業績悪化・本業 生き残りのための 資金繰り...

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業績悪化・本業 生き残りのための 各種再建手法 資金繰り 早期の判断が必要な会社再建 1.再建を行わなければならない状態/2.状況によって異なってくる再建手法 自社株と債務を交換する債務株式化 1.債務株式化の目的/2.債務株式化を行う際のポイント 3.債務株式化のメリット・デメリット/4.株主に対する考え方. 金融機に債権放棄してもらう債務免除 1.債務免除の目的/2.事実上の債務免除/3.意が必要な債務免除益 会社の一部事業を他者に売却する事業譲渡 1.事業譲渡の目的/2.事業譲渡のメリット・デメリット 3.事業譲渡の手続き 不採算部を切り離す会社分割 1.会社分割の目的/2. 会社分割の注意点 3.会社分割と事業譲渡の違

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Page 1: 業績悪化・本業 生き残りのための 資金繰り 各種再建手法...業績悪化・本業 生き残りのための 各種再建手法 資金繰り Ⅰ 早期の判断が必要な会社再建

業績悪化・本業生き残りのための

各種再建手法資金繰り

Ⅰ 早期の判断が必要な会社再建1.再建を行わなければならない状態/2.状況によって異なってくる再建手法

Ⅱ 自社株と債務を交換する債務株式化1.債務株式化の目的/2.債務株式化を行う際のポイント

3.債務株式化のメリット・デメリット/4.株主に対する考え方.

