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知っておこう中国の土地使用権 2008 4 日本貿易振興機構(ジェトロ)

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Page 1: 知っておこう中国の土地使用権 - JETRO...アンケート返送先 FAX:03-3585-7289 ジェトロ在外企業支援課宛 ジェトロ調査報告書のご利用アンケート

知っておこう中国の土地使用権

2008年 4月

日本貿易振興機構(ジェトロ)

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本報告書の利用についての注意・免責事項 本報告書は、日本貿易振興機構(ジェトロ)北京センターが 2008年 3月現在入手している情報に基づくものであり、その後の法律改正等によって変わる場合があります。また、掲載し

た情報・コメントは筆者及びジェトロの判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのと

おりであることを保証するものでないことを予めお断りします。 ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、付

随的、あるいは懲罰的損害および利益の喪失については、それが契約、不法行為、無過失

責任、あるいはその他の原因に基づき生じたか否かにかかわらず、一切の責任を負いませ

ん。これは、たとえジェトロがかかる損害の可能性を知らされていても同様とします。 本報告書にかかる問い合わせ先:

日本貿易振興機構(ジェトロ)

在外企業支援・知的財産部 在外企業支援課

〒107-6006 東京都港区赤坂 1-12-32

TEL:03-3582-5017

FAX:03-3585-7289

©JETRO 2008 本報告書の無断転載を禁ずる

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アンケート返送先 FAX:03-3585-7289 ジェトロ在外企業支援課宛

●ジェトロ調査報告書のご利用アンケート●

~知っておこう中国の土地使用権~

本報告書をご利用いただき、誠に有難うございました。

ジェトロの今後のサービス向上に向けて、皆様のご意見を伺いたく存じますので、アンケートにご

記入下さいますようご協力をお願い申し上げます。

■ 質問1:本報告書は、日本企業が中国において土地を取得し、工場を建設するにあたって、把握

しておかねばならない法律、手順の基本的な事項について、日本企業担当者向けに読みやすくか

つ分かり易いマニュアルとして作成いたしましたが、どの程度お役に立ちましたか?(○をひと

つ)

4.役に立った 3.まあ役に立った 2.あまり役に立たなかった 1.役に立たなかった

■ 質問2:上記のように判断された理由、またその他本報告書に関するご感想をご記入下さい。

■ 質問3:その他、ジェトロへの今後のご希望等がございましたら、ご記入下さい。

お名前ふ り が な 会社・

団体名

部署名

役職

住所

TEL

FAX

E-mail

URL

★今後、お客様のご関心のあると思われるジェトロおよび関係機関の各種事業、アンケート調査

等のご案内の可否につき、該当欄に☑をご記入願います。

< 送付可 □ 送付不可 □ >

★ご記入頂いたお客様の情報は適切に管理し、ジェトロのサービス向上のために利用します。

お客様の個人情報保護管理者:在外企業支援課長 TEL:03-3582-5017

ご協力有難うございました。

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はじめに 中国における土地使用権は、非常に独特な制度となっております。このため、日本企業にお

いては、理解不足のまま土地を取得し、トラブルが発生するようなケースもございます。また、

近年は、中国政府は開発区の整理整頓の実施、土地管理に関する各種通知を公布しており、日

本企業担当者の注意すべき事項は従来より多くなっております。 そこで本調査では、日本企業が中国において土地を取得し、工場を建設するにあたって、把

握しておかねばならない法律、手順の基本的な事項、注意点及び問題点、ケーススタディつい

て、日本企業担当者向けに読みやすくかつ分かり易いマニュアルを作成致しました。 本資料はジェトロ北京センターが KLO投資コンサルティング(上海)有限公司に依頼し取

りまとめたものです。皆様のご参考になれば幸いです。

2008年 4月 日本貿易振興機構(ジェトロ)

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目 次

第1章 中国における土地使用権について

一.中国の土地の概念及び種類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

Ⅰ.土地の概念

Ⅱ.土地所有権の帰属

Ⅲ.土地の種類

1.国有土地と集団所有地

2.農業用地、建設用地及び未利用地

二.中国の土地使用権の概念 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

Ⅰ.土地使用権とは

Ⅱ.国有土地使用権

1.はじめに

2.払下土地使用権

3.割当土地使用権

4.まとめ

Ⅲ.集団土地使用権

1.はじめに

2.性質及び制限

3.集団所有地の収用と農業用地

三.土地政策に関する基本法規 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

四.最近の土地管理重要政策と法規 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

1.2004年に公布された規定

2.2006年に公布された規定

3.2007年及び2008年に公布された規定

第2章 中国における外国企業による土地使用権の取得・工場の建設について

一.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

二.一般的な土地使用権取得、工場建設の手続き及び留意点・・・・・・・・・・・ 12

Ⅰ.土地使用権の取得

1.払下方式により土地使用権を取得する方法

2.譲渡により土地使用権を取得する方法

3.現物出資により土地使用権を取得する方法

Ⅱ.工場の建設

1.はじめに

2.工場建設の手続き

3.留意点

三.既存の工場を利用する場合の手続き及び注意点・・・・・・・・・・・・・・・ 30

Ⅰ.手続き

Ⅱ.留意点

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1.所有権者の確認

2.契約内容の明確化

3.土地使用権の確認

四.M&Aにおける土地使用権の取得の際の留意点・・・・・・・・・・・・・・・ 31

Ⅰ.中国国内企業の買収と土地使用権

Ⅱ.留意点

1.権利帰属についての確認

2.都市計画についての確認

第3章 ケーススタディの検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

1. 土地取得にかかわる重要な留意点は?

2. 購入していい開発区とそうでない開発区の違いは?

3. 集団所有地は購入することができるのか?

4. 農業用地の土地使用権を取得することができるのか?

5. 土地使用権を取得したが、工場建設が着工しないままの状態になっている。

この場合、土地の返却を求められたりしないか?

6. 実際に土地を使用しているものの、土地使用権証は未だに発行されないがどうすればよい

か?

7. 既に他の企業が使用している土地を譲り受けるが、その場合の手続きと留意点は何か?

8. 工場を拡張したいがどうすればよいか?

9. 親会社の中国法人の敷地内に別法人で工場を設立したいと考えているが、問題ないか?

10. ストックスペース(倉庫)としての利用は可能か?

11. 土地使用権は担保となりうるのか?

12. 合弁企業を独資化する場合の土地使用権の変更はどのように行えばよいか?

13. 立ち退きを迫られているがどうすればよいか?

14. 土地使用権の期間が満了した場合はどうなるのか?

15. 会社を清算するために土地使用権を売却したい。その際の税金はどのように計算されるの

か?

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1

第1章 中国における土地使用権について

一.中国の土地の概念及び種類

Ⅰ.土地の概念

中国では、日本の不動産にあたる言葉として「房地産」という言葉があります。房地産には、土

地及び土地上の建物、それに付随する物及びその他の権利が含まれます。

法律上の土地の概念については、条文上で明確に規定されているわけではありませんが、一般的

には、中華人民共和国の国境内における一切の土地をいう1とされています。そして、中華人民共

和国(以下、特段の記載がない限り、中華人民共和国の法律を指します)土地管理法第4条では、

土地を用途の観点から農業用地、建設用地及び未利用地の3種類に分類し、その具体例として、耕

地、林業地、工業鉱業用地等を挙げています2。このような土地についての概念は、日本において

もそれほど違いがあるわけではありません。

しかし、その土地を誰が所有しているのか、法的にどのような手続をとれば利用できるのかにつ

いては、日本と中国では全く異なっています。

Ⅱ.土地所有権の帰属

中国では、社会主義公有制の下、中国の全ての土地が全人民所有、すなわち国家所有又は農民の

集団所有に属するとされています。具体的には、土地管理法第8条では、「都市の中心区域の土地

は、国の所有に属する。農村の土地及び都市の郊外地区の土地は、法律の規定により国の所有に属

する場合を除き、農民集団所有に属する。宅地3、自留地4及び自留山5は農民集団所有に属する」と

規定しています。そのため、土地については、国家による所有及び農民による集団所有を並存させ

た制度を採用しています。

Ⅲ.土地の種類

1 「土地管理法及配套规定新释新解(上)」(人民法院出版社、P18) 2 但し、憲法第9条、第10条では、土地と鉱物資源は別個に規定されており、土地にはその地下に含まれる鉱物資源は含まれません。そのため、例えば、土地使用権を取得したとしても、その土地の地下にある鉱物資源まで自由に使用できるわけではあ

りません。 3 「宅地」とは、農民が自己の住居及びその付属設備を建築するために用いる一定範囲の土地を意味します(「土地管理法及配套规定新释新解(上)」(人民法院出版社P114)、以下、脚注4、5も同じ。)。 4 「自留地」とは、中国の農業集団化(中国語:合作化)以後、農民集団経済組織によりその組織構成員(村民)に分配され、当該組織構成員による長期間の自己使用が認められた土地を意味します。 5 「自留山」とは、「自留地」と同様に、農民集団経済組織によりその組織構成員に分配され、当該組織構成員による長期間の自己使用が認められた山地を意味します。

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1.国有土地と集団所有地

Ⅱ.で記載したように、中国の土地は、国有か農民による集団所有のいずれかですが、具体

的にどのような土地が国有又は農民による集団所有になるのかについては、法律上、以下のと

おりとされています。

(1)国有とされる土地(土地管理法実施条例第2条)

・ 都市部の土地

・ 農村及び都市郊外地域において、既に法により没収され、徴収され、又は強制購入され

て国有となった土地

・ 国が法により収用した土地

・ 法により集団所有に属しない林地、草地、荒地、干潟及びその他の土地

・ 都市・鎮の住民となった農村集団経済組織の全部の構成員が従来集団所有していた土地

・ 国による住民移動又は自然災害等の事由により、農民が集団的に移転した後に使用しな

くなった土地で、従来は移転した農民の集団所有に属していたもの

(2)農民による集団所有とされる土地(土地管理法第8条)

・ 農村および都市郊外地域の土地で、法律の規定により国有となる場合を除くもの

・ 宅地、自留地及び自留山

2.農業用地、建設用地及び未利用地

上記1にいう国有土地と集団所有地は、その所有権の帰属主体という観点から区分されるも

のですが、用途という観点から区分する場合、農業用地、建設用地、未利用地に分けられます。

農業用地とは、農業生産に直接用いられる土地を指し、耕地、林業地、草地、農田水利用地、

養殖池等を含みます。建設用地とは、建設物や構築物を建造する土地を指し、都市住宅及び公

共設備用地、工業鉱業用地、交通水利設備用地、観光用地、軍事施設用地等を含みます。さら

に、未利用地とは、農業用地及び建設用地以外の土地を指します(土地管理法第4条3項)。

中国では土地資源の合理的利用を確保するため、土地利用総体計画を定め、土地の用途区域

を確定し、土地使用の制限条件を定めています。そして土地を使用する単位及び個人は、必ず

土地利用総体計画が確定する用途に従って土地を使用しなければなりません。土地利用総体計

画に基づいて確定された土地の用途については、一般的には変更することができず、土地の用

途を変更する必要がある場合は、法律に従って関連の行政主管部門の許可を経て土地登記変更

手続きをしなければなりません(土地管理法第12条)。特に、建設用地は土地利用総体計画の

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確定する用途に必ず符合しなければならず、また審査許可手続きを経ない限り農業用地から建

設用地への転換は認められておらず、建設用地としての土地利用の全体量は厳格にコントロー

ルされています。また、農業用地の中でも、特に耕地については特別の保護が与えられていま

す(土地管理法第4条2項)。

したがって、中国で工場を建設しようとする場合は、購入予定の土地の用途が建設用地であ

ることを確認した上で土地使用権の取得手続きを進める必要があります。

二.中国の土地使用権の概念

Ⅰ.土地使用権とは

中国の土地は、国有土地及び集団所有地に分けられており、それぞれの土地は国家所有又は農民

の集団所有とされています。そして、所有権者はその土地を自ら使用することが認められ、また法

律に従って、自分以外の単位又は個人に使用させることも認められています(土地管理法第9条)。

このように、土地の所有権を前提として、その土地の利用権限を法律上の権利として認めたものが

土地使用権といえます。

土地使用権は、国有土地を対象とした国有土地使用権と、集団所有地を対象とした集団土地使用

権に分かれますが、その具体的な権利の内容は全く異なるものです。そこで、以下、①国有土地使

用権、②集団土地使用権に分けて説明していきます。

Ⅱ.国有土地使用権

1.はじめに

国有土地については、以前は、国家行政機関から使用者に土地が割り当てられ、無償、無期

限で土地を使用することが認められていました。

しかし、当時の国有土地使用権はあくまで土地所有権の一部の権能に過ぎないと考えられて

おり、土地所有権から独立させて土地使用権を譲渡、賃貸し、あるいはこれに対して抵当権設

定等の処分をすることは認められていませんでした。そして、このような土地使用権の割当制

度は、中国での土地利用、建物建設等にともなう資金の調達の妨げとなり、特に都市部におけ

る経済発展の阻害要因となっていました。

そこで、経済活動を円滑にするために国有土地使用制度の改革が行われ、その結果、有償の

期限付き土地使用権(払下土地使用権)の制度ができました。そして、現在、国有土地使用権

は、その国有土地の取得方式により、払下土地使用権と割当土地使用権に分けられています。

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この両者の国有土地使用権は、その取得方式だけではなく、取得後の使用方法、転売の可否等

