 8005(8 pages) (2010). 5. Y. Takasu, et al., Electrochim. Acta 55, 8220(10 pages) (2010).

Page 14: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

二次電池の発展―その意外性と将来―

工藤 徹一(東京大学名誉教授) 最初の二次電池は「ファラデーの電気分解の法則」が提出されてからわずか 26 年後の

1859 年、Plante によって考案された鉛蓄電池(正味の反応:Pb(―極)+PbO2(+極)+2H2SO4

⇌2PbSO4(放電生成物)、起電力:2V)である。Plante が種々の金属の硫酸水溶液中での分極

現象を調べているとき着想されたといわれるが、これほど意外な構成の電池もないであろ

う。意外とは、起電力が水の分解電圧(1.23V)よりはるかに高く熱力学的には存在し得な

い系であること、および、放電生成物の PbSO4は充電状態の Pb や PbO2と構造的に無関係

な絶縁体でありながら容易に充電反応が可逆的に進行することである。さらに、このよう

な電池が 150 年後の現在でも自動車 SLI 用などとして欠かせない存在であることも驚きで

ある。 1976 年、Whittingham が層状 TiS2の Li インターカレーションを利用する二次電池を実

証、これを契機に僥倖を頼るのではない「ホスト・ゲスト系」という指針に基づく科学的

な研究開発が始まり、リチウムイオン電池(LIB)の実用化(1990 年)に繋がった。しか

し、その道程は直線的ではなく、“意外”ともいえる経路を辿る。TiS2 に続いて種々の Liホストが研究され、Li/MoS2系が商品化されたが、金属 Li 極のデンドライトの問題のため

失敗に終わる。その頃 Goodenough のグループは発想を転換して(?)、Li の詰まった(=

放電状態の)層状物質 LiCoO2 を合成、Li の引き抜き・再挿入が電気化学的に進行するこ

とを示した。これと空の層状負極(=黒鉛)を組み合わせてゲストが両ホスト電極間をシ

ャトルする LIB の原型ができあがった。 現在、資源的に豊富な LIB 正極材料として LiFePO4が注目されているが、この物質が電

気化学的に活性であることを見出したのも Goodenough のグループである。最近、反応の

様子が大分解ってきたが、当初、独立の PO4 を含むカンラン石型絶縁体が、2 相共存状態

で可逆的に、しかも、かなり速く Li を出し入れできることを「意外」と思ったのは筆者の

みではなかろう。 二次電池はその初めから現在の LIB に至るまで意外な発見が発展をもたらしてきた。し

たがって将来を語ることはきわめて難しいが、敢えて、意外な発見の期待できそうな研究

方向をあげてみる。一つは温度軸の活用、特に中温領域での電極材料特性の評価である。

中温作動の二次電池はβ-アルミナを固体電解質とする Na/S 電池やゼブラ電池(Na/NiCl2)

などが実用に供されているが、LIB などホスト・ゲスト系電池の作動温度を高めようとす

る研究は少ない。高温ではゲストの拡散などが速くなるので電極特性の向上が期待できる

のは言うまでもないが、室温では使えそうにない物質が構造相転移に伴い思い掛けない特

性を示すというような可能性にも期待できる。講演では、これ以外の2,3の研究方向に

ついても紹介する予定である。

Page 15: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

Development of lithium ion battery and post lithium ion battery -Based on hybrid electrolyte

Zhou Haoshen

National Institute of Advanced Industrial Science and Technology [email protected]

Abstract

One of the greatest challenges is to realize the “low carbon society”. The key technology for

this challenge is to develop clean energy device with both high power density and high energy density. Recently, many clean energy devices based on novel active materials have been investigated to improve the performance related with both power density and energy density. However, even the largest energy density of lithium ion battery can’t satisfy the industrial needs resulted from the electric vehicle. So, the lithium air battery with theoretic largest energy density has attracted much more attention. I will also introduce some new concepts for the lithium air battery and other new type batteries developed in our research group based on the hybrid electrolyte. Reference

[1] Y.G.Wang, Y.R.Wang, E.Hosono, K.X.Wang, H.S.Zhou, Angewandte Chemie International Edition, 47, 2008, 7461