Ⅲ 金融機関に債権放棄してもらう債務免除1.債務免除の目的/2.事実上の債務免除/3.意が必要な債務免除益

Ⅳ 会社の一部事業を他者に売却する事業譲渡1.事業譲渡の目的/2.事業譲渡のメリット・デメリット

3.事業譲渡の手続き

Ⅴ 不採算部門を切り離す会社分割1.会社分割の目的/2. 会社分割の注意点

3.会社分割と事業譲渡の違い

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

経営者が資金繰りに奔走したにも係わらず、会社が倒産に至ってしまうことがあります。

その多くは、借入金の支払いや取引先などへの支払いを、会社が手遅れの状態になるまで

行ってしまうからです。支払を行うことは事業存続に必要なことですが、運転資金のため

に借入を重ねたり、支払を延期の依頼を行うようになったら、手遅れになる前に会社再建

を考えるべきです。

■倒産への兆候

●買掛金の支払い期限の延期の依頼

●手形のジャンプ、新手形との差替え

●税金等の滞納

●在庫商品の処分・換金

●給料の遅配

●会社経営者が、親族等から借入れ

●会社・会社経営者が高利貸しから借入れ

一時的な業績不振で回復が見込める会社、業績の良い事業を擁する会社や業績が振るわ

なくとも他社がそのノウハウに魅力を感じる事業を擁していれば、会社を再建させる可能

性があります。手遅れになる前に再建の可能性を探り、少しでも早く手を打つことが大切

です。

再建手法には、以下のようなものがあります。

早期の判断が必要な会社再建

再建を行わなければならない状態

2 状況によって異なってくる再建手法

債務株式化

債務免除

事業譲渡

会社分割

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

①債務株式化

債務株式化(DebtEquitySwap(デットエクイティスワップ・DES))とは、財務改

善の手法の一つです。企業(債務者)と債権者との交渉によって、文字通り債務を株式へ

と交換し、債務返済や利子の支払いを免除してもらう方法です。

②債務免除

債務免除とは金融支援策のひとつで、ある特定の債権者の有する債権の一部又は全部に

ついて、債務者から弁済を受ける権利を放棄することです。「借金の棒引き」とも言えます。

③事業譲渡

事業譲渡とは、会社が擁する事業を他の会社に譲渡することを言います。ここでいう「事

業」とは、有形の動産、不動産のほか債権、債務、特許等の無形財産、ノウハウ、取引先、

人材、経営組織等を含む包括的概念を意味します。

④会社分割

会社分割とは、企業が持つ様々な事業部門を分離・独立し、新たな会社を設立したり、

既存の会社に譲渡したりすることです。会社分割は、原則として債権者の同意なしに優良

部門を債務から切り離して別会社に移せますので、比較的短期間でできる事業再生法であ

るといえます

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

(1)債務を圧縮し資本を増大する債務株式化

債務株式化によって、企業にとっては債務を圧縮し資本を増大することになるため資本

構成を強化でき、債権者にとっては債務者の株式を保有することで単なる債務免除になら

ず企業の再建から生じるメリットを享受することが期待されます。実際のお金は一切動い

ていませんが、会社としては返済義務のある借金が減り、返済の必要のない資本が増える

ことになるので、バランスシート上でも自己資本比率が改善します。

(2)債務株式化の効果

①信用力の改善

債務が株式に変わるので、自己資本の比率が増大することは明らかですが、これに加え

て様々な財務上の効果があります。債務の株式化の株式化で自己資本比率が改善されたこ

とに伴い、それまでと比べて有利な条件で銀行から借入ができるようになったり、場合に

よっては市場から直接資金が調達できるようになるなどの効果が徐々に現れます。これは

信用リスクが改善されたことによって負債の調達コストが低下することを示します。

②負債コストの低下

一方、負債コストの低下によって資本コストも徐々に低下します。資金調達が改善され

たことによって、債務株式化の前には取組むことが不可能であった収益機会についても追

求することが可能になります。その結果として、企業価値と自己資本価値が増加します。

(1)自己資本の価値を評価する

債務の株式化を行う企業では財務的な苦境に陥っている場合が多く、その中でも特に状

態が深刻な場合には、自己資本の価値がマイナス、いわゆる債務超過の状態になっている

ところもあります。この場合には相手に対してマイナスの価値の株式を与えることになっ

てしまうので、このままでは等価交換としての債務の株式化はできません。

従って、債務の株式化をスムーズに推進するためには、先ずは自社の自己資本の価値を

評価することが必要です。これについては、企業財務の基本バランスシートにおける投融

資・純営業資産(事業価値)・純有利子負債の各項目を時価評価したうえで判断をします。

(2)債務超過の場合の取り扱い

自己資本がマイナスである場合は、純有利子負債が企業価値を上回っている部分を解消

することが先決です。さもないと債権者は価値のない株式を引き受けることになり、等価

自社株と債務を交換する債務株式化

債務株式化の目的

2 債務株式化を行う際のポイント

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

交換としての債務の株式化はできません。 しかし、たとえ自己資本の価値がマイナスで