について異なっています。

2.払下土地使用権

(1)意義

払下土地使用権とは、国家により一定期間を定めて土地使用者に払い下げられ、土地使用

者が国家に対して払下金を支払うことにより取得する国有土地使用権をいいます(都市不動

産管理法第8条)。払下は、従来、入札、競売又は双方の協議により行われていましたが、2

007年の法改正により、入札、競売、公示による払下に限定されましたので、現在では協

議による払下方式は禁止されています。

払下土地使用権を取得した場合、払下契約で定めた使用期間内において、対象土地の使用

権を譲渡、相続、賃貸し、あるいは抵当権の設定などの処分を行うことができます。

(2)使用年限

①最高使用年限

上記のとおり、払下土地使用権に基づく土地使用には期間の制限があります。都市不動

産管理法第13条及び都市部の国有土地使用権の払下及び譲渡に関する暫定条例(以下、

「払下譲渡暫定条例」といいます)第12条によれば、国有土地払下げの最長使用年限は

以下のとおりとなります。

・ 居住用地:70年

・ 工業用地:50年

・ 教育、科学技術、文化、衛生、スポーツ用地:50年

・ 商業、観光、娯楽用地:40年

・ 総合又はその他の用地:50年

このように国有土地払下げの最長使用年限は、土地の用途によって個別に規定されてい

ます。例えば、商業、観光、娯楽用地については、土地使用による収益率が高く短期間で

投資コストの回収ができると考えられるため、上記の中で最も短い使用年限を規定してい

ます。これに対して、居住用地については、土地利用により営利活動を行うわけではない

ことから、その投資コストの回収には長期間を要すると考えられますので、最も長い使用

年限を規定しています。

外国企業が中国において土地使用権を取得するのは、(1)生産企業が工場建設のために

土地使用権を取得する場合、(2)商業企業が商業施設を建設するために土地使用権を取得

する場合、のいずれかが多いと思われます。上記(1)の場合、対象土地は工業用地とな

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り、その最長使用年限は50年になります。これに対し、上記(2)の場合、対象土地は

商業用地となり、その最長使用年限は40年となります。

②期間の延長

法により土地使用権の最長使用年限が規定されている以上、実際に国有土地使用権の払

下契約を締結する際も、その契約書上の使用期間は、上記最長期間の範囲内となります。

では、払下契約書上で規定した土地使用権の使用期間が満了した場合は、どうなるのでし

ょうか。

この場合、払下契約で約定する使用期間が満了し、土地使用者が引き続き土地を使用す

る必要がある場合には、土地使用者は、遅くとも期間満了の1年前までに更新を申請しな

ければなりません。そして、更新の許可を受けた場合は、改めて土地使用権払下契約を締

結し、規定に従い土地使用権払下金を納付しなければなりません(都市不動産管理法第2

1条)。

このように、使用期限の延長のためには、更新手続及び土地使用権払下契約の再締結が

必要となります。

これに対して、土地使用権払下契約で約定する使用期間が満了し、土地使用者が更新を

申請しない、又は更新を申請したものの更新の許可を得られない場合には、土地使用権は

国により無償で回収されることになります。

3.割当土地使用権

(1)意義

割当土地使用権とは、割当方式によって取得した国有土地使用権を言います。ここでいう、

割当方式とは、県レベル以上の人民政府による許可に基づき、当該人民政府が対象区画の土地

を土地使用者に引き渡して使用させことをいいます(都市不動産管理法第22条1項)。割当方

式では、土地使用者が何らの費用も払う必要がない場合と、土地の引渡前に、土地使用者が補

償並びに移転等の費用を納付しなければならない場合があります(同項参照)。

人民政府により割当が認められるのは、①国家機関の用地、軍用地、②都市インフラ用地及

び公共事業用地、③国が重点的に支援するエネルギー、交通、水利等のプロジェクト用地等の

公益的な性質を有する使用形態になります(都市不動産管理法第23条)。

割当土地使用権の公益的な性質により、割当土地使用権者は土地使用の対価を支払う必要が

ありません。また、土地を割り当てられた使用者が土地を使用することに重点がおかれている

ため、例外的に法が規定する場合を除き(都市不動産管理法第39条)、当該土地使用権を譲渡

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し、賃貸し、又は抵当権を設定することはできません。

このように、割当土地使用権にはその公益的な性質に基づく様々な制限があることから、仮

に使用形態が割当の要件をみたしていたとしても、実質的には、外商投資企業が自らの製品工

場等を建設する目的で割当土地使用権を利用することは原則としてできないといえます。

(2)使用年限

割当土地使用権は、人民政府の許可を経た上で、上記のような特定の土地利用目的のために

使用を許される権利であって、公益的な性質を有していることから、法律、行政法規で別途定

めている場合を除き、割当土地使用権の使用年限には制限はありません。

4.まとめ

これまで見たように、払下土地使用権と割当土地使用権は、様々な違いがありますが、整理

すると主に以下の4つの相違点があると考えられます。

(1)公益的性質の有無

払下土地使用権の取得には、入札、競売、公示等の方式を経て払下契約を締結すること

が必要とされますが、その使用形態に特段の制限はありません。

これに対して、割当土地使用権の取得は、県レベル以上の人民政府の審査許可が必要と

なります。そして、割当が認められる土地の使用形態は、公益的な性質を有するものに限

定されます。

(2)有償・無償

(1)に記載したように、払下土地使用権の取得には対価を支払う必要がありますので、

有償ということになります。

これに対して、割当土地使用権の取得には対価は不要であり、無償であるといえます。

(3)使用年限の有無

有償である払下土地使用権の場合はその用途に応じて土地の使用年限が定められていま

す。

これに対して、無償である割当土地使用権の場合は、使用年限はありません。

(4)流動性の有無

払下土地使用権は、国有土地利用の活性化、特に都市部の経済活動を発展・促進させる

ことを本来的な目的としていますので、その譲渡、賃貸、抵当権設定等は認められていま

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す。

これに対して、割当土地使用権は、そもそも土地の使用形態が制限されており、国有土

地利用の活性化をはかる必要がないため、特に法律、行政法規に規定がない限り、譲渡、

賃貸、抵当権の設定は認められていません。

このように、払下土地使用権と割当土地使用権については、国有土地を取得するという点では

共通していても、多くの違いを有しています。従って、日本企業が中国で工場を建設するための

土地を探す場合には、必ずその土地及びその土地使用権がどういった性質を有するのかを確認す

る必要があります。

Ⅲ.集団土地使用権

1.はじめに

集団土地使用権とは、各農村にある経済組織に属する農民が、法律に基づいて共同で所有す

る集団所有地を占有し、使用し、その土地からの収益をあげる権利をいいます。

2.性質及び制限

集団土地使用権は、法律により認められた土地使用権である点では、国有土地使用権と共通

しています。

しかし、集団所有地は、そもそも各農村の経済組織に属する農民が共同して農業を営み、農

民の経済生活を豊かにすることを目的としてその集団所有を認められた土地です。このような

目的から、払下げ等により土地の円滑な流動が認められている国有土地使用権とは大きく異な

ります。

具体的には、集団土地使用権には、以下のような制限があります。

① 集団所有地の利用範囲

集団所有地は、農業用地だけではなく、農民の住宅地、郷鎮企業の建物建設等の建設用地と

して使用することも認められています。

もっとも、建設用地として使用する場合は、郷鎮の土地利用総合計画や土地利用年度計画に

適合し、かつ農業用地から建設用地への転換手続き及び県レベル以上の人民政府による許可が

必要とされており(土地管理法第59条)、建設用地としての使用には厳格な規制があります。

② 集団所有地の処分

集団土地使用権は払下、譲渡、又は非農業建設用への賃貸が禁止されています(土地管理法

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第63条)。そのため、集団土地使用権の払下、譲渡等の必要がある場合には、国家による収用

手続きを経て国有土地に転換し、その国有土地の土地使用権について払下げを受けることにな

ります。

したがって、例えば、外国企業が、集団所有地の土地使用権を取得して工場を建設するよう

な場合には、まず国家の収用手続きを通じてその集団所有地を国有土地に転換し、その後で払

下方式により当該国有土地の使用権を取得することになります。

3.集団所有地の収用と農業用地

集団所有地上に工場等を建設する場合、まず国家による収用手続きを通じて当該集団所有地

を国有土地に転換する必要があります。

もっとも、集団所有地は、そもそも農民が共同で農業を営むことを目的としているため、そ

の用途は農業用地であることが多いといえますが、農業用地の収用については、土地の収用に

先立って農業用地から建設用地への転換手続きを行わなければなりません(土地管理法第45

条3項)。

そのため、集団所有地上に工場等を建設する場合、集団所有地の用途を確認の上、農業用地

の場合には、土地収用手続きと同時に農業用地から建設用地への転換手続を行われなければな

らないことについても注意しておく必要があるといえます。

三.土地政策に関する基本法規

中国の不動産に関しては、古くから多くの法令がありますが、土地使用権の払下、譲渡を認め

る現在の不動産関連法令は、1988年の修正憲法に基づいて制定・修正されています。そこで、

以下、主な関連法令を簡単に紹介いたします。

・ 土地管理法及び土地管理法実施条例

土地管理法及びその実施条例は、土地資源の合理的な利用と耕地の保護という観点から、1

988年の修正憲法と同時期に制定された法令です。そして、土地管理法は、土地管理に関す

る基本法となり、土地使用権の払下げについても規定していますが、その具体的な内容につい

てまでは規定していません。

・ 払下譲渡暫定条例

1990年5月19日に施行された払下譲渡暫定条例は、行政の最高機関である国務院が、

土地使用権の払下、譲渡等による土地資源の経済的活用を目的に、その払下及び譲渡に関する

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具体的な内容、手続きを制定したものです。払下譲渡暫定条例では、国有土地使用権の払下、

譲渡等について具体的に規定しており、土地使用権を取得する際には、主に払下譲渡暫定条例

に従うことになります。

・ 都市不動産管理法

1988年以降、土地使用権の払下、譲渡等を通じて不動産に関する経済活動が活発になっ

てきました。そのため、中国における不動産取引全般を総合的に整理し、規律することを目的

として、1995年1月1日に、中国の立法機関である全国人民代表大会により、都市不動産

管理法が施行されました。都市不動産管理法は、払下譲渡暫定条例と共に国有土地使用権の払

下、譲渡の手続きを規定すると同時に、不動産の開発、取引の全般にわたって規定しており、

現在の不動産法制の基本法となります。

四.最近の土地管理重要政策と法規

中国における土地使用権の管理は、上記三のような基本法規に基づき行われることになります。

もっとも、2000年以降、土地使用権の無秩序な取引、土地の乱開発等により、中国国内の土

地管理に大きな混乱が見られるようになってきました。そのため、中国政府は、近年、土地管理

を強化するために各種の規定を公布しています。具体的には、2004年、2006年及び20

08年に重要な規定が公布されていますので、以下、各規定について説明します。

1.2004年に公布された規定

(1)「国務院の改革を深め厳格に土地を管理することに関する決定」【国発(2004)28号】

(2)「国務院の土地市場管理を粛正し厳格な土地管理を実施する問題に関する緊急通知」【国弁

発明電(2004)20号】

(3)「工業プロジェクト建設用地のコントロール指標(試行)の公布及び実施に関する通知」

【国土資発(2004)232号】

2004年に中国政府は、土地の乱開発に対する整理を進めるために、新規批准申請受理

の一時停止、新規土地使用権譲渡契約締結の一時停止といった強い姿勢を打ち出しました。

上記(1)及び(2)の規定は、その一環として公布されたものであり、国務院による政策

方針の提示といった内容になっています。これらの規定等は、国土資源部その他の関係部門

が、全国の土地問題について調査を開始するきっかけとなり、この時期から中国政府の土地

問題に対する管理強化が始まりました。

上記(3)の通知では、建設用地の効率的な利用と工業プロジェクトにおける建設用地管

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理の強化のために、「投資強度」1、「容積率」等、4つのコントロール指標が設定されており、

工業プロジェクトにおける建設用地は、4つのコントロール指標をすべて満たすことが要求

されています。

2.2006年に公布された規定

「国務院の土地調整コントロールの強化の関係問題に関する通知」【国発(2006)31号】

2004年以降、土地管理に関する国務院の政策は継続していましたが、この通知は、当該

政策をより具体的な原則として提示したものといえます。この通知の中では、主に以下の原則

を打ち出しています。

(1)土地管理及び耕地保護の責任の明確化

(2)土地払下げの収支管理の規範化

(3)建設用地の関連税目の調整

(4)建設工業用地の払下最低基準の統一化

(5)農業用地から建設用地への無断転化の禁止

(6)土地管理行為の監督に対する検査の強化

3.2007年及び2008年に公布された規定

(1)「国土資源部の休閑地処理を強化することに関する通知」【国土資電発(2007)36号】

「国土資源部の休閑地処理を強化することに関する通知」は、2007年9月8日に、国

土資源部により公布されたものです。この通知は、上記の一連の土地管理強化政策の中で、

特に地方の開発地域に休閑地2が多く存在することが浮き彫りになってきたことから、その休

閑地に対する処理を強化する旨を規定したものです。

なお、当該規定は、休閑地の処理方法に関する区別基準を具体的に規定しているわけでは

ありませんが、ここ数年の土地管理強化政策の中で浮き彫りになった休閑地問題に対して土

地管理部門が本格的に乗り出すことを表明した通知といえ、次の「国務院の土地利用の節約

と集約を促進することに関する通知」に繋がるものといえます。

(2)「国務院の土地利用の節約と集約を促進することに関する通知」【国発(2008)3号】

「国務院の土地利用の節約と集約を促進することに関する通知」は、2008年1月7日

に、国務院により公布されたものであり、土地利用の節約と効率化のために、土地使用権に

関わる様々な方針を提示しています。具体的には、例えば、割当用地の範囲の厳格な管理、

1「投資強度」とは、プロジェクト用地における単位面積あたりの固定資産投資額(計算式:投資強度=プロジェクト固定資産総投資額÷プロジェクト総用地面積)をいいます。上記(3)の通知では、全国の各都市を細かく区分した「地区分類」と、各プ

ロジェクトを業種別に区分した「業種番号」によって具体的なコントロール指標が決められています。

2 「休閑地」とは、土地使用権者が、用地許可をした原人民政府の同意を得ることなく、規定した期限を超過してもその建設開発に着工しない建設用地をいいます(「休閑地処理弁法第2条参照」)。