[2] H.Q.Li, Y.G.Wang, H.T.Na, H.M.Liu, H.S.Zhou, J. Am. Chem. Soc. 131, 2009, 15098 [3] E.Hosono, T.Kudo, I.Honma, H.Matsuda, H.S.Zhou, Nano Letters, 9, 2009, 1045 [4] H.S. Zhou; Y.G. Wang; H.Q. Li and P. He, ChemSusChem, (invited review) 2010, 9, 1009. [5] Y.G. Wang and H.S. Zhou, J. Power Sources, 2010, 195, 358. [6] Y.G.Wang, P.He, H.S.Zhou, Energy & Environment Science, 4, 2011, 805 [7] Y.G.Wang, H.S.Zhou, Energy & Environment Science, 4, 2011, 1704. [8] E. Yoo; H.S. Zhou, ACS Nano, 2011, 4, 3020 [9] P. He; Y.G. Wang; H.S. Zhou, Chem. Comm. 47, 2011, 10701 [10] Y.R.Wang, Y.G.Wang, H.S.Zhou, ChemSusChem, 4, 2011, 1087-109 [11] Y.G.Wang, P.He, H.S.Zhou, Energy & Environment Science, 4, 2011, DOI: 10.1039, C1EE02121D

Web Released. [12] H.Q.Li, H.S.Zhou, Chem. Comm. 47, 2011, (invited review) DOI: 10.1039/C1CC14764A, in press.

Page 16: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

リチウム遷移金属酸素酸塩の電極機能とその機構 山田 淳夫

東京大学大学院・工学系研究科 [email protected]

持続可能社会実現に向けた重要技術として社会的要請の極めて強い、リチウムイオン電池の車

載用、電力貯蔵用途などの大型用途展開においては、はるかに大量の活物質が使用されると同時

に、電池の体積に対する表面積の割合が低下する。従って、コストの問題がより顕在化するばか

りでなく、放熱、蓄熱の競合という観点からの熱のマネージメントがより困難になる。これらの

解決には、材料設計レベルでの元素戦略と化学的安全性の確保が不可欠である。高価な遷移金属

を大量に含み、充電時に強力かつ不安定な酸化剤となり得る正極材料は、その解決に向けての鍵

となる構成要素であり、抜本的な施策が求められる。そのためには、新たな機能性材料の適用と、

その反応機構の正しい理解に基づく最適化が不可欠となる。 本講演では、電極材料としての含リチウム遷移金属酸素酸塩に焦点を当てる。次世代正極材料

の本命と目されている LixFePO4 の開発動機についてふれた後 1、不完全な溶解度ギャップを有

する相図とその粒子サイズ依存性を高強度X線・中性子回折、エントロピー測定、開回路電位測

定により多角的に明らかにした研究 2,3、および、一次元リチウム拡散経路を真空中高温中性子回

折実験と最大エントロピー法により視覚化した研究 4を紹介する。さらには、クラーク数上位元

素のみからなる高容量正極として近年注目されつつある Li2FeSiO4の結晶構造を、高分解能X線

回折により初めて決定した結果 5、我々が現在開発中のいくつかの新規材料群 6-8の良好な正極特

性、最近見いだしたエレクトロクロミズムと相図や電荷移動の動力学との関係 9についても述べ

る予定である。詳細については、下記の発表済参考文献を参照されたい。 参考文献 [1] A. Yamada, S. C. Chung, and K. Hinokuma, , J. Electrochem. Soc., 148, A224 (2001) [2] A. Yamada, H. Koizumi, S. Nishimura, N. Sonoyama, R. Kanno, M. Yonemura, T. Nakamura, and Y. Kobayashi, Nature Materials, 5, 357 (2006) [3] G. Kobayashi, S. Nishimura, M.-S. Park, R. Kanno, M. Yashima, T. Ida, and A. Yamada, Advanced Functional Materials, 18, 395 (2008) [4] S. Nishimura, G. Kobayashi, K. Ohoyama, R. Kanno. M. Yashima, and A. Yamada, Nature Materials, 7, 707 (2008) [5] S. Nishimura, S. Hayase, R. Kanno, M. Yashima, N. Nakayama, and A. Yamada, J. Am. Chem. Soc., 130, 13212 (2008) [6] A. Yamada, N. Iwane, Y. Harada, S. Nishimura, Y. Koyama, and I. Tanaka, Advanced Materials, 22, 3583 (2010) [7] A. Yamada, N. Iwane, S. Nishimura, Y. Koyama, and I. Tanaka, J. Mater. Chem., 21, 10690 (2010) [8] S. Nishimura, M. Nakamura, R. Natsui, and A. Yamada, J. Am. Chem. Soc., 132, 13596 (2010) [9] S. Furutsuki, S. C. Chung, S. Nishimura, Y. Kudo, K. Yamashita, and A. Yamada, submitted (2011)