も、企業自体に将来性があり債務の株式化後の企業価値増大でカバーできるマイナス幅で

あるのかどうかで、債務の株式化を行いうる可能性は大きく変わってきます。

(3)中小企業が債務株式化を実施する際の注意点

債務株式化を行うことによって、有利子負債比率や金利カバー比率などの財務比率が正

常化し、低利の資金調達が可能になること、事業収益機会の正常化を通じて企業価値が向

上することを、債務株式化を実施しようとする企業は、株式引受け先となる債権者に対し

て充分に説明を行わなければなりません。

(4)事業収益構造を活かす債務株式化

優良な事業を保有しているのに、資本構成が有利子負債過剰なため資金調達などの面で

財務上の困難に陥っている企業が数多く存在します。これらの企業にとって債務株式化は

資本構成の最適化、企業活動の正常化、企業価値増大の有効な方法と言えます。必要なだ

け債務の株式化を実施すれば、有利子負債比率や金利カバー比率等の財務比率が正常化し、

低利の資金調達が可能になります。事業収益は正常なため、収益機会に恵まれれば事業価

値が増大し、企業価値等の向上が見込めます。

企業にとっての

メリット

●資本構成を最適化して、借入金利の改善が可能

●うまくいけば、株主、銀行、銀行株主にも損害を与えないため、経営の自由と

自主性を守れる

デメリット

●財務の全体を開示しないと銀行や市場に対して説明が不能なので、不良資産を

全て引き当てた上、財務の内容を開示する必要がある

●財務比率は債務の株式化で大きく改善するが、銀行、証券会社、格付け機関等

の金融機関や市場を説得して可能になる金利削減や企業フローの改善には時間

が必要

●各種の誤解や偏見を持つ多くの利害関係者の主張から、うまくプロセスが進ま

ないことがありうる

3 債務株式化のメリット・デメリット

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

銀行にとっての

メリット

●正常債権として維持することが容易になる

●財務比率が改善すれば、貸出債権について信用リスクの低下で得をする

●公開企業株についてはキャピタルゲインを得られる可能性もある

デメリット

●銀行は過小資本に陥っており、あまり大きな株式ポジションを保有できる財務

状況でない。できるだけ大きな金額を、できるだけ早く機関投資家等の市場に

売却する必要がある

(1)株式の価値

債務の株式化における重要な利害関係者として、株主に及ぼす影響も考慮する必要があ

ります。債務株式化を行うことによって、既存の株主や債務株式化による新規株主が損を

しないかどうかが大きな問題になります。

(2)株式保有の事情

債務株式化では、従来の債権者が新たに株主になる訳ですが、それは多くの場合に銀行

等の金融機関であることが考えられます。銀行も債務の株式化による企業再生には合意で

きる場合でも、余り多くの株式保有を望みません。特に未公開企業の株式で、今後も公開

の予定がない場合には市場での売却は難しく、保有に関するリスクを負いたがらないこと

が有り得ます。

(3)株式の配当

企業が債務の株式化を実施する場合、有利子負債が過剰で過小自己資本に陥っているた

め、財務的に困難な状態にある場合が想定されます。その場合、バランスシートに繰越欠

損項目があると株式配当が不可能になってしまいます。債務株式化によって発行した新規

株式の一部を資本準備金に組み入れた上で、その一部を取り崩して繰越欠損を消去すれば、

配当が可能になります。

4 株主に対する考え方

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

債務免除とは債権者側から見た場合には、「債権放棄」となります。債権者から見て、債

務者に再建の可能性があり、倒産処理をせず債権放棄を行う方が残債権の回収額が大きく

なると想定される場合に行われる私的整理の一手法です。

このことから、債権全額の放棄が行われることは稀であるといえます。

なぜならば、債務者が実質的破綻状態である場合等を除き、銀行の会計上は損失処理が

認められますが、税務上は損金として認められず「有税償却」とならざるを得ないケース

が多く、銀行としては、償却の損失負担に加え税負担が発生するためです。

(1)事実上の債務免除とは

銀行が直接債務者に対して債務免除を行う以外の「事実上の債務免除」としては、債権

譲渡があげられます。

■債権譲渡とは

銀行は、債権をサービサー(※)に売却する際、損失部分を無税償却できます。この場合、

銀行はサービサーに債務者の延滞債権の額面ではなく「時価」で売却します。時価とは

債務者の返済能力を加味した数値であり、例えば額面の3~5%程度の相当に低い金額

であるケースが多いようです。債務者側から考えると、サービサーとの交渉で額面を大

きく下回る金額(サービサーが利ざやを取れる金額)で、一時金の支払にて残債は債務

免除の可能性が生まれてくることを意味します。

※サービサーとは、金融機関やノンバンクから委託を受けて、債権の管理、回収を専門に行う業者のこと。

(2)保証協会への返済の継続

保証協会保証付銀行融資は、延滞が続くと代位弁済にて債権が保証協会に移ります。保

証協会は、債務者と定期的に面談を求めてきますが、その際、債務者が資金繰り状況の資

料を提示したうえで「払える範囲の少額の金額を毎月返済します」と返済額を低く設定し

たとしても、保証協会側は「それでは、返済にどれだけかかると思っているんですか?」

と怒られることもありません。なぜなら、債務者の生活権があるからです。「可能な限りの

返済」は、ほとんど事実上の債務免除だと言えます。