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都市のインフラ設備等に対する有償使用の積極的な導入、工業用地の入札・競売・公示払下

制度の実施等を規定しています。

その中で、特に外商投資企業にとって重要と思われる規定の一つとして、休閑地の回収等

に関する規定(第6条)が挙げられます。この規定は、休閑地の有効活用という観点から規

定されたものですが、具体的には、1年以上2年未満の休閑地に対しては払下価格等の20%

の休閑費用を徴収し、2年以上の休閑地に対しては無償回収するというものです。

このような休閑地に対する休閑費用の徴収や長期間不使用の場合の無償回収は、既に都市

不動産管理法等で規定されていました。しかし、休閑費用を徴収したり、無償回収をするこ

とは、外国企業の誘致にとっては障害となることもあり、実際に実施されることは少ないこ

とから、結局、休閑地を効率的に利用できない状態が続いていました。そのため、2007

年に、上記の「国土資源部の休閑地処理を強化することに関する通知」が出され、さらに、

「国務院の土地利用の節約と集約を促進することに関する通知」により、改めて休閑地に対

する管理強化を打ち出す方針が明示されました。そして、「国務院の土地利用の節約と集約を

促進することに関する通知」の第6条では、各地方の関連部門が休閑地について調査の上国

務院に対して報告する旨を規定しており、今後休閑地に対する政府の対応が厳格になること

が予想されます。

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第2章 中国における外国企業による土地使用権の取得・工場の建設について

一.はじめに

第2章では、実際に外国企業が中国に進出して土地使用権を取得し、かつ工場を建設するために

は、どのような方法があり、それぞれ具体的にどのような手続きをとる必要があるのか、そしてど

のような留意点があるのかについて説明していきます。

外国企業が中国で工場を建設する場合、

◆ 土地使用権を取得し、かつその土地上に工場を建設する方法

◆ 既にある工場を賃借する方法

の2つのケースが考えられますので、それぞれ、項目を分けてご説明します。

二.一般的な土地使用権取得、工場建設の手続き及び留意点

Ⅰ.土地使用権の取得

日本企業が中国において製品を生産するために工場を建設しようとする場合、まず現地で外商

投資企業を設立し、当該外商投資企業が土地使用権を取得して、その後当該土地上に工場を建設

するのが一般的です。

この場合、外商投資企業が土地使用権を取得するためには、主に以下の方法が考えられます。

◆ 払下方式により土地使用権を取得する方法

◆ 譲渡により土地使用権を取得する方法

◆ 現物出資により土地使用権を取得する方法

以下、それぞれの方法ごとに、基本的な手続きの流れを説明していきます。

1.払下方式により土地使用権を取得する方法

外国企業が新たに工場を建設する場合、払下方式により土地使用権を取得すれば、一定の期

間において自由に譲渡等の処分ができることから、払下土地使用権を取得するケースが一般的

であると思われます。

なお、集団所有地についても、法律の規定に従って収用手続きを経て国有土地に転換した場

合は、払下方式により当該土地の使用権を取得することが認められますが、結局は払下土地使

用権を取得することになりますので、国有土地への転換後は同じ手続となります。

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払下土地使用権を取得するための手続は以下のとおりです。

① 払下げの方式

払下げにより土地使用権を取得する場合、その払下の方式としては、従来、(ⅰ)競売、

(ⅱ)入札募集、(ⅲ)当事者双方による協議方式が認められていました(払下譲渡暫定条

例第13条)。

しかし、特に、工業用地については、地方政府が企業を積極的に誘致して地方の経済を

発展させるために、(ⅲ)の方式を通じて、不当に払下価格を引き下げて土地使用権の払下

を行う等、土地使用権の不正な流出が問題となっていました。

そのため、2006年8月、「国務院の土地調整コントロールの強化の関係問題に関する

通知」が公布され、それに基づき、2007年4月に「工業用地の入札募集、競売、公示

による払下制度の実行に関する問題についての通知」(以下、「払下通知」といいます)、2

007年9月に「入札募集、競売、公示による国有建設用地の払下げに関する規定」(以下、

「払下規定」といいます)が公布されました。その結果、工業用地の土地使用権の払下げ

については、上記(ⅰ)、(ⅱ)及び公示による払下げを採用しなければならなくなり、従

来認められていた上記(ⅲ)が禁止されることになりました(払下通知第2条、払下規定

第24条)。

なお、競売方式、入札募集方式及び公示による払下げ方式は具体的にはそれぞれ以下の

ように進められます。

(ア)競売方式では、各市、県人民政府国土資源部行政主管部門(以下、「払下人」とい

います)が競売公告をし、競買人が指定の時間、場所において公開の競りを行い、提示価

格の高低により落札者を決定することになります。

(イ)入札募集方式では、入札期日までに入札希望者に入札書を投函させ、払下人が入

札書の内容を評価し、入札評価の結果に基づいて落札者を決定することになります。入札

募集方式の場合、競売方式とは異なり、入札価格の高低だけではなく、その他の総合的な

条件を加味して落札者を決定することもできます。

(ウ)公示による払下げは、公示価格の高低により買受人が決定される点では、競売方

式と共通しています。しかし、公示による払下げの場合は、10日以上の価格公示期間が

設けられ、その期間内に価格申出があれば随時公示価格が更新されます。そして、期間終

了後に、当該時点での公示価格を前提に競りを希望する者がいる場合には、その時点から

競りが行われます。

② 払下げの手続き

本項では、土地使用権の払下について、基本的な手続を説明していきますが、払下方式

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については、各地方で具体的な地方規定を公布していることがあるため、場合によっては

以下の流れを部分的に変更していることもあります。従って、実際の払下を受ける場合に

は、各地方の規定を具体的に調査する必要がありますので、ご注意下さい。

(ア)手続きについての解説

a)年度払下計画の作成・公表

まず、払下人により、国有土地使用権払下の年度計画が作成され、同級の人民政府の

承認を経て、同年度計画が公表されます。

b)土地払下方案の作成

a)の年度払下計画に従って、払下人により、土地の払下方案や、入札募集、競売、

公示による払下文書が作成されます。

c)公告

入札募集、競売又は公示の開始日の20日前までに、払下人により、指定の場所、メ

ディア等を通じて入札募集、競売又は公示を行う旨が公告されます。この公告では、具

体的に以下の事項が公表されます(払下規定第9条)。

◆ 払下人の名称及び住所

◆ 払下土地の面積、境界、範囲、現状、使用年数、用途、規格指標条件

◆ 入札者、競買人の資格条件及び入札、競買資格の申請取得方法

◆ 入札募集、競売、公示払下文書を入手する時間、場所及び方法

◆ 入札募集、競売、公示の時間、場所、入札公示の期限、入札及び価格競りの方

法等

◆ 落札者、買受人を確定する基準と方法

◆ 入札、競買保証金

d)参加申請及びこれに対する通知

上記の公告がなされた後、払下を希望する自然人、法人及びその他の組織は、入札

募集、競売、公示による払下について、所定の入札、競買保証金を支払い、参加申請

を行います。

<参加申請に必要な主な書類(法人)>

◆ 申請書

◆ 法人組織の有効な証明書

◆ 法定代表者の有効な身分証明書

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◆ 保証金納付証書

◆ 入札、競売、公示に関する文書の規定により提出の必要のあるその他の文書

これに対して、払下人は、上記公告に定める条件に合致する申請者に対して、入札、

競売等への参加を認める通知を行うことになります。

e)入札募集、競売、公示払下げ

払下げの公告で記載された期日に入札募集、競売、公示による払下げの各手続きが

行われますが、例えば、競売の場合は以下のとおりとなります。

◆ 主催者が、競売地の面積、境界、範囲、現状、用途、使用年数、規格指標条件、

工事開始及び竣工の時期並びにその他の関連事項を紹介する。

◆ 主催者が、開始価格並びに価格上げ幅等について説明する。

◆ 競買人が札を上げて承諾価格又は申出価格を提示する。

・競買人の最高承諾価格又は申出価格が最低価格に達しない場合、主催者は競売

を終了しなければなりません。

◆ 主催者が、同一の承諾価格又は申出価格を連続3回発表しても、更なる承諾価

格又は申出価格の提示がない場合、主催者は競売の成立を決定する。

◆ 主催者が、最高承諾価格又は申出価格の提示者を落札者として発表する。

f)落札通知、取引成立確認

払下人は、落札者に対して落札通知書を発行し、又は買受人と取引成立確認書を締

結しなければならない。落札通知書又は取引成立確認書には、以下の記載がされてい

ます。

◆ 払下人及び落札者又は買受人の名称

◆ 払下対象

◆ 取引成立時間、場所、価格

◆ 土地使用権払下契約を締結する日時、場所

g)土地使用権払下契約書の締結

落札者、買受人は、落札通知書又は取引成立確認書に約定する時間において、払下

人と国有土地使用権の払下契約を締結しなければなりません(払下規定第21条)。そ

の際に、落札者、買受人が支払った入札、競売保証金は、土地払下代金の一部に当てら

れます。

なお、払下契約の締結にあたっては、以下の点に留意する必要があります。

・ 書面による払下契約を締結する必要があり、契約書上、その払下げの土地の用途、

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使用期間その他の条件が明確でなければなりません(都市不動産管理法第14条)。

・ 払下契約を締結する外商投資企業は、払下契約締結後60日以内に全ての土地使用

権払下金を納付しなければなりません。支払いを遅延した場合、払下人である土地管

理部門は、契約解除及び違約賠償を請求することが認められています(都市不動産管

理法第15条)。

・ 外商投資企業が払下契約の約定に従い、土地使用権払下金を納付した場合には、市、

県の人民政府土地管理部門は、払下対象の土地を引き渡さなければなりません。引渡

しを遅滞した場合は、土地使用者である外商投資企業は、契約の解除、払下金の返還

及び違約賠償を請求することができます(都市不動産管理法第16条)。

・ 各払下土地の最高使用年限については、払下譲渡暫定条例第12条で規定されてお

り、工業用地の場合は50年とされています。

・ 払下契約に記載されている払下人が、本当に土地使用権の払下権限を有しているか

を確認する必要があります。すなわち、払下対象の土地の所有者は国ですので、払下

契約を締結するのは、国から授権を受けた土地管理部門であって、それ以外の者が契

約当事者となることは原則としてできません。

・ 外商投資企業名義の土地使用権証の発行を受けなければ、土地使用権が当該外商投

資企業のものであることを主張することができませんので、払下契約書の締結にあた

っては、契約書上で国有土地使用権証の発行時期について明確に記載しておく必要が

あります。

h)払下契約の登記

外商投資企業は、土地使用権払下金を全額支払った後、規定に従って登記を行い、土

地使用権証を受領することになります(払下規定第23条1項)。

具体的には、県レベル以上の地方人民政府の土地管理部門に登記を申請し、当該土地

管理部門が確認した後で、同レベルの人民政府が土地使用権証を交付します(都市不動

産管理法第60条1項)。

i)土地の使用及び変更

土地使用権の払下げを受けた外商投資企業は、当該土地の都市計画及び払下契約の約

定に従って土地を使用し、開発期限に従って土地開発を行わなければなりません。契約

に従った期限及び条件どおりに土地を開発、利用しない場合は、市、県の人民政府の土

地管理部門は、これを是正させなければならず、かつ情状に応じて警告、過料、さらに

は土地使用権の無償回収の処罰をすることができます(払下譲渡暫定条例第17条)。

そのため、例えば、当初計画していた工場建設が延期になり長期間着工しないような場

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合は、期限及び条件どおりに土地を開発、利用しないと判断されて処罰される可能性が

あります。

また、土地の使用権者が、払下契約に定める土地の用途を変更する場合は、払下人の

同意を得ると同時に、土地管理部門と都市計画部門の許可を受け、改めて土地使用権の

払下契約を締結し、土地払下金を調整し、且つ変更登記を行わなければなりません。

(イ)基本フローチャート

土地払下方案の作成

参加申請及びこれに対する通知

公 告

土地使用権の登記、土地使用権証の取

落札通知、取引成立確認

土地使用権払下契約書の締結

土地の使用及び変更

入札募集、競売、公示払下げ

年度払下計画の作成、公表

2.譲渡により土地使用権を取得する方法

上記のとおり、国有土地使用権の取得にあたっては、払下方式によって土地使用権を取得

するのが一般的ですが、最近では、既に多くの土地が払下方式によって各企業等に払下げら

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れており、工場を建設したい土地についても、既に別の企業等が土地使用権者となっている

ことも珍しくありません。しかし、払下国有土地使用権は、本来自由に譲渡可能であって、

当事者が合意すれば土地使用権者から払下土地使用権を譲り受けることも可能なはずです。

そして、中国の法律でも、外商投資企業が、売買、贈与、交換等の合法的な方法を通じて、

原土地使用権者から土地使用権を取得することを認めています(払下譲渡暫定条例第19条)。

ここでは、他の企業等が既に払下げを受けている土地の土地使用権を、譲渡によって取得

する場合について説明していきます。

① 手続きについての解説

(ア)譲渡の条件の確認

譲渡により土地使用権を取得する場合、その前提として、法律上、以下の条件を満た

していることが必要となります(都市不動産法第38条)。

a)原土地使用者が、土地使用権払下契約の約定に従い、土地使用権払下金を全額納

付し、かつ土地使用権証を取得していること

b)原土地使用者が、払下契約に従い、投資・開発行為を行っており、建物建設工事

については開発投資総額の25%以上が完成していること

c)不動産を譲渡する場合において、建物が既に完成している時は、さらに建物所有

権証を保有していること

(イ)土地使用権譲渡契約の締結

外商投資企業は、原土地使用者と土地使用権譲渡契約を締結することになりますが、以

下の内容に注意する必要があります。

a)書面によることが必要であり、契約書上には、原土地使用者の土地使用権の取得

方式(例えば、土地使用権の払下げ)を明記しなければなりません(都市不動産法

第40条)。

b)譲渡対象となっている権利義務は、土地使用権の払下契約に基づく権利義務です

ので、土地使用権払下契約及び登記文書に記載された権利及び義務はすべて譲渡人

から譲受人に移転することになります(払下譲渡暫定条例第21条)。

c)土地使用者が譲渡により取得した土地使用権の使用期間は、土地使用権払下契約

に定める使用期間から、もとの土地使用者が既に使用した期間を控除した残余期間

とされます(払下譲渡暫定条例第22条)。

d)外商投資企業が、譲渡により土地使用権を取得する場合、その地上の建築物、そ

の他の定着物の所有権は、土地使用権の譲渡に伴って移転します。そして、土地使

用者が、地上建築物その他の定着物の所有権を譲渡する場合は、その使用範囲内の

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土地使用権も、これに伴って移転することになります。但し、動産として譲渡する