Page 17: 第二回つくばグリーンイノベーションフォーラム 「二次電池と燃料電池 …moritomo.yutaka.gf/meeting/2011_11_18_19_abst.pdf · 二次電池の発展ーその意外性と将来ー

Nor

mal

ized

Inte

nsity

d spacing /nm

-0.2

-0.1

0.0

0.1

0.2

0.250.200.150.100.05

Fig.1 Rietveld refinement patterns using iMATERIA for cathode (active material + AB + PVdF) of Li0.613Ni0.8Co0.19Cu0.01O2 (after charging, Raw-BKG).

中性子、放射光を駆使したリチウムイオン電池正極材料の平均・局所構造、

電子構造と電池特性

- 中性子によるコインセルサイズ正極における充放電過程の構造解析 - 井手本 康

東京理科大学理工学部工業化学科 [email protected]

Li(Ni, Co)O2系は比較的高容量であるという利点があるが、カチオンミキシングによ

り容量低下が起こるという問題がある. 本研究では、カチオンミキシングの減少を目指して、LiNi0.8Co0.2O2の Ni・Co の一部を Cu または Zn で置換した試料を固相法・溶液法により合成し、置換元素・合成条件の違いによる電池特性の変化について検討した. さらに、これらの試料について、結晶構造解析、電子密度分布の検討を行った. また、充放電時の構造変化を検討するために、充放電前後のコインセルサイズの正極について、TOF中性子を用いて ex situ で結晶構造解析を行い、平均・局所構造, 電子状態及び熱力学的安定性について検討した. 以上の結果から、本系におけるこれらの関係を考察し、より特性の良い正極材料開発の指針を見出すことを目的とした.

Li(Ni, Co, M)O2(M=Cu, Zn)は固相法及び溶液法で合成した.充放電サイクル試験は2.5~4.3V vs. Li/Li+, 電流密度 0.2mA/cm2 で行った. 結晶構造解析は、粉末中性子回折(HERMES, JRR-3; iMATERIA, J-PARC)及び放射光 X 線回折(BL19B2, SPring-8)のデータを用いて Rietveld 解析(Rietan-FP, Z-Code)を行い、MEM(Prima)により電子密度分布を評価した. また、XAFS 測定(BL7C, KEK PF)を行い、局所構造・電子状態について検討した.また、充電前後の ex situ TOF 中性子測定は、コインセルサイズ(直径 1cm)の正極合材を含む正極自体を用いて行い、正極活物質(約 8mg)の結晶構造の変化について検討した. Li(Ni, Co, M)O2(M=Cu, Zn)について粉末 X 線回折を用いて相の同定を行った結果、全

ての試料は六方晶(空間群:R3m)であった. ICP により各金属組成とも良く制御されていた. 電池特性を評価した結果、溶液法の試料に比べて固相法の試料は放電容量維持率が良好であった. 放射光 X 線回折データを用いてRietveld 解析を行い、得られたデータを基にMEM 解析より電子密度分布を求めた. その結果、固相法の試料は溶液法の試料より3a-6c(Li-O), 3b-6c(M-O)間の結合性が大きいことが明らかになり、固相法の試料は構造安定性が大きいと考えられる. さらに、充電前後のコインセルサイズの正極(活物質 8mg)を用いてex situでTOF中性子回折測定を行い、Rietveld 解析を行った(Fig. 1). その結果、充電時の Li 組成が決定できること、カチオンミキシングした Liは充電時に脱離しないこと、若干存在していた第2相の Li2CO3 が消失すること及び充電により M-O6八面体の歪み, 3b サイトの Bond Valence Sum が増加していることなど 1)を明らかにした.

参考文献 1) Y. Idemoto, Y. Tsukada, N. Kitamura, A.

Hoshikawa and T. Ishigaki, Chemistry Letters, 40, 168(2011).