金融機関に債権放棄してもらう債務免除

債務免除の目的

2 事実上の債務免除

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

債務免除益とは、金融機関等の債権者の債権放棄により生じる債務の無償償却益のこと

です。再生債務者は、再生手続開始後にその有する一切の財産につき価額評定をしなけれ

ばいけません。この際に生じた資産の評価損益は、会計上、その計上が強制されるもので

はありませんが、法人税法では、益金の額及び損金の額に算入することとされています。

また、取引金融機関等からの債務免除額は、債務免除益として会計上、税務上ともに収

益としても認識されるため、多額の債務免除益が生じた場合などには、当然に法人税等の

負担も生じることとなります。債務免除益による多額の法人税負担が発生してしまうと、

せっかく再生計画の認可を受けたとしても税負担により資金繰りが悪化し、事業計画が頓

挫してしまうことになりかねません。

そこでこのような場合に法人税負担を軽減し、円滑な再生計画を進める観点から、法人

税法 59 条「債務免除等があった場合の欠損金の損金算入」の規定により、過年度の欠損

金等を損金に算入し、再生段階で生じる免除益等を相殺することが可能となります。

特に民事再生法の適用を受ける場合には、再生手続開始の決定段階で財産評定を実施す

ることで、過年度の欠損金のうち前7年以内よりも前に生じた欠損金(期限切れ欠損金)を

優先的に利用することができますので、その辺りを意識して再生手続を行う必要がありま

す。

3 注意が必要な債務免除益

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

①会社の債務超過状態を解消するため

②会社の財務状況が悪化した場合

③会社再建以外の目的

①会社の債務超過状態を解消するため

事業譲渡することによって、譲渡会社は、その対価として金銭を得ることができます。

多額の債務を抱え経営に行き詰まった譲渡会社が、譲受会社に事業譲渡することによって

得た金銭を債権者に一括弁済し、それまでの債務を精算した上で、あらたな一歩を踏み出

すことができます。

②会社の財務状況が悪化した場合

事業譲渡を行い、その対価によって残りの事業の再建を図ったり、赤字が続き経営不振

の事業部門を別の会社に事業譲渡したりすることによって経営の健全化を図ることもでき

ます。

③会社再建以外の目的

例えば、会社が経営に行き詰まり、再建困難な状況に陥ったとき、このまま会社が潰れ

ると従業員の職がなくなり路頭に迷う、せっかく続けてきた事業が途絶えてしまうという

場合には、事業譲渡することによって、譲受会社で当該事業の存続を図ったり、譲受会社

に従業員の雇用関係を承継させることによって、事業と従業員を守るということもできる

のです。

会社の一部事業を他者に売却する事業譲渡

事業譲渡の目的

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

(1)譲渡会社のメリット・デメリット

メリット

●不採算部門であっても、同業他社の事業にマッチすれば不採算部門の切り離しができる

●不採算部門の売却による企業価値向上(株式価値の向上)が期待できる

●事業、資産、負債のうち、特定の一部の事業を譲渡することができる

●事業譲渡による売却代金が手にできる

デメリット

●資産、負債に移転手続きを個々に対応する必要があり煩雑である

●事業譲渡時に事業譲渡益に対して課税される

(2)譲受会社のメリット・デメリット

メリット

●簿外債務・不良資産を引き継ぐ必要がない

●企業規模が拡大しスケールメリットが受けられる

●買収価額のうちのれん相当額について償却できるため、節税メリットがある。また、

建物などの固定資産についても減価償却できるため、株式取得に比べれば節税メリッ

トがある

●引き継ぐ従業員・契約が限定できる

●引継ぎ時に従業員の退職金を精算できる

●税務上、固定資産の耐用年数に中古資産の耐用年数を使用することができる

デメリット

●買収資金と登録免許税や不動産取得税が必要

●個別の資産や取引ごとに譲渡の手続きを行う必要があり手続きが煩雑

●取引先との契約等がうまく引き継げないリスクがある

●競業避止義務が課される

●許認可の継続ができない

2 事業譲渡のメリット・デメリット

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

(1)承認決議(譲渡会社の手続)

事業譲渡を行うためには、取締役会設置会社においては取締役会の決議が必要です。そ

して、事業の全部の譲渡及び事業の重要な一部を譲渡するためには、株主総会の特別決議

(議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、かつ出席

した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもってなされる決議)が必要となります。

(2)承認決議(譲受会社の手続)

譲渡会社と同様に取締役会の決議が必要になります。次に、譲受会社としては、事業の

譲り受けについて原則として株主総会の特別決議は必要ありません。しかし、譲渡会社の

事業の全部を譲り受ける場合には、譲渡会社と同様に株主総会の特別決議が必要となりま

す。これは、簿外の偶発債務を含む譲渡会社の全債務を引き受ける行為には危険が生じる

おそれがあり、吸収合併の存続会社に近い立場に立つため株主保護の必要性が強いためです。

(3)承認決議(承認決議を欠く事業譲渡の効力)