場合は除外されます(払下譲渡暫定条例第23、24条)。

(ウ)移転登記手続き

土地使用権及び地上建築物、その他の定着物の所有権を譲渡する場合は、規定にしたが

って移転登記をしなければなりません(払下譲渡暫定条例第25条)。具体的には、以下

の手続が必要です(都市不動産管理法第60条3項)。

a)県レベル以上の地方人民政府の建物管理部門に対する建物変更登記申請

b)変更後の建物所有権証書に基づき、同レベルの人民政府の土地管理部門に対する土

地使用権変更登記申請

c)当該土地管理部門による確認後、同レベルの人民政府による新土地使用権証書の発

② 基本フローチャート

土地使用権譲渡契約の締結

移転登記手続き

譲渡の条件の確認

③ 留意点

(ア)譲渡人の権限の確認

土地使用権譲渡契約の場合は、原土地使用権者(譲渡人)は、既に払下契約を締結し、

且つ土地使用権証を取得している必要があります。そのため、まず、土地使用権の譲渡

者が既に払下手続きを経て土地使用権証を取得しているか否かを確認する必要がありま

す。例えば、契約書上、「土地使用権譲渡契約書」と記載されていながら、条項中で①当

該外商投資企業が、当該土地使用権の払下げを受ける、②譲渡人が、後日、土地使用権

証書を取得するといった文言がある場合は、譲渡人が未だ土地使用権証書を取得してい

ない可能性が高いといえます。

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(イ)土地の性質の確認

払下げを受けていない割当土地使用権や、国有土地への転換及び払下手続きを経ていな

い集団所有地使用権については、その譲渡が認められていません。そのため、土地使用

権の譲受の際には、実地調査を行い、当該土地の全部又は一部が集団所有地ではないか、

例えば農民その他の第三者が占有していないかを確認する必要があります。また、土地

管理部門において登記事項の閲覧を行い、土地の収用、払下手続きが完了しているかを

確認する必要があります。なお、登記事項の閲覧にあたっては、抵当権等の担保権が設

定されていないかを確認する必要があります。

(ウ)使用期限の確認

払下げを受けた土地使用権を譲り受ける場合、譲受後の使用期間は、払下契約で記載さ

れていた期間から原土地使用権者が使用した使用期間を控除した残りの期間ということ

になります。そのため、原土地使用者の使用期間が長期にわたる場合は、残りの使用期

間が短くなっている可能性があります。もちろん、土地の譲受の後で使用期間の延長を

することも可能ですが、外商投資企業の長期経営計画に影響を与える場合もありますの

で、最初の時点で使用期限を確認することは重要です。

(エ)用途の変更の場合

土地使用者は、土地使用権払下契約に定める土地の用途を変更する必要がある場合、土

地使用権の払下の場合と同様、払下人の同意を得ると同時に、土地管理部門と都市計画

部門の許可を受け、改めて土地使用権払下契約を締結し、土地使用権払下金を調整し、

かつ変更登記を行わなければなりません。

(オ)その他

・ 土地の面積、所在地等について、契約上の面積と実際の面積が一致するか、契約上の所

在地(地籍番号、住所等)と実際の所在地が一致するかを確認する必要があります。

・ 用途が異なれば用途変更手続きを経ない限り工業用地として使用できないことから、土

地使用権証の記載上、用途目的が工業用地になっているかを確認する必要があります。

・ 払下契約の時点で、払下土地の使用条件として建設建物の容積率、建築密度、緑化率等

が定められており、譲受人は、土地使用権を譲り受けた後、それらの土地使用条件に従

って土地利用することになります。そのため、土地使用権の譲受側は、土地使用条件を

予め確認する必要があります。

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3.現物出資により土地使用権を取得する方法

合弁企業を設立する場合、中国側パートナーは、土地使用権を合弁企業に現物出資すること

が認められています(中外合資経営企業法実施条例(以下、「合弁法実施条例」といいます)第

45条)。そのため、中国に進出する日本企業が、中国企業と合弁企業を設立して工場を建設す

ることを検討している場合には、中国側パートナーに土地使用権を現物出資させて土地使用権

を取得することも考えられます。

① 解説

(ア) 土地使用権の価格評価

中国側パートナーから土地使用権を現物出資させる場合、当該土地使用権の現物出資

が現金に代わる出資であることから、合弁契約書に記載する前提として、土地使用権の

価格評価が必要となります。土地使用権の価格評価は、一般に当該土地使用権の払下金

の価格や、払下残存期間、その地域の土地の公示価格等を考慮しつつ、その地域の相場

から合理的に評価していくことになります。また、中国側パートナーが国有企業である

場合、さらに国有資産管理局の認可を経る必要があります。

(イ) 現物出資を明記した合弁契約の締結

土地使用権の価格評価を終えた後、出資当事者間で締結される合弁契約の中で、その

土地使用権をもって出資とする旨を明記することになります。

(ウ) 審査許可機関への設立申請及び批准証書の受領

土地の現物出資を受けた合弁企業について、出資者は合弁契約その他の書類を審査許

可機関に提出して批准証書を受領します。

(エ) 登記機関への設立登記申請及び営業許可証の取得

審査許可機関から批准証書を受領した後、工商行政管理部門で登記申請を行い、登記

を得ると共に当該合弁企業の営業許可証を受領します。

(オ)土地使用権の移転登記申請及び土地使用権証の取得

営業許可証はあくまで外商投資企業の設立を認めた許可証であって、土地使用権の取

得を許可、登記したものではありません。そのため、営業許可証の取得とは別に、当該

地域の土地管理部門の土地登記手続きを経て、当該合弁企業を新たな土地使用権者とす

る土地使用権証を取得しなければなりません。したがって、合弁契約締結の際にも、当

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該合弁企業を土地使用権者とする土地使用権証の発行をもって中国側パートナーによ

る現物出資義務の完了とみなす旨を明記する必要があります。

② 基本フローチャート

現物出資を明記した合弁契約の締結

審査許可機関への設立申請及び批准証

書の受領

登記機関への設立登記申請及び営業許

可証の取得

土地使用権の移転登記申請及び土地使

用権証の取得

土地使用権の価格評価

③ 留意点

(ア)現物出資の土地使用権が割当土地使用権ではないことの確認

中国側パートナーによる土地使用権の現物出資は、払下げの手続き等を省略できる点で

はメリットがあるといえます。しかし、中国側パートナーが有する土地使用権が割当土地

使用権である場合、現物出資も一種の不動産譲渡と見なされている以上(都市不動産管理

法第3条)、割当土地使用権のままでは現物出資することができません。

そのため、必ず現物出資される土地使用権が割当土地使用権か否かを確認する必要があ

ります。

(イ)契約書での現物出資の内容の明記

土地使用権の現物出資を受ける場合、その旨を合弁契約等に記載することになります。

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しかし、契約書上、その権利内容、手続き等を明確に規定しなかったことが原因で、トラ

ブルとなることがよくあります。そのため、最低限、下記の事項については確認する必要

があるといえます。

a)土地の実際の所在地、面積等が契約書上の記載と一致していること

b)払下手続きが必要である場合は、その手続を履行する義務がある旨合弁契約等に明

記すること

c)土地使用権の移転登記手続きを履行する義務がある旨合弁契約等に明記すること

Ⅱ.工場の建設

1.はじめに

中国で工場を建設する場合、工場建設のための土地使用権の取得は、最も重要な事項の一つ

ですが、土地使用権を取得できればそのまま自由に工場を建設できるわけではありません。建

設した工場建物についての所有権登記を行い、正式に稼動するためには、建設の各段階で様々

な許可手続きを経る必要があります。

そこで、本項では、工場建設に際して必要な各種の手続きについて説明していきます。

なお、以下で説明する各手続きは、国家関連規定及び北京市の関連規定を参考に、工業用地

における工場等の建設過程のために必要な基本的な法的手続の流れを説明したものです。実務

上は、プロジェクトの規模等により手続がさらに複雑になる場合や、地方によって別の書類を

必要とする場合もあります。そのため、実際に手続きを進めるにあたっては、工場建設地域に

おける地方法規の有無や実務上の取り扱い等を事前に調査する必要があります。

2.工場建設の手続き

(1)手続き

① 建設プロジェクト用地の事前審査手続

(ア)概要

建設プロジェクト用地の事前審査とは、法律に基づき、国土資源管理部門により、建

設プロジェクトに関する土地利用事項について行われる審査を言います。

外商投資プロジェクトは、原則として国家発展改革委員会及び各地方の発展改革部門に

よる審査確認が必要となりますが、その審査確認に先立ち、当該プロジェクトに使用さ

れる用地について、土地管理部門による審査を受けることが必要です。

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(イ)必要書類

申請に必要な主な書類としては以下のものが挙げられます。

a)建設プロジェクト用地事前審査申請書

b)事前審査の申請報告書

申請報告書には、建設予定プロジェクトの基本的状況、選択予定地の状況、用地

予定地の総規模及び類型等を記載する。

c)(審査許可を受ける必要がある建設プロジェクトの場合)プロジェクト提案書に

対する許可文書、及びプロジェクトのフィージビリティ報告書

② 環境影響評価の手続

環境影響評価とは、建設プロジェクトの環境に与える影響を評価、分類することを言

います。建設プロジェクトは、その規模の大きさから周囲の自然環境、周囲住民の生活

環境に非常に大きな影響を与えることになります。そのため、外商投資企業が建設プロ

ジェクトを行う際にも、環境影響評価の資格を有する機関が評価・作成した環境影響評

価書等の関係書類を、環境保護行政主管部門に提出し、その審査許可を受けることにな

ります。

③ 外商投資プロジェクト審査確認手続

(ア)概要

現在、外商投資企業による投資プロジェクトは、「外商投資プロジェクト審査確認暫

定管理規則」に基づき、原則として国家発展改革委員会による審査確認、一定規模以下

の投資プロジェクトについては省レベルの発展改革部門による審査確認が必要とされ

ています。

なお、2008年3月に開催された全人代では、国務院の機構改革案が提出され、そ

の中では国家発展改革委員会の職務権限の変更が議論されました。その内容は、細かい

管理事務及び審査事項に関する同委員会の権限を減らし、同委員会の機能をマクロ調整

に集中させるというものです。その具体的な変更項目は未だ明らかではありませんが、

仮に外商投資プロジェクト審査確認手続きも当該変更項目に含まれることになれば、当

該手続きの実務にも影響することから、今後の動向に注意する必要があります。

(イ)必要書類

申請に必要な主な書類としては以下のものが挙げられます。

a)プロジェクト申請報告書

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プロジェクト申請報告書には、主に以下の内容を記載します。

・プロジェクトの名称、経営期間、出資者の基本状況

・プロジェクトの建設規模、主な建設内容、予定雇用者数等

・プロジェクト建設地、土地、水、エネルギー等の資源に対する要求等

・プロジェクトの総投資額、登録資本及び各出資者の出資額、出資方式及び融資案

b)中外各出資者の企業登録証、監査を経た最新の企業財務諸表、口座開設銀行が

発行する資金信用証明書

c)投資意向書

d)銀行が発行する融資意向書

e)環境影響評価意見書

f)プロジェクト用地事前審査意見書

g)国有資産又は国有土地使用権をもって出資する場合、関連主管部門が発行する

確認文書

h)発展改革委員会が必要とするその他の文書

④ 建設用地計画許可証の取得手続

(ア)概要

払下方式により国有土地使用権を取得した建設プロジェクトについて、国有土地使用

権払下契約を締結した後、当該プロジェクトを実施する外商投資企業は、建設プロジェ

クトの審査許可、確認、届出文書及び国有土地使用権払下契約をもって、都市、県レベ

ルの人民政府の都市及び農村計画主管部門から建設用地計画許可証を取得しなければ

なりません。これは、当該プロジェクトが都市計画の条件を満たしているかについて審

査されるものであり、都市計画の条件を満たしていない国有土地使用権払下契約につい

ては、無効となるほか(都市及び農村計画法第38条2項)、建設用地計画許可証を取

得していない外商投資企業に用地使用の審査許可を与えた場合、県レベル以上の人民政

府は、関連許可文書を取り消し、当該企業が占用する土地を返還させることができます

(同法第39条)。そのため、建設プロジェクトを実施するためには、必ず建設用地計

画許可証を取得しなければなりません。

(イ)必要書類

申請に必要な主な書類としては以下のものが挙げられます。

a)審査許可申請書

b)入札、競売、公示の方法で土地使用権を取得した建設プロジェクトについては、

国有土地使用権払下取引成立確認書、国有土地使用権払下契約書及び関連文書

c)建設プロジェクトに対する主管部門の関連許可文書

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d)計画部門が要求するその他の関連文書

⑤ 建設工事計画許可証の取得手続

(ア)概要

都市、鎮計画区内で建物を建設する場合、当該外商投資企業は、都市、県レベル人民

政府の都市及び農村計画主管部門若しくは省、自治区、直轄市人民政府が確定した鎮人

民政府に対して、建設工事計画許可証の申請をしなければなりません。

この建設工事計画許可証は、当該建設プロジェクトの建設工事が、都市及び農村の計

画要求に符合することを証明するものです。当該許可証を取得していない場合、その建

設工事は違法なものとされ、当該建物等についての登記等、権利帰属文書を取得するこ

とができません。

(イ)必要書類

申請に必要な主な書類としては以下のものが挙げられます。

ⅰ)審査許可申請書

ⅱ)用地に対する国土行政主管部門の許可文書

ⅲ)資格を有する設計機関が、計画意見書等の関連文書に従い作成した建設工事施

工図

施工図には、図面目録、バリアフリー設計についての説明、設計総平面図、各

階の平面図、断面図、各方向の立体図、各主要部位の平面図、基礎平面図、基

礎断面図等が含まれる。

ⅳ)計画部門が提供を要求するその他の関連文書

⑥ 建設工事施工許可証の取得手続

(ア)概要

建設工事の開始前に、建設プロジェクトを行う外商投資企業は、工事施工地の県レベル

以上の人民政府建設行政主管部門に対して、建設工事施工許可証の申請をしなければな

りません(但し、国務院建設行政主管部門が確定する限度額以下の小規模工事、具体的

には工事規模が30万元以下若しくは建築面積が300㎡以下の建設工事については、

施工許可証の申請は不要(建設工事施工許可管理弁法第2条))。

建設工事施工許可制度は、建設工事の適切な進行を保証する制度であり、施工許可証は

建設工事を請け負った建設企業の施工資格を証明する文書となります。そして、当該施

工許可証を取得していないにもかかわらず、無断で工事を開始した場合は、施工停止命

令と同時に行政処罰を受けることになります(建築法第64条)。さらに、当該施工許可

証がない場合、建物の竣工検収が行えず、建物所有権証が発行されない恐れがあります。

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(イ)必要書類

申請に必要な主な書類としては以下のものが挙げられます。

ⅰ)審査許可申請書

ⅱ)建設工事計画許可証、建設用地計画許可証

ⅲ)国有土地使用権証又は関連許可文書

ⅳ)施工図面設計書の審査通知書

ⅴ)施工契約書及び施工企業の落札通知書

ⅵ)工事品質監督登録登記表及び施工安全監督通知書

ⅶ)プロジェクト建設資金の確認証明

ⅷ)建設部門が要求するその他の文書

⑦ 工事着工及び建設工事計画の確認手続

(ア)概要

土地使用権を取得し、上記の各建設関連許可手続きを経た後、実際の工場建設工事に着

手することになります。そして、工事完了後には検収を行いますが、検収前に、各地方

人民政府の都市及び農村計画主管部門により、当該建設工事が都市及び農村の計画に合

致しているかの確認を受けることになります。このような確認手続きを受けていない場

合若しくは確認の結果計画に合致していないと判断された場合は、当該建設企業は、竣

工検収を行うことができなくなります(都市及び農村計画法第45条)。

(イ)必要書類

工事完了後、建設工事計画の確認申請をするためには、計画部門による現地調査確認を

申請する申請書を提出する必要があります。

⑧ 竣工検収

(ア)概要

建設プロジェクトにおける竣工検収は、建設企業が工場等の建物を完成させた後、外商

投資企業が全ての建設工事の設計、施工の品質等に対して検査を行うものであり、施工

過程における最後の手続きとなります。

外商投資企業は、建設企業から工事完成の報告を受けた後、設計、施工、工事監督等

について、法律の定める基準に合致しているか否かの検査を行い、建設工事竣工検収が

終了した後、建設主管部門に対して当該検収結果を届け出なければなりません。

(イ)必要書類

建設主管部門に対して当該検収結果を届け出るために必要な主な書類としては以下の

ものが挙げられます。

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ⅰ)工事竣工検収届出の申請書

ⅱ)工事竣工検収報告書

ⅲ)計画、公安消防、環境保護部門の発行する認可文書

ⅳ)担当建設企業が署名した工事質量保証書

ⅴ)建設部門が要求するその他の文書

(2)基本フローチャート

環境影響評価の手続

外商投資プロジェクト審査確認手続

建設用地計画許可証の取得手続

建設工事計画許可証の取得手続

工 事 着 工

建設工事計画の確認

建設工事施工許可証の取得手続

竣 工 検 収

建設プロジェクト用地の事前審査手続

3.留意点

工場建設に際しては、以下の点に留意すべきです。

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(1)建設企業の選択

通常、外商投資企業自ら工場建設をすることはできませんので、日本又は中国現地の建

設企業に建設を依頼することになりますが、その建設企業がどういった建設資格を有して

いるかを確認することが重要です。すなわち、中国では、建設工事の請負に関する資格が、

法律上、特級から3級までの4段階に分かれており、それぞれに資格要件があります。等

級ごとに請け負える案件の規模が決まっており、3級から特級まで等級が上がるにつれて

大規模なプロジェクトを請け負うことができます。しかし、等級に応じて現地で雇う社員

の人数が決められているなど、等級が上がれば人件費も多くなる構造になっており、必ず

しも大手の建設企業が上級の建設資格を有しているわけではありません。

そのため、建設企業に対して工場建設を依頼する場合は、工場建設に必要な建設資格を

有しているかを確認する必要があります。

(2)各建設関連許可申請及び許可証取得の確認

中国で工場を建設する場合、その建設関連許可証の申請等も建設企業に全てゆだねる場

合が多いと考えられます。

しかし、建設関連の各許可証の手続きには手間と時間がかかることから、建設企業が許

可手続きを経ることなく工場建設を開始するケースも少なくありません。その場合、最終

的には建物等の登記ができなくなる可能性があり、そのリスクは、結局、工場建設を依頼

した外商投資企業が負うことになります。

したがって、外商投資企業は、建設関連許可証の取得自体は建設会社に委ねるとしても、

その申請を順序に従い行っているか、各種許可証を適切に取得しているかを随時確認する

必要があります。

(3)インフラ設備等、建物本体以外の費用に関する負担割合の確認

工場建設に際しては、工場稼動のための電気、ガス、水道の引き込み、道路や下水道等

のインフラを新たに整備する必要がある場合もあります。この場合、請負契約の締結当時、

注文主側では、インフラ関連費用を工場建設に伴う費用として考えていたところ、突然建

設工事開始後に請負人側から注文主側に対し、その費用負担を別途要求されるといったケ

ースもあります。

したがって、工場建設のための事前協議及び請負契約書の締結に際しては、インフラ整

備の費用を含めるのか否か、若しくは別途協議するのか等を明確にしておく必要がありま

す。

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三.既存の工場を利用する場合の手続き及び注意点

これまで、外商投資企業が中国で工場を建設する場合の基本的な流れとして、土地使用権を取得

し、その土地上に工場を建設するケースについて説明してきました。

しかし、最初から土地使用権を取得して工場を建設していく場合は、土地使用権の取得及び工

場建設に際して多くの手続き、審査許可を経る必要があり、非常に手間と時間がかかります。そ

こで、開発区の中には中国側が一定の規格で建設した工場を進出企業に貸し出しているケースも

見られます。

そのため、外商投資企業としては、できるだけ安価で且つ迅速に工場を稼動するため、既に他

の企業が建設している工場を賃借する方法も選択肢の一つといえます。

Ⅰ.手続き

既存の工場を賃借するためには、工場の所有者との間で賃貸借契約を締結することになります。

賃貸借契約を締結した場合、その賃貸借契約を建設管理部門に届け出て登記手続きを行い(都市

不動産管理法第53条)、当該工場についての建物賃借証を受領することになります。この建物

賃借証は、賃借行為の合法・有効性を証明するものであり、当該建物を利用して生産、経営活動

を行う場合は、当該経営場所の合法性を証明するものとなります(都市建物賃借管理弁法第17

条)。

Ⅱ.留意点

既存の工場の賃貸借の場合、当事者間での契約が重要な意味を持っており、特に以下の点に留

意する必要があります。

1.所有権者の確認

工場を賃借する場合、必ず工場の所有者から賃借しなければなりません。しかし、実際に

は、例えば開発区が所有していると思って賃借していた工場について、実際は別の第三者が

所有者であり、開発区はその仲介をしているだけであったというケースもあります。そのた

め、工場の賃貸借をする場合、相手方の所有権を示す登記資料を要求する等、その工場の所

有者が誰であるかを確認する必要があります。

なお、上記のようなケースでは、工場の賃貸借契約締結後に当該契約を登記しないことが

多くあるようです。そのため、賃貸借契約の締結についての登記も忘れずに行う必要があり

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ます。

2.契約内容の明確化

既存の工場の賃貸借においては、当事者間で工場をめぐる何らかの紛争が生じた場合は、

賃貸借契約書がその紛争処理の基準となります。そのため、賃貸借契約書の内容は、その権

利、義務についてできる限り、法律専門家のアドバイスを受けながら明確に記載する必要が

あります。例えば、①工場の所有者が代わったとしても工場の賃貸借には影響がないこと、

②仮に所有権者の都合により立ち退かざるを得ない場合、所有権者が立ち退き料を支払うこ

と、③賃貸借契約の登記手続きは賃貸人が履行義務を負うこと等については、契約上で明記

すべきです。

3.土地使用権の確認

中国では、法律上、土地使用権者とその土地上の建物の所有権者は一致しなければなりま

せん。しかし、実際には土地使用権を取得することなく無断で工場を建設し、事実上土地を

使用しているというケースも時々見受けられます。この場合、仮に工場を賃借したとしても

工場の建設自体が違法であることから、法律上の土地使用権者から工場の撤去及び立ち退き

を請求された場合は、立ち退かざるを得ません。そのため、工場を賃借する場合は、その土

地使用権についても確認しておくのが穏当です。

四.M&Aにおける土地使用権の取得の際の留意点

Ⅰ.中国国内企業の買収と土地使用権

外商投資企業が中国国内で工場を建設する場合、これまで説明したとおり、①土地使用権を取得

して、その土地上に工場を建設する方法、②既存の工場を賃借する方法、という2つの方法が一般

的です。

これに対し、外国企業が、中国国内企業の持分を取得したり又は国内企業の資産を取得すること

により、その国内企業を買収することが認められていることから(外国投資者の国内企業買収に関

する規定第2条)、中国国内企業を買収して、その土地上に工場を建設することも考えられます。

したがって、外国企業としては、土地使用権を有する中国国内企業を買収することも、土地使用

権取得の一形態として考えられます。

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Ⅱ.留意点

中国国内企業の買収を通じて土地使用権を取得する場合、以下の点に注意しながら買収手続きを

進める必要があります。

1.権利帰属についての確認

通常の工業用地の払下土地使用権を所有する国内企業であれば問題ありませんが、例えば、

郷鎮企業を買収する場合は、使用している土地が農業用地であることも多く、買収後の企業が

使用できない可能性があります。そのため、国内企業を買収する際には、土地建物管理局にお

いて、土地使用権の帰属、性質、そして払下金の支払い状況等を必ず確認する必要があります。

また、当該土地使用権に既に抵当権が設定及び登記されている場合、買収先企業が抵当権設定

により担保されている債務を履行しない時には、抵当権者により抵当権が実行され、土地を使

用できなくなるリスクが考えられます。そのため、土地使用権に抵当権が設定されているかど

うかも確認する必要があるといえます。

2.都市計画についての確認

例えば、中国での工場建設を予定していたところ、某中国国内企業が適当な工場設備を有し

ていたことから当該中国国内企業を買収したが、実はその都市の市政計画によれば工場敷地の

当該土地使用権は数年後には政府により回収され、工場は撤去されることが決定していたとい

うケースもあります。そのため、企業買収に際して、被買収企業の持っている優良資産、例え

ば工場等に着目する場合は、都市計画管理部門に行って、その市政計画状況を確認し、近い将

来土地使用権の回収、工場の取り壊し等が生じるリスクがないかを確認する必要があるといえ

ます。

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第3章 ケーススタディの検討

1.土地取得にかかわる重要な留意点は?