株主総会の特別決議は株主の保護のための制度であり、事業譲渡が株主に与える影響を

考慮すると、株主総会の特別決議を経ない事業譲渡は原則として無効となるとされています。

(4)事業譲渡契約

事業譲渡は、売買といった取引行為の一種です。法律上契約書の作成は義務づけられて

いませんが、後日の紛争防止のためにも事業譲渡契約書を作成することが一般的です。契

約書作成にあたっては、下記の項目を記載します。

●事業譲渡契約の目的 ●株主総会の事業譲渡承認時期

●譲渡の対象 ●競業避止義務

●譲渡財産 ●従業員の引継

●譲渡価額及び支払方法 ●事情変更に関する規定

●譲渡日時 ●契約の効力発生時期

●移転手続 ●その他関連事項

●譲渡会社管理者としての注意義務

3 事業譲渡の手続き

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

(5)通知・公告

事業譲渡を行おうとする株式会社は、事業譲渡の効力発生日の 20 日前までに、株主に

対して事業譲渡をする旨を通知しなければなりません。ただし、事業譲渡をする株式会社

が、公開会社である場合、株主総会の決議による承認がなされている場合には、公告をす

ることによって通知に代えることができます。事業譲渡に際して、通知または公告が要求

されているのは、事業譲渡に反対する株主に予期せぬ損害を与えないよう後述します株式

買取請求権行使の機会を与えるためです。

(6)反対株主の株式買取請求権

株式会社が事業譲渡をする場合に、事業譲渡に反対する譲渡会社の株主は、譲渡会社に

対して、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます。この

請求権のことを株式買取請求権といいます。

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

債務を会社から切り離すために会社分割を使うことがあります。会社分割は、原則とし

て債権者の同意なしに優良部門を債務から切り離して別会社に移せますので、比較的短期

間でできる事業再生法であるといえます。

(1)会社分割の種類

会社分割は大きく分けて新設分割と吸収分割の2種類があります。

1 会社分割の目的

Ⅴ 不採算部門を切り離す会社分割

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

(2)会社分割の流れ

(3)会社分割のメリットとデメリット

■吸収分割の場合

吸収分割する会社 吸収分割される会社

メリット

①規模のメリット

②営業地域拡大

③異業種取り込み

④競争回避

①不採算部門の切り離し

②成長性の低い部門の切り離し

③事業の縮小均衡

④コア事業への集中

デメリット

①営業力・技術力の見誤り

②社内の意思疎通の低下

③組織の肥大化

④全社的な収益力の低下

①企業の活力の急速な低下

②人材の流出

③ランクの低落

④固定費負担増

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

■新設分割の場合

買い手(継承会社) 売り手(分割会社の既存株主)

メリット

①現金の準備が不要

②資産・契約等の引継ぎが簡便

③利益準備金・剰余金の引継ぎが可能

①一定の要件を満たせば、資産の含み

益に課税されない

デメリット

①不要な資産、偶発債務、簿外債務を

引継ぐ可能性

①税務上の取り扱いが煩雑

②買い手が非上場の場合、入手した株

式の現金化が困難

■会社分割の大きなメリット

●包括承継

会社分割の場合は、債権者に個別の承諾を得ることなく、債務や契約上の地位を包括

的に承継会社に引き継ぐことができます。

●株式の割り当てが可能

分割会社の株主に対して直接承継会社の株式を割り当てることができるようになりま

した。

●資金の準備が不要で

営業譲渡のように金銭で支払う代わりに株式を発行するため、資金の準備の必要があ

りません。

●労働契約の承継

従業員の転籍の際にも従業員の個別の同意が不要です

(1)株主総会での承認、債権者保護手続きなどが必須

会社分割にかかる期間は、通常、最短で2カ月は必要です。まず、取締役会の決定に基

づき分割計画書を作成します。分割計画においては、主に、新会社に承継させる営業及び

権利義務の内容、新会社の定款、分割期日、発行株式の割当事項などを決定します。その

後、分割計画書の承認を得るために、株主総会を招集します。総会で承認が得られたら債

権者に対し、分割に異議があれば申し出るように官報公告し、個別に催告も行います。こ

の債権者保護手続には1カ月強の期間が必要となります。

全ての手続を経て分割期日を迎えたら、最終段階として会社分割の登記を行い、この登

記により会社分割は効力を生じます。

2 会社分割の注意点

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資金繰り

業績悪化・本業生き残りのための各種再建手法

(2)許認可営業や金融機関対策など、会社分割の際の注意点

許認可に関わる営業を分割する場合には、新会社で新たな許可を必要とする場合が多い

こと、金融機関からの借入がある場合には事前内諾をとっておくべきこと、労働者の承継

について法定手続を踏む必要があること等に注意を払う必要があります。

(1)会社分割と同様な経済効果をもたらす事業譲渡

「事業譲渡」と「会社分割」の最大の違いは、事業譲渡の場合は譲渡対象となった権利

義務につき個別の移転手続が必要となるのに対し、会社分割の場合は個別の移転手続が不

要な点にあります。また、事業譲渡では、個々の従業員の同意がなければ、事業に従事し

ている従業員を異動させることができませんが、会社分割では従業員の同意をえることな

く、従業員を異動させることが可能です。

(2)権利関係の移転

事業譲渡では、譲渡会社がもっている免許・許認可は、事業譲渡後、譲受会社が取り直

す必要がありますが、会社分割の場合、業法によっては、譲渡会社がもっている免許・許

認可が承継会社に引き継がれる場合があります。もっとも、全ての許認可が当然に引き継

がれるわけではないので、会社分割制度を利用して、許認可がなければ遂行できない事業

の承継を検討する際は、必ず事前にこの点を専門家に確認することが必要です。

3 会社分割と事業譲渡の違い