【ケーススタディ①】

(1) 日本の機械部品メーカーである甲社は、中国現地法人の製品製造のため中国における工

場建設を検討している。甲社は、中国での進出地域に関する情報をどのように取得すれ

ばよいか。

(2) 甲社は情報収集の結果、乙省丙開発区では、開発区管理委員会が積極的な企業誘致活動

をしており、国有土地の払下げをスムーズに行うことができると聞いた。そのため、甲

社は丙開発区での建設を検討している。この場合、誰と土地使用権取得の契約を締結す

ればよいか。

(3) 甲社は、土地使用権を取得するための条件交渉をすることができるのか。

(4) 甲社は、土地の払下代金をいつ支払えばよいか。

【回答】:

(1)について

日本企業が中国に進出する場合、現地での各種優遇措置を受けるために中国国内の開発区へ

進出するケースが多いと思われます。そういった開発区に関する情報については、JETRO、日本

商工会議所等のホームページで提供されています。また、中国国内の開発区の中には、日本か

らの進出企業向けに日本語のホームページを作成している開発区もあります。

(2)について

土地使用権取得の交渉を誰と行うかは、土地使用権の取得方式によって異なります。

① 払下方式の場合

この場合、法律上は、土地管理部門との間で払下契約を締結することになります。

ここで注意が必要なのは、日本企業が開発区で土地使用権を取得しようとする場合、

あたかも各地の開発区が土地使用権払下をしており、開発区の管理委員会との間で「土

地使用権払下契約書」を締結することで、土地使用権を取得できたと誤解することが多

い点です。最高人民法院の「国有土地使用権に関わる契約紛争事件の審理における法律

適用問題に関する解釈」(以下、「人民法院解釈」といいます)の第2条でも「開発区管

理委員会が払下側として譲受人と締結した土地使用権払下契約は、無効と認定しなけれ

ばならない」と規定し、開発区管理委員会が土地使用権の払下人ではないことを確認し

ています。

したがって、土地使用権の取得に際して、仮に開発区管理委員会との間で土地のイン

フラ整備、工場建設の準備交渉をしていたとしても、最終的に土地使用権の払下等を受

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ける際は、土地管理部門を払下人とした払下契約を締結することが必要であることを認

識しておかなければなりません。

② 譲渡方式による場合

既に払下げを受けている土地使用権者から土地使用権の譲渡を受ける場合は、土地使

用権者との間で譲渡契約を締結することになります。そのため、この場合は、土地使用

権者を契約締結の相手方として交渉を行うことになります。

(3)について

払下方式の場合、従来は、開発区管理委員会と交渉を行い、その後土地管理部門との払下

契約を締結すること(協議方式)が多くありました。そのため、土地使用権取得にあたって

は、開発区管理委員会や土地管理部門との交渉を必要とする場面が多くありました。しかし、

2007年以降、払下げの当事者は入札、競売、公示により決定されることになったことか

ら、協議により払下当事者を決定することができなくなりました。そのため、現在では、入

札、競売、公示に先立って公告された払下地の面積、境界、使用年数、用途等の条件の下で、

土地を落札、買い受けた者は、払下契約を締結することになり、以前に比べると土地管理部

門と直接に交渉する余地は少なくなったといえます。

これに対して、土地使用権を譲渡方式によって譲り受ける場合は、当事者間での契約締結

交渉は可能であり、また重要な意味を持ちます。そして、この場合、契約書上で自らの権利

をできる限り明確化することがポイントとなります。そのため、譲渡契約書の作成にあたっ

ては、中国の法律についての専門家に十分相談した上で交渉を進めることが大きな鍵となり

ます。

(4)について

金額の支払いについては、原則としては、払下又は譲渡契約に記載されている期限までに

支払うことになります。

もっとも、払下代金の支払いについては、契約の規定のいかんにかかわらず、払下契約の

締結後60日以内に、土地使用権払下金の全額を支払う必要があり、期限どおりに全額を支

払わない場合は、払下人は、契約を解除することが認められているため(払下譲渡暫定条例

第14条)、注意する必要があります。

2.購入していい開発区とそうでない開発区の違いは?

【ケーススタディ②】

日本の機械部品メーカーであるA社は、中国現地法人を設立し現地での工場建設を検討している

が、建設予定地として、甲省の乙地区、丙市の丁地区が候補地として挙がっている。乙、丁両地

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区は「開発区」、「工業区」として積極的に外国企業の誘致活動を行っている。しかし、乙地区は、

従来は殆どが農地であり、現在でも開発区以外の土地では主に農業が行われているのに対して、

丁地区は、工業都市の中にあるが、丁地区が独自で開発した開発区とされている。A社としては、

工場建設予定地を選定する際に、どういった点に注意する必要があるか。

【回答】:

「開発区」とは、外資誘致を目的として、各地方政府が、都市発展計画の中で一定の区域を指

定し、国家レベルであれば国務院に、省レベルであれば各省政府に申請の上許可を受けて各優遇

措置を実施する地域をいいます。国家レベルの開発区には、例えば、経済技術開発区や保税区等

があり、各目的に応じて優遇措置の内容が異なります。

近年、国家レベル、省レベルのみならず、市レベル、区レベルで独自の「開発区」が乱立して

しまい、正式な「開発区」との区別ができなくなっていました。そのため、2003年7月に国

務院により「各種開発区を整理し建設用地の管理を強化することに関する通知」が公布され、全

国的に開発区の整理が行われました。それ以降は、国家発展改革委員会による公告

( http://www.sdpc.gov.cn/zcfb/zcfbgg/default.htm ) や 国 土 資 源 部 に よ る 公 告

(http://old.mlr.gov.cn/direction/index.jsp)を通じて、開発区の整理審査に適合する開発

区のリストが公開されるようになっています。

したがって、A社としては、乙、丁両地区が整理審査に適合した開発区のリストに載っている

か否かを、まず参考資料にすることが考えられます。

但し、多くの地区では従来の名称を「工業区」等に変更して継続的に誘致活動を行っており、

全体的な状況にはそれほど大きな変化はないとの意見もあります。例えば、【ケーススタディ②】

の丁地区の場合、工業都市の中にあるものの、丁地区が独自に開発しており、「開発区」ではな

く、「工業区」という名称であることから、正式な申請許可を経た開発区ではない可能性もあり

ます。

さらに、開発区内の土地であれば当然に全ての土地使用権が取得できるというわけではありま

せん。後述【ケーススタディ③】にて説明するとおり、外商投資企業が土地使用権を取得するに

あたり、対象土地が集団所有地の場合は、払下げを受けて工場等を建設する前に国有土地への転

換が必要となります。しかし、開発区の土地が全て国有土地であり正式な払下手続きを受けてい

るとは限りません。例えば、乙地区の場合は、従来は農地であったことから、以前は集団所有地

であったことが推測され、未だ国有土地への転換が終わっていない可能性もあります。

従って、開発区の選定、具体的な土地の選定にあたっては、必ず別途自らが使用する予定の土

地がどういった性質を有するかを確認する必要があります。

3.集団所有地は購入することができるのか?

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【ケーススタディ③】

(1) 甲社は、現地法人A社を設立し、工場建設予定地を探していたところ、周辺の都市か

ら近く、土地使用権の値段も安価である乙省丙地区を見つけたため、本格的に土地の調

査に入った。しかし、土地の登記状況を調べると、当該土地は農民の集団所有地である

ことが判明した。この場合でも、A社は、当該土地使用権を取得することができるか。

(2) 甲社は、以前取引をしたことのある中国企業B社から、中国企業C社への資本参加の

誘いを受けた。C社は、甲社が予定している工場と類似規模の工場を保有していたこと

から、甲社は、C社への資本参加を積極的に検討していた。しかし、甲社がC社の法務

調査を行ったところ、C社は農民の出資により設立された郷鎮企業であり、当該工場の

敷地は集団所有地であることが判明した。この場合、甲社としてはどのように対処すべ

きか。

【回答】:

(1)について

集団土地使用権とは、農民の共同所有である集団所有地上に認められる土地使用権をいい

ます。そして、集団所有地は、そもそも農民が農業を共同して営むことを目的として集団所

有の形態で認められた土地であり、集団土地使用権も、郷鎮企業が建設用地として使用する

場合等を除き、原則として農業用地として使用されます。そして、集団所有地の土地使用に

ついては、耕地保護、国民の生活の基盤である農業を保護するという観点から、厳格にその

使用が制限されています。そのため、農民集団所有地の使用権は、その払下、譲渡、又は非

農業建設用に貸し出すことが禁止されています(土地管理法第63条)。

したがって、A社は、原則として、当該集団所有地の土地使用権を取得することができま

せん。

もっとも、集団土地使用権については、国家が当該集団所有地を収用して国有土地にする

ことが認められています。そして、法律に従い収用手続きを経て国有土地に変更した後であ

れば、当該土地使用権の有償払下げが認められています(都市不動産管理法第8条)。

従って、対象となる集団所有地について国有土地への転換手続きを経た場合は、A社も払

下げを受けて土地使用権を取得することができます。但し、この場合は、国務院又は省、自

治区、直轄市人民政府の認可が必要となりますが、特に農地から工場建設のための建設用地

への転換は厳格な審査が行われますので、注意が必要です(【ケーススタディ④】参照)。

(2)について

集団所有地は、上記のとおり、原則として農業用地として使用されますが、例外的に、郷

鎮企業が建設用地として使用することも認められています(土地管理法第59条)。しかし、

郷鎮企業以外の企業が農民の集団所有地を建設用地として使用することは認められていませ

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ん。

今回のケースでは、甲社がC社に資本参加することにより、C社は中外合弁企業になるた

め、そのままでは工場が建設されている集団所有地を使用することはできなくなります。し

たがって、甲社としては、C社に対して、その保有する集団所有地を国有土地に転換して払

下げを受けるよう要求しなければなりません。

4.農業用地の土地使用権を取得することができるのか?

【ケーススタディ④】

日本の部品メーカー甲社の中国現地法人A社は、乙省丙地区で工場建設のため、敷地の選定を検

討している。丙地区内に候補地があるが、当該土地は登記上農業用地とされている。この場合、

A社は、当該土地の土地使用権を取得して工場を建設することができるか。

【回答】:

(1)農業用地から建設用地への転換

中国の土地は、それぞれ用途が規定されており、具体的には、農業用地、建設用地及び未利

用地に区分されています。そして、土地の使用者は、土地利用総合計画が確定する用途に従っ

て土地を使用しなければなりません(土地管理法第4条)。

そこで、農業用地を建設用地として使用するためには、その用途の変更をしなければならず、

その場合、農業用地転換の審査許可手続きを経る必要があります(土地管理法第44条1項)。

そして、審査許可にあたっては、①土地利用総合計画及び土地利用年度計画中に確定された農

業用地転用指標に合致しなければなりません。また、農業用地転換の対象が都市並びに村落及

び集鎮の土地である場合、さらに②都市計画並びに村落及び集鎮計画に適合しなければなりま

せん。そして、①、②に適合しない場合は、農業用地から建設用地への転換は許可されないこ

とになります(土地管理法実施条例第19条)。

したがって、A社が農業用地の土地使用権を取得して工場建設を行う場合、事前に上記①、

②の条件を調査し、農業用地転換の審査許可手続きを経た上でなければ、農業用地の土地使用

権を取得して工場を建設することができないことになります。

(2)集団所有地との関係

農業用地は、【ケーススタディ③】(1)で記載したとおり、集団所有地の原則的な使用形態

であるため、工場建設を予定している農業用地が集団所有地であることも多いといえます。

もっとも、集団所有地は、農業用地以外に郷鎮企業の建設用地としても使用されており、建

設用地としての集団土地使用権を取得する場合には、農業用地転換の審査許可手続きを経るこ

となく、国有土地への転換手続き及び払下手続きを経ればよいことになります。

これに対して、集団所有地が農業用地である場合は、土地管理法第45条3項でも、国有土

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地への転換手続きに先立って、農業用地転換の審査許可手続きを経る必要がある旨を規定して

います。

そのため、今回のケースでも、当該土地が集団所有地である場合、工場を建設するために国

有土地への転換手続き及び払下手続きが必要となりますが、その前提として(1)の農業用地

転換の審査許可手続きを経ていることが必要となります。

5.土地使用権を取得したが、工場建設が着工しないままの状態になっている。この場合、土地の

返却を求められたりしないか?

【ケーススタディ⑤】

中国現地法人A社は、乙省丙開発区において、工場建設プロジェクトを実施している。その際、

元々農耕地であった丙開発区の土地使用権の取得にあたっては、丙開発区管理委員会との間で2

006年4月に「プロジェクト入園協議書」を締結し、土地管理部門との間で2006年10月

に「払下契約書」を締結した。その後、A社の資金調達の不備により、工場建設会社への前払い

金の支払いが遅れ、それが原因で当初予定していた工事の2分の1が終了した時点で工場建設が

中断した。そして、2008年1月には、土地管理部門から「2008年3月末までに工事を完

了しなければ2年間の土地使用権の放置となり、払下げた土地使用権を無償回収する。」との通

知を受けた。この場合、A社は、土地使用権を無償回収されるのか。

【回答】:

土地使用権の無償回収の根拠となる規定には以下の2つがあります。

(1)土地管理法第37条

農耕地を建設目的で使用した場合、ア)建設が1年以上未着工である場合には休閑地費用

を徴収され、イ)2年連続して未使用の場合にはその土地が無償回収されます(土地管理法

第37条1項)。また、都市計画区範囲内での不動産開発については都市不動産管理法に従い、

それぞれ休閑地費用が徴収され、無償回収されることとなります(土地管理法第37条1項、

都市不動産管理法第25条)。

今回のケースでは、A社は元々農地であった土地を利用して工場建設を行っており、土地

管理法第37条1項の問題になります。そして、A社は払下契約締結後、既に2分の1につ

いては工事を終えており、上記ア)の「未着工」には該当せず、また、上記イ)の払下契約

締結から「2年連続して未使用」にも該当しないといえます。

そのため、土地管理法第37条によりA社の土地が無償回収等されることはありません。

(2)休閑地処理弁法第2条

休閑地処理弁法第2条第2号では、「既に建設に着工しているが、その建設面積が建設総面

積の3分の1に満たない場合、若しくは投資額が総投資額の25%を満たさず且つ建設中止

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の批准を経ることなく1年間が経過している場合、休閑地とみなすことができる。」と規定し

ています。

今回のケースでは、A社はすでに工事の2分の1を終了しており、少なくとも上記建設面

積に関する基準を根拠に休閑地と判断されることはないと考えられます。

そのため、休閑地処理弁法第2条を根拠にしてA社の土地が無償回収されることもないと

いえます。

以上のことから、今回のケースではA社が土地使用権を無償回収されることはありません。

また、そもそも、2008年1月に受領した通知には、第一に、工事の「完了」を基準とする

土地の無償回収規定が法律上あるのか、第二に、丙開発区管理委員会とA社の「プロジェクト入

園協議書」の契約締結日を基準に2年間という期間を算定していることが正しいのか、という問

題があります。

まず第一の点につき、中国の法律では、国土の有効利用の観点から、土地使用権を取得した後

で一定期間当該土地を放置するような場合には、当該土地を「休閑地」と判断し、払下げをした

土地管理部門により無償回収することが認められています。もっとも、その「休閑地」の判断基

準として、「着工」の有無を基準とする規定はありますが、「完了」を基準とする規定は存在しま

せん。そのため、上記通知は、工事の「未完了」を無償回収の根拠としている点で法律上の根拠

を欠いています。

次に第二の点につき、通知は、丙開発区管理委員会との協議書締結日(「2006年4月」)を

基準に2年間の期間を算定していますが、これにも法的根拠はありません。すなわち、土地使用

権の払下は土地管理部門とA社との間の払下契約を根拠として行われているのであり、丙開発区

管理委員会との協議書は土地使用権の払下契約ではありません。従って、無償回収の根拠となる

土地使用権の放置もあくまで払下契約の締結時点(「2006年10月」)を基準として算定され

る必要があります。

以上より、土地管理部門から送られた通知自体も、法律上の根拠を欠くものであって、当該通

知を理由に土地使用権を無償回収されることはありません。

6.実際に土地を使用しているものの、土地使用権証は未だに発行されないがどうすればよいか?

【ケーススタディ⑥】

日本の機械メーカー甲社の中国現地法人A社は、乙省の丙開発区で自社製品の製造工場を建設す

るために、丙開発区管理委員会と土地使用権に関する話し合いを継続してきた。その結果、丙区

の開発区管理委員会との間で「土地使用権払下協議書」を締結して、工場建設を開始し、既に工

場が建設されている。にもかかわらず、土地使用権証は未だに発行されていない。A社はどう対

処すればよいか。

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【回答】:

全国各地の開発区には開発区管理委員会があり、開発区管理委員会は、開発区で各種の優遇措

置を実施し、又各開発区のインフラ整備等の権限を持っています。しかし、開発区として認めら

れた場所の土地使用権の払下げについては、各開発区の開発区管理委員会や各地方政府の経済貿

易所管部門が権限を持っておらず。国務院から土地管理権限を授権されている土地管理部門が直

接に管轄しています。このことは、人民法院解釈第2条で「開発区管理委員会が払下側として譲

受人と締結した土地使用権払下契約は、無効と認定しなければならない。」と規定されているこ

とからも伺えます。

したがって、払下方式により土地使用権を取得する場合は、払下権限を有する土地管理部門と

の間で払下契約を締結しなければならず、土地使用権証は土地管理部門との間の払下契約が締結

されていなければ発行されることはありません。

今回のケースでは、A社は、開発区管理委員会との間で「土地使用権払下協議書」を締結して

いるものの、土地管理部門との払下契約ではない以上、その協議書は土地使用権証の取得に対し

ては何らの効力も有していないといえます。そのため、A社が土地使用権証を取得するためには、

改めて土地管理部門との間で当該土地使用権についての払下契約を締結する必要があります。そ

して、開発区管理委員会に対しては損害賠償の請求を求めていくことになると考えます。

7.既に他の企業が使用している土地を譲り受けるが、その場合の手続きと留意点は何か?

【ケーススタディ⑦】

日本の機械部品メーカー甲社の中国現地法人A社は、乙省の丙地区で工場建設を検討している。

その際に、A社の前の総経理と知り合いであった中国の不動産開発企業B社の総経理から、既に

B社が保有する国有土地の土地使用権を譲り受けないかとの提案を受けた。その土地は既に建物

建設のための整地作業が終了していたことから、A社は、自社の工場建設には都合が良いと考え、

B社との間で当該土地使用権の譲渡契約を締結しようとしている。この場合、A社はどのような

点に注意するべきか。

【回答】:

土地使用権の譲渡にあたっては、譲渡人との間で土地使用権の譲渡契約を締結することになり

ますが、その場合、主に以下の点に注意する必要があります(都市不動産管理法第38条)。

① 譲渡対象たる土地使用権が土地使用権の払下手続きを経ていること

土地使用権の譲渡に際しては、原土地使用権者が、土地使用権払下契約の約定に従い、

土地使用権払下金を全額納付し、かつ土地使用権証を取得していることが必要とされま

す。

② 原土地使用権者が、払下契約に従い投資・開発行為を行っており、建物建設工事につい

ては開発投資総額の25%以上が完成していること

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今回のケースでは、譲渡の対象となった土地は建物建設を予定していたにもかかわら

ず、現状では整地作業が終了しているに過ぎず、開発投資総額の25%以上は完成して

いない可能性が高いといえます。そのため、B社からの土地使用権の譲渡は上記②に違

反し、認められない可能性があります。

③ 土地使用の用途が建設用地に合致していること

土地使用者は、土地使用権払下契約に定める土地の用途を変更する必要がある場合、

払下側の同意を得ると同時に、土地管理部門と都市計画部門の許可を受け、改めて土地

使用権払下契約を締結し、土地使用権払下金を調整し、かつ変更登記を行わなければな

りません。

今回のケースでは、仮にB社が商業・娯楽施設を建設する予定であった場合は、商業・

娯楽施設と工場建設では土地の用途が異なるため、A社は土地の変更手続きを経る必要

があります。

8.工場を拡張したいがどうすればよいか?

【ケーススタディ⑧】

機械部品を製造する日本企業甲社は、中国企業B社からの提案をうけ、中国の乙省丙地区で機械

部品を製造する合弁企業A社を設立し、B社から現物出資を受けた土地上に工場を建設した。工

場の稼動から3年が経過し業績も順調に伸びてきたため、工場の隣の土地を使って工場を拡張す

る話が持ち上がった。A社としては、どういった点に注意すればよいか。

【回答】:

A社は、工場の拡張のため、隣の土地の土地使用権を取得することになると思われます。例え

ば、当該土地が農民の集団所有地であるような場合は、最初に国有土地に転換する必要がありま

すので、その土地の性質を確認する必要があります。また、土地の性質が国有土地であったとし

ても、その用途が農業用地や商業用地であれば、工場を建設することはできません。そのため、

土地の用途についても確認する必要があると考えます。その上で、土地使用権を取得するのであ

れば、その土地使用権の所有者が誰かによって、払下げを受けるのか、譲渡を受けるのかを検討

する必要があります。

9. 親会社の中国法人の敷地内に別法人で工場を設立したいと考えているが、問題ないか?

【ケーススタディ⑨】

日本の機械メーカー甲社は中国現地法人A社を設立準備中であると同時に、製品製造工場の建設

を検討している。その際、甲社の中国現地法人B社(製品の物流・運搬業)が払下げを受けた工

場敷地内で、工場建設に未だ着工していない敷地が全敷地の約20%残っていることから、甲社

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としては、B社の空いている当該敷地を使ってA社の工場を建設し、同時に工場の敷地内にA社

の法定住所も設定したいと考えている。A社の工場建設及び法定住所について問題はないか。

【回答】:

(1)払下土地使用権の譲渡

A社が、払下げを受けたB社の土地上に工場を建設するためには、当該土地についてB社か

ら土地使用権の譲渡を受けて、A社自ら工場を建設することが考えられます。この場合、【ケー

ススタディ⑦】で記載したような点に注意して譲渡契約を締結する必要があります。また今回

のケースは、土地使用権の一部の譲渡になりますので、土地の分筆1が必要となります。そのた

め、A社としては、譲渡契約締結後に、市、県の人民政府の土地管理部門の許可を受けて分筆

に伴う変更登記を行うことになります。

(2)工場及び土地使用権の賃貸

払下げを受けた土地使用権については、その使用期限の範囲内で自由な譲渡、賃貸、抵当権

の設定が認められています。そして、今回のケースでは、B社は当初工場建設を予定していた

ことから、B社がそのまま工場建設を行い、B社が建設した工場とその敷地の範囲内の土地使

用権をA社に賃貸し、A社は賃借した土地上に設立登記をすることが考えられます。

このような場合、以下のような問題点に留意する必要があります。

① B社の経営範囲の追加について

B社は、自己の土地使用権及び工場をA社に賃貸することになりますが、B社は製品

の物流、運搬を業務とする会社であり、通常、営業許可証の経営範囲には「自社工場等

の賃貸」という事項がないと思われます。そのため、A社に対し自己の土地使用権・工

場を賃貸することが経営範囲の逸脱となる可能性があります。

従って、B社としては、自らの経営範囲に「自社工場等の賃貸」を追加する手続きを

とることになります。

但し、B社が自らの経営範囲に「自社工場等の賃貸」を追加するためには、各地の審

査部門による審査許可を受けるだけではなく、さらに商務部による届出及び商務部によ

る届出リストに記載される必要があります。すなわち、2006年7月に「不動産市場

の外資参入許可及び管理の規範化に関する意見」(以下、「2006年意見」といいます)

が公布され、不動産開発・経営に関する経営範囲の変更等を行う場合は、経営範囲の変

更手続きのみならず商務部への届出が必要とされました。そして、北京及び上海の商務

部門では、「自社工場の賃貸」が2006年意見の「不動産経営」に該当すると判断され

1 分筆とは、一筆の土地を分割して数筆とすることをいいます。中国の場合は、土地自体ではなく土地使用権の分割になり、分筆に伴い、分割後の土地使用権についての変更登記をすることになります。

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ており、2006年意見に従った手続きが必要である可能性があります。また、200

6年意見については、地方によっては十分理解が行き届いておらず、実務上、一律に経

営範囲の変更自体を認めないというケースもあるようです。

そのため、「自社工場等の賃貸」を追加するために経営範囲拡大に関する手続きを行う

場合は、事前に各地域の主管部門に問い合わせを行い、十分に準備する必要があります。

② A社の設立登記について

A社が、B社から土地使用権及び工場を賃借した上で、その工場においてA社の設立

登記を行う場合、他者の敷地、建物を借りて会社を設立すること自体は特段問題ありま

せんので、設立登記が認められます。

もっとも、工商行政管理部門での設立登記に際し、設立登記の場所に関して、賃貸契

約及び賃貸者の資格の有無を確認するための資料として賃貸契約書や賃貸者の営業許可

証の提出を要求されることが多くあります。そして、上記①の経営範囲の追加を行って

いない場合は、賃貸資格がない旨の指摘を受け、設立登記を拒否される可能性もありま

す。したがって、設立登記を問題なく行うという意味でも、経営範囲の変更手続きを行

う必要があると考えます。

10.ストックスペース(倉庫)としての利用は可能か?

【ケーススタディ⑩】

A社は、機械部品を製造する日本企業甲社の現地法人であり、乙省丙地区で工業用地の土地使用

権の払下を受け、工場を経営しているが、今後、倉庫を建設したいと考えている。

(1) 払下を受けた当時、A社のプロジェクトは工場建設のみであったが、その後、新たに

倉庫を建設することは問題ないか。

(2) A社は、自社製品の保管、運搬のノウハウを持っておらず、従来B社に委託していた

ことから、今回、A社の敷地内にB社の倉庫を建設し、当該倉庫でA社製品の保管、運

搬を委託しようと考えている。この場合、A社の土地にB社が自社倉庫を建設し、保管、

運搬業務を行うことには問題はないか。

(3) A社は、現在工場のある敷地では倉庫を建設するスペースがないことから、新たに土

地使用権を取得して倉庫を建設しようと考えている。その場合に、注意すべき点は何か。

【回答】:

(1)について

払下土地使用権の使用期間は、土地の用途に応じて決定されるため、土地の用途に変更が

生じる場合は、変更手続きを経る必要があります。

しかし、今回のケースのように、A社が工場での製品製造を継続しており、その工場で製

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造されるA社製品を保管するための倉庫を建設するような場合は、従来の工業用地としての

用途に変更はなく、変更手続きは不要と考えられます。

なお、今回建設を予定している倉庫が、当初の工場建設プロジェクトで予定されていたも

のであれば、当該プロジェクトの一環として何らの手続きも経ることなく倉庫の建設が認め

られます。

しかし、今回新たに倉庫の増築する場合は、当該倉庫の建設は当初の建設プロジェクトに

含まれていないことになります。そのため、当初のプロジェクトで予定していなかった倉庫

を新たに増築する場合は、A社は、当該倉庫建設について、建設工事計画許可証の取得等建

設プロジェクトのための各種許可証を取得する必要があります。

(2)について

払下譲渡暫定条例第24条では、地上建築物の所有者は、当該建築物の使用範囲内の土地

使用権を有するとし、その地上建築物の所有権を譲渡する場合は、その使用範囲内の土地使

用権はこれに伴って譲渡される旨を規定しています。これは、土地使用権者とその土地上の

建築物の所有者が一致することを要求するものであり(土地建物不可分の原則)、土地使用権

者の土地上に他人が建物を建設することはできないと考えられます。

したがって、今回のケースでは、A社の土地にB社が倉庫を建設することはできません。

B社に倉庫を使用させるのであれば、たとえば、A社が自分の土地に自ら倉庫を建設し、そ

の倉庫と土地使用権をB社に賃貸するなどの方法による必要があります。

もっとも、この方法では、【ケーススタディ⑨】で記載したような問題点が生じますので注

意が必要です。

(3)について

このケースでは、A社が新たに土地使用権を取得することになりますので、土地使用権を

譲り受ける場合の注意点に注意する必要があります。すなわち、

◆ 購入する土地使用権の性質、例えば集団土地使用権か国有土地使用権か

◆ 国有であっても割当か払下げか、土地の用途は工業用地となっているか

◆ 購入する土地使用権には抵当権等の担保が設定されていないか

といった点について確認しなければなりません。

11.土地使用権は担保となりうるのか?

【ケーススタディ⑪】

A社は、日本の機械メーカー甲社の中国現地法人であるが、乙省での工場建設を予定している。

乙省の丙地区に建設予定地を確保し、現在、建設資金の調達のため、中国国内及び日本にある銀

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行の両方からの建設資金の借り入れを検討しているが、借り入れ時に両銀行から、借り入れの担

保を要求された。この場合、A社は、自己の土地使用権に対して抵当権を設定することができる

か。

【回答】:

2007年10月に施行された物権法第180条1項2号によれば、抵当権を設定できる財

産として建設用地使用権が挙げられています。従って、A社は、法律上、自己の土地使用権に

対して抵当権を設定することはできると考えられます。

但し、以下の点に注意する必要があります。

第一に、土地使用権に抵当権を設定する場合、当該土地上にある建物についても併せて抵当

権を設定しなければなりません(払下譲渡暫定条例第33条)。これに対して、土地使用権に抵

当権を設定した時点で土地上に建物がない場合、その後に新増築された建物は抵当物とはされ

ませんが、当該土地使用権の抵当権が実行される場合は、新増築された建物も合わせて処分さ

れることになります(物権法第200条)。今回のケースでは、土地使用権に抵当権を設定して

も、今後建築を予定している工場自体は抵当物にはなりませんが、将来土地使用権に設定され

た抵当権が実行される場合は、当該工場も一緒に処分されることになります。

第二に、建設用地等に抵当権を設定する場合、抵当権設定の登記が必要となり、当該登記が

終了したときに初めて抵当権が成立したものとされます(物権法第187条)。従って、土地使

用権等へ有効に抵当権を設定するためには、抵当権設定登記手続を行う必要があります。

第三に、今回のケースでは、A社は中国国内だけではなく日本にある銀行からも借り入れを

し、日本にある銀行との間でも抵当権を設定する予定です。この場合、土地使用権及び建物に

対する抵当権は対外担保に該当し、外貨管理局の審査許可手続きを経ることが必要となります

が、2006年意見が公布されて以降、不動産に関する政府の管理が非常に厳しくなっていま

すので、外国からの借り入れに対する抵当権の設定については、事前に外貨管理局に対して、

審査許可を受け付けるか否かを確認すべきと考えます。

なお、この2006年意見自体は、外国企業による住宅、オフィスビル等の投機的な開発を

防止することを目的としておりますので、今回のケースのような一般の企業の経済活動につい

て2006年意見は適用されないと考えられます。しかし、一部の地域の外貨管理局では、そ

の内容が拡張解釈され、外国からの借入のために土地使用権等に対して抵当権を設定する場合

にも、実務上の取り扱いを理由に、暫定的に各審査許可を認めない方針をとっているようです。

このような方針は、土地使用権に抵当権を設定することを認める物権法の規定と矛盾するよう

にも見えますが、対外担保の場合は、他方で、外貨管理局による審査許可を経なければその提

供が認められませんので(境内機構対外担保管理弁法第17条1項)、実際に審査許可を受ける

ことができなければ、日本にある銀行との関係では土地使用権に対して有効に抵当権を設定す

ることができないことになります。そのため、具体的に抵当権を設定する場合は、外貨管理局

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に事前に問い合わせをして審査許可を受け付けるか否かを確認すべきと考えます。

12.合弁企業を独資化する場合の土地使用権の変更はどのように行えばよいか?

【ケーススタディ⑫】

機械部品メーカーである日本企業甲社は、中国で中国企業のB社と合弁で現地法人A社を設立し

た。B社からは土地使用権及び土地上の工場の現物出資を受けており、A社は当該工場で機械部

品の製造を行っていた。甲社は、A社の経営を統一的に管理したいとの意向から、B社の持分を

全て甲社が取得してA社を独資企業に組織変更したいと考えている。この場合、B社から現物出

資を受けている土地使用権について何か注意する点はあるか。

【回答】:

合弁企業の設立において、中国側パートナーから現物出資を受けることはよくあります。こ

の場合、中国側パートナーにより現物出資された土地使用権とその工場の所有権は、合弁企業

に移転することになりますので、当該合弁企業が独資化する場合であっても、その時点では既

に土地使用権と工場の所有権は当該合弁企業に帰属する以上、特段の変更手続きは不要という

ことになります。

しかし、実務上は移転に必要な手続がなされておらず、法的に合弁企業が土地使用権と工場

の所有権を有していないケースもあります。従って、甲社としては、以下の点に注意する必要

があります。

① 中国側パートナーが払下手続きを行っていないケース

中国側パートナーが有している土地使用権は政府からの割当土地使用権であることが多

いと思われますが、割当土地使用権は現物出資することができませんので(上記第2章二、

3.③参照)、中国側パートナーが割当土地使用権を現物出資しようとする場合は、その前

提として土地払下手続きを経る必要があります。

しかし、実際には、中国側パートナーが土地使用権の払下手続きを怠り、割当土地使用

権のままで現物出資してくるケースも見られます。また、合弁企業としても、実際に土地

を使用することができる場合には、その瑕疵を見落としているケースがあります。

この場合、合弁企業は、割当土地使用権を違法に使用しているということになり、払下

金の納付を命じられ又違法所得の没収を命じられることになります(土地管理法第66条)。

そのため、甲社としては、最初にB社から土地使用権の現物出資を受ける時点で、当該

土地使用権の性質が割当土地使用権なのか、割当土地使用権であれば払下手続きをしてい

るのかについて確認する必要があります。また、払下手続が完了していない場合には、B

社に手続を行わせる必要があります。

② 合弁企業への移転登記をしていないケース

移転登記手続きを経て、合弁企業名義の土地使用権証及び工場の所有権証を取得した時

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に初めて当該土地使用権及び工場の所有権が合弁企業に移転したといえますので、現物出

資をする場合でも、通常の移転の場合と同様、土地使用権等を合弁企業へ移転する登記手

続きを行わなければなりません。

従って、甲社としては、B社による現物出資の結果、合弁企業A社名義の土地使用権証

及び工場の所有権証が発行されているかを確認する必要があります。

13.立ち退きを迫られているがどうすればよいか?

【ケーススタディ⑬】

機械部品メーカーの日本企業甲社は、かねてから中国での工場建設を考えていたところ、以前一

度付き合いのあった中国企業B社から、乙省丙地区に現在使用していないB社の工場があるとの

提案を受けた。そこで、甲社は、早急にB社と合弁企業A社を設立し、B社から現物出資を受け

た土地及び工場を使って機械部品の製造を開始した。しかし、1年後、突然、丙地区から、今後

丙地区の再開発を実施するため1年以内の立ち退きを要求する旨の通知と移転補償契約書の写

しを受け取った。甲社は、早急に調査したところ、丙地区では2年前から丙地区再開発の計画が

あったことが判明した。しかも、B社から現物出資を受けた土地使用権については、払下手続き

後にB社からA社への移転登記がなされておらず、土地使用権証の名義人はB社のままになって

おり、B社が無断で丙地区との間で移転補償契約を締結していることが判明した。A社はどうす

ればよいか。

【回答】:

上記のケースでは、A社は立ち退きを拒否することはできません。そこで、A社としては、

B社に対して損害の賠償を請求することになります。

・ 立ち退き拒否の可否

土地管理法第58条1項では、①公共利益のために土地を使用する場合、②都市計画実施に

より旧市街地区に対して改築を行う必要がある場合等には、土地行政主管部門は、元の土地使

用を許可した人民政府又は許可権を有する人民政府の許可を経て、国有土地の土地使用権を回

収することができる旨を規定しています。そのため、①、②に該当するような事由がある場合

は、土地使用者は立退きを拒絶することはできません。

・ 立ち退きに伴う補償

上記①、②の規定に従って国有土地使用権を回収する場合は、土地使用権者は適当な補償を

受けることができます(土地管理法第58条2項)。したがって、A社としては本来、丙地区

に対して立退きに伴う適当な補償を受けるための移転補償契約の交渉をしていくことになり

ます。また、移転補償契約の交渉に際しては、立退き時期についての交渉も行うことになりま

す。

但し、土地使用権者が誰であるかの判断は原則として土地使用権証の記載によって決定さ

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れます。今回のケースでは、B社が払下手続きを経て土地使用権の現物出資をしているものの、

その移転登記手続きを行っていないため、土地使用権証の記載は払下手続きを行ったB社のま

まになっています。

したがって、A社は、丙地区に対して正当な土地使用権者であること、及び丙地区とB社と

の間で締結された移転補償契約が無効であることを主張できず、移転補償契約上に記載された

立退き時期に従って立ち退かざるを得ません。

なお、A社の損害については、別途、B社に対して損害賠償を請求していくことになります。

14.土地使用権の期間が満了した場合はどうなるのか?

【ケーススタディ⑭】

A社は、機械部品を製造する日本企業甲社が100%出資する中国現地法人である。A社は、乙

省丙地区の土地使用権を払下方式により取得し、工場を建設して機械部品の製造を行っている。

A社は土地使用権を取得してから10年経過しており、土地使用権払下契約に規定された使用期

限満了まであと2年しかない。

(1) A社は、今後も継続的に土地使用権を使用していきたいと考えているが、どのような手

続きをとればよいか。

(2) A社は、土地使用権及び工場を第三者に譲渡して利益回収をしたいと考えているがどう

すればよいか。

【回答】:

(1)について

土地使用権払下契約は、法律の定める使用期限の範囲内で使用期間を定めて土地使用権の

使用を認める契約です。そのため、当該使用期間が満了した場合には、当該土地使用権及び

その地上建築物その他の定着物の所有権は、国により無償にて回収されることになります(払

下譲渡暫定条例第40条)。

そこで、A社が今後も継続的に土地使用権を使用して工場を経営していく予定であるとす

れば、土地使用権払下契約の更新手続きをとる必要があります。具体的には、以下の手続き

が必要となります。

① 遅くとも契約の約定期限満了の1年前までに更新申請をする。

② 更新の許可を得たときは、改めて土地管理部門と土地使用権払下契約を締結し、規定に

従って土地使用権払下金を納付する。

③ 使用期間の記載を変更した新しい土地使用権証を取得する。

(2)について

国有土地使用権を払下方式で取得した場合、その土地使用権者は、当該土地使用権を譲渡

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することが認められています。但し、払下方式により土地使用権を取得して当該土地使用権

を第三者に譲渡した場合、その譲渡後の土地使用権の使用期間については、原土地使用権払

下契約に約定する使用期間から原土地使用者が既に使用した期間を控除した後の残存期間と

されています。

今回のケースでは、A社が当該土地使用権を第三者に譲渡したとしても、取得した第三者

が当該土地使用権を使用できる期間は、A社の払下契約所定の期間からA社が既に使用した

期間を控除した2年間ということになります。さらに、このまま使用期間が満了した場合に

は、(1)で記載したように、土地使用権及び土地上の工場を無償で国に回収されることにな

ってしまいますので、A社の土地使用権及び工場を売却することは実際には困難であると思

われます

そこで、A社としては、いったん当該土地使用権の払下契約更新の手続きをして使用期間

の延長をし、その後に第三者に売却するのが現実的であると考えます。

15.会社を清算するために土地使用権を売却したい。その際の税金はどのように計算されるの

か?

【ケーススタディ⑮】

A社は、機械部品を製造する日本企業甲社が100%出資する中国の現地法人である。中国に

進出後5年経過したが、売り上げが芳しくなく会社を清算した上で撤退することを考えている。

A社は自社の重要な資産として払下方式により取得した土地使用権及びその土地上にある工場

があることから、それらを第三者に売却して残債務の返済の一部に充てたいと考えている。そ

の際の税金についてはどのように計算されるのか。

【回答】:

A社が土地使用権及び工場を売却する場合、主に課税される税金としては、

◆ 不動産譲渡契約書の作成に対する印紙税

◆ 譲渡収入に対する企業所得税

◆ 土地使用権及び土地上の建物の譲渡収入に対する土地増値税

等が挙げられます。そして、印紙税については0.05%の税率が、企業所得税については内

資企業と同様に25%の税率が適用されます。

この点、土地増値税については、増値額と控除項目金額1を設定し、その増値額が控除項目金

額の何%になるかによって、税率を30~60%まで4段階に分けています。具体的な税率及

1 「控除項目金額」とは、増値額を算定するための控除項目を意味し、具体的には、①土地使用権取得のための支払金額、②土地開発の原価、費用、③新築建物及び関連設備の原価、費用若しくは中古建物及び建築物の評価価格、④不動産譲渡関連税金、

⑤財政部が規定するその他の控除項目から構成されます。そして、不動産譲渡収入から上記の控除項目金額の合計金額を減じた

額が「増値額」とされ、上記表に記載されている「増値額」と控除項目金額の比率に従って各税率、計算方式が決定されること

になります。(「中国現地法人の経営・会計・税務」(中央経済社、P741)、「中华人民共和国土地增值税暂行条例」(国务院令(第138号))参照)。

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び計算式は以下のとおりとなります。

【増値額と控除項目金額の比率】 【税率】 【土地増値税金額の計算式】

① 増値額が控除項目金額の50%以下の場合 30% 増値額×30%

② 増値額が控除項目金額の50%を超えて

100%以下の場合 40% 増値額×40%-控除項目金額×5%

③ 増値額が控除項目金額の100%を超えて

200%以下の場合 50% 増値額×50%-控除項目金額×15%

④ 増値額が控除項目金額の200%を超えた場合 60% 増値額×60%-控除項目金額×35%

以 上

【参考文献】:

1.中国語文献

「土地管理法及配套规定新释新解(上)」(人民法院出版社)

「土地管理法及配套规定新释新解(下)」(人民法院出版社)

「房地产法及配套规定新释新解(第 3版)(上)」(人民法院出版社)

「房地产法及配套规定新释新解(第 3版)(下)」(人民法院出版社)

「房地产法,原理精要与实务指南」(人民法院出版社)

21世纪法学规划教材「房地产法(第 3版)」(法律出版社)

2.日本語文献

中国経済六法(07年、08年増補版)(日本国際貿易促進協会)

中国現地法人の経営・会計・税務(中央経済社)

【参考URL】:

北大法律信息网: http://vip.chinalawinfo.com/

新法规速递: http://www.law-lib.com/law/

北京市规划委员会:http://www.bjghw.gov.cn/xzxk/index.asp

北京市环保局:http://www.bjepb.gov.cn/bjhb/tabid/330/Default.aspx

http://www.bjepb.gov.cn/bjhb/tabid/331/Default.aspx

北京市建设委员会:http://www.bjjs.gov.cn/Portal0/InfoModule_429/4029.htm

http://www.bjjs.gov.cn/Portal0/InfoModule_452/4